生物兵器の夢   作:ムラムリ

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21. 移転

 ミッションは長らく無かった。

 時折聞こえてくる人間の話からすると、近々組織の場所の移転をするようだった。

 色欲狂いが攫われた。それは、この組織がこの廃墟の中に存在しているとばれているようなものだった。

 だから、自分達を利用して色々な事をするよりも、移転を優先しているという事らしい。

 

 色欲狂いが居なくなった檻からは、以前よりかは人間の悲鳴とかは聞こえなくなった。

 肋骨を骨折していた色欲狂いが居た頃は、もっと聞こえなかったが。中に居る同じ趣味の中堅達に、痛みで犯せない色欲狂いが多分、お前達だけずるいぞ、みたいなプレッシャーでも掛けていたのかもしれない。

 

 檻から時々出されて、けれど前のように施設の外にまで出される事はなく、檻のある広間で力比べをしたりする日々が長く続く。

 片目は相変わらず、少し寂しそうだった。

 また、片目に限らず、中堅達にも多少のその感覚で居るのが見えた。

 ハンターの数は、やや減っていた。古参の自分達が怪我をしている間に中堅以下だけでミッションに行く事もあり、そこでまた減っていた。

 この頃ずっと、補充はされていない。

 量より質。それは、より長く生き延びられるという事であり、そしてまた、自分達により高度な事が求められるという事でもあった。

 ただ殺戮すれば良いのではない。ただ任された場所で警戒していれば良いのではない。

 これから、任されるミッションは更に辛いものになってくるかもしれない。

 つい前の、Gの時のような。タイラントの時のような。

 自分が確実に生き延びて来たとでも人間達は思ってるのだろうか。

 確かに、生き延びる為に色んな事をしてきた。だが、結局は運だった。

 もう、ずっと生き延びている皆は、新入りとは比べものにならない知恵や技を身に付けている。それでも死んで行く。

 どれだけ上手く立ち回ろうとも、どれだけ生へ足掻こうとも、どうしようもない事で死んで行った。

 悪食や古傷だってそうだったろう。

 新入りや中堅だって、同じようにどうにもならないまま死んで行ったのも多いだろう。

 その為にプロテクターが渡されたのだろうが、きっとそれにも対処されてしまう時が来る気がして止まなかった。

 どのみち、早く逃げる算段を付けて実行しないと、自分はその前に死んでしまうかもしれないのは変わらない。

 ずっと、今までのように生きてミッションから帰れるだなんて、思えない。

 

 そしてまた、ミッションの時がやって来た。

 ただ、それは前と同じく、古参の自分達や中堅の中でも長く生きて来た方の仲間達は参加しないミッションだった。

 いや、ミッションと言うよりかは、選別だった。

 この頃にしては珍しく、銃器を持った人間が広間に入って来て、新入り達を檻から出して行き、一か所に纏めさせた。

 不穏な雰囲気だった。そして、人間が話し始めた。

 全員は、新天地に連れて行けない。廃墟の中で殺し合って、一定数になるまで生き延びろ。

 ……その一定数は、今の半分程だった。

 けれども、命令されたハンターは、そんな事を言われても反抗はしなかった。出来なかった。

 そのハンター達の前には、強力な銃火器を持った人間が複数居た。

 それにもう、本当の新入りはその中にも居なかった。少なくとも二、三回はミッションを生き延びている。それに命懸けでも逆らおうとする馬鹿は居なかった。命を賭けて反抗しようとも、傷一つ与えられずに死ぬだけだった。

 その新入り達や浅い中堅達が重い足取りで外へ出て行った後には、嫌な静寂が漂っていた。

 かなりの時間が経った後、仲間達が眠らされて戻って来た。包帯を巻かれたり、軟膏を塗られた状態で、檻の中に入れられて行く。

 自分と片目が居る檻の中から見える範囲でも、仲間達の数は明らかに減っていた。

 

 その数日後に、全員がトラックに乗せられて新しい場所へ向かった。

 プロテクターを身に付け、爆弾を保持する所にこっそり注射器を入れて、手に唯一の自分の持ち物であるルービックキューブを持ち。

 この頃、二面を揃えても、そこから先へは進めない事が何となく理解出来て来た。

 もっと違う方法で揃えて行かないと多分、六面は揃えられない。

 弄るのに飽きて、周りを見渡す。皆、プロテクターを身に付けていた。持ち物がある仲間達はそれを弄り、他の皆は寝ていたり、ただじっとしていたり。

 相変わらず外は全く見えないトラックの中で、薄暗い明かりがある中。

 トラックの中でしている事はいつもとそこまで変わらなくとも、ミッションの前や後とは全く別な、重苦しい雰囲気があった。

 ただミッションがあってそれをこなして生き延びるだけが、自分達の全てだと思っていたのが覆されたような感覚。

 同じ仲間同士で戦わなければいけないとは、全く思わなかった。その衝撃は今までの何よりも大きかった。

 やはり、自分達の存在は人間より下なのだ。それを改めて、新入り達全員が体に刻み付けられたようなものだった。

 ……自分の価値はどうなのだろう。

 これ以上の、数を減らさなければいけない事があろうとも、ずっと生かされる身だろうか?

 

 新天地の自分達の居場所は、前よりもずっと狭かった。それぞれが入る檻の大きさもやや狭く、檻の外に出されても前のように力比べをしたりは余り出来なそうだった。

 そして更に衝撃的なのが、ここが人間達が住む場所のど真中の地下にあるという事。

 ミッション以外でここから出れる事は無い。外の空気を吸えるのは、そのミッションの時だけ。

 窮屈になってしまったな、と思った。

 でも、すぐにそれは覆された。

 自分の入った檻の端に立つと、人間の会話が聞こえた。組織の人間の会話だ。

 これは……。

 逃げるのに、役に立つかもしれない。

「……それで? そのNo.27があいつを殺したって言うのは確実な訳?」

「確実じゃないが、多分、な。あいつの反応を少し確かめてみても微妙だったが、俺が見た限り、状況としては黒に近いと思う。

 でも、殺した理由が余り分からない。後に起こるであろうリスクを冒してまで、あいつがうちの組織の人間を殺した理由が」

「近くにはGの適性をもった人間が、頑丈な部屋に籠って、そのNo.27達に殺されないまま居たんでしょ? その人間には特に何も聞けなかったの?」

「聞くつもりだったんだがな、持ってた注射器をさっさと自分に打ちやがった」

「……聞かれたら殺さなければいけない程の事を聞いた……?」

 ……時間が、無い。

 今度は本当に。片目がファルファレルロになった時以上の焦りが出て来た。

 多分、その内人間達は、自分が首輪を外せる方法を知った事に辿り着く。脱走したい欲求に関してもばれているから、尚更だ。

 多少の危険でも冒して近い内に逃げなければ、きっと爆弾を腹に埋め込まれる。

 一生逃げられなくなる。

 それは、単純に死ぬよりも嫌な事だった。




今週か来週辺りには終わると思います。

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