片目は不安そうに、自分に付いて来ていた。
やる事としては、そう多い事がある訳じゃない。
B.S.A.Aを殺害、もしくは組織の敵に回させる事。
武装した組織の人間達を殺す事。
片目と紅の爆弾を、自分達を研究している人間を脅して無力化させる事。
そして、逃げる事。
たった四つの事だが、それぞれ、一筋縄じゃいかない。
けれど、考えてきた事や知ってきた事を活かせばどれも不可能では無かった。最も難しいであろう、爆弾の無力化に対しても、今、自分には死よりも恐ろしい脅し方があった。
こっそり、ずっと持っていた注射器。T-アビスをただの人間が打たれたらどうなる?
T-ウイルスの場合は、殆どの場合、自我も無くただふらふらと肉を貪り食う獣以下の存在に成り果てる。
そして、人間の聞こえる会話から、T-アビスの場合も知っていた。
大抵は、T-ウイルスと似たように、獣以下の存在に成り果てる。
そして、稀に、ではなく偶に、自我を保ちつつそんな獣以下の存在に成り果てて行く。
更に自分は、その抗ウイルス剤まで持っている。脅迫にはうってつけだった。
真直ぐ走り、首輪が振動したらまた向きを変え、そうして暫くミッション区域の縁に沿って走っていると、銃声が鳴った。
すぐにその方向へ走る。距離はかなり遠いが、銃声はその後も何度か鳴った。
爆音が聞こえ、それから静かになった。
一つ、B.S.A.Aに対して確かめておきたい事があった。
首輪を外せるかどうかだ。
B.S.A.Aも組織が憎い事は一緒だろう。自分達に協力させなくとも良い。首輪を外せる事が出来れば、後は勝手に組織に向かって攻撃してくれるのでは?
ただ、人間に対しても自分達のようなネジを外すだけで外れるような首輪を付けさせているとは思えなかったし、それに加えて、B.S.A.Aは自分達生物兵器の抹殺の為にあるような組織だ。
首輪を外したとしても、そう味方のような存在になってくれはしない。敵の敵にさせられるだけだ。
走っていると、道が近付いてくる。身を伏せて静かに近付く。
……居ない、か?
遠くに自分達を乗せてきたトラックと、もう複数の、中で自分達を監視をしているであろう頑丈な車が見えるだけ。
道の近くにもカメラはあった。きっとここに居る事もばれているんだろう。けれど、何の支援もしてはくれない、と。
殺されようが黙ったままなんだろうな。
道を突っ切り、音の方へ急ぐ。人間の足跡があった。そういや、カメラを付けるのにも人間はこの森に入ったはずなのに、その足跡は無いな。カメラを取り付けたのは大分前の事なのか。
すると、このミッション区域に関しては分かられている。今のところ何の変哲も無い森でしかないが、どこに何があるか、知られていると思って良いのか。
でも、ここから逃げるとなれば、多分全員を殺してからだろうし、車も破壊出来れば問題無いだろう。
更に少しずつ音のあった方に距離を詰めて行くと、設置されているカメラが壊されているのが目に入る。
B.S.A.Aが壊しながら進んでいるらしいな。それは有難い。
ただ、そう思ったのは束の間だった。
強い爆発が起きた痕跡が見えた。そう言えば、爆発の音が一回してたな。
仲間の足跡はあったが、B.S.A.Aも、気配は感じられない。
一回相見えただけで、交戦まではしなかったのか?
……いや、違う。
仲間達の方が逃げたんだ。
マスクのせいで臭いが分からなかった。近くに行くまで、目で見るまで気付かなかった。
千切れた足。夥しい血の跡。マスクを脱がし、楽になるように止めを刺した痕跡。
紅が、死んでいた。
胴体もプロテクターごと破壊され、内臓が飛び出していた。
……。
狙われたのは、腰の、爆弾を保持している部分だ。
そこに銃弾を撃ち込まれ、体に密着している状態で爆弾を爆発させられた。
ほんの少し、放心している時間があった。
惨たらしい死に方だった。
それがプロテクターを纏った自分達を仕留める為の唯一の結果だったとしても、こんな死に方で終わるなんて、思いたくなかった。
すぐに片目に、ただの爆弾の方を捨てるように指示した。一つだけ手に持たせ、自分も一つは捨てた。
煙幕の爆弾は大丈夫だ。壊れても爆発はしない。煙が出るだけだ。
……そして、一つ。
紅が死んでしまった事はもう、取り返しの付かない。きっとファルファレルロとして体が大きかったから真っ先に狙われたのかどうか。
死んでしまったのなら、ファルファレルロの腹の中の爆弾を調べる事が出来る。
我ながら、残酷な事をしなければいけないと思った。
自分が調べて何になるという事もあるが、調べておいて損は無い。
カメラも付近のは壊されていた。
プロテクターを外し、腹を爪で割く。血は余り出なかった。
爆弾らしきものは、腹筋に小さく埋め込まれている形で二つあった。爪の先程の大きさの球体で、とても小さく、取り出してみれば中に液体のようなものが入っていた。
片目がそれを覗き込んできた。
首輪のように爆殺するのではなく、毒を体内に直接撒き散らす形で処理しようとしていたのか?
それでも、これならとほんの少し可能性が広がった。
爆弾の埋め込まれている場所は、体内の奥深くじゃない。最後の手段として、片目の腹から探り当てて取り出す事も可能かもしれない。人間の手を借りなくとも、自然に治るのに任せても大丈夫かもしれない。
その爆弾を捨て、念の為にもう少し深くまで調べてみようとすれば、片目が手を肩に置いてきた。
止してくれ、とでも言いそうなそれを振り払う。
……分かってる。正直、これは片目を助ける好機だと思ったのもある。
紅も最も古くから生き延びてきた親しい仲間の一体だった。けれど、片目程でもない。その次に親しかった古傷や色欲狂い程でもなかった。
一番、自分が救いたかったのは片目だった。
自分の爪や手は既に血塗れだった。戦ってもいないのに、紅の体を掻き回して血塗れになっていた。
ここまでしたなら、徹底的にしなければいけなかった。紅の体を利用しない手は、もう自分の中には無かった。
胃や心臓、肺。色んな所を切り裂いて、爆弾はそれ以外のどこにも無かった。
片目は、近くに居続けたが、自分から目を逸らしていた。
血を草や葉で拭うが、水が無ければ体は血で汚れたままだった。
一度捨てたその小さな爆弾は、思い直して空きが出来た爆弾の場所に注射器と共に入れておく。
これは、反旗を翻す時に役に立つ。首輪も含め。
強力な銃器を持った人間に対抗するには、油断を突く必要があった。
外した首輪やこの爆弾は、それに成り得るだろう。
片目を呼び、先へ進む。
……紅を殺された事は辛い事だった。放心さえした。
けれど、何故かB.S.A.Aに対しては強い殺意は浮かんで来ない。
いや、その感情は否定出来なかった。
片目と紅両方とも腹を割いて爆弾を取り出させ、そしてきっと余り動けないであろう二体を背負って逃げる、というのはどういう状況であろうともかなり難しい事だった。
そして、そこまで親しくない、全員で逃げる為に枷となり、加えて自分にとってそこまで親しくない紅が死んだ。
…………感謝が沸いている事を、否定出来なかった。
辛くても、放心さえしても、感情は、とても悲しいで終わってしまっていたのだ。
後に残るものも少なかった。
良い事を知れた、役に立つかもしれない物を手に入れた、と思っている自分さえ居た。
……自分は、ハンターαとして普通なのだろうか。いや、生物として普通なのだろうか。
こうして仲間の死体をぐちゃぐちゃにしてまで、更に親しい仲間を助けようとする自分はおかしいのだろうか?
付いて来る片目との距離はさっきよりも、少し離れていた。
その答えは、人間でさえも知らないような気がした。
視界の先に、B.S.A.Aが居た。目が合い、身を木陰に翻したと同時に銃弾が飛んできた。
少なくともそれは、今考える必要は無い事だ。
集中しろ。
今回はお休み。後で書くかも。
紅:
腰の爆弾の入ってる小さい鞄を狙い撃たれ、致命傷を負う。
仲間に介錯され、死亡。
今更だけど、爆弾の保持している部分っていうのは腰で、小さい鞄になってる。
爆弾は4つまで収納可能。5つは入れられないけど、隙間に注射器程度なら入る。
気に入った部分
-
キャラ
-
展開
-
雰囲気
-
設定
-
他