インフィニット・オンライン ~孤高の剣士~   作:黒ヶ谷・ユーリ・メリディエス

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 どうも、おはこんばんにちは、黒ヶ谷・ユーリ・メリディエスです。

 サブタイトルでお察し、今話もユウキ関連。ただし視点は前半ユウキ、後半ディアベルという……

 過去にチラッとだけ出したんですが、ランはデスゲーム宣言の日、ユウキに励まされて立ち上がりました。つまりユウキが拠り所。

 そんな中でキリトが死に、ユウキも行方不明になったランがどうなるか。そしてユウキの強くなる理由の一つとして姉の事を挙げていた詳細が明かされます。

 文字数は約一万五千。

 ではどうぞ。




第六十五章 ~姉の弱さ、妹の罪業~

 

 

『グシャアアアァァ……』

 

 ただ無心に眼前の白が特徴的な骸骨百足型のボス級Mobへと剣を振るい続けることおよそ二分の後、二本と三本目の四割ほどあったHPゲージはものの見事に最後まで空になった。

 その巨体と異様な姿からは想像し辛いくらいか細い断末魔を上げながら、骸骨百足は自身の全てを蒼い欠片へと散らせる。

 直後眼前にリザルトが表示され、取得した経験値とコル、ドロップアイテムの欄を流し見した。ボス級MobであろうHP量を誇っていながら実質一人で倒せた事には首を傾げるが、その苦労もあって通常Mobを相手するよりは実入りがとても良かったので、別にいいかと思っている。

 とは言えそれで慢心はしない。

 戦ってみて分かったが、HP量こそボス級とは言え全体的にステータスは低めだった、フロアボス特有の強大さとは程遠い。鎌の数が増えていた事には対処し辛かったもののダメージそのものは通りやすかったため、重攻撃系のソードスキルを用いて普段はしないごり押しでどうにかなったのだ。

 これが仮にフロアボスだったなら絶対死んでいたなと一人ごちる。自ら戦いを挑んでおいて何だが、実のところ本当に倒せるとはあまり思っていなかった。剣の耐久値が少々不安になってしまったが、それも仕方ない事だと割り切る、命があるだけでもマシだ。

 

「それにしても驚いた……」

 

 紅い二重ベルトの一つから左腰辺りに吊っている鞘に一度払った愛剣をカキンと高い音を鳴らして納めつつ、思った事を何とはなしに口にする。

 第一層の頃から最前線攻略組の一員として戦って来た身だ、フロアボスに似た特徴のMobはそれはもう沢山見て来た。

 フロアボスが蠍や両手斧を持ったミノタウロスなどだと基本的に迷宮区内にいるモンスターも同タイプになる傾向にあったが、それは多分戦闘を繰り返して自然と対策を取れるように意図して配置していたのだと思う。それを裏切られた事もあるにはあったが、それも仕方ないなと思って納得していた部分はあった。

 それでも、フィールドボスとフロアボスと同種族である事はともかく、見た目まで同じものは今までほぼ存在していなかった。大体は迷宮区内を徘徊しているモンスター達を成長させたり、狂暴な姿へとカリチュアライズした存在がボス達の見た目だったのだ。

 今いる場所が第七十六層かは知らないが、天高く屹立する鬱蒼とした樹木の数々を見るに、多分違うなとボクは予想している。七十六層にも途中で森型のダンジョンがあったが、流石に五十メートル級の大樹は無かった。少なくともリザードマンの巣窟になっている洞窟へ行く途中で見た覚えは無い。

 それに地面や木の質感からして明らかに七十六層のコンセプトから外れている。

 《始まりの街》に近いコンセプトらしくあちらは草原で涼やかな印象があったのに対し、こちらは鬱蒼とした樹海で陰鬱とした印象を抱かせる。ダンジョンごとにコンセプトを分けているにしても、流石にこれは極端過ぎだ。

 そもそもからして、第七十五層フロアボスと同タイプのフィールドボスが第七十六層でいきなり出て来るというのは普通おかしい。ステータスこそ弱体化していたがアレはどう見ても亜種、しかも強化版の亜種だ。鎌が四本に増えているなど恐ろし過ぎる。

 《ヴォーパル・ストライク》による頭部強打と《ライトニング・フォール》によるスタン二重掛けの麻痺が成立して良かったとしみじみ思った。二回目のスタン掛けが成功しなかったら、ボクは即座に離れた所にいるオレンジプレイヤーを連れて逃げていただろう。

 そんな事を考えつつ《索敵》で周囲のエネミーやプレイヤー反応を調べ、一先ず周囲に敵が居ない事を確認した後、オレンジカーソルのプレイヤーへと近寄った。

 

「えっと……その、全然手伝えなくて、すまなかったね……」

 

 近付いたこちらに緊張の面持ちを見せながら、口を開いた彼女はまず謝罪をしてきた。どうやら逃げずにいたものの全く手伝わなかった事に罪悪感を感じているらしい。

 それにボクは苦笑を浮かべて首を横に振る。

 

「別にいいよ。戦ったのはボクの勝手だったんだしさ」

 

 正直に言えばあの敵から逃げ切れるビジョンが浮かばなかったので、どうせ死ぬならせめて一矢報いる気持ちで挑んだだけだった。それが予想外にも麻痺を掛けられたからストレス発散も含めて大暴れしただけである。

 これは我が姉はおろか知り合いの誰にも話せない事だなぁと思った。

 キリトの死が半ば決定的になった時から誰もが死に対し過敏になっている。

 いや、あるいは第一層の頃に逆戻りしたと言うべきか。今まで何をしても機転を利かして生き延びて来た実質最強の剣士が呆気なく死んだのだ。その死因は人を助けるための高所落下という《ビーター》からは考えられないものだが、それでも強くても死ぬという事実が未だ生きている多くのプレイヤーに忘却しかけていた恐怖を改めて植え付け、《攻略組》も活動を非常に気を遣って行っている。

 もしかすると彼は、自分の死を以て他者の死亡率を抑えようとか、その辺まで考えていたのだろうかと思わないでもなかった。《ビーター》の役割を自ら考え背負い、《料理》にまで意味を持たせていた彼の事だ。無いとは決して言えなかった。

 これで自分まで死んでいたら《攻略組》の士気は低迷し続けただろうなと思考していたボクは、一旦それを隅に置いて目の前の少女に意識を戻した。

 

「ところで、キミの名前は? ボクはユウキって言うんだ」

「知っているよ、闘技場での戦いを見ていたからね。紫紺の衣服に身を固めていて、紅いバンダナを巻いている女性の片手剣使いなんて、《アインクラッド》広しと言えど【絶剣】しかいない」

「あの時の戦い、見に来てたんだ?」

 

 激戦と一言で片付けるには疲労感が半端では無い連戦の数々を制したメンバーの一人であるボクは、容姿はともかく恰好がかなり特徴的なので、観戦に来ていたなら知っていてもおかしくないなと思っている。

 ちなみに自分自身、何故二つ名がキリトの【黒の剣士】みたいに色関連では無く【絶剣】なのかは、割と気になっていたりする。

 ともあれ知られているなら話が早いとばかりに名前を再度問うと、彼女は自らを、ルクスと名乗った。スペルは《Lux》だ。

 彼女はボクより僅かに背が低く、シリカと同じくらい小柄だった。肩甲骨辺りまで伸びている茶髪はふわふわに波打っていて、彼女の顔つきも柔らかいからとても穏やかな印象を受ける。

 装備は簡素な白シャツになめした革を使っているらしいグレードが高めの革鎧で、それ以外は動きやすさを重視しているらしく布類の防具で構成されていた。

 左腰には鞘が差され、それに納める剣は右手から提げられている。店売りのものでは無いので多分鍛冶屋が鍛えた業物。細身の剣といった風情なので彼女のステータスも恐らく自分と同じスピード型だろう。

 

「む……」

 

 そして一番目に付いたのが、その小柄さに反してたわわに育っている双丘だ。

 なめした革鎧の上からでも分かるくらいそこが膨らんでいて、流石に鎧で押さえ付けられているから揺れはしないものの、そこはかとない嫉妬を覚える。

 リーファと初めて対面した時はキリトの事もあって特に気にならなかったものの、よく顔を合わせる内にとても気になるようになり、何時の間にか嫉妬を覚える今日この頃、まさかこんな訳も分からない土地でまでこんな思いを抱く事になろうとは思いもしなかった。

 自分とて二次性徴真っただ中の年頃、無論無い訳では無い。流石にリーファ程まで大きくはないが掌から僅かにはみ出る程度にはしっかり育っている。普段は戦闘を前提とした服装で固めているので胸鎧で分かり辛いし、大して無いように見えてしまうが、しっかりあるのだ。

 しかもこれはSAOに囚われる以前の大きさなので、生還して体力と体重を戻した後は更に成長する可能性を秘めている。

 キリトは既に亡くなっているが、自分も彼に恋をしていた身、なまじ一緒に寝た経験があるだけに――疚しい事は無かったとしても――そういう事を意識してしまうのは仕方ない。自分より小さな少女の胸が大きい事に嫉妬してしまうのもまた同様だ。

 ……リーファを見ていると、彼は大きい方が好きなのだろうか、という疑問を覚えたりもする。やはり安心感が違うのだろうか。

 

「え、えっと……何かな?」

「ん? あ、いや、ごめん、気にしないで。凄くどうでもいい事だから」

「は、はぁ……?」

 

 何を見ていたのか分かっていないらしい茶髪の片手剣使いルクスは小首を傾げて疑問を呈した。

 個人的にこれは結構重要だと思っているが、やはり現状把握や打破を優先するべきだとは分かっているため、そちらに集中する事にした。どうしたらそこまで大きくなるかを問い詰めるのは後からでも出来る事だ。

 まぁ、返って来る答えなんてリーファで体験済みだが。ランダムアバターの方はともかく、リアルの方も結構大きいと聞いた時はとても悔しかった。

 そしてこれといって特別な事はしていないと言われた時の敗北感と来たら、もう……

 生まれながらの病やデスゲームの事、キリトの事もそうだが、世の中理不尽な事ばかりである。

 

「いや、そうじゃなくて……」

「?」

 

 また逸れて脳裏に浮かんだネガティブでどうでもいい思考を頭を振って隅へ追いやる。その時に口から出た呟きにルクスが不思議そうな顔で首を傾げたが、特別意味は無いと判断したのか言及してくるような事は無かった。

 一先ずバッタリ会った時の緊張感やボスの襲撃を受けた時の動揺も無くなったから、話し合うには丁度いいと言えた。

 

「えーっと……ルクス、だっけ? 悪いんだけど、此処が何処か分かる? 強制的に転移で移動させられてさ」

 

 無いと願いたいが、ここがダンジョンマップであった場合はメッセージが届かないし、場所によっては結晶無効化空間もあり得る。それもそれで困るのだが、第二十二層に構えたホームに戻っての補給が行えない以上あまり転移結晶を無暗に使いたくないから、出来るだけ徒歩で帰りたいのが正直な心境だった。

 それに此処が何処か把握しておく事で、さっきのボス級Mobの犠牲になる者を減らせる。わざわざ現在地を訊いたのはその意図があった。

 その意図を持って問うと、ルクスは眉根を寄せて少し困った顔になった。

 

「それなんだが……実は私も、此処からどうやって出られるかが分からない状態なんだ。それに多分此処は《アインクラッド》じゃない」

「……はい?」

 

 現在地を訊いたら、まさかの浮遊城では無いという答えが返って来て、思わず唖然としてしまった。

 その意味を理解は出来たが、どう解釈したらいいかで物凄く迷った。この《ソードアート・オンライン》の舞台は《アインクラッド》だけだというのに、どうしてあの浮遊城では無いという結論に至ったのかが分からなかったのだ。

 

「まぁ、混乱するのは無理も無い。私もいきなりそう言われて信じるとは思えないからね。でも、まずはアレを見て欲しい」

 

 困惑がよく分かったのだろう彼女は、木々の向こうを指で指し示した。

 振り向いてそちらに目を向ければ、何と空中に青黒い球体が浮かんでいた。底からは金色に光る何かが零れているようなそれは遠くにあってもあまりに巨大。しかも完全に物理法則を無視して空に存在していた。

 アレは確かに《アインクラッド》で見た事が無い。

 

「……確かに、あんなの《アインクラッド》にある筈が無いね。見た事はおろか聞いた事も無いし」

 

 しかも今気付いたが、遠くを見ても各階層の外周部に沿って展開されている巨大な支柱も見えないし、辺りを見回しても迷宮区塔らしき白い建造物も見当たらない。

 たとえどれだけ離れていようと迷宮区の白い塔は見えるのが普通だ――勿論濃霧や砂嵐などが起きている場合は例外である――が、崖の上から見える樹海の何処にも見当たらない。ホロウ・デッドニング・リーパーと戦っている間に何時の間にか開けている場所まで移動していたので、余程の事が無い限り見えないという事はまず無い筈だ。

 つまりそもそも迷宮区なんて存在せず、ここは《アインクラッド》ではないと考えられる。

 迷宮区は《アインクラッド》を攻略する場所でもあり、唯一未到達階層へと足を踏み入れる為の唯一の階。それが無いなんて浮遊城以外の世界でも無い限りあり得ないのだ。

 

「だろう? だから此処は多分《アインクラッド》じゃない……けど、じゃあ何処なんだと問われても、私はそれに答える術を持っていない。何しろ三日前、ユウキと同じように強制的に此処へ転移させられた身だからね」

「ああ、だから分からないって言ってたんだ……でも三日前?」

「ああ。それからはずっとこっちで野宿続きだ。周囲を探索したいところだけど如何せんモンスターのレベルが三桁前後と高過ぎて、レベル80にも達していない私では危険だからあまり動かないようにしていたんだよ……ドジってさっきのボスに追い掛けられてしまったがね」

 

 恥ずかしそうに頬を赤くしつつ、気まずそうに眼を泳がせて言うルクス。

 どうやら自分でも恥ずかしいと思う程の小さなポカをやって気付かれてしまったらしい。

 その結果ボクが一人で戦う事になって、それに後ろめたく思っているようだ。

 戦う前から割と警戒を解いていたが、その様子を見ると、やはりカーソルがオレンジなのは何か事情があった事なのだろう。少なくともルクスは自ら率先して他者を傷付ける事をしそうな性格には見えない。

 仮にキリトのような誰かを護る為ならPKも厭わないプレイヤーだとしても、それはそれでボクがとやかく言う資格は無い。現に第七十五層ボス部屋で神童やオレンジ達を斬る覚悟で自分は剣を抜いたのだから。

 これが演技だったなら相当な役者だ。

 その点、あの神童は役者の素質皆無と言えるだろう。もっと言い方や振る舞いに気を配っていれば、あの場に居た攻略組の大半がキリトとヒースクリフ/茅場晶彦の敵として、神童の味方として武器を取っていた筈だ。

 純粋なポテンシャルなら実弟以上でも、性格によるところが大きい役者ぶりは劣った結果味方を得られなかったのだ。

 疑念を覚えた面々を思い留まらせたキリトの役者ぶりは、流石は一年半もの長きに渡って《ビーター》と【黒の剣士】を使い分けて来ただけあると思った。アレはヒースクリフ/茅場晶彦の普段の姿勢や態度あってこそのものだったが、彼の擁護によるところも大きいと思う。

 

「改めて、押し付ける形で倒させてしまってすまなかった」

 

 数日前の事を思い返していると、ルクスが悲壮な面持ちで謝罪をまた口にし、深く頭を下げた。

 律儀な性格なのだなとボクはまた苦笑を浮かべた。

 

「それに関してはもういいって。それより、今は此処から帰る方法を探す方が先決だと思うんだ。ルクスの知恵を貸してくれない?」

 

 言葉にはしなかったが、彼女の力を借りるようにする事で彼女が覚えているだろう罪悪感を払拭しようという狙いもあった。

 勿論言ったように《アインクラッド》へ戻る事が目的ではあるのだが、何時どうやれば帰れるか分からない以上、出来るだけ一緒にいる人との関係は良好にしておきたいという思いがある。何時までも引き摺られたら積極的な意見の出し合いも難しいのだ。時と場合によっては上下関係は良い方に働くが、今回は悪い方に働く結果となってしまう、それを避ける意図も含んでいた。

 とは言え、それを口にしなかったのは、今度はこちらに力を貸そうと無理をされても困るからだ。サチを鍛え始めたばかりの頃そうやって無茶をしかけた事が何回かあったのでその経験を活かしての言動である。

 その意図を持って投げかけた言葉に対し、ルクスは少し難しい顔になった。

 

「知恵、か……すまないが、言ったように碌に身動き出来なかったからね、何か提供出来るような情報を私は持っていないんだ」

「そっか……」

 

 さっき言っていた事を踏まえての質問への答えに期待していなかったと言えば嘘になる。

 やはり三日と言えどこの樹海に自分よりも早く来た人物だ、少しでも有用な情報はあるのではと期待してしまうのも仕方ないだろう。

 特にボクは《スリーピング・ナイツ》が《攻略組》を構成するギルドとして名を連ねるファクターの一つ。長期的に不在となってしまっては攻略から身を引く事になるだろう、それが自分一人の過失によるものだったら――この場合ボク自身の過失と言えるかは甚だ疑問ではあるものの――罪悪感が尋常では無い。

 ボクと姉が、後に《攻略組》という一組織に入る事になった事の発端――――始まりの街から出る提案をしたのは、他ならぬボク自身なのだから。

 

 *

 

 《スリーピング・ナイツ》と言えば、最初期の構成員がたったの二名であるにも拘わらず攻略優先の《血盟騎士団》や《聖竜連合》に勝るとも劣らない突破力を誇り、あの《風林火山》すらも凌駕する完全少数精鋭ギルドとして、《アインクラッド》にて広く知られている。

 この一年七ヶ月もの間、入団したプレイヤーがサチ一人なのは、《完全少数精鋭》という印象が最大の要因だ。

 《血盟騎士団》などはまだ入団したばかりの新入りを育成し、サポートするだけの人材や余力がある。流石に規模からして《聖竜連合》や《アインクラッド解放軍》には劣るが、最前線攻略に積極的に参加し、個人の戦闘力と資質が高くなる傾向にあるため、焦りさえしなければ基本的に育成は成功する。育成方針と計画を立てている者が面倒見のいい副団長のアスナ自身である事も大きいだろう。

 他のギルドも大小の差はあれ、大半が同様だ。

 《風林火山》に入団者が居なかったのは、偏にリアルで長年連れ添った友人達で築いた連帯感のあるギルドだから。友人として接するのと、命を預けた仲間として共に戦うのでは、やはり差が生まれてしまう。それが入団者のいなかった理由の一つだ。

 《スリーピング・ナイツ》はそのどれにも当てはまらない。たった二人でも最前線に通用しているのは、ボクも姉もハードからしてスペックが桁違いで、且つ元々の素質が高かったからだ。元々動くのが好きな自分はともかく、まさか物静かな性格である姉までもが戦う素質に溢れていると知った時は、流石に生まれた時から一緒に過ごしてきたボクも驚いたものだ。

 しかし、素質に溢れていると言えど経験など無いボク達に、誰かを育てる余裕なんて全く無い。新たに入団した者はすぐに共に戦える者でなければならず、息を合わせられるものでなければならないため、条件に該当するとなればやはり付き合いの長い面々ばかり。

 それでもサチが入れたのは、キリトの頼み以上に、双子の姉に自分以外の支えが必要だったからだ。

 あの思い出すのも忌々しいデスゲーム宣言が為された日。何も知らずにログインして遊んでいた最中、唐突に知らされた事実に絶望した、あの日。

 姉はすぐに恐怖に崩れた。錯乱とまではいかないが、今の姿からは考え付かない程に恐慌を来してしまっていた。普段落ち着いている姿しか見ていないキリトやアスナ達が見ればきっと目を瞠って驚くくらいには、あの取り乱し様は凄まじかった。

 今でこそ自分は片手剣使い、姉は細剣使いとして《ソードアート・オンライン》にその名を轟かせるトッププレイヤーの一人となっているが、それはステータスと戦闘面だけ。どちらもまだ子供の域を出ず、本当の戦場に出た経験などある筈も無い上に、死の世界に囚われたのは生まれながらに負った病から解放され生き永らえると思った矢先の事だ。

 そんな過去がある自分達が死の恐怖を克服出来る筈も無い。

 もしも克服していると言うなら、それは生きる事を諦め、死の訪れを諦観と共に待っているだけで、生きながらにして死んでいると言った方が正確だろうとボクは考えている。

 ただ違うのは、死の恐怖に対し、どう対応するか。

 ボクは死への恐怖を抱きながらも、それを跳ね除けようと奮起して来た。絶対に勝てない戦いに一度も直面した事が無いのもあるが、何より生まれた頃から不治とされていた病に冒されていた身だ、それを克服する以上の苦難などある筈が無いと思っていた。無論今もそう思っている。

 だからあのデスゲーム宣言を受けても、ボクは阿鼻叫喚の体を晒す周囲のプレイヤーのようにはならなかった。ある意味自分の力で跳ね除けられる死だったからだ。

 しかし姉は違った。

 男勝りと言えるくらい元気でやんちゃに生きてきた自分のストッパーをする事が多く、周りや先の事を考えて動いてきた姉は、この世界から生還するビジョンを浮かべられなかったのだ。第百層のクリアを為すまでに一体どれだけの犠牲者が出るか明確に想像は出来なくてもその絶望感は誰もが同じだったからこそ、朧気ではあってもいやにリアルな想像をしてしまった。

 なまじ不治の病から助かるという時に来た絶望の宣告だ。生まれた時からこれまでずっと死へと近付いていた身だからこそ、この世界の本質である《死》の匂いを明確に感じてしまった。

 心が折れるまではいかなかったが、自らの意志で戦おうという意思が生まれないくらいには打ちのめされた姉を、かつてボクは必死に慰め、元気付けた。

 いや、焚きつけたと言った方が正確かもしれない。姉が恐れている濃厚な《死》の香りがする道へと進むよう、自身の道連れになるよう扇動したと言えるかもしれない。

 もし誰かにそう言われたとしてもその言葉を否定する事は出来ない。何よりもボク自身がそれを自覚しているからだ。

 

 ――――姉ちゃん。例え姉ちゃんが《始まりの街》に閉じ籠る選択をしたとしても、ボクは剣を取って戦うよ。

 

 《死》の香りに怯えた姉に、ボクは自身が抱いた思いや考えを伝えた後、更にそう宣言した。死の危険があるとしても戦いに赴くと言ったのだ。

 それに、当然ながら恐怖に竦んでいる姉は、眉根を寄せ、涙に濡れた瞳で見返してきた。

 

 ――――ユウキ……どうして、そこまで……

 

 ――――この世界に……ううん。絶対じゃない死に、負けたくないんだ。

 

 かつて不治だった、何れ絶対の死を与える病に打ち克ち、後の人生を勝ち取ったからこその想いが、自然と口から紡がれていた。半ば無意識に口にした事はその時のボクの心境を正確に言い表していた。

 

 ――――でも、負けたら死ぬのよ……? やっと生きれる筈の人生が無くなってしまうかもしれないのよ?! それでも戦うの?!

 

 恐慌を来し、普段の冷静さを欠いて怒鳴るように訴える姉は、まるで行かせないとでも言うようにこちらの手を強く握り締めた。

 行かせたくない――――あるいは、置いて行かないでと、そう思っていたのだろう。

 あまりにも痛々しい取り乱し様に目を眇めつつ、自分は安心させるようにゆっくりと、こちらの手を強く握り締める双子の姉の手を包んだ。それで多少落ち着いたので、そこで口を開く。

 

 ――――確かに負けない保証なんてどこにも無い。運動が好きで得意だとしても、戦う技術なんて習った事も無い。でも他の人がクリアする可能性がある保障だって無い。

 

 ――――ならボクは、この世界と戦いたいんだ。

 

 ――――街に閉じ籠って何時かも知れない解放の日を待つのも、無為に日々が過ぎて体の限界を迎えて死ぬのも、どっちもボクは嫌なんだ。

 

 ――――そんなのはきっと、生きながらにして死んでいる。

 

 ――――ボクは生きたい……生きて、いたいんだ。

 

 ――――仮に死んでしまったとしても、この世界で必死に生きた《紺野木綿季》という人間を誰かの心に残してもらいたい。

 

 ――――誰かの心に残っているなら、ボクの想いは伝えられる。

 

 ――――この《仮想世界》からも、そして《現実世界》からも、人知れず消えるなんて……そんなの、嫌だ。

 

 ――――死が迫っているのなら、迫っているからこそボクは、ボクらしく最後まで頑張って生きたいんだ。

 

 《メディキュボイド》を使用するにあたって、二人は揃って無菌室に入っていた。それは骨髄移植での細菌感染のリスクを減らす為であり、多少免疫が弱っているのが原因で病気を発症する恐れを減らす意図があった。

 しかしそれは、エイズを発症していたら何れ行き着く場所。無菌室の空間でしか生きられず、まともに運動も出来ず、喋れもせず、見る事も聞く事も出来ない体になって入る場所。

 そして、人知れず死ぬしか無い、寂しい場所だ。

 そういう先の事を、およそ考えた事もない大人や同年代の子供より何倍も深く知っていたからこそ、ボクはこの状況がそう長く続く筈も無い事をその時点で既に悟っていた。

 保って二年前後。最悪一年も保たないかもしれない。

 それはボクが予想した肉体の限界。

 これが五年前後であったなら、あるいは自分も閉じ籠る方に入っていただろう。しかし二年で百層も攻略しなければならないとなると、他力本願に頼るにはあまりにタイムリミットが短過ぎると思った。デスゲーム宣言の日から一週間に一層進むにしても二年後に百層にはギリギリ届いていない。

 そのギリギリがいやらしいのだ。

 きっとその僅かに足りない分を埋めるのはちょっと勇気を出した者の頑張りなのではと、数は力である事を嫌な意味で身を以て知っているからこそ、その『僅か』を埋める一人として戦おうと決意した。

 無論、あの時全てを冷静に、論理的に考えた上で決断を下した訳では無い。

 唐突のデスゲーム、現実に帰れないという異常事態にボクだって当然混乱していた。

 それでも、ただ座しても死が待つだけなら、それなら自分から戦いたいと思った。座しても死、負けても死なら、勝てばいいだけだ。事実全てのプレイヤーに残された選択肢は、究極的には《ゲームクリア》というプレイヤーにとっての勝利だけ。

 他の誰かがクリア出来る確実性も無く、何時までもその状況が続く筈も無いのなら、ボクは逃げずに戦おうと決断した。たとえそれが姉にとって辛い選択であろうとも、退けられる《死》から逃げたくない。そう思ったが故の決意だった。

 それらを一晩費やして伝えた末に、生まれた瞬間から全てを共にしてきた双子の姉は折れ、改めて細剣の使い手《Ran》として立ち上がった。

 奇しくもそれは、同じ細剣使いであり、同様の雰囲気を持つ、後に出会う【閃光】と呼ばれる女性と同じ経緯を辿っていた。怯え、竦み、けれど戦うために剣を取った。

 一緒に戦う事を決意してくれた事をボクは嬉しく思った。右も左も分からない世界を一人で生き抜くのは、考えただけでも恐怖と不安でいっぱいだったからだ。

 しかし、正直に言えば来て欲しくなかったというのも本音だった。戦う意思を持ったのは自分だけだったのだから姉には安全な場所で待っていて欲しい気持ちもあった、巻き込んでおいて何をと思うが、それも本音だった。

 実のところ、姉は立ち上がらないだろうと高を括っていた。

 しかし彼女はボクの予想を裏切って立ち上がった。《死》の香りへの恐怖は未だ消えず、けれどこの世界へ一緒に来ている肉親を一人では戦わせないと、死なせないと覚悟を決めて、恐怖を抑え込んでそれ以上の闘志を燃やした。

 穿って考えれば、それは《紺野木綿季》という双子の妹が生きているからこそ成り立つ闘志。

 ボクの闘志を《前向きな戦意》と例えるなら、姉のそれは背水の陣や死中に活を見出すといった《後ろ向きな戦意》。

 つまるところ、ボクが共に居ない限り、彼女はまともに戦えない。少なくとも本調子ではなく、死ぬ可能性が高まる事は確実。

 だからボクは今まで完全休日の日以外は基本的に姉の傍から離れる事無く、行動を共にして来た。それは《スリーピング・ナイツ》の活動を円滑にする為であり、死の道へ進ませる原因である自身の責務だったから。半ば無理に戦う事を強要させたようなものなのだ、なら姉が死なないよう万全のコンディションを保つ為にそれくらいしなければ、罪滅ぼしにもなりはしない。

 彼女はきっと、この罪悪感すらも『あなたのせいでは無い』と、微笑みながら、そう優しく言うだろう。

 しかしボク自身はそう思わざるを得ない。

 

 

 

 ――――この深い樹海へ飛ばされる寸前、僅かな瞬間だけ見えた我が姉の顔が悲壮に歪んでいたのを見た以上、そう思うしかないのだ……

 

 

 

 ***

 

 がやがやと、外の喧噪が耳朶を打つ。

 別段この建物に向かって誰かが叫んでいる訳でも無いし、ましてや乱闘騒ぎが起こっている訳でも無く、ただ普通に人の往来がある活気のある街としての姿があるだけだ。MMORPGの街、という前提を考えればかなり人数が多いとは思うが、活気があるのはどちらにせよ良い事である。

 しかしこの建物――――《攻略組》きっての商人兼斧戦士エギルさんが買い取って経営する店の一階ラウンジに円卓が設置されている此処は、それらが煩いと思えるくらい、嫌な空気で静まり返っていた。

 あるいは沈んでいる、と言うべきか。

 つい数十分前、攻略に出るよう頼んで街から出たばかりの《風林火山》が、何故かユウキ君を欠いた《スリーピング・ナイツ》を伴ってすぐに帰って来た。

 一人足りない事にまさか彼女まで死んだのかと戦慄を抱き、何時になく取り乱してサチさんに泣きついているランさんを気に掛けながらクラインに話を聞けば、ランさんの様子が理解出来た。そしてユウキ君が居ない事もだ。

 誰も転移結晶を使っていないし砕ける音も聞いていないのに、突如として発動した転移現象。

 これを重く捉えた《攻略組》の幹部と言える円卓の面々は、メッセージですぐ集まるようにした。

 とは言え、この場に集っているのは今は亡くなっている事が確定的なキリト君、唐突に姿を消してしまったユウキ君、それに取り乱したランさんと彼女を宥めているアスナさん、サチさん以外の面々だ。

 リーファさんとシノンさんの二人はキリト君が居なくなった日から塞ぎ込んでしまった。

 現在は攻略組御用達の武具店店長リズベットが購入した物件の三階に住んでいるものの、碌に食事も取らずの日が続いていると聞く。彼の死の原因が自分達である事に酷く打ちのめされてしまったようだ。

 リーファさんは義弟であるキリト君を溺愛しているようだったし、シノンさんは記憶喪失の状態で彼に保護され、そのまま戦闘指南を受けていたというから相当信頼を寄せていた。それで死なせる原因になってしまったのだから打ちひしがれてしまうのも仕方ない。

 そこに来て、更にユウキ君までもが謎の失踪を遂げて姉が崩れた。キリト君より年上とは言え大人である自分やヒースクリフさん、クライン達に較べれば遥かに子供だからそれも当然ではあるが、その起こり方があまりに辛い。仮にユウキ君が死んでいたら彼女の復帰は絶望的だろう。

 それを誰もが理解していて、ランさんを宥めている二人が降りて来るまで街の中で得た情報や事の進捗を確認し合っていると、白を基調に赤の色が入った騎士服を纏うアスナさんだけが二階から降りて来た。そちらに全員の視線が向く。

 

「アスナ君、ラン君の様子はどうだった」

「随分と憔悴してました……さっき、泣き疲れて眠ったところです。サチさんは彼女の様子を見るために残っています」

「そうか……」

 

 彼女の報告を聞いて、ヒースクリフさんが渋面で黙り込む。

 キリト君の幼さや無茶に何時も目が行っていたが、あの二人も《攻略組》の中ではかなり年下の方だ。むしろ下から二、三番目である。

 今まで彼がずっと戦ってきて、その無茶な姿を見て支えなければと奮起していた俺達だが、ある意味でそれは戦う意思を保つ力になっていた。『皆の為に』と彼は戦っていたがその戦う動機というものがある者ほど人は強くなるのだ。

 そういう意味では、二、三番目に幼い彼女達の強さは、そのまま戦う動機が他の人より強いという意味にも直結する。

 第一層の攻略会議でアスナ達と出逢う前の彼女達は常に二人で行動していたと本人達から聞いた事がある。他の人達の事を信用し辛いし連繋も取りにくいからと言っていた。それは真実だろう。

 しかし恐らくそれだけでは無い。推測になるが、あの姉妹は精神的に依存し合っていたのだと思う。

 ユウキ君はランさんを護る為に力を付けると決め、そうして戦う理由を作った。ランさんはその逆、妹のユウキ君を護る為に戦うと、そうして戦えるだけの力を付けた。

 その共依存は両方が存在してこそ成り立つものであり、片方が欠けた時点で瓦解する程に脆い関係だ。

 だからこそ彼女は取り乱してしまった。心の拠り所であり、戦う理由そのものとも言える妹が唐突に居なくなって、ひょっとしたら死んでしまったのではという可能性を否定出来ず、嫌な想像をしてしまった。依存していた分だけそれは深刻だ。

 似たような状況にキリト君も陥った事があるが、《月夜の黒猫団》のメンバーと彼の間には殆ど関係が無かったから、サチさんが寄り添っただけで持ち直せた。もっと言えばあの姉妹に較べれば絆や友情といった友好的な感情は薄かったからこそダメージもまだ少なかった。

 ランさんは実の家族、それも双子の妹を目の前で喪ったのだ。まだ死んだと決まった訳ではないものの、状況的にかなり絶望的である以上は最悪を想定しなければならない。彼女にそれは酷過ぎるだろう。

 それでも受け入れなければならない。

 現実は何時も非情だ。

 

「キリト君に続いてユウキ君まで……しかもいきなりの転移なんて、対策も碌に出来ないぞ」

「団長、こんな事が起きる可能性に心当たりはないんですか?」

「すまないが私にも思い当たる事が無い。仮に強制転移が起こったとしても、それが何故起こったかが分からないのだ」

 

 アスナさんと共に強制転移が発生する可能性について開発者であるヒースクリフさんこと茅場晶彦に問い掛けるも、彼にも分からないらしく難しい顔で頭を振る。起こった事はともかく、原因についてよく分からないから推測も口に出来ないといった感じだった。

 

「一応オレッちが聞いた限り、同じ事が起きた奴はこの街や他の階層にも居ないっぽいゼ。他の階層は結構ムラがあるから確証は無いケド」

 

 他にも事例があるなら共通点から割り出せるのだが、それは幅広い情報網を持つ《アインクラッド》随一の情報屋アルゴさんが否定した。

 他にも強制転移で姿を消した者が居ないというのは知らない間での不安の拡大が起こらないという事でもあるからまだいいが、原因究明の足掛かりを喪ったという意味で考えれば、あまり喜べる事では無い。かと言って多くの者が居なくなった方がいいという訳でも無いのだが。

 

「ユウキのフレンド状態はキリトと同じになってるけどよ、位置追跡も不可能って事はどこかのダンジョンに飛ばされてるとかか? ダンジョン内は追跡不可になるだろ?」

「そうは言うがなクライン、状況からして何かフラグを立てたって訳じゃないんだろ? 可能性として否定は出来ないがかなり低いんじゃないか?」

 

 クラインが生存を前提とした可能性を口にするが、エギルさんがそれに反論する。

 ダンジョン内やクエストで突発的に場所を移動させられるギミックが発動する事は、そこそこ珍しいものではあるものの、無い訳では無い。あまり探索型クエストをしない俺でも何度か経験がある。

 とは言え、そういうものは大抵その場にいるプレイヤー全員が対象になる。今回はユウキ君だけがピンポイントで姿を消したから可能性としては低かった。

 

「《聖竜連合》はクエストやダンジョン攻略も頻繁にするが、フィールドで転移させられるタイプのフラグは今まで聞いた事が無い。ヒースクリフの話を聞く限り七十五層を超えたらそういうフラグが増えるっていう訳でもなさそうだし……」

「リザードマンを一番倒したのがユウキだから、どこかに囚われちゃったーとかは?」

「百層への攻略に必要なルート上にそういう設定をした覚えは無いし、そういうクエストもこの階層では発生しない筈だ」

 

 集った面々が次々と予測を口にしては可能性が低い、そういう設定はしていない、対策不可といったように現状打破の一手となるものが出て来ない。そもそもからして人の手によるものでないなら対策の立てようも無いのだが、事は死活問題なので話をしない訳にもいかない。

 一応彼女が消える前に話を聞いていたというクライン達から洞窟内での戦いを聞いて、それの対応策は立てているので、現状話さなければならない事はユウキ君の失踪をどう扱うかだけ。

 下手に失踪したと周囲に広めれば、【黒の剣士】に続いて【絶剣】まで居なくなったとより絶望的な雰囲気を蔓延させてしまう。既にランさんの様子を見た人々がそういった話をしている。

 それを覆すには彼女本人が帰って来なければならないのだが、フレンドリストの状態がキリト君と同じになっているので最悪死んでいる可能性も否定出来ない。

 もし本当に死んでいたら彼の策でどうにか収まった下層に戻れなくなった人々の不満を抑え切れなくなってしまう。半ば街へ軟禁しているも同然なこの状況でそうなってデモ活動などを起こされたら、《攻略組》の活動に支障が出る可能性がある。

 他の階層でなら別の街に拠点を移すとかで対応可能だが、七十六層以上は主街区が一つだけで他の街や村に転移門は無いという話だからその手段は今は取れない。第七十七層に進んだら取れはするがそれが出来たら苦労しない。

 結局対応策無し。【絶剣】の失踪は暫く極秘事項と扱う事にして、攻略の方に人数を割くようにした。

 システム障害で何時死ぬかも失踪する事になるかも分からず、特記戦力とも言える二人を欠いた不安定な状況で、俺達はとにかく攻略を急がなければならないという結論に至った。

 






 はい、如何だったでしょうか。

 本作の紺野姉妹は生き永らえる状況なので普通に恋愛もしたいお年頃。

 でも過去抱いていた死の恐怖があるから、少しは原作ユウキ(家族全員死亡)に近い想いを抱いていたとしてもおかしくないのでは、と思って描写しました。

 原作ユウキは繋がりを持った人を哀しませるのでは、と葛藤を抱いていましたが、《スリーピング・ナイツ》の行動や今際の際の様子を見る限りでは『誰かに覚えていて欲しい』と願っていたと思うんですよね。それを私なりに再現。

 心に残る、の辺りはファントム・バレット編のキリトのセリフからちょこっと引用。

 そしてランについて。

 彼女は原作でも『アスナに近い雰囲気』、『ユウキを何時も微笑んで見守っていた』、『ユウキより遥かに強い』といった断片的な情報しか無いのでかなり捏造した感じがあるのですが、死の恐怖から解放される(病の完治)矢先にデスゲームに囚われたので、こうなってもおかしくないのではと思い、崩れたという設定に。

 それでも戦えているのは大切な妹が、戦うと言ったから。死なせたくない、置いて行かれたくない、という思いで立ち上がった。

 だから、その戦う(護る)理由であるユウキが居なくなったせいで崩れてしまった、という感じに。気になっている異性のキリトが居なくなったショックも相俟って大ダメージ、という感じで解釈して頂いたら幸いです。

 というかコレが自分の限界でした。ランが哀しみで崩れるのがこれくらいしか思いつかなかった(汗)

 ユウキが戦う理由も、退けられる死に負けたくない、という思いがしっくり来たのでこれに。

 デスゲーム初期をオマージュした新章開幕という事で、改めて戦う理由を挙げてみました。如何でしたかね?

 ……本来天真爛漫な彼女がかなり暗いのは、本作だから、という事でご容赦頂きたい……

 それと現在、新たに活動報告でアンケートモドキをしております。希望のキャラ視点や箒の今後についての相談があるので、気が向けば返信していただければと思います。ただ感想欄にはしないでください、利用規約に引っ掛かって見えなくなってしまいます。

 感想欄だと見えなくなる可能性があるのでしないでくださいね(;´・ω・)

 では、次話にてお会いしましょう。


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