相模南の奉仕活動日誌   作:ぶーちゃん☆

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明けましておめでとうございます☆
(短編集とその返信でさんざん新年をお祝いしたんで、もういいって感じですよね〜白目)



さて!これが2017年のスタートでございますε=┏( ・_・)┛
よろしくどぞ!




vol.11 相模緑は娘の想いを思いやる

 

 

 

 玄関を開けようとした右手が包丁を握っている事に気付き、気まずそうにキッチンまで包丁を置きにきた南が、もう一度いそいそと玄関へと走って行った背中を苦笑混じりに見送った私は、そんな南に気付かれないようその背中のあとを追う。

 

 やはり母親として、将来相模家の留守を守る南の為にも、娘が来客にどう対応するのかをきちんとチェックしておく必要があると感じたのです。

 『南たちの対面を覗いちゃお♪』だなんて、決してそんなやましい気持ちがあったわけでは無いのです。

 

 どうやら南は玄関を出て門扉までお出迎えに行ったらしく、私はこっそりと玄関を開けて、隙間からちょっとだけ覗いてみる事にした。

 

「……おす、なによ遅かったじゃん」

 

「いや、指定された時間ぴったりなんだけど」

 

「は? バカじゃん……? 普通指定された時間よりちょっと早く来るのが基本でしょ」

 

「……それはすいやせんね」

 

 あらあら南ったら、来客への対応としては零点、というよりも大きくマイナスだわ。酷いものねぇ。

 

 でも後ろで手を組んで、恥ずかしそうにもじもじと左右に体を揺すりながら、頬を染めてチラチラと比企谷くんに視線を送る姿は、恋する乙女を男にアピールするという点で言えば満点よ! 比企谷くんも南に悪態吐かれながらも、どことなく照れくさそうにそっぽを向いて頭を掻いてるし。

 お母さん、親指を立てて「グッ!」て言っちゃったじゃない。

 

「つーか、なんか作業中とかだったのか……?」

 

「……な、なにが?」

 

 ふふっ、南ったら。なにが? なんて言いつつ、ちょっとだけエプロンの着崩れを正して、エプロン姿を強調してるわね。

 

「あ、いや、エプロンしてるし。なんか立て込んでんなら申し訳ないから帰るけど」

 

「なんでよ!? あんたが来るからお昼作ってたんでしょうが!」

 

 あらまぁ、ちょっと南? 被せ気味なくらいの激しい突っ込みと物凄い詰め寄りっぷりで、比企谷くんちょっと引いちゃってるわよ?

 んー、でもまぁ今のはどう考えても比企谷くんが悪いわねー。さすがに今のは南じゃなくたって突っ込みたくもなるもの。

 

「……へ? えと、飯の準備とかしてもらってんの……? わ、わざわざ?」

 

「あ、当たり前じゃん、こんな時間にこっちから呼んだんだから」

 

「マジか」

 

 ふむふむ。どうやら比企谷くんは相模家にお呼ばれするにあたって、自分がお客様という自覚がないようね。

 南ったら、比企谷くんをどう言って誘ったのかしら……?

 どうせ「お母さんが話があるらしいからウチに来て」なんて、ぶっきらぼうに誘ったんでしょうねぇ……ホントにもう、あの子ったら……!

 

「え、つか……じゃあなに? お前が作ってんの?」

 

「はぁ? 見ればわかんじゃん」

 

「……へー、相模って料理とか出来んだな。……なんつーか、ちょっと意外だわ」

 

「な、なんでよ、うちが料理すんのが……そんなに変なワケ……?」

 

「いや、そうじゃなくてだな……。お前ってどっちかっつーと外で友達と遊んでばっかで、家の手伝いとかしなそうな最近の女子高生っぽいから、料理なんて出来ないかと思ってたわ。……ま、なんつーか……いいんじゃねぇの……?」

 

「っ……! なっ、え、偉そうに「いいんじゃねぇの?」とかマジムカつく。何様? りょ、料理くらいするっての……っ」

 

 

 ふふっ、あの子ってば、悪態吐いてるくせに比企谷くんに見えないようにちっちゃくガッツポーズなんてしちゃってるし、「いいんじゃねぇの」って言われたのが、よっぽど嬉しかったのねっ。

 料理始めといて良かったねー、南!

 

「……ったく、あーイラつく……! イラついて熱くなってきちゃったっての……! てか比企谷、早くウチに入ってくんない? こんな真夏の日射しの中にいつまでも女子を外に出しとくとか、ホント気が利かないよね」

 

「……だったら外まで出て来てくんなくても良かったんだが……そもそも話してたのお前だし」

 

「うっさい……っ」

 

 あらいけない! 照れ隠しで急にお話が終わって、真っ赤な顔をぷいっとさせた南が玄関の方に歩いて来ちゃったわ!

 ここで覗いてたのがバレたら、あの日みたいにまた南に怒られちゃう!

 

 

 そんなわけで、私はそっと扉を閉めて急いでサンダルからスリッパに履き替え、玄関が開くと同時に「今キッチンからゆっくり歩いて来ましたけど」という体で、ニコニコとお客様をお出迎えするのでした。

 

 

「あら、比企谷くんいらっしゃい! わざわざお越しいただいてありがとうねっ」

 

 

× × ×

 

 

 比企谷くんを我が家のダイニングへとご招待して、南と二人でご馳走の仕上げ作業と盛り付けを進める。

 ほどなくして、テーブルの上には色とりどりの料理が所狭しと並びはじめた。

 

 うん! トマトの赤とスープの白、メインディッシュのフライドチキンの茶色にサラダの緑が映えて、見た目からしてとても美味しそう。

 これなら比企谷くんも喜んでくれるんじゃないかしら?

 

「な、なんかホントにすいません……」

 

 と、どうやら比企谷くんは自分だけがテーブルに着いている中、南とその母親がごはんの準備をしているのを見て、そわそわと落ち着かないご様子。

 あまりお呼ばれとかした経験が無いのかしら?

 

「いいのよ、比企谷くんはお客さまなんだから。もうすぐ準備終わるから、大人しく待ってなさいねっ?」

 

 私がそう言ってウインクすると、

 

「……は、はい」

 

比企谷くんは恥ずかしそうにポッと頬を染める。

 こーら、ダメよ比企谷くん? こんな四十過ぎのおばさんじゃなくて、照れるなら南にしといてあげてね。まぁこんな若い男の子に照れられちゃったら、おばさんもちょっとだけ嬉しくなっちゃうけどね!

 

「……すげ」

 

 照れ臭くなっちゃったのか、比企谷くんはふいっとテーブルの上に視線を落とし、彩り豊かなご馳走を見てそう口にした。

 やったね南! これはポイント高そうよ〜?

 

 手作りドレッシングをホイッパーとボウルでかしゃかしゃ混ぜているキッチンの南に向けて、エプロンを外しながらそう念を送り、「よいしょっ」とテーブルに着いた私はふとある事に気付いてしまった。

 比企谷くんがある一点を見た一瞬だけ、ほんの少し顔を歪めたのだ。

 それは、フルーツトマトとバジルの冷製パスタが盛られたお皿を見た瞬間の出来事。

 

 

 ──あ……もしかして比企谷くん……トマト、苦手だったのかしら……!

 

 

 ……ああ、なんということだろうか。真夏でもさっぱり頂けて、その上お洒落で手が込んでいるように見えるものと、南が試行錯誤して考えたメニューの中でも、一番お気に入りだった冷製パスタが苦手だなんて……

 

 これは確かに南のリサーチ不足の感は否めない。

 そうなんだけど……確かに南のリサーチ不足ではあるんだけど……さすがにちょっと可哀想……

 

 もしかして比企谷くんて、トマト駄目だったかしら……? 南に聞こえないように、こっそりとそう訊ねようとしたのだけれど、タイミング悪くすべての準備を整えた南が、いそいそとダイニングに到着してしまっていた。

 

「……比企谷お待たせ」

 

「いや、全然待ってねぇし、むしろ……その、サンキューな」

 

「う、うん」

 

 と、こんな甘酸っぱいやりとりをしている若い二人なのですが、お母さんは気が気じゃありません!

 

 もしも比企谷くんが「俺トマト駄目なんだわ」とでも口にしてしまえば、その瞬間南がどれだけ落ち込んでしまうのか……

 でも……それよりも辛いのが、優しい比企谷くんがトマトを苦手と言わずに我慢して食べて、口にした瞬間の隠しきれない「うわぁ……」という表情を南が目撃してしまう事。

 

 

 ──これは、母親としてどちらを選ぶべきかしら……

 今この時点で「苦手なものとか無いの?」と聞いて、パスタからトマトだけを弾くか、もしくは……比企谷くんには申し訳ないけれど、比企谷くんの優しさに賭けてみるのがいいのか。

 

 前者なら南がちょっぴりショックを受けちゃうかもしれないけど、トマト以外の部分を美味しいって喜んでくれたら、傷は浅くて済むかもしれない。

 後者なら、うまくいけば南はショックを受けずに済むけれど、やっぱり駄目だった場合は南のショックが計り知れない。

 それに今後、友人関係……うまくすれば恋人関係となって付き合っていく上で、いずれトマトが駄目って事も知っちゃうだろうし、知っちゃったらこの日の出来事も思い出してしまう。

 

 ……うん、駄目って知るなら、早い方がいいわよね……? これは、南には可哀想だけど、長いスパンで考えたら後者を選ぶべきね。

 

 こうして私は南を千尋の谷に突き落とす覚悟を決め、比企谷くんに質問を……

 

「じゃ、じゃあいただきまーす……っ」

 

「……い、頂きます」

 

 

 ……刻というのは無情なもので、私があれこれ悩んでいる間に、いつの間にか食事が始まってしまったようです。

 南……いくら早く比企谷くんに食べてもらいたいからって、少しはお母さんにも声をかけなさい……!?

 

「ちょ、お母さんなにあわあわしてんの……? ほら、早く食べよ」

 

「へっ? ……あ、う、うん、頂きましょっか!」

 

 ……はぁ……私がまごまごしている間に、強制的に後者になっちゃった。

 南もわざわざ私にそんな声を掛けながらも、心ここに在らずというかお母さんには心が向けられていないというか、ずっと隣の比企谷くんをチラチラチラチラ見てるし。

 

 ……ていうかあなた……、いつも食卓ではお母さんの隣の席に座ってるのに、今日はさも自然に比企谷くんの隣に陣取ってるのね……

 普段はいま比企谷くんが座ってる席──旦那の席──の隣になんて絶対座らないでしょっ!

 

「……あ、あのな、そんなにチラチラ見られてると、さすがに食いづらいんだが」

 

「は、はぁ? 全っ然見てないし……! 自意識過剰なんじゃないの……!?」

 

 娘を溺愛する旦那の事を思って密かに涙していると、食事の席はつつがなく進行しているようで……。どうやら比企谷くんは、やはりトマトが苦手だと告白せずに食べてくれるみたい。

 ありがとね。やっぱり比企谷くんは優しい子なのね。あとは願わくば、トマトを口にする時も顔に出さないでくれると有難いのだけど。

 

 ……あとね? 南。

 全然見てないとか、さすがにそれは無理があるからね? むしろ見すぎなくらい見てるから。

 ま、好きな男の子に初めて自分の料理を振る舞う女の子の心境は、女の子にしか分からないものね♪

 

 

 そして相模母娘が固唾を飲んで見守る中、ついに比企谷くんはフォークに巻き上げた冷製パスタを口に運ぶ。

 ホントごめんなさいね比企谷くん。こんな緊張感溢れる食事いやよね。

 

 

 

 私の見る限り、比企谷くんは少なくともパスタを口に運ぶまでの間は、眉根の一つも動かさないで、南にトマト嫌いだとバレないようにしていてくれた。うん、男の子!

 でも問題はここから。フォークに巻き上げられたパスタには、しっかりとフルーツトマトもたくさん絡まっていたのだから。

 

 ゆっくりゆっくりと咀嚼した比企谷くんは、ごくりとパスタを飲み込む。その瞬間、比企谷くんの隣の席と向かいの席からもごくりという音が響いた。……ほ、本当にごめんなさい。

 

 

 ──そして、

 

 

「……うめぇ」

 

 

 比企谷くんは、なんのお世辞も嘘も感じさせない自然な声音で、一言こう言ったのだ。

 

 

 その瞬間、口元をだらしなく弛ませた南は、分かりやすいくらいにテーブルの下でグッと拳を握ると、ぎゅっと目を瞑って小さく「よしっ!」と呟く。

 

「……あ、当たり前だっつの、うちが作ったんだから。……そんな当たり前のこと言ってないで、黙ってさっさと食べたら……?」

 

 もちろんツンデレ? も忘れず添えて。

 

 

 ……あなたホントにそこはブレないわねぇ。

 でもね? ニヤニヤも真っ赤な顔もガッツポーズも「よしっ!」も、全部比企谷くんにバレバレっぽいわよ?

 だって比企谷くん、南とは逆の方向むいて耳を赤く染め上げてるもの。

 

 

 

 ──良かった。ホントに良かったね、南!

 

 

 

 これは多分だけど、南が格好付けようとお洒落ぶって、フルーツトマトをチョイスしたのが功を奏したのかもしれない。

 

 トマト嫌いの子は、大抵トマトのドロッとした青臭いゼリー部分が苦手。

 でも、糖度が高くて青臭さが抑えられているフルーツトマトで、トマト嫌いを克服出来る子供が多く居るというのは有名なお話。

 パスタに絡まりやすいように等分にカットしたから、実から出てしまったゼリー部分がソースと一体になっていたのも、この結果に一役買っていたのだろう。

 

 なんにしても……、ふふ、これは南の愛の勝利かしらね。

 ただ格好付けたかった南の、単なる偶然かもしれないけれど、でも……好きな男の子に美味しく食べてもらいたい──っていう真っ直ぐな気持ちが、この結果を呼び寄せたのよね。

 

「あら、ホントに美味しっ」

 

 思いがけない素敵な結末に、私も一口パスタを頬張って口角が弛む。

 

 

 

『ねぇ南〜、もうちょっと甘さを抑えて塩気を強めにしてもいいんじゃない?』

 

『んー、でもあいつ甘党だから、これでいってみようと思うんだ〜』

 

『そっかぁ』

 

 

 料理の練習は、思いのほか順調に進んだ。

 南はもともと手先が器用な子だし、何よりも私の娘なのだから、ちゃんと料理を始めれば上手くならないわけがないのよね。

 それなりに料理のいろはが分かってきてから、比企谷くんが訪問する日のメニューを考え始め、来る日に備えて何度か予習をした、とある日のとある一幕。

 

 確かに好き嫌いのリサーチは不足していたけれど、でもちゃんと相手の好みを考え、料理年長者のお母さんの意見に反抗してまで自分で味付けを決めた南の真っ直ぐな愛情が、相手に届かないわけがない。

 料理は愛情! って、むかし神田川先生もおっしゃっていたしね! あら? 結城貢(ゆうきすすむ)先生だったかしら?

 ま、それはこの際どっちだっていっか! とーにーかーく……

 

 うん! 今日の出来は、今までで一番の出来だぞ!

 

 

 

 苦手なトマトを我慢する気まんまんで、半ば諦めて口にしたトマトパスタが予想外に美味しくて、気を良くした比企谷くんは次から次へと各料理を美味しそうに口へと運び続ける。

 そんな比企谷くんの様子を、にまにまと悶えながらも幸せそうにチラ見する愛する我が子。

 

 うふふ、ごちそうさまです♪

 

 

 

 

 

「ちょと比企谷、あんた勢いよく食べ過ぎだから。……あーホラぁ、口んとこ、ソース付いてるって」

 

「ん? おう……ここら辺か」

 

「違う、逆だから」

 

「あん? こっちか」

 

「だから違うってば! あぁ〜、もうじれったいなぁ、ちょっとこっち向いてっ」

 

「お、おい……! ちょっと……?」

 

「……あ……。 ……〜〜っ」

 

 

 

 ちょっと南……? いくらなんでもお母さんの前でイチャイチャし過ぎじゃない……?

 

 比企谷くんの口の横に付いたソースを、たぶん素で自分のハンカチで拭きとってあげてしまい、うっかりそんなラブラブカップルのようなやりとりになってしまった事に赤面してもじもじする若い二人を見て、なんとなーく居場所が無いなぁなんて感じている四十過ぎのおばさんは思うのです。

 

 

 

 お母さん、まだちょっとしか食べてないのに、もうお腹いっぱいになっちゃったわよ……

 

 

 

 

続く

 

 





なんだこれ?



きれいな顔してるだろ。ウソみたいだろ? こいつら別に付き合ってないんだぜ? これで。



……というわけで、新年一発目からなんだこれ?


実は今回で緑さん視点は終了する予定だったんですよ。
でも予想外にイチャイチャするわ緑さんがハッスルするわで、まさかの食事だけで終わったしまったよ……

てなわけですいません、次回も緑さん視点でお贈りします。
次回は八幡と緑さんのサシの会話回なので、ちょっと真面目なお話になると思いますm(__)m

実はそのサシの会話の為に緑さん視点を用意したんですけど(内容的に以前短編集で書いたルミルミ家訪問と丸被りなんで八幡視点にはしたくなかったし、そもそも今作はヒロイン視点(八幡)を書くつもり自体が無かったんで)、これじゃ単なるイチャイチャ実況中継だよ!



ではではまた次回ですノシ


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