インフィニット・オンライン ~孤高の剣士~   作:黒ヶ谷・ユーリ・メリディエス

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 どうも、おはこんばんにちは

 千年の黄昏√原作とのクロス話は外伝やアプリゲーのイベントのような扱いになるので、頭を空っぽにすると楽だゾ!

 ちなみに空を飛べないアリスは黄昏√本筋に暫く関わりません。関わるまでは全体的にダイジェスト進行です

視点:アリス

字数:一万

 ではどうぞ




第二節 ~異世界からの漂流者~

 

 

 アスナと思しき水妖精族(ウンディーネ)の女性が自分を知らない事で直感的に別世界に流れ着いたのだと察した私は、一先ず簡単な自己紹介を済ませるに留め、彼女達の先導に従って探し求めていた転移門へと向かう事になった。

 つまり今の私は『アスナは知らないのに一方的に知っていると言っている不審人物』という立場になる。

 空を舞うアスナと、自身をキリトと名乗った青年の目が時々向けられ、居心地の悪さを覚えていた。

 

「アリス、結構走っているが体力は大丈夫か?」

 

 そんな私を気遣うのは、どこに人体が入っているのかと思う細身の全身黒鎧の存在だ。

 名をブラック・ロータスと言うらしい。

 細かな理屈は不明だが、多分黒鎧という器に、現実(オモテ)世界から意識を移しているのだなと解釈していた。確認すれば大体合ってるとの事なので問題ないだろう。

 

「ええ、問題ありません。普段は飛竜を駆って長距離を移動しますが、騎士である以上、徒歩での(こう)(ぐん)もこなさなければなりませんから」

「そうか……NPCにしては、やはりスムーズだな……?」

 

 私の返答に、紫のガラス兜が首肯する。

 何やら呟いていたが踏みしめる草の音で正確には聞き取れなかった。言及するのも憚られたので、今回は流す事にした。

 代わりに振るのは、彼女の移動手段についてだ。

 

「しかし、飛んでいる姿を見るとやはりもどかしくなりますね。あなたの"それ"を私も真似出来ればいいのですが」

 

 そう言って視線を向けた先はロータスの足元、剣状となった両足が地面から浮いて青草の先端を滑る光景だ。飛ぶというよりは浮いているようなほぼ等速移動のそれが、自分も出来ればと思う。

 心意を極めれば不可能ではないと思うが、整合騎士団でも上位に食い込む私も、流石に二年足らずでそこまで習熟は出来ていない。出来るのは騎士長くらいだろう。

 つまりロータスは心意をそれほどの練度で習熟しているのではと睨んでいるのだが……

 

「む、いや、これを真似するのはおそらく無理だぞ。私がこの姿だと歩ける足ではないから自動で発揮される能力だからな。浮くだけで、飛べるわけではない」

「浮けるだけでも羨ましいものですよ。まぁ、私には合わないでしょうが」

 

 やはり無理かと思いつつ、本心で返す。

 私を選んだ神器《金木犀の剣》はもちろん、髪と同じ色の鎧を疎んじた事はないし、命を守るのに厚みが必要だと分かっているのだが、重いものはやはり重い。坂の上り下り、悪路かどうかでも削られる体力はかなり違う。

 その点、ロータスの浮いて移動する手段が取れれば、足を動かすだけの体力を温存できるのだ。これは戦いにおいて優位を保つ一因になるだろう。

 とはいえ――そんな楽をすれば、体を鍛える効率は当然下がるに違いない。

 加えて剣劇の踏み込みも出来ないし、相手の攻撃を受け止めれば容易に後退させられる。移動時にのみ浮ければいいが、そんな時に心意を練るほど集中できるはずも無し。

 中々上手くいかないものである。

 ――閑話休題。

 そんな雑談をロータスと交わしつつ、黒と青の妖精二人を追って草原を駆け抜けること約十分。最短距離を突っ切って辿り着いた転移門は石組みの祭壇のような形をしていた。

 その門の前に、光沢のある桃色の髪、赤い服を纏い、片手棍と円盾を装備した女性が立っている事に気付く。

 

「キリト! アスナ! やっぱり残ってたわね!」

「リズこそ!」

 

 開口一番に二人の妖精を出迎えた女性にアスナが応じた。アスナが口にした呼称を聞いて、予想通りの人物(リズベット)だった事に内心で予想を確信へと変える。

 その後、当然ながら私を知らないリズベットが、私とロータスについて誰何してくる。

 

「あなたのそれ、人間アバター? もしかして別のゲームから巻き込まれたの?」

「……まぁ、当たらずとも遠からずでしょうか」

 

 元の世界では《妖精郷》と《アイングラウンド》は別の遊戯(ゲーム)の世界だと聞いている。そういう意味で、この問いに肯定を返しても間違いではないだろう。

 私は更に大きな枠組みの"世界"から来ているのだけど。

 

「説明が難しいので、私からは何とも言えないのですが……」

「あー、いや大丈夫よ。昔やってた別のゲームでも似たような事あったし。やっぱALOでも起きるモンなのねー」

 

 リズベットはそう言って苦笑した。多分、私を自身と同じオモテ側の人間だと思っているのだろう。

 

「それでキリト、そっちの鎧アバターの人は?」

「ん、ああ。こいつは……」

「待て。この姿のままだと、何かと都合が悪そうだ」

 

 そしてもう一人、妖精郷に似つかわしくない鎧姿のロータスに言及されたところで、当の本人が待ったを掛けた。剣状の手で虚空に"めにゅー"とやらを開いて、何かをしている。

 ――と、いきなり彼女の姿が光に包まれた。

 その光が晴れると、そこには一人の少女が立っていた。黒蝶の如き二対四枚の翅を背中から生やし、際どい黒の衣装に身を包んみ、顔には目元だけ隠す仮面、頭にぴょんと二本の細い触覚のようなものが添えられた髪留めを付けている。全体的にやはり蝶を思わせる姿だった。

 その変身に、私はおろか、この世界のキリト、アスナ、リズベット達もぎょっと瞠目する。彼らからしても珍しい事らしい。

 思い返してみれば、私が世話になった《アイングラウンド》の世界でも一度しか目にしていない。まあそれも負に呑まれたティアが幼い少女から大人の女性へ変化した場合だけで、事件の最中であった事を鑑みれば異例ではあるだろうが、それを抜きにしてもまず目にしない事ではあるはず。ロータスはその一例だった訳だ。

 

「この姿のときは私のことを……そうだな、ロッタとでも呼んでくれ」

 

 ロータス、改めロッタがそう微笑んだ。

 どうやら前者の《ブラック・ロータス》は彼女が鎧を纏って戦う姿の名で、後者は戦わない時に取る姿としての名らしい。使い分けで意識も切り替えてるという事だろう。

 ちなみに、鎧姿は《デュエルアバター》、蝶の姿は《ダミーアバター》というらしい。意味のある神聖語だとは思うが、その意味は分からなかった。

 

 

 草原大陸に発生した天変地異は、どうやら他の大陸でも起きていたらしい。

 転移門で飛んだ浮遊大陸群の拠点《空都ライン》も例に漏れず影響を受けていて、遠目には石材や木材で組まれた央都セントリアを彷彿とさせる街並みだったのに、実際に降り立てばその印象は殆ど裏切られる事になった。

 まるで異世界の街並みだ。

 事実として"異世界"にいるのだが、そういう事ではない。これまで見た《アイングラウンド》や《妖精郷》の草原はまだ自分の価値観と乖離しない文化圏だったのだ。だから私もそこまで苦労せず馴染む事ができた。

 しかし天変地異後の空都を見ると、同じ文化圏か甚だ疑問に思ってしまう。

 なんだ、あの定期的に明滅する店の看板や、歩道橋の手すりは。

 ――そして、その影響は当然建造物の内装にも反映されている訳で。

 そこかしこがピカピカ光る店内の中、私は背もたれが異様に低い回る丸椅子に座り、カウンターと呼ばれる店主の真ん前の席でチビチビと飲み物を口にしつつ、項垂れていた。

 

「疲れますね、この街は」

「はっはっは。アリスにはあんまり馴染みが無かったか?」

「初めてです。なぜああもピカピカ光らせる意味があるのです? 資源の無駄ではありませんか」

「ああやって豪華さを演出するのも客引きの一環なんだよ。ま、堅実な人間に合わないってのも事実だが」

 

 そう言って苦笑するのは店の主らしい黒肌禿頭の男エギルだ。

 土妖精族(ノーム)の特徴として濃い色の肌と大柄な体躯が挙げられると聞いてはいたが、《アイングラウンド》の彼と、異界とはいえ妖精の彼は、殆ど違いが無い。浮遊城の頃の姿を引き継いでいるから、とはあちらでも聞いていたが、多分こちらでもそうらしい。

 そう思考する隣で、ニャハハ、と癖のある笑声が上がった。

 

「ま、アリっちは見るからに堅物って感じだもんナー。ザ・騎士! って性格してるゼ」

「……それは褒めているのですか?」

「もちろんサ」

 

 そう言ってニシシと少女が笑う。薄黄色の肌と髪を持ち、頭の上には猫の耳、腰の後ろから尻尾を揺らめかせる猫妖精族(ケット・シー)の彼女はアルゴ。

 情報屋だとはこちらでも聞いた。五分話せば百コル分の情報は抜かれるぞ、とは青年キリトの弁である。いったいどれだけ苦い思いを彼はしたのだろうか。

 ちなみに少年キリトからは「頼りになる人」と聞いている。私も同じ人界人が迷い込んでいないか《アイングラウンド》を探してもらっていたので、彼女の事は信頼していた。隣にいるアルゴは、私が知る彼女よりもやや軽薄さを強く感じた。

 この二人とは空都に着いた後、キリトが案内した店の中で出会った。エギルの店はこの世界でも彼らの憩いの場らしい。そこで情報収集の羽休めをしていたアルゴと遭遇という形だ。

 

「それにしても、今回は思った以上におかしい事態だよナー」

 

 そう思っている最中、アルゴがそんな事を言った。言葉こそ軽薄、軽妙な印象だが、声音には真剣さが滲む。

 

「私の事ですか」

「まぁナ。正直、まだ信じ切れてない部分もあるにはあル」

「構いません。荒唐無稽な話であることは私とて理解しています」

 

 この店に案内された後、キリト達とロータス、私の間で情報が交わされた。その中で私が異世界から流れ着いた事、リズベットが推測した『別ゲームから巻き込まれた』というのがロータスである点も認識を共有している。

 自分の事を話すべきかは迷ったが、彼らの善性を信じる事にした。

 それに、彼らの現在の事情を放っておけなかったからでもある。

 

 この世界のキリトは、アスナと恋人関係にあり、娘がいるらしい。

 

 娘は二人。その内の一人――ユイが、ペルソナ・ヴァベルという仮面をつけた女性により、荒野の塔に封印されたのだと彼らは語った。ロータスはヴァベルに騙される形でキリトと刃を交え、途中で誤解は解けて共闘。そこで塔を守護する強力な魔物が現れ、ふっ飛ばされ――その後、私と出会ったらしい。

 その事情の中で唯一聞き覚えがあったのが、《ペルソナ・ヴァベル》という人物の名前だった。

 その名前は、かつて《アイングラウンド》に流れ着き、"キリト"を斬ろうとしたところで割り込んできて、私を捕らえた人物のものだったのだ。その後は彼の家に運んだ私を、"キリト"と一緒になって尋問してもきた。

 尋問中は彼の問いに首を縦か横に振るだけで、声は一切聞いていないが、胸の膨らみが大きかったから女性であった事は間違いなかった。

 それを話すために、私は自身の身の上を語った。勿論それは、元々が人界出身である事も、彼女らが言う"えぬぴーしー"なのかは不明だが"ろぐあうと"不要のウラ世界の人間である事も含んでいる。

 その中には、直前で"キリト"に斬りかかった事は含めなかった。右目の痛みなどについては主題ではないからだ。

 

『並行世界の俺達に会っていて、アリスは更に別の世界出身か……』

『異世界なんて、信じられない……だけど……』

『信じがたい話だけど、アリスはあの場に居なかったのに《ペルソナ・ヴァベル》の名前を知っていた。多分本当なんだろう。俺達の仲間の名前も言えるんじゃないか?』

『ええ、言えますよ。勿論全てがこちらと合っている訳ではないでしょうが……』

 

 そう前置きしてから、リーファ、シノン、シリカ、クラインと名前を言っていく。途中で片方が驚いたり、二人して愕然とする名前があったものの、大体は二人が知っている名前だったようで私が異世界から来た者である事はどうにか信じてもらえた。

 ちなみに決定打は多分二人が驚いた名前だと思われる。

 

『申し訳ないですが、私自身はヴァベルという人物について何も知りません。"キリト"に聞くしかないです』

『そうみたいだな……分かった。俺達も仲間集めと一緒に探してみるよ』

『アリスさんは空を飛べないから、アルヴヘイムだと特に大変そうだもんね……』

 

 そういう訳で、私は妖精でないため浮遊大陸全体を探せない事から空都で待機、キリト達は荒野の守護敵を倒すために仲間を集めに草原大陸ヴォークリンデへと向かった。

 ロータスも飛べないから同じではと思ったが、キリトかアスナ、リズベットの誰かが抱えて飛べば問題無いとの事。

 体力的に気遣われたのかもとは今になって気付いた事だった。まぁ実際、"キリト"とすれ違いにならないようにする意味もあるから、全部が気遣いだけではないのだろうけど。

 僅かに訪れた沈黙の中でそう回想していると、アルゴが「とはいえ」と話を再開した。

 

「今はこっちも尋常じゃない事態だからナ。なんせ運営も予期しない事態、フィールドの変化だ、何が起きても不思議じゃないなって思ってるヨ」

「やはりあの天変地異はあり得ない事なのですね」

「そりゃあそうサ。この《アルヴヘイム・オンライン》ってのは娯楽、つまりは商品ダ。消費者は安心安全安定を求めるってのに、こんな状況が罷り通ったら大問題ダヨ。今頃運営は躍起になって原因を探ってるトコじゃないカ?」

「プレイヤーもログアウトしないと、このアバターとか手に入れたアイテムとか無くなるぞって脅されてたしな。それくらいやべぇ状況ってのは確かだ」

「……何故それで"ろぐあうと"しなかったのです? 事情を知らないなら、喪う事を恐れて従っていた方がよかったでしょうに」

 

 キリト達はまあ分かるが、それを知る前の二人やリズベットがそうしなかったのは何故なのだろう。

 その疑問を投げると、隣の猫妖精と眼前の土妖精が目を合わせた後、異口同音にこう言った。

 

「「この状況を、キリト(アイツ)が放っておく訳がない」」

「……なるほど」

 

 たしかに、と。思わず微笑が漏れた。

 世界が違い、年齢が違い、生まれや過去が違おうと、"キリト"という人間はどの世界も似たような性格なのかもしれない。

 

 

 アルゴが店から離れた後、来店客が多くなってきたのを契機に私も店を出た。

 店に居ればエギルが話し相手になってくれるが、彼も店を営んでいる以上、私にばかり時間を割く訳にもいかない。

 かと言って店に一人でいるには私の装いは目立ち過ぎた。髪色や鎧姿もそうだが、何より丸みのある耳が人目を引く。この《妖精郷》では《人間》という種族は異端の存在だったのだ。そのせいか、静かに飲料を口にしていた私には誰も彼もが声を掛けてきた。

 それを(いと)い、店を出た訳である。

 

「まったく、どの世界も"ぷれいやー"という存在は好奇心に正直過ぎます」

 

 街路を歩きながら溜息を吐く。

 《アイングラウンド》で出来たばかりの街アインタウンとは似ても似つかない風景だが、そこに生きる人々の本質はやはり似通っている。()()()()の恩恵を受けていない事で注目を浴びた時の事を思い出す。あの時はあちらの"キリト"が庇護してくれたから何とかなったが、こちらではそうもいかない。

 暫く苦労しそうだと顔を顰めながら、ピカピカと眩しい街並みや、行き交う妖精達を眺める。

 ――ふと、一つの人影に目が留まった。

 目についたのは深紅の槍だ。それを背中に背負った女性が、キョロキョロと辺りを見回している。

 その顔には覚えがあった。

 

「……サチ?」

「え――――あっ! アリスさん! よかった、見つかった!」

 

 声を掛ければ、こちらに目を向けた彼女――槍使いのサチがぱぁっと頬を綻ばせ、喜色を表す。どうやらサチは、こちらではなくあちら側のサチらしい。一目で私の名前も当ててきたから間違いない。

 ほっと安堵の息を吐く。

 一度経験した事ではあるが、全く知らない異世界に一人でいると理解した時の不安感は慣れるものではない。

 

「見つかった……という事は、探していただけていたのですね」

「当然だよ! 付き合いこそ半月程度だけど、アリスさんだってもう立派な仲間で、友達だからね」

「……そう言って頂けて嬉しいです」

 

 にっこにっこと朗らかに笑むサチに私も笑みを零す。

 あちらだと女性陣の中ではシノンやアスナと最も会話していたため、実はサチと話した事は殆ど無い。それでも彼女は私の事を仲間であり友人だと認識してくれているようだった。

 温かい人だと思う。

 再会を喜んだ私達はエギルの店に戻った。キリト達は戻って来ていなかったが、来店客もある程度捌けていたので再度エギルの前の席に座る。

 

「お、アリスおかえり。隣の子は人界の人か?」

「いえ、あちらの"キリト"の仲間ですね」

「サチです、槍を使っています。一応あっちのSAO生還者(サバイバー)です」

 

 そうサチが自己紹介すると、エギルが片眉をぴくりと動かし、目を眇めた。

 

「そうか、アンタも……まあゆっくりしていきな。こんな異常事態だが、ウチは平常運転で開いてるからよ。何か注文するか?」

「ありがとうございます。そうですね……じゃあこれと――――」

 

 エギルは複雑そうな表情を浮かべたが、すぐに人好きのしそうな笑顔になった。その流れで注文を聞き、サチが幾つか注文する。

 そうして始まったささやかなお茶会の中で情報を交換する。

 まずは元の世界――と言うのは異界人である私が言うのもなんだが――《アイングラウンド》での騒動の結末。一応は解決したらしく、第三の巫女は第一の巫女プレミア、第二の巫女ティアと同じくキリトの家に保護され、経過観察中らしい。"もじゅーる"とやらは跡形もなく破壊され

 時々エギルが補足を入れながら現状を伝える。

 

「……そっか。こっちのヴァベルは、ユイちゃんを消そうとしてるんだ……」

 

 いまこの世界で起きている事とその主犯人物について話し終えた後、サチは静かにそう呟く。

 

「何か思うところが?」

「まぁ、ね。アリスさんは知ってるけど、あっちだとヴァベルとユイちゃんは共存してるから」

「……たしかに」

 

 それはキリト達に話したときに彼らから言及された事だった。

 私はあちらのヴァベルについて何も知らなかったので、それも含めて"キリト"に問うしかないと答えるしかなかったが。

 

「だからこっちのヴァベルがユイちゃんを消そうとしてる理由とか経緯って何だろうなぁって思って……まあ私自身あっちのヴァベルと話した事ないから、彼女が何を考えてるかは殆ど知らないんだけどね」

「そうなのですか?」

「うん。一方的に言われた事があるだけで、会話らしい会話は一度も。ヴァベルと会話できてるの多分"キリト"だけだからね」

「それは……いったい、何を理由に?」

 

 まさか一度も会話をした事が無いとは思わず問いを投げるも、彼女は微苦笑の顔を横に振った。分からないという意志表示か、あるいは話せないという言外の答えか。

 ともあれ、安易に踏み込んではならない事は分かった私は、話題を変える事にした。

 

「話は変わりますが、サチ以外にも誰か来ているのですか?」

「あ、うん。【森羅の守護者(カウンター・カウンター・ガーディアン)】組は全員参加してるね」

「ちょっと待って下さい。何ですそれ?」

 

 話題を変えてすぐに止めてしまう事は申し訳なく思ったが、それでも止めざるを得なかった。

 サチは一瞬きょとんと呆けた後、ああ、と得心したように声を上げた。

 

「全部話すと長くなるから割愛するとして……端的に言い表すなら、"キリト"用の戦力の事だよ。キリカ、リーファ、シノン、ユウキ、ラン、アスナ、レイン、ユイちゃん、ストレアさん、ヴァフス、ヴァフス〔オルタ〕、ヴァベル、最後に私の十三人構成。まあ表にほぼ出てこないヴァベルの代わりにクラインさんとか、ヒースクリフさんとか、今ならホロウが入るかな。今回はキリカの代わりにヒースクリフさん、ヴァベルの代わりにクラインさんが参加したよ」

「……それは、護衛という意味でしょうか?」

「本音はそうだね」

「では建前は?」

「"キリト"が世界の敵になった時、確実に殺すため」

「……」

 

 サチの返答に、私は口を噤んだ。

 突拍子の無い答えだというのが率直な感想だ。その構成員は全員"キリト"と親しいし、半分は恋仲に発展している事も知っている身としては、建前だろうとそれを受け入れたのかと半信半疑だった。

 しかし――サチの目は、真剣だった。冗談などではない事は表情から見て取れた。

 サチは覚悟しているのだ。万が一があった時、"彼"を殺すことを。その上で『建前』と言ってのけたのは、"キリト"に対する信頼の証なのだろう。

 少しの間見ていると、ふっとサチが表情を和らげた。

 

「……なんて、ね。"彼"が本当に世界の敵になったら、私達は鎧袖一触とばかりに蹴散らされるから、そういう意味でも建前なんだよね」

「それほどまでに、彼我の差は顕著なのですか」

「純粋な剣の腕なら多分リーファが互角か少し上だと思う。でもそれはあくまで武術や試合の延長線に限る話で、命の取り合いになったら多分誰も止められない。アリスさんも、覚えはあるよね」

「……ええ」

 

 サチの促しに、私は神妙に頷く。

 心当たりはあった。あり過ぎると言ってもいい。私が異世界に流れる事になった契機も、彼の剣士らしからぬ立ち振る舞い――――命のやり取りという、騎士道や剣士としての誇りもかなぐり捨てた行動によるものだ。暗殺者もかくやの行動が私の足を掬ったのは事実である。

 サチが言う"キリト"は、私が思い浮かべた咎人のキリトではないが――やはり同一人物ではと疑いたくなるほど共通している点はあった。

 だから彼女が言わんとする事も理解できた。

 

「ちなみに……数でも、押し切れないのですか?」

「昔も二百人くらいは捌いてたし、今は召喚武器があるから猶更無理だね。あっちの妖精郷だと三千人以上の妖精を一瞬で全滅させてきたし」

「むぅ……」

 

 話には、一応聞いていたが。改めて聞かされると規格外と思わざるを得ない実績だった。

 彼女が『建前』と言ったのは彼の実績を鑑みて卑下しているところがあるからかもしれない。最初はその理由があったのだとしても、実質的に形骸化してしまえば『建前』と言っても過言ではないからだ。

 

「まぁ、アリスさんは心配しなくていいよ。"キリト"は無意味に剣を人に向けないから」

「……まぁ、それは短い付き合いですが、理解しています」

 

 だからこそ、咎人のキリトがなぜ人を殺めたのかと疑問を抱いたのだ。"キリト"の過去をシノン達からこれでもかと聞かされれば嫌でも分かる。

 ――それはともかく、だ。

 サチがこちらに来る時に仲間を伴っていた事は分かった。

 

「話の腰を折った私が言うのもなんですが、話を戻しましょう。それで、サチはシノン達とこちらに来たんですよね? みんなはどちらに?」

「分からない。こっちに来る時は一緒だった筈だけど、転移の光が消えた時には逸れてたから」

「ふむ…………私と"キリト"のように、ですか」

「うん。でも心配はあんまり必要ないと思う、みんなSAO時代の強さに戻してから来たから。むしろ心配すべきはアリスさんの戻る手段だよ。私達は最悪ログアウトっていう手段でこのアカウントを置き去りにしてあっちに戻れるけど、アリスさんはそうもいかないもの」

「たしかに……」

 

 彼女が言うように、サチは今も現実(オモテ)世界からこちらに飛ばしている意識をの繋がりを辿って元の世界に帰れるが、こちらで生きている私はその手段を取れない。これが分からないと、人界へ戻る事も絶望的だ。

 

「サチ達の転移に同乗する形で、というのは難しいのでしょうか」

「試してみないとなんとも言えないかな……"キリト"とヒースクリフさん、ユイちゃん達が揃ったら試算してくれると思うけど、今はなんとも」

「そうですか……」

 

 嘘偽りなく告げるサチに、私は疲れた笑みを浮かべる。

 果たして私は何時になったら人界に戻れるのかと、溜息を零したのだった。

 

 






 はい、如何だったでしょうか

 前話の黄昏DLC組のアリス、ユージオ、《フェイタル・バレット》で衣装とスキンで来たロニエ、ティーゼに続き、今話では同じくDLC組のサチが参戦です

 ダイジェストになったけど、ゆるして。黄昏√クロスの肝はアリス周辺にあるから……!


Q:サチの『さん付け』の基準って?
A:目上の人の場合は全員一律。同い年、年下は身内かそうでないか
 この場合の身内は『和人』が基準。和人の恋仲なら呼び捨て、友人・知人枠ならさん付け
 一応サチは和人ラヴァーズの中で最年長設定(本作作中18~19歳) 和人がIS学園に入学する頃に20歳を迎える


Q:結局参加した【森羅の守護者】は?
A:①リーファ
 ②シノン
 ③ユウキ
 ④ラン
 ⑤サチ
 ⑥アスナ
 ⑦レイン
 ⑧ユイ
 ⑨ストレア
 ⑩ヴァフス
 ⑪ヴァフス〔オルタ〕
 ⑫クライン
 ⑬ヒースクリフ


Q:なんで離れ離れになってるの?
A:時空の乱れじゃよ……(頭空っぽ)


Q:上記のキャラ全員出すとキャラ名被り酷くならない?
A:被るのはキリト一人の予定です


Q:ダイジェスト過ぎでは?
A:黄昏設定的に急ぎめじゃないとマズい
 なにせ『1回もログアウトせず仲間探し&4エリア再攻略』を並行するので、一日の内に終わらせないと身体的に余裕が無くなる
 なお公式資料集によると数日に渡って展開されていたらしい
 食事・水分補給はともかく、トイレはどうしてたんだ……?


 では、次話にてお会いしましょう

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