今回は日常系の異能ストーリーというものです。……ってなんだこのジャンル。
速度が微妙になるかもですが、ぼちぼち投稿していきます。
では、お楽しみください!
子供も大人も寝静まるような丑三つ時、荒く息を吐き、路地を駆け抜ける足音が暗く静かな街中に響く。
何かに追われているのか、切羽詰まったような、また追い詰められたような声を絞り出し叫ぶ。
「なん、なのよ……あの子供は………っ!!」
それは女性の声だった。透き通るような声は今や怯えきっており、震えている。
女性は暗い街中を無我夢中に駆け巡る。まるで、獣に追われる
だが、それも長くは続かなかった。
女性は路地裏の方に入っていき、入り組んだ道を選んでなんとか追跡者をまこうとした。それがかえって自分を追い詰める結果になってしまう。
「えっ………!?」
幾度か曲がり角を曲がったところで行き止まりに行き着いてしまったのだ。女性にできるのは、まいていることを願うこと、もしくは来た道を戻ることしかなかった。
女性が踵を返し、急いで来た道を戻ろうとしたが、
「追いかけっこはおしまいかな?」
そこには高めの高めの声で言葉を発する小さな影があった。
おおよそ百三十センチぐらいの背丈の子供だった。
女性はその影と声に怯えながら後ずさりする。腕と足は震え、歯はガチガチと音を鳴らす。
「な……んで………」
「お姉さんが悪いんだよ?僕との約束守ってくれないから」
女性との距離を縮めるため、ゆっくりだが歩み寄っていく小さい影はニタァと口角を歪めているように見える。が、路地裏ということもあり、月明かりさえ届かない建造物の間ではその表情は女性には見えていないだろう。
女性はおぼつかない足取りだが、後退しようとする。だが、すぐに背後の壁に背中が当たってしまう。
女性が己を襲う恐怖に身を震わせていると、人影はその姿をケタケタと笑った。その姿はまるでーーーーーー
「じゃあね、お姉さん。《オヤスミナサイ》」
その瞬間、その世界から逃げ惑っていた女性は消え去った。
♢ ♦︎ ♢
燦々と光が降り注ぐ東京という都会を、少女、
淡い水色の半袖のブラウスにベージュのショートパンツを身につけたは琴音は、人混みを縫うように走る。
「め、んせつの日に……遅れるとか……絶対、ありえ、ないっ……からっ……!」
息も絶え絶えになりながらそうぼやく。
琴音は先月高校を卒業し、受験をせずに就職を選んだのだが、残念ながら受ける会社がことごとく『不採用』という通知が来ていたのだ。ちなみに、次受ける会社は十数社目だったりする。
だから遅れては元も子もないのだが、あろうことか、琴音は落ちたくないというプレッシャーにより寝つきが悪く、四時間ほどしか眠れていない。
だが、琴音は襲い来る眠気を気にする間もなく速度を上げている。
そうして走っているうちに、琴音は目的地の目前へとたどり着いた。周囲に立ち並ぶ高いビルより低めの古ぼけた建物の前に立ち、ゴクリと唾を飲み込む。
「ここでダメなら……もう後がない」
口元をキュッと引き締めてその建物の中へと入る。
外装が古ぼけていたため、中も古いのだろうかと思っていたが、そうでもなく、古さは感じるものの清潔感があり、他の会社とそこまで変わらなかった。
ただ一つだけ、エレベーターに乗った時に鳴っていた何かが軋む音ぐらいが他とは違っていたが。
目的のビルの3階に着くと、琴音は真っ青な顔で出てきた。それもそうだろう。時たまエレベーターが壊れそうなーーー壊れてもおかしくないーーー音を立て、ガタンッと揺れたりするのだ。生きた心地がしなかったのだろう。
琴音はあのエレベーター絶対欠陥品だ、などとつぶやきながらも足を動かして一つの扉の前で止まる。
『亥景相談所』
そう書かれた扉の前で琴音は息を呑む。この相談所こそが琴音が受ける最後の会社なのだ。
「ていうか、相談所って会社っていうのかなぁ……」
琴音が適当な就職先をネットで探しているときに目に入ったのが『亥景相談所』だった。詳細には『話が聞けて物分りがいい人なら誰でもOK!』などと、なんとも詐欺っぽい記述だったが、切羽詰まっていた琴音は藁にもすがる気持ちで申し込んだのだったが、今になって不信感が湧いてきたのである。
が、今そんなことを感じても遅いと頭を振ってその感情を頭から消す。
琴音は今までにないほどに気合を入れてそのドアをくぐった。
その先で待っているものが、今までの現実とかけ離れたものとは全く知らずに。
★
「し、失礼しまーす…………」
琴音はさっき気合を入れたにもかかわらず、控えめなノックと気弱な声で相談所の中へと入っていく。
ゆっくりと扉を開けた先には、何やら受付のようなカウンターが目の前にあり、そこに本を読んでいる男性がいた。
髪はボサボサで前髪は目元を隠すほど伸びており、ダボダボのシャツと黒のズボンを着用している、いかにも怪しい雰囲気を纏っていた。
その男性は、琴音が入ってきたのに気づくと、首をかしげる。
「……ん?誰だい、君は。部外者は立ち入り禁止だよ。それに今日はなんの依頼もないから来客はないはずなのだけど」
男性は琴音を見ることもなくそう言い放った。顔も上げていないのにどうして初対面の人で依頼者じゃないとわかるのだろうか。
琴音は男性に訝しむような視線を送るが、男性は冷静に返してくる。
「……で、誰かな?僕も暇ではないのだけれど」
少し怒気の含んだ声に琴音はビクッと震えるが、名前を言えばわかるだろうと自分の名を告げた。
「み、御言琴音です。今日面接予定の」
「……ああ、それなら話は聞いているよ。向かって右手側の部屋に入って。そこに司……もとい、面接官がいるから」
「は、はいっ!」
琴音は言われた通りに右手側の部屋に向かう。先ほどの男性が言っていた『司』というのは面接官の名前だろうか。どんな人なのだろうか、といろんなことが脳内に浮かんでくるが、件の部屋の前に着くと、それらは全て霧散した。
目の前の扉に手をかけ、ゆっくりと開くと、そこには机と椅子が2つずつあり、向かい側の椅子に一人の男性が座っていた。
その男性は、琴音が扉を開くやいなや笑みを浮かべて琴音を見据える。
「こんにちは、御言琴音さん。俺は今回の面接官の神野司だ。今日はよろしく」
目の前の男性、神野司は軽い挨拶程度の自己紹介をしてきた。
司は、黒のパーカーに黒のカーゴパンツと黒に統一された服装は似合っていないとは言わないが、どうも自宅の自室で着るような部屋着みたいなのだ。
実際、琴音も家では司のようなゆったりとした服を着ている。ついでに言うと、凄まじくだらけて中年のおっさんみたいになっている。
「とりあえずそこに座ってくれ。二、三質問して合否決めるから」
「は、はいっ………」
司は座るように促してくるのだが、声音が完全に質疑応答が面倒だと言っている。
琴音は複雑な気持ちのまま椅子に座る。
そこから始まったのは、他の会社でもやったような質疑応答だった。御社を申し込んだ理由、高校では何をやっていたのか、趣味などetc………。
一通り終わったのか、司が息を吐く。その瞬間、琴音にのしかかっていた緊張が軽くなった気がした。
だが、それもつかの間。司は真剣な表情を作ると同時に机に膝をついて手を組む。
「さてと、形式的なことは終わらせたし、そろそろ本題に入るとしよう」
「え……?」
琴音は眉を寄せる。明らかに先ほどの司とは雰囲気が違うのだ。それも、今から果てしなく重大なことを話すかのように。
「これから話すことは口外はしてはいけないが、守れるか?」
「え、あ、はい」
そこで琴音はハッとする。自分がそんな重大なことに反射的に返事をしてしまったことに。
琴音の脳裏には、何かまずいことに足を突っ込んでしまったのではないかと不安がよぎる。その不安はその通りでありーーーー
「あんたはこの世に人ならざる力があると言ったらーーーー信じるか?」
今まで琴音が知りもしなかった現実へと誘うものであった。
今回はこんな感じです。
次回、異能などについての説明です。
では、次回もお楽しみに!