Fallout 3 -Lyrical edition- 作:クラッチペダル
目の前に広がる光景に、アキは圧倒されていた。
それは、一般人にとっては別段圧倒されるような光景ではない。
しかし、彼にとって、その光景は圧倒されるに足りえる光景であり、もはや恐怖さえも浮かび上がってくるほどの大きな衝撃が彼を襲っていた。
そして、それを挟んだ正面には、その光景を作り出した張本人が満面の笑みでアキの驚きが現れている顔を見ている。
「ふふん、どや! アキさん!」
「こいつを全部お前が作ったのか? ハヤテ……とんでもねぇな」
アキの目の前のテーブルに広がる無数の料理。
そのどれもが湯気をたたせており、先ほど作り上げられたばかりだという事実を突きつける。
鼻腔をくすぐるのはさまざまな香り。
そのどれもが食欲を掻き立てる魔力を秘めていた。
「私の家、見ての通り一人暮らしやし、料理も自分でつくっとるんよ。最初は食べれるもん作れへんかったけど、やってるうちにしだいにこんな具合に」
「すげぇ! 所で、食っていいのか? これ」
アキの態度は、普通であれば失礼に当たるものだ。
しかし、はやてはアキの態度をとがめることはせず、苦笑交じりで食べてもいいということを伝える。
「それはアキさんへのお礼に作ったんよ? むしろ冷めるまえに食べたってや」
それを聞いたアキの行動早かった。
箸が使えないため、目の前に置かれたフォークとスプーンを用いて次々と料理を口に運ぶ。
そのたびに驚きに目を見開くアキは、食事の手を早めていく。
「うめぇ! すげぇうめぇよ!! 久々にまともなもん食ったって言うのもあるんだろうけど、それを抜きにしたってうめぇ!!」
「久々にまともなって、いったい今までなに食べてたん? アキさん」
「ん?」
はやての疑問に、アキはPip-Boyを操作すると、複数の物を取り出す。
どれも何かを入れた箱のようで、箱には英語が印字されている。
「んー? 『ソールズ・ベリーステーキ』? これってあれやろ? ようするにハンバーグやないか。別にそれほどけったいな物でも……」
「あ、それ200年前の奴な?」
「ぶーっ!?」
その言葉に慌てて箱を手放す。
別に触れていたところで食べなければ害は無いが、それでも200年前の食べ物だといわれたものを好き好んで触りたいと思う人間ははいないだろう。
「他にも『シュガーボム』とか『即席ポテト』とかいろいろ食ってきたぜ? ……全部200年前の物だけどな」
「よくそんなん食べてお腹壊さへんかったなぁ……あれ、なんでやろ、その話聞いてたら急に涙が……」
何ゆえ200年前の食べ物を食べねばならなかったのかははやては分からなかったが、少なくともアキがこれまで苦労してきたということは良く分かる。
「ちなみについ最近とって来たばっかりの物もあるぜ?」
「……なんや、やな予感しかせぇへんけど、一応聞いとく。どんなんや?」
「んーっと、これ」
そう言って取り出されたものは、一見すればただの肉。
それを手で弄びながら、アキは説明する。
「モールラッドって言う、まぁ……でけぇねずみの肉だな」
「んなモン食うなやぁ!!」
お手玉のように軽く上に放り投げていた肉をはやてがどこからか取り出したはりせんで叩き落とす。
その様子を見てアキは思う。
(……ラッドローチの肉出さなくて良かった)
あの世界でさえラッドローチは嫌われ者だ。
だって、あれは大きくなった究極生命体Gだから。
恐らく、目の前の少女に見せたら気絶することは間違いないだろう。
一方のはやてはと言うと、はりせんを振り切った状態のまま肩で荒い息をしばらくやった後、アキの両肩に両手を置いた。
「アキさん、辛かったんやなぁ……でももう大丈夫や! これからは私がマトモなもんいっぱい食べさせてやるさかいに! せやからもうこんなん捨ててや? な? な!?」
「お、おう」
涙ながらの言葉だった。
さすがの様子に、アキも若干身体を引かざるを得ない。
ついでに、思わずはやての言葉に頷いてしまった。
はやての言葉に、若干首をかしげる点があった事に気づきながらも。
ちなみに、はやてははやてで冷静になったとたん、ある疑問が浮かび上がってくる。
(……200年前って、こんな保存食あったんかなぁ?)
もちろんアキの200年前とは、彼がウェイストランドをすごしていた2277年から200年前だったのだが、それを説明していなかったアキのせいで、はやては現在から200年前の物だと勘違いをしてしまっていた。
「……まぁええか」
だが、はやては深く考えないことにした。
別にこの疑問解決しなくても問題ないし、と。
※ ※ ※
「……どうしてこうなった?」
「そんなん気にせぇへんでもええやんか」
時刻は夜中といっていい時刻。
アキは未だにはやての家に居た。
しかも現在彼が居るのははやての家のはやての部屋、その部屋にあるベッド。
そして隣には当然部屋の主であるはやてがいる。
はやては隣で横になっているアキの腕にしがみつく様にしているため、ベッドから抜け出そうにも無理がある。
ここまでになってしまった理由に特別なことは無い。
ただ夕食をご馳走になり、さぁあの公園へ帰るかと言ったところではやてが食後のお茶と言うことでアキを引き留め、お茶が終わってさぁ帰ろうというところでお風呂に誘われ、あれよあれよと言う間に一緒に寝ることになってしまっていた。
それはもう鮮やかな手腕であり、スピーチスキル100故に相手を丸め込む事が得意なアキでさえ逆に丸め込まれていた。
「こうやって誰かと一緒に寝れるなんて考えたことも無かったな……一人暮らしやし」
「…………」
はやては寂しそうにそう呟く。
聞くところによるとはやては9歳。
今では一人たくましく生きるアキでさえ、9歳といえばVaultで父に支えられ、友人のアマタ達と共に暮らしていた時代だ。
そんな幼さで一人暮らし、はたしてどれほどの寂しさだっただろうか。
頼る親も、知り合いもおらず、定期的に父の知り合いと言う顔も知らぬ人からの援助しかない。
ふとアキが思い出すのはブライアンと言う名の少年。
グレイディッチという街に住んでいたが、とある下種な科学者の失敗のせいで異常進化したアリに家族、他の住民を殺され、街で唯一の生存者となってしまった少年。
はやての姿が、ふと彼とダブって見えた。
誰かに助けを求め荒野を駆け回っていたブライアン。
言葉では何も言わないものの、寂しい、一人は嫌だと言外に訴えてくるはやて。
行動は正反対だが、アキにはどうしても二人が重なって見えた。
※ ※ ※
翌朝。
ちゃっかりとはやてお手製の朝食を食したアキは、現在件の公園に居た。
これからの事を考え、回収しなければならないものがあったからだ。
「あったあった……よし、誰も触ってねぇみたいだな」
彼が回収しなければならなかったのはあの公園に置きっぱなしであった多数の袋のうち一つ。
その中に入っているのはさまざまな銃火器。
袋の外見上、明らかに入りきらないであろう量の銃火器がその袋には収納されていた。
彼が回収したかったのはこれ。
どこかの誰かに自分が集めた武器を取られるなど、ウェイストランドではもはや致命的だ。
故に、彼はこれだけは回収しなければと心に決めていた。
……なお、やはり彼はこの世界とウェイストランド流の考えが抜けきらず、こんなものが発見されればまず通報され、警察に回収され厳重保管されるため、誰かに盗られるということはまずないということに考えが及んでいなかったりする。
仮によからぬことを考えている輩がこれを見つけてなにかを盗んだとしても……そのときはその輩の死期が近寄ってくるだけである。
Vault101のアイツに「慈悲」と言う二文字はないのだ。
一通り袋の中身を確認し、何も取られていないことを確認すると、アキはその袋を肩に担ぎ、その場を立ち去っていった。
向かう先は、はやての家がある方向。
※ ※ ※
「…………」
はやての家に向かっていたアキは、急に立ち止まり、袋を地面に置くと、周囲を見回す。
先ほどまでまばらとはいえ人が行き交っていた住宅街の道に、いつの間にか人一人いなくなっていた。
全ての人が通り過ぎてしまったのだろうか?
しかし、それにしても人が中にいるはずの家から何の音もせず、人の気配すらしないと言うのは不可解すぎる。
Pip-Boyのコンパスを見ると、周囲に人ないし生命体の反応を示すアイコンはない。
近くにある家の中にも反応がない。明らかな異常だった。
……いや、急にそこに現れたかのように二つ、赤いアイコンが現れる。
つまり、アキに敵対する存在が二人、急に現れたということだ。
反応からして、その存在がいるのは自分の正面にある曲がり角の影。
「これも魔法って奴か? それとも別の何かか? ……知ってたら教えてくれねぇか?」
その地点に向かって声をかけると、角から一人の人間が姿を現す。
その人物は仮面で顔を隠している男だった。
「……なぜ気づいた?」
「さぁね」
男の問いに答えながらも、アキはPip-boyを画面を見ずに操作。
アキ自身はショートカットと呼んでいる機能に登録していたある物を呼び出す。
「で? わざわざこんな人気のない場所に人を呼んでまで何の用だ?」
「……八神はやてに近寄るな」
「理由は?」
「お前に言う必要はない」
「あっそ、なら俺の答えはこうだ……『テメェの話はクソ食らえだ、失せな』」
中指を立てて、あえて相手が怒るであろう言葉を選んで言い放った。
何故わざわざ相手を怒らせるような事を言ったかと言うと……向こうが先に敵対してきたらアキが引く引き金も軽くなるからと言う程度の考えからだ。
そして思惑通りアキの態度に殺気をむき出しにし始めた仮面の男に、アキは先ほど呼び出していた物体を向ける。
それは一見するとSF映画で出てくるようなライフル。
パイプやチューブがむき出しになっており、一見すると玩具のようにも見えかねない代物。
しかし、これこそが一部界隈でエネルギー武器の革命児とも呼ばれている存在だ。
「悪いがそこをどいてくれねぇか? さっさとハヤテのところにいきてぇんだよ、俺は」
「断る。このまま八神はやての元へ行くというのなら……ここで始末する」
「……OK、一応どけと一度は言った。それでもどかねぇなら実力行使だ」
そう言い放つと同時にアキは構えていたライフルの引鉄を引く。
銃口に当たる先端部から、緑の光が撃ち出され仮面の男の傍にあったカーブミラーに当たる。
緑の光が当たったカーブミラーは、そのまま全体を緑に発光させると崩壊、緑の光を放つ粘液にジョブチェンジした。
「……は?」
あまりに常識はずれな光景に、仮面の男は間の抜けた声を出す。
そんな男の様子など知ったことかといわんばかりに、アキは再びライフル……A3-21プラズマライフルを構えて言った。
「ちっ、少しズレたか。エナジーウェポンのスキルも上げとくべきだったな。で、どうする? 俺としてはそこのカーブミラーみたいに緑の粘液にジョブチェンジしてくれたほうが楽で良いんだが?」
「は? え? はぇ?」
混乱している最中に物騒極まりない台詞を言われ、余計に混乱する男。
これ以上言葉をかけるのが七面倒くさいと判断したアキは、そのままプライズマライフルの引鉄を何度も引く。
緑の光弾が次々と男の周囲にある物を緑の粘液へと変えていく。
柱、塀、誰かの家の庭に植えられていた木、とにかく周りにあるものを何でもだ。
「……あたらねぇ。一応スキル70までは上げてるんだぜ?」
本人以外には皆目理解できないことを呟きながら、アキは傍と思い出す。
そういやこれの修理してなかった、と。
コンディションをみると既に半分を下回っていた。
そりゃ当たらないわけだと一人納得したアキは、Pip-Boyに指令を送る。
その指令に従い、Pip-Boyから流された電気信号により、アキの感覚のみが異常なほど加速。
周囲の物体が止まって見える状態になる。
そのまま意識を仮面の男に向けると、身体の各部位の傍に数字が浮かび上がる。
ざっと相手の全身を見て、一番数字が大きい足にさらに意識を集中させた後、Pip-Boyに意識を向け操作。
再びPip-Boyから流れる電流が脳からの伝達信号の変わりに身体を動かす。
ライフルを相手の足に向かって構え、引鉄を一回、二回、三回と引く。
三発中二発は男の足の脇にあたり、最後の一発が男に当たる……かと思われたところで、男の姿が消え去った。
「……?」
V.A.T.Sにより異常に加速していた感覚が元に戻ると同時にアキは周囲を見渡す。
しかし、先ほどまで居たはずの男の姿はない。
コンパスを見ると、赤いアイコンは既に存在していなかった。
「……そういやコンパスにはもう一つ反応あったか」
恐らく、そのもう一つの反応が何かしたのだろうとあたりをつけると、アキはプラズマライフルを仕舞い、地面においていた袋を担ぐとその場を後にした。
なお、仮面の男がアキに接触する直前に張っていた結界が消えた後、道路上に残されていた緑色に光る粘液のせいでその地域一帯が大騒ぎとなったのだが、幸か不幸か、アキはその騒ぎを知ることはなかった。
※ ※ ※
アキが玄関に上がると、リビングから何かが転がるような音がし、やがてはやてが顔を見せる。
「おっす、また邪魔すっぜ」
「ちゃうやろ? アキさん」
ハヤテの言葉にしばらく唖然とした後、アキは苦笑しながら再び口を開いた。
「……ただいま、か?」
「そや、ただいま、や。おかえり、アキさん」
その言葉を受けたアキは、履いていた靴を脱いで、はやての家に上がっていった。
と言うわけでアキさんははやての家に居候することになりました。結構展開がむちゃくちゃな気がしますが、そこはクラッチペダルクオリティと言うことで。
さて、今回登場した武器はA3-21プラズマライフル。
手に入れたら中盤、下手すれば最後まで十分メインウェポンとして使える強力な武器。
威力よし、クリティカル率よし、ネックといえば弾速が遅いということと、クリティカルがばんばん発生するため、周囲が緑の粘液まみれになり、負荷の原因になるということ。
プラズマライフル系はクリティカルでトドメさすと緑の粘液になっちゃうんですよね。