インフィニット・オンライン ~孤高の剣士~   作:黒ヶ谷・ユーリ・メリディエス

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 どうも、おはこんばんにちは、黒ヶ谷・ユーリ・メリディエスです。

 今話はサブタイトルから察せられる通り、《ホロウ・エリア》に別で来ているユイ&キリトのお話。

 視点としては前半ユイ視点、後半は別キャラ視点。読めば後半は分かります。

しかもキリトは殆ど喋らない、というかキリトが何だかヒロインやってる感じになりました(笑)

 本作のユイはお姉さん力が天元突破状態なので、ユイちゃんでは無く、ユイさんなのですよ……しかも色々と原作からぶっ飛んでいる。こんなユイもいいな、程度に受け止めて頂ければと思います。

 文字数は約二万一千。

 ではどうぞ。



幕間之物語:義姉弟編其之二 ~這イ寄ル不安~

 

 

 びゅぅ、と風が吹いた。

 強過ぎはしないが、しかし微風と言うには強い風が一陣吹き、大地から生え茂っている青草をユラユラと揺らした。周囲で咲き誇っている色取り取りの花も揺れて、設定されている香りが鼻腔を擽る。

 それらに合わせるように自慢の黒髪がハラリと揺らめく。

 そして、青草を座布団代わりに座っている自分の膝に頭を乗せ、暖かな微睡みに浸っている幼子の黒髪も揺れた。太ももに掛かる髪の感触がくすぐったくて、けれど不快では無いそれが幸せに思えて、自然と笑みが浮かんだ。

 

「んぅ……ぷしっ……」

 

 風に揺れた自身の髪が顔に、そして鼻先に掛かったからか、微睡みに浸っていた幼子が可愛らしいくしゃみをした。

 それで幾らか眠気から覚めたようで、寝ぼけ眼のまま黒い瞳でこちらに焦点を合わせる。

 その瞳に、光は無い。

 ただ瞳にあるのは全き黒。無垢の闇が広がるだけで、輝きの光は損なわれてしまっている。

 傷付き、疲れ果てた末に戦いから身を引いた幼子からは、かつてあった輝きが喪われていた。それで魅力が損なわれるとか人間性の価値が下がる訳では無いがより痛々しさを増してしまっていて、見る度に胸の内が苦しくなる。

 けれどそれを臆面に出す事は無い。

 自分は人のメンタルケアを仕事とする人工知能、有体に言えばカウンセラーだ。カウンセリングを行う者が不安そうな顔をしていては、患者が安心してこちらを頼る事が出来なくなってしまう、それでは《メンタルヘルス・カウンセリングプログラム》試作一号として失格だ。一号という事は、他にも居るMHCPの長女なのだから、しっかりしないといけない。

 ただでさえ、今の患者は大切な義弟なのだから。

 少しでも安楽を提供する為に。

 少しでも不安を和らげる為に。

 少しでも、心の休息を取ってもらう為に。

 

「ユイねぇ……」

「何ですか……?」

 

 名前を呼ばれたから、しっかりと目を見て、頭を撫でながら優しく問い返す。

 途端、黒の幼子はふにゃりと表情を柔らかくした。

 

「……まだ、寝て良い……? ねむい……」

「ふふ……良いですよ」

 

 精神的な病を患い、その症状が現れた者にとって最初に行うべき治療は、何よりもまず寝る事だ。ちなみに昼も寝て良いが、生活リズムを整える関係で夜は必ず寝るようにしなければならない。

 鬱病や統合失調症など概して精神病と言われるものは遺伝や環境的な要因も多々関わっているものの、多くは精神的ストレスによって朧気な症状がハッキリと顕在化し、『病気』と診断されるに至る。

 疲れすぎていると逆に気分が高揚したり興奮状態になったりするように、ストレスが掛かり過ぎると自身の状態把握が疎かになり――それも意図的に目を逸らしているのではなく自分では変わりないと思い込んでいる――症状を無視して動き続けるため、事によれば非常に危険な状態まで行き着く可能性がある。少なくとも私にインプットされている知識ではそうなっていた。

 私が診断した限り、キーは鬱病と統合失調症を併発している。間違っている可能性もあるから断定は出来ないが、確実に言える事はこのどちらかは発病しているという事だ。片方だけなら恐らく鬱病だろうと私は予測している。

 この二つの病は発病に至る機序が異なるが、概して責任感や正義感が強く、生真面目で、失敗を許せない完璧主義であったり失敗した事に対して過度に自分を責めたりする性格傾向がある。

 キーはどれも当てはまるし、失敗を許せないだけでなく、失敗が許されない極限の環境に身を置き続けた事で凄まじい心的ストレスがあった。発症しても何らおかしくないのだ。

 鬱病にはもう少し詳しい病気のタイプがある。大きく分ければ、常に気分が下がり続けているタイプと、異常な気分高揚と低迷が交互に繰り返されるタイプだ。

 統合失調症にも発症時期と出やすい症状によって分類があるが、大体似たり寄ったりなので割愛する。こちらは病名が示す通り社会的な思考と実際の行動が噛み合わず、滅裂となっている状態の事を指す。興奮し過ぎていて疲労に気付かず、本当は休まないといけないのに動き続けて、しかもその行動で為せるレベルが低いのが特徴だ。

 脳で分泌される物質の話もあるので単純にストレスだけのせいとは言えないが、前述したように多くが精神的ストレスによるものである事はハッキリと分かっている。

 そういう者達の治療に最適なのは休む事。より正確に言うなら、ストレスを発生させる場所から遠ざけ、仕事や責任から逃げて――むしろ休む事を仕事として――疲労を取り、積み重なったストレスをリセットする事だ。

 人間は機械より脆いのだ。ずっと稼働し続けていれば機械とて休みを挟んだ機械より早く故障するのだから、疲労という自覚があり、睡眠や食事を摂らなければならない人間が動き続ければガタが来るのも当然というもの。そのガタが、人間の精神面で言えば鬱病や統合失調症なのである。

 ――――そこまで行く前に休めばいいのでは、と思う者も居るだろう。

 それが出来れば苦労はしない。状況や立場、あるいは性格から来る責任感や戒めが原因でそれが出来なかったからこそ発症に至ったのだ。

 何事にも完璧を求め、失敗を許さず、常に働き詰めの者はそれが習慣となって休まなくなるし、期待を掛けられれば掛けられるほど、応えなければと強く思って休む事を自ら戒める。そして何か一つ些細な失敗をしただけで、たった一度期待に応えられなかっただけで、その者は自身を強く責めるのだ。

 そんな状態がたった一度ならまだ良いだろうが、特徴的なのはそれがずっと続く事。一度失敗すれば二度同じ事はすまいと決め、それでまた失敗したら更に強い自責感に襲われる。

 元々人間が一度の失敗もしない筈も無く、けれどそれが許せない余りに責め過ぎて、それがストレスとなって発症に至るケースは非常に多いという。

 キーは正にその悪循環に嵌っていたのだ。確かにリー姉やユウキさん達のお陰で崩れる度に持ち直してきた――――それでも、心に疲労は確かに蓄積していった。心の強さはそのままでも、ストレスに対する耐久性は低くなり、崩れる度により脆弱になっていった。

 そして押し潰されてしまった。

 一度目――《月夜の黒猫団》――の失敗は後悔と戒めに。

 二度目――第七十四層ボス戦――の失敗は強い自責感と自らへの失望に。

 そして三度目――リー姉とシノンさん――の失敗は、途方も無い自己嫌悪と自己否定へと変わり果てた。

 期待に応えようとする活力や不安などを跳ね除ける力は自分自身に対するプライドや自信だが、自己否定はそれら全てを軒並み捨て去ってしまうものに等しい。そんな状態で更に強くなっていく自責や後悔、自己嫌悪感を跳ね除けられる筈も無い。

 だから今のキーには、一旦それらを忘れて疲れを取ってもらう事が一番の薬になる。

 これが軽い自信喪失なら、自身を取り戻すきっかけを与えればいい。誰かを助けるとか、誰かに褒められるとかで、きっとある程度持ち直すだろう。

 しかしキーはそれよりももっと先、この世界で成長した自分だけでなく、リー姉達と過ごした過去の行動すらも否定する思考に陥ってしまっている。そんな状態で他者と関わりを持つ治療を施しても意味は無い。むしろ悪化する一方なのは明白だ。

 だからこの三日間、私達は《ホロウ・エリア》各地を転々としながら、見晴らしのいい場所で一緒に昼寝をし続けていた。

 張り詰めていた糸を一気に緩めた今のキーは絶大な睡眠欲に襲われていて、昼だろうが夜だろうが関係なくよく眠っている。まるで今まで攻略の為に削っていた分を取り返すかのような見事な寝っぷりだ。

 私としては可愛らしい寝顔を堪能出来て満足ではあるが、それだけ疲れていた事を考えると素直に喜べなかった。

 

「私は何処にも行きませんから……安心して、気が済むまでゆるりと眠って下さい」

「……ん……」

 

 安心させるよう優しく言うと、キーはワンピースの裾をきゅっと握って来た。

 ワンピースの裾を握って来るのはキーなりの、おねだりのサインである。

 たった一つだけ私達の間で取り入れた非言語的コミュニケーション法が意味するところは、抱き締めて、だ。何でも凄くあたたかくて、安心して眠れるのだとか。

 リー姉やシノンさん達と違って私のアバター年齢はキーとほぼ同じなので、彼女達よりも格段に貧相な体なのだが、それでもあたたかいと思ってもらえているのは素直に嬉しかった。義姉冥利に尽きるというものである。

 ……自分自身、どこでこんな感情や思考を学習したのだろうかと疑問に思わないでもないが、別に不利益は生じていない――と言うか利益ばかり生じている――のであまり気にしていない。

 ちなみにワンピースと下着以外は身に着けていないので、肌の柔らかさは直に伝わるのだが、多分彼はその辺分かっていない。

 

「ふふ……甘えん坊なキーは、とってもかわいいです」

 

 恥ずかしそうに顔を赤くして、それでもおねだりをやめるつもりは無いようで裾を握ったままのその様子が微笑ましかった。以前言ったように素直に甘えてもらっているのが嬉しかった。

 

「む……」

 

 その言葉にちょっとだけ、キーはむっと不満そうに唇を尖らせた。恐らく男子として『可愛い』という言葉が癇に障ったのだろう。

 でも私はこれを撤回するつもりなど無い。率直な感想を言っただけだし、きっとキーの理解者達は今の様子を見て誰もが同じ感想を持つ筈だから。悪いのはそんな反応をするキーの方なのだ。

 そんな思考を浮かべつつゆっくりと膝からキーの頭を下ろした後、私もまた草花の上に身を横たえる。それから隣で寝転んでいる黒衣の義弟にごろりと向き直って両腕を伸ばす。

 

「おいで」

 

 柔らかな声音で言えば、キーも両腕を伸ばして私の背中に回し、抱き締めて来た。ぎゅっと優しく、強く。

 流石に腕を下敷きにすると微妙に寝辛いので横向きに寝て、お互いの手と指を組む状態にする。これなら寝苦しいという事も睡眠を阻害する事も無い。

 

「お休みなさい、キー。良い夢を」

 

 眠る挨拶をした後、彼の額に口付けを一つ落とす。

 

「ん、おやすみ……ユイ、ね……――――」

 

 途端、寝ぼけ眼だった義弟は何かに誘われるように眠りに落ちた。

 ――――私がした額への口付けは、何も見た目だけでは無い。

 【ホロウ・エリア管理区】のスタッフとして復活させられた――と思われる――私は、《アインクラッド》から集積されたデータから【カーディナル・システム】自らによって完全復元された存在なので、MHCPとしての機能と限定的なGM権限の双方を併せ持っている状態だ。今となっては【ホロウ・エリア管理区】にあるコンソールの深部へアクセスする権限も有している。

 そんな私は、プレイヤーのメンタルケアを行うMHCPの為、時に患者を落ち着かせる行為もしなければならない。

 なのでMHCPとしての機能の一つに、プレイヤーを強制的に眠らせるものがある。

 原理は単純で、《ナーヴギア》で読み取っている特定のプレイヤー――今回はキー――の脳波データから、睡眠時の脳波を読み取ってそれを引き起こすというもの。より厳密に言えば脳破壊も出来ない超微弱な電磁波を当てて、現在の脳波を強制的に睡眠時のものへと上書きするのだ。

 人間の脳波は誰一人として一致しない特有のもので、仮に他者の脳波を上書きした場合、脳器質と反発し合ってその人間は一時的に植物状態に陥ってしまう。そのためこの行為は相当危険なものであり、行うにしてもかなりの回数の臨床試験を行わなければならないだろう。

 恐ろしい事に何故か既に脳波の上書きを行った試験データが【ホロウ・エリア管理区】コンソールから確認出来たので、私もこれを行えるようになった。試験データを読み取るにどうも情動や記憶を司る部分にもアプローチしていたようだが、流石に危険過ぎるしそもそも必要としていない事もあって、私はキーを睡眠状態へと誘う為にしか用いていない。

 リアルでは睡眠導入剤などを使うようだが、その代用と考えればいいだろう。ホルモンや神経伝達物質を操作するか、脳波を操作するかは随分違うけど。

 

「……ごめんなさい、キー……」

 

 まずは仕事や責任などを忘れ、とにかく寝る事と伝えてはいるものの、脳波を上書きして眠りに就かせる事に関しては一切説明していない。

 脳を弄っているも同然の行為が幾ら治療の為とはいえ人道に反する事なのは理解しているが、それでも説明していないのは、自主的に寝るとはあまり思えなかったからだ。かと言って自主的に寝たとしても過去のトラウマを夢に見て症状悪化などしたら目も当てられないので、夢を見ない熟睡するタイプの脳波を選択する為でもある。

 これを明かした時、幻滅され、責められると思っている。恐らく明かさず勝手にした動機については一定の理解を示してくれるが、それでも幻滅はするだろう。

 正直それは恐い。大切な義弟に嫌われるくらいならいっそ消滅する方がマシだと思う自分がいる、それくらい自分にとって、キーという存在は大きい。

 だが治療者として、何れ明かさなければならない。そもそも最初に説明と同意を得なければこんな治療行為は行えないし、脳波を弄っている時点で犯罪だ。幾らAIの身で人間の法に縛られないと言っても倫理観の問題がある。その問題は決して些末事では無い、下手しなくても拒絶されるレベルの案件だ。

 それでも今は明かせない。とにかく今はキーの治療が最優先。

 この方法を拒否された場合、確実に回復するのは遅れる。

 せめて別れの時が来る前にキーだけでも治療は済ませたい。MHCPの責務以上に姉としてのそんな想いがあった。

 治療を言い訳にしている事も分かってはいる。

 ただそれでも、幻滅されても軽蔑されても責められても良いから、キーには元気な姿になって欲しかった。その為なら何だってするつもりだ。

 たった一人でこんなに幼い子供が背負って来て、それでボロボロになったのだ。ならせめて私だけでも治療の為に全力を尽くすべきだ。そうしなければキーはただの働き損である。

 だから……

 

 

 

「――――邪魔、しないで下さい」

 

 

 

 義弟の手を握ったまま、しかし声音は冷たく、言葉を発する。

 折角安らかな眠りにまた就いたのにそれを邪魔しようとする無粋な輩が近付いていたから。それが苛立たしくて、自分でも驚くくらいその声音は冷たくなっていた。キーやリー姉達が聞けばきっと耳を疑うだろう。

 

「Wow! 思ったよりもイイ反応するじゃねェか。見た目ガキかと思いきやソイツと同類か?」

 

 それに対し、おどけた調子の男性の声が返って来た。キーと手は繋いだまま、起こさないよう――と言っても脳波を無理矢理睡眠時のものにしているから起きる筈も無いが――ゆっくり身を起こした後、背後へと肩越しに振り返り、視線を投げる。

 さっきまで誰も居なかった樹齢を重ねていると分かる古木の幹には、一つの人影があった。

 頭上にあるカーソルはオレンジ。纏っている衣装は細部は分からないがダークグリーンの裾がボロボロのポンチョ、革のズボンには左右不均等にベルトが幾本も巻かれており、後ろ腰からはダガーと思しき柄が右側から見えている。厚底のブーツを履いており、手にはグラブが嵌められている。

 全体的に敏捷性を求めた軽装。ダガーである事から恐らくスタイルはヒット&アウェイを主軸とする典型的なクラウドコントローラー、あるいは変則的なアタッカーだ。

 背丈はかなり高い、軽く見積もっても180センチはあるだろう。肩幅は大柄という訳では無いが鍛えていると分かる程度にはがっしりとしている。立ち姿も同様だ。

 パッと見ではそれくらいしか判断出来ない。ポンチョを纏っている上に顔を隠しているので見た目の怪しさ満点で警戒心を掻き立てるが、それだけだ。

 しかし私はより詳細な情報を持っていたから、そのオレンジプレイヤーが誰かすぐ分かった。

 

「……《笑う棺桶》の首領がわざわざこんな場所まで何の用ですか」

 

 そのオレンジプレイヤーは、嘗てキーの手によって直々に殺された筈の《笑う棺桶》首領PoHだった。

 名前は言わなかったものの素性を知っている事を伝えたからか、少し意外そうにPoHはまたアメリカンスラングを口ずさみ、組んでいた腕を解いてパチパチと拍手して来る。

 そのこちらを莫迦にしたように思える所作に、眉根を寄せて睨み付けてしまった。

 

「まさかこっちでも俺の事が分かる奴が居るとはなぁ。随分と有名になったモンだぜ、まったく」

「……何の用かと訊いているのですが。用が無いなら立ち去って下さい、この子が起きてしまいます……――――それとも、命を狙っているのですか?」

 

 それなら容赦しないと睨み付ければ、男はくくっ、と嘲るような笑声を上げた。

 

「NonNonNon…………別に狙っちゃいねェよ、今は……な」

 

 何かを企んでいるとありありと表している含み笑いと共に、敢えて『今は』と強調して言う男に、私は眉根を寄せた。

 それは大切な義弟の命を狙われている事に変わりは無いという不愉快な事実に対するものと、今この場に来た目的の予想が外れていた事に対する疑念が浮かんだから。

 

「今は、ですか。不安の種は早めに摘み取っておくべきと言いますが……しかし、そうでないなら何故此処に」

「なぁに、ここ数日になって見かけるようになったって言う新参者の顔を拝みに来ただけだ。まぁ、その片割れがNPCだっつぅ話は流石に半信半疑だったがよ、まさかマジだったとはなぁ」

「……」

 

 以前、《アインクラッド》に出られたのはエラーが理由の大半だったし、言語機能などの損傷もあってカーソル表示もおかしくなっていた。

 そもそもからしてMHCPはSAOサーバーに存在はしているものの、《アインクラッド》には実装されていないという、所謂イレギュラーデータに位置している。あるいは未アップデートデータと言うべきか。とにかく現行のシステムバージョンに適していない為にカーソル表示が無かったのだ。

 しかし今の私は【カーディナル・システム】の手によって復元されたNPC。MHCPとしての機能、そしてMHCPが限定的に有するGM権限の保有及び行使が認められている、システムによって正式に認められたれっきとしたNPCという扱いになっている。

 なので頭上にもNPCを示すカラーカーソルが表示されている。

 カーソルの色はプレイヤーがグリーンないしオレンジ。NPCの場合、イエローが基本だ。HPゲージは緑、黄色、赤と量が減るにつれて変わっていく。

 しかし私のHPゲージはイネーブルーとなっている。この色はクエストを受注した際、護衛対象=戦闘に参加するNPCである事を意味しており、プレイヤー達の間では《有効化》と呼称されている。厳密には《戦闘有効化NPC》という意味らしい。

 早い話、以前は戦う力なんて無かった――そもそもMHCPは戦闘を考えられていない――私だが、イネーブルーゲージになっている今はその色のNPCと同じように戦う力がある。レベルもあるし、武具の装備だって可能だ。

 とは言え、イネーブルーゲージNPCは戦闘に参加するものの護衛対象である事が基本なので、搭載されているAIはあまり戦闘向きではない。プログラミングされている条件に該当すれば動くだけだから人間のような臨機応変さは皆無だ。

 だが私はプレイヤーの精神状態をモニタリングし、問題解決に当たる事を目的としているAIなので、そういう高度な思考は普通に可能となっている。戦闘向きではないもののキーの動きを見て来た身としては、彼に遠く及ばないにしてもある程度の真似くらいは可能だ。状況に応じてある程度対応を変える事は出来るし、経験を積めば多少マシになっていくとは思う。

 そして私は限定的なGM権限の保有者。本来の権限には遠く及ばないが、ある程度ステータスを弄る事は可能なので、そこらのプレイヤーでは傷一つ付けられないステータスに設定している。この《ホロウ・エリア》を徘徊しているMobはレベル三桁がザラにいるが、それらですら一捻りで倒せる。

 無論、技術で勝負するタイプであるキーには勝てないのだが。

 ――――結論から言えば、私一人でもPoHを追い返す事はおろか、この場でHPを消し飛ばす事も不可能では無い。

 だがしかし、それはあくまで不可能では無いのであって、絶対ではない。そもそも幾らステータスが高くなろうと、武具を装備出来るようになろうと、ソードスキルを放てるようになろうと、経験を積んでいない以上は付け焼刃に過ぎない。キーやユウキさん、そしてPoHのようなレベルに左右されない技術で戦う実力者には、正直勝てる見込みはまだ低いと言わざるを得ない。

 キーとユウキさんのデュエルも、本来なら絶対的にレベルと装備で勝っているキーの方が勝つ可能性が高いのに、ユウキさんは持ち前の技術と反応速度でそれを覆し、引き分けに持ち込んだ。勿論キーが痛みを受ける事で反撃出来なかったという部分もあるが、アレはユウキさんの突出した実力が差を埋めていたと見た方が正確だ。

 それと同じなのだ。

 仮に私がPoHと戦ったとしても、勝率は二割あれば良い方だ、それもステータスにものを言わせたごり押しだから一度パターンを読まれれば押し返されるのは確実。加えて脳波を弄ってキーを寝かせたばかりなので、彼を護りながら戦う事になる。それで勝つのは流石に無理がある。

 本音を言えば、キーの不安の種となるPoHの企みを今ここで潰したいところだが、相手に戦う気が無い以上今は穏便に済ませた方が得策だろうと、思考を終えた。

 

「顔を見に来た、ですか。それならもう目的は達したでしょう、早く立ち去って下さい」

 

 この男から敵意や殺意といったものを感じられないのが幸いして、そういったものには特に敏感な――それこそ深い眠りの脳波状態でもすぐ目を覚ますほどだ――キーは未だ深い眠りの中にいるが、それも何時まで保つか分かったものではないので焦りが私の内心にはあった。

 この場で戦う可能性はかなり低い、と自分は見ている。

 これはMHCPとして各プレイヤーをずっとモニタリングしてきたからこその見解だが、PoHは確かに異常な殺人快楽者ではあるが、その行動は全て計画性のあるものだ。つまりこの男にはこの男なりのルールがあり、口にした言葉は何かしらの形で守りはする。それが詐欺紛いだったりするので希望を抱けないのがまた面倒なのだが。

 とにかく、この男に戦うつもりがない以上、こちらから下手に手出ししなければこのまま穏便に済むとは思う。

 問題はこの男が退散するのが何時になるか。あまり長引かれても困るし、変な気を起こして眠りに就いたばかりのキーに興味を持たれたり、殺気なんかを飛ばされたりしたら、脳波を弄るという禁忌まで犯してでも休ませようとしている私の思惑が全て水泡に帰す。流石にPoHが居ると分かった場所で暢気に寝るとは思えない。

 

 

 

 ――――それに、今のキーに、この《ホロウ・エリア》の真実を知られる訳にはいかない。

 

 

 

 今のキーが知ってしまったら、きっとどうしようもないくらい壊れてしまう。

 せめて知るなら、瞳に光が戻るくらい回復して、尚且つキーが甘えられる心の支えの人物が現れてからだ。そうでなければキーは自分の心の傷に食い殺されて、罪悪感に圧し潰されて、恨みによって壊れてしまいかねない。いや、まず間違いなく壊れる。

 これでキーは、とても繊細なのだから。ただ《本当の自分》を騙し続けるのが得意なだけで――――本当は、ずっと怯えて、寂しがって、泣いている、どこにでもいる子供なのだ。

 そんな幼い子供を、弟を護るのは姉の務めだと改めて決心して、私は未だ立ち去る気配も無くポンチョから見える口の口角を釣り上げてニヤニヤ笑っているPoHに、一睨みくれてやる。

 それに長身の男は肩を竦め、両手を上げた。

 

「オーケーオーケー……分かったから、そんな殺気立つなって。今回は言った通り顔を見に来ただけだ」

「……もしも害を為すようなら、その時は容赦しません」

 

 オーバーリアクション気味に言う男の言葉に、『次』はただの会話か、あるいは戦う事になるのか分からなかったので、あらかじめ釘を刺しておく事にした。キーの命を狙うなら私が相手になる、と。

 

「へェ?」

 

 NPC扱いの私の言葉が意外だったのか、PoHは少し意外そうな声音で応じた。それも一瞬の事で、直後は更に口角を釣り上げた歪んだ笑みを張り付け、こちらを見て来た。

 

「NPCにしちゃかなり感情的なセリフだな……ま、いいけどよ。俺に勝てると思ってんのか?」

「いいえ、思ってはいませんよ。私なんてあなたの足止めを数秒出来れば良い方でしょうから」

「なら、何でそんな強気なセリフを言える?」

 

 純粋に疑問に感じたからか、面白いと思っているのがありありと分かる笑みを浮かべながら発せられた問いに、私は不敵と分かる強気な笑みを浮かべて男を見返した。

 

「確かに私では数秒しか保ちません……でも、私は一人ではありません。そのたった数秒ですら私が助かるには十分な時間になり得ます。例えば、そう――――あなたを殺せたプレイヤーであれば、ね」

 

 かつて計画された《笑う棺桶》掃討戦。

 その主導者は攻略組のリーダー各であるヒースクリフさんやディアベルさんとされているけれど、実質的には、単独でアジトを突きとめてみせたキーだ。

 掃討戦について話を聞いていた者の中に内通者――第一層の頃から居たクラディールなど――のせいで情報が洩れていて、待ち伏せされていたが、それでもPoHを始めとした幹部メンバーが逃げられないようにはされていた。転移結晶での転移はその階層の《圏外》転移門にしか行けず、そこに攻略組を配置していれば離脱は不可能だからだ。その制約を利用した為に、《笑う棺桶》は撤退が出来ない状況に追い詰められていた。

 そんな中での一か八かの全面衝突の末、大半がキーによって殺害され、《笑う棺桶》は壊滅という結末を迎えた。

 レッドギルド《笑う棺桶》の発足から三ヵ月と経たない内に、神出鬼没で拠点を特定出来ない数多の情報屋や名うてのプレイヤーを出し抜いて単独で見つけ出し、更には奇襲にも対応し、対人戦に特化した腕利き揃いの幹部組は全員キー一人で相手して倒してしまった経歴がある以上、PoHも【黒の剣士】/《ビーター》だけは警戒せざるを得ない存在だ。

 PoHとキーはリアル関係でも浅からぬ縁がある。

 モニタリングして知った事だが、数年前にとある研究所へ連れ去られて人体実験等を受けていたキーは、そこで何かしらの事情があって居たらしいPoHにより、戦闘技術を叩き込まれた。どれだけの頻度と期間行われたかは知らないが、そういう意味でもPoHは彼の技術面での強さもある程度把握しているのだ。

 そして《アインクラッド》側で直に殺された事で、それは痛いほど身に染みたに違いない。

 だからこそ無視は出来ない。キーは無能などと言われているが、それでも努力と経験で才能の差を補って強く成長した者だ、その一端を担ったPoHが無視出来る筈も無い。

 無視したなら、それはあまりに自信過剰が過ぎる。

 リアルでキーを攫う依頼を受けて、更には戦闘技術を叩き込んでもいたのなら、恐らくキーがこの世界でやっていたような傭兵稼業辺りを生業としていたのだろう。であるなら、彼我の実力差は絶対的に把握出来なければ生きていけない。

 その辺に関してPoHは間違いなくシビアな視点を持っている。そうでなければ、キーを見下す発言が出ない事に少々説明が付かないのだ。例えば、私の強気な発言に対して、何も言わない事とか。見下していたら否定の戯言を口にする筈だ。それが無いと言う事は何かしらの部分でキーの事を認めているとも取れる。

 姉としては、戦闘や殺し合いの方面で認められているというのは、些か以上に悲しい気分になるけれど。家庭的なところもかなりあるからそういう平和的な方面でキーはもっと褒められて欲しいなと姉心に思っている私である。

 ちなみに余談ではあるが、《ホロウ・エリア》各地を回ったこの三日間の朝昼晩の食事は、全て現地調達した食材を使ったキリトのお手製料理だった。

 AIの身に食事は必要ないけれど、趣味嗜好という面ではとても興味があるので、一応女性という設定である事もあって料理を習ってみようかなと考えたりもしている。丁度キーの未来の夢が料理について教える立場だった筈なので、その予行演習としてはいいだろう。『料理は心の洗濯』とも言うからちょっとは前向きになるのではとも思う。するにしてももうちょっと休んでからになるけれど。

 閑話休題。

 

「…………」

 

 ともあれキーの強さについてよく知っているPoHは、本当にこちらに害を為す時には今も深い眠りに就いている少年が立ちはだかると容易に想像出来たようで、僅かな警戒心を出しながら黙り込んだ。

 その行動は、少なくともキーだけは警戒するに値しているという事。PoHにとってもキーは強敵であり、強さの基準で言えば対等以上に位置している事を示す。

 ……何だか、自分は虎の威を借る狐のようだな、と思ってしまった。弟を護る為とは言え何だか姉としてはとても情けなく感じてしまう。そもそも自分の存在意義そのものは戦闘向きではないのだから、これもある意味仕方ないと言えば仕方ないのだけど、忸怩たるものを感じてしまう。

 

「……ククッ」

 

 そう思考していると、少し離れた距離を保っているポンチョの男が何かを抑えたような笑いを発した。

 何かと思って、胡乱げに私は視線を向ける。

 その視線に気付いたのか、あるいは偶然タイミングが重なっただけか、視線を向けたと同時に男はさっき見せたのと同じように肩を竦めた。

 

「流石の俺ももう一度同じ奴に殺されるのは勘弁ってな。NPCは恐ェし、今回はこれで退散するぜ」

「もう二度と来ないで下さい」

「クッ、そりゃあ確約しかねるなァ」

 

 本心のままもう来るなと言ったが、PoHはのらりくらりと面白がってる風情を隠さないまま、言外にまた来ると言ってきて、思わず歯噛みする。これは厄介な人に目を付けられてしまった、と。

 私がPoHと会うならまだいいが、キーとPoHが対面してしまうと、この《ホロウ・エリア》の真実に勘付いてしまうだろうから好ましくない。まだそれは早過ぎる。

 出来る事なら本当にもう二度と来ないで欲しいのだが……恐らくそれは、無理だろう。

 

「ああ、そうそう」

「……?」

 

 面倒な事になった、と胸中で嘆息していると、何かを思い出した風にPoHが足を止めて話し掛けて来た。

 今度は何なのだ、と思って胸中で首を傾げつつ、耳を傾ける。

 

 

 

「そうやって各地を転々とするのも良いけどよォ……お前ェら、このままじゃ――――死ぬぜ」

 

 

 

「ッ?! どういう意味ですか?!」

 

 現状、リアルで死者は出てはいない。だがそれはイコール今後も死なないという訳では無く、ひょとしたらクリアと同時に死亡判定を受けているプレイヤーは一斉に死ぬ可能性も存在している。

 PoHがリアルの事について知っているとは思えない。

 ただそれでも、知っていても何らおかしくない物言いでそう言って来た事が不可解過ぎて、私は疑問だらけになってしまった。このまま生活していたら死ぬ、という事がどうしても引っ掛かった。

 それは、PoHも同じなのではないのか。何故私とキーだけに絞って言うのだ。

 まだ私だけなら分かる。だって私はSAOのシステムによって存在を許されているNPC、まず間違いなくクリア後はサーバーの完全消去を実行されると考えられる以上はゲームクリアが私の死と同義となるので、私だけ言われるならまだ理解出来る。

 けれど何故、キーまで死ぬような事を言っているのか。

 そして何故、自分は違うような言い回しなのか。

 単純に自身を含めて言っていないだけで、本当はPoHも死ぬのだ、と考えるには些か謎が多過ぎだった。

 

「じゃあな、また近い内に来るぜ」

「待ちなさい!」

 

 だから私は慌てて詰問を投げるのだが、PoHにはもう答える気も無いようで、そもそも私がここまで狼狽した事に満足したのか軽い足取りで素早くこの場から退散してしまった。

 《隠蔽》スキルも使ったのか、ものの数秒と要さず長身のポンチョ男は姿を晦ませてしまった。

 

「くっ……一体、何なんですか……ッ!」

 

 最後の最後に、まるで意趣返しと言わんばかりに特大の爆弾を置いて行かれた事に、私は心底苛立たしくなって歯噛みした。

 

「ゆい、ねぇ……?」

「ッ……キー……すみません、起こしてしまいましたか」

 

 PoHに対する敵意や苛立ちを洩らし過ぎたからか、あるいはうるさくしてしまったからか、脳波を弄って深い眠りへと誘われたキーは眠りに就いてから数分と経っていないのに、何時の間にか目を覚ましていた。それに声を掛けられてから漸く気付く。

 脳波の上書きも最初だけで持続的には行っていないので、恐らくそれもあって起きたのだろうけど、一番の原因は私だと思うので少し申し訳なく思ってしまった。

 

「別にいいけど……だれか、居た……?」

 

 それはきっと、一緒に横になった筈なのに気が付いたら身を起こして、別の場所を見て歯噛みしていた様子から予想した事なのだと思う。

 その予想はまさに正答そのもので。

 

「――――……いいえ、誰も居ません。此処には、キーと私以外には、誰も……」

 

 けれど私は、詭弁を弄する事にした。

 キーの質問は過去について。

 私の答えは現在について。実際、PoHが立ち去った為にこの場所に居るのは本当に私とキーだけだ、だからそういう意味では嘘を吐いてはいない。

 誰か居たのか、という過去についての問いには答えていない。だから詭弁。

 

「ん……」

 

 詭弁を弄した事に気付いて欲しくなくて、私は未だに意識が半覚醒状態の義弟の頭を撫でてやる。くすぐったそうに目を細め、気持ち良さそうに体から力を抜き、表情から不安が薄くなっていく。

 それを少しの間続けていれば、今度は脳波を上書きする事も無く、キーは自然と眠りに就いた。

 それでも私は頭を撫でる手を止めなかった。むしろ自分も再度身を横たえた後はその華奢な肢体に腕を回して抱き寄せ、優しく、けれど強く抱擁して、回した手で頭をまた撫で始める。

 幼い義弟の柔らかな香りが鼻腔を擽り、穏やかに繰り返される寝息が耳朶を打ち、柔らかな体が存在を主張する。

 男子とはとても思えない艶やかな長髪の感触がくすぐったかった。

 義弟の寝顔は、今だけは不安なんて無いとでも言えるくらい穏やかで、柔らかで、そしてあどけなかった。

 

「キーの事は……私が、絶対に……」

 

 その顔を、もう二度と哀しみや絶望、憤怒、憎悪に歪めたくなくて。

 今まで支えて来て、けれどもうキーが逢う事は出来ない人達に代わって、今度は自分の番だと再度心に誓った。

 今は閉じられている瞼の奥にある瞳に、きっと光を取り戻してみせると。

 

 ***

 

「あ、ヘッド、お帰りなさいっす」

 

 《迷いの森》の更に奥まった場所を一時的に拠点としている樹海の奥地へと戻った俺を見付け、見張り役をしていた鎖帷子の帽子をフード代わりに被っている優男が声を掛けて来た。それに手を挙げて応えながら拠点へと入る俺と共にその男も付き添って来る。丁度交代の時間だったのか、別のメンバーが見張りに立っていたので仕事放棄という訳ではないようだ。

 

「それで、どうだったんですかぁ、《ビーター》サンの様子はぁ?」

 

 優男――――モルテは、鎖帷子の帽子の奥からニヤニヤと口を歪め、両手を後頭部に当ててひょいひょいと歩きながら問い掛けて来た。

 この樹海の何処にプレイヤーがいるかを把握する為に定期的に交代制で巡回に出た際、偶然にもこの仮拠点から出てほぼすぐのモンスターがポップせず花が咲き誇る《精霊の森》に、凄まじく見覚えのあるプレイヤーを見たと報告してきたのは、このモルテだ。

 その際にHPゲージがイネーブルーになっているNPCが、まるで寄り添うように一緒に居る事も伝えて来て、半信半疑ながらも俺は一人で出向く事にした。

 一人で出たのは、複数だと問答無用でアイツが斬り掛かって来る可能性が高かったから。一人でもそうなる可能性はあるが、複数で出向いた場合よりはまだ低い。

 《笑う棺桶》が全滅する事になったあの日、アイツが俺を真っ先に殺ろうと動いたのは、正に【絶剣】や【閃光】といった実力者達を殺ろうとした時だった。攻略を推し進めるキーパーソンとなり得る連中を、あるいは俺とこの世界で初めて会った時に読んでいた連中を殺されそうになった時、アイツは問答無用で俺を殺しに来た。

 普通の感性を持つヤツなら相手がオレンジやレッドであろうとも、《笑う棺桶》を壊滅させようと組まれたレイドに居た連中の大半のように殺すのは躊躇う。当時俺達はそれを頼みにしてプレイヤーキルを愉しんでいた。相手が躊躇う事が隙となるのだ、それを狙わない手はない。格上は狙わないずる賢さも連中にはあるから尚更相手は歯向かえない。

 あの殺し合いは殆どアイツの独壇場。それはつまり敵対するヤツを殺す事に躊躇いは無いという事だ。後になって悔やんだり苦しんだりはするのかもしれないが、戦いの場にそれを見せる程、アイツも甘くは無いという事。

 一度殺された俺達がアイツの前に現れれば絶対警戒し、最悪傍に寄り添うように居るNPCの少女を護る為にと問答無用で斬り掛かって来るのは容易に想定出来た。だから一人で行ったのだ。

 とは言えまさかNPCに殺気を向けられるとは予想外だった。心地いい殺気だったので、襲い掛かる衝動を抑えるのは少し大変だった。

 

「ヘッド、愉しそうっすね」

 

 どうやらそれが表情に出ていたらしい。俺より背が少し低いモルテは、フードの奥を覗き込むようにこちらを見て笑った。

 

「ククッ、思わぬ収穫ってヤツだ」

「へぇ……自分には《ビーター》サンは腑抜けてるようにしか見えなかったんですがねぇ……」

 

 自分を殺した時の様子と完全に違っていたからか、この男にとって今のアイツは物足りないらしい。

 分かっちゃいねェな、と胸中で失笑する。

 アイツの恐ろしいところは感情が抜けた風になればなる程に容赦が無くなっていく点にある事を知らないのだ。

 事実俺が依頼で戦闘技術を叩き込む前、組織によって教導され始めた頃から終盤に掛けた生き残りの試験が進むにつれてアイツはどんどん無感情になっていき、他の連中が恐れている死にすら怯えず動いていた。アイツの思考を完全に読んでいる訳では無いが、思考・思想を放棄した末にある本能とも言える部分が、無感情になったアイツの体を動かすのだ。

 それが生きる為なのか、あるいは他の何かに対して動くかは分からないが、その時のアイツに敵対者に対する殺意や敵意というものは全くない。

 今まで殺しをやって来た経験上、そういうヤツほど厄介である事を俺は知っている。敵意や殺意が無いという事はこちらに抱いている興味・関心が薄いという事を意味し、つまりはこちらの手練手管に対する動揺も少ない事も意味している、動揺を誘わないと殺すのも難しいアイツが無感情になって動揺しなくなるのだ。気迫で押してくる事は無くなるがその分どこから来るか分からないという状態になるのだから、俺としてはそちらの方が恐ろしい。

 アイツはあれだ、追い詰めれば追い詰めるほどヤバい類のヤツだ。

 仮に【絶剣】や【閃光】、あのNPCの少女全員が俺達や他の誰かに殺されて、アイツの周りに誰も居なくなったとしよう。そうしたら恐らくアイツは俺が見た事も無いくらい最大級の危険性を持つ存在になる。俺達が人質として狙いやすい連中が、実は一番狙ってはいけないアイツの枷という訳だ。

 弱点と言えばそうなのだろうが、それは弱点でもあると同時にアイツの理性でもある。理性を壊せば本能が出て来るのは必定。

 自分以外の誰かを枷にして戒めなければ抑えられない本能――――恐らくは殺戮衝動。死への恐怖心や人殺しへの忌避感を抱かないアイツがその本能を完全に解き放ってしまえば、俺は勿論、俺より実力で劣るモルテを筆頭とする連中は誰もが敗北するだろう。

 つまりアイツは俺や《笑う棺桶》、モルテが率いた連中を殺した時は全く全力では無かったという訳だ。モルテから聞いた話だとアレから更に新たなスキルや装備を得て途轍もない戦力になっているようだし、殺し合いも以前に増して激化するのは間違いない。

 リアルとバーチャル含め、俺が唯一人生で初めて戦闘技術を叩き込んだ弟子のようなヤツだ。アイツが今後どうなるかはあらゆる意味で興味がそそられる。どこまで強くなるかとか、どこまで足掻いて他の連中を見返すかとか――――理性を喪ったアイツがどんな風に狂うのか、とか。

 こちらにアイツが来た場合、恐らくアイツにとっての理性となる連中よりも先に来るのは間違いないので、それを奪う事は出来ないと考えて用意していたが、NPCとは言え寄り添う事を許すくらい心を許すヤツが居るのは手間が省けて非常に助かる。いや、むしろ相乗効果で尚更アイツは面白いぐらい狂ってくれるだろう。

 仮にその苦痛や本能を切り抜け、理性で狂気を押し殺してこちらの企てを破っても、完全にその衝動が消える訳ではない。近い将来、必ずそれが爆発する。

 それを伝聞でも聞き知るだけでも愉しめる事だろう。俺が唯一、この人生で見て来た中で一番狂っていて、先が楽しみになるヤツなのだから。モルテみたいに莫迦で分かりやすくもなく、恐怖で閉じ籠っている連中みたいに詰まらなくもなく、ゲームクリアの為にと言って戦う青臭い連中のような莫迦さとは違う方向に狂っているアイツの先は、流石に読み切る事は出来ない。現にこちらに来る時期が俺の予想よりかなり早く、更にはNPCまで一緒に居るのだから。

 

「あんな様子じゃ、用意してる計画も途中で終わっちまうと思うんですがねぇ……」

「さて、それはどうなるか分からねェぞ? アイツはアレでガッツがあるからなァ」

 

 と言うよりは、もうどん底に落ちているからそれ以下にまで絶望出来ないっていう感じで耐えるのだから、気合いで持ち堪えるガッツとはまた別な訳だ。最後まで計画が進んだとしてもそれが満足いき結果になるとも思えない。

 

「んで、《ヤツ》の方はどうなんだ?」

 

 アイツがこちらに何時か来る事だけを願い、復讐する事を誓ってPK上等のオレンジ集団の俺達を頼ったとある男の事を、俺は問う。アイツについて報告を受けた際に偶然にもその場に居合わせたせいで抑えるのが大変で、その後の事を他の連中に任せたから少し気掛かりだった。

 今のアイツに会っても、到底《ヤツ》の目的は達せられない。

 俺にとって半年ほどだが《ヤツ》にとっては一年以上掛けて牙を砥いできたのにそれでは満足しないだろう。最悪《ヤツ》の言い分や復讐心を肯定し、抵抗せず受け容れる可能性すらある。勿論寄り添うNPCが巻き込まれればその限りではないだろうが。

 

「ああ、アレの事っすか。あんまりにも話を聞かないんで麻痺らせて転がしてますよー」

「なるほどな……莫迦な野郎だ」

 

 話に聞いた限りでは完全に逆恨みもいい所な復讐心で、正直俺としては詰まらない茶番でしかないのだが、《ヤツ》が必死に一年以上掛けて鍛えた力を真正面から破られた時の顔を見るのは少し愉しみにしている。その悔しさをバネに更に努力する滑稽さもその一つ。

 《ヤツ》がアイツを殺せる可能性は万に一つも無い。《ヤツ》は逆恨みによる復讐心を抱いているだけで、その対象はアイツのみ。つまりアイツに寄り添う連中を殺せるかまでは別問題。

 しかもアイツの近くには《ヤツ》が想いを寄せている女の槍使いが居ると、モルテから聞いている。長らく攻略組に居続けたモルテの情報は確かだ。

 仮にその女がアイツを庇いに出たら《ヤツ》はどうするのか。幼馴染らしい仲間を見殺しにされたと言いがかりを付け、その女を捨てるも同然に自殺し、それなのに逆恨みで殺そうとしている《ヤツ》を止めようと女が立ちはだかったらどうするのか、俺としてはそれも気になるところ。

 復讐心を優先してアイツを殺し、女に否定されるか。

 情を優先してアイツを殺さず、復讐に生きた全てを否定されるか。

 どちらに転んでも《ヤツ》は相応の苦しみを受ける事は間違いない。アイツが《ヤツ》と相対し、その復讐心を知って苦しみ、それからどうするのかは非常に興味があるが、女の事を知った時の《ヤツ》がどう狂うのかもそれなりに愉しみだ。寄せている想いとやらが砕け散る様も見てみたい。

 どちらに転んでも《ヤツ》はその程度でしか無いから、それが終われば用済み。

 

「で、何時殺りに行きます?」

「今は抑えとけ、まだ早いからな。準備はしっかりしとかねェと二の舞になっちまう」

「了解。んじゃ、メンバーにはそう伝達しときますねー」

 

 心得たもので、長らく離れていても最古参の一人であるモルテは手をひらひら振りながら俺から離れて行った。麻痺らせている男の事は俺に任せ、それ以外の連中に伝達しに行ったのだ。面倒な事を押し付けやがったと苦笑を浮かべる。

 

「さて……ホントにアイツは死んだのかねェ……?」

 

 一人になったため、この拠点でモルテと会うまで考えていた事へ思考を回す。

 アイツに殺された俺達や自殺した《ヤツ》はハッキリと『自分が死ぬ瞬間』を覚えているので、《アインクラッド》で死んでいるのは確実と言える。死んですぐこの樹海に放り出されたのには流石に驚かされたが、記憶がハッキリとしているので、恐らく死んだらここに送られるのだろうとはある程度察しの良い奴らは思い至っている。

 全損したら死ぬのでは、と考えていたから流石に度肝を抜かれたが、ゲームクリアと同時に死亡するとも考えられるのであまり楽観は出来ない。

 勿論《アインクラッド》側のプレイヤー達はこれを知らないから必死に死なないよう動くだろう。現に《ビーター》や【黒の剣士】と言われたアイツは攻略組から出来るだけ死者が出ないよう、俺ですら異常と思える程に動き回っていた。最前線攻略の合間に《笑う棺桶》の拠点をを見付けるという無茶を知った時は流石に驚いたものだ。

 そんなヤツが真っ先に死ぬのかと些か疑問は残っている。

 何しろアイツは殺し上等の《笑う棺桶》を次々と殺し回るどころか、《聖竜連合》という同じ攻略組の一員でもある連中や誅殺隊とかいう連中に追い回され、一対多の戦いを強制されながらも生き残っていたプレイヤーだ。モルテの話から一人での戦いは殊更強化されているようだし、ボスとの一騎打ちへの生存率も相当高くなっているらしい。

 そんなアイツをどうやって殺したのかが気になる。流石の俺も全力で掛かられるとアイツに敵う気はしない。搦め手を使えば初見は行けるだろうが、それも長続きしない以上どこかで押し負けるだろう。

 無論アイツも不死身や無敵では無いのだから、何れ死んでもおかしくは無い。現にモルテはそう納得を抱いているようだった。

 だが俺はそうではない。

 

 ――――あのガキ共の話が気になるんだよな……

 

 定期的に一人で出ては見かけたプレイヤーを殺して回っている俺が二日前に見かけた、赤髪の二刀剣士と金髪の短剣使いの話が引っ掛かりを覚えさせる原因。PKの為にハイディングして偶然聞いた俺は、その二人がダンジョン攻略中唐突に発生した強制転移でこちらに来たという話を知ってしまったのだ。

 俺やモルテ達と違い、明確に殺されてHPが全損する瞬間を見ている訳では無い存在。

 この樹海で偶に見かける『どこか様子の妙なプレイヤー』と違って明確な意志を見せつつもこの樹海に来る寸前が転移という、俺がこの樹海で作り上げた常識との齟齬。

 それが、ひょっとするとアイツも同様なのでは、という思考へと至らせる。

 だとすると、アイツを殺す事は出来るだけ避けるべきだ。このSAOをゲームクリアにまで引っ張れるのは狂っているアイツしか居ないと俺は本気で考えている。

 恐らくだが、《アインクラッド》で死んだ俺達もリアルはまだ生きていて、このアバターを動かしているのはリアルの肉体。つまりこの世界で殺しを愉しんでいられるのにも限界があるのだ。その限界を迎えれば、俺達は肉体の衰弱死によって息絶える。

 それは俺としても御免被る。人殺しを続けたい気持ちもあるが、アイツの先を見たいという好奇心や興味もある。それらを満たせないまま死ぬなんて俺はまっぴらごめんだ。

 《笑う棺桶》を始めとしたオレンジの連中は大なり小なりリアルに不満を持っていて、この世界で死んでも構わないという思考にある。愉悦となった人殺しをSAOの死後の世界とも言うべき此処ではどれだけ殺そうともランダムの位置にプレイヤーが復活するので獲物が減る事は無く、連中はそれが愉しくて堪らないと感じている。だからアイツへの復讐心を抱く《ヤツ》の行動も一種の余興と見ていられる。

 俺もその一人ではあるが、仮にアイツが死んでいない方のプレイヤーだとすると少々マズい。何しろアイツを喪っても攻略を今まで通りに進める攻略組のビジョンが浮かばない。【絶剣】や【閃光】も対モンスター戦では無類の強さを誇ると俺も思っているし、団長サマの鉄壁とも言える防御を破れるボスもそうそう居はしないだろうが、攻略速度という点からすれば絶対以前より遅くなる。

 攻略速度が落ちるという事は、それすなわちリアルへの生還が遅くなり、衰弱死の可能性が高まるという事。

 

 ――――チッ……こんな事なら、俺だけでもあの時逃げていた方が良かったか?

 

 人殺しを愉しんでいる俺も無秩序にやっている訳では無い。

 そもそも《笑う棺桶》を作り上げたのは、日本人同士が争う場面を見たいという欲もあったからだが、攻略組には出来るだけ手を出さないよう纏める為でもあった。それはあまりにリアルへの帰還が遅くなれば衰弱死する危険性を考慮していたが為だ。故に《笑う棺桶》のメンバーには攻略組を襲わないよう言いつけていたのだが、調子に乗った阿呆が襲って殺しを働いた為に、アイツが本格的に動き出してしまった。

 攻略組の事ともなれば過剰な程に動きを見せるアイツはアッサリと《笑う棺桶》の拠点を見付けるや否やすぐさまレイドを率いるよう働き掛け、強襲を敢行。あまりの手際に連中を言い包めて逃げる算段を立てる事も出来なかった。クラディールやモルテがメッセージで警告してから一時間と経たずだったから間に合わなかったのだ。

 それでも逃げようとしたが、転移結晶で転移しようとした俺にジョニーが落とした麻痺毒の短剣を投げて、そのまま俺は殺された。

 逃げおおせていたらオレンジギルドを適当に殺しつつ纏め上げ、動きを統制し、それなりに欲を満たしながらも攻略組へ影響しないようにと考えていたのだが……あの時、自分なら逃げおおせられると慢心したのが運の尽きだったか。何時でもアイツらは切り捨てるつもりだったから盾にしてでも転移結晶で逃げれば良かったかもしれない。

 まぁ、本当にアイツが死んでいるならこの思考もほぼ全て無駄なんだが……

 

「……しかし、どうやって確認するべきか……」

 

 あまり長く時間を稼ぐ事は出来ない、《ヤツ》が痺れを切らしてしまう。

 出来るだけ短時間且つ確実に、アイツが本当に死んだかどうかを確認しなければならない。死んでいたら容赦なく畳みかけるが、死んでいないのであれば上手くアイツらを誘導して、《アインクラッド》にアイツが戻れるまでの時間稼ぎをしなくてはならない。

 あいつ等が協力する事は考えていない。何しろリアルへ帰れなくてもいいとか、ただ人殺しをしたいと言う奴らだ、むしろ帰れる可能性を高めるアイツを逃そうとしないだろう。

 

 ――――展開によっては、俺もアイツと肩を並べる必要があるかもしれねェな……

 

 アイツと殺し合う事を俺は愉しみにしているが、それも命あってこその物種、未来を捨ててまで殺し合うつもりはない。アイツがこのデスゲームクリアの鍵であるなら俺もそれに力を貸そう。元々《笑う棺桶》の連中はアイツより興味・関心が薄いのだ、殺し合う敵になったところで痛くも痒くもない。

 

「ま、どっちに転んでも俺は愉しめるから良いんだがな」

 

 アイツが本当に死んでいるのなら、この世界か肉体が終わるまで終わらない殺し合いに興じれる。その際は俺も生還出来る事を諦める。

 アイツが本当は死んでいないなら、アイツが《アインクラッド》に戻れるよう陰ながら手助けしてやろう。そうしてやろうと思えるくらいには俺も肩入れしている。アイツと殺し合える最高の舞台が整うまでの我慢と思えばこれくらいは朝飯前だ。《笑う棺桶》の連中を敵に回してもいいと思えるくらい、その行為と未来には価値がある。

 それを出来るだけ早い段階で確認する為にもどうしたものかと頭を悩ませながら、俺はかつてアイツに滅ぼされていたと逆恨みしているギルドのリーダーの下へと足を向けた。

 

 






 はい、如何だったでしょうか。

 ユイ、もう見た目と中身のギャップが激しいですね……《アクセルソード》の見た目で出て来てたら普通にさん付けされてそうなお姉さんぶり。異性としての感情も入ってるから愛情も天元突破状態です。

 でもカウンセラーとしては思いっきり恋愛感情を持って行動してる時点で失格というね……共感・理解は大事で、寄り添うのも大事だけど、感情移入とか恋愛感情を向けるとかはしちゃだめなんで。その辺の匙加減は難しいですね(カウンセラー目指す人は反面教師にしないとダメです、じゃないと患者さん依存してしまうので)

 ちなみにユイの寄り添いは姉+MHCPカウンセラーなんで自重させるつもりはありません。むしろ依存というか、甘える行動ばっちこい状態なので、喜々として構うでしょうね。

 まぁ、お姉さんやってるユイの作品は少ないですし、偶にはこんなユイが居てもいいでしょう。溢れかえったら困るけども(汗)

 さて、今話はキリトに関する事と、《ホロウ・エリア》の闇について触れました。思いっきり伏線です。

 ゲームやってる方、ないし察しの良い方は気付いた事でしょう。ユイが何を危惧しているのか。そしてユイが察している《ホロウ・エリア》とはいったいどういうところなのか。割と分かりやすくしてるので、分からなかったらPoHが出て来てからの文を読み返したら多分気付きます。

 本作のPoHはリズとキリトが邂逅した時点で、キリトによって殺害されているので……キリトにとって《ホロウ・エリア》は……つまりはそういう事。

 さらっと脳波上書きとかとんでもない事をしていますが、それも既に臨床試験データがあったから。でも某妖精王(笑)さんのデータじゃないよ! メメタァな事を言うなら主な参考は『とある』だから!(笑)

 PoHについてはかなり書き方に悩みました。原作の《笑う棺桶》結成は『日本人同士の殺し合いを見たかった』という理由ですが、本作では『現実へ帰る為に攻略組へちょっかい掛ける莫迦を押さえるため』という完全に真逆の思考となっています。確か原作だとクリアさせるつもりが無かった感じの文がありましたので、それでも真逆ですね。

 キリトが幼いのに強い故に、成長してもっと強くなる未来で殺し合える事を願ってその思考になっていると納得して下されば幸いです。

 PoHの、キリトへの理解が半端では無いのは、PoHなりの愛情(白目)という事で。原作でもPoHは原作キリトに歪んだ信頼と愛を向けてましたし。SAOでの殺し愛担当枠ですね。

 つまり本作キリトの未来に安息は無いのだ(白目)

 なのでPoHは、展開によってはキリトの味方(尚、将来は敵)として振る舞う事もあるというネ。この時点で原作とも《HF》とも乖離を始めておりますなァ……(白目)

 では、次話にてお会いしましょう。


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