インフィニット・オンライン ~孤高の剣士~   作:黒ヶ谷・ユーリ・メリディエス

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 どうも、おはこんばんにちは、黒ヶ谷・ユーリ・メリディエスです。

 今話の視点シノン、リーファ。

 前半は戦闘描写、後半は主に今回説教(&粛清)に踏み出た部分を心情描写で語ります。

 尚、本作のリーファはあらゆる武道に通じているので、基本強い。頑張れば現在の千冬打倒も夢じゃない(迫真) 現役時代はIS搭乗なので除外。

 ちなみにサブタイトル、直訳すると『無敵モード』。

 文字数は約二万二千。

 ではどうぞ。




第七十五章 ~義弟想う義姉に刃は立たず~

 

 

「ッ!!!」

 

 瞬間、今まで静観を保っていたキリトが動いた。鋭く息を吸って床を蹴り――――直後、リーファの背後に現れる。薄暗い環境故か全く煙った姿も見えなかった。

 瞬間移動とすら言える速度で背後を取ったキリトを、しかしリーファはしっかりと察知していたようで、私達が驚きに目を瞠る中でも冷静に対処した。右回りに振り向きながら右手を薙ぐ事で、貫手に構えられていたキリトの右手が弾かれ、体の左側へと逸れる。

 

「ふんっ!」

「ごぶ……ッ!」

 

 腕を払ったリーファは間髪入れず轟音と共に右脚で床を踏み抜き、隙を晒す少年の鳩尾へと右掌底を突き込んだ。離れていても聞こえるくらい重い音が一つ鳴る。

 

「ぐっ……ォ、ぇ……」

 

 意外な事に、彼女の重い掌底を受けたキリトは吹っ飛ばず、その場に膝から崩れ落ちた。《敵》であるリーファの前で膝を折ってお腹を押さえる。どうやら衝撃を逃がさないよう工夫していたらしい。確か吹っ飛ぶのは無駄な衝撃があるからで、完全に入ると重い一撃として体がその場に落ちると聞いた事がある。

 たった一撃だが、リーファの技量の高さを垣間見た。

 彼女を悔し気に見上げたキリトは、大きく後ろに跳んだ。距離を取って仕切り直す為だろう。リーファはそれを見逃した。

 改めて距離を取って仕切り直したキリトは、僅かに痛むのだろう腹を何度か擦る。

 キリトは僅かに顔に緊張を走らせる。

 そんな様子を見ながら、私は腑に落ちない事があるのに気が付いた。

 リーファが師匠である事はすでに聞き知っている事実。ならば弟子であるキリトはその性格上、彼女の強さをかなり上の方――下手すれば神童以上――として考えていてもおかしくない、つまり全力を出さずに戦っている事の方がおかしい。曲りなりにも自分の過去の言動を肯定する為に戦っているのだ、勝率を自ら下げるような愚行をするとは思えない。

 そしてそれに、理由はともあれ全力を出していない事実そのものにリーファは気が付き、発破を掛けている。今のキリトの根幹を崩す為には全力を出してもらわなければ困るから。

 

「……今度は、こちらからね」

 

 僅かな緊張で固まったキリトを見て一瞬間を置いたリーファが、静かにそう宣言する。途端キリトの緊張と警戒は最大限になった。

 それから彼女は動き出す。キリトに較べてとても遅い、ゆらりとしたその動き。ほぼ素人の私にすら視認出来るその遅さに、けれどキリトは何故か応じない。近くまで寄られてから対応するのかと思った。リーファが動き出してから一秒が経った時の思考だ。

 二秒で、リーファは十メートルの距離をゼロへと詰めた。既に彼女は右手を後ろへ引き、左脚を軽く上げている。

 それでもキリトは動かない。

 

「――――破ッ!!!」

「ッ……?!」

 

 その彼の腹に、また震脚と掛け声で割り増しされた高威力の掌底が深く突き刺さった。攻撃を受けるまで何もしなかったキリトはまた崩れ落ちる。

 

 いや、崩れ落ちようとした。

 

 それをリーファは許さなかった。膝から力が抜けて前のめりになるキリトの体を、大きく反時計回りに体を回して遠心力を付けた右脚で蹴り飛ばす。

 バギャッ、と精神衛生上非常によろしくない打撃音が響き、ここで初めてキリトの体が吹っ飛んだ。しかも見た目上そこまで重くないと思えるその蹴り一発で十五メートルほども。

 回し蹴りを放って片脚立ちになっていたリーファは、ゆっくりと足を下ろし、離れたところで二度目の掌底で更に腹部の痛みが酷くなって喘いでいるキリトを冷たく観察していた。その様に、姉としての優しさなんて一切無い。

 何も事情を知らない者からすれば、これは最早虐待にすら見えてしまうくらい、彼女は厳しく在った。

 

「げほっ、げほっ……ぐ、くぅ……!」

 

 厳しい眼で見降ろされながらもキリトは立ち上がろうとするが、あまりの痛みと衝撃故か、アバターの身である彼はそれでも碌に力が入らないようで膝を上手く固定出来ないでいた。ガクガクと大きく揺れる様は、見ていて痛々しい。

 彼ははどうにか構えようとしていたが、たった二発と言えども重い掌底を喰らった事が予想外にも響いていたようで、構え直せていなかった。これが本当の戦場なら死んでいてもおかしくないくらいの大きな隙を晒していた。

 数秒経って漸く痛みがマシになったのか、膝の震えが無くなってしっかり立ったキリトは構えを取る。それでも既に体力――この世界だと精神力――が底を尽きかけているのか呼吸は荒く、表情には全くもって余裕が無い。完全にリーファのペースに乗せられている。と言うより呑まれていると言うべきか、侮辱紛いの挑発に反応しているのがその証拠。

 それを自覚しているのかいないのか、苛立ちを募らせるキリトは、けれど中々踏み込まない。どこかリーファに対し畏怖を抱いているようにも思えた。

 そんな彼に、リーファは構えを解いて両腕を広げ、まるで抱き締める準備のような姿勢になった。

 

「覚えているでしょうけど、リアルでもあたしより遥かに身体能力が高いあなたは、それでも一度たりともあたしに勝てた試しは無い。躊躇なんてせず、あたしを倒すなら全ての力を使いなさい。それこそ――――あたしを殺す気で」

 

 それくらいでなければキリトが勝てる見込みは無い、と言外に言っていた。

 その言葉が契機になったか、奥歯を強く噛み締めたキリトは直後弾丸の如く真正面から挑み掛かる。この管理区の中を動き回りながら、彼は連続で拳打に掌底、蹴撃を次々と仕掛けていく。

 リーファはそれを全て往なす。ステータスの高さを最大限に利用した速さ、すなわち移動速度と攻撃速度の両方に対し的確に全て対処したのだ。

 一歩強く踏み込んだキリトの正拳突きを半歩横にズレて躱した後、彼女はその腕を抱えるや否や即座に彼の慣性を利用して放り投げた。勢いこそ急ではあったが極限まで集中しているキリトにとっては速度も放り投げられた事も驚く事では無かったようで、冷静に空中で体勢を立て直し、綺麗に膝で衝撃を緩和しながら着地する。

 それからすぐにリーファの方を向いた彼は警戒心を最大限まで露わにしながら構えた。剣を携えていないからこそ、右拳は僅かに体に引き付けられていて、どこか身軽な印象を受ける。

 

 そこで、キリトの右手にエリュシデータが現れた。

 

 彼の右手に剣が現れたのを見て、リーファはほんの僅かに眉根を寄せ、目を眇める。その鋭い翠の双眸は無手の勝負の最中に剣を握った少年を見据えていて――――しかし、その行動に対する非難の色は見て取れない。険しさは増したが、それはどちらかと言うと彼への警戒度を引き上げた様子と言った方が印象としては近い。

 

「な……くっ……」

 

 剣を取り出したのは彼も無意識だったようで、僅かに慌てた様子でエリュシデータをまた消した。

 どうやら無意識に剣を握るイメージをして呼び出してしまったらしい。この世界で長らく戦って来た彼にとってはリアルでの無手の鍛練よりも剣を振るった時間の方が長いだろうし、その無意識の行動もある意味仕方ないと言えるだろう。

 ただ、どこかバツの悪そうな顔を見るに、無手の勝負に剣を持ち出した事に対し罪悪感のようなものを感じているようだ。

 

「良いわよ、使っても」

 

 その様子の少年を見て、妖精があっけらかんと武器の使用を許可した。キリトは思わぬ言葉に瞠目して硬直する。

 彼女はこの世界で最強に至っていて、しかも殆どの武器の扱いに長けている彼に武器を使わせようとしている。圧倒的にレベル差があって、装備の性能の差もあるにも拘わらず素手で押しているからか、かなり強気になっているらしい。

 あるいはそれすらも、キリトの根幹を崩す為の布石の一つなのか。

 

「別に使いたくないなら使わなくても良い……でも、あたしは言ったわ、オリムライチカ(Kirito)の全てを否定すると。つまりあたしはあなたがこの鋼鉄の浮遊城での一年七ヶ月の時で培ってきた経験と力全てをこの戦いで否定しようとしている。そしてあなたにとっての《全力》は現状剣を使った戦い方だと推察しているのだけど、この世界で培った力の殆どを使わずに負けて、それで納得出来るのかしら」

「……」

 

 リーファの言葉に、一応武器の使用を逡巡していたらしくキリトは顔を顰める。

 確かにキリトにとって、リアルでの経験よりもSAOでの方が長く濃密だし、この世界での経験という事は殆ど武器を扱ったものになる。《体術》スキルがある以上リーファから教わったであろう武道も活かされているが、《Kirito》というプレイヤーにとっては刀剣を扱った技術・経験の方が彼にとっては力と言えるだろう。

 つまり彼の全力は、素手だけでは出せないもの。

 《攻略組》最大戦力と認められている彼の全力は《ⅩⅢ》を全力で使った時であると、既に周知されている。それも自分一人で戦うという味方を巻き込むリスクが無い戦いで最も効果を発揮すると。

 そして今、キリトにとっての《倒すべき敵》はリーファ唯一人。

 この管理区には私達も居るけど、《アンチクリミナル有効圏内》のコードで護られているので流れ弾が来てもHPが減る事は勿論、死んだりもしない。だから《ⅩⅢ》を周囲に気を遣う事無く使用出来る。全力を出せる状況が整えられているのである。

 それでも彼は《ⅩⅢ》を使う事を躊躇っている。齧っただけとは言え武道を重んずる者を相手に武器を使う事が如何に邪道かを理解しているらしく、真摯にぶつかって来ている彼女に対して使い辛いようだ。

 数瞬逡巡している様子だったが、しかしキリトは最終的にエリュシデータを喚び出し、後ろ手に構えた。

 ダークリパルサーを出さないのは、相手が一刀だからという対等の条件を求めているからか、二刀やそれ以外の武器だと経験や技術が彼女に敵わないレベルだと判断したからか。身体の方は何時どんな事にも対応出来るように備えているようだからともかく、緊張と畏怖に強張っている顔を見る限りは間違いなく後者。

 キリトが剣を構えたのを見て、リーファも腰の愛刀の柄に右手を掛ける。構えとしては時代劇で侍が見せる構え、鞘内で刀身を走らせる事で剣速を本来の二倍、三倍にも高める先の先に特化した、有名な抜刀術というやつだ。

 

 ――――本来、レベルに大きな開きがあるプレイヤー同士の戦いは、現実と違ってこの世界だとまず成立しないという。

 

 相手の方が高レベルプレイヤーの場合、相手の筋力値に自分の武器が耐えられず、一撃で耐久値全損を起こしかねないから。厳密に言えば低レベルプレイヤーが揃えた最高級の武器も同レベル帯ならともかく、高レベルを相手にするとなるとスペックが足りない。キリトとユウキが互角に戦えていたのは本人達の技量もだが、装備のグレードも拮抗していた事も要因の一つ、プレイヤーのレベルは戦闘回数によって差が生まれるものの装備だけは如何ともし難いのである。

 つまりリーファが持つ愛刀ジョワイユーズは、SAOでの常識に照らし合わせるとキリトとの戦いで用いるべきでは無い。

 ALOはレベルという概念が無く、スキル値やモンスターを倒して手に入る経験値が一定量溜まると手に入るボーナスポイントを各ステータスに割り振る事で強くなっていくシステムが採用されている。つまり基本的にプレイヤー同士の差が大きく開くのはスキル値と装備のグレードという二つの要素になる訳だ。各ステータスの値がそこまで大きく開かない分、SAOに較べればプレイヤー自身の技術で戦況をひっくり返す事も出来る。

 レベル制を採用されているSAOでは、レベル差は如何ともし難い絶対的な差となる。筋力値が高ければ逆らえなくなるし、敏捷値が高ければ目にも止まらぬ超人的なスピードを叩き出す事も出来る。

 キリトは技術・経験的な意味でも強者だが、誰よりも高レベルであるが故に、必然的に強者に落ち着く。装備も最前線で戦い続けて来たからほぼ最高級。エリュシデータとダークリパルサーに関しては最前線だと力不足感が否めなくなっているらしいが、それでもまだ通用する辺りは流石の性能と言える。

 何が言いたいかと言うと、レベル30台のリーファが勝てる相手では無いのだ、絶対に。

 自分が生き残る為に誰よりも強くならなければならず、レベルという目に見える分かりやすい指標を高める事を念頭に置いていたであろうキリトとて、なまじ自分より低レベルの者達を相手にしてきただけにそれはよく理解している筈。

 

 しかし今、劣勢に立たされているように見えるのは優位である筈のキリトの方だった。

 

 条件としてはキリトが優位な筈なのに、何故だか彼は今、劣勢に立たされているのだ。

 

「……ッ!」

 

 片手剣とは言え自身にとってすれば両手剣にも等しい剣を、緊張故か、それとも初心に戻ってか両手で柄を握った彼は、一瞬の呼吸を挟んで斬り掛かった。

 地を蹴り、空気を突き破る音が耳朶を打った時、大上段から振り下ろしただろうキリトの剣はリーファの右肩口を掠るように空振っていた。対するリーファの愛刀は右に振り抜かれている。抜刀術と呼ばれる神速に達する剣戟で、キリトの剣戟を逸らしたらしい。

 そこで一瞬の間が開く――――と思っていると、右に振り抜いていた長刀を頭上へとリーファは構え直し、振り下ろした。

 少年を真っ二つにする軌道で振り下ろされる刃が頭頂部に衝突する寸前で圏内コード発動を示す紫色のパネルによって止められ、代わりに衝撃波と閃光が発生する。

 

「がッ……こ、の……ッ!」

 

 キリトは頭に走る激痛に呻きを上げ、衝撃に圧されてよろけるが、倒れる事は拒否するように踏ん張ったキリトは剣を振り上げて反撃。それを見切っていたリーファは半歩下がり、眼前を剣が過ぎた後に両手で握った長刀を強く突き出す。

 強烈な刺突は色白の喉元へと突き込まれていくが、その寸前で持ち前の反応速度を見せたキリトは首を捻って回避。白銀の剣尖は彼の耳を掠るに終わった。

 ――――が、その長刀を振るうのは武道に秀でた者。女性と言えども物心が付いた頃より続けて来た経験は獲物をそう簡単に逃がしはしない。

 彼女は柄を握る手の内、左手を離して片手持ちにすると、一息に手首を返した。《刺突》の型で突き込まれていた刃はキリトの首がある方へと向けられ、次の瞬間には空気を切り裂く鋭い音と共に左薙ぎに振るわれる。

 キリトとて首を反らして終わりとは思っていなかったようで、リーファが刃を振るう時には既に頭を下げてしゃがんでいた。僅かに反りを見せる長刀はその頭上を通り過ぎて空を切る。

 反撃とばかりに今度は彼が斬り掛かる。左斜め上に振り上げていた刃もしゃがむ時に下ろされていて、頭上を長刀が過った直後に、先の軌道と交差するように今度は右斜め上へと振り上げられる。ビュカッ、と一瞬にして空気を斬り裂いた剣は、しかしリーファに読まれていたようでまた空を切る。

 威力と速度を重視した斬閃を躱されたキリトは、その大振りの攻撃故に付き纏う隙を晒した。

 

「セィッ!!!」

 

 半歩後退したリーファは、その反動を利用して右足を一歩前へ勢いよく踏み出すと共に体幹を捻り、両手で握った長刀を右薙ぎに振るう。

 先のキリトの斬り上げに負けない剣速で放たれた一撃は今度こそ彼の顔面を捉えた。

 直前で《不死属性》を意味する英字が刻まれた紫色のシステムメッセージパネルが阻むも、その衝撃はしっかり伝わっていたようで大きく仰け反った。呻きすら無い事から察するにその余裕も無いくらいクリーンヒットしたらしい。

 

「ッ……つ、ぅ……!」

 

 よろめきながら数歩分後退したところで仰け反りから回復したキリトは左手で鼻面を押さえつつ、鋭い双眸でリーファを見据える。

 

「……全ての力、と言ったのだけど、どうして《二刀流》や《ⅩⅢ》を使わないの?」

 

 数メートルの距離を開けて仕切り直してから数秒後、正眼に長刀を構えていた彼女は徐に口を開いた。その声音には隠し切れない――――あるいは隠そうともしない失望の色がある。先程はあった苛立ちすらも無い点から本格的に失望しているらしい。

 

「あたしに負けてもこれまでの否定にはならないと考えているのか、全力でなくともあたしには勝てると思っているのか、あるいはそれ以外なのか。どう考えているかは知らないけど、どれにせよ全力も出さないで勝てると思われてるなら随分と自身への過大評価とあたしへの過小評価が過ぎるわね」

「……過大評価はともかく、過小評価はしてない」

「あら、そう」

 

 どこか憮然とした面持ちで返された反論を面白くなさそうに返事をした彼女は、ぐっと柄を握る両手に力を籠める。同時、僅かに膝を折り、腰を落とし――――ドッ、と床を蹴る音が立った。かなりの速度だが、それでもやはりキリトやユウキには劣る移動速度でリーファは突進する。

 警戒していたキリトは流れるように剣を振るい、リーファの刃がそれを迎撃し――――

 

 ――――甲高く、しかし涼やかな音と共に、黒剣が弾かれた。

 

「――――な、ん……ッ?!」

 

 キリトのレベルは175。

 対するリーファのレベルは35。

 その差、きっかり140。

 両者の間にはそれだけの絶対的な開きがある。つまりキリトというプレイヤーはシステム的に、力押しではどんなプレイヤーにも負けない。レベルアップボーナスポイントを筋力値に七割で振っている彼に敵う者は、例え筋力値極振りのプレイヤーだろうと表向き最高レベルがヒースクリフの《100》と言われている時点で居ない事が確定しているからだ。

 しかし実際はキリトの剣が弾かれた。それはもう綺麗に、上段から振り下ろした剣はまるで巻き戻しの如く弾かれている。彼が自ら刃を弾いた訳では無い事はその驚愕振りから明らかだった。

 

「――――ッ」

 

 一瞬響く鋭い呼気。

 直後、黒い剣をどのようにしてか見事弾いて見せた金髪の妖精は、まるで自身の体とでも言うかのように長刀を滑らかに、しかし素早く閃かせる。その剣閃の数、秒間にしておよそ三つは固い。

 鋭く空気を切り裂いて迫り来る刃を前に、弾かれたと言えど剣士の矜持か男の意地かたたらは踏まなかった黒尽くめの少年は、流石の速さで斬り返す。

 刹那の間に刃は幾度となく交わされる。浮遊城に来てそれなりに経ち、幾度かは死を覚悟している自分だが、それを嘲笑うかのように閃く刃の軌道は見えない。この眼が映すのはただ振るわれた後に閃く銀閃のみ。

 空間に響くは刃を振るう二人の剣士の呼気と剣が空を切る鋭い音、間合いを図って忙しなく動く脚の音に、刃が競り合う剣士の調べ。

 黒尽くめの少年の剣は速く、重く、荒々しい。障害を全て斬り伏せると語っている剣閃は空を切った後、その先の空間に轟と重い響きを伴った剣風を放っている。それが秒間に三つか四つ放たれるのだ。既に戦場となっている管理区は暴風に晒されていて、ばたばたと観戦者や立ち会っている二人の髪と衣服がうるさくはためく。

 金髪妖精の女性の剣は軽妙で、迅く、鋭い。獲物を狙う鷹の如し一閃は一瞬の内に幾度も放たれ、相対する少年を激しく打つ。迎え撃つ為に振るわれた刃と衝突する度に重量も力も劣っている筈の長刀が競り勝ち、弾く光景が繰り返される。

 時間にすれば一分は経っていないのだろう、恐らくは十秒かそこら。それだけの間に交わされた斬閃が軽く五十を超えると思われる激しい応酬は、【絶剣】と言われている少女との決闘や神童と言われている男との死闘とは別の方向で激闘となっていた。

 《ソードアート・オンライン》という仮想世界での戦いは数値が大半を左右するが、キリトにユウキが喰らい付けたように本人の技術である程度カバーする事が出来る。それでもレベル差というものは無視出来ず、ダメージ値という一面だけで言えば『最前線で戦える者』という共通点からユウキは大差無い存在なので問題はあまり無い。

 しかし今戦っているリーファは違っていた。

 彼女は明らかに、力で劣り、移動の速さや剣速も劣っているのに、それなのに今完全に拮抗した勝負を見せている。幾らキリトが精神的に冷静さを欠いていると言ってもこれは途轍もない事なのだ。

 装備している武器のグレードと較べ相手の筋力値や装備のグレードがあまりに高過ぎると、一合交えただけで耐え切れず、耐久値を全損してしまうという事はこのSAOでの常識の一つ。強い武器はその分だけ頑丈だから、節制は良いが身の丈に合ったものを選ばないと文字通り役に立たなくなってしまうのだ。

 それを前提にして考えると、ALOのステータスや装備をレベル30が適正だろうと判断され換算されたリーファは、絶対にキリトと一合も交えられない。よしんば技術でどうにかしても真っ向から十を超える数も打ち合う事は不可能。例え彼女の愛刀がALOではサーバーに一つしかないランク《伝説級武器》に次ぐ《古代級武器》というランクに位置しているとしても、レベル30でステータスを換算された彼女が持っているのだからその性能もそれに見合っている筈なのである。

 

 ――――しかし、私は装備の適正レベルと性能が不釣り合いなものを知っている。

 

 例えば《弓》。キリトによれば求められる筋力要求値や大まかな適正レベル帯が同じ《片手剣》カテゴリの武器の二倍の武器攻撃力を持つ《弓》は、例え十層以上も上で出て来るのが普通なNMにすら通用する性能を持っていた。

 ではリーファの愛刀ジョワイユーズが、それと同じだったら。つまり筋力要求値はレベル30程度のものでも、その攻撃力や耐久値は最前線でも通用する代物だとしたら。

 これはあり得ない話では無い。ひょっとしたらリーファのレベルが30なのも、ALOではMobを倒して溜めた経験値で強化されていくアバターステータスよりも、スキル値で解放される装備適正や装備の性能の方が重要視されていて、そこまでステータスが高くなかったが故の数値という可能性もある。ALOでトッププレイヤーの一人として数えられていたという彼女なら十分あり得る。

 それに神童のレベルもSAOに来た直後は同じだったというから、ALOプレイヤーのステータスはSAOでのレベル30台とほぼ同等で、それより上のレベルと釣り合う為に強力な装備を持っていると考えれば、今のこの状況にも納得がいく。

 つまりリーファは、ALOではSAO基準でレベル80台のMobを相手に七十五層で手に入る装備を纏って、レベル30のプレイヤーのステータスで戦い続けて来たという事になる。下手すれば一撃か二撃で死んでもおかしくない――魔法による回復支援が幅広いと言えど――不利な状況で強くなったのなら、それはもうプレイヤー本人の技術はかなりのものと言える。無論そこはリアルでの武道経験が活きているからでもあるだろう。

 キリトも決して弱くない、むしろとても強い部類に入る――――が、ハンデの条件が真逆だったのだ。

 キリトは死のリスクを出来るだけ低めるようレベルを徹底的に上げ、ステータス面での優位性をずっと維持していた。その上で装備も強力なもので固めた。技術は磨いていたのだろうが、それでもステータス頼りな部分があるのは否めないだろう。

 反面リーファは魔法を使った長期戦、パーティーやレイドでの戦闘で激戦を生き抜いていたのだろうが、長年の武道の経験と自身の方がMobよりステータスが低いという不利な条件をずっと受けながら戦い抜いて来ていた。ステータスで弱いのなら、装備で身を固め、極力攻撃に対処する術を見出し、技術を磨いて来た筈だ。

 だからキリトが押されているのはある意味必然。

 簡単に言えば、キリトはリーファとの相性が致命的に悪い。

 神童との相性も最悪ではあるがポテンシャルや戦い方が似通っている分まだ対応しやすいだろうが、しかしリーファは完璧に自分よりステータスが上の相手との戦い方を心得ている。余程の事が無い限り冷静さを欠いて半ば力任せになっている今の彼ではまず勝てないのだ。

 

「チィ……ッ」

 

 交わった刃の数がもう百を超えたかと思う頃、少年が舌を打ちつつ距離を詰めた。

 鷹の如く迫る横薙ぎの斬閃は最低限度しゃがむ事で躱す。ほんの一瞬だけ生まれた隙を突き、彼は左に薙がれ、刃を返したところの長刀の刃を左手で掴んだ。この世界最高の腕力で掴まれた刃はビクともしない。

 それを好機と捉えたか、彼は右手に持つ剣を袈裟掛けに振るう――――

 

「破ッ!」

 

 ――――その寸前、妖精は柄を握っていた両手の内、左の手を離し、直後拳を作って柄へと打ち付けた。

 

「ぐッ……?!」

 

 持って動かせないなら無理矢理と思っての行動は無駄では無かったようで、空気が破裂するような音と共に少年の手は刃から弾かれる。一瞬遅れて圏内コード発動を知らせる紫色のパネルが出現した。どうやら拳を打ち付けて生まれた振動が攻撃行動と判断されたらしい。

 あんな対処法は普通しないと思うので、恐らくリアルで彼女が修めている古武術の一つなのだろう。

 圏内コードの発動で手を弾かれ、システム的な衝撃波で僅かにたたらを踏みながら少年は後方へよろめく。

 妖精はユラリと、まるで突き出すように両手で長刀の柄を持ちながら構え――――直後、一瞬の内に斬閃が複数閃き、少年へ襲い掛かった。

 一拍遅れて、一瞬の内に放たれた連撃の衝撃を知覚したキリトの抑えられた呻きが上がる。彼は衝撃を諸に受けた影響で大きく後方へ押しやられ、しかし流石と言うべきかたたらを踏みつつも倒れる事だけは防ぎ、堪えていた。

 彼の呻きに一拍遅れる形で、彼の周りには複数枚のシステムメッセージパネルが表示されていた。ほんの僅かな差を付けつつ出現したその枚数、実に六枚。リーファは一息の内に六撃も叩き込んでいたのだ、秒間三つから一気に二倍の数の斬閃を。

 剣を振り抜いていたリーファは、衝撃に目を白黒とさせている彼を見下ろす。

 

「な、今のは……ッ!」

 

 闘技場《個人戦》で《片翼の堕天使》と刃を交えている最中、絶体絶命の危機に陥った時に土壇場で習得した一瞬九閃はキリトの十八番。通常のプレイヤーが出せるであろう剣速の優に八倍にも迫る神童アキトをも凌いだ実績からもキリトは一瞬九閃の剣技にかなりの自信を抱いていた筈だ。

 彼にとって神童で知られている《織斑秋十》は、《織斑千冬》とはまた別の方向性の先にある最強の一角。それに手が届くかもしれない存在がそう居る筈も無い訳で、まさか義理の姉がそうだとは予想外だったに違いない。

 彼は自らを過大評価していた訳では無い。自身の義姉の実力を見誤り、過小評価していたのだ。

 ……いや、私も彼女がここまで出来るとは思っていなかったけど。私だけでなくユウキやヒースクリフ、アスナ達も同様に驚愕している。一緒に過ごしていたストレアまで同じ反応だからキリトの驚愕はある意味仕方ないと言えるかもしれない。

 

「《技術》は万人が扱えてこそのものであり、特定個人にしか使えないものは《特性》と言う。あなただけの《特性》という訳ではないのだから別に使えてもおかしくはないでしょう?」

「そ、そうだとしても……そんな簡単に……」

「……あたしから言わせると、下地があったにしても練習も無く、死闘の最中に土壇場で習得してものにする方がよっぽどだと思うけど」

「うぐ……」

 

 一年半の死闘という下地はあったが、それでもあの絶体絶命の土壇場で《片翼の堕天使》の一瞬八閃を相殺し、あまつさえ反撃を入れる技を体得したキリトは確かに人の事を言えない。話に聞いた限りソードスキルを相殺する時の感覚を知っていたから出来た部分が大きいようだが、それでもだ。

 もっと経験を積んで強くなればそう遠くない内に初見の攻撃にすらも完璧に対応してしまいそうな気さえする。現にフロアボスの偵察すら単独でこなしてきた実績から決してあり得なくは無いだろう。今も十分反則的で恐ろしい強さだが、今後もっと強くなる可能性を秘めている事を考えるともっと恐ろしい。

 

「さて、これが最後通牒……全ての力を出し切りなさい」

 

 そんな彼を現在ほぼ完封しているリーファの方がより恐ろしいのだが。強さという意味でも、雰囲気という意味でも。

 この世界に来てそんなに経っていないのに、命懸けで戦闘技術を磨いて来たキリトを精神的に圧倒しているにしてもほぼ完封出来ている辺り、彼女は生きる時代を間違えているのではないかなと私は思い始めて来た。武道を長らくやっていて、PvPを推奨されているというALOをプレイしていたとは言え幾ら何でも慣れ過ぎである。

 

「今まで積み重ねて来た全てを否定されたくないのなら、その全てを示しなさい。この世界で培った全てであたしを倒しなさい」

 

 やり取りをしている間に動揺から回復して立ち上がったキリトは警戒しながらもリーファの言葉に意識を傾けていた。その眼は敵愾心もあるが、それよりも懸念の色と疑念とが混在している。

 まだ何も持っていない左手は、愛剣を求めているかの如く拳を作り、また開かれを繰り返している。

 その様子は二振り目を持つ事に忌避感を覚えているようにも見えた。

 

「……確かに、《ⅩⅢ》やユニークスキルは俺が持つ力の一つ。それを使っていない今の俺が全力では無いというのは否定しない」

 

 無言だったキリトが内心を吐露するように、落ち着いた声音で語り始める。長刀を正眼に構えて見据えているリーファはそれに耳を傾けていた。

 聡明なキリトが三度も『全力を出せ』と言われても躊躇いを見せている根幹が語られると、そう直感を抱いたからだろう。意味は理解出来ている筈なのにしないのには相応の理由があるのだと信用しているのだ。

 

「それらを使わないのは……重要な《決闘》に、卑怯な手は使いたくないから」

 

 しかし私の推測は外れていた。

 どうやらキリトは《神聖な決闘》と《殺し合い》とを明確に区別しているようだ。相手が望むのであれば話は別だが、そうでないなら基本的には同条件で戦おうと《決闘》の方では決めていて、《殺し合い》ではリズや私が攫われた時のように毒や《ⅩⅢ》も躊躇い無くたとえ卑怯と言われようとも使う決めているらしい。

 

「――――なるほど。何度言っても使おうとしないのはそういう理由だったのね……そういうところを律儀に守ろうとする辺り、純粋と言うか、何と言うか……」

 

 どこか呆れつつ、しかしどことなく嬉しそうにも見える微苦笑を浮かべながらリーファは言う。

 はぁ、と溜息を吐いた彼女は、それから厳しい面持ちで少年を見据えた。

 

「とは言え、事此処に居たってまだ《決闘》と見てる事は問題だから単刀直入に、今度こそ勘違いの無いよう言うわ。あたしは、あなたの戦う理由(自己犠牲)を否定する。故に、その根幹を為すあなたの全力を真っ向から潰し、今のあなたを――――殺す」

「ッ……」

 

 ハッキリと、面と向かって殺すと――最後の一言だけは真顔で――言われ、彼は一度だけ身震いをした。手に提げられている黒い剣の刃も小さく震えた。

 

 ***

 

 義理の姉に『殺す』と言われるだなんて、この子はきっと想像もしなかっただろう。

 あたしも、まさか愛する義弟にこんな事を言う日が来るだなんて、全く予想していなかった。母さんが聞けば激怒する前にどうしてそんな事になったかを訊こうとするくらい驚くであろう事実だ。

 心苦しい事には変わりないけれど、でも今は心を鬼にしないと、キリトの為にならない。だからあたしは認識を改めさせる為に言葉を続ける。

 

「この戦いであたしを倒せば、今のあなたは『生きる』。逆に言えばあなたが負ければ今のあなたは『死ぬ』という事を意味するのよ。これのどこが《決闘》と言える?」

「……つまりコレは、《殺し合い》だと……? HPが減る訳でもないのに」

「命を奪う戦いじゃなくても《殺し合い》に匹敵するものもあるし、それ以上の戦いだってある。《過去》と《今》に本気で積み重ねて来た想いと信念があって、今みたいにそれを否定する戦いなら、それはある意味命を懸けているに等しい……だからあたしは今の戦いを《殺し合い》と言うのよ」

 

 あたしは思う。呆気なく喪われる命の奪い合いよりも、互いに積み重ねて来た努力や信念のぶつけ合いの末に決まる勝敗の方が《殺し合い》よりも辛く苦しい時もあるのだと。なまじ全力で打ち込んで来た事で誰かに負けてしまったら悔しさは一入で、逆に勝ったら喜びは絶大だ。

 命を奪う戦いじゃなくても、命を奪うに等しい苦しみは付き纏うものだとあたしは考える。

 あたしだって様々な武道を経験して来た過去全てが次の一戦で無駄と判断されるかもしれないと考えたら、基本的に他者の評価にあまり興味を抱かない性分でも良くは思わない。全力で打ち込んで来た事で誇りにも思っている事だから、勉強関連で扱き下ろされるよりもよっぽど腹が立つ。

 だからこそ、あたしはキリトの過去を否定する。

 人の助けになりたい、認められたい、強くなりたいと強く願って戦って来たキリトは、極論《強さ》全てが結果に結び付ける思考・思想を抱いている。

 この世界とキリトの境遇を考えると確かに《強さ》が全てを決める要素である事は間違っていない。フロアボスを単独で相手取れる強さや今まで幾度も生還して来た実績、レベルや装備という面でも彼は他の追随を許さない強さを手にしているのは確かだ。そしてキリト自身、それでかなりの自信を持っている。自慢こそしないが行動原理の一つになっている。

 つまりキリトにとって、今までの経験や強さを全て《無駄》と断じられる訳にはいかない。

 何故なら彼にとってこの世界で生きて来た全てを否定されるに等しいから。生き抜く為に、人の助けになる為に求めて得たものを否定されては、今まで築いて来た全てが崩れ去る事になる。それは折角手にした《強さ》すらも無意味と断じられる事に他ならない。

 《強さ》を何よりも、誰よりも強く求めている彼にとって、これまでの否定は決して認めてはならない事なのだ。

 

 ――――そしてあたしは、それこそがキリトの自己犠牲的な思想を覆す唯一の手立てであると確信している。

 

 先に言った通り、今のキリトは『間違った手順・方法で組み立てられた積木』。その土台には『利他主義』という自己犠牲精神を含んだ思想が組まれていて、そこを直そうとすると今までの全てが崩れ去るに等しい状態になっている。何しろ思考の基盤になっている部分だ、変えられる訳が無い。

 だから一度、その積木を崩す必要がある。『《オリムライチカ》としての《Kirito》』として完成してしまっている《今》を否定し、基盤を崩さなければならない。

 その為には何が何でも全力を出してもらわなければ困る。全力でなければ、《今》の彼に余力を残させてしまい、精神的な逃げを与えてしまう。《今》の彼を生かしていては今後の彼の為にならない。だから逃げる余地など与えないよう徹底的に殺し尽くさなければならないのだ。

 

「さぁ、分かったでしょう。《殺し合い》に正道も邪道も無いのだから《ⅩⅢ》も含めて全力で掛かって来なさい」

 

 正直なところ、これは分の悪い賭け、それも勝ち目なんて万に一つあるかも分からない分の悪過ぎる賭けだ。

 あくまでゲームの一環という事なら分の悪い賭けというのも嫌いでは無い。自分で言うのも何だが、あたしはこれでも結構逆境でも強くなれるタイプだと自負している。ミソなのは逆境以外でも強くなれる事だが、それは良い。

 問題なのは、命懸けで戦って来た彼の全力にのうのうと暮らしてきたあたしが勝てる保証なんて無い事と、何よりも仮にここで負けて今までの彼の全てを言外に認めてしまえば、もう二度とキリトの自己犠牲的な思想を覆せなくなる事。今まで全力で打ち込んで来た剣道やALOの経験全てが敵わないとまでは思わないが、それでも辛いのは事実。

 たった一度しか使えない最悪の賭け。それも失敗すればバッドエンドの、やり直しすら出来ないリスクの大き過ぎる賭け。

 それでもあたしは退く訳にはいかない、負ける訳にもいかない。彼の全てを一度真っ新にする唯一の手立てがこれなのだ。今の状態を戻すには、最高に分の悪い賭けであるコレですら最良の選択なのである。

 

 ――――まったく……本当に、手の掛かる弟だ。

 

 内心でそう苦笑する。手の掛かる子ほど可愛いとは言うけれど、これは些か度が過ぎてはいないだろうかと思わないでも無い。

 本来ならあたしがここまでしてやる義理は無い。確かにキリトは幼いから年上のあたし達が導かなければならない部分もあるが、何もかも面倒を見るのは『甘やかし』という行為になる。甘やかしても良い事はないのだから痛い目を見たその時に口添えするくらいが恐らく丁度良いのだと思う。まだ幼いのなら、これから成長する中で必ず壁にぶつかるのだから。

 それなのに口を出すのは、その余裕すらキリトには残されていないから。そして死んで欲しくないとあたしが願っているから。

 恐らく同じ思いを此処に集っている人達は抱いている。でなければ、仮にあたしの言動が厳し過ぎて不当なものと思っているなら、ユウキさん達はあたしを力尽くで止める筈だから。それが無いという事はつまりそういう事。

 彼女達もキリトの行動には頭を悩ませている。そしてそれを改善させられる可能性があたしの行動にあると思っているから止めないのだ。

 デスゲームに変貌した世界を一人で生き抜いていると聞いた時から心配していたが、この世界に巻き込まれてからはそれが杞憂であると知った。この場に居る人達が義弟を本当に大切に思っている事を知った。戦力という打算的であれ、戦友という心象的であれ、大切に思っている事をあたしは嬉しく思う。

 それすらも、《織斑一夏》という少年は殆どの人に抱かれなかったのだから。

 そんな良い人達をずっと心配させる事も、罪悪感に苛ませる事も、しちゃいけない。それがキリトの言動に原因があるのなら正すのが姉の務めだ。想いそのものは正しいけど、自分を蔑ろにする事だけは絶対に間違っているのだから。

 

 ――――だから、あたしはオリムライチカ(Kirito)を殺す。とっくの昔に捨てた《オリムライチカ》をまた名乗って、亡霊として振る舞っている今の義弟の根底を、否定しなければならないから。

 

 それは彼を引き取り、愛する事を決断した者としての責務。

 過去の家への想いが残っている事に対し個人的に思うところが無いと言えば嘘になるが、それ以上にあたしは今の彼の生き方を好ましくは思っていない、少なくとも以前ほどは。

 以前――つまりこの世界に来たばかりの頃――は他者の助けとなる為の行動や思想をとても好ましく感じていた。想像を絶するほど他者に疎まれ、虐げられていたのに、それでも他者の役に立とうとするそのいじらしい想いに、僅かとは決して言えないくらい感動を覚えた。平凡な日常では普通に見える事も、デスゲームという誰も信じられず命懸けの日々を送るという異常な環境である事を踏まえれば十分な偉業と言えたから。

 だが、外周部から落とされたあたしとシノンさんを救い、代わりに死ぬ事を躊躇わない姿を見てしまっては話は別。

 他者に尽くす奉仕精神は尊敬出来るが、滅私奉公はとてもでは無いが許容出来そうにないのがあたしの性格。現金なのか、それとも人間不信が過ぎると言うべきか、利害が一致した関係でなければ気が気でないのだ。

 例えば、どこかのお屋敷で住み込みで働くメイドもまた滅私奉公に等しいが、アレは『給金』という見返りがある。それを目的に働いているというのであれば滅私奉公とも言えないし、その人物はある程度の信頼を置けると言えるだろう。長年働いている者であれば次第に信用も掛けられる。

 『両親が世話になったからその恩返し』として働いている場合も、度が過ぎていなければ十分納得出来る。情は味方とかの武田信玄も残す程。義理を通す者をあたしはとても好む。

 だが、だがしかし、それで自分を押し殺す事をあたしは厭う。その人の人間性を奪ってまで自分に尽くさせるという行為をおぞましく思う。命を奪う訳でもないのに、自分の背中にはその人の人生と未来が圧し掛かるのだから。

 いや、人の人生を背負うだけならまだ良いかもしれない。企業の経営者なら雇用した者達に給金を渡すという形で家庭を支える事になるし、何かしらの役職に就いて責任を背負えばやはり同じ職場や責任問題関係で家族の未来を背負う事になる。大人になる事で背負う責任と考えれば何らおかしい事では無いだろう。

 

 だが、キリトの行動はそんなものでは無い。

 

 彼の行動の結果として広がる未来に彼の姿が無い。彼の行動の一切全てが他者の為だけにあり、そしてその未来に自分の姿が無くとも許容している。

 あるいは、諦めていると言えるのか。どれだけ足掻いたところで未来を歩む事は出来ないと既に諦観し切っているからこそ、自分の命を代価として差し出す行為に踏み出せるのかもしれない。何時だったか、『何かを教える人になりたい』という夢を語った時に見せた諦観のように。

 

 ふざけるな、と思う。

 

 実のところ、本人に言ったほどあたしはキリトが《織斑》を引き摺っている事に怒りは抱いていない。彼が良い年の大人だったなら『情けない』と切り捨てていただろうが、まだ子供だから依存相手が急に変わる筈も無いと理解していた。あまりに変わり身が早かったらそれはそれで苦々しい思いに駆られただろうし、あたしもここまで義弟の事を想わなかった筈だ。

 彼が棄てられた事に絶望したのは、裏返せば希望を持っているという事の顕れでもある。そして《織斑千冬》自身は下の弟を自分の意志で捨てた訳では無いと彼は知っている。捨てられたと確定されていたなら未練がましいと切って捨てるところだが、あの女の様子を思い返すとある意味キリトの思考も仕方ない部分がある事は否めない。

 彼女は単純に不器用な人物なのだろう。親に捨てられる前までどのように育てられたかは知らないが、しかし育ての親に捨てられたというショックは並大抵のものでは無かっただろうし、同時に自分や二人の弟の学費と生活費を工面する為に奔走する程度には家族の事を大切に想っていた事は事実。あまり良い感情は抱いていないが、その事実はあたしも認めている。何故施設に預けなかったのかという点は置いといて。

 ともあれ、織斑家の家事一切を幼いながら担っていた彼からすれば、とにかく家計の為に忙しなく東奔西走する姉の姿は脳裏に焼き付く程に知っている。それだけ必死に働いてくれているのだと思い、家族としての愛情を信じようとする思考が発生してもおかしくない。

 だから《織斑》として認められたいという思い自体、本当は然程怒ってはいなかった。そもそも武道を教えて欲しいと頼み込まれた時点で気付いていたから今更なのである。それだけ愛情に飢えているのだなと悟りまでした。

 それでも怒り心頭になったのは事実。

 

 それは『殺して』と、他者の未来の為と宣って他人に殺される事を願った事。

 

 自分が決めた《死》に他者を巻き込むなと思った。復讐の後に自殺するならまだしも、他者の未来の為に死を選ぶなどと尚更ふざけている。それも大儀の為に味方を逃がすべく敵を食い止める殿役としてでは無く、ただ未来が無いからより良い未来の一助になればという思いでなど、最高に最低な理由だ。

 何も知らなければ涙と共に賛美出来るくらいには中々耳触りの良い話だが、事情と心情を知った身から言わせてもらえば寝覚めが悪いにも程がある。

 あたしは足掻けば為せるというのに諦める人間を嫌悪する。分かりやすく言えば、失敗の可能性を恐れたり面倒だと言って努力しない人間が大嫌いなのだ。

 そして何よりも、諦める理由に他者を利用する事こそを最も嫌悪する。醜く思う。卑劣に思う。

 『自分が負けたのはアイツが強過ぎるからだ、自分は頑張っていた』と、さも自分の言い分は正しいのだと説得力を付ける為に他者を利用する事を、その言動をする人間を、自分は嫌悪する。

 確かに武道は性差や体格差で有利不利があるのである程度なら許容される。事実和人は体は華奢、人体実験の影響で力こそあるが年齢と経験故に技術は拙かったので、あたしから一本も取った事は無い。それは『幼い』という理由で全て片付けられる。体も、経験の無さもだ。

 だがそれも行き過ぎれば話は別。彼が『幼い』という理由で片付けられたのも、キチンと努力していたが故、遅くはあるが努力を重ね着実に成長していたからあたしも認めたのである。そうでなければ武道の教授を続けていない。

 つまりキリトの言い分はそういう事。疲れたのなら素直にそう言えば良いのに、死にたければ一人で死ねば良いのに、他者を理由に使って自分を、自分の死を正当化しようとしている。正当化した自分の死で、未来を諦めた事も正当化し、その未来で他者が幸福になる事を自らに納得させようとしている。

 それは他者の幸福が自分の存在意義なのだと定義付けしているからこその思考。自身の全てを擲ってでも他者の為に動く事こそがシアワセなのであり、同時に存在確認にもなると考えている。

 意識してか、無意識の内の思考かは分からない。

 分かっている事は、キリトの損得勘定の《得》には自分以外の全てが入り、《損》の方には自分が入っているという事。よしんば得を手にしても、他者の得の為に捨てなければならなくなれば躊躇う事無く――仮に尾を引かれる事があっても結局――捨てる。

 それが完全に彼の意志の下であり、自分の不幸を覚悟の上での行動であればあたしも口を挟まない。

 けれど今正にあたしは彼の思考・思想を否定するべく動いている。こうして口を挟んでいるのは、彼が恐らくそれを自覚していないから。自覚していないなら損得の思案を行えている筈も無く、だからこそ介入を決断した。

 

 考えてもみて欲しい。どうしてこの幼子は、酷い環境で、戻っても良い事なんて何一つ無いだろうと分かり切っているのに、《織斑》の血族として周囲から認められたいと願っているのかを。

 

 答えは簡単。

 それは、家族と一緒に居たいという、ただただ平凡で、ありきたりで――――だからこそ尊い幸福を願う想いが、根底にあるからなのだ。

 つまり彼は本当は未来を捨て切れていないし、幸せな未来を求める意思もまだ尽きていない。ただ、それが到底不可能である事実から目を背ける行為を正当化しようと、つらつらと理由を並べて死に逃げようとしているだけなのだ。

 

 だから、助けたいと思った。

 

 死を求めているのではなく、生に希望を見出せない状態にある事が分かったから、力になりたいと思った。

 

 家族なのだ、義理の姉として幸せを願ったのだ、心を奪われた一人の女なのだ――――愛する人の生と幸せの為に動く事の何が悪い。

 

 だがしかし、あたしに出来る事は幸福の未来に続く道を拓く手助けまで。直接道を拓くのも、その道を往くのも、当の本人であるキリトが自らの意志で動かなければ真の意味で為されない。他人が敷いたレールの上を歩くだけなのは本当の幸福とは言えない。

 そして、キリトが幸福を全て余すことなく享受する為には、今の思想は邪魔でしかない。他者の為に動く事も美徳だが、『過ぎたるは猶及ばざるが如し』という言葉のように美徳も行き過ぎれば欠点だ。

 それを矯正する為に、根幹となっている今の強さを全て否定しなければならないのである。

 自分を蔑ろにする人が幸せを求めたところで、結局他者を優先して手放す。そのままでは幸せを掴めないのだから。

 

「これは、殺し合い……殺し合い……」

 

 ブツブツと、まるで暗示のように繰り返しキリトは呟く。それほど彼にとって《決闘》と《殺し合い》とは分けるべきものらしい。

 とは言えそうなった原因の一端はあたしにもあるだろう。リアルで武道を教えている時はその武道のルールに倣うようにしていて、偶に出る手癖脚癖を矯正する為の一つとして、『手合わせでは正々堂々』を旨とするよう口を酸っぱくして言った覚えがある。連れて行かれた研究所で殺しを経験した彼にとってその過去と区別する為の一つとして捉えている可能性は十分ある。

 それに、さっきはキリトの認識を嘲笑ったあたしだが、その考え方自体は好ましいと思っている。あたしとの手合わせでアッサリと《殺し合い》と考えられるとそこはかとないショックを受ける。今は彼の方がそのショックを味わっているのだが。

 ――――などと思考していると、呟きを繰り返していたキリトは一つ深呼吸をした。

 それを終えたキリトは決意を新たに固めた者特有の鋭い目つきをしていた。ハイライトこそ無いが強い意志が感じられるというその矛盾を、やはり危ういと感想を胸中で抱く。自然と目を眇めて見据え返す。

 

「……分かった」

 

 強い意志を感じさせる眼に気圧される錯覚を覚えながらも見据え返していると、キリトは徐に言葉を発した。どこか苦しげに、そして後戻りは出来ない段階まで来た事を哀しんでいるような声音に注意を引かれる。

 一言一句、聞き逃す事が無いように。

 ここまで決断させた者の責務から逃げない為に。

 そう耳を傾けた時――――立ち会っている最中だというのに、彼は静かに目を瞑り、何事かを呟いた。数メートルの距離を開けているあたしにもそれは聞こえず、口の動きから読み取ろうにも読唇術を心得ていないので分かる筈も無かった。だから彼が何を呟いたかは分からない。

 そしてあたしは、その呟きの直後、全身に重石を乗せられたような重圧を受けた。リアルの鍛練の一環で四肢に重錘バンドを着けて負荷を大きくする事で効率的な体作りをしていたあたしだが、その負荷なんて目では無い重苦しさを感じる。加えて嫌な予感というのだろうか、とにかく脳裏に警鐘が響いて止まない。冷や汗も同様。

 愛刀の柄を握る両手も、じっとりと汗が浮かんでいるように思えた。

 

 ――――マズい……過小評価していたのはこちらの方だったか……ッ?!

 

 黒尽くめの華奢な体から発せられる異様な圧迫感に、キリトの脅威度を限りなく上方へ修正する。

 命の奪い合いを直に経験していないあたしが偉そうに言える立場では無いと自覚していたけれど、どうやら自覚はまだ足らず、理解も十分には出来ていなかったらしい。少なくとも今まであたしが剣道の試合や仮想世界で立ち会ったALOプレイヤーやMob達の中でもダントツで、較べるのも烏滸がましいくらいの威圧感が彼にはある。舐めて掛かれば一瞬で敗北するという確信を持つくらい驚異的に感じられた。

 何事かを呟いてから見せた、今まで見た事ないくらいの豹変に戦慄していると、気持ちを切り替え終えたらしいキリトは閉じていた瞼を開き、先ほどよりも鋭くなった双眸で射抜いて来た。

 その眼はやはり光を映さず――――それどころか、どこか茫洋としていて、立ち合いの相手であるあたしをしっかり認識しているかも怪しい虚無を湛えている。よくよく注視すればその双眸の焦点はこちらに合わされていない。かと言ってどこかに合わせられている訳でも無い。視界全体を見渡すように、彼の左右の黒い瞳は真っ直ぐ正面に向けられていた。どこか『人形』という印象を抱く瞳の向き方だ。

 その印象に嫌悪感を覚え、思わず顔を顰めてしまう。人間を『人形』と見る事に関してあたしは嫌悪感を持っているので、今のキリトに抱いた印象は本来抱く筈も無いもの。それなのに抱いたという事は、今のキリトはつまりそういう事なのだろう。

 

「今、何をしたの」

「……」

 

 半ば確信を抱きつつ投げかけた問いに、しかし彼は答えない。

 というよりも茫洋と虚空を真っ直ぐ正面に向けられている瞳で見て、存在感が希薄になっている彼に、あたしの声が届いているかも怪しいところだ。聞こえているのだろうが、脳がそれを理解しているかが怪しい。

 その予想に内心で舌打ちする。ひょっとするとさっき誰にも聞こえないくらい小さな声で呟かれた言葉は、キリトが連れ去られた先で殺しの技術を叩き込んで来た研究所にて施された暗示の類だったのかもしれない。

 幼い子供も、学が無いとは言え生きている動物をその手で殺す事には忌避感を覚えて当たり前。虫や犬、豚というように種族からして違う動物であればまだ精神的抵抗は少なくて済むが、しかし同じ人間を相手にしてであれば話は違う、大人ですら恐れる事なのだから二の足を踏んで当然。自分の命が懸かっていると言っても決断出来る子供は極少数だろう。

 キリトはその極少数にカテゴライズされている。具体的な数や手段、状況は訊かない様にしたので知らないが、しかし『人を殺した』という事実そのものは既に知っている。日本へ帰ってくるまでの本人が辛うじて記憶している話を聞いた限りでも、殺した人数が既に数十は超えている事も知っている。

 そんな彼も最初は躊躇を覚えたという。当然だ、平穏とは言えなかったものの殺しの日々とは無縁ではあったのだ、躊躇い無く出来る筈も無い。

 しかしキリトをモルモットとして引き取り、非人道的な人体実験を繰り返しつつ、その研究所に居たらしい他の子達と殺し合わせていた研究者達にとっては、『殺し』を躊躇う感情は邪魔以外のなにものでもない。

 であればどうするか。

 一つは一度、本人の手で殺させて精神的抵抗、そして『もう後戻り出来ない』という認識を芽生えさせて、生死の極限の状況に置く事。生にしがみ付こうとするなら、死にたくないから人を殺す事も厭わないという者へと自然になる。『死にたくないから仕方が無い』と免罪符を覚えさせる手だ。

 二つ目は、洗脳。マインドコントロールだったり、あるいは暗示でオンオフを切り替えたりして、精神崩壊を防ぐ事。

 恐らくだがキリトはその両方を経験している。一つ目の方法でも躊躇が消えなかったから、恐らくは暗示の方に切り替えられた。

 そして今、キリト自身が刷り込まれた暗示を使って、気持ちを切り替えた。恐らくは《剣士キリト》としての意識から《人間兵器オリムライチカ》へと。意識では《オリムライチカ》のままである彼にとっての全力の定義は、恐らく本当にこれまでの全てを意味する。

 それほど今の自分を否定されたくないという事だろう。

 その気持ちは分からなくも無いが、それでもあたしは全力を以て、今の義弟を叩き潰さなければならない。力の使い方や信念を間違っているとは言わないが、自分を蔑ろにする事を疑問に思わないという一点だけは間違っているのだから。それを直す為に潰さなければならないのだからどうしようもない。

 そう、自分に免罪符を作って罪悪感と自己嫌悪を一時的に頭の隅へ追いやり、ALOで古代級――上から二番目の、ほぼ最高に位置するレア度――の長刀を構え直した。

 

 





 はい、如何だったでしょうか。

 戦闘総括:SAOがレベル制で力押しなら、ALOはプレイヤーのセンス次第。つまりALOプレイヤーの方が技術では上を行く(原作や多くの二次創作でSAO経験勢が強いんだから、偶には逆転現象があっても良いじゃない)

 実際問題、ALOで十二分に強いプレイヤーがSAOのレベル制でステータスブーストされたら、手が付けられないと思うの。リーファやユージーン将軍レベルだと。

 あと、シノン視点で少し触れましたが、愛刀ジョワイユーズ、もとい本作でのALOプレイヤーのSAOでの扱いについて一応補足を(アキト死んでるんでほぼリーファ限定ですが)

 まず大前提として

・『ALOサーバーはSAOサーバーのコピー版である事』

・『装備や値の互換性は効いている事』

 この二つを念頭に置いて下さい(本作独自設定) まぁ、互換が効かないとそもそもリーファは一切装備を持っていない状態な訳ですが。

 本文にあるようにALOの世界はプレイヤーのステータスでは無く、装備とプレイングスキルで勝負が決まる側面を持ちます。極論初期ステータス(一定量の経験値を得て貰えるポイントを振っていない状態)でも剣速や移動速度が跳び抜けていたら一撃でPKが出来るくらい極端です。原作三巻のALO編で、ALOにログイン直後の原作キリトがしています(SAOデータ引継ぎですが、ポイントを振っていなかったので初期ステは確実)

 原作だとSAOからデータを引き継いだキリト以外の原作メンバーは、ALO古参組よりもHPの量が多いと、原作七巻アスナ視点で明記されています

 そしてリーファはALOだと古参プレイヤーに位置しています。そんな彼女が本作SAOに来た時のレベルは30。

 つまりSAOでのレベル30≒ALOでの一流プレイヤーのステータス。

 原作アスナのレベル90前後=ALO古参組(30前後)を大きく超えるステータス。

 そして装備に関して。

 こちらはALOにレベルの概念が無いので非常に基準が曖昧ですが、基本的にレアな装備ほど高性能且つ高耐久値なのはどのゲームも共通しています。

 ALOの装備のランクには原作で《伝説級》と《古代級》が明記されており、《伝説級》の方がレア度は上です、サーバーに一つなので。エリュシデータのようなSAOでのユニーク装備のようなものです。レア度からすると九十層台後半級。

 《古代級》は《鍛冶》スキルの高い鍛冶妖精プレイヤーにレアな鉱石を持ち込んで依頼する事で作成出来ます。つまり量産は可能ですが、原作の感じからして高難易度ダンジョンの鉱石でなければならない印象があります。

 そんな鉱石から作られる古代級は、SAOでの本作ユウキの愛剣ルナティークと同等のレア度。レア度からすると七十層~九十層台前半級。ゲームの難易度後半(四分の三以降)を高性能装備で固める関係上、古代級はそこに該当。種類は多いので同じランクでも性能に結構バラつきはある。

 そして本作に於けるジョワイユーズのレア度は、古代級(独自設定、原作では不明)

 つまり関係性は以下の通り。

要求筋力値
 1)ルナティーク(七十層台後半)
 2)エリュシデータ(五十層LA)
 3)ダークリパルサー(五十五層レア)
 4)ランベントライト(五十層台後半)
 5)ジョワイユーズ(三十層台)

攻撃力&耐久値
 1)ジョワイユーズ(八十層台)
 2)ルナティーク(七十層台後半)
 3)エリュシデータ(五十層LA)
 4)ダークリパルサー(五十五層レア)
 5)ランベントライト(五十層台後半)

 なので本作に於けるALOプレイヤーであるリーファの装備は、要求される筋力値こそレベル30台(ALO上位ステータス)であるのに対し、性能は最前線(レベル90前後)でも通用する。故にキリトとの斬り合いで武器が壊れなかった、という理屈になる訳です。

 かなり無理矢理なこじつけだと思いますが、御了承頂ければと思います。



 ――――ちなみに本作のリーファ、体術では全盛期愉悦神父、剣術ではNOUMINと比古清十郎(るろ剣師匠)を参考にして描写していたりする。



 何か本作最大の反則的キャラになりそうな予感(汗) ま、まぁ、お師匠キャラだし……っ(汗)

 では、次話にてお会いしましょう。


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