斯くして一色いろはは本物へと相成る。   作:たこやんD

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お待たせしました!


とはいえ2話を使って昼休みが終わっただけという、例に漏れない進度の遅さですね...
無駄に書きすぎなのは承知しております!←


あとは、智咲と茉菜のキャラわけがしっかりできているかが非常に心配です。
容姿とかについてもう少し細かく書いたほうが想像しやすいよなぁ、と思っている次第です。じゃあ書けよ。ごもっとも。
次回にねじ込みます!笑


それでは本編、どうぞ!



10話 斯くして邂逅は始まりを告げる。

 

くっそビビったぁぁぁあああ!

心臓に悪いからやめてくれませんかねそういうの!

 

他にも人いたのかよ…一色だけだと思って少しカッコつけちまったじゃねーか…。

 

てか、なんでこいつ友達の前でまでベタベタしてくんの?バカなの?死ぬの?

 

そんな意を込めて一色の方をひと睨みしたのだが、完全にうわのそらな一色は文字通り遥か上空を眺めていらっしゃる。

 

ここで放置されても俺のステータスはDEXに全振りでSPは隠密にのみつぎ込んだ一極型なので、小器用に隠れて生きることは得意でも、勿論対人スキルなどは皆無である。

初対面の、しかも見るからにリア充な後輩女子との会話など、成立するわけがない。

 

とはいえ、留美やら小町やら一色やら、最近年下女子になめられがちである俺にもプライドというものがある。これ以上先輩としての面目を潰さないためにも、ここはひとつ威厳のある態度で接するべきだ。今後の人間関係を決定づけるのには最初の5分が肝要だと、誰かも言っていたしな。

 

「うっす…」

 

…うむ。我ながら自分の身を弁えた正しい挨拶だ。どんな相手にもまず敬意をもって接するのは人として大切なことだと思うんですよ。はい。

 

と、初っ端から完全に下手に出てしまった俺を品定めでもするかのように見つめてくる後輩女子。

その目を覗き返すわけにもいかず、未だフリーズ中の一色さんよろしく空を仰いでいると、鑑定を終えたのか、一色をノックアウトさせる原因となったものと同じ声音が聞こえてきた。

 

「いろはー、そろそろ起きたら?別に先輩の前でいじったりしないからさぁ(笑)」

 

それは翻訳すると『後でたっぷりいじってやるから覚悟しとけよ』ってことなのだろう。そしてその流れで『あのかっこつけてた先輩、ちょーキモかったよね~』みたいな会話に発展するところまでがテンプレ。

 

発言の真意はさておき、この二人もさすがに初対面の先輩への対応に困っているのだろう。いやむしろ初対面の先輩の対応の悪さに困っているのか。この場で唯一、全員と面識のある一色に間を取り持ってもらいたいのは俺と同じだろう。

幸い、呼ばれた一色はすぐにむくっと起き上り、何度か自分の頬を叩いてからこちらへ向き直った。…悪戯っぽい笑みを湛えて。

 

「ふぅ...。ところでせんぱい。茉菜の胸に何か付いてるんですか?」

 

茉菜、という名前は初めて聞いたが、それが誰を指すのかは確認するまでもない。

しかし、『そりゃまあたいそう立派なモノが付いてるじゃないですか。』と言えるわけもなく、万乳引力の法則に視線が引っ張られるのをなんとか耐えながら言い訳を模索する。

 

「ばっかお前何言ってんの、俺は何も…」…言い訳が思いつきません!

 

そこへさらに、鬼畜な後輩が追い打ちをかけてくる。

 

「あれれ~、おっかしいぞ~?」

 

何お前、どこのコナン君?見た目は子供、頭脳は大人なのん?

それにおかしいとこなど、俺の目とか性格とか思考とか挙動とか言動とか以外ないはずだ。

やべぇ超思い当たる...。

しかしそんなこと今言及されましてもね一色さん。どうしようもないことないですかね?

 

「わたしまだ、二人のこと紹介してないですよね?どっちが茉菜とか言ってませんよ?」

 

くそっ!謀ったな!!

やはり存外に頭の回る一色は、ここぞとばかりに畳み掛けてくる。

 

無理に言い訳を考える前に、もっと状況を正しく認識するべきだった。

俺としたことが、まさかリスク回避の選択を誤るとは...。

 

見ると茉菜さん(仮)ともう一人が、ゴミを見るかのような目つきで俺を見下ろしていた。

 

対峙して5分も経たないうちに早くも俺と後輩女子との関係性が決定づけられてしまったところで、本来の目的とは脱線しまくっていたであろう話題を一色が修正する。

 

「まぁ冗談はこれぐらいにして。せんぱい、紹介します」

 

つい先刻まで自滅していた事実は揉み消してしまったのか、ひとしきり俺の反応を楽しんだ一色の表情が少しだけ真面目なものになったかと思うと、すぐに和らぐ。

 

「手前から、茅ヶ崎智咲と真鶴茉菜。二人とも同じクラスのわたしの親友です」

 

親友…、か。

 

一色に正面からそう評することのできる相手がいたということに、失礼ながら驚いてしまった。

生徒会選挙の一件といい、こいつが同性からは良い目で見られていないことは明白だ。

それは決して一色の人柄が悪いからというのではなく、彼女の悪癖とも言えるあざとさが無意識に巡り巡って身近な女子たちを少しずつ不幸にしてしまっているというだけなのだが、高校生にそのことを正しく受け止めろというのは酷であり、結局自らの不幸の遠因を手短な発信源である一色に求めるところとなってしまうのだろう。

 

以前の彼女は、同性に疎まれることを上書きするかのように自らのステータスを積み上げることに専念しているようだった。

その一端として、葉山隼人という最大のステータスを欲したのは当然の帰結だ。

依然として好意はもたれないが、なめられることもない。

 

その立ち位置を求めたのは、一色であり、一色でない。

 

そんなことを本心から望んでいるわけがない。ということは、選挙の推薦人名簿を埋めさせた際にほんのわずかに零した、本心からでた悔しさの欠片からも十分に推し量れたことだった。

 

だがそれでも彼女は、これからも一色いろはであり続けるのだろうと、そう思った。

 

そんな一色に親友と呼べる相手がいたことに、驚きとともに安堵する自分がいることに気が付く。

 

そんな感慨に浸っていると、今しがた紹介された二人が改めて挨拶をしてくる。

 

「初めまして、さっきは急に声をかけちゃってすみませんでした(イチャイチャを邪魔しちゃってゴメンね☆)」

 

顔と声音が、謝罪の意を含んだ内容に全然一致しないのは気のせいだろうか。まぁいい。

 

「…いや、気付かなかったこっちが悪い」

 

軽く社交辞令を交わしたあと隣に視線を移し、自分の身を抱いて半歩下がった状態の後輩に詫びを入れる。いきなり見ず知らずの人間の腐った目に晒されては、こうなるのも無理はない。

 

「…さっきは悪かった」

 

「へ? あ、いや、大丈夫です。ちょっとびっくりしただけやし、その、慣れてるので...」

 

そりゃあそんなものをぶら下げてたら、不躾な視線を感じることも多々あるのだろう。

その寛大な心意気に感謝しつつ、本人の許しが下り一色によって奉仕部に通報される危険性が減ったことに胸をなでおろす。

 

初見の後輩の名前も分かり社会的に消される可能性も未然に防げたわけだが、未だに一番疑問な点が明らかになっていない。

 

「それで、どうして二人を連れてきたんだ?」

 

名前を聞いても思い当たる節はなく、一色に説明を要求する他なかった。

 

 

× × ×

 

 

「…というわけなんですよ、わたしは大丈夫って言ったんですけど」

 

「いいじゃんかー!いろは頑張ってるみたいだし、手伝いたいって思うのは友達として当然でしょ?」

 

こいつ本当に言葉と顔が一致しないヤツだな…。

めっちゃ楽しそうな顔してるんですけど...?

 

俺からは絶対に関わろうと思わないタイプだな…。

と、初対面の後輩の性質を勝手に評してみたものの、そもそも女子という時点で自分から関わろうと思うことなどない。茅ヶ崎だけじゃなく、女子全般に当てはまる感想だった。

しかしこれはあくまで女子の話で、男子には例外が存在する。いや、戸塚が例外なのだ。あとは…うん、特にいないな。

 

「わたしもわたしも!いろはちゃんが心配やけん手伝うの!」

 

こらそこ、跳ねるな。色々跳ねるからやめなさい。具体的には俺の心拍が跳ね上がるから。

 

しかしまぁ、そういうことか。

一色は本当に、いい友達を持っている。

こんなに思ってくれる友達がいるなら、わざわざ奉仕部に頼ることなんかなかっただろうに…。

 

そう思ってから自分の考えの至らなさに気付く。

 

一色いろはとは、そういう女の子だった。

彼女が見せる弱さはあくまで“見せる”ための弱さであり、“魅せる”ための弱さだ。

そんな彼女が、自ら友人の前で弱っている姿を見せようなどと思うはずもないな。

 

「もう、二人とも過保護すぎだって言ってるのに…せんぱいからも何か言ってくださいよー」

 

「確かに、関係のない人にわざわざ手伝ってもらうことでもないしな…」

 

「それに、奉仕部が助けられるってのも本末転倒な気がするし」

 

しかし一色を手伝いたいってだけなら、わざわざ俺に言いに来なくても勝手にできる範囲で手伝えばいい話だ。

それをわざわざ来たっていうのは、この二人もちゃんと一色のこと、一色の関わる環境のことを少しでも知りたいと思ったからではないだろうか。

 

…いや、考えすぎか。

茅ヶ崎見てるとただ楽しんでるだけって顔してるし。

 

そんな茅ヶ崎の顔が一層楽しそうに動いた。

 

「あ、なら私たちから奉仕部に依頼、ってことでどうですか?」

 

「...は?」

 

「だからー、忙しそうな友達を助けたいので手伝ってください」

 

そんな依頼にもなってないような依頼は、普段なら受け流すところなんだが…。

 

俺も、一色との関係を見つめ直すうえでこの二人のことには少し興味が湧いた。

俺が他人に、しかも後輩、それも女子に、興味を示すなんてどういう風の吹き回しだと、雪ノ下辺りは怪訝な目を向けてきそうな判断だな。

 

「…わかった。けど俺の一存じゃ決めれないから、部長には話しとく」

 

ま、なんだかんだ言って一色には甘い雪ノ下のことだ、その友達とあらば案外二つ返事で了承するかもしれない。

 

「ありがとうございまーす!とは言っても当日は予定が入ってるので、手伝えるのは今日と明日だけなんですけどねー」

 

…こいつらほんと、何しに来たの?

 

やっぱり何か企んでそうな笑顔が少し気がかりだ。

面倒なことを引き受けてしまったのかもしれない...。

 

しかしまぁ、俺は俺で一色と正面から向き合うって決めたんだし、まずは外堀から彼女を知るっていうのも重要だよな。うん。

 

「…助かる。じゃあ放課後、一色と一緒に奉仕部に来てくれ」

 

はーい!という元気な返事と、含み笑いを隠せてない返事が対照的な後輩二人の傍で一色は少し不服そうな顔をしていた。

 

あてが外れたみたいで悪かったな。

でも、さっきの仕返しとでも思ってくれないと割に合わないぞ。

 

 

 

 

× × ×

 

 

 

 

う~、疲れたぁー…。

 

ていうか先輩、なんで了承しちゃうし!

 

先輩ならこんなめんどそうな話は迷わず断ると思って、しょうがなく二人を連れてきたのに…。

結局二人と先輩を接触させてしまっただけじゃんか…特に智咲と接点ができたのはまずいと思う。

 

どういうわけだか、普段は他人に毛ほどの興味も示さない智咲が先輩のことにだけはやたら興味津々というか…。

智咲って、茉菜とわたし以外の人にまったく興味がないって感じで、何考えてるのかわかりづらいのに、こういう時の悪戯っぽい笑みだけはわかりやすいからなおさら怖いんだよね…。変なことにならないといいけど。

 

昼休みも終わりが近づき、教室へ戻る廊下の上でわたしは事の行く末を案じていた。

 

そんなわたしの心情とは対照的に、嬉々とした表情の智咲と茉菜が両サイドから詰め寄ってくる。

…狭い。歩きづらい。

 

「で、いろはさんや。あれはいったいなんだったのかなー?」

 

「そうそう、すっごい仲良さそうやったし!」

 

まぁ、当然こうなるよね...。

友人二人の前でやらかした先の失態を思い出すと、数分前の自分を蹴り飛ばしたくなるが、起こってしまったものは仕方ない。それよりもこの二人の興味をどうこの件から逸らすかが問題なわけで...。

 

にしても…

 

「もしかして、もう付き合ってたり…?」

 

「お、チサちゃんもうそれ聞いちゃう?」

 

「そりゃあ一番気になるトコじゃん?」

 

楽しそうだなぁー、二人とも...。

 

そんな簡単に女の子と付き合ったりできるような人なら、それこそわたしに勝機なんかないんですよーだ。

 

「だからそれはないって~。あの人たぶんわたしのこと妹みたいにしか見てないし。それに奉仕部の二人を差し置いて、まだ付き合いの短いわたしが先手を取れるわけないしね」

 

そう。春から先輩と過ごしてきたあの二人ですらああなのだ。

わたしなんてまだまだ新参者。

最近ちょっと上手くいてるからって、楽観視できるような相手ではないのです。

 

「んー、そんなに手強いんや、その奉仕部の二人って」

 

「いろはで敵わないってそれよっぽどだよ?」

 

「そりゃあもう、あんなに素敵な人たちに囲まれてたら、わたしなんて相手にしてくれないのも納得っていうか…」

 

胸は雪ノ下先輩には勝ってるけど結衣先輩には負けてるし、学力はさすがに結衣先輩には負けないけど雪ノ下先輩には勝てっこない。

二人にない利点と言えば、後輩というステータスぐらいじゃないだろうか。

それすらも、先輩から妹と同列視される原因となってしまっては役に立たない。

 

「そんなにすごいんや!放課後楽しみやなー」

 

「いろはがそんな弱気なのも珍しいしね。(まぁあれだけ見るとそんな悲観するような状況ではないと思うんだけど…)」

 

後半はぶつぶつ言っててうまく聞き取れなかったけど、智咲の言う通り少し弱気になってしまっている。

 

この前の件もあって少し浮かれ気分だった私に対して、今日の先輩はいくらか余裕のある対応だったように感じ、意識してしまっていたのはわたしだけだったのかと思わされたからだろうか。

 

そんなところに奉仕部の話題がでると、否が応にも現状のわたしの不利を痛感させられる。

 

 

でも、それでも、諦めるつもりはない。

わたしが欲した本物は、間違いなくあの人なのだから。

 

こんなことを先輩に言ったら、勘違いだと言われるかもしれない。

 

確かにわたしは、先輩の求めた本物の空間に、本当の意味で居続けることはできないのだろう。

きっとあそこは、あの三人だからこその奉仕部なのであって、わたしの介在する余地はない。

 

それならわたしは、先輩のもう一つの本物になろう。

 

そう決意したのだから。

 

…諦めるなんて、もってのほかだ。

 

だから…

 

「まぁ、負けるつもりはもちろんないけどね♪」

 

弱気になることはあっても、諦めることはこの先絶対に、あり得ない。

 

「あ、いつものいろはちゃんやー」

 

「いろははやっぱそうでなくちゃね」

 

ましてや楽しそうなこの二人の心配にあずかるなんて、100年早いのだ。

 

 

キーンコーン―――

 

 

「やばっ、チャイム鳴っちゃった!」

 

「え、次って現国やなかったっけ...?」

 

さっきまでの心底楽しそだった顔に冷や水を浴びせられた二人の顔が徐々に強張っていく。

それを見ているわたしの顔も、きっと似たようなものだろう。

無意識に声が震えてしまう。

 

「ひ、平塚先生に…」

 

「「「…殺されるっ!」」」

 

 

先輩は授業、間に合ったかな...?

 

 

 

 





平塚先生ビビられてますね...。
いい人なんですけどね、八幡殴ったりしてるから...。

先生のかっこいいところもそのうち書きたいですね。

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