相模南の奉仕活動日誌   作:ぶーちゃん☆

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スミマセン!大変お待たせしてしまいました!
あと2話ほどで完結しますだなんて声高に叫んでからまさかの1ヶ月以上の放置プレイ( ̄□ ̄;)

ま、まぁその間ほかのさがみん書いてたし、大丈夫だよね……?






vol.14 相模南は勢いに身を委ねる

 

 

 

 やばいやばいやばい……! あっつ! 顔あっつ!

 

「……あー、な、なんかスマンな」

 

「は、はぁ? べ、別にうちなんも気にしてないんですけど!? て、てかなに勝手にひとりで意識しちゃってんの? 超笑えんだけど……っ」

 

「……ああそう」

 

 うわぁぁ……マ、マジでヤバかったよぅ……!

 ちょ、ちょっと? せっかくうちが少し速度落として歩いてんのに、なんでこいつまで一緒になって速度落としてうちを待ってんのよ。顔、見られちゃうじゃん……!

 

「……な、なによ」

 

「あ? 別になんでもねーよ。ただ履き慣れない下駄なんか履いてっから、歩きづらいのかと思っただけだ」

 

「〜っ……! あ、あっそ」

 

 こいつ……っ、こういうとこマジであざといっつの。なに「俺ってこういうとこ気が付くんだぜ? 心配だからお前に歩調合わせてやるよ」みたいにナチュラルにアピっちゃってんだっての……!

 くっそぉ……ああもう優しいなぁ! 余計に顔赤くなるからやめて欲しいんだけど……っ。

 

 

 

 

 現在、時刻は十八時半を少し過ぎた頃。十九時半開始予定の花火大会まで、まだ随分の猶予を持って会場の最寄り駅に到着できたってのは、浴衣合わせに手間取っていた時間と浴衣披露に悶えていた時間を考慮すれば、なかなか上出来な気がする。

 ひひ、うちが浴衣姿で登場した時の比企谷の顔ったら無かったなぁ……こいつ超驚いてやんの! 真っ赤になっちゃってさー。

 そ、そりゃまぁうちだって同じくらい真っ赤になってたとは思うけども。

 

 

 とまぁそれはさておき、そんな上出来な現場到着ではあるものの、うちは今現在もまたもやひとり悶えている。

 一体なにがうちをここまで悶えさせているのかと言えば、他でもない、花火見学に向かう客たちでごった返していた電車内での出来事に決まってる。

 まぁ端的に言えば…………比企谷に壁ドンされちゃったわけよ、うん。

 

 混み合う車内で乗客と扉に押し潰されそうになっていたか弱いうちを、比企谷が身を挺して守ってくれたってわけ。で、まぁ、守ってくれたのはいいんだけど、それからも最寄り駅に到着するまでは、反対側の扉からどしどし人が流れ込んでくるわけで。

 そしたら必然的に比企谷も流れ込んでくる人達に押されてくるわけだから? そりゃもう近いのなんの。最終的には、ちょっとだけお互いの頬っぺが触れちゃったからね。うちがちょっと顔を横にスライドさせたら、普通にあいつの頬っぺにうちの純潔な唇が触れてたからね、あれ。

 

 比企谷、マジで感謝しろよ? あんたの頬っぺの熱にちょっとクラクラしちゃってたうちが少しでも変な気を起こしてたら、たぶん今ごろこんな風に普通の関係ではいられなかったんだかんね? あそこで耐え切った自分を褒めてやりたいし、あんたはそんなうちを全身全霊で褒め讃えるべき。……うん。自分がおかしなこと言ってるのは重々自覚してるから。

 

「どうかしたか? 会場行かねーの? 帰るんなら喜んで帰るけど」

 

「なんで帰んのよ!? 帰るわけないじゃん! ほんっとマジムカつく! ……てかなにいつまでもぬぼっとつっ立ってんのよ。ほら早くしてくんない?」

 

 比企谷がうちの遅い速度に合わせちゃうんじゃ、逆にうちが速度を上げて比企谷の前を歩くしかないじゃんか……というわけで、うちは下駄をカランコロンと小気味よく鳴らしながら、「理不尽すぎんだろ……」とゲンナリしている比企谷の横をそそくさと通り抜けるのだった。

 

 

× × ×

 

 

 人のごった返す駅構内を抜けて改札を出ると、そこはさらに人で溢れかえっていた。

 ここから少し歩くと、すぐに花火大会会場である公園があるわけだけど、駅前からその公園にかけて、驚くくらいに人が溢れかえっていた。それはもう、千葉ってこんなに人いんの!? ってくらい。

 

 これはあれだ。道々に連なっている出店がいけない。だっていやが上にもワクワクしちゃうもん、この出店ってヤツは。

 薄暗くなった闇に連なる、ノスタルジック溢れる屋台独特の雰囲気と灯り。そして芳ばしく香る醤油やソースの匂いに誘われて、そりゃ行き交う花火客達も、まるで花におびき寄せられる蜜蜂の如く、ずらずらと列に並んで道を塞いじゃうのも仕方ないよね。

 

「うお……すげぇ人だな」

 

 そしてどうやらうちの連れは、この喧騒に面食らって早くも嫌気が差しているご様子。

 あー、確かにこいつって、雑然とした人ごみとか超苦手そう。

 

「マジすごいね。ポートタワーから下見たらスゴそう」

 

 うちは眼前にそびえ立っているポートタワーを指差し、比企谷の意見に一応の同意を示す。

 ここであんまり比企谷の意見をバカにしたり否定したりすると──例えば「は? そんなの当たり前じゃん。バカじゃん?」とか「こんなんまだまだだっつの。花火終わって帰る時の方が遥かにヤバいって」とか言うと、こいつってばすーぐ帰宅提案してきそうなんだもん。

 

 まぁ? ぐちぐち文句言いつつも? 変なとこで優しいあんたが、花火を楽しみにしているうちを置いて、先に帰っちゃうわけがない事くらい、うちはちゃーんと知ってますけど?

 ホントめんどくさいヤツー! あー、めんどくさいめんどくさい。……いかんいかん。顔が弛む。

 

「おう、確かに凄そうだ。見ろ、人がゴミのようだっつってな。」

 

「は?」

 

「いや、なんでもないです」

 

「じゃあバルスでも唱えてれば?」

 

「……知ってんじゃねーか」

 

「ひひ」

 

 そんな下らない雑談を交わしつつ、そろそろ諦めて人波の中に足を踏み出したら? と視線で促す頃には、火照った頬も心臓も、ようやく落ち着きを取り戻してきたみたい。

 比企谷に浴衣姿を晒してバカみたいに照れ臭くなっちゃってから、初めてちゃんと比企谷の顔を見て自然に笑えた気がするな。

 

「やれやれ、ほんじゃ行きますかね」

 

 誰しもが無秩序に闊歩する人波に辟易とした表情を浮かべながらも、比企谷はようやく覚悟を決めて歩き始める。そんな比企谷に遅れまいと、うちも慌ててその背中を追い掛けた。

 

 

 ……とは言うものの……比企谷はっや!

 いや、実際は大したこと無い速度なんだと思う。歩くスピードだけで言えば、さっきうちが照れ臭くてわざとゆっくり歩いてた時の歩調くらいかな。

 でもなんでこいつは、こんな人ごみの中をそんなにスルスルと歩いて行けんの……? まるで自身の存在を消すかの如く人波の僅かな隙間を縫うように進む比企谷には、とてもじゃないけど追い付けそうもない。これじゃそのうち絶対にはぐれちゃう……

 

 でもせっかくの貴重なデートなのに、こいつとはぐれるなんて絶対に嫌! だからなんとか比企谷に食らい付いてみようって必死で追い掛けたんだけど、進んでも進んでも、うちが進もうとする先にはすぐに人の壁が出来てしまい、どんっ、どんっ、どんっ、て。うちは何度も人にぶつかってしまう。

 その度に「スミマセン」「ゴメンなさい」と頭を下げながら、待ってよ比企谷ぁ……! って涙目になりかけたうちの目に写ったのは、少し先の方でなんとも申し訳なさそうにうちを待つ比企谷の姿だった。

 

「……わりぃ、これくらいなら付いて来られてると思ってたわ……」

 

 良かったぁ……気付いてくれたんだぁ……

 そうやってホッと一息を吐いた心中とは裏腹に、うちはついつい口を尖らせて悪態を吐いてしまう。

 

「……はぁ? なによこれくらいならって。マジ信じらんない。普通にはぐれちゃうかと思ったんですけど」

 

 と、どうやらうちは自分で思ってたよりも、なかなかにお怒りのようだ。

 だって一瞬前まではあんなに楽しく笑ってたのに、いきなり置いてきぼりにされかけたんだもん……! そりゃ怒ったってしゃーない。うん。

 

「いやマジですまん。なんかこう、人波の中をペース落とさず歩くのが得意でな。存在感の無さを生かした特技っつーか」

 

「……なにそれキモ、意味分かんない」

 

「だからスマンって……これでもそれなりにペースは落としてたんだが、それでも一般人にはキツかったかもな。もうちょいゆっくり歩けば良かった」

 

「……言い訳とかダッサ。何だかんだと理由を付けたって、結局のトコうちの事をちゃんと見てなかったってだけの話じゃん。ついさっきは慣れない下駄履きだからとかいって、それなりに気遣ってくれたくせに」

 

 そりゃ、さ? こんだけの人混みじゃちゃんと前向いて歩かないと危ないから、うしろなんか見てらんないってのは分かるわよ。

 でもあんたの事だからちゃんと前を向きながらも、たぶん付いて来られるであろうくらいのペースに落として、少し人波から外れられたらうちの様子を見ようって思ってたんでしょ? 残念ながら普段ぼっちのあんたには、“女の子が人混みで付いて行けるペース”が分かんなかったってだけの話で。

 ……分かってるけど、分かってはいるんだけど、それでもなんとなく納得がいかず、うちは駄々っ子のように頬を膨らます。

 

 

 

 ──これはあれだ。今後もこのような事態が起こらないよう、戒めとしてお仕置きってヤツが必要でしょ。

 そう。あくまでも戒めの為のお仕置き、罪には罰であって、そこに他意など無いのである。

 

「……はい」

 

 うちは、その罪に対する罰を与えるべく、比企谷に向けて右手を伸ばす。

 

「は?」

 

「だから、はい」

 

「え、なにが?」

 

 うちの行動に、心底不思議そうな顔をする比企谷。

 でもうちはギロリと比企谷を睨めつけたまま、構わずその姿勢を保ち続ける。

 

「……あー、っと……な、仲直りの握手、とか……?」

 

「なんで仲直りしなきゃいけないのよ。まだ、女の子を置いてきぼりにしかけた罪に対する誠意を見せてもらってないでしょうが」

 

「誠意って……。じゃあその手はなんだよ。あ、賠償? 金銭の要求?」

 

「バカ?」

 

 なんでいきなり金銭を要求すんのよ。どんな思考回路してんだこいつ。

 ……しょーがないなー。

 

「問い。とても混雑した道で女の子は迷子になりかけました。そこで女の子はもう迷子にならないよう、連れに手を差し出しています。この状況を踏まえた上で、登場人物達が次に起こす行動を述べよ」

 

「……はい? 意味分からん。なんでいきなり問題形式?」

 

「妙なとこで鈍い比企谷でも、国語のテストで出題者の意図を汲むのが得意なあんただったら、こういうので分かるんじゃないの? ……ったく、じゃあヒント。こんな人混みの中で可愛い小町ちゃんと歩いてたら、お兄ちゃんならどうしますか?」

 

「どうって……そりゃお前、小町をこんな場所で見失うわけにいかねーからちゃんと手を…………って、……は?」

 

 ようやくうちの意図に気付いた比企谷は、これでもかってくらい驚愕の表情を浮かべる。

 

「いやいや、ちょっと待てお前……。なに? 俺に、て、手を引けと……?」

 

「だってしょうがないじゃん。あんたは人混みでスムーズに歩けるかもしんないけど、うちはこの格好もあって上手く歩けないんだから。そしたらいつまた置いてきぼりにされるか分かんないし、うちはこんなトコでこんな格好で迷子になんのやだし。そしたら……つ、繋ぐしか……ない、じゃん」

 

 と、最初こそ勢いで強気になってたけれど、自分で言ってて段々と恥ずかしくなってきてしまった。

 てかさ、え、うちってばなにこんなとんでもないこと要求しちゃってんの!? なんか置いてきぼりにされ掛けた不安とか不満で頭に血が昇ってたから、怒りに任せて勢いで言ってみたけど、冷静に考えたらアホかうちは!

 いきなり手を繋ぐのを要求するとか、無茶苦茶にもほどがありすぎる……!

 

「い、いや、しかしだな……」

 

「ちょっとさぁ、比企谷に拒否権あるとか思ってるわけ……? あ、あんたがスタスタ行っちゃったせいで、うち人に超ぶつかりまくったんだけど? 不安でちょっと涙目になっちゃったんだけど?」

 

 超恥ずかしいって事も超無茶苦茶だって事も、カーッと血が昇っていた頭が一度この状況を冷静に理解してしまった今ならよく分かってる。それなのに勝手にペラペラと回るうちの口は、そんな無茶苦茶な要求を訂正する事を許してはくれないらしい。

 

 

 ……うちはヘタレだから。普段は強気そうな態度を取ってるくせに、ホントはどうしようない根性無しだから。

 だから恥ずかしいけど、無茶だと分かってるけど、たぶん勢いに任せて口走ってしまったこのビッグウェーブにでも乗らなきゃ、手を繋いでくれだなんて一生言えないだろうなって、頭ではなくて心が理解しちゃってるんだろうね。

 だからうちは燃え上がる顔なんて気にもせず、今すぐにでも逃げ出したそうなこの両足だって無理矢理押さえつけて、この無茶な要求を力ずくで押し通そうと踏張っているのだろう。

 

「だ、だから比企谷にはうちをエスコートする義務があると思うけど? ど、どうよ、うち、間違ったこと言ってる?」

 

 いやいや間違いだらけでしょ……むしろ間違いしかないまである。

 でもこんな無茶苦茶な理屈も、今の比企谷には少なからず効果があったようだ。置き去りになりかけて涙目だったうちを見て、それなりに罪悪感ってやつを抱いてるんだろう。

 だったら比企谷にはちょっと申し訳ないけども、この機を逃しちゃダメだ。

 

「よ、よし、じゃあもうこの人混み抜けるまでは、絶対に相模から目を離さないっつー事でどうだ……?」

 

「だめ」

 

 いやまぁそれはそれでとても魅力的な提案なんだけどね。

 だってあの比企谷が「お前から目を離さない!」って超イケボで言ってくれてるんだよ? やばいかなり妄想入っちゃってるけど顔がニヤける。

 

「ぐっ……じ、じゃああれだ……裾、そう裾! 俺のTシャツの裾でも摘んどけばいいだろ」

 

「だめ」

 

 ホントはそれもマジ魅力的。男の袖とか裾をちょこんと摘んで歩いてる女って、なんかあざといけど男心はめっちゃくすぐりそうだよね。

 うちが比企谷の男心をくすぐれるのかと思うとちょっと惹かれちゃうけれど、でもやっぱ駄目だ。ここまで来たら、絶対に逃がしてやんない。ヘタレなうちが恥も外聞も捨ててここまで頑張ってんだもん。逃げられると思うなよ?

 

 ……はい。もうぶっちゃけます。うちは今、比企谷とめちゃめちゃ手を繋ぎたいです。

 

「……あーもう、じれったいなぁ。ったく、めんどくさ……っ」

 

 深く溜め息を吐きながら──本当は溜め息なんかじゃなく、心を落ち着かせる為に、はぁぁぁって深く深く息を吐き出したんだけど──、うちは未だまごついている比企谷の左手を、心の中で「えいっ!」と叫びつつ、力一杯握り締めてやった。

 

「ちょ、おま……!」

 

「うっさい。あんたに合わせてたらいつまで経っても会場に着かないでしょうが。……ほら、もう行くかんね」

 

 そう言って、比企谷の左手をむぎゅっと掴んでずんずん進む。つい先ほどまでは心細くて全然進んで行けなかった、人で溢れかえる波の中を。

 

 うん。やっぱうちにとっての比企谷って、一種の反発材なのかもね。

 良く言えば比企谷が居てくれるから頑張れる。悪く言えば比企谷がムカつくからなにくそ! って意地になれる。

 

 体育祭の時も引きこもりからの復活の時もそう。こいつに負けてなるものか! って、うちはいつも柄にもない不思議パワーを発揮しちゃうのだ。

 うん。駄目人間のうちには、やっぱり比企谷って存在が必要不可欠なのかもね。

 

 

 まだまだ暑さが納まらない八月の夜の高い気温と初めて手を繋ぐ緊張で、少し手汗をかいちゃってるかもしれないうちの右手。

 汗でベットリ滲んだ手を好きな男に知られてしまうのは、酷くみっともなくてやんなっちゃう。

 

 でもまぁいーよね。だってこいつの手だって超ベッチョリしてるもん。

 だからうちは、お互いの手汗が混じり合ってちょっぴり気持ちが悪いこの手を、さらにぎゅっと強く握るのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──うあぁぁあぁぁ! 手、手ぇ繋いじゃったよぉぉおぉぉっ!

 

 

続く

 

 





というわけで、お久しぶりのツンが強めなさがみんでしたがありがとうございました!
1ヶ月以上放置した末にようやく更新した最新話が駅から出ただけという恐ろしい結末に……汗



そして前作『あいつの罪とうちの罰』から長らく続いてまいりましたこのさがみんSSも、ついについに次回を持ちまして最終回となります!たぶん。
どうせ次回は「花火大会編の中編なんだろ」って?
ええ、まぁ否定はしませんがね('・ω・`)



それでは次は1ヶ月以上も開かないように頑張りまっするノシ


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