生物兵器の夢   作:ムラムリ

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22. 長考

 ……整理し、考える事にした。

 もう時間が無いのならば、とにかく考えなければいけなかった。

 首輪を外せる事が分かって、それがばれていない今しかもう、チャンスは無かった。

 死にたくない。ここで死ぬまで戦うのも嫌だ。逃れたい。自分だけでも。

 

 首輪について。

 今まで、実際に首輪が爆発して死んだ仲間は、ミッション区域から出た仲間と、首輪を無理に外そうとした仲間だけだった。

 組織の人間を殺そうとして、首輪が爆発して死んだ仲間は居なかった。そうした仲間は銃で殺されていた。

 殲滅ミッションの時でも、その首輪を制御する機械を手に持って距離を置いていれば自分は隙を作られようと手出し出来なかったのに、態々でかいショットガンを向けられていた。

 多分、機械で殺すのには手間が掛かるのでは?

 いつも檻に入る時にはその機械を持っている人間が居たが、それも銃器を持った人間達に守られていた。

 ……いや、手間が掛かる、とは?

 ボタン一つでシャッターの開閉やらも出来る人間が作るもので、手間が掛かるとは何だ。

 ボタン一つで首輪の爆発も出来るんじゃないのか?

 でも実際、そうして殺された仲間は居ない。

 …………。

 何か引っかかっているような気がするが、分からない。

 そして、この首輪は外せる。外し方は簡単だ。首輪の前後に付いているネジを適当な道具を使って外せば良いだけ。多分、それ専用のでなくても、簡単に外せるだろう。

 その他には……特に無いか?

 …………無いな。

 

 ファルファレルロについて。

 ファルファレルロとなった片目と長く接して来て、そして前の殲滅ミッションの事も含めて、分かった事がそこそこある。

 体格、筋力は更に強力になっている。変異した片目と変異する前の古傷が力比べをしているのを良く見たが、古傷は変異するまで全く及ばなかった程だった。

 そして、擬態能力はとても強力だ。普通なら、近くに居る状態で目を凝らさないとまず分からない。

 でも、人間は昼夜問わず、そして擬態しているかどうかに関わらず、生物の位置を確認出来る物を持っている。それを使われたら、擬態能力は何の役にも立たない。

 擬態能力に対処されて、悪食と古傷はやられた。

 ……多分、この組織もその対処出来る道具を持っているだろうな。

 逃げる時にはファルファレルロになっても大して役には立たないかもしれない。それは昼夜問わずして、遠くに居る生物を見つける事さえも出来るのだから。

 それに、体格や筋力も増し、擬態能力も得る為に、代償もある。

 疲労し易くなる。水をより欲するようになる。暴れたいという衝動が増す。

 逃げるとなったら、飯が勝手に出てくる事もなくなる。水をいつでも自由に飲める訳でもなくなる。

 あの砂の道で、どうにかして身を隠しながら進まなければいけないとなったら、ファルファレルロになる訳にはいかなかった。

 暴れたいという衝動自体が増しても、本質そのものは変わらないとしても、自由になった身でそれを抑えきれるかどうかは分からない。

 警護ミッションの時、もし片目が腹に爆弾を抱えていなければ、無視して止めようとする人間さえも殺して、敵を殺しに行ったかもしれない。それは、片目の本質が変わっていなかったと言える今でも、否定出来なかった。

 今、知っている状況じゃ、ファルファレルロに変異する事は欠点の方が多いように見えた。

 元々、この体はこのままでも人間より遥かに強くて便利だった。

 そして、この組織でファルファレルロに変異したら、腹に爆弾を埋め込まれる。

 腹を割いて爆弾を取り出したとしてもその後何もしなければ死ぬだけだ。

 片目達ファルファレルロまでも助けて逃げようとなれば、どうにかして人間を脅して、爆弾を取り出させ、腹を閉じさせなければいけない。

 そんな事、出来るのだろうか?

 出来ないのなら、そしてその内自分までも腹に爆弾を埋め込まれてしまうのなら、自分は見捨てても逃げる。

 すまないが。

 

 逃げる場所について。

 目標とするのは、人間が立ち入らない場所が前提だった。

 生物"兵器"の自分は、利用する人間以外にとっては、敵だ。いや、逃げ始めたら、人間は全て敵だ。それ以外の何者でもない。自分に知性があろうとも、見つけられただけで、攻撃されるか逃げられるか。

 自分から接して相互に理解しようだなんて、無理だ。そもそも、丸腰のハンターαと丸腰の人間には、違いがあり過ぎる。タイラントやGが敵意を見せずに近付いてきたとしても自分は逃げるだろうし。

 自分達は、そういう生物だ。

 そして、人間が立ち入らない場所、人間の手が入っていない場所で、そして暮らせる場所に限定すれば、それは森しか思い浮かばなかった。

 森にまで逃げ切り、来るかもしれない人間の追手を振り切れれば自分の勝ちだ。

 ただ、そういう森がここからどこへ行けばあるのかすら、自分は知らなかった。

 ここ辺りの広い地図を、見た事は無いのだ。

 

 そして、プロテクターと、自分について。

 ……自分の価値は、どの位なのだろうか?

 プロテクターを態々作らせて自分達に着させた。首輪の外し方を知られ、しかし即座に自分を殺しはしなかった。迷っていた。そして、身内を殺した事が大体知られているのに、自分は罰せられていない。

 首輪は静かなままだった。

 自分が首輪を外して逃げたのがばれた時、人間達はどう追ってくる?

 生け捕りにしようとしてくれるのならば、逃げられる可能性はかなり上がると思う。でも、それに期待してはいけないだろう。

 逃げた後、見つかったらあっさり殺される方が現実的だ。

 また、これからは、プロテクターを身に着けてミッションに臨む事が殆どだろう。

 逃げるのならば、移転したとしてもこの基地の中からではなく、ミッション中でないとほぼほぼ無理そうなのは変わらなかったし、強い銃弾も防げる便利なプロテクターを脱ぎ去って逃げるより、そのまま逃げた方が得だ。

 ……いや、それも対策されているのか?

 プロテクターを易々と貫けるような機関銃とか、でかいショットガン、もしかしたら強力な狙撃銃のような武器を、万が一の時に用意しているだろうか。

 それは、分からない。少なくともまだ、自分の見る限りではそんな武装は大して人間達はしていなかった。

 護衛ミッションの時も、殲滅ミッションの時も、自分が殺した男以外はそんな強過ぎるような武器は持っていなかった。

 

 他にも色々考えた。

 考え過ぎる事は無かった。考えれば考える程、分からない事が多くとも、その一つ一つに目途が立ったり、その危険さが分かってくる。

 檻の奥から壁越しに聞こえてくる声を纏めて、些細な事でも何か自分の知らない事を知る。

 それは、地味でも自分にとっては何よりも大切な戦いでもあった。

 戦わなければ、生き残れない。その環境から逃れる為にも戦わなければいけなかった。

 生物兵器として生まれてきた自分は、けれど、そうとしか生きられない訳じゃないし、そもそもそう生きたいと願った訳でもなかった。

 勝手に生物兵器として生まれさせられて、勝手に生物兵器として戦わされてきた。

 恨みはある。でも、生きている事自体は好きだ。死ぬ事は嫌いだ。

 そして、恨みの為に死のうとは思わない。

 逃げられるのならばそれで良い。

 後は勝手に生きるから放っておいてくれ。

 

 そしてまた、ミッションがやってきた。

 呼び出されたのは全員。久々の、ただの戦闘ミッション。

 けれど、今回は注意が加えられる。

「武器の横流しがそこで起きているらしいから、プロテクターを身に着けていても気を付けろよ」

 結構前の戦闘ミッション程の楽なミッションでは無さそうだ。

 そして、逃げられれば、そこで逃げよう。




「やっぱりどういう形であれ、お前に生かされた身だからさ、殺すのもやっぱり嫌だと思ったんだけどさ、でもお前を自由にする訳にもいかないよなあ。お前、外に出たら好き勝手にやりまくるだろ。そして目を付けられない内にとんずらするだろ」
 そうかもなあ。
「ケツを見るんじゃねえよ。変な目で見てくるんじゃねえよ!」
 口にも突っ込みたいなあ。
 あんな事したいなあ。
「そんなモノ見せながら考え事するなよ……」
 暇だなあ。

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