俺は一目見てこの黒髪の女性が武神であることを察知した。この荒々しい気の塊、黒川より遥かに強い気であり、底がまったく知れない。間違いなく武神だ。遠目から見ても底の知らない恐ろしさと顔が美少女の類ということで凛々しいと言う印象が強く、真紅に燃える赤い眼や大人びているのが凛々しさを際立たせる。この場に美しいもの目がない毛利がいたら美しいと連呼するのは間違いないだろう。
「これ、モモ。今日から川神院で鍛錬する、立花雪宗が来たぞぃ」
川神鉄心は武神と思わしき黒髪の女性を呼び出し、お互い自己紹介させる場を設けた。近くで見るとこの女性、遠めで見たときよりもさらに美人さんだ。西で有名な腹黒小町でなく納豆小町と同じくらい別格であるだろう。
「おー、お前が西国無双の剣士と呼ばれている立花か。思ったより顔つきは幼いな、体つきも結構小さいな。私のほうが背は高いか? お前本当に高校生か?」
いきなり人のコンプレックスを突いてくるとは、流石は武神。恐れ知らずと言ったところだな。武神自体も女性の中では背が高いし、羨ましい。そう俺は背も一般男比べやや低く、顔つきが幼く見えるせいで、現段階でも中学生と間違われる始末。一回、十勇士たちと遊びに行く際も、電車にて行くルートを聞くために駅員さんの所に行った際のことである。
『あら。分からないことがあるの? 小学生にしては偉いわね』
高校1年生で小学生と勘違いされ、さらには子ども料金を進められたときにはその駅員を叩き斬ってやろうかとキレそうになり、島や長宗我部に止められ、石田たちには大爆笑され、尼子に慰められたのは苦い青春の居1ページである。実は俺がこの川神の地を予定より遅く着いたのはそこもある。
「どうも初めまして、顔つきも体格も幼めの立花雪宗です。よろしくお願いしますが、あまり初対面の人にコンプレックスを突く発言は…よくないですよ?」
いくら顔が幼めであるとはいえ舐められるのは流石の俺もそこまでプライドを捨てている人間ではない、闘気をぶつけ、川神百代と決闘する気はないが、舐められるのも癪なので、威嚇をする。まあ、武神にとってはあいさつ程度の気迫だろう。
「っ! ああ。よろしくな。私は川神百代だ、にしても鋭い気を放つんだな。姉さんワクワクしてきたぞ」
「当たり前だ、いくら年上とはいえ舐められるのは性には合わない身、故に鋭い闘気をぶつけたまでのこと。武神のあなたでも、見くびられるのは嫌だからさ」
「へぇ。お前面白いやつだな、どうだ、この私と闘ってみたいと思わないか?」
ここは血の気が多い武道家しか集まらないのだろうか? さっきの黒川といい、この武神といい、そんなに戦いに飢えているのだろうか。俺の答えは初めから決まってはいる。
「だが断る!」
「そうか、それじゃあ私と…って、えー! 何でそこで断るんだよ。ノリが悪いやつめー」
いきなりふて腐れた顔しているぞ、この武神。さっきまでの凛とした表情はどこへ行った?
「いきなり、1対1の真剣勝負など何を言っているのですか。こっちは長旅で疲れた身。それに黒川抑えるのに疲れているし、武神と闘う気ないし」
「まあそう硬い事言うなって、私はお前の闘気に当てられて、久々私と闘えるやつが現れてワクワクな気分なのになー」
今度は駄々をこね始めたぞ、この武神。美人であることは認めるが、この感覚。なんか黒川が悦に入っているときと似たような雰囲気を醸し出している。まるで獲物を狙う捕食者の目だ。危ういのが目に見えて分かる。だが、捕食者に食べられるほど俺も甘くはない。
「俺はまだまだ未熟だから、今武神と真剣勝負したところで得るものなんて何もないさ。俺が求めているのは、そいつと本気で闘いたいと思える奴じゃないと闘えないし、今本調子じゃないので嫌です」
「つまり、私じゃ本気で闘いたいと思える奴じゃないと言っているようなものに聞こえるが」
俺の答えに不服だったようで、闘気をさらに膨れあげさせ、荒々しい気を俺にぶつける。武神だけ合ってこの闘気だけで圧倒されそうになるが、この俺も嘘は言いたくはない。故に本当のことを言う。
「その通りです。俺はあなたとは本気で闘いたいとは思えない。なぜならば、その荒々しい気を静めることができない相手と闘い、俺は何を得ると言うのだ? 己の気と感情をコントロールできない相手と戦っても……おっと。では失礼します」
すその場から立ち去り後ろから武神の怒りを買ったのか、荒々しい気をさらに増大させているのを感じるが、それを無視した。あれ以上関わっていたら決闘に発展し掛けないからな。悪いけどの今の武神と闘う気はまるでない。後ろの方から門下生の叫び声がこだましたのは気のせいだと信じたい。すいません。
「モモがすまんの。最近モモと対等に渡り合える相手が引退してからあのように少し荒れ気味での」
苦笑いを浮かべる鉄心さんを傍目に少々自分も言い過ぎたことを反省する。確かに言いすぎたのは否めない。後対等に渡り合える相手というのはおそらく九鬼揚羽のことだろう。彼女が四天王を引退したことによる反動と言いたいのだろうか?
「こちらこそすいません、コンプレックスを刺激され少々熱くなってしまいました。自分もまだまだ未熟の身であると言うことですね」
「なぁに。若い者はそういう風にぶつかうことは別に悪いことではないわい」
高笑いし、少し嬉しそうな表情を浮かべている。今のやり取りを見て微笑ましい場面何てあっただろうか? にしても一つ疑問点が頭に浮かび上がる。
「一つよろしいですか?」
「なんじゃ?」
「拳法が主流である川神院になぜ剣術が主流の俺が呼ばれたのか分からないです。この川神の地にてこの川神院は鍛錬の場として最適ではあるのですが、理由を聞いてもよろしいでしょうか?」
そう、拳法のだったら間違いなく最高な鍛錬場ではあるが、基礎体力や精神鍛錬以外だったら、剣術主流の俺はここで鍛錬するにも自己鍛錬になるだろう。それに川神院だって拳法主流の門下生や留学生が欲しいはずだ。
「それはのぅ…」
彼の真意を知るために聞こうとしたその瞬間だった。
「はぁぁぁ!」
「一子、まだまだ踏み込みが甘いヨ」
元気のよい掛け声とともにかき消されてしまった。そこを向くと。薙刀を構え、技の鍛錬をしている茶髪のポニーテールが特徴的な小柄の女性と緑のジャージを着ている彼女の師匠らしき男性が視界に入る。おそらく鍛錬の最中であろう。だが、俺は薙刀を扱っている彼女がこの川神院で鍛錬しているのは些か驚きを隠せない。
「あの、あの人たちは?」
「あれは一子とここの師範代のルーじゃな。ちょうどよい、一子とは同じ年じゃろうし、紹介しよう。これルー、一子ちょっといいかの?」
その掛け声とともに彼らは鍛錬を一時中断し、こっちの方に来る。にしてもこの一子という女性、見た目は実に可愛らしい顔立ちをしている。それに中々よい気を持っている、気概だけ見るなら武神よりこの一子という女性の方が闘いたいという意欲が沸くものだ。まあ、今日は闘うつもりはないけども。
「なんですカ。総代」
「あっ、爺ちゃん。あら? この人新しく入ってくる門下生の人?」
残念、門下生でなく、留学生というのが正解だろう。
「初めまして、今日から2年間この川神院でお世話になる、立花雪宗です。お二方ともよろしくお願いします。あ、主流は立花流剣術です」
「おー。君が西国無双の剣士と言われるあの立花ですカ! 私はここの師範代をやっているルーだヨ。よろしくネ」
「私は川神一子よ! 同い年というのは爺ちゃんから聞いているわ! よろしくね!」
「よろしく、ええっと…」
「一子ではいいわよ、川神の呼び名だとお姉さま達と被っちゃうから」
「じゃあ一子さん、改めてよろしく」
差し伸べられた手を握り、互いに握手をする。にしても川神って事はさっきの武神の妹で言うことで間違いないと思うが、どうしても気になる点がある。
それは似てない所が多すぎるところだ。薙刀で鍛錬している所といい、主流武器も違う気がする。髪も見た目も全然違うし、背丈も違う。まあ、こういう家庭事情はあまり聞かない方がいいだろう。
俺はそのまま、一子とルー師範代と別れ、鉄心さんの後へ付いていく。さっきの話の続きが気になる。言いそびれた話はミステリーで言うと犯人が分かる一歩手前の高揚感がある。つまり早く答えが知りたいと言う高揚感。
「っで、さっきの話の続きなのですが、なぜ俺はこの川神院に召集されたのですか?」
「それはのぅ…お主、さっきモモの反応や黒川の反応を見てどう思ったかの?」
武神と黒川の反応? それがなぜ川神院に呼ばれた要因になるのかさっぱり分からないけど、まあ今は赤裸々に自分の感想を述べるか。
「そうですね、黒川は獰猛な気を放っており、とても危険な状態だと思われます。一般人あのような殺気を向けている時点で己自身をコントロールできず、本能のまま動いている気がします。放置しすぎて暴れまくる場合、後々の意味でもよくないかと」
俺の言葉にしきりに頷き、もう一人の評価も聞きたいといった反応を取る。
「武神に関しても。好戦的なのはいいですか、自分と闘える人を探しているだけにも見える。気が安定していないのも、もしかして九鬼揚羽さんが引退したのが原因ですか?」
「そうじゃ。九鬼揚羽が引退してからモモも少し荒れ気味での、色々手を焼いている所なんじゃよ。このままではモモも黒川も釈迦堂のよう成りかねないからのう」
釈迦堂の言葉に疑問符が浮かぶ、誰だ? それに川神の総代である鉄心が孫娘に手を焼くのは分かるが、黒川にも手を焼いているのはよく分からない。色々な疑問点が俺思考の中でさまよい続ける。だが、俺の評価を聞いて鉄心さんは結局何が言いたいのだろうか? と言う最大な疑問点が解決していない。
「そこで鍋島の所で鍛錬を積んできたお主だからこそ頼みたいのじゃ」
「頼みたいこと? それは一体なんですか?」
「お主に黒川とモモを一回負かしてほしいのじゃよ」
今とんでもない無理難題が聞こえた。いや気のせいだな。うん。黒川はまだしも武神をぶっ飛ばせとかそんな天変地異が起きそうなことを宣言された気がするが?
「…ん? 今自分の耳が遠くなりそうな言葉が聞こえてきた気がしたけど、気のせいか。っで、鉄心さん本当の目的は何ですか?」
「むっ? 聞こえなかったのかの? だからお主にモモと黒川を一回負かして欲しいのじゃよ。って、どうした立花よ。真っ白に燃え尽きた顔をしておるが」
鍋さん、あなたの師匠は俺に剣の道を絶てと、言っております。それにさっき本人にあなたと闘う道理はない(キリッ)。とかキメ顔ぶち込んだ矢先にこれかよ。おいおい、時間戻せる機械とか存在しないかな? そうすりゃすぐに鍋さんの川神への誘いを断る所から、再開したい。
「鉄心さん…いくら西国無双と言う肩書きを持っている自分でも、西国無敗ではないのですよ。そういうことならまだ腹黒小…じゃなくて納豆小町の松永燕の方が適任だと思いますが、なぜ俺なのですか?」
自分でも分かるくらい声が震えている。武神とサシで闘って今の俺の実力だったら負かすどころかボロ雑巾にされるのが目に見える。黒川ならまだ勝てる気はするが、武神は俺の現状では無理に等しい。
「ほっほっほっ。松永に負けたのは2年前の話であろう。それにおぬしはあれから鍛錬を積んで、積んで、積み重ねた、努力の天才だと鍋島から評価しておったぞ。それにモモも黒川も今まで負けたことがなくての、ヒュームやわしがモモたちに勝っても仕方ないで終わってしまうからのう。だけど、同年代のおぬしに負けたとなれば、モモも黒川も己を見つめなおす機会を与えることができると思うのじゃ」
武神はともかく黒川も今まで負けなしだったのか、それは意外だ。確かに一度敗北した俺は前より鍛錬も励んだし、時には十勇士たちと遊びに行き、学校生活を謳歌した。あの頃は最高に楽しかったし、己を高められる実感がわいてくる高揚感は嬉しかった。ってか、鍋さん俺のことをそんなに評価していてくれたとは知らなかった。
だけど、天神館を出て、さらに己をもっと高めるためにこの川神の地に降りた俺にとってこの負かして欲しいと言う依頼は果たして俺が己を高めることのために必要なことなのか? 鉄心さんの顔を真正面に向き、鍋さんが師匠と言っている彼の目を見ながら。俺はその問いを投げかける。
「鉄心さん、その二人を任すことによって未熟な俺自身も己を高めることができるのでしょうか? 俺はそのためにこの川神の地に来ました。あなたはその答えにはいと言えるのですか?」
「勿論じゃ、お主が黒川やモモを負かすためにお主自身も高められることはできる。可能じゃ、この川神の地はお主を失望させることはない。それに一度の敗北を味わっており、鍛錬を積み重ねているおぬしだからこそ頼みたい。頼む」
「えっ!? いや、あ、頭を上げていただきたい。鉄心さん」
武術の総本山の人に頭を下げられると流石に困ってしまう。鍋さんにそこまで評価され、その師匠の人が頭を下げるのなら、断る道理なんて存在しないじゃないか!
いいだろう、もうこうなったらこの負かして欲しいという依頼を受ける。その中で何を得るか何を見出せることができるのは俺自身に最終的に繋がるのなら、乗る。
「分かりました、その依頼引き受けます。でも、今すぐに倒せというのは無理です。時間は経つと思いますが、それでも構いませんか?」
「おぬしが…鍋島の弟子で本当によかった。あやつもいい弟子をもったのう。ありがとうそれだけの答えでも十分じゃ」
ホッと安堵した半分嬉しさ半分の表情を浮かべた鉄心さんと固い握手をこのとき交わした。
―――――この時、西国無双の剣士はこの川神の地で自分を見出す決意を固くしたのである。
「黒川、おねえさんと決闘しないか? 今ちょうどジジイもいないからな」
「武神か。最高じゃねえかぁ! ここでお前の無敗記録俺がぶっ壊してやらぁ!」
遠目から武神と黒川が互いに決闘を申し込んでいる様子が見える。鉄心さんはため息を付き、すぐさま彼らのほうに向かい、決闘を文字通り力づくでやめさせていた。毘沙門天って顕現するんだなと感心していると同時にあの二人としばらく住むことを考えると頭が痛くなりそうになった。そのまま二人を引き摺り立ち去って行った。そういえばもう一つ聞きそびれたことがある。
「俺の部屋ってどこだ?」
かなり久々の投稿ですが、リアル方面で少々忙しいので申し訳ないです
それでは読んでいただき、ありがとうございました。