ま、まさかひと月も開けてしまうとは……!
スミマセン(汗)クリスマスモノ書いてたら忙しくて更新遅れちゃいました><
前作が完結してから幾年月……ついに、ついに!ようやく今回から相模家ご訪問編に突入します!
どなたさまも、微笑ましくも生暖かい目で見てやってくださいましm(__)m
「ちょっと南いつまで寝てるの! もう十時過ぎよ!? 比企谷くん、お昼過ぎには来ちゃうんじゃないの〜?」
「……ふぇ? ……んん〜………………んん? ……げっ!」
洋服がそこら中に散乱する部屋の、タオルケットもシーツも乱れに乱れたベッドの上、寝呆け眼をこすりながら枕元の携帯で時間を確認し、寝癖で爆発した頭を抱える女の子。
普段のこの部屋の様子を知らずにこの一場面だけを目撃したのならば、さぞや女子力欠如のだらしない女の子に見えることでしょう。
でも普段のこの部屋の様子を知っている私からすれば、この乱れた部屋もこの乱れた女の子も、これからやってくる出来事が楽しみすぎて、昨夜遅くまで……それどころか明け方くらいまで寝付けなかったのではないだろうか? という微笑ましい光景が容易に想像出来てしまい、呆れながらもついつい頬が弛んでしまうのを感じる。
「まったくもう。お母さん、先にごはん作る準備始めちゃうわよ? 早く顔洗って下りてきなさーい」
「ちょ! 待ってよお母さん! うちもすぐ準備するから、ごはん作り始めんの待っててぇ!」
「ふふっ、はいはい」
いま目が醒めたばかりとは思えない速度でベッドから飛び起きて、ドタバタと激しい音を立てながら部屋中を駆け回る。
「あ゙ぁぁぁ! どーしよぉぉ! うちまだなに着るかも決めてないのにぃ! あーもううちのバカぁ!」
そう嘆きつつも、お気に入りなのであろう何着かはあらかじめ見繕っていたみたいで、その洋服の組み合わせをあれこれ悩みながら、姿見の前で自分に合わせて四苦八苦している我が愛娘にこう声を掛ける私。
「ホントに大丈夫なの? それじゃまだ作らないで待っとくわよー。ほらほら、洋服ばかりじゃなくて、早くその頭もなんとかしなさいね」
「え……? やぁぁぁ!? なにこれぇ!?」
着る物にしか目が行ってなかった南は、自分の現在のヘアスタイルにようやく気付き叫び声を上げる。
そりゃ叫びたくもなるわよね。それだけ酷いとセットするにも一苦労でしょうからね〜。服の前に、まずはシャワー浴びなきゃなんじゃないかしら?
「それにあれでしょ? 南のお部屋にも比企谷くん上げるつもりなら、この酷い有様もちゃんとお片付けしとかないと呆れられちゃうからね〜」
とどめとばかりに、優しい笑顔でそう言い捨てて部屋をあとにする。うら若き恋する乙女としてはメイクだって念入りにしたいでしょうし、これは全て片付けてくるのに一時間以上は掛かっちゃいそうね〜。やっぱり先にごはんの準備始めとこうかしら?
やぁぁ! 無理無理ぃ! との叫びを背中に受け、にまにまと呆れ笑いを浮かべつつ階段を下りていく私は思います。
──ああ、今日も我が家は平和だなぁ、と!
× × ×
私 相模緑は、相模家の留守を預かる主婦であり、そして相模南の母親である。
南は、ほんの二ヶ月前まで不登校だった。
原因は、進級してからのクラスに馴染めず……というのは、不登校が始まった時の担任からの体の良い説明に過ぎず、本当は……軽い虐めに合っていたそうだ。
一生懸命頑張って不登校から脱却してくれて、しばらくしてから南本人が真相を打ち明けてくれたのだ。
……もっとも、愛する我が子のあの様子を見れば、ただ馴染めなかっただけではないだろうとは察していたけれど……
本来であれば南が打ち明けてくれた時点で、保護者として学校側に一言物申すべきだったのかもしれない。何せ、虐めに合っていたという事実を隠蔽しようとしていたのだから。
でもそれは南と夫、私の三人できちんと話し合った結果、やめておくことにした。
そもそもの原因は自分にあるからと。自分が招いた事態に親を出したくないという、南からの切実なお願いがあったから。
だから自分でなんとかするからと。こんな自分の周りに居てくれる大切な人達が支えてくれるから、これ以上大事にはしないで欲しい、と。
あとは復帰後すぐに訪ねてきて玄関でひたすら頭を下げてくれた生徒指導の女性教師の、あまりにも真摯な謝罪を受けたから……という理由もある。
あの女性教師……平塚先生は、全ての責任は自分と学校側にある。もしこの件を表に出すつもりがあるのなら、微力ながら自分も全力でサポートしますと言ってくれた。
虐めを隠したい側の教師が、自ら学校側を相手取って保護者側をサポートするだなんて……
それは、言うまでもなく首を切られる覚悟の行為。
どうするべきか悩んだけれど、あれだけ悩んで苦しんで引きこもってしまった娘に何もしてやれなかった情けない母親として、せめてそんな娘の熱意を無にしてはいけないと、……そしてあんな先生が見守っていて下さるのであれば大丈夫だろうと、私と夫は、この問題を荒立てない事に決めたのだ。
なによりも……南を支えてくれる『大切な人達』の中に、あの“彼”が居るという理由も、私を大いに安心させてくれていたしね……!
そして今日、そんな彼が……我が家に幸せと平和を届けてくれた比企谷くんが相模家にやってくる。
やってくるというよりは、私が南の背中を無理矢理ひっぱたいて、来てもらえるようにお願いさせたのだけれど。
本当は比企谷くんに無理してもらってまで、わざわざ家に出向いてもらう必要はないのだけど……、まったくあの子は……たぶんこうでもしないと比企谷くんを誘うなんて出来ないんでしょうね。ホントにもう、世話の焼ける子なんだから。
あの子はいつまでも意地を張って「あんなヤツ」とか「そんなんじゃないから」なんて言っているけれど、あんなのは母親じゃなくたって、誰がどう見ても比企谷くんに恋してるようにしか見えないっていうのにねぇ。
私の若い頃なんか、好きだと思った男の子にはがんがんアプローチしてたし、そうやって積極的に攻めまくって旦那だって捕まえたっていうのに……ホント、誰に似たのかしら?
まぁそういった意味では、やっぱり旦那に似たのかしらね。あの人も若い頃はホント意地っ張りで、好きとか愛してるとか全然言ってくれなくて、私も散々やきもきしたものよねっ……!
って、あらいけない! ふふっ、こんな四十過ぎのおばさんの恋愛事情なんて、誰も興味ないわよね♪
とまぁあくまでも、意地っ張りな可愛い娘の為にと比企谷くんを呼ぶ事にしたのだけど、……でも、それも自分の中での建前みたいなところがあるかもしれない。本当は、ちょっと比企谷くんとお話してみたいって、そう思っているの。
私は南の母親として、どうしても彼に直接お礼と謝罪をしなくてはいけないのだから。
ふふ、単純に私も比企谷くんの事が気に入っちゃったというのもあるのだけど。
あの子は比企谷家の長男なのかしら? もし次男であれば、相模家にお婿さんに来てくれないかしらね〜。
「お母さんお待たせ! ヤバいあと一時間くらいしか無いじゃん! 早く始めよっ!」
おっと! もしも南に聞かれたら顔を真っ赤にして怒っちゃうような事を密かに考えていたら、そのご当人がようやく準備を整えて来たみたい。
あらあら、可愛らしいお出掛け用の私服の上からエプロンなんて着けちゃって〜! そして耳にはいつもの花モチーフのピアスがキラリ。
もうこの子ったら、このエプロン姿も彼に見てほしいんじゃないかしら?
「このこの〜! 南も隅に置けないわね〜」
「え、なにいってんの……? 意味わかんないんだけど。もうお母さん若くないんだから、ホントそういうのヤメてよね」
娘のあまりの可愛さに、パチリとウインクして肘で脇をつついてあげたら、とっても痛々しい目で見られてしまいました。
ちょ、あなたお母さんに厳しくないかしら……!?
「ほらお母さん! ワケ分かんないこと言ってないで早く始めようよ」
「……あんたが寝坊したから時間押しちゃってんでしょうが」
「……うっ……それはホント申し訳ないです」
こうして、いけずな娘を軽く折檻しつつ、相模母娘のクッキングが幕を開けるのです。
× × ×
「ヤバいよ〜……! 今からヴィシソワーズ作っても、冷えきんなくてただの生ぬるいポタージュになっちゃうかなぁ……!?」
「じゃああっちのおっきいボウルに氷水入れときなさい? 出来上がったスープを小さいボウルに移してその氷水に当てながら掻き混ぜてれば、すぐに冷えてくれるわよ」
「おお、なるほど!」
「あ、南南、フライドチキンの鶏肉は、この骨と骨のあいだの部分にこうやって切れ目入れとくのよ? そしたら火通りが良くなって生焼けの心配なくなるし、サッと揚がるからジューシーに仕上がるからねー」
「ほーい」
「あ、南、アボカドカットしたら、種もカットした身と一緒にお皿に盛っておいてね」
「え、なんで?」
「アボカドは切ったらだんだん黒く変色してっちゃうんだけどね? 種を一緒に置いておくと変色が防げるのよ?」
「マジで!?」
本日のお昼ご飯は、フルーツトマトとバジルの冷製カッペリーニとフライドチキン、ヴィシソワーズとアボカドサラダ。
ふふっ、最初メニューを決める時にちょっと冗談めかして「真夏だし食欲も無いかもしれないから、そうめんとかでもいいんじゃない?」って言ってみたら、南ったら慌てて「せっかく比企谷来んのに、そんなのしか出せないなんて恥ずかしいじゃん!」って必死に抵抗して、一人でうんうん唸ってこのメニューに決めたのよねー。
真夏でも美味しく食べられる上に、少しでも手が込んでるように見えて、少しでもお洒落に見えるようなメニューを必死で考えたんでしょうね。
うん! それは男の子も喜ぶと思うし、とってもいいんじゃないかしら? って言ってあげたら、南ってば顔を真っ赤にして嬉しそうにはにかんでいたものね。
やっぱり若いっていいわね〜。そんな、いじらしかったり見栄を張りたくなっちゃうところも、本当に可愛い。
それにしても、南とこうして一緒にお料理出来る日がくるなんて、本当に本当に感慨深い。
娘を持つ母親にとって、娘と一緒に料理をするのはひとつの夢。この子が引きこもってしまった時には、もうそんな日はこないんじゃないか、なんて……少し弱気になってしまった日もあったっけ……
でも、今はこうして愛娘と肩を並べてお料理していられる。娘は隣で鼻歌を口ずさみつつ、とっても幸せそうに包丁をトントンしてる。
そんな何気ない幸せを、本当に有り難いと思う。
そもそもこの子って、以前は料理なんて一切しなかったものね。
それなのに、学校に通えるようになってから……確か一週間くらい……? そう、ちょうど南の十八回目の誕生日前後くらいに、あの子が突然キッチンにやってきて、すっごくモジモジしながら『お母さん……その、りょ、料理……教えて欲しいんだけど……』なんて言ってきたから、ホントにびっくりしたのを覚えてる。
まぁ? 私もあなたの母親を十八年もやってますから?
それがなにを意味していたのかなんて、す〜ぐ分かっちゃったけどねっ。
そういった意味でも、どこかの誰かさんには感謝の言葉しかない。ホント、お婿に来てくれないかしら?
「ふふっ、南ってば楽しそうねぇ。まぁ? この日の為に料理の勉強始めたんだもんねー? そりゃ楽しくて仕方ないわよねー?」
「は、はぁ!? べっ、別にこの日の為に料理はじめたワケじゃないし……っ! た、たまたま料理はじめてからアイツがウチに来るってだけだし……っ!」
「はいはい♪」
今にもぼしゅって音がしちゃいそうな程に顔を真っ赤に染め上げてツンツンする南は、本当に可愛いったらない。こういうのって、若い子たちの間ではツンデレって言うのかしら?
そんなこんなで母娘クッキングを進めていくこと一時間ほど。
ようやくあらかたご馳走が出来上がった頃に、そういえば、と……南に言っておく事があるのを思い出した。
「あ、南っ」
「どしたの?」
「ふふふ、例のアレ、準備出来てるからね〜! 比企谷くんをびっくりさせちゃおうね!」
「……っ! う、うん」
そう小さく頷いて、これでもかってくらいに口元も全身もモジモジする南。
……ああもう可愛いわね! これで比企谷くんの事を未だに「なんでもない」とか言ってるんだもの。
さすがにちょっと無理がありすぎよ?
と、ちょうどその時だった。家中にインターホンの音が響き渡ったのは。
インターホンの音と同時に南の肩がびくぅっと跳ね上がり、途端に呼吸が激しくなる。
そして南は、にやにやが止まらないんだか不安で胸が押し潰されそうなんだか分からない、何とも言えない複雑な顔で一言。
「う、うち出てくるっ!」
そう言って、予想通りエプロン姿のままスリッパをぱたぱた鳴らせて玄関へと走って行く娘の背中を微笑ましく思いながらも、私は苦笑を浮かべてぽしょりとこう呟くのだった。
「……お、おーい、包丁は置いていきなさ〜い……?」
続く
どうしよう。自分で書いててほっこりしちゃうんですけど。
てなわけで、一年半ものあいだ溜めに溜めた相模家ご訪問が、まさかのママみん視点でのスタートと相成りましたw
斜めすぎんだろ
そして次回もこのままママみん視点でお贈りしちゃうよっ?
ちなみにママみんの名前 相模緑なんですが、南は神奈川県相模原市南区から取ったと思われるので、同じく相模原市の区である緑区から取らせていただきましたm(__)m
あともうひとつ中央区ってのがあったんで、パパみんは相模中(あたる)にしようかな?パパの出番は1ミリも無いけどwww
というわけでホントにお待たせしてしまいましたが、これにてこの『相模南の奉仕部日誌』は、今年最後の更新となります(・ω・)
みなさま、本年も大変お世話になりました。一年以上ぶりのまさかの続編にも関わらず、ここまで読んでいただき誠にありがとうございました☆
それではよいお年をっ(*´∀`*)ノシノシノシノシノシ