インフィニット・オンライン ~孤高の剣士~   作:黒ヶ谷・ユーリ・メリディエス

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 どうも、おはこんばんにちは、黒ヶ谷・ユーリ・メリディエスです。

 今話は前半アスナ視点、後半ユウキ視点。

 文字数は約二万二千。

 ではどうぞ。



第七十一章 ~【絶剣】の帰還・後編~

 ユウキが唐突な転移によって行方知れずとなってから、早くも五時間が経過した。

 いや、早かったと言ってもいいのか、私は判断に迷っている。強制発動する上にその原因も不明な転移が何時起こるかなんて誰に分かる筈も無く、対策なんて立てようも無いから悩むだけ時間の無駄だと判断し、先ほどまで二つのフルパーティー――合計十四人――で攻略をしていたから、そこまで長かった気はしない。

 とは言え、彼女が居なくなったというだけでもそれなりに苦労はあった。時間が過ぎ去るのが早いと感じる事に違和感を覚えているのは、恐らく精神的な疲労が普段の攻略に較べて大きめなのが原因だろう。

 彼女がいきなり居なくなった事には驚いたが、今となっては彼女が居なくなってしまった事――厳密には戦力の喪失と何時転移が起こるか分からない不安感――が最大の懸念事項。

 二つ名持ちだったり、ギルドリーダーやパーティーリーダーを普段から務めている私や団長、ディアベルさんやリンドさん達は比較的持ち直していた。内心どう思っているかまでは分からないけれど、少なくとも表面上、割り切って行動しているのは分かった。

 ただ、それで不安を完全に拭える筈も無く、各リーダーに率いられていた者達は誰もが不安を滲ませていた。士気が低迷しているのは些か見過ごせない問題である。何しろ気合が無ければ恐怖に負け、身は竦み、判断力と行動力を損ない、命を落とす危険性が高まってしまうのだ。

 それを理解しているから各リーダーはそれぞれ発破を掛けていたのだが、ここ最近のバグや騒動、仲間の喪失が度重なったせいで思うように士気は回復しない。まだ連繋が取れるだけマシと考えるしかないという状況には溜息しか出ない。

 それに、キリト君が居ない事も、見えない形ではあるがそれなりに影響が出ている。

 彼は普段から様々な事情があって攻略はソロで行っていた。その事情は《ビーター》としての立場もあるし、【黒の剣士】としての絶対性を揺るがせない意味もあるし、あるいは闘技場で得た腕輪装備の恩恵をフルに受ける為でもある。アレがレイドを許容する代物で良かったと第七十五層ボス戦で密かに思ったものである。

 ともあれ、ソロで今まで攻略を行っていた彼が欠けたのは、私達が攻略を行う上で大きな支障を来している。

 表面上、彼はソロだから普段からパーティーを組んでいる人達に迷惑を掛けるといった事態は無いが、事はそんな小さなものではない。何しろ完全に未知の最前線に赴くのは、第一層からここまで攻略を進めて来た私達もほぼ初めてだったからだ。

 第一層では、ベータ時代の情報が分かりやすく纏められた冊子をアルゴさんが製作し、それを道具屋に無料配布していた。その情報源にはキリト君を始めとする多くの元ベータテスターが居たという話だ。

 ちなみに、聞くところによると、何でも《鍛冶》や《裁縫》の素材関連はレインさん経由で情報を纏めていたらしい。最初期の頃から生産職を志しながらも積極的に《圏外》で活動していたのは彼女くらいなものだと、アルゴさんは食事中に話題の一つとして教えてくれた。

 陰ながら右も左も分からないニュービーを支援する人が居たお陰で、私やユウキ達のような初めてMMOをするようなゲーム初心者、ベータテストをしていないSAO初心者もどうにか生き抜いて来られたのだ。SAOの基本的な基礎知識について書かれた冊子を私達が読み込んでいる間に、元ベータテスター達が情報を集め、アルゴさんがそれを纏めて新たな冊子として配っていたから。

 そういう循環がこれまで延々と続けられてきた。未知の最前線の情報に関してはほぼ全部キリト君が単独で収集し、それをアルゴさんに伝える事で、かつての攻略組は対策を立て、パーティーのメンバーやビルドを厳選し、効率的にクエストを達成して経験値とコル、報酬を得る計画を立てて実行に移す。無論彼以外にも私達攻略組も情報を渡していたが、その二割が役に立っていれば良い方だろう。迷宮区のマッピングデータなど彼を出し抜いて渡せた事は一度も無い。

 故に、ベータ時代の知識や情報が役に立たなくなる前から――役に立たなくなってからは尚更――《圏外》の情報はキリト君が中心に、《圏内》の情報はアルゴさんが中心になって、これまでアルゴさん特製の攻略本は作成されて来たのだ。

 しかし、その片割れであるキリト君は、もう居ない。

 故に私達はこれ以降ずっと前人未踏という未知の最前線を進まなければならない。幾らこちらにゲームの大半の設定を担当し、プログラミングをした茅場晶彦こと団長が居て、あの騒動があったからこそ知識を貸してくれるようになったと言っても、未踏の地では何が起こるか分からない。モンスターが何処をどう徘徊しているかなどGMではない団長に把握出来る筈も無い。

 まぁ、団長の前知識を借りられる私達は、まだ完全に未知に挑み続けて来たキリト君より遥かに楽なのは間違いない。しかも彼がソロであったのに対し、こちらは十数人規模での攻略と情報収集だ。弱音なんて吐ける筈も無い。

 

 ――――だからこそ、私はキリト君の死をとても哀しく思う。

 

 それは共に今まで戦って来た戦友としてであり、小さな子供を愛しく想う――リーファちゃんに知られたら何と言われるか分からないが――姉としてであり、不謹慎な話だが《攻略組》の陣頭指揮を担う事がある立場として、私は彼の死を哀しく思っている。

 この第七十六層から――団長ですらサチさん達の話を聞いて初めて知った――Mobに積まれているAIの著明なアルゴリズムの変化。基本的に一体、稀に多くて二、三体で群れているのが普通なのに、この階層からは最低四体で群れているのが基本となっているその変化を実際に攻略に出て味わって、尚更彼の死を――厳密にはそれを引き起こした原因のキバオウを――恨めしく思った。

 彼は《月夜の黒猫団》の一件があって以来、それまでも念入りに確認をしていたトラップの解除作業を異常なまでの執念を燃やして行って来た。

 私がそれを《異常》と言ったのは、とあるトラップに対する対処が常軌を逸したものだったからだ。

 《月夜の黒猫団》のメンバーはサチさんを含めて全部で五名。リーダーである両手棍使いケイタ、小学校以来の親友らしい副リーダー的立場だった片手棍と盾使いテツオ、ダガー使いのダッカー、長槍使いのササマル、そして長槍使いのサチさん。

 この内、トラップで死亡したのはテツオ、ダッカー、ササマルの三名。

 彼らが死んだのは隠し部屋にあった宝箱に仕掛けられていた二種類のトラップが原因だ。《結晶無効化空間化トラップ》と《モンスターポッピングトラップ》の二種類。

 これらは即時回復効果を持つ結晶が使えない事と、普通にフィールドやダンジョンを徘徊するモンスターより数レベル上の個体が狭い部屋の中で無秩序にポップする事が、死亡確率を飛躍的に高めている。より厳密に言えば、回復が間に合わなくなる事と、一方向にしか対処出来ないのに全方位を囲まれる事が主な死亡原因だ。

 どれだけ装備を整えていようが、安全マージンも取っていようが、キリト君と私達のレベル差のように大き過ぎる差が無ければ基本的にこのトラップに引っ掛かれば死ぬ。無論、キリト君も首を胴体から切り離されるように攻撃を受ければ、どれだけレベルが高かろうと即死判定で死亡する。

 つまり基本ソロである彼は絶対にその二つのトラップを踏んではならない。パーティーですら死ぬのだ、ソロなど死亡確率は九割を余裕で上回るのは想像に難くない。

 しかし彼はあろう事か、件の事件があって以降、それまでは場所の把握に留めていたにも拘わらず、自らトラップを発動させて実力で解除し、以降数日は安全にそこを通れるようにするという行動を取り始めたのである。

 それをアルゴさんが知った時、それはもう《ビーター》宣言の真相を知った時以上に怒髪天を衝く勢いで怒鳴ったと言うが、その時の彼は心を病んでいた為に改善される事は無く、以降ずっとそれが続いていた。その時からレベリングも兼ねてとか言っていて、これはもうダメだと、クラインさんとアルゴさん、エギルさんは諦めの境地に至っていたという。無論その行いは頻度こそ控え目になったものの、三日前に高所落下で死亡するまで続いていた。

 なお、彼のレベルが半端なく高いのは、経験値ブーストのバフが掛かっている指輪を第五十層の圏内クエストで入手し、以降もポッピングトラップを踏み続けた結果だと、アルゴさんから教えてもらった。彼のレベルが異様に高い理由はソロをずっと続けているからだけかと思っていたが、そういう訳ではなかったらしい。

 ともあれ、そういう経緯があるキリト君は、必然的に一対多の戦いにこなれている。恐らくだが、SAOはおろか、リーファちゃんがプレイしていたALOというゲームを含めても、全方位を囲まれた状況に遭遇且つ生還した回数はダントツでトップを爆走しているだろう。

 そんな彼が居れば私や団長といった彼の事を特に嫌悪していない面々はこぞって対集団戦のノウハウを教わりに行っていた筈だ。あるいはアルゴさん経由で攻略本にその情報が載っていて、偶然出会った時に話し合って理解を深めていただろう。

 それが出来なくなったのは思ったよりも大きい。

 何しろ私達《攻略組》は、ボス級MobやNMは勿論の事、フィールドやダンジョンを徘徊している一体のモンスター相手に複数人で挑むのが常だったのだ、多対一には慣れていても、その逆の一対多に馴れている筈が無い。オレンジやレッドなら多対多に馴れていただろうが、生憎《攻略組》で対人戦を行っているのはキリト君を除けばリンドさんやキバオウくらいなもの。彼を狙っていたのだから状況的には多対一で対Mob戦と同様なのでその経験も活かせない。

 多対多の経験と言えば、《笑う棺桶》掃討戦と【白の剣士】が起こした第七十五層での騒動だろう。

 とは言え前者はキリト君が殆どの幹部を相手してくれて、他の私達は複数人で《笑う棺桶》メンバー一人に当たる状況ばかりだったので、乱戦とは言えほぼ多対一だからあまり活かせない。無論後者も同様だ。

 こう考えると、対人戦一つ取ってもキリト君に頼り切りだったのだなぁと思ってしまう。

 彼の過去を知っている以上、何故対人戦に馴れているのか、一対多という絶対的不利な状況でも生き抜けるかは大体予想が付いている。恐らくPoHによって教えられた戦闘技術の他、人体実験をしてきたという攫われた先の研究所で叩き込まれたのだ。

 知識として刻まれたそれらをこのSAOで経験し、自分なりに理解し、技術と融合させた事で、彼は独学でも十二分に渡り合えてきたのだろう。

 彼の見解という偏りこそあれ、教科書通りの教え方ではなく実際に経験してものにしているそれは十分称えられる偉業だと私は思う。現に彼より遥かに年上のプレイヤーやMMOやRPGの経験が豊富な面子ですら、多対多の戦い方に頭を悩ませている。

 今日は取り敢えず多少攻略が進んだけれど、殆ど数とステータスに物を言わせたゴリ押し。少し変化球が来れば一気に崩れるのは目に見えているため、早急に対策を立てる必要があるのだが、全然その方策が浮かばない。

 まぁ、こればかりは経験しかないのだろうと、私は結論付けた。現にリアルでスポーツや武道なんて一切経験していない私も、デスゲーム開始からこれまでで名うての細剣使いへと成長したのだ。実際に経験してみて試行錯誤する事でしか、もう私達に残された道は無いだろう。

 ――――攻略から帰って来てすぐ開かれた《攻略組》幹部による議会は、その結論で終了となった。

 結局のところ、誰もが似たような状況且つ事態や問題点を把握している以上、この結論に至らざるを得ないのだ。無論今後の方針やパーティー編成、戦法について意見を出し合ったり、街の状態を把握出来るから、その議会は全くの無駄という訳では勿論無かったけれど。

 あまり悠長に事を構える訳にもいかないけれど、一朝一夕で習得出来る訳でも無い以上焦っても仕方ないので、出来るだけ攻略は急ぎつつ対集団戦のノウハウを学んでいく事で方針は決定。

 それでキリト君から自動的に――製作者と同等の見識を持っていた彼が異常だっただけだが――議長を務める事になった団長の声で解散となった。

 解散になってすぐ張り詰めた空気は弛緩。エギルさん特製のコーヒー風の飲み物が淹れられたカップを傾けたり、飲みに出掛ける話をしたり、あるいはアルゴさんと共に情報誌を纏めたりと、三々五々各々が好きなように動き出す。

 何時までも暗い気持ちで居たり、張り詰めていてもいい事が無いからこそ、オンオフをしっかり切り替えようというのが一番効果的だと誰もが理解しているのだ。

 その空気の緩みを感じながら、私も散歩がしたくなって席を立った。今日は攻略でずっと気を張って二パーティーの片方の指揮を執っていて精神的に疲れたので、リフレッシュしたい気分なのだ。

 夕食はもう少し後という事をエギルさんから聞いているので、それならその時間まで少し散歩して来よう、と考えた訳だ。

 その散歩も、実際はキリト君を止められる時に居ながら何も出来なかったと落ち込んでいるリズや、身代わりにさせてしまったと自責感に苛まれているリーファちゃん達の顔を見る為でもあった。

 

 

 

 だから、今正に店を出ようとした私の前で扉を開けたプレイヤーが、この一年半でとても見慣れた紫紺色の少女だったため、心の底から驚愕を抱く事になった。

 

 

 

 ***

 

「ユウキッ?! 生きてたの?!」

 

 リズベット武具店からリズ、シリカ、レイン、フィリア、リーファ、シノンの六人を伴って《攻略組》の本部扱いになっているエギルの店を訪れたボクを出迎えた第一声は、そんなアスナの驚愕に満ちた言葉だった。

 丁度この宿から出ようとしていたらしく出入口にほど近かった彼女の向こう側へと視線をやれば、ついさっきまで会議を行っていたのか、円卓の周囲には《血盟騎士団》の団長ヒースクリフさんの他、《聖竜連合》や《アインクラッド解放軍》のリーダーと副リーダー、《風林火山》の姿も見える。

 姉ちゃんとサチの姿が見えないのは恐らく上に居るからだろうと思われたため、特に疑問は無い。居たらむしろ不安を煽る。

 そんな《攻略組》の幹部とも言える面々は、大小の差はあれどボクの顔を見て誰もがホッとした安堵の、あるいは驚愕した面持ちを見せる。ヒースクリフさんを始めとした年長者組は安堵を、アスナやクライン達は驚愕を見せている。

 

「……勝手に殺さないで……」

 

 アスナの再会直後の言葉を聞いて、思わずボクは溜息を吐きながらそう返した。

 此処に来る道中にもシリカから話は聞いていたからそれで驚くような事は無いけど、どうしても思うところがあるのは仕方がないだろう。勝手に死んだ事にされていたのだから。キリトの時のようなシステム的に絶対助からない状況だったならともかく、ボクの場合は強制転移で行方知れずとなっただけだ、流石に半日も経たない内に死亡説を唱えないで欲しいと思う。

 とは言え、それだけこの街の人達が、そして《攻略組》の不安が大きいという証左なので、責める事は出来ない。

 同時にあの転移ばかりは不可抗力なのでボクも責められる謂われは無い。

 まぁ、心配されていただけよかったと思うべきだろう。

 内心でそう自分を納得させていると、面食らって驚いていたアスナはふにゃりと表情を和らげ年長者達に遅れて安堵を見せ、次いで申し訳無さそうな面持ちを見せた。

 

「ご、ごめん……でも、ホントに良かったよ。ずっとメールを送っても返事が返って来ないからてっきりキリト君と同じで死んじゃったのかと……」

 

 ちなみにメールは恐らく送られていたのだろうけど、《ホロウ・エリア》に居る間は勿論、こちらに戻って来た時に纏めて送られて来た事も無かったので、送信失敗扱いで処理されていると思う。

 

「あー、それは多分メールが届かない場所に居たからかな……あ、それとキリト、生きてたよ」

 

 申し訳無さそうな顔で謝罪を、続けて微笑を浮かべて生存を喜んでくれているアスナに、そう端的に言う。途端彼女はピシリと固まって動かなくなった。

 

「……ユウキ? 今、何て言ったの?」

「だから、キリトが生きてたって」

「……それなら何処に居るの?」

 

 どこか張り付けたような固い微笑みを浮かべているアスナは、ボクの後ろに居る面子の中に黒尽くめの少年が居ないのを見て取って、こてんと小首を傾げて問うてくる。まるで『嘘を吐くのはやめなさい』と無言で叱り付けているような圧迫感があって少し怖かった。

 というか、笑っているようで目が笑っていないアスナの雰囲気は、少し怒気を纏った時の姉ちゃんにそっくりだ。

 とは言え全くもって嘘では無いので、ボクは都合のいい事に姉ちゃんとサチを除いてこの場に揃っている《攻略組》の幹部達に、レインとフィリアの事も含めて何があったかを語る事にした。

 三日前の転移、ボクの転移、その先にあった《ホロウ・エリア》の事やそこで起こった事。【ホロウ・エリア管理区】と呼ばれる不思議な場所で再会した、ユイちゃんとキリト二人の事を。エリュシオンを託された事も含め。

 

「――――これが、ボクが知り得る限りの事だよ」

 

 およそ二十分を掛けて、《ホロウ・エリア》と呼ばれる場所であった事を語ったボクは、そう締め括る。

 暫く屋内は静まり返っていた。誰もが信じられない、あるいは突拍子の無い話を受け容れるのに少しばかり時間が掛かっていて、どう反応すればいいか迷っている様子を見せている。

 まぁ、それも仕方ないだろうとボクも思う。何せ本人達から直接話を聞いたボクも同じだったのだから。

 流石に開発総責任者だった茅場晶彦ことヒースクリフさんは反応が薄かったが、ユイちゃんが実は人の精神的なものに起因するトラブルに対処する為に作られたMHCPという人工知能である事は彼女と触れ合った全員に驚愕を与えたし、確実に死んだと思われていたキリトがまさかボクやレイン達と同じように偶然にも転移によって生き延びていただなんて予想外にも程がある。あまりにも出来過ぎた話だ。

 とは言え、キリトと結んだままのフレンドリストが生存状態を示したままだったり、《黒鉄宮》にある《生命の碑》の名前に横線が引かれなかったりした事も、これで漸く合点がいった。要は本当に最初から死んでいなかったから生存状態を示していたのだ。ただ彼の居る場所が、ボク達の手が届かない場所だっただけで。

 

「ふむ……まさか、《ホロウ・エリア》が解放されていたとはな……」

 

 驚愕の事実の連続に誰もが口を閉ざす中、最初に言葉を発したのはある意味で最も驚愕し、しかし既知であったが為に衝撃そのものは少なめだったヒースクリフさんだった。

 彼は卓上に置かれているコーヒーによく似た飲み物が淹れられたカップに視線を落としたまま、何かを考え込んでいる様子だった。デスゲームという異常事態こそ完全に管轄外の出来事だが、この世界のプログラミングを行っていた者の一人であるからこそ《ホロウ・エリア》の存在やユイちゃんの正体について詳しい男性は、ボク達では分からない何かを考えているらしい。

 

「ヒースクリフの旦那、その《ホロウ・エリア》ってのは実際どういう所だったんダ? ユイちゃんから聞いたっていう話では大規模試験場っていう話みたいだケド」

「凡そは彼女が語った事で合っている。あそこはサービス開始前、《アーガス》で雇用していたテスター達がクローズドアルファテスト、オープンベータテストに実装するアイテムやモンスターのデータ試験を行っていた場所であり、本サービス開始後は後に行うアップデートで追加する装備やシステムのデータ取りを行う場所だったのだ……とは言え、この《アインクラッド》から行く方法は設定していなかったのだがね……」

 

 アルゴの問いに、男性はスラスラと答えた。ユイちゃんから大まかには訊いていたが大体そんな認識で良いらしい、要はあそこは巨大なテスト場という訳だ。

 ただヒースクリフさんでも分からないのは、やはりその《ホロウ・エリア》とこの《アインクラッド》が行き来できるようになってしまった事。ユイちゃんも原因不明と言っていたから本当に分からないのだろう。

 このデスゲームが開始してから一度も人の手が入っていないこの《ソードアート・オンライン》のサーバーには、《アインクラッド》の他にも幾つかのエリアが存在しているという。《ホロウ・エリア》もその一つで、試験区域と呼称されていたらしい。

 他にも秘匿領域区域とか、【カーディナル・システム】の自律機能を十全に用いた完全オリジナルのマップも存在するというが、デスゲーム開始と同時に永久にその道は全て閉ざされている筈らしかった。

 元々スタッフ側が操作を行わなければ行けないエリアなようで、《アインクラッド》を舞台にしたSAOからは本来行けないから、GMではないヒースクリフさんも閉ざされている筈だと憶測でも語れたようだった。

 

「なるほど……《ホロウ・エリア》への経路だけど、ユイちゃんはキリトの前から消滅した後ずっと【ホロウ・エリア管理区】に居たって言ってたから、多分その時点で経路は出来てたと思う」

「ふむ…………三日前に開いたばかりであれば、キリト君と【白の剣士】の戦いの最中に起こったバグが原因とも考えられるのだが、その線は薄そうだな……」

 

 黒と白の剣士が第七十五層フロアボス部屋にて繰り広げた死闘の最中に発生した、あのキリトの《ヴォーパル・ストライク》が中断される原因ともなった現象によって、《ホロウ・エリア》への道が開かれたとヒースクリフさんは推察していたらしかった。

 しかしそれだとユイちゃんが既に行っていた事に説明が付かない。

 仮にその推察が正しかったとしたら、ユイちゃんは閉ざされた道を越えて【ホロウ・エリア管理区】へ辿り着いたという事になる。

 【カーディナル・システム】が何者かの命令故に道を閉ざしていたとは言え、それでもシステムが閉ざしていたのだ、そんな矛盾にも等しい事を行う筈が無い。システムは絶対に矛盾を起こさない。だからその推察は絶対に正解では無い。

 つまり、あの二人の死闘よりも前、ユイちゃんが消滅した日よりも更に前から《ホロウ・エリア》との道は開いていたという事になる。

 流石にそうなると何時開いたか分からない。期間が長過ぎる上にこれといって分かりやすい目印とか兆候とかも無いのだ。

 

「なぁ、ふと思ったんだけどよ」

 

 何時開いたのだろうと悩んでいると、カウンターで倉庫の整理や人数分の飲み物の用意を再度行っていたエギルが、何か思い付いた風な口調でそう話に入って来た。全員がそちらに視線を向ける。

 エギルは手許のウィンドウから顔を上げてこちらを見て来た。

 

「リーファやシノンが来た時に開いた可能性ってのは考えられないか。あの二人も本来なら来る筈の無かった面子だろ」

 

 そう、可能性としてとてもあり得る二人の名前を上げて来た。

 リーファは今からおよそ一ヶ月前にSAOへ何故か入って来たALOプレイヤーだし、シノンも《メディキュボイド》三号機を用いてニュートラルフィールドにダイブした筈が【カーディナル・システム】の誤認によって巻き込まれたプレイヤー。バグと言うにはあまりにも十分過ぎる経歴を持っている二人だ。

 確かに、その二人が入って来た時期ならユイちゃんが消滅した日よりも前だから、辻褄が合う。

 

「……もしかしたら、リーファっちが入って来た日かもしれねェな」

 

 エギルの意見に納得していると、ふと腕を組んで難しい顔をしていたクラインがそう言った。

 

「クラインさん、どうしてそう思うんですか?」

「いや、ちょっと引っ掛かってる事があってな……多分皆もそうだろうが、あのアキトの事でちょっと思ったんだよ」

 

 あの神童がどうかしたのだろうか、とボクは首を傾げた。確かにリーファと同時期にこちらへ来てしまったという話だが、それとどう関係するのか分からなかった。

 クラインによれば、恐らくアキトがこっちにやって来た時期に《ホロウ・エリア》との道が開けたのではという事らしい。何故かと言えば、アキトのあの明らかにおかしな実力や白剣ホロウ・エリュシデータについて考えるとそれが一番しっくり来るから、という話だった。

 

「さっきユウキ達の話にあったけどよ、《ホロウ・エリア》って所にいるモンスターのレベルは普通に三桁行くんだろ? こっちのモンスターのレベルは最前線でも高くて精々が八〇前半、あン時にキリトじゃねェキリトも言ってたが、一ヶ月でキリトに追い付くなんざ普通無理だ――――けどあっちは平均一〇〇を余裕で超える。その《ホロウ・エリア》ってとこなら、アイツがSAOに来て一ヶ月しか経ってなくても十分キリトに追い付けるくれェの経験値を得られるんじゃねェかって思ってな」

 

 紅い侍の予想は、断定こそ出来ないものの高い確率で当たっている気がした。

 実際誰もがそれについて疑問を覚えていた。キリトもそうだし、あのキリトの別人格も疑問をぶつけていた。一日に三つレベルを上げるにしても一ヶ月では九十上げるのが限度、それも高レベルになるにつれて上がる速度は遅くなる。最前線で誰にも見られず、それだけのオーバーワークをこなせる筈も無い。原理的にも時間的にも不可能な話なのだ。

 だが、《ホロウ・エリア》でレベリングをしていたというなら話が変わって来る。

 このSAOの取得経験値量は、最低入手出来る基本経験値にレベル差によるボーナスが加算されて手に入る。パーティーを組んでいればその値を、ヘイトを集めた時間や与ダメージ量、味方との連携・支援行動の量に応じて分散されるシステムになっている。

 仮に神童のレベルを三〇として、敵のレベルを一〇〇とすれば、レベル差によるボーナスはとんでもない事になる。一体倒すだけでも五つ上がったっておかしくはないだろう。

 問題はどうやって倒したかだが、それも少し工夫を凝らせば案外何とかなる。

 例えば、高い場所からMobを落としても、プレイヤーと同様に高さに応じた落下ダメージを与えられる。強力なネームドMobやフィールドボスとの戦いでは稀にこの高所落下ダメージによるアドバンテージを採用したりする。そういう場所は大体起伏があってプレイヤーの不利ばかり見られがちだが、逆に崖から落として敵に大ダメージを与えたりも出来るため、その辺を考慮すれば一長一短と言えよう。

 それでも決め手にはならない。

 次に浮かぶのが状態異常。部位欠損によるステータスや攻撃手段の減耗、ダメージ毒によるHP減少、麻痺毒による行動不可などだ。

 状態異常はネームド、フィールドボス、フロアボスとグレードが上がるにつれて効き辛くなり、蠍などには毒と麻痺毒が効かないなど種族によって完全無効化もあり得るが、フィールドをうろついているMobには種族耐性を除けば基本的に有効打となり得る。ダメージ毒を定期的に掛け、あとは他のMobとリンクしないよう警戒しながら付かず離れずの距離を保っていれば、何れ倒れるという訳だ。

 あとは神経を凄まじく擦り減らす事になるが、正攻法で真っ向から一対一の戦いを挑む事か。

 相手がゴーレムやドラゴンといった表面が硬い相手でなければ、ダメージを与えた時の武器の耐久値はそこまで減少しない。武器にも適正レベルがあるのは、攻撃回数と耐久値のバランスも含まれているからだ。

 とは言え低レベルで装備している武器でレベル一〇〇のモンスターのHPを全損させるとなると、本当に気が長くなる話な上に、下手すれば一撃死もあり得るから精神的に非常によろしくない。敏捷値の差ですぐ追い付かれるだろうから距離も取れないだろう。これは最早愚策と言っても過言では無い。

 ……そう考えると、キリトや豹変したキリトが叩き出したあの速度ってどういう事なのだろうかと思わないでもない。もしかして今まで見て来た彼の速度は全く全力では無かったという事なのだろうか。

 そういえば、デュエルの時もアレに近い速度を彼は出していたし……案外全力では無かったのかもしれない。

 誰かを殺す時だけ全力を出せるとかいう理由じゃない事を願うばかりである。

 ともあれ、今挙げたこれらは一つ一つは決定打とならないが、しかし全て組み合わせたとすれば、十分雑魚Mobを倒して経験値を得られると思う。あとはそれを繰り返していれば良いだけだ。

 

「確かにクラインの言う通り《ホロウ・エリア》でレベリングしていたなら、あの強さも納得がいくよ……でも、そうなるとあの《ⅩⅢ》とかホロウ・エリュシデータはどこから入手したんだろう。というかそもそもどうしてリズの店で剣を購入していったのかっていう話だけど」

 

 レベリングに関してはある程度予想が付いたけど、次に疑問となるのはあの神童の武具に関して。

 特に武器だ。

 神童が使っていた武器はリズの店で購入したアルジェントブレードでは無く、白くリペイントされたホロウ・エリュシデータに、何故か持っていたキリトと同じ《ⅩⅢ》。前者も分からないが、一番分からないのは後者。アレは闘技場《個人戦》を死に物狂い突破したキリトが手にした無形の召喚型武器、死闘の最中に出した武器を見るにほぼ同一のように思えるが、《ホロウ・エリア》にもあるとはちょっと考え難かった。

 仮にだ。ユイちゃんが言っていた《ホロウ・エリア》の役割の一つである《アインクラッド》のデバックやアップデートの為のデータ集積の過程で、《ⅩⅢ》があちらでも作られていたのだとすれば、一応納得はいく。序盤ではレアだったりユニークアイテムだったりした代物が終盤ではボロボロ手に入るなどゲームではザラにあるし。

 それでも早過ぎると思うのだ。

 ホロウ・エリュシデータはまだ分かる。元のエリュシデータは第五十層LA、アレをキリトが手に入れてから早くも半年以上経っているのだからレプリカ品――この場合はホロウ品――が作られていたとしても、まだ分からなくはない。ダークリパルサーも然り。

 ただ《ⅩⅢ》だけは納得がいかない。アレは確かにこのSAOに於いてもかなり異質な代物だが、闘技場でキリトが手に入れてから生成されるまでが短過ぎる。

 《ホロウ・エリア》はデータを集積する役割を持つが、アイテムなどの実装や追加に関しては必ずデータ検証を行うと聞いているから、もっと時間を掛けていなければおかしい。特にアレは使用者のイメージというかなり曖昧なものを頼りに武器を召喚して思いのままに動かす代物、それこそ膨大なデータ取りが必要な筈だ。

 ひょっとしたら、神童がそれだけを狙ってアップデートしたのかもしれないけど……

 

「……まぁ、もう死んでるんだし、良いんじゃないかしら」

 

 ボクの疑問に対し、暫く悩んでいたシノンがそう言った。確かにもう神童は《アインクラッド》から退場しているのだから考えるだけ無駄だろう。

 

「そうだね。それにあの《ⅩⅢ》、仮に手に入っても持て余しそうだし」

「「「「「確かに」」」」」

 

 シノンの言葉に同意するように言えば、この場に集っている全員が同時に頷いた。

 あの《ⅩⅢ》はとても便利で汎用性の高い武器だと思うが、見た目以上に扱いが難しい代物だから手に入れたとしても碌に扱えない気がする。事実キリトも手に入れた直後はかなり制限されていた。何故か死神ボスとの戦闘の途中から、当時登録されていた武器全てを一気に扱ってたが。

 思えば、あの時に『俺達』って言っていた事から、キリトは別人格の存在を認識出来ていたのかもしれない。アバターを動かすのはキリト、《ⅩⅢ》に登録された武器を操るのが別人格という風に分担していたのだとすれば、『俺達』と複数形で言っていた事にも辻褄が合う。

 その割にはあの死神ボスとの戦い以降あの時の凄まじい戦いぶりは鳴りを潜めている。

 もしかしたら別人格が戦いに手を貸すのは何かしら条件があるのかもしれない。実際、第七十五層フロアボスでの神童との死闘で表に出て来た時、それらしい事を口にしていた。『あんまり表に出たらいけない』とか何とか。その後には《獣》に関して言っていたし、抑えられなくなるっていう言葉から察するに普段はキリトの負の感情を抑えている立場なのかもしれない。

 狂暴な印象があり、憎悪とか復讐心とか口にしていたあのキリトの別人格も、もしかしたら誰かを護る為という時に限定してキリトに力を貸すのだろうか?

 だとすれば、狂暴だとしても随分とまぁ、『らしい』と思えてしまう。攻撃性が増しただけで戦う理由が変わらなければ一気に恐ろしさが薄れるのは不思議だ。

 ……まぁ、神童相手に最初に見せていた、あのキリトの無表情だけは何にも勝る恐怖だったけど。アレだけはもう二度と見たくないと思える。アレを見るくらいなら、別人格のキリトと対面した方が万倍マシだ。

 

 

 

 大好きな異性の殺意に塗れた顔なんて、もう見たくない。

 

 

 

「――――そういえば、少し気になったのだが」

 

 そう話していると、ふと何かを思い出したようにヒースクリフさんが口を開き、ボクを見て来た。

 

「キリト君の様子はどうだったのだ? 実の兄を自らの手で葬った直後、立て続けに事が起こった訳だが……」

「あ、それあたしも気になります。こっちに帰って来たくないっていうのは聞きましたけど、様子までは知らないから……」

「俺も気になるな。クリスマスの時の事もあるし……どうだったんだ?」

 

 ヒースクリフさんの問いを皮切りに、リーファとクラインが続けて問い掛けて来た。

 リーファは義理の姉として心配で、身代わりにさせてしまった罪悪感からだろう。クラインはこの正式版SAOが始まって最初に知り合った仲で、弟のように大切に想っているから心配なのだと分かる。

 皆の視線を浴びて、キリトの様子を思い浮かべて少し気分が沈みながらも、ボクは口を開いた。

 

「……今のキリト、下手したらクリスマスの時よりヤバいよ」

「…………それは、本当かね」

「クリスマスの時に会った人なら分かるだろうけど……眼がさ、光を反射してなかったのに、口だけ笑ってたんだ。正直完全に表情が抜け落ちてたあの時よりもゾッとしたよ……」

「「「「「……」」」」」

 

 クリスマスイベントで蘇生アイテムを求めている時、キリトは完全に異常なレベリングをぶっ続けで行っていた。

 それは《月夜の黒猫団》の壊滅、リーダーであるケイタの呪詛と自殺、サチが独りになってしまった原因が自分にあるとずっと責めていたからだ。

 ――――自分が悪いのだ。

 ――――自分が関わったからサチは苦しんだんだ。

 ――――ケイタが自分を呪うのは必然だ。

 ずっとその思考に囚われ続けていて、休む事無く延々と目的を遂行する為の作業を繰り返していた。食事も睡眠も、休息すらも自戒してそれを続けていたキリトの心は、半ば死んでいたも同然。感情もほぼほぼ負の方面に傾いていて、蘇生アイテムが求めたもので無かったと知った時の彼は完全に表情が抜け落ちていた。

 あの時はサチが早急に寄り添い、一時的ではあるが、独りになった事はキリトが悪い訳ではないと赦しを与えたからこそ、彼はある程度回復した。

 しかし今はどうか。

 ユイちゃんが寄り添っていると言えど、彼女はリーファ達の件とは完全に無関係の第三者、キリトの罪悪感を和らげる事は不可能な立場にある。

 そしてリーファとシノンは、女性として屈辱的なものを数時間に渡って味わわされた。七十六層に転移して来た彼女達を見つけた時、二人の装備は何時もの緑衣では無く質素なローブ一枚で下着すらも着けていない状態だったから、鈍感と言えども聡明なキリトの事だ、何があったかくらいは察しただろう。

 キバオウ達の目的は、キリトを誘き出して確実に殺す事。

 あの二人はその餌にされた。凌辱されたのはそのついでだが、キバオウ達が誘拐した理由はキリトを誘き出す餌にするためだったのだ。恐らく彼はそれを深く責めている。

 

 ――――いや、多分それだけじゃないな……

 

 リーファ達を助けに行く直前に会話したリズから聞いた話で、その時点でキリトはかなり弱っていた事は分かっている。

 完全な推測になるが、恐らくキリトが自身を責めている理由の内には『実の兄を殺した』という事実に対する罪悪感、ともすれば後悔も含まれている。時系列的にリーファ達が攫われ、凌辱された事を知る前だから、ヒースクリフさんが口にしたように弱り果てて泣く原因としてはそれくらいしか思い浮かばない。

 結構敵対者には容赦が無いキリトは、割と自分の命を狙う輩には甘い側面がある。これは彼の別人格も口にしていた。

 反面、自分以外の他者、特に彼が大切に想っている人を傷付けられたら神童とのデュエルの時のように静かではあるが烈火の如く怒り狂う、場合によっては殺す事も躊躇なく選択する。

 これは神童との第二十二層でのデュエルと第七十五層ボス部屋での死闘とを対比すれば分かるだろう。前者では神童はキリトのみを殺そうとしていたが、後者では第二レイドを殺し、第一レイドも殺そうとしていた。だからキリトも前者では純粋に強者へ挑むつもりで同じスタイルを選んでいて、後者では形振り構わず――それでも卑怯な手はボクからすれば使わず――全力で殺しに掛かっていた。

 キリトの行動は、彼の別人格が言っていたように、ボク達が彼に向ける言動や感情をそのまま映して返す『鏡』なのだ。

 

 と言っても、キリトは完全に矛盾無き機械では無い。人間である以上、必ずどこかに誤りはあり、綻びがある。

 

 彼の場合、その綻びが神童との関係性だった。

 自身を迫害していて、殺しに来ていて、当時はアルゴも殺されたと思っていた彼は怒りと憎悪に身を焦がしていたのに、神童が口にした《織斑一夏》としての関係性が刃を、彼の心を鈍らせた。殺しに来たならやられる前に殺らなければならない、既に捨てられているのだから兄弟の関係なんてあって無いに等しい形だけのもの。

 それでもキリトは、刃を鈍らせてしまった。敵対者に容赦が無い彼が刃を鈍らせたそれは、別人格の言葉を借りればとても『甘い』と言える。まぁ、億が一にも無いと確信しているが、仮にボクが同じ立場にあっても同じ反応をしただろう。

 ともかく、その甘さはキリトの『鏡』映しの外にある例外だ。

 それが今、彼の心を苛んでいる。既に関係なんて切れているも同然とは言え、それでも神童は自身の実の兄。血縁上の関係でも八年というキリトにとって人生の殆どを共に生きた者を殺して何も感じないほど彼は冷酷では無いし、非情にもなり切れない。

 仮に冷酷無比な人格だったなら、自ら憎まれ役《ビーター》を請け負ったりしないだろう。《月夜の黒猫団》の頼みなんて断って自分の事を優先しただろうし、リーダーケイタを含めて壊滅した事も自己責任と言っていただろう。まぁ、壊滅に関しては自分も自業自得だと思うが。

 コーバッツの事も普通に見捨てていただろう。彼らを助ける為に自分が命を危ぶめる必要性は無いと、合理的に考えて。

 けれどキリトはその全てを背負って来た。幾分か彼に非があるものもあるが、それでも殆どは彼の『助けたい』という思惑の真反対の行動を起こした人のせいで起こった悲劇。無関係では無いが、しかし全て彼の責任という訳では無い。

 神童に関しても同じ。

 ステータスは分からないが、素のスペックで劣っていなくて、且つキリトがもう少し弱くて打ちのめされていたら、彼の代わりにボクや怒りに打ち震えた他の《攻略組》が刃を交えていた筈だ。現にボクは神童を殺すつもりで剣を抜いていたし、殺せる場面があれば容赦なく首を斬り落としていた。

 確かに、人を殺す事は許されない悪だろう。人が人を捌くなんて傲慢の極み。罪の一言に尽きる。恐怖され、侮蔑され、軽蔑され、拒絶されて当然の悪の所業。

 けれど、決してそれは絶対悪では無い。

 意味無き殺戮、悦びの為の殺しでは無く、必要だったから出た犠牲。必要だから犠牲を出しても良いという訳では無いが、何よりも優先すべき事だからこそ実行に移すそれを、人は必要悪と呼ぶ。あるいは、正義と言う人も居るだろう。

 キリトのこれまでの行動は、正に正義であり、同時に悪でもあった。【黒の剣士】という希望を背負った正義と、《ビーター》という卑怯の体現者として疎まれる悪としての二面性。それは人間誰もが持つ善と悪の二面性と同じなのだ。

 しかし、神童の行動には、悪しか見えなかった。よしんば正義があったとしても、それは【黒の剣士】のような周囲の共感を得られるものでは無く、自分よがりな自己満足で終わる正義だっただろう。周囲に共感を得られない、つまり必要とされないそれを、人は絶対悪と呼ぶのだ。

 だからこそボクは人を殺す事に忌避感は覚えているし出来るだけしたくは無いけれど、神童を殺す覚悟を決めて剣を抜いたのだ。仮にボクの手であの男を殺していても、人殺しを犯した罪の意識に苛まれこそすれ、神童という特定の個人を殺めた事に関して良心の呵責は無かったと断言出来る。

 まぁ、流石にキリトの対応によっては罪悪感もあっただろうが、それもほんの僅かなものだったと思う。

 だが、それはあくまで《紺野木綿季》という、《織斑秋十》とは何ら関係無い赤の他人だからこそ割り切れている事。この世界で初めて会った時から出来た関係で、既に敵対しているも同然だったから情なんて湧く筈が無い。だからドライな思考を保てている。

 けれどキリトはそうもいかない。何しろ八年間同じ家で過ごし、家事をこなし、生きて来た関係がある。

 八年は、人間の寿命からすればほんの少しの間でしかないけれど、でも十歳のキリトにとっては人生の殆どの時間だ。物心が出来ただろう三歳の頃から数えても五年。情が湧くには十分過ぎる。なまじ人の面倒をよく見る世話焼きな性格だ、甘さがあったとしてもおかしくない。

 今のキリトはその甘さが原因で苦しんでいるのだ。それも、その原因は自らの手で兄を殺した事。

 恐らくその意識は今後無くなる事は無いだろうし、クリアと共に生還したなら薄れはするだろうが、全損者は死亡という条件になっていれば絶望するのは間違いない。人伝てに聞いた話でしか知らないけれどとても酷く迫害されていたのに、それでも家族としての情を捨てられていないキリトの甘さは底無しだ。

 

 ――――嗚呼、いっそ、何もかもを憎悪していたなら苦しまずに済んだだろうに。

 

 自分はそう同情してしまっている。難儀な性格をしていると、苦しむ必要が無い事に苦しんでいると。

 それらはキリトの想いを、家族として未だ甘さを持っている情を貶す言葉だから決して本人には言わないけれど、同情は止められなかった。

 

「「「「「……」」」」」

 

 キリトの状態を簡単にでも知った皆――特にクリスマスでの状態を見た事がある人――は、眉根を寄せて険しい面持ちで黙り込んだ。なまじあの時の彼を知っているだけに、アレより酷い状態を想像するのは辛いのだ。

 

「なぁ、今すぐに行くってのはダメなのか?」

 

 そんな状態のキリトを放っておけないからか、クラインがそう問い掛けて来た。さっき話をした際に紋様が浮かんだボクが一緒じゃないと多分行けないという話を推察とは言え話しているから、ボクの協力を得ようと考えたのだろう。

 ボクはその問いに、頭を振った。

 

「悪いけど、今すぐにキリトとユイちゃんの許へ行くのはダメだよ」

「……何でだ?」

 

 どうやら考えとしては浮かんでいたようで、釘を刺された事に苛立ちを見せながらも、理性的その意図を問うて来た。特に理由が無ければ押し切ってでも会いに行きそうな雰囲気だ。

 仮にキリトの事で控えておいた方が良いという理由だったなら押し切られていただろうけど、幸い理由は全く別だ。

 

「今この《アークソフィア》の転移門は、帰りはともかく行きでは役に立たないんだ。転移結晶で行くのは現状悪手だし、かと言ってこんな人通りが絶えてない時間に転移門を使って《ホロウ・エリア》に行ったら、バグでアクティベートデータが消えてる現状と矛盾するでしょ?」

「それは、確かに……」

 

 普通なら転移門も使えるのだけど、三日前のシステム障害からずっと転移門は転移結晶を用いた帰還か他の階層からの来訪者にしか使えず、転移門側からどこかへ転移するのは原則不可能。

 転移門から転移で移動したのを《ホロウ・エリア》について知らないプレイヤーに見られると、面倒な騒ぎに発展する恐れがある。

 一般プレイヤーには第七十五層であった事は勿論、黒幕と勘違いされている茅場晶彦が実はヒースクリフさんだなんて知らされていないし、ユイちゃんの事もAIだとかMHCPだとか話す訳にはいかない内容ばかり。そんな中で《ホロウ・エリア》について説明出来るのは明らかにおかしい話なのだ。

 だから今の時間、転移門を使って移動するのは出来ないのである。

 

「出来るだけ人目に触れない為に、転移門を使うのは日が暮れた夜半にした方が良いと思うんだ」

「ユウキ君の言う通りそうした方が面倒は少ないだろう……では、午後八時くらいになったら《ホロウ・エリア》へ行くという事でどうかね? それくらいになればこの街に来ているプレイヤー達もパブリックスペースや宿の方に引き上げて人目もほぼ無くなるだろう」

 

 ボクの言葉に同意する形で続けたヒースクリフさんが、周囲に同意を求めるように言った。それに否やは無く、八時になったらあちらへもう一度行く事になる。

 誰もが物凄く心配で仕方ないという顔をしているけど、それでも『すぐに会いに行こう』とか、そういう意見が出ないのはユイちゃんが一緒に居るからだろう。

 彼女はキリトを、とにかく休ませなければならないと言っていた。ずっと戦って来たのだから、心が疲れているのだからと。キリト専任のカウンセラーとして、同時に姉として寄り添っている彼女の存在が在るからこそ、今すぐ対処しなければと焦っている人はほぼ居なかった。

 あるいは、会いに行っても今のキリトをどうにかする事は出来ないのではと、そう悟っているからかもしれない。

 ともあれ今すぐには行けないという結論になったので、その時間が来るまでは夕食を摂ったり話したりと好き好きにする事になった。

 リーファ達には、絶対宿から出ないようにと諸々の注意点をリズやアスナが教え込んでいる。夜中に襲われてまた犯されたりしたら敵わないと思ったのだろう、二人は恐ろしく張り詰めた表情でアスナ達の注意に耳を傾けていた。

 一先ずリズやシリカ、リーファ達の精神はある程度持ち直したようで安心する。

 

「さて、この間にボクは姉ちゃんをどうにかしないとね……」

 

 正直出来れば逃げたい気持ちがあるのだけど、不可抗力とは言え泣かせてしまったのはボクだから宥めるのも自分の義務だ。

 元々気持ちに弱い部分がある姉ちゃんは、それを自信やボクと一緒に居る安心感、冷静な思考で先を見据える事で隠していたのだが、それでも根底は変わらない、むしろ第一層で怯えていた彼女を焚き付けて依存させてしまい悪化した。意図していなかったとしてもそれは完全に自分の責任だ。それが原因で泣き崩れたのであれば、ボクが行かなければダメだろう。

 

「……このままだと、姉妹関係が逆転しそうだなぁ……」

 

 《紺野木綿季》と《紺野藍子》は二卵性双生児であり、生まれた順番こそ姉ちゃんが先と言えど、誕生日が一緒の双子なのだからほぼ関係は無い。

 今の形に収まったのも彼女の方が精神的に落ち着いていたからという部分が大半を占めている。

 逆に言えば、ボクの方が落ち着いたなら姉と妹の関係が逆転する事も無い訳では無いのだ。流石に生まれてから十五年経った今から逆転するのは些か無理がある気がしなくもないけど、十分可能な話ではある。

 恋は女を変えると言うけど、先に慕情を自覚して精神的に成長したから逆転するとなれば、ちょっと微妙な気分になる。いや、何がとは具体的には分からないけど。

 でも、まぁ……

 

「キリトに、お姉ちゃんって言われてはみたいかなぁ……」

 

 宿部屋が並ぶ二階、三階へ上がる為の階段を上がりながら言葉を洩らす。

 今までずっと呼び捨てでユウキだったけど、リーファみたいに『ユウ姉』とかで呼ばれてみたい願望が密かにあったりする。

 キリトは家族になった人に限り渾名を付けるから、今のままだとちょっと望み薄だ。

 自分が結ばれたら凄く幸せになると思う。ただ、恋人――将来的には妻――になる相手に、果たして『姉』と付けるかは微妙だが。

 姉とキリトが結ばれた場合、姉妹関係が今のままでも逆転しても、キリトはボクより年下だから呼んでもらう事は出来る。それだけでも割かし幸せな気分になれるだろう。

 

「……決めた」

 

 そこまで考えて、ボクは密かに決意した。

 姉が泣き崩れているのは、自分に依存していたからでもあるが、キリトが居なくなった事も関係している。

 ボクが人の為に自分を犠牲に出来る精神性を持つ彼を信用し、信頼し、一緒に寝るくらい好きになっているのは、出逢う人の多くを信用し辛い性格の裏返し。他の人よりも凄く信用出来るからこそ、今まで内側に入れなかった反動が大きくなっている。

 同じ環境を生きて来た姉なら、多少好みが違うと言えど殆どボクと変わらないのは明白。それはアシュレイさんの店であったキリトの試着会での会話や反応を思い出せば明らか。ボクが居なくなって崩れたのはボクよりも先にキリトの支えを喪ったからなのだ。

 だからこそ、今回泣き崩れた姉を立ち直らせるなら、ボク以外の支えも必要。それは仲間であり、同時に姉自身が強い想いという支えを作り上げる事だ。

 キリトが誰を選ぶかは分からない。けれど、彼は目に入った人しか選べない。

 なら、姉もキリトの目に入るようアプローチを仕掛けるように、自覚させなければならない。今回のリーファやシノンのように深く自分を責める事も出て来るだろうが、ボクのようにSAOへ入る前よりずっと強くなる事も決して否定出来ない。気持ちの面で強くならなければならないなら、彼女は一度、自分の殻を破らなければならないのだ。

 死が恐いなら、死を恐れながらでも、死に呑まれる事への恐怖が上回る様にすればいい。

 生きている限り死からは逃れられない。

 けれど、死を呼び寄せる原因を排除する事は出来る。彼女の後ろ向きな戦意とボクの前向きな戦意に出来ている差はそこなのだ。姉は何れ必ず訪れる死に怯えているだけ。退けられないモノとずっと相対しているのだ。

 なら、その先を変えてやればいい。ボクのように、大切な仲間や大切な人を喪う事を恐れるから強くなるのも良し。そういったように、《死そのもの》から《死を呼び寄せるモノ》へ矛先を変えてやれば、恐れを払うために原因を取り除こうと戦えるようになるだろう。

 挫けるかもしれない。立ち止まって、怖くなるかもしれない。泣きたくなるかもしれない。寂しくなるかもしれない。

 

 ――――けれど、人は確かに脆く、儚いけれど、とても強いのだ。

 

 ――――恋をした女は、強いのだ。

 

 ――――だって、独りじゃないんだから。

 

 ――――何度も何度もアプローチして、少しでも振り向いてもらえるよう沢山努力して、挫けずに頑張って結ばれる。

 

 ――――最初は右も左も分からないけれど、少しずつ自分を磨いていったら、自然と強くなるのだ。

 

 ――――大好きな人と一緒に居たいという、その純粋な想いは、何にも勝る強い想いであり、力なのだから。

 

「……ふふっ」

 

 そう考えると、本当に自分は変わったと思う。

 ついこの間まで爛漫に振る舞うただの少女だったのに、暖かな想いを自覚して積極的にアプローチしてきた今では、以前よりずっと成長している自覚がある。大好きな人の為に力になりたいと想う気持ちがあれば、どんな困難だってめげずに挑戦しようという気持ちになれるのだ。

 それを、双子の姉にも――――藍子/ランにも、知ってもらいたい。

 人を好きになるのは、とってもあったかくて、とても心地良いんだよと。

 なまじ、人の汚さ、醜さを知っているからこそ、その温かさと心地よさは一入だ。

 

「姉ちゃんと囲えたら、最高なんだけどなぁ……」

 

 取り合うのでは無く、一緒に支えるのが考え得る限りのベストな未来。世間体的にアレではあるけれど、でもとても幸せな未来になると思う。

 キリトが居て、姉とボクが寄り添って。ボクの家の両親が我が子同然にキリトを可愛がって。

 ひょっとしたら、リーファもそこに入るかもしれない。もしかしたらシノンとサチも入るかもしれない。ともすればもっと増えるかもしれない。ボクが今後出逢う人も一緒になるかもしれない。

 ああ、そうなったら完全にキリトは包囲される。完全に世間体なんて無視だ。

 でも、そうなったらどれだけ良い事だろうか。だって彼を支える、寄り添う人がとても多いという事なのだから。

 そんな、あり得る筈が無い妄想を広げながら、姉がいる部屋へと歩を進める。

 

 

 

 小さな小さな、王子様。

 

 

 

 お姫様のような、王子様

 

 

 

 強くて儚い剣士様。

 

 

 

 とても純真な愛し子よ。

 

 

 

 どうか泣かずにいて下さい。

 

 

 

 どうか笑っていて下さい。

 

 

 

 あなたが泣けば不安に駆られ、あなたが笑えば光に満ちる。

 

 

 

 あなたの笑顔の為ならば、幾らでも苦難を排しましょう。

 

 

 

 あなたの心の為ならば、無限の苦しみも耐えましょう。

 

 

 

 あなたの生の為ならば、闇夜の道を照らしましょう。

 

 

 

 あなたの恩に報いる為なら、どんな苦境も越えましょう。

 

 

 

 しかして忘れてはなりません。

 

 

 

 あなたに孤独も孤高も似合わない。

 

 

 

 辛いものがあるならば、それを共に背負いましょう。

 

 

 

 悩む事があるならば、それを共に分かちましょう。

 

 

 

 戦いへと往くならば、お傍に立って助けましょう。

 

 

 

 休みたい時が来たならば、温かくあなたを包みましょう。

 

 

 

 決して忘れてはなりません、独りの道は破滅の道です。

 

 

 

 もしもそれを忘れたならば、わたしはあなたを正しましょう。

 

 

 

 あなたの気高き心に想いを寄せ、あなたの剣に心惹かれ、あなたの心に射止められたわたしの全力で、あなたの過ちを正しましょう。

 

 

 

 あなたを想う者は、どこまでも共に参ります、地獄だろうとどこまでも。

 

 

 

 あなたを一人で堕とすなら、共に堕ちた方が遥かにマシです。

 

 

 

 故に忘れてはなりません。

 

 

 

 あなたの命は、心は、道は、既にあなた独りのものではありません。

 

 

 

 努々、忘れてはなりません。

 

 

 

 独りの道は破滅の道です。

 

 

 

 独りで背負うのは無しですよ、見守るだけなんてもう嫌です。

 

 

 

 今でも強さが足りないと言うならば、更なる上を目指しましょう。

 

 

 

 迷惑かと考えているならば、それが過ちだと正しましょう。

 

 

 

 強くて儚い剣士様。

 

 

 

 小さな愛しき幼子よ。

 

 

 

 ボクは頼って欲しいんです。

 

 

 





 はい、如何だったでしょうか。

 さて、今話は主にキリトが欠けた事で攻略にどう問題が生じているかをアスナ視点で、ユウキ視点でキリトが自分を責めている根本(の一端)について描写しました。

 キリトはソロである事と、ポッピングトラップを全部踏んで実力行使で解除してきた事、誅殺隊や《聖竜連合》などとの交戦経験で誰よりも絶対的に一対多の戦いに秀でています。つまり現在の七十六層で一番必要な人材。なのに居ないから困っていた、というところで届いた朗報。

 朗報と言っても状況は好転していないんですがね(嗤)

 次にユウキとランについて。

 以前触れたように、ランは家族のユウキを心の支えにしていました。最近はキリトが気になっていた(自覚無いけど堕ちてる)ものの、居なくなったのでユウキが支えの根幹。でもいきなり居なくなって生死不明だから泣き崩れた。その原因はユウキが怯えてるランを半ば無理矢理戦わせるようにしてしまったから、という感じです。

 サチが支えになっていないのは、仲間として信頼しているけど、二人が心の支えとするレベルの信用までは辿り着いていないから。キャリア関連だと二人は凄い警戒心Maxなので、本来キリトに対するような無防備さを見せる方が例外な訳です。

 あと次話から投稿予定曜日を変更致します。詳細は活動報告にて。

 では、次話にてお会いしましょう。

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