裏世界の異能相談所   作:夜明けの月

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半年ぶりくらいですね本当に申し訳ありません。

別のこと色々やっていたら更新遅れました……。これからは定期的にしていきたい……とは思ってますので、よろしくお願いします。





相談.6 仮説

奇妙な事象に出くわした司は、先程から顔を青くして震えている琴音を連れて大急ぎで事務所まで戻って来た。

いつものようにカウンターに珍しく詩鶴はおらず、奥の方に行くと静かな事務所内に規則正しい寝息が響いていた。

 

「これは……詩音か。ちょうどいい、起きろ詩音!」

 

「ん、んぁ!?何、巨大アリが攻めて来て迎撃しなきゃならないって!?」

 

「どんな夢みてたんだお前は……ってふざけてる場合じゃねえんだよ!」

 

司は盛大に眠りこけていた詩音を強制的に叩き起こし、この状況に陥った原因を説明する。聞き始めは眠そうに目を閉じていた詩音だったが、話が進むにつれて表情が真剣なものとなる。

 

「なるほどね………。あてられた?」

 

「いや、そもそも人の気配なんてしなかった」

 

「それなら一体どうして……」

 

「それより、何とかならないのか?さっきから様子が」

 

「分かってる。……人の気迫にあてられたわけじゃない。なら、残る可能性は一つになるけど……でも早すぎ……」

 

「考えるのは後でいい、まずはどうにかしてくれ!」

 

「はいはいっと。とりあえず、ささっと終わらすから」

 

顔が青白くなり、うなされるように目を瞑る琴音をソファーに寝かせ、詩音は琴音の腹部に手をかざす。

 

「『貴女の悪夢を除きましょう。貴女がここで潰えないように。貴女がここで終わらないように。今は眠りなさい。ーーーその時が来るまで』」

 

そう言葉を紡ぐと、かざした手のひらから淡い光の球体が一つ、琴音腹部から中に入って行く。その光は入った途端、琴音を内部から淡く照らし、収まる。

すると、琴音は先程とは打って変わって安心したかのように眠っている。

琴音の状態を確認すると、詩音は深く息を吐き、床に仰向けに倒れる。

 

「あ"〜………無理。久々にやったらこれ疲れる」

 

「女の子が出しちゃダメな声出してた気がするが、そんなに疲れるのか?」

 

「司、癒術ナメてるでしょ?」

 

「滅相も無い。俺だってそれに救われた身だからな」

 

癒術。あらゆる状態を癒し、平常の状態へと為す術である。

例え、不治の病だろうが、消えない傷、病んでしまった心など全てを癒すことが可能である、が詩音曰く、『これはなかなか疲れるのであまりやりたくないし、症状が悪化するほど術者の負担がかかるからほとんど使わない』らしい。

 

司は、安心したように眠る琴音から詩音に目を向ける。詩音も雰囲気に気づいたのか、表情を引き締める。

 

「……本当に何だったんだあれは」

 

「司は何ともないんだよね?」

 

「俺は全く。あんな重いプレッシャーは久々だが、あれに比べりゃどうってことはない」

 

「へぇ、そんなに?」

 

「まぁ、一般人が食らえば失神は免れ………まさか」

 

「そのプレッシャーにあてられたんだろうね。だって、この子前まで一般人だもん」

 

司は失敗したと歯噛みする。まさかこんなことになろうとは思わなかったが、遭遇することを計算して動けたはずだった。

なのにこうなってしまった。

 

「(油断しすぎだクソッタレ………!)」

 

ふと、脳裏に何かが過ぎる。

 

 

アカイ ヒメイ

 

 

タスケテ ゴメンネ

 

 

その記憶を司は忘れさるように頭を振る。

先程過ぎったものを隅に追いやり、現状を検討する。

琴音と司が聞いたものは異能者だということは確定していた。あのような威圧感を放ちながら言い放つ者は人外(そういう部類)しかいない。

なら誰が……、と考えを巡らせたところで静かな部屋に扉の開く音が響く。

 

「だぁ〜くそッ!何もあそこまで言われる筋合いなんてねえっての!」

 

「仕方ないじゃない。知らないものは知らないって言ってるのにしつこく聞くからだよ」

 

「知らないって言ってる奴が一番怪しい」

 

「それは………あるかもだけど」

 

扉から入ってきたのはおそらく今回の件で聞き込みなどに行っていた英太と三月だった。

英太は何を言われたのか、大変ご立腹の様子で、三月に至ってはそれを必死になだめている。

二人は奥の方で真剣な面持ちで考え込んでいる司と詩音を見つけると、怪訝そうな顔で近づく。

 

「どうしたよ二人とも。いつものネタ要素はどこ行った?」

 

「そうだよ。キャラ死んでるよ?」

 

「「お前ら/君ら二人には言われたくはないなその一言」」

 

「んで、何があった?司はともかく、水無月さんまでってことは相当なことがあったと判断しなくもないが」

 

「実はーーー」

 

詩音にした説明をもう一度二人にも話す。

聞き終わるや否や、英太はため息を吐く。

 

「なぁ、司。まさかと思うがお前、気づいてないのか?」

 

「は?だから、異能者のうちの誰かが御言に」

 

「言葉を発した。そう思ってるだろうが、違う」

 

「…………一体何が言いたいんだ?」

 

「そもそも、それは御言ちゃんが聞いた時に発せられたものなのか?」

 

英太の問いかけに答えにたどり着いていない司と発せられた詩音は脳を働かせる。

英太が言いたかったのは、琴音が聞いた時にその言葉はどこからも発せられてないということだった。

 

「(……………どこからも(・・・・・)ーーーーーーー!?)」

 

「気づいたようだな」

 

司の中である仮説が成り立つ。もし、そうならば考えられる原因は二つでーーー

司がそう思った時に詩音もようやく答えにたどり着く。

詩音は血相を変えて起き上がり、狼狽える。

 

「嘘でしょ……早くない……?」

 

「偶然なのかどうかは知らんが、まあそういうことだな」

 

「で、でも所属してから1日しか経ってないよ!?元々発現してなかったし、あったとしても……そんな………」

 

「……何にしてもとりあえず仮説は二つだ」

 

司は指を二本立ててその仮説を告げる。

 

「一つ、本当はそこに人がいて、俺たち二人が視認することができないような能力を持っていた、ということだ。現段階ではこっちの方であってほしいわけなんだけど……」

 

「現状、そんなことができるのは一人しかいないしな。というかお前の方がわかってんじゃねえのか?」

 

「確かにそうだ。あいつはあんな事はしない。なら、考えられる可能性は一つだけとなる」

 

司は苦虫を噛み潰したような顔で言葉を何とかして絞り出し、言った。

 

「御言に能力が発現した…………という事だけだろうな」

 

「いやいや、いくらなんでも早すぎない!?こっちの世界に関わり始めてまだ1日だよ!?」

 

「そういう詩音ちゃんだって、ここにきてすぐに能力発現させたじゃない」

 

「あれは偶々だよ……きっと」

 

「詩音の幸運パラメータは高いからな。詩音ならあり得るが、まさか御言も幸運パラメータが」

 

「全くもって幸運じゃないからね?」

 

「詩音の幸運パラメータの話はこの際放っておくとして」

 

「司が始めたんでしょ!?」

 

「はいはい詩音ちゃん、ちょっとあっち言ってましょうね〜」

 

「なんで私邪魔者扱いされてるの!?酷くな」

 

三月が詩音の背中を押して談話室へと連れていく。

詩音が講義を申立てようとしたところで、談話室の扉が閉じて声が遮られる。

 

「行ったか……」

 

「ああなった水無月さんは文句言うことやめないもんな。でも、好都合じゃないか」

 

「……何が?」

 

「話したいことがあるんだろ。さっき俺が言ったことに関係して」

 

二人がいなくなった部屋で司と英太は、先ほど談話室に消えていった二人には言っていない仮定があった。

おそらくそれは英太が考えているだろうことと同じと予想していた司は、頃合いを見計らって英太を呼び出そうと思っていたのだが、二人がいなくなったことでその手間が省けた。

 

「で、その話ってのはなんだ?」

 

「まだ仮定の話なんだけどな。御言が聞いた声、おそらく今回の相談の件と関係があるやつだと思う」

 

「ほぉ、それでどう関係してくるんだ?」

 

「……情報が少ないから仮定立てるだけで詳しくはわかってない」

 

「なんとなくそう思ったってことか……。やめてくれよ、お前の勘はかなり当たるからさ」

 

「とりあえず、詞鶴が帰ってきたらどうするか決めててくれ」

 

「…………どこにいくつもりだ?」

 

「ちょっと行くところあるから」

 

そう言って司は相談所を出て行く。一人残された英太は、女二人がいる談話室へ行こうと思ったが、

 

「……………ま、起きた時一人ってのも寂しいしな」

 

床に座り込み、手近なところにあった詞鶴が出しっ放しにしてある本を読み始める。

この後、談話室から出てきた二人に「柄にもないことしてる!」と驚かれるのだが、それは別の話。

 

 

 

 

 

 

 

♢ ♦︎ ♢ ♦︎ ♢

 

 

 

 

 

 

 

相談所の事務所を出た司はあの声が聞こえた場所に来ていた。

いたって何もない路地裏で、日中でもあまり日が差し込んでいないくらいである。

司は片膝をつき、コンクリートを指で撫でる。

 

「………どう考えても不自然だよな」

 

暗いから視認は出来ないが、どう考えても肌触りがザラザラしすぎである。何かで表面を削り取ったかのような、そんな肌触りである。

 

「"その概念を行使する"」

 

司は能力を発動し、何もないは場所から懐中電灯を作り出す。

その懐中電灯で先程触った場所を照らすと、そこは元あったであろう原型はとどめていなかった。

一体の表面は削り取られ、そのうちの一部は爪で引っ掻かれたように抉れている。

 

「(表面が削られてるっていうのが不自然なのは確かだけど、この爪痕みたいなのには説明がつけられないんだよな……。人間に付けられるような傷でないのは確かなんだけど)」

 

司は考え込むが、不自然なことが多すぎてどうにも判断できない。

今のところは司の脳裏に浮かんだ光景とこの辺りの状況だけがこの事件に関わっている人間への手がかりなのだが、こんなにも少ない手がかりだけでは答えに辿り着けそうにになかった。

 

「また戻って来たけど……これが分かっただけマシとするか」

 

そう呟き、司は踵を返して事務所へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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