インフィニット・オンライン ~孤高の剣士~   作:黒ヶ谷・ユーリ・メリディエス

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 どうも、おはこんばんにちは、黒ヶ谷・ユーリ・メリディエスです。

 今話は前半キリト、後半フィリア視点。

 レイン達と別れてからのキリト側の行動を描写しております。と言うより別れてから前話のシノン視点でキリトが帰って来た時までにあった場面の一部、ですかね。暫くはキリトサイドです。

 文字数は約二万二千。

 ではどうぞ。



第八十一章 ~探索:深緑樹海セルベンティス~

 

 

 レイン達と別れ、乱立している巨大な木々の枝葉が陽光を遮っているせいで薄暗い樹海の中を進んでいく事暫くの後、人工物と分かるものが視界に入った。表面は風化して罅が入り、長い間放置されたが故に蔦や苔がこびりついているが、神殿風の造りである事からフィリア達から聞いていた回廊神殿とやらで恐らく間違いない。

 マップを頼りに前を歩いていた俺が肩越しにフィリアに視線を向けて目で問えば、彼女はしっかりと頷いて見せたため、どうやらこれで合っているようだ。

 聞いていた通りついさっきまで居た大神殿前の広場――ユウキとルクスがホロウ・リーパーとやらと死闘を繰り広げた場所らしい――から見て丁度西側に位置している。

 フィリアから貰ったマップデータによれば、迷宮区に規模こそ劣るものの、それでもダンジョンと言えるくらいの大きさは誇っている。この中を高レベルの騎士型Mobが複数で徘徊している事を考えると、こちらのMobのHPは《アインクラッド》のMobより平均二倍ほどもあるのも相俟ってあまり入りたくない思いに駆られるが、レイン達が探索出来ていない場所の一つなので背に腹は代えられない。ここをどうにかしないと《ホロウ・エリア》から出られないかもしれないのだ。

 まぁ、ここに手掛かりがあると決まった訳では無いのだけど。

 

「キリト、立ち止まったままだけどどうしたの?」

「ん……騎士型MobはHP量もそうだけど、全体的にダメージカット率が高いから戦闘が長引きそうだと思って……」

「あー……」

 

 騎士型MobはHP量が基本的に高めでソードスキルの使用により攻撃力も侮れないのだが、恐ろしいのはそれだけに留まらない。全身甲冑という見た目のせいなのか全体的に与ダメージが少なくなる傾向にあり、ソードスキルを警戒して慎重になる事も相俟って戦闘が長引きやすい。

 今まで基本一体でうろついていた騎士型Mobが複数で居るという事は、単純に数の分だけ戦闘時間が倍になるどころではない。

 胡乱な思考を広げていた理由をフィリアも察したらしく、若干遠い眼つきになった。宝箱を護るモンスターとして抜擢されるのは騎士やスケルトンといった人型タイプのMobなので、そういう手合いで苦戦した経験が多くあるのだろう。

 短剣での戦闘スタイルはヒット&アウェイで、高火力を叩き出すのならクリティカルダメージを底上げするのが一番手っ取り早い。基本的に短剣を選んだプレイスタイルだと敏捷値にレベルアップボーナスポイントを振る傾向にあるのでクリティカルダメージも大きくなり易い。そのためシリカやフィリア、そしてアルゴなどはクリティカルを意図的に狙う戦い方を取っている。

 しかし、全身甲冑の騎士Mobにはクリティカルが出やすい――基本的に頭部や首、目など――が存在しないため、短剣や細剣は非常にダメージを稼ぎにくくなる。基本攻撃力が低い武器にとっては天敵に近いのだ。

 ちなみに騎士Mobに効果的な武器は片手棍、両手棍、両手剣、両手斧など打撃武器や重量のある武器である。これは恐らく『甲冑ごと叩き潰す』事に西洋剣術は主眼を置いている事に起因しているのだと思う。

 つまりリアルだと華奢で小柄な俺に最も適していない剣術という訳だな……

 

「それに囲まれると厄介だから……フィリアは無理して攻撃しなくても良いから、トラップや《索敵》での敵の位置把握に努めてほしい」

「つまりクラウドコントローラーじゃなくて、スカウト役に徹しろっていう訳だね」

「そう。戦闘中、流石にそこまで俺も気は回らない」

 

 ソロならむしろ敵が集まるのは構わないのだけど、今はユイ姉とフィリアが居る。ユイ姉の死んでも蘇るという話を信じた訳では無いけど、曲りなりにも俺と鍛練をした事で上級プレイヤーに片脚突っ込むくらいには技術も付いたし、ステータスも高く、《ⅩⅢ》まであるからあまり心配していない。俺が闘技場で入手した【ホロウレギオンコート】を譲っているため防御面に関しても心配ない。

 一番心配なのは防御面に難があるフィリアなのだ。

 クラウドコントローラーとは敵へのデバフや味方へのヘイト管理を行い、HPが少なくなったら一時的に前線に出て攻撃を仕掛け、注意を僅かにでも逸らし、後衛に居たメンバーが前衛メンバーと交代する時間を作る役割のプレイヤーの事を指す。タンクが防御という数値に依存して時間を稼ぐのなら、クラウドコントローラーはパリィや回避などのテクニック面で時間を稼ぐ役割と考えられる役割だ。

 ちなみにクラウドコントローラーの間でメジャーな武器は長槍や両手棍、短剣、細剣など。《攻略組》だと細剣はクリティカルダメージ量の多さから専らアタッカーに分類されている節があるので、長槍や両手棍がこの役割の使い手に多い武器となる。

 短剣は俺くらいしか使い手が居なかったし、その俺も専ら片手剣ばかり使っているので当て嵌まるとは言えない。それ以前に俺はアタッカーの中でも秒間ダメージを最も多く叩き出すダメージディーラーである。遊撃としてクラウドコントローラーやスカウト、時にはタンクもしているけど、基本はアタッカーだ。

 ともあれ、フィリアにクラウドコントローラーをこなせられる技術が無いと信じていない訳では無いが、やはり数の差というのは覆し難い要素。一体の敵と応酬を繰り広げている間に死角から攻撃される危険性が非常に高く、それのフォローをするだけの味方の余力もあるとは限らない。

 故に安全策としてスカウトをしてもらいたかった。

 スカウトは、MMORPGでは《斥候》の役割を意味している。主な仕事はフィリアが言ったように、《索敵》スキルを用いて周辺の敵の位置を把握したり、トラップの発見と解除を担ったりなど。敏捷性が求められるためかクラウドコントローラーが兼任する事が多く、また《隠蔽》で隠れる際に小型の武器が向いている事から短剣使いに比較的見られる。細剣が攻撃の側面を強く持つとすれば、短剣は支援・援護の側面を持っていると言える役回りだ。

 事実、俺が初めて直接指導する事になった相手である《月夜の黒猫団》のメンバーの一人、ニット帽を被っていた盗賊風の装いの短剣使い《ダッカー》はクラウドコントローラーとスカウトの両方を担っていた。罠だった宝箱を最初に開いたのはスカウトの役割を担っていた事で『そういう役割』と他の仲間に認識されていたからである。

 俺が初めて会った時は慌てに慌てて逃げていたせいかスカウトの仕事もマトモに出来ず次々と周囲に居るモンスター達をリンクさせ、他にプレイヤーが居たならトレイン、最悪モンスタープレイヤーキルをしてしまっていた程に酷かった。

 後から訊いたところ一応役割としては認識していたものの、それがどれだけ重要な仕事なのかは理解出来ていなかった。本人曰く、ある程度レベルを上回ってる階層なら大丈夫だろう、と小まめに索敵する事を面倒臭がっていたくらいには。怠ったせいで何が起こるか――――最悪、全滅する事を考えていなかった/目を逸らしていたのである。

 ケイタに頼まれた事で大義名分を得た後は、片手剣使いへの転向を目指していたサチとは別のベクトルで《月夜の黒猫団》の中で最も厳しく指導したので、嫌でも実力や索敵の精度は上がっていった。

 

 ――――それでも俺が歳下という事とダッカーの元々の楽天的な性格が災いして、あんな事になった訳で……

 

 

 

「キー?」

 

 

 

「っ……」

 

 過去の失態とその後の事を思い返していると、耳元で声を掛けられた。流石にすぐ横で声を掛けられれば驚きもするので肩を跳ねさせながらそちらを向けば、大人の姿になっている黒尽くめなユイ姉が眉根を寄せて俺を見詰めていた。

 心配そうで、同時に何か不満を抱いているような顔に、内心でドキリとする。

 まさかとは思うが、俺の思考を読まれている……?

 

「キー、どうしたのですか。フィリアさんと話していたと思えばいきなり黙り込んで、しかも顔を歪めて……さっきの顔、少し怖かったですよ」

「……俺、そんな顔を……?」

「ええ」

 

 思考を直接読んだ訳では無く、俺の表情を見て様子がおかしいと思って声を掛けたらしい。

 それにしてもそんなに怖い顔をしていたのかと思うが、ユイ姉には即座に肯定を返され、フィリアはどうなのかと思って顔を向ければ、やはりこちらも同じように頷いた。しかもさっきまで冷静さを思わせる表情だったのに、今はこちらを第一層の教会に住む子供へ向けていた相手を心配する顔になっているから説得力があり過ぎる。

 

「何を考えていたのですか?」

 

 明確に察している訳では無いものの何か良くない事を考えていた事は察しているようで、有無を言わさない威圧感を出しながらユイ姉は問い質してきた。なまじ今は大人の姿で背が高く、怜悧さが増しているだけあって、普通に怖い。

 これは話題を変えて煙に巻く事も出来そうにないと観念して、何を考えていたのかを話す事にした。

 とは言え流石に全部語るのは精神的に辛いから一部分だけに留めるつもりだった。《月夜の黒猫団》の事は未だに思い返すのも辛いから。

 

「……黒猫団に居た、ダッカーっていう短剣使いの事だよ」

「黒猫団……聞いた話だと、確かサチっていう槍使いが元居たギルドだっけ……」

「フィリアも知ってたか」

「キリトとユウキがデュエルした日のお昼に、ユウキから教えてもらった。キリトから懇願されて鍛える事になった攻略組随一の槍使いだって」

「そっか……ああ、そうだ。そのサチが居たギルドは《月夜の黒猫団》と言って、サチ含めて五人の小規模ギルドだった。そして攻略組に入って戦う事を目指していた」

「攻略組を……でも、確か宝箱のトラップで壊滅したって……それにリーダーは、サチを残して……その……自殺したって……」

 

 どうやらそこまでユウキは話していたらしい。珍しい事もあると内心で意外に思った。

 黒猫団の事は、俺の事情を抜きにせずとも別に広まってもおかしくない話だ。《アインクラッド》ではこの手の話は残念な事に事欠かないから、ユウキが話してもいいと判断したのなら別に構わない。俺もその事を特に口止めしている訳では無いから。

 それでも、サチと《月夜の黒猫団》の事は俺のトラウマになっているから、それを知っているユウキが当時の事情を知らない誰かに話すというのはとても意外に思えた。フィリアの何かがユウキの琴線に触れたという事なのだろうか。

 あるいはサチの加入について説明する為に話さざるを得なかったのかもしれない。最初期から居る攻略組の最少数精鋭ギルド《スリーピング・ナイツ》への唯一の加入者だ、ゴシップ好きならば恰好のネタだろう。ユウキの【絶剣】という異名があってそういった事を集めている情報屋は追っ払われているけど。

 一度だけその時のユウキを見かけた事があるけど、物凄く怖かった。純粋な恐怖を覚えたランキングではトップクラスだったと思う。

 ちなみに一番怖かったのは昨日のリー姉である。威圧感もそうだけど、攻撃が全部避けられるか弾かれるかして届かないあの絶望感といったら、SAOでの記憶で一、二を争う程だった。今はもう吹っ切れているが、曲がりなりにも一年半をソロで生き抜いた実力を自負していただけにショックは大きかったものである。当然恐怖はもっと大きかった。

 

「そうだ。そして宝箱を開けたのは、さっき言ったダッカーっていう人で、クラウドコントローラー兼スカウトの役割を担っていた」

「……あまり故人を悪く言いたくはないけど、宝箱のトラップの解除に失敗してる時点でかなりお粗末なような……」

「キーのモニタリングに際して私も見ましたが、かなりの体たらくでしたよ。攻略組が手を付けていない隠し扉を見付けて、その密室の中にあるいかにもな宝箱を見て、罠だと注意を喚起したキーとサチさんの言葉を軽く流して開けていましたからね。私が記憶した限りでは特に罠の有無を確認しているようにも見えませんでしたし」

「うっわ……注意を流すどころか、確認すらしなかったって、それは酷い……仲間の命を預かってる自覚があったのかな、そのダッカーっていう人」

 

 ユイ姉の酷評を聞き、フィリアもまた酷評を下した。

 実際酷評を下されてもおかしくはない。クラウドコントローラーはタンクの一時的な代わりのようなものだからともかく、スカウトは周囲の索敵を担当しているというだけでもかなり重要な役割を持つ。戦闘では確かに戦力として低いだろうが、サポート面で見れば途轍もなく重要だ。

 いや、戦う前から注意を促す役割なだけに、ある意味アタッカーやタンクよりも余程重要と言える。

 戦いは、実際に戦い始める前から既に勝負が決まっているという。獣と獣の戦いは意地の張り合いだが、それでも個体差によって勝率は歴然としてくる、経験が豊富ならその分だけ勝率は高くなる。

 人間も同じだ。相手の情報を集め、対策を練り、必勝に近い作戦を立てた上で難敵に挑む。攻略組はこれまでそれを繰り返してきた。

 俺が毎日迷宮区に籠って情報を集めていたのも、《情報》というものがどれだけ重要なのかを理解していたからだ。実際アルゴに渡した情報が攻略本に載せられ、それを参考に力を付けて来たプレイヤーを俺は幾人も見て来た。クラインやアスナ、ユウキにラン、サチといった親しい面子だけではない、《攻略組》として戦っている者だけでなく今も《アインクラッド》を生きている全てのプレイヤー達が、攻略本という《情報》を頼りに力を付けて生きている。

 情報が無く、手探りの状態では敵の攻撃方法も分からない。その状態で戦えば死ぬ確率は高い。フィールドに居る雑魚Mobならともかく、フィールドボスやフロアボス級ともなれば情報は絶対必要だ。

 だからこそ俺はこれまでその生命線を提供して来た。

 それでも俺の手の届かない事はある。パーティーでフィールドやダンジョンの探索をしている間のモンスターの接敵だ。敵の情報や生息分布は判明しても、実際どこに居るかまでは分からないし、何時誰がどのモンスターと会うかなんて分かる筈も無い。分かるとすれば、それはカーディナルくらいなもの。

 そしてパーティーの命を預かっているのが、スカウト役のプレイヤーなのだ。《索敵》スキルを用いて周囲にどれくらいの数、どれくらいの距離に敵が居るのかを把握する事で、パーティーはそれに備える事が出来る。不意打ち、奇襲が最も危険なのだから。

 次にトラップ系。運の悪い事に《月夜の黒猫団》が引っ掛かったトラップは最悪と数えられる二種類が重なったもので、通路などに仕掛けられているトラップは毒やステータス低下などのデバフが基本。それでも時にそれが落とし穴になって命を刈り取って来る、特に新しい種類のトラップともなれば対処法が分からないのだから尚更。

 何時どこで新種のトラップが出るか分からない以上、避けられるものは避けるべき。そして常に気を張っていなければならない。

 スカウトとは、戦闘面ではともかく、攻略や探索全般で仲間の命と安全を預かる重要な役割を持つのだ。

 ――――と、かつて俺はダッカーに滾々と、それはもうしつこいくらいに話したのだけど、結果はあのザマである。

 俺が今指導しているリー姉にシノン、ルクス、ユイ姉の四人は危険性を理解して――なまじ失敗談を話しているだけに――真剣に聞いてくれているから助かっているが、最初はあまり気乗りしなかった。最初に教える事になったリー姉とシノンに特殊な事情が無ければ、きっと今でも誰に対しても指導をしていないと思う。ちょっとした助言くらいはするだろうけど、本腰を入れる事は無かっただろうと断言出来る。

 誰かに何かを教える事が何気にトラウマになっているのだ。好きではあるけど、苦手になっている。他者の命を預かるのならそれも当然の話だけど。

 そう思考していると、フィリアが控え目にこちらに視線を向けて来る事に気付いた。何だろうと思って顔を向けると、フィリアは僅かに躊躇う素振りを見せる。

 

「どうしたんだ?」

「ん、と……さっきキリトの顔が恐かったのって……もしかして、わたしが同じようになるかもって思ったから……?」

「……と言うよりは、スカウトを誰かに任せる事なんて久し振りだからふと思い出したと言った方が正確かな……」

 

 《攻略組》の上位に入るレベルと実力を持つフィリアが同じ轍を踏むとは思っていない。

 むしろ複数のMobから護り抜けず、死なせてしまうかもしれないという恐怖心がある。

 それに今までほぼソロで活動していた為に他者にスカウトの役割を任せるのは《月夜の黒猫団》と共に活動していた時以来の事で、それを思い出して、ダッカーの事を想起したと言った方が正確なのは事実だ。

 それを明かすと、フィリアは納得した面持ちで頷いた。ユイ姉は未だ難しい面持ちでこちらをじっと見てくるからちょっと怖くて視線を合わせないようにしている。

 

「そっか、キリトって基本ソロだったもんね。地下迷宮の時はそもそも《索敵》を発動するより前に敵の方から襲って来てたし……」

「あの勢いばかりは本気で内心冷や冷やしたな……」

 

 アスナやユウキよりも僅かに高レベルに至っているモンスターを含めて十体以上――時に二十体――も群れを為して襲ってくるなんて、ポッピングトラップくらいでしか経験が無かったし、その数を相手にしている時に仲間が居る状況と言えば《月夜の黒猫団》壊滅の時のみ。あの時は疲労もあったが、ユイ姉も居たからとにかく戦線が崩壊しないよう常に気を張り詰めていた。

 あの時ばかりはソロである事への拘りを捨てて、忙しいだろうと分かっていながらもヒースクリフへ救援を要請し、アスナ達を送って来てもらって良かったと今でも思っている。正直あれだけの数を一人で数時間ぶっ続けて相手するのは疲労があったあの時は流石に無理だったと思う。

 万全の状態でなら可能だっただろうが、《ⅩⅢ》があっても死神と遭遇した時点で詰んでいた可能性は高い。というか確実に死んでいた。ユイ姉曰く、あのボスは倒される度に強化されて無限に復活する設定だったようだし、ユイ姉が居なければ死ぬしかなかったのは明白である。

 

「えーと……でも、今は私も戦えますし、キーもあの時より強い上に疲労も特に無いですから、油断さえしなければ十分戦えると思います。懸念するのも大切ですが、気にし過ぎるのは却って良くないですよ、キー」

「……ん」

 

 ずっと前からこういう思考を続けて来たせいで既にクセになってしまっているが、気にし過ぎて行動を制限するのは却って良くないのは確か。

 楽天的になる訳にはいかないが、時には思い切って行動するのも一つの手と言えるだろう。

 実際第七十四層のフロアボス戦時、今後難関を極めるだろう攻略での士気向上を狙って秘匿していた《二刀流》を解禁した。あの時、俺は後先を考えずに解禁し、何が何でも軍のメンバーを生かそうと必死だったのだ。全く同じ状況ではないが、先の事を恐れて行動を狭めるのは確かに良策では無い。

 不安はある。《ホロウ・エリア》でのトラップを経験していないから、どんなものがあるのかという恐れもある。

 けれど、恐れてばかりではいられない。

 恐れを抱く事は良い。抱いた恐れは自分の身を護る為の策を考え出すのに必要なファクターだから。重要なのは、恐れから逃げる為に行動を狭めるのか、それとも恐れを乗り越える為に行動を変えないのかだ。

 

「……じゃ、じゃあ……」

「「ん?」」

 

 もう目の前で喪いたくない想いもあって、力を付けて来た。それなのに逃げては意味が無い。

 少しずつでも、心に根付いた恐怖心を克服していかなければならない。

 逃げてばかりでは、いられない。

 これまでソロを貫いて来たのは《ビーター》としての立場と【黒の剣士】の絶対性の為だけでは無い、心の奥底では目の前で人が死ぬ光景を恐れて、それを見なくて済むように一人で居る部分が確かにあった。腕防具《狂戦士の腕輪》のバフ効果が絶大で、《ⅩⅢ》や今までの戦闘スタイルが一対一、一対多に馴れているからでもあるが、やはりその理由が一番大きい。

 目の前に居ながら護れなかった、全てが始まった日の夜に初めて見た、この世界での人の死。

 武具だけ残り、肉体は欠片も残らず砕け散るその死に方は、真っ当でない人の死を幾通りも幾度と無く見ている俺でも恐怖を覚えた。同時、ある意味現実よりもアッサリと死ぬ事にもそれは抱いた。

 HPという数値がゼロになるだけで、頸動脈を咬み千切られ大量出血をしている訳でも内臓を抉り出されている訳でも無いのに死ぬ。なまじ現実で死に多く触れていたからこそ、その異常性が克明に映ったのだろう。

 その恐怖心が《月夜の黒猫団》一件で酷くなったのは自覚しているが、あれから一年が経とうとしているのだ、もういい加減克服しなければならない。何時までも逃げ続ける訳にはいかない。

 何もかも一人でやろうとしたから、リーファ達を助ける代わりに自分の身を犠牲にしなければならなくなった。その事実から目を背けるわけにはいかない。

 今回は奇跡的に《ホロウ・エリア》への強制転移で助かったけど、二度目は無い。取り返しが付かなくなる前に、その二度目の事態が来る前に人と一緒に戦う事への恐怖心を克服しなければ。

 あるいは……

 

「頑張って護るから……絶対、死なないで……」

 

 その恐怖心を抑え込めるくらい、心を強くしなければ――――

 

 ***

 

 トレジャーハンターとして攻略組が見向きもしないダンジョンへ籠る事が日常となっていたわたしは、キリトという少年の事を多くは知らない。

 《ビーター》。【黒の剣士】。《織斑一夏》。《出来損ない》。《アインクラッド》で二人目のユニークスキルホルダーにしてマルチホルダー。システム外スキルの権化。オレンジ・レッドプレイヤーキラー。《笑う棺桶》を潰した者。SAO一の最凶プレイヤー。

 少年について広く知られているとすれば、こういったものが大半。それも殆どが悪い事ばかり。

 去年のクリスマスの時には眼が死んでいて、会話なんてしていなかったから人間性については知らなかったが、レインから幾らか聞いていたので情報屋が刊行している情報誌の内容に惑わされる事は無かった。いや、レインから聞いた印象とは真逆である事に困惑した事を考えれば、ある意味惑わされたとも言える。

 闘技場にて久し振りに顔を合わせた時は、あの時よりは多少マシになったという印象しか無かった。戦闘を見れば噂に違わぬ――――いや、噂以上の実力の持ち主であると理解させられた。《出来損ない》なんて嘘だろうと声を大にして言いたいくらいには。

 次に地下迷宮にキバオウの手で囚われたシンカーを助けに行く際に同行し、そして今、《ホロウ・エリア》で大人の姿へ変わった細剣を携えているユイちゃんと共に回廊神殿を探索している訳だが、この短期間の間でこの少年への印象はガラリと変わった自覚がある。

 これまでわたしはこの少年がソロを貫いているのは《ビーター》としての立場故だけかと思っていた。蔑まれる立場だから他者から受け容れられず、理解者であるユウキ達は巻き込まない為に距離を取っているのだと。

 その側面もあったのだろうが、《月夜の黒猫団》の話を聞いているとこの少年は純粋に目の前で誰かが死ぬのを恐れていて、それを見たくないから一人で居るのではないかと思うようになった。そうでなければ泣きそうな顔で懇願して来ないだろう。

 今、わたしの前を歩いている彼の顔は既に真剣で、警戒を怠らない剣士の顔になっている。

 今見せている剣士としての強い顔、昨日やさっき見せた泣きそうな子供の顔、ユウキとのデュエルで愉しそうに凄絶な笑みを浮かべていた顔、振る舞った料理を誰かに食べてもらって嬉しそうにしている顔……一体どれがキリトにとって『根幹』と言える顔なのだろうかと、《索敵》でマップ上に映るMobを示す赤いドットの確認を怠らないようにしながら考え続ける。

 さっき見せた顔、そして『死なないで』と言った声音から察するに、本心であるのは間違いない。恐らくだが人の死を見る事に恐れを抱いている事も。

 けれど、それはある意味矛盾しているのではないだろうか。

 人の死を恐れるのなら、どうしてオレンジ・レッドキラーをしてきたのだろうか。

 そしてその死への恐れに、自分自身は入っていないのだろうか。ただ純粋に他者の死を恐れているのは普通に考えておかしい。他者の死を見る事で自分の死を幻視し、そこから初めて死への恐怖を抱くのが普通で、そのせいで戦えなくなる人が多かった。現に教会に住んでいる子供達はそうだったのだ。

 しかしキリトは自分が死ぬ事を恐れているように見えないし、聞き知った行動を考えると尚更思えない。

 そこに居る筈なのに、この世界を生きている人間の一人の筈なのに、キリトは意識外に自身を置いて動いているとしか思えない。

 《ビーター》と【黒の剣士】、この二つの呼び名を以て《アインクラッド》の秩序を保とうとしている事は察せたが、それを徹底し過ぎている。まるで《キリト》というプレイヤーがシステムの一部であるかのような振る舞いは歪んでいる。

 

 ――――とは言え、それはこれまでの彼の言動から来る印象に過ぎない。

 

 今のキリトは義理の姉リーファの叱責により一時的に責務から解放された真っ新な状態。それより前ならともかく、今ならこれまでと全く同じ思考・思想を以て動くとは考え辛い。ユイちゃんの言葉に然して渋い反応を示さなかった事がその証拠。

 だからこそ、真っ新な状態だからこそ、かつてから抱いていた恐怖心が表に出やすくなっているのだと思う。

 いや、地下迷宮へユイちゃんも行くと言った時の反対ぶりから察するに、それを素直に出すようになっただけなのかもしれない。以前は苛立ち紛れに反対し、周囲は彼女を連れて行く事に――と言うよりは勝手に行動される方が厄介だと判断していたが故だが――賛同していたから『勝手にしろ』と言い捨てたが、アスナ達を呼び寄せた行動は如実にその本心を物語っている。義理の姉という事もあっただろうが、目の前で喪う事への恐怖心が根底に根付いているのだ。

 だからこそさっき素直に口にされた弱音という本音。

 それはきっといい傾向だ。何も言わず他者が死なないよう――それも自分の苦労や犠牲を度外視して――裏で動いていたのが、今はこちらの実力を信じる形に変わったのだから。裏で動こうにも出来ない状況にあるという側面もあるかもしれないが、さっきのようにささやかな願いとして、願望として口にするだけでも、闘技場で再会してからの短期間で随分良い方向に傾いたと思う。

 ユウキやレイン達の話から筋金入りの自己犠牲者だと思っていたが、それを根底から覆した義姉リーファはわたしの予想以上の傑物かもしれない。僅かどころか完璧に今までの言動・思考・思想を覆し、改善させる方向へと傾けるなど誰が予想出来ただろうか。凄まじい力業ではあったが、今まで《同情》という形で看過して来た彼の《歪み》を矯正出来た彼女は本当の意味でキリトと向き合い、愛情を注いでいたのだと理解させられた。

 闘技場で初めて顔を合わせ、《圏内事件》が勃発した日の午後教会にて話した時には落ち着いた少女だとしか思わなかったが、第一印象というものはあまり役に立ちそうに無い。この義姉弟達は特に。

 

 ――――まぁ、それを抜きにしてもわたしと利害が一致している間の面倒くらいは見ようと、そう好感を持てる人間性である事は確かだ。

 

 目的の為なら手段を択ばないその非情さには戦慄を抱くし、決して大衆の為に少数を切り捨てる方法を正しいとは思わないが、それでも決して間違っているとは思えない。キリトが自らしている行いである事とその行いのお陰で今まで《アインクラッド》が一応の秩序を保てていたのだから。

 恐らくだが、わたしがキリトから離反しようとしない限りは敵対関係になり得ないだろう。

 キリトは優しく、そして非情になり切れない甘さがある。その甘さがユウキ達との近しい距離感であり、優しさがその距離を詰め、新たに理解者を増やしていく要員となる。要は『来る者拒まず、去る者追わず』の体現者。

 現に何時の間にかわたしはキリトの関係者になってしまっている。レインやサーシャさんという共通の繋がりがあったからだろう。

 そしてそれを、どこか心地いいと感じる自分が居るのも確か。根幹の部分は意地を張って貫こうとするクセに子供らしい甘さがあり、非情になり切れず、それでも非情であろうと振る舞うそのいじらしさは何とも堪らない。大切な人を護ろうと必死になる部分も好感を持てる。

 

 ――――この少年の先をもう少し見ていたいと、そう思えるくらいには。

 

 別にリーファやシノン、ユウキ達がこの少年に向けるような想いは抱いていない。そもそもからしてわたしとキリトの関係は協力者というギブアンドテイクを前提としたもの、彼の提案が自分にとって不利益なものならば容赦なく却下を出すし、場合によっては別行動を取る事も考えている。

 だが自分にとって利益のある話ならばある程度の不利益やリスクは呑み込む。それくらいにはキリトという少年の事を見込んでいる。

 そして、向けられた信頼には全力で応えようとも。

 

「二人共、そこの扉の向こうに敵八体、色はダーククリムゾン……多分レベル130前後の騎士Mobだよ」

 

 回廊神殿に入って少し歩いた先に見えた横開きの扉の向こうには、以前あまりにも実力差があり過ぎる為に探索を控えた未踏の領域が広がっている。それでも《索敵》スキルは範囲内であれば未踏でもマップにドットを映してくれるのでスカウトの役割を全うするくらいなら問題は無い。

 予めレインやユウキが話していた事なので二人は大した驚きは見せなかったが、その数の多さ故か、キリトは思案顔で扉を見詰める。それからマップを開き、地理的にも確認を始めた。

 ユイちゃんは綺麗な細い眉をきゅっと寄せ、その怜悧な顔を義弟へと向け言葉を待つ。

 キリトが作戦を考えている間に周囲の警戒を続けるが、以前来た時には居た騎士Mobの数がいやに少ない事が気に掛かった。リポップしたのなら誰かに倒されない限り徘徊を続けるので、恐らくわたし達以外の誰かが先にここを通ったのだろう。

 もしかするとユウキ達と合流し、《ホロウ・ミッション》とやらが発生した直後に見かけた黒尽くめコートのプレイヤーが片付けたのかもしれない。

 ……そういえば、あの時見たプレイヤーのコートは、今ユイちゃんが来ているコートと同じ見た目をしている。背丈も多分変わらないくらいだし、コートの上からでも分かる肩幅の狭さ、撫で肩も大体同じ。コートの上からでも分かるくらい若干自己主張をしている胸部だけはあのプレイヤーを見付けた場所が薄暗かったせいで分からないので同じか不明だが、身体的特徴は大体似通っている。

 あのプレイヤーがユイちゃんだとは思えない。あの後すぐにキリトと管理区で遭遇したし、この三日間一度たりともキリトから離れた事は無いらしいから必然的に違うのだ。

 あの黒コートのプレイヤーは、一体何者だったのだろう……

 

「……どうやらその八体のモンスターは《フラグメント・ホロウミッション》の討伐対象モンスターみたいだな」

 

 わたしの注意を受けてマップで確認していたキリトは、少し難しい顔でそう言った。ユイちゃんと共に首を傾げているとこちらに可視化したマップを見せてくれた。

 紋様を持っている彼はわたしと違って発生している《ホロウミッション》の場所や内容、討伐対象がいるならレベルと共に名称も記載されているようだった。マップを開いて何やら考え込むようにしていたのは発生しているミッションのエリア被っていたからだろう。

 ミッションの名称は『選定の騎士達』。概要には『かつて滅びを迎えた国の騎士達の無念が鎧に宿り、自らの無念を晴らす者を探し彷徨い始めた。彼らの魂を鎮める為の一歩として力を示せ』とあり、取り敢えず戦えと指示していた。どうやら件の八体のモンスターは、扉の向こうの部屋の中をゆっくりとうろつきながら挑戦者の訪れを待っているようだ。

 

「へぇ……ミッション一つにもそれなりのストーリーがあるんだ。ちょっと意外」

「【カーディナル・システム】が自動生成している無数のクエストはインターネットを介して世界のありとあらゆる神話や伝承、伝記、冒険譚に史実の通説を取り込み、アレンジを施した上で実装しています。この《ホロウ・エリア》で行われているミッションにストーリー性がある以上、恐らくは基になった話がある筈なので、それをある程度残しているのでしょう」

「ふぅん……」

 

 わたしは少し感心した。

 ユイちゃんからこの《ホロウ・エリア》では《アインクラッド》にアップデートされる可能性のある試験が幾つも行われている事を聞いて知ってはいたが、まさかただのデータ取りだけでなく、ミッション一つにすら物語が組み込まれているのはとても凝っている。しかもこの概要を見る限りまだ続きのミッション――――チェーンクエストが起きてもおかしくない。

 というか、今わたしは普通なら知り得ない事を知ってしまったのではないだろうか。

 

「今までわたし達が必死に受けてクリアして来たクエストを、全部システムが自動で作っていたって……」

 

 クエスト掲示板に載っている数が第七十五層到達時点で一万個を超えていたし、殺人鬼オーガの討伐などをこなしても翌週にはまた出ているとか原典の分からないものもよく見かけたが、それら全てがシステムによって自動生成されたものであると知って何だか虚しくなった。

 人が手掛けたのであれば底はあるけど、システムが自動生成していくのなら底が無い。

 自然終わりも無いという訳で……

 

「それはあまり思考しない方が良いと思う。逆に考えるんだ、ユニーククエストでも無い限り幾らでも受けられるって」

「そうだね……」

 

 わたしと同じ思考をしたらしいキリトがどこか遠い眼をしつつ言ってきて、それが一番精神衛生的に良いだろうと思い受け容れる。

 実際限りが無いクエストというのは《圏外》で活動する者達にとってはかなり都合のいい話だ。コルは勿論、敵を倒した際に手に入る経験値の他にクエスト達成での経験値も手に入るし、二束三文でしか売れない素材アイテムもクエストに注ぎ込めば、NPCが経営する店で売った時より高値且つ経験値を得られるというおまけまでついている。

 それを考えれば限りが無い事を不都合とは別に言えない。

 それに第七十六層でパーティー単位の討伐クエストを受けて、その対象モンスターが第一層と同種でありながら第七十六層にも居るタイプなら、得られる経験値的に低層や中層のプレイヤーのレベリングも可能だ。さっきキリトがリーファ達としていたような方法で、低レベルパーティーの中に一人だけ高レベルプレイヤーが居てその人がLAを取れば、そのパーティーは基本経験値だけでも得てレベルアップ出来るという事になる。

 それを何度も繰り返せるという事を考えればむしろ好都合と言える。

 実際のところそういうレベリングは可能なのかキリトに尋ねてみる事にした。生憎と《アークソフィア》についてある程度知りはしても、《圏外》に居る第七十六層のモンスターは知らないのだ。

 

「む……なるほど、そういうレベリングもありだな」

 

 考えたレベリング方法とクエストを無限に受けられるメリットを話してみたところ、意外にも好感触が返って来た。

 

「手隙の攻略組がコル稼ぎも兼ねてクエストをパーティーで受け、その途中で経験する戦闘に中層域のプレイヤー達も参加させてレベリングすれば、自分でコルを稼げるという事になる……うん、一度ヒースクリフ達に話してみるのもいいかもしれない」

「えっ、ホントに? ただの思い付きなんだけど」

「案外思い付きは侮れないと思う。確かにまだ穴はあるだろうけど、骨子の部分は割と現実的で実践可能だからな、現にルクス達で成功している。やろうと思えばこれも出来る筈だ……問題は《攻略組》や立ち往生しているプレイヤーにその余力と精神的な余裕があるかどうかなんだけど」

 

 第七十五層でのフロアボス戦での控え戦力として連れて行っていた第二レイドを全滅させられた為に大幅に戦力が低下している現在、本命である最前線攻略以外に気を回せるプレイヤーがいるのかというのが、キリトの懸念であるらしかった。

 

「まぁ、今この場面では関係無いから後回しにするとして…………んー……」

「……私はキーの判断に従いますが、どうしますか?」

「わたし個人の意見としては避けた方が良い気もするんだけど」

 

 ユウキと一緒に居た時に確認した《実装エレメント調査項目》とやらの内容は大体が破格の要素で、それらに課せられている条件をクリアして《アインクラッド》と《ホロウ・エリア》に実装すれば戦力上昇は見込めるが、無理にそれを狙う必要はないとわたしは個人的に考えている。

 つまり余裕がある時にすればいい。

 現状、敵Mobの数は八体であるのに対し、こちらは三人。しかもわたしはレベル的にスカウト役としてか役に立てないので平均レベルからすれば高いほうではあるもののほぼ戦力外に等しく、つまりは実質二人しか戦力になる者がいない。

 更にユイちゃんも上級者に片脚突っ込み始めたとは言え、それでも一対多の戦いには不慣れなのは確実。イネーブルー色になっているHPを全損しても復活すると知っているとは言え、やはり目の前で親しい者が死ぬ光景は出来るだけ避けたいのが人情。

 キリトもそう思っているから突っ込むべきか否かで悩んでいるのだと思う。

 逆に考えれば、突っ込む事をメリットとする何かを彼は感じ取っている訳だ。

 

「キリトは何で悩んでるの? 戦いは出来るだけ避けた方が良いと思うけど」

「ん……いや、この扉の先の部屋はマッピングされてないけど、他の範囲は大体されてる。扉の奥の空白からするに多分それなりに広いか、あるいは小部屋が二つ並んでるかくらいだと思って……見てないんだからそこに手掛かりがあるんじゃないかなと」

 

 言われてマップを確認すれば、確かにマッピングされている周囲とされていない扉の奥の空白、そして屯している八体のMobの位置からするに大部屋が一つ、あるいは小部屋が二つ程度の空間がある。

 以前は高レベルのモンスターが居るからという事で避けていて扉を開けていない為、その奥に手掛かりがあるという可能性は否定出来ない。

 そこがキリトは引っ掛かっているらしい。

 

「なるほど……それでキリトとユイちゃんの二人で途中に居る八体は倒せそう? 現実的に考えて、レベル差的に多分わたしは戦力にならないけど」

「レイド二つ分のプレイヤーを相手にした時あるし、八体くらいは余裕だな」

「私は少し不安ですね。二体までなら何とか余裕を保てるかと」

 

 キリトの実力を考えるとそれが普通なのか、それともユイちゃんの方が普通なのか、ちょっと分からなくなるコメントを返されてしまった。多分キリトの方がおかしいのだろうけど武装を考えると確かに余裕なのが普通と思えてしまうから不思議だ。

 とは言えステータスと武装がほぼ同一のユイちゃんはそうではない事から、やはり経験というものは大事なのだなと思わせられる。

 彼女はMHCPというAI、人間に較べて演算処理やマルチタスク能力が圧倒的なのは明白。《ⅩⅢ》を操作するにあたってそういう能力の高さが重要である事はかつて地下迷宮で教えてもらっていたから、恐らくそういう意味ではユイちゃんに適した武装なのだろう。それでもキリトに劣っているという事は戦闘経験の無さが足を引っ張っているという事になる。

 逆に言えば最前線で戦い続けたら何れは第二のキリトとなるのだろう。

 

「じゃあわたしは周囲の警戒に当たるとして……二人はどう戦うつもり?」

「あ、それなんだけど、少しお願いがある。今回は俺を一人で戦わせて欲しい」

 

 実力があるキリトが六体くらい引き付けている間にユイちゃんに二体を相手させて経験を積ませるか、安全策を取って間引きをした後にユイちゃんに残りを任せる風にするかなと考えていると、キリト本人からとんでもない事を言われた。

 レベリング目的でわたしとユイちゃんを組ませて当てるのかなと考えていたが、その予想を悪い意味で裏切られて思わず眉根を寄せてしまった。キリトの実力と装備なら仮令精神面が原因で多少攻めが弱くなっているとしても、元々がとんでもなく強いから目立つデメリットになっていないし十分勝ち抜ける可能性を持っている。

 だがそういう意味では無い。キリト一人に負担を掛けるという事が眉根を寄せさせるのだ。

 ユイちゃんなど無表情になっていて正直怖い。目は勿論口も笑ってないし、僅かに頬が引き攣っているように見える。

 

「……理由は?」

「《ⅩⅢ》の戦い方をもう少し広げたい。成功の可否は一旦置くとしても、正直一人で戦った方が確かめやすい」

「ふむ……具体的には?」

「部屋全体を火の海にするから入らないで」

 

 静かに怒りを見せているユイちゃんの問いに対し、キリトは特に気負う事無く――見上げた事に怯む様子も見せず――はきはきと答えた。最後の答えは、恐らく闘技場でホロウがしてみせたあの火の海の事だろう。

 ボス専用技というのはあらゆるゲームに存在するが、MMORPGのボスは複数の魔法の効果を一つに纏めたものこそあれ基本的な骨子の部分はプレイヤーも使える。ソードスキルだってボス専用のものは無い――少なくとも現在確認されていない――のだから、その理屈を考えればホロウが見せていた攻撃方法は全てキリトも使えるという事になる。

 それが仮に使えれば、直に戦ったキリトはその技全てを使えるようになる。レベルとステータス、AIには無い柔軟な思考と戦略を立てる頭脳と経験、そして技から技を繋げる人間特有の自由性があるのだ、ボスがそのまま味方になった場合よりある意味酷いと思う。

 そしてそれを確かめる為に、同時にどれだけ敵のHPを削れるかの検証の為にここで試すと言ったのだろう。

 まぁ、リーファ達が一緒に居ると絶対反対意見が強くて撤回せざるを得ないだろうし、離れている間に不測の事態でもあったら困るから、経験を積んでいるスカウト役のわたしとちょっとやそっとでは負けないユイちゃんしか居ないこの場で提案してきたのだとは推測出来る。火の海を再現するとなれば実際味方は邪魔になる。

 

「なるほど……わたしは別に良いよ」

「むぅ…………今回だけです。それと、危険と判断したら援護しますから」

 

 自己犠牲的な思考では無いしっかりとした理由を聞いたわたしは素直にそのお願いを聞き入れる。

 ユイちゃんも味方を巻き込む実験の為なら仕方ないと不承不承ながら引き下がる。それでも援護すると言えるのは彼女が遠距離攻撃を可能としているのと、姉心から来る懸念故か。少し頬を膨らませているのが可愛いなと思う。今はわたしよりほんの少し背が高いけど、その可愛らしさは変わらない。

 

「うん、頼んだ。それと二人共、ありがとう」

 

 心配されている事が嬉しかったのか、キリトはにこやかに微笑んでお礼を言って来た。

 隣に立つ黒尽くめ黒髪の女性はその顔を見て頬を染めて、けれど一人で戦わせる事を完全に受け容れられないからかむくれた顔で視線を逸らす。それに照れ隠しも含まれている事はすぐに分かった。

 恐らく照れ隠しの面がある事を理解しているのだろう彼は明るい笑みに微苦笑を加えつつ、扉へと近付く。

 その背中を見た時、ふと疑問が浮かんだ。仮にホロウ戦の火の海のダメージ発生の条件を『地に足を付けている』と定義すれば騎士型Mobだけでなくキリトもダメージを負う事になるのではないだろうか。

 肉を切って骨を断つ戦法を否定はしないが、あまり受け容れたくない。

 別に直接訊けば済む話なのだが、もう扉の前に立って愛剣であるエリュシデータとダークリパルサーを携え今にも開けようとしていて、その機会を逸してしまった。今声を掛けると集中を乱すかもだし、些か不安はあるがキリトがそんな事を考えていないと信じるしか無い。

 それに自分の事を蔑ろにしないかどうかを判断する要素の一つにもなるから様子見にしておこう。ここで仮に自分にもダメージがあって、それを前提に八体のMobを倒す事を考えていたと発覚すれば、これは後からお説教だ。するのは勿論怖い怖いお義姉ちゃん達である。

 ……何気にそこにレインやアスナ、ユウキ達も入りそうな辺り、結構彼女達も毒されてると思う。

 そう思考していると、キリトは扉に翡翠の直剣を持った左手を当てた。するとそれが合図であったかのように、まるでコンビニの自動扉の如く勝手に左右へ重厚な石の扉が割れ、先へと進む道を示す。

 部屋の中は左に白銀色の騎士二体、右に漆黒色の騎士六体の敵Mobが居た。レベルは白銀が125前後、対して漆黒が110程度である。数から考えて恐らく白銀色がリーダーか何かで、一体に付き黒騎士が三体いるというポップの仕方なのだろう。

 そう確認していると、キリトは部屋の中に入る。

 それから部屋に入る事がヘイトを集めるトリガーだったのか、合計八体の騎士達が被っている兜が全てキリトへと向けられる。兜に覆われているせいで顔は見えない――恐らく元から伽藍洞――が、威圧感と共に冷たい殺気を感じさせてきているのは分かった。

 

「二人は入るなよ」

 

 自分に八体のヘイトが集まっている、つまり部屋の中に入らない限り現状ヘイトを稼がない事を確認したキリトが左肩越しにこちらを見やりながら短く言った後、彼は左脚を一歩前に出す。

 その一歩で更に部屋の中へ踏み込んだ途端、彼の左脚を起点に炎が噴き出た。

 

「なッ……?!」

「嘘……チャクラムを出していないのに……?!」

 

 驚愕の原因はユイちゃんが言ってくれたように、どこにも炎を吹き出す戦輪が無かったから。

 あの地下迷宮での激戦で幾度も幾度も見て来たように、戦輪は炎を出す力を有している。ホロウが使っていたように彼はそれをイメージで操り、戦輪が有する鋭い刃に炎による追加ダメージ、そしてヒットした際に付けた炎をビーコンに足元から火柱を上げる技を使っていた。

 それらを見て来て分かったが、彼が持つ《ⅩⅢ》の特殊な力は、謂わゆる《属性》を持つ武器を実際に出していないと炎や水を使えないという欠点があった。仮にそうでなかったら剣から放射状に雷を放ったり、水を出したり、片手剣の剣閃から炎を出して追撃したりしていた筈だったから、それをしていなかった事からその推測は真実なのだろうと思っていた。闘技場でも使っていなかったし。

 それなのに今、その予想を前提から覆す事をやってのけた。

 ユイちゃんも知らなかった事実故に驚愕は尚更大きい。いや、むしろアキトが二つも持っていたという――実質三つ目となる――《ⅩⅢ》を持っている彼女の方が、わたしよりも遥かに大きな驚愕だったに違いない。

 そんな風に唖然と絶句をして固まるわたし達を余所に、キリトのイメージによって引き起こされたのだろう炎は更に激しさを増し、発生から一秒後には劫火となって部屋の床を舐めていく。放射状に広がっていく様は徐々に焼け焦げていく草原のシーンを早送りにしたように早く、そして容赦が無かった。

 そして部屋に入らないよう警告されてから二秒後、八体の敵Mobとキリトが居る部屋の床は一面火の海となる。扉を境界としているのか、ギリギリ通路に留まっているわたしとユイちゃんの足元までは火の海も届いていない。

 

 ――――発動から完成までたったの二秒だった。ユウキとのデュエルのような達人同士の戦いでは致命的な隙だけど、それでもかなりの速さなのは確か。

 

 ――――しかも後ろを見ていないのに通路に居るわたし達に被害の無いよう完璧に範囲を制御し切っている。それはつまり、空間把握能力すら頭抜けてると言える。

 

 ――――これを、こんな事を《強固なイメージ》だけで為したの?

 

 既にホロウにされていたという経験があってもここまで短時間で成功させられるだろうか。戦い始める前から幾度も思考していたとは言え、『一面火の海』という一種の地獄とすら言える光景を、範囲を限定しているとは言えこんなにアッサリと想起出来るだろうか。

 わたしでは無理だと判断する。

 仮に《ⅩⅢ》の装備が最初からそういう事すら可能なものだとして、それを出来ると知っていたとしても、わたしには無理だ。

 『炎が燃える』という表現を聞いた時、人は何を思い浮かべるだろうか。少なくともわたしなら燃える元である『油』や『木材』だったりをイメージして、そこから炎が燃え上がっていくのを想像する。逆に言うと『何も無い場所でいきなり炎が燃え上がる』というイメージをわたしは出来ない。

 いや、この眼で実際に見たなら出来るだろう。

 けれど、それでも恐らくわたしはここまで完璧に火の海をイメージ出来ない。まるで床そのものが最初から燃えていたような風景は、今目の前で起こっているとしても想像し難いし、何かに起こす事も出来ないだろう。

 わたしが絶句したのはそこなのだ。武器を出さずに炎を操って見せた事もそうだが、二秒という短時間の間に完璧な制御を以て火の海を再現して見せたそのイメージ力、そしてそのイメージを可能とする彼の思考・精神に絶句した。

 何も燃えるものが無いのに、炎を吹き出す武器すら出さないで完璧に制御した上で、床を全て火の海へと変える。

 そんなイメージをまるで苦でも無さそうにして見せるのだから絶句もしようというものだ。悪く言えば神経を疑う。

 これが水や風、ともすれば地の隆起というような方向だったならまだしも、自然発生自体あり得ない炎をチョイスされたからこう考えてしまっていた。

 半ば呆然としながら敵Mobの頭上に表示されているゲージを見れば、火の海に脚を付けている敵Mob達は確かに刻一刻とそのドットを減らしていっている。雀の涙程ではあるが恐ろしい事にそのスピードはかなりのもので、蜘蛛や蜂から毒を受けた時よりも速い。

 恐らくこの火の海の継続ダメージ、毒よりも一度に減る量こそ少ないが、それをダメージ発生間隔で調整しているものだ。毒は大体五秒で最大HPの2%を減らしていくが、この燃焼ダメージは十秒につき一割減らしているので、恐らく一秒につき1%の割合でダメージを与えている。

 飛行系Mobには通用しないだろうが、大半は地に足を付けているMobが相手であるこのSAOだと仮令フロアボスであろうとも百秒しか保たない計算になる。ボスの中には偶にリジェネ持ちが居る訳だし、それの相殺に使えばボス戦は非常に有利と言えよう。むしろ単独の方がボスとの戦いは非常に有利になりそうだ。

 これは凄まじくソロ特化と言えるが、これで自分にまでダメージが発生していては話にならない。

 しかしその懸念も杞憂だった。どういう手を使ったのかは知らないが、火の海でダメージを受けている敵Mobの一帯へと突貫を敢行して刃を振るっているキリトは地に足を付けているのにダメージを受けていない。多分自分だけ護るイメージも展開しているのだろうなと予想し、こんな火の海の展開を維持しながら自分を護るイメージを保ち、尚且つ敵八体の動向を把握して斬り結ぶだけの脳の処理能力を有している事に再度絶句する。

 これは純粋にキリトの能力の高さを褒めるべきか、あるいはそうならざるを得なかった彼の境遇を哀しむべきか。

 年下の子にはどうも弱いなぁと思いつつ、彼の義姉として振る舞う女性はどう思っているのかと横目で見ると、彼女は先程までの苛立ちを雲散霧消させた真剣な面持ちで義弟の戦いぶりを観察していた。

 一瞬どうしたのだろう、とそのあまりの真剣さに疑問を浮かべてしまった。あれだけの実力の持ち主だ、心配な様子を表に出しこそすれそこまで真剣になるとは少々意外だった。別に心配するのがおかしい訳ではなく、まるで負けてしまう事を明確に予感しているような真剣さに疑問を覚えたのだ。

 だがすぐにそれも分かった。彼女も《ⅩⅢ》持ちなのだ、演算処理能力の高さの面目躍如とすら言える武装を自身より上手く扱っている彼の戦い方を見て、自分も出来るようにと見て学んでいるのだ。なまじ今まで一対多の戦いを多く経験してきている者で同じ特殊武装を持つ者同士、その戦い方は見るだけでも大いに参考になるだろう。

 既に彼女もある程度実力者のレベルにあると思うのだが、それでもこうして上を目指そうとする意欲には脱帽させられる。少し前に見た幼さ全開の少女と同一人物とは思えないくらいの成長ぶりだ。その強さもAI特有の学習速度というやつで途轍もないし。

 げに恐ろしきは姉弟愛というやつか。弟が弟なら姉も姉らしい。

 ステータスを技術だけで完璧に覆して見せたリーファ然り、これから途轍もない速度で成長していくだろうユイちゃん然り、それを発揮する根幹が義弟である時点でかなりの溺愛ぶりだ。

 

 ――――どこかの世界最強さんが涙目になってもおかしくないよね、これ。

 

 まぁ、個人的にも件のブリュンヒルデとリーファ達のどちらが姉である方がキリトの幸せになるかと言えば、絶対的に後者であろうと断言出来るのだが。

 などと、目の前の戦闘光景と一切関係無い事も割と考えつつ、わたしは周囲に敵Mobが居ないかの確認を怠っていない。《索敵》スキルを発動させてサーチを繰り返しているが目の前の敵Mob以外には碌に反応が無い。ギリギリ西の研究所跡地へ抜ける回廊に数体居るくらいだ。

 

 ――――これは、そろそろリポップもあるかな……?

 

 誰がしたのか、あるいは何が原因なのかは知らないが、一定範囲内を徘徊するMobを定期的に設置するのがこのSAOでのシステム。一部地域でMobを狩り過ぎる余りに他の地域にモンスターのポップが偏って回転率が上がり、ファーミングスポットと化す場合もあるが、それらも全ては全範囲に平均的にリソースを分配する為のシステムの動作に過ぎない。

 仮にここのMobを狩り過ぎたせいでポップし辛くなっていると言っても、この樹海エリアは途轍もなく広大故に流石に一時的な枯渇も難しいと思う。ならばリポップの事を懸念しておくほうが無難と言える。

 何事も最悪を想定して当たった方が対処しやすいし、何より精神的な動揺や疲労感が少なくて済む。

 ソロで動き、時には格上とすら戦闘する事がある身としては、何よりもそれを喜ぶ。

 ……これだから子供達に懐かれにくいのかな、とちょっと悲しい思考が浮かんだ。

 

 ――――子供達に逢いたいなぁ……

 

 何だかんだ帰る場所に居たから大して思わなかっただけで、いざ会え無くなると結構恋しく感じてしまうらしい。わたしは存外小さな子の面倒を見る事をレインと同様に案外好いているのかもしれない。

 キリトってどうやったら懐いてくれるかな。お菓子あげたら喜んでくれるだろうか。

 そう思考しながら、わたしは火の海をノーダメージで駆けまわりながら風やら水やら雷やら岩礫やら氷やら炎やらで攻撃しているキリトから、そっと意識を外した。脳内でお菓子を嬉しそうにもぎゅもぎゅしているキリトとの乖離が酷過ぎだった。

 とても切実に子供達に逢いたい気分に耐えながら、わたしはユイちゃんと共にキリトの《実験》が終わるのを見守った。

 

 






 はい、如何だったでしょうか。

 何気にキリトの中の恐怖ランキングで堂々の一位を取ったリーファ。流石は貫禄の最強の義姉。まぁ、一年半以上も死ぬ気で頑張ってたのに、それを完封された上にあそこまで言われたらね、キリトみたく幼くなくてもトラウマになると思う……

 次にクラウドコントローラーとスカウト。

 前者が敵へのデバフ、味方へのバフ、ヘイト管理を主とし、後者は周囲の敵の有無や地形の確認、トラップ関係への対処といった役割ですね。

 個人的に《索敵》を担ってるスカウトは重要だと思ってます。実際に戦闘するメンバーよりある意味責任重大です。何せ戦いに赴く場所はレベルや装備で安全と判断している場所が基本なので、後は現地での状況次第という訳ですし。

 で、《月夜の黒猫団》だとアニメや原作でいの一番に宝箱に飛びついて鍵を開けていたニット帽シーフ風の短剣使いダッカー。パーティーの命を預かるリーダーの次に重要と言っていいポジの彼が仲間(原作キリト&サチ)の忠告を碌に聞かず(アニメ)、躊躇う素振りすら見せず宝箱を開けたのは相当愚行だと思う。

 トレジャーハンター本職のフィリアさんには攻略組や完全キリト擁護派では無く、同じスタイルのプレイヤーとしての意見を口にしてもらいました。本作での黒猫団の壊滅は《自業自得》が総括。

 ユイが辛辣なのはデフォ。キリトに非があるならまだしも、忠告はしっかりして知識を付けさせてもらっていながら無視した上で死んだトラウマ植え付けたのはギルティ。サチが生きてるのに自殺したケイタへのヘイトなんてかなりのものなんじゃないですかね……

 ちなみにわたし、サチは好きだけど他の四名はそこまで好きじゃない。仲がいいのはよろしいんだけどね……原作展開的にはキリト自身にも嘘吐いてた面があるけど、だからってダッカー達の死とケイタの憎悪が直接結び付かないの……

 という訳で、本作では原作でモヤモヤしたところを徹底的に突いて行きたいと思います。

 《ホロウ・エリア》の真実を知っているユイ姉や、《ホロウ・エリア》に居れば休めると思っている面々にとっては……


 ――――何時から《ホロウ・エリア》が安全だと思っていた?


 ……という事。留まっても戻ってもどっちも対人関係で辛いのは本作キリトの宿命(嗤)

 そして内心を吐露したキリト。リーファによって《織斑一夏としての願望》を自覚させられ、それを踏まえた上で積み上げて来た全てをぶち壊された為に素が出ている故の言葉です。

 今のキリトは自己の再定義と確立をしている時期。

 はてさて、根幹が《織斑一夏》としてのもののままか、《桐ヶ谷和人》としてのものになるか……今後次第ですね。織斑としての自分と桐ヶ谷としての自分の葛藤が本作の骨子の一つでもありますし。

 そして白との必死の鍛練の成果、ここに極まれり。あまりの事にフィリアは絶句。

 実は構想的にまだまだ上があるんだぜ(え) 偉大な先人達の作品から発想を得てるからね、仕方ないね(震え声)

 そしてフィリアには子供好きな独自設定を追加。レインに感化されたという事で一つ。でも黙っていると不愛想(ゲーム初期)なのがデフォルトなので懐かれにくい、基本外での活動だから尚更懐かれにくい。

 キリトを対象にしちゃっているのは、隣に立ってるユイの見た目が大人だから。

 尚、キリトを可愛がっているとリーファ達が羨ましがってキリトを可愛がるためにアップを始める。

 ……アレ、構想ではあんなに絡ませるのに苦心していたフィリアにいつの間にか姉ちゃんポジフラグが立った……?(読み返し) 嘘だろオイ(今までの苦労を思い返して脱力)

 やったね、フィリア! 出番が増えるよ!(多分)

 では、次話にてお会いしましょう。

 お気に入り750件突発!(*≧∇≦)ノ 御愛顧ありがとうございます!m(_ _)m

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