口の中に入れていた注射器を、皆が眠りに就いた後に爆弾の保持する所へ移し替え、それからまた更に暫くの時間が経った後に、トラックは止まった。
トラックに乗っていた時間から考えれば、基地からはかなり遠い場所だった。
檻を開けられ、外へ出る。もう、このトラックに乗る事も、檻に戻る事も無いように願った。
外にはかなり頑丈そうな車が数台、それからプロテクターでも防げなそうな強力な銃火器を持っている人間も居た。ただ、どちらかと言うと白衣こそ着ていないが、それに似た雰囲気の人間が多かった。
敵としてはそう、脅威にはならないような感じだった。
その脅威にならなそうな人間の一人から説明を受ける。
B.S.A.Aが持っている銃器は、それぞれ三種類。
それからナイフと爆弾数個。
爆弾を除いたほぼ全ては、プロテクターを壊す事は出来ない武器だとの事だった。目のガラス部分であろうとも、数発なら耐える。
だが、数としては負けているし、相手は対B.O.Wのみならず、対人に対しても長けている戦闘部隊。
それだけの装備でも、有効な武器が爆弾程度しか無いとしても、油断はするな。
……爆弾を除いたほぼ全て? 有効な武器は爆弾程度しか無い?
別に一つ二つあるんだろ。
馬鹿にしやがって。
それに、説明を受けながら、その実験をさせる側の人間がこっちの組織の人間に、自分達が本当に分かっているのかどうかを何度も確認していた。
自分達の半分はお前等と一緒だという事も忘れているんだろうか。
呆れた。
それでも説明は続き、他にも色んな事を聞く。
カメラがこの森の色んな場所に付いている。出来るだけ壊すな。
カメラ……確か、視界を別の場所に写させる事が出来る物だったか。少しだけ実際に使われている所を見た事がある。要するに、自分達の行動は筒抜けだという事だ。
でも、カメラは万能じゃない。それ自体はただの機械で、見渡している方角は機械そのものを見れば大体分かる。
死角はある。
カメラ程度じゃ、首輪を外す余裕は十分にある。
それから、最後に、と言われた。
森の奥でそのB.S.A.Aの七人は眠っている。もう少ししたら起きる筈だ。
そしたらスタートだった。
出来るだけ早く殲滅してみろ、との事だった。
早く終わらせたら褒美があるとか言われたが、別にそんなものは要らなかった。
首輪を外すタイミングはいつにするべきか。
そのB.S.A.Aの人間がどこに居るかとか、他に地図も見させて貰えなかったが、ミッション区域は広めに設定してあるようだった。木の上に登って周りを見てみれば、一本の道が走っている以外は、大体森が広がっていた。北には山脈が広がっている。
いつ首輪を外そうとも逃げ出せる気がする。
でも、焦りは禁物だ。首輪で分かる事がどの程度の事までの事なのか、自分は知らない。
ミッション区域に居るかどうかだけなのか、それとも位置まではっきり分かっているのか。
首輪を置いて逃げる事になるのならば、逃げる事はすぐに分かられるのかどうなのか。
それが分からない以上、すぐに逃げるのは得策じゃない。すぐに逃げたと分かれば、仲間さえもがもしかしたら追いかけて来る。
かと言って、終わり間際では、自分の体力も少なくなっているかもしれない。
……自分だけで逃げるならば、逃げる時は、中盤。時間が暫く経った後だ。そして皆が程良くばらけている時だ。
その人間達が車に入り、後は銃を持った人間達だけになった。
互いの組織の間柄は険悪と言う訳は無さそうだが、かと言って親密そうでもない。
喋る事はそう無く、全員スタートを待っている自分達を注視していた。
また、相手の組織の人間の警戒は、自分達が話を聞いている様を見てから少し柔らかくなっていた。
とは言え、今愚直に戦おうと思えば犠牲は出るだろう。全滅までは行かなくとも、三体位は死ぬかもしれない。
それに、ここに居る全員が危険因子となったら容赦なく首輪や腹の爆弾が爆発するだろう。
……? 何か引っかかったような。
その時、車から声が聞こえた。
「標的が目を覚ました! 行け!」
その瞬間、気持ちを切り替えて、心を鎮めた。
これが自分の、最後のミッションだ。
逃げてやる。逃げて生物"兵器"を辞めてやる。
自分と片目、後の三体でそれぞれ組み、正反対の方向へ別れた。自分と片目が北の方へ。能天気、紅、痩身が南の方へ。
戦力を考えれば、これで大体釣り合っていると思ったのもあった。それに加えて、片目と最後まで居たかったと言うのもあった。
……いや、もう一つ理由はあった。自分の中で、様々の欲求の釣り合いの末の結論だった。
とにかく、先へ進む。
小走りに、出来るだけ音を立てないように。
片目とは、古参の中でも互いの事を一番良く分かっている付き合いだった。
片目が自分と同じ強さの仲間を求めて古傷を仲間にしたりと、互いに深く接している訳でもなかったし檻も違ったが、それでも自分の中では片目は一番、心が通じると言うか、そういう仲間だった。
片目がファルファレルロになってから暫くは、そういう意識は失せていたが、今はまた戻っていた。
余り、人間から聞いた言葉では上手く表現出来ないが。
片目にとっても似たようなものだと思う。
自分の鼓動は、静かに強くなっていた。
誰にもばれずに逃げる事も今は可能だった。紅か痩身と、自分との二体で組めば結構容易だっただろう。
能天気か痩身となら、首輪を外して一緒に逃げる事さえも可能だろう。
でも、そうして、特に片目を無視して逃げた先での後悔は、夢の中で見た後悔は、きっと檻の中に居る時以上の鬱屈をずっと残すような気がした。
更に、古傷を失ったそのほぼ直後に自分まで気付いた時には失っている片目を思うと、釣り合いは傾いた。
銃声は走り続けても聞こえなかった。遠くからも、全く聞こえない。
ミッション区域を外れそうになり、首輪が鳴り始めた所で、足を別の方向へ変えた。
まだ、人間の痕跡すら見当たらない。カメラは時々木の上とかにあったが、首輪を外す時はカメラの見えない所を見極めてやらなければいけない。
別の方向へ走り出してから暫く、片目が足を止めて、辺りを見回した。
咄嗟に警戒するが、B.S.A.Aが近くに居る訳ではなさそうだった。
片目が身を潜めて覗いていた先には、獣が居た。
喉でも乾いたのか、腹が減ったのか、片目も人間から貰える褒美よりも、そういう物を優先しているみたいだった。
片目がその耳の長い、そんなに大きくない獣を仕留めてから、狙撃されないような場所を探す。
結局、B.S.A.Aがどのような武器を持っているかは知らされてない。一人一人が持っている銃器が同じだとも分かっていない。
何となく、このプロテクターをも破壊出来る武器がきっと数種類あるのだろうと思ってはいるが。
この前見た、禍々しい程の長くでかい狙撃銃は、出来ればあって欲しくなかった。プロテクター越しでも死んだ事にも気付かずに死ねるだろうが、もうここまで生きて来て、生き延びるチャンスが目の前に転がっているのにそんな事では死にたくはない。
少し探索すると、広い繁みを見つけ、その中に潜り込んだ。
片目が獣を手で引き千切り、半分程自分に寄越してくれた。
いつも、基地で食ってる肉とはやっぱり違う美味さがあった。
食い終えて、片目が先にマスクを被り直した。
……。
自分は、骨を何本か折った。
線状に裂けたものを首輪のネジに当てる。
何をしているんだ? と言うように片目が自分を見た。
回していくと、ぽろりとネジが落ちた。
後ろのネジも回して、その内ネジが落ちると、首輪が外れて、二つに分かれて落ちた。
首輪は何の反応もない。片目が唖然とそれを見て、そして次の瞬間、自分の首を掴んで押し倒してきた。
強めに、けれどギリギリ呼吸が出来る程度に。
片目のマスク越しに、呻き声が聞こえた。掴む腕も震えていた。
為すがままに、自分は押し倒されたままに片目を見た。
ガラス越しのその目と、僅かに見える顔の表情は、苦痛に満ち溢れていた。
逃げないでくれ。お前まで居なくならないでくれ。
言葉が無くとも、鮮明に分かる。マスク越しでもはっきりと分かる。
頼むから、嫌だ。嫌だよ。行かないでくれ。自分から離れないでくれ。一緒じゃないと嫌だよ。
片腕が自分の首から離れて、その拳が強く、強く握り締められた。
……自分はその願いに僅かな望みを賭けて、戦う覚悟をしたかった。
片目も紅も助けて、逃げると決める覚悟を。
片目と紅の腹の中の爆弾を無力化する覚悟を。
逃げても夢の中のような酷い後悔するのならば、そしてこんな逃げ易い環境が最後に来たのならば。
自分にとって、その覚悟をする事は容易かった。
ミッションは、自分の中で書き換えられた。
目的は、片目と紅を含めた全員の逃走。
そして、その為にはB.S.A.Aよりももっと厄介な敵を無力化して最低限、機械を奪わなくてはいけない。
もう、全てが敵だった。二つの組織の人間も、B.S.A.Aも。
自分は、片目の腕に手を置いた。
二つに分かれた首輪をプロテクターの内側に忍ばせ、マスクを被り直した。
未だに落ち着かない片目に対し、自分は胸を叩いた。
任せろ。
これ、美味いな。
「お前、太った?」
そりゃ当たり前だろ。動いてないし、誰も犯してないし。
それよりこの、何て言うんだ? パンとやらに肉が草が挟まってるの。もっとくれよ。
「気に入ったのか?」
そりゃ当たり前だろ。殆ど肉しか食って来なかったんだし。
「また夜にな」
戦闘力ランキング
1. 片目
2. 古傷
3. 能天気
3. 色欲狂い
3. 悪食
5. 主人公
5. 痩身
8. 紅
知性ランキング
1. 主人公(逃げ出したいから)
2. 紅(弱かったから)
2. 能天気(元々)
4. 片目
4. 古傷
4. 悪食
4. 痩身
4. 色欲狂い
気に入った部分
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キャラ
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展開
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雰囲気
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設定
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他