インフィニット・オンライン ~孤高の剣士~   作:黒ヶ谷・ユーリ・メリディエス

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 どうも、新年あけましておめでとうございます、黒ヶ谷・ユーリ・メリディエスです。

 今年も私と本作《孤高の剣士》をよろしくお願い致します。

 あらすじで書いている通り出来上がってから月木に投稿するという風にするので、これからも空く事はあるでしょうがよろしくお願い致します。

 また、ひょっとしたら忙しさ故の書き溜め目的で長期休載するかもしれませんが、その時は寛大な心で受け容れて下さればと思います。

 さて、新年最初の投稿話はオールユイ視点。

 本作に於けるPoHの不可解さについて詰めていきます。

 文字数は約一万五千。

 ではどうぞ。




第九十章 ~異常者への疑念~

 

 

 【ホロウ・エリア管理区】のスタッフNPCとして改めて生を受けた私は現在、満天の星空と見紛いそうになるガラス床の空間で不安に駆られていた。

 すぐ近くにはルクスさんの他に此方へ来る為に同伴しなければならないユウキさん、《アインクラッド》へ戻っていたフィリアさんに呼ばれたサチさん、一連の話を聞いて心配になったらしいリー姉が居る。

 《ホロウ・エリア》の探索に於いて強力な仲間であるフィリアさんとレインさんは、事情を察して一旦リズベットさんの店へ戻っているため、此処には居ない。また自分を作った創造主である茅場晶彦ことヒースクリフさんやクラインさん、シノンさん達は話の内容が内容なだけに大勢で行ってもアレだろうと遠慮したようで同様に居ない。

 合計して五人に囲まれる形で視線を集めているのは言わずもがな、私の義弟キリトだ。

 しかし現在、彼は私の膝を枕にして泥に沈むかのように眠り続けている。

 

 こんな事態になっている理由は、およそ三時間前に遡る。

 

 サチさんが以前所属していて、義弟が力を貸したギルドを率いていたリーダーの男ケイタの襲撃の後、てっきり私は死者が居た事について詰問されるものかと思っていた。情報が生命線である以上その方面に関して義弟はとても厳しいからだ。

 しかし彼は問うてくる事も無く、ただ短く『暫く一人にして欲しい』と言った。

 余程かつて力を貸した人に怨まれ、直に命を狙われた事が響いたのだろうと思った。あれだけ真っ直ぐに憎悪を向けられ殺され掛かれば気落ちもするだろうから。

 私が抱いたその予想は、半分当たっていた。

 外れていたもう半分については、彼の言う通り一人にしてから十分ほどが経過した後に知る事になった。義弟が管理区から姿を消している事を偶然にも知ったからだ。

 知れた理由は単純に、スタッフNPCとしての仕事を果たす為に管理区にあるシステムコンソールに用事があったから――――という理由にかこつけて、義弟の様子を見ようとしたからだった。用事があったのは本当だが、別にその時する必要は無いものだった。

 しかし行ってみればもぬけの殻。

 当然私は大慌てで義弟が失踪した事をレインさん達に伝えた。

 今の彼は自ら命を絶とうとしない筈だが、それでもまだ彼の心は癒え切っていない。そんな状態でトラウマの人物から真っ直ぐ憎悪を向けられ、殺され掛かったのだ、精神的に不安定な状態では何を考え行動するか分かったものでは無かったから焦燥は絶大なものだった。

 うつ病や統合失調症は回復過程と回復速度にかなりの差があるが、いずれも精神的なエネルギーが回復した頃に自殺するリスクが高いとされている。

 休み始めてからまだ四日しか経っていない義弟だが、彼に常識が当てはまるとは考えない方が賢明だ。むしろ僅かにでも回復した途端平時と同じくらいの活動を始める予想すら出来る。

 それはつまり、リー姉によって多少重荷が取れて精神的にも余裕が生まれただけで、彼は自殺するリスクを孕んでしまった事に他ならない。

 自殺のリスクと言っても、普段の冷静、思いやり溢れる、あるいは甘えん坊な気分の義弟ならまずあり得ないと言える。それはリー姉によって肯定された《キリガヤカズト》としての振る舞いだから。

 しかしケイタによってぶり返すトラウマは、昨夜リー姉によって殺された《オリムライチカ》としての意識だ。そしてその意識は、迂遠的に自ら死を求めてもいた。他者に殺される事にこそ意味を見出し、それを求めていた。

 彼にとって《ケイタ》という男は因縁深い関係にある。怨まれても仕方ないと、もっと言うなら殺される事すらも仕方ないと諦めるくらい、彼にとって《月夜の黒猫団》の壊滅とそのリーダーの自殺は重く圧し掛かっている。

 《ビーター》や《オリムライチカ》の意識で生きる事を辞めたとは言え、それも一朝一夕で変わる筈もなく、何かの拍子に戻る可能性は十分存在した。だからこそ私もそれを危惧していた。

 その矢先に、正に義弟最大のトラウマの一つと言える男による憎悪と殺意。

 『間違いである』と《キリガヤカズト》としては分かっていても、同時に《オリムライチカ》としてはそれが『正しい』と肯定してしまうのは目に見える事。聖夜で贖罪の為に狂うくらい、彼にとってケイタの憎悪とそれによる死の贖いは『肯定されるもの』という認識になっている。

 だからすぐにでも探しに行こうとした。

 結果的にその必要は無かった。行き先はケイタの場所だろうと察しが付いていたから大神殿へ転移しようとした正にその時、義弟は管理区へと戻って来たから。

 戻って来たばかりの彼はところどころに傷を負っている上にHPは五割ほどしか残っていなかった。唯一庇うように腕に抱えた使い魔の小竜だけが無傷だった。

 勿論私達は彼を心配して回復アイテムを使おうとしたが、当人によってそれは止められた。《圏内》に居るならアイテムを使うよりリジェネの自然回復を待った方が無駄じゃない、と言われたからだ。

 実際回復アイテムは貴重だ。自分はともかくキーやルクスさん以外は《アインクラッド》に帰れるので彼女達に持って来てもらえば事無きは得る。しかしそれでも濫用を控えるべきものである以上、危険が無いのであれば自然回復を待つ事が望ましい事は事実だった。

 当人がそう主張するので渋々それに従った私達は、次に何をしていたのかを問い質した。

 

 ――――……ケイタの事だ。

 

 一拍の間を置いてから、彼はそう口にした。

 彼が単独行動を取ったのは、他に人が居ない一対一の対面であれば対話の余地はあるのではないかと考えたらしい。麻痺毒によって無力化している状態であれば危険は少ないが故の判断だった。

 勿論それには、MPKを防げるという甘いとしか言えない、されど尊い思いもあった。

 だが、事態は彼の思いもよらぬ方向へ進んでいた。人が好いと思っていたケイタが、彼の手によって討たれた《笑う棺桶》と手を組んでいたのだという。《アインクラッド》のような店が無い以上補充が難しい麻痺毒を回復させるアイテムを使ったのを見た事から協力関係にある事は明らかだった。

 ――――義弟は、ケイタと対面した時点で、既に《ホロウ・エリア》の真実に気付いていた。

 だからこそ、彼は《笑う棺桶》が居る事にはもう驚かなかった。ケイタと《笑う棺桶》が手を組んでいる事も、憎き相手への復讐心を考えれば意外でも無く、しかしケイタの人格を考慮すると驚きはあったという。

 彼がケイタと対話しに行ったのも、元を正せば管理区へ連れて戻り、サチさんと対話させるつもりだったかららしい。自分一人では恐らく殺し合うしか無いが、見限られていたとは言え仲間だった彼女の言ならもしかしたら殺し合う道を回避出来るのではないかと、一縷の望みを抱いていたのだ。

 その望みを、彼は未だに抱いている。

 《笑う棺桶》と協力関係を結んでいる時点でそれは難しいと思わざるを得ない。しかしそれでもまだ可能性を否定出来ない。《笑う棺桶》とは無理だろうが、しかしケイタだけであればサチの協力で殺し合わなくて済むかもしれない可能性は、まだ否定出来ないのだ――――と。

 その場に彼を除けば《笑う棺桶》の六人とケイタしか居なかった。《笑う棺桶》が敵である事は明白で、ケイタも敵と認定すれば、味方は居ない。彼が最も得意とする場が整っていた。

 それでもケイタ達を殺さなかったのは、その望みにまだ懸けたいと思っていたが故。

 だから彼はその時点で管理区へ帰ろうとしたらしい。

 しかし更に思いもよらぬ事態が起こる。大神殿の転移石を使おうとした時、彼は《笑う棺桶》の首領PoHの奇襲を受け、帰るに帰れなくなってしまった。

 更にPoHが仕組んだのか一時は立ち去った筈のケイタ達が戻って来て、遠方から何本もの魔槍を投擲し、挟撃する始末。

 本来であれば、その程度の敵に後れは取らない。

 しかし敵には、殺す事を躊躇わせるケイタが居る。彼を殺せばサチの説得を以てしても決して和解が出来なくなる以上、彼は何としてもケイタの殺害だけはする訳にいかなかった。

 逃亡しようにも魔槍は《必中》の武具。遠方に居る時こそ真価を発揮するその槍は、彼に敵前逃亡の選択を取らせない。

 故に彼は、《ⅩⅢ》の風の力を使って一気にケイタ達の許へ距離を詰めた後、大鎌を振るってまず《笑う棺桶》の団員六名の首を一撃で刈り取り、即死させた。魔槍による連撃を途絶えさせるためだ。

 PoHは何故か動く素振りを見せなかった。だからこそ、彼は動けた。

 また、槍は狙われたプレイヤーの体か武器によって弾かれた場合、《必中》の効果を喪う事が分かった為に距離を詰める選択が取れた。PoHと睨み合っている最中に放たれた奇襲の一撃で実験して分かった事らしい。

 そうしてケイタに力を貸していた六名を即死させた後、ケイタを再び麻痺毒で無力化。

 合計七本もあった深紅の魔槍を再び回収した後、彼は謎の黒コートから襲撃を受け、激戦の末にPoHの乱入もあって生まれた隙を突いて大神殿の転移石を用いて管理区へと帰還した。

 そして私達と対面したのだという。

 彼は話し終えた途端、彼は張り詰めさせていた緊張を解いたせいか微睡みへと意識を沈めてしまった。朝早くから起きていて、加えて今日だけでも午前中に自身より強い《叛逆の騎士》を、午後にはボス戦、ケイタとの遭遇戦を二度、極め付けにPoHとの対話と精神力を凄まじく削る事態の連続だったから疲労を抑え切れなかったのだろう。

 ちなみに現在私が膝枕をしているのは眠ってしまった彼を冷たい床に転がしているのは忍びないと思ったからで、膝枕をする役目を私が担う事になったのは単純に義弟が私に寄り掛かっていたからである。断じて率先してしようとしたからではない事を此処に明記しておく。

 無論、頼まれたらするのも吝かでは無い。

 リー姉達は二十分程前に最前線攻略を終えてフィリアさんと合流し、こちらに来て、ついさっき義弟から聞いた事を話し終えたところである。

 

「まさか、ケイタだけでなく《笑う棺桶》まで居て、しかも手を組んでたなんて……」

 

 疲労と精神的ストレスの限界で騒動の中心とも言うべき義弟が眠りに落ちた事で訪れた沈黙を破ったのは、次点で騒動の中心と言えるサチさんだった。

 彼女にとって《キリト》という少年は恩人と言える近しい存在。《ビーター》として疎む者達の存在とその感情を知ってはいるが、実際に身近な人間がそれを向けている事はどうしても受け容れ切れないようで、難しい顔をしていた。

 どちらかと言えば、《笑う棺桶》と手を組んでいた事の方が余程ショックのようにも見える。

 まぁ、それは当然と言える反応だ。何しろ彼女の思考は今や《攻略組》としてのものに近くなっている。殺人を忌避する価値観は中層以下のプレイヤーと共通しているが、その意味するところや意図が多少異なっているのだ。

 《攻略組》にとってすれば、プレイヤーがプレイヤーを殺す行為は正に唾棄すべきものに相当する。自分達の為でもあるとは言え、《攻略組》は最前線で他の人達の代わりにクリアを目指して戦う集団だ、それなのにその他の人達が殺し合っていては本末転倒も良い所なのである。それこそ【白の剣士】のように《攻略組》の戦力を損なわせる行為は嫌忌の対象となる。

 《ビーター》/【黒の剣士】が《攻略組》から排斥されなかったのは、彼が手に掛ける者達がオレンジプレイヤーかレッドプレイヤーに限定されていたから。結果的にではあるが、《攻略組》が救わんとする人達の為でもあったからだ。

 そうでなくともPoHは犯罪に快楽を覚える異常者達を纏め上げ、《笑う棺桶》というレッドギルドを作り上げた異常者筆頭。《ビーター》を悪し様に言う者達からは同等か《ビーター》の方が上という評価になっているが、実情はPoHの方がよっぽど異常である。

 

 ――――キーも、異質な方ではあるのですが……

 

 私を義理の姉として慕ってくれている義弟はとても聡明なのだが、それは明らかに年齢にそぐわない聡明さだ。人々に虐げられ、孤独/孤高を強いられているのにそれを受け容れている時点で、その精神性が異質である事は明らかである。

 しかし異常とまでは言えない。

 彼は確かに苦しんでいて、心の中では叫びを上げていた。哀しいと、寂しいと思い、それに自覚を持っていようといなかろうと何かしらの形で表現出来ている。ユウキさん達に添い寝してもらった事があるのは、その発露だ。

 その発露がある時点で、キーの精神は異質ではあっても異常とまではいかない。加えて原因やそうなった過程がある程度明らかであるだけまだマシとも言える。

 だがPoHやPoHに付き従った者達はそうではない。

 デスゲームという異常事態に見舞われ精神的な安定性を欠いていた部分があったからではある。しかしそれはあくまで状況的な要素であって、それだけで『犯罪は悪』という価値観を覆すには至らない。

 覆せてしまった者達は、だからこそ異常者と呼ばれるのである。

 そういう意味ではキーも異常者の範疇に入るが、彼は殺しを行っていても、良識までは喪っていない。加えて彼は先を見ての行動でもあった。だから私は彼の精神性を異質と言い、異常ではないと判断している。

 義弟に関して異常と見ているのは、精神では無く彼の思想の方。

 混同されやすいが、厳密に定義すると精神と思想は別のものだ。

 精神とは、人が外的な刺激や人との交流を経て覚える感情や欲求の根底。充足感や安息を覚えると安定して穏やかな気持ちになって雰囲気が柔らかなくなり、逆に嫌な事があるとイライラして雰囲気も刺々しくなったりする。態度や言動の全てに影響を与えるものが精神。

 対して思想とはその人の行動指針や思考回路の事を指す。つまり厳密には感情由来の思考とは別物で、その人特有の価値観によって形成された思考なのである。

 義弟の精神は、やはり過去の境遇から大人顔負けレベルの強さを持つが、同時に幼さ故の脆さも併せ持つものだ。

 異質に見えるのは年齢にそぐわない聡明さと精神の強靭さ故。その二つを構成する要素として、彼の思想が挙げられた。リー姉が一度殺したかつての『彼の思想』こそが異常であり、その異常に引っ張られる形で精神を異質なものへと成長させていたのだ。

 義弟の異常な思想の顕れが《ビーター》で、異質な精神の顕れは【黒の剣士】という立場と言えよう。

 

 では、PoHはどうなのか。

 

 あの男に関しては分からない。そもそも分からない事の方が多いからそれも当然だ。

 だが、少なくともあの男は何かしらの目的があり、その目的の為に計画を綿密に立てて実行出来る精神と思想を保っている事は事実だ。それが異質のレベルなのか、あるいは異常のレベルかまでは測りかねるが。

 

「――――ねぇ、ユイちゃん。あなたは死者が《ホロウ・エリア》に居る事を知っていたの?」

 

 あまり顔色が良くない幼子の頭を撫でながら物思いに耽っていると、左隣に座る義姉から真剣な面持ちで問いを投げられ、意識を引き戻される。

 その声からは確信めいたものを感じられて、誤魔化しは通用しない事を悟らされた。

 元々誤魔化すつもりも無かったのだが。

 

「……ええ、知っていました。それどころかユウキさん達と此方で再会する数時間前に、私はPoHと顔を会わせてすらいましたよ」

「「えっ?!」」

 

 私の白状にリー姉とユウキさんはやはりと納得顔を見せ、サチさんとルクスさんは驚愕の反応を見せた。

 【ホロウ・エリア管理区】のスタッフNPCとして召喚され、同時に一部ではあるもののGM権限を有しているのだが知っていて当然と思うのが普通だと思うのだけど、そこには気付かなかったのだろうかと二人に思う。事実リー姉達は何となく察していたようだし。恐らくキーも既に勘付いている。

 半分に分かれた反応にそんな思考を浮かべつつ、私はPoHとこちらで顔を会わせた時の状況を語った。

 義弟が知っているなら忠告する筈なのに無かったのは何故なのかと疑問を覚えていたらしいリー姉とユウキさんも、彼が眠っている間の事であれば知らないのも当然だと納得したようだった。他の二人も同様の反応を見せた。

 

「なるほど……ユイちゃんがそれを話さなかったのは、キリトを追い詰めたくなかったからなんだね」

「その通りです、サチさん。リー姉の叱責もあって劇的に持ち直してしまっていますが、キーは今も休んでいなければならない身……無論、叱責の前は尚更です」

「そんな状態でキリトに『《ホロウ・エリア》に死者が居る』なんて事実を言ったら、むしろ自分の方からケイタに会いに行ってただろうね……」

 

 キーの事をよく理解しているようで、ユウキさんはその未来を容易に想像出来たようだった。嘆息しながら眠り続ける少年を哀しげに見ている。

 そこでまた沈黙が訪れたが、少し経った時、ふとユウキさんがサチさんへ顔を向けた。

 

「ところで……サチは、大丈夫なの?」

「え? 何の事?」

「いや、その……元居たギルドのリーダーに、半ば見捨てられてたみたいだけど……」

「ああ……」

 

 ユウキさんはその事も気になっていたらしい。サチさんを最前線で戦う者の一員として、そして同じ《スリーピング・ナイツ》の一員として戦えるよう最も面倒を見て来たからこその心配なのかもしれない。

 彼女もその問いの意図を察したようで、何とも言えない表情を浮かべた。

 

「正直ショックではあるよ。私が戦う事を怖がってた事を知ってて、知ってた上で放置されていた事にはね……でも案外ショックは大きくない。多分自分でも気付いてたんだと思う、『もしかして見限られてるんじゃ』って。だってたった一日でキリトが気付いたんだもん、半年も毎日一緒に戦闘もしてたのに気付かない筈がない。それでも『気付いてくれてないだけなんじゃ』って思っていたのは、心の何処かでは願ってたからなんだろうね……」

「それは……仕方、無いよ」

「ふふ、無理して気遣ってくれなくても良いよ……――――お陰で踏ん切りが付いたから」

 

 ユウキさんの気遣いに苦笑を浮かべた後、サチさんは表情を改め、毅然とした表情で虚空を見上げた。

 その双眸は鋭く、真剣な面持ちになった彼女は歴戦の戦士という貫禄を放っている。普段の物腰柔らかな印象からかけ離れているせいかとても印象的で鮮烈だ。

 

「以前ユウキとリーファさんには言ったけど、私はキリトの事を異性として好いてる、でもまだ好意を告げないつもりでいる。ケイタの、ひいては《月夜の黒猫団》の一件のケジメを付けてないから」

「……サチ。踏ん切りって、まさか……ケイタを殺すつもり……?」

 

 愕然とした表情で、戦慄を覚えているのか微かに震えた声音でユウキさんは問う。

 しかし、サチさんは毅然とした風情はそのままに、綺麗な微苦笑を湛えて目を伏せる。

 

「それをしたらキリトは凄く思い悩んで自分を責める、確実にね。人の思考や思想なんて一朝一夕には変わらないから。だからケイタを手に掛けるのは本当に本当の最後の手段。少なくとも《月夜の黒猫団》の一員だった私は一員だったからこそ手に掛けちゃいけない……ケイタとキリトの和解に力を貸せたら良いんだけど……」

「サチさんでも無理なんですか? この子は《笑う棺桶》と手を組んでた状態でも、サチさんならと望みを持っているみたいですし、今は《笑う棺桶》から見限られた状態だからいけるんじゃ……」

「それなんだけど……」

 

 リー姉の指摘に、サチさんは毅然とした表情を懊悩のそれへと変えた。八の字へと眉を曲げ、眉根を寄せて腕を組む。

 

「私、一応三回くらい仲間と一緒に居る状態でPoHと対面してるし、キリトからも何度か話を聞いてるんだけど……PoHって一度協力関係になった相手は余程の事が無い限り切らないらしいの。それに《笑う棺桶》掃討戦の作戦会議や作戦決行の時、《笑う棺桶》メンバーに長槍使いはキリトが集めた情報にも居なかった筈」

「……それが?」

「魔槍は狙った敵に当たるまで追尾する強力な一撃を放てる武器で、それを扱い切れるケイタを本当に見限るのかと思って。実際キリトは謎の黒コートとPoHを同時に相手するのは辛いから戻って来たのであって、その後の経緯は見てないらしいし……『フリ』の可能性を否めないんじゃないかなって。『フリ』じゃないとしてもケイタを切った事には協力関係にある状態以上の意義を見出したからなんじゃないかとも思うの」

「つまり、《笑う棺桶》との協力関係が切れても、ケイタにはまだキリトを襲えるだけの価値があるとPoHは見ているんじゃないか、という事ですか?」

「うん……」

 

 リー姉の総括に対し、サチさんは自信無さげではあるものの小さく頷く。それを見た面々は一様に難しい顔になった。

 サチさんの予想は、PoHへの高い警戒心を基にした推測に過ぎない。実際普通に考えれば彼女の予想は考え過ぎと言えるだろう。

 だが相手はあのPoHだ。犯罪や殺人にむしろ快感を覚える異常者達を纏め上げる者、こちらの思考とは一味も二味も違った側面がある上に、キーの話によれば現実世界でも傭兵として動く以上計画的な行動を旨とする節もある。

 

「――――リー姉。ふと、思ったのですが……」

「ん?」

「そもそもの話、PoHの目的は本当にキーへの復讐なんでしょうか」

 

 あの魔槍をケイタが持っていたのはPoHに譲られたから。それは逆説的に魔槍を自力で入手出来る程度の実力をケイタは有しておらず、PoHは単独で入手出来る実力を持っている事の証左になる。つまりケイタはキーに一矢報いる力を人から譲られた装備に頼っていたという事になる。

 あの男の槍捌きがキーを圧倒する程であれば話は別だが、義弟の話ではそこまででは無く、良くてサチさんと同レベルか僅かに劣る程度。勿論数分も満たない短時間しか刃を交えていないから全てを知っている訳では無いが、基礎の部分はかつて自身が教えた両手棍と通ずるものがあったから対策は立てられる範囲らしい。両手棍から長槍へ変えた理由が『同じ長物だから』というものだったが、それが功を奏した形だ。

 そんなケイタが単独でキーを殺し得るとは思えない。

 二度目だってPoHがキーの位置を補足し、更に六人の援護もあったにも拘わらず一撃も彼は掠っていないのだ。

 義弟は確かに甘い部分があるが、それとは関係無く命を狙って来る相手への警戒心が人一倍強い。奇襲で殺せなかった時点であの男の復讐はまず為せないと思って良い。

 それらをPoHも理解している筈なのだが、彼の話を聞いた限りでは復讐から遠のいている気もする。使い手がアレであっても、装備の性能は《必中》というものである以上相当強力だ。彼が例外なのであり普通なら為す術も無くやられている。

 

「奇襲であれば魔槍の一撃も有効であると立証されています。確かに合計八本も奪われた事は十分失態と言えるでしょうが、あの男が魔槍ばかり集めていたとは思えません。むしろ魔槍を使った奇襲を乗り越えるものとして想定し次の策を練っていると言われた方が納得出来ます……だとしても、復讐が目的なら迂遠的と言わざるを得ませんが」

「確かに……」

 

 【魔槍ゲイ・ボルグ】の能力は強力だ。これまでソロで並み居る強敵達を初見だろうと打倒してきたキーにすら、奇襲に加えて動揺があったにせよ一撃与えたのだ、その能力を上手く扱えば復讐は容易でなくとも為せるだろう。

 極論《笑う棺桶》のメンバーの誰かが《長槍》スキルを取り、ケイタと同じようにスキル値を上げて《ゲイ・ボルグ》を習得すれば、多方向から追尾攻撃を放てる。

 キーが対処出来ていたのもケイタ一人による攻撃だったからという部分が大きい。仮にあの最初の奇襲でケイタとは別の所から槍を投げる者がいたなら、彼は二撃目も諸に喰らい、呆気なく死んでいた筈だ。

 それをPoHが考えない筈がない。そも、八本も【魔槍ゲイ・ボルグ】を用意していて、キーの位置を把握した上での奇襲でありながら一人しか投げない布陣など、無駄が過ぎる計画だ。殺す事を目的としているならケイタのように息巻いていようがいなかろうが、オレンジ達を相手にするキーのようにもっと容赦が無くなってもおかしくない。

 それが無い時点でPoHの行動に一貫性が無いとしか思えず、本当にキーを殺そうと企んでいるのか怪しく思えて来る。

 

「それに……魔槍を入手した者がPoHである事が本当なら、更に最悪の可能性があります。あの魔槍は、厳密にはホロウ・ミッションのクリア報酬によるものでは無いんです」

 

 広義の意味ではミッションクリア報酬なのだが、正確に言うなら異なる。

 【魔槍ゲイ・ボルグ】を入手するには、樹海エリアのとある場所に発生する《フラグメント・ミッション》をクリアする必要がある。フラグメントと名が付くミッションはグランドと異なり幾度でも挑戦出来るので、本数はそれで賄える。

 キーが入手した【王剣クラレント】は《グランド・ミッション》のものなので一本しか存在しない。

 厳密に言うと、同じプレイヤーが同じ《グランド・ミッション》に挑戦出来ないだけで、他のプレイヤーがクリアしたならその人数だけ現存する。つまりキーはもう挑戦出来ないが、ユウキさんがクリアしてトレードすれば、彼は二本目を手に入れられるという事である。

 しかし今回、そこはあまり関係ない。

 問題なのは『ミッションに挑戦出来ている』事実なのだ。

 

「フラグメントだろうとグランドだろうと証がなければそもそもミッションは起動せず、同時に【魔槍ゲイ・ボルグ】を始めミッションをクリアした際に装備を入手するには左右の手どちらかに《高位テストプレイヤー権限》の証がなければならない……つまりあの男は、この管理区への出入りも出来てしまう事に……」

「「「「な……ッ」」」」

 

 さっき知った事実から分かった事を伝えると、四人は揃って絶句した。

 

「で、でも何で? ボクとキリトはまだ死亡判定を受けてないけど、PoHは死亡判定を一度受けてる筈で……」

 

 狼狽えながらユウキさんが問うてきた。

 私はそれに、現状考え得る可能性を告げた。

 立っている予想としては、ユウキさんに証が刻まれた理由は恐らく《ホロウ・デッドニング・リーパー》を討伐した事にあるだろうのだが、PoHもそれをしたという可能性が一つ。

 もう一つとしては無いと願いたいが、SAOをデスゲームへと変えた黒幕が与えたという可能性だ。

 PoHはリアルで《織斑一夏》を攫い、非道な人体実験をしていた研究所で戦闘訓練を施す依頼を受けるくらい裏の闇というものにどっぷり浸かっている傭兵だという。そんな傭兵が何故SAOというデスゲーム開始時まではただのVRMMORPGへログインしているのか気になっていた。

 気になって調べてみれば、PoHの《アインクラッド》でのログは奇妙な時間から始まっていた。

 あらゆるプレイヤー達のログイン時間は大半が2022年11月7日の午後1時から午後5時30分になっている。リー姉や【白の剣士】、シノンさんのような後から入って来た人達は流石に例外だが、それ以外はほぼその時間帯である。

 

 だが、PoHのログイン時間は、11月14日となっていた。

 

 つまりあの男はデスゲームであると世間に広まってから、何を考えてかは知らないがログインしていた事になる。この不可解なログイン時間と行動だけでも、あの男が実はデスゲーム化の黒幕と繋がりがあるのではと推測するには十分過ぎる事実だ。

 だから私は、その黒幕がPoHをサポートしているのではと考えた。

 引っ掛かる点としては、《アインクラッド》で死亡判定を受けた男を何時までもサポートするかという事なのだが。これがPoHの死亡から数日程度であればまだしも、あの男が《ホロウ・エリア》に移ってから既に半年近くも経っている。そんな男にサポートする価値を黒幕が見出す可能性は高くないだろう。

 まぁ、《ホロウ・エリア》に移ってすぐに指令を更新し、《高位テストプレイヤー権限》を付与したなら話は別なのだが……

 

「どちらにせよあの【魔槍ゲイ・ボルグ】を手に入れた者がPoHである事が本当ならば、管理区へ転移出来る事は確実でしょう」

 

 経緯はともあれ、魔槍を入手した者がPoHであるならそこは確実なのだ、ミッションを受ける時点で《高位テストプレイヤー権限》を有していなければならないのだから。

 もし権限を有していなくともミッションに挑戦出来るならとっくの昔にフィリアさん達が何かしらのミッションに挑戦していたに違いない。その情報を基にキーも動けていた筈だ。

 

「そんな……」

 

 私が出した結論に最初に動揺を見せたのはルクスさんだった。

 彼女は顔を恐怖に引き攣らせ、自分を抱き締めるように二の腕を擦って縮こまっていた。微かに震えているようにも見える。

 ルクスさんは中層圏で動いていたという話だから、ある意味《笑う棺桶》やオレンジ達の被害を最も被りやすいレベル帯にあった立場だ。しかもSAOに於いて女性は貴重で、柔らかな雰囲気だったり女尊男卑でない女性となれば輪を掛けて希少と言える。

 《笑う棺桶》は異常者の集まりとして出遭ったが最後死ぬしかないとまで恐れられていたというし、何かしらのトラウマを持っていてもおかしくないだろう。

 特に管理区は限られた者しか来られない《安全地帯》という認識だった。それなのに、最も危険な存在が来られるとなれば、恐怖を覚えるのは当然の反応だ。

 

「「……」」

 

 対して、リー姉とユウキさんは無言を貫いていた。動揺は見られない。

 ただ二人の左手はさり気無く腰の剣帯から吊るしたそれぞれの愛刀と愛剣の鞘をに掛けられていて、右手は静かに握り込まれている。見ただけでは分かり辛いが明らかに警戒を強めていた。

 

「だとしたら、尚更PoHの目的が分からないね……《圏内》ではあるけど此処に来たら追い詰めたも同然なのに……」

 

 そしてサチさんは、管理区へ来られるのに来ないPoHの行動の不可解さを訝しみながら、新たに己の武器となった紅の魔槍の長柄を両手で握り締める。

 幼い少年を守る事に苦心する私達は、PoHの行動と目的の不鮮明さに底無しの不安を覚えていた。

 

 ――――それに、気にするべきなのは《外》だけじゃない……

 

 つい忘れそうになるが、キーの内には別人格が眠っている。【白の剣士】との死闘の後に《攻略組》に忠告していた存在と、その存在が暗喩していた人格だ。

 【白の剣士】との死闘の最中に表に出て来た人格は、『《王》の温情はもう二度と無い』と言っていた。つまり義弟の美点とも言える冷徹さの中に残っている『甘さ』はもう無いという事になる。

 今は辛うじて和解の道を求めているが、それでもケイタが《笑う棺桶》と手を結んでいる事が分かった時点で一度は殺す事も思考したという。それはサチさんの存在が齎す可能性で押さえ込んだが、逆に言うならその可能性が無ければ行動に移していたとも言える。

 理由/希望が無くても『やりたくない』という意志は、理由/希望があるから『やらない』という意志へ、そして最終的に『何が何でもやる』という意志へと変わっていく。彼にとって手に掛ける要素が一つでもあれば、その者が誰であろうと、どんな理由であろうと敵である以上殺すようになっていくのだ。

 それこそが別人格の言っていた事なのだろう。

 今回ケイタを手に掛けなかったのはサチさんとの関係があったから。彼女がまだ知らなかったから、キーは最終的に一度手を引く決断を下した。

 だがサチさんはケイタの存在を知り、あの男の自殺の経緯と理由を知り、今を知った。《笑う棺桶》と繋がりがある事も知った。

 

 ――――きっとこの子は、次は躊躇わないんでしょうね……

 

 膝に頭を乗せて寝かせている義弟を撫でながら思う。

 何度も言うように義弟は甘い。甘いが、やるときはキッチリやる主義だ、仮令その決断が自身にとってどれだけ苦しいものだろうとやると決めれば彼はやる。むしろ一度躊躇う辺り、まだかわいい方である。

 だがそれは、この子にとってケイタという存在は害悪にしかならない。今にとっても、そして今後にとっても、《月夜の黒猫団》との因縁は彼の心に棘となって傷をつけ続けるだろう。それを恐れたから彼は一度躊躇った部分もある。

 その躊躇いを無駄にする訳にはいかない。

 義弟は恐れた、傷付く事を。その反応は至って普通だ。誰もが当然と思っていて、けれど彼にとっては貴重な『普通』の反応なのだ。わざわざ傷付く必要など誰にも無い。

 であるならば、この子を守らなければと思う。命も、心もだ。

 【カーディナル・システム】が私をデリートしている最中に私を構成するプログラムの断片を搔き集め構築された滴のトップ付きネックレスを、此処管理区にあるシステムコンソールを用いてデータを改竄し、構築元の私が入れるようにしたのは、彼を一人にしない為だ。

 身体的な距離としても近くに居る為に。何よりも、この《ホロウ・エリア》でもしもの事態が起こった時に備えて、私はネックレスに自身が入れるよう改竄を施した。

 《ホロウ・エリア》の真実について語っていなかったので本来ならこの事で責められはしないのだが、それでも彼を一人にしないようにという意志は伝わっていた筈だ。

 一人にして欲しいと願ったのは、きっと建前でも何でもない本心だっただろう。

 相手の顔色は見えなくて、逆に自分は見られているという状況に不快感を抱かない方が少ない。むしろ拒絶されていないだけまだ私は受け入れられている方だと言える。

 それが分かっていたから無理矢理入ろうとは一度もしてこなかった。彼が嫌がる事を強引にするなんて、私も嫌だったから。

 しかしそれはあくまで大切な義弟に命の危険が無い場合に限りの話。命の危険があるのなら、私は彼の意見を押し通してでも強引にネックレスに入り、彼の近くに寄り添う所存だ。

 その間は物理的には何も出来ないが、しかし一部のGM権限とAIとしての情報処理速度を以て彼を情報面でサポートする事は十分可能である。

 例えばケイタの周囲にいたという六人のプレイヤーに関しても、対話をしている最中に私はあの時気付いていたし、魔槍に関しても知識があったから初見でどういう性質のものかを見抜く事が出来た。それを伝えていたなら、義弟はギリギリの戦いをせずに済んだだろう。

 戦力として私はまだ至らない部分が多い事は分かっている。幾ら反応や情報処理速度、学習速度が速いからと言っても、私には戦闘技能や技術、経験というものが殆ど無い。学習速度のお陰で前線でも戦えるレベルにはなったが、あくまでそれは先天的な要素に助けられた力ばかり。義弟のような長い経験を積んでの論理的な戦闘思考というものが根付いていない。

 だから対人戦に関しても、強大なモンスターとの戦いに関しても、私が彼の足を引っ張る可能性は非常に高い。

 しかしそれはアタッカーを始めとした前線でのスタイルに関しての話。

 極論距離を取ってエネルギーボウガンで援護するなどのサポート重視であれば彼の力になる事はある程度可能だ。彼のマルチタスク能力は半端では無いが、生粋のAIには流石に勝てない、情報処理速度に関しては私の方が上だ。だから後衛で注意を喚起したり、敵を足止めしたりといったクラウドコントローラーであれば私はまだ動ける自信がある。

 恐らく、私以上に義弟の方がよく分かっている筈だ。私が創られたコンセプトからして元々他者を傷付けるような行為には長けておらず、反面支援に長けている性格であり、そこに情報処理が加われば更に良い事くらい。

 実際《ホロウ・エリア》に来てからユウキさん達と再会するまでの三日間、私は情報面でのサポートで面目躍如と言える働きをしてみせた。その実績があるから多分それは分かっている筈なのだ。

 彼の戦闘スタイルの邪魔にならず、且つ寄り添いながらサポート出来るようにと改竄したネックレスに、この功績を以て入り易くしようとも考えていた。

 それは全て、義弟の安全の為。意図はどうあれ目的に関しては彼自身も理解している。

 私はまだ、この子の隣や背を預けて戦うに足る実力を有していない。だから直接的には義弟の命を守れない。

 だがアルゴさんのように情報統制で間接的に、あるいはユウキさんやリー姉のように精神的な支えとなって心を守る事は出来る。MHCPという人の心を癒すプログラムである私は、むしろそちらの方が本分と言える。せめてそちらでくらい役に立たなければ、何のために寄り添っているか分からなくなってしまう。

 

 ――――お願いですから……お義姉ちゃんを、頼って下さい……キー……ッ!

 

 泣きそうになるのをぐっと堪えて、彼の左手を自分の左手で優しく握りながら胸中で叫ぶ。

 サチさんを頼ろうとしたのは確かな進歩だ。何でも一人でしようとしていた時の思考に較べれば、それは遥かに喜ぶべき成長である。

 けれど、むっとしてしまうのも事実。

 この少年になら全てを捧げても良いと思っている私にとって、私の頑張りを無視した行動を取られるのは非常に哀しい事だ。仮令彼にそのつもりが無いのだとしても。

 確かに技術は無いだろう。でもステータスという数値上の素地は整えた。

 確かに関係は無いだろう。でも相談しやすいように近くに居るようにした。

 もっと周り/私を見てと思う。あなたに力を貸せる存在は、あなたを支えようとする存在は、決してサチさんだけではないのだから。《月夜の黒猫団》の因縁で彼女を優先する事も分かるけど、今のあなたはソロだった当時のあなたとは違うのだから。

 ケイタの事がある。PoHの事がある。それどころかこの世界には、彼が『《アインクラッド》の秩序の為』と斬り捨てて来た者達が蔓延っている。

 その場所に不安を抱くだろうし、一緒に居る私やルクスさん、共に探索する仲間を守ろうと必死になる事も分かる。

 けれど、負の感情を向けて来る原因が自分だからと、どうか抱え込まないで欲しいと切に願う。

 

 






 はい、如何だったでしょうか。

 織斑一夏/桐ヶ谷和人とPoHがリアルで関係を持っていて、しかも大体PoHの職業も察せていて、更にユイ姉がログイン時間を調べ上げたらね、PoHのおかしさは克明というお話。

 更にケイタを見限った事、魔槍を入手可能=高位権限持ちなのに管理区に来ない(ルクス視点でPoHが管理区を知っているのはユイ達は把握して無いけど判明済み)のは道理に合っていない。

 という訳でPoHの目的がキリト殺害なのか分からない。

 しかもログイン時間のおかしさから考えると、余計他のオレンジ達と違うから異質さが際立っている。

 多分原作も展開によってはPoHのログイン時間がおかしいっていうのは分かる。むしろ原作菊岡さんは何故コレをスルーしてたんですかねェ……(死銃事件を振り返りつつ)

 次にサチのケイタへの対応について。

 一先ずサチは、ケイタと戦う事は覚悟しました。最悪手に掛ける事も。でも手に掛けるとキリトの精神がマッハで死ぬ事が火を見るよりも明らかなので自重。今のサチにとって、外道と手を結んだ元仲間(ケイタ)より、今も仲間である自分の恩人(キリト)の方が大事なのだ。

 とは言え、サチはケイタを見限っている訳ではありません。好き嫌いは別として。

 ……そもそも原作のサチって、ケイタ達の事をどう思っていたのか情報が少なすぎて微妙なんですよね。今話で『何となく怖がってるのに気付かれているけど放っておかれていた』と勘付いていた風にしてるので、好きな方には尚更傾けないし。

 やっぱ《月夜の黒猫団》案件は難しいですね……

 ちなみに今話でキリトが寝ているのは、午前三時頃から目を醒まして以降ずっとハードワーク&ストレスマッハだったから。昼行燈という訳では無いんダゼ?(汗)

 では、次話にてお会いしましょう。


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