斯くして一色いろはは本物へと相成る。   作:たこやんD

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どうもお久しぶりです。

先ず1年間も放置してしまいましたこと、本当に申し訳ございません。
少し身辺が落ち着き始めましたのでじわじわと投稿を再開していきたいと思います!

本当に久しぶりなので書く前に自分の文章全部読み直さないといけないレベルでした笑


それでは13話本編です。どうぞ。



13話 斯くして出会いと別れの準備は整う。

 

「ね、茉菜はどう思う?」

 

「どうって…アレほんとに付き合ってないん? 昨日も思ったけど」

 

「だよね」

 

「うん」

 

ただ今3月12日、校内某所。

私、茅ヶ崎智咲は、某液体蛇軍人よろしく段ボールを被っていた。

 

前方に見える部屋では賑やかな声が響いている。

 

「いいんかなぁ…こんなことしよって」

 

と、隣で同じく段ボールを被っている茉菜が今さらなことを言い出す。

 

「まぁまぁ、これもいろはのためだって」

 

そうは言ったが、漏れ聞こえてくる友人の笑い声に一抹の申し訳なさを覚えないでもない。しかし、いろはのためというのもまるっきり嘘というわけではないのだ。

 

「ちゃんと確認しないと...」

 

小さく呟いた私に、何か言った? と茉菜が問うてくる。

 

「なんでもなーい。さ、続けよ」

 

私は適当に誤魔化して、再び双眼鏡を目に当てた。

 

 

 

× × ×

 

 

 

「ふぅ…。こんなものかしら」

 

そう言った雪ノ下先輩の言葉には若干の疲れの色が見て取れたが、その顔はとても満足そうだ。

 

というか、ホントにこの量こなしちゃうんだ...。

 

一応わたしも一緒に作業してたとはいえ、目の前に並べられた料理の数々を見ると改めて隣に立つ雪ノ下先輩の超人っぷりを思い知らされる。

 

「改めて見るとすごいですね、この量…」

 

「そうね…しばらくはエプロンを着けたくない気分だわ」

 

ふう、と雪ノ下先輩がもう一度浅い溜め息をついた。

口にあてがったその手に続く華奢な腕を見ると、補佐程度でしか手伝えなかったことが申し訳なくなってくる。

 

「すみません、ほとんど任せちゃって…」

 

「謝ることは無いのよ、一色さんだってよくやってくれたわ。あなたがいなければ主賓の小町さんを駆り出さないといけないところだったもの。…料理、上手なのね」

 

そう言ってふっと笑った雪ノ下先輩は、出会った頃と比べると声音も幾分か柔らかくなった気がする。

普段の印象と違う柔和な微笑みを向けられると、なんだかむず痒くなって顔を逸らしてしまった。

 

「あ、ありがとうございます…」

 

お互いに柄にもないセリフを応酬したせいか、生ぬるい沈黙が流れる。

 

 

―――ガラガラ

 

 

するとすぐに沈黙を破る引き戸の音が調理室に響き、その後に少し気だるげな足音が続いた。

 

「二人とも、小町と城廻先輩はもうすぐ着くみたいだぞ。…って、すごいなこの量…」

 

主賓の到着を知らせに来た先輩が、テーブルに並ぶ料理を見て目を丸くしいている。

先輩が驚くのも無理はない。普通の高校生であれば、ビュッフェ形式のレストラン以外でこの量の食べ物を前にする機械などそうそうないでしょう。

 

ホントこれ、食べきれるか心配になるぐらいなんだけど…。

 

「そう、ならそろそろ運びましょう。そっちはもう終わったのかしら」

 

「大方な。まだ由比ヶ浜が凝ってるみたいだが、俺には分からん」

 

「なら大丈夫そうね。ああいうのは彼女に任せておけば間違いないわ」

 

「ああ、そうだな。…で何から運べばいい?」

 

「そうね…」

 

雪ノ下先輩が、何から運んだものかと一思案している隙に、すっと先輩に身を寄せて裾をくいっと引く。

 

「せんぱい…わたし、頑張ったんですけど」

 

精一杯の上目遣いで先輩を見上げる。

 

しばらく正面を向いたまま無視を決め込んでいた先輩は、粘っても意味がないと判断したのか、短く息を吐くとこちらに顔を向けてきた。

 

「あぁ、お疲れさん」

 

そう言うと少し躊躇う素振りを見せてから、ぽんぽん、と二度わたしの頭に優しく手を乗せてきた。

 

なっ…、またこの人は急にこんなこと…。

 

ただ労いの言葉をもらうだけのつもりだったわたしは、予想してなかった行動に少ししどもどしてしまう。

 

「あ、いえ…」

 

…...。

 

「……くん。比企谷君」

 

「「っ!?」」

 

完全に失念していた方向からの声に、先輩はさっと顔を逸らし、わたしはまだ先輩の裾を掴んだままだったことに気付き慌てて手を離した。

 

二人とも蛇に睨まれた蛙の如く固まってしまい、再び沈黙が流れる。

 

いや、わたしは蛙というより兎ですかね、先輩は蛙、お似合いですけど。

というか、さっきまでの優しい雪ノ下先輩帰ってきて…!

 

すると蛇…じゃなくて雪ノ下先輩がなぜか少し躊躇いがちに口を開いた。

 

「…私も頑張ったと思うのだけれど? 比企谷君」

 

「へ…?」

 

わたしと同じく、いつものように小言のひとつでも飛んでくると思っていたのだろう。先輩が間抜けな声を漏らした。

 

「えっと、それはつまり…」

 

雪ノ下先輩の意図するところを推し量った先輩が間抜けた顔で言い淀む。

同じく雪ノ下先輩の言葉の意図が伝わったわたしも、きっと同じような顔をしていると思う。

 

いやいや、え、雪ノ下先輩ですよね...?

 

当の雪ノ下先輩は、ただ無言のプレッシャーを放っている。

それを受けた先輩もどうしたものかと判断に困っていたようだが、わたしに頭ポンポンまでしてしまった以上ここで雪ノ下先輩の要求を無下にすることもできないと思ったのだろう。ごくっと喉を鳴らして、一歩雪ノ下先輩に近づいた。

そして先輩が恐る恐る右手を伸ばしかけたその時、黙っていた雪ノ下先輩が顔をあげた。

 

「冗談に決まっているでしょう。引っぱたくわよ?」

 

そう言った雪ノ下先輩の顔には、先ほどわたしに向けたものとは違う、意地悪そうな笑みが浮かんでいた。

そしてすぐにその笑みをしまうと、

 

「私はこのケーキを冷蔵庫に入れてくるから、大きいお皿から運んでもらえるかしら」

 

そしてそれだけ言い残して、完成したばかりのケーキを持って奥の器具室に消えて行った。

 

「「...。」」

 

残されたわたしたちは、幽霊でも見たかのような表情でしばしその場に佇んでいた。

 

 

 

   × × ×

 

 

 

「さっきの雪ノ下先輩、びっくりしましたね…なにかあったんですかね?」

 

お皿に乗せられた料理たちを部室へ運ぶ途中、話題の矛先は当然先ほどの雪ノ下先輩の言動へ向いた。

 

わたしの知る限りでは、雪ノ下先輩はああいった悪ふざけをする人じゃなかった気がするけど…。

 

「いや俺に聞かれても…こっちが知りたいぐらいだよ。心臓止まるかと思った」

 

先輩のほうにも心当たりはないみたいですね...。

まぁ確かに最近の雪ノ下先輩は少し表情が多くなったとは思ってましたけど、あそこまできわどい冗談を入れてくるとは...。

 

「ホント、あいつが言うと冗談に聞こえん…」

 

「ですねー」

 

あははは、と乾いた笑みを交わしながら、まだ変なものを見てしまった気分の消えないわたしと先輩は、言葉数の少ないまま部室へと足を速めた。

 

 

 

「由比ヶ浜ー、テーブルの準備できてるかー?」

 

部室の扉を足で器用に開けた先輩が、中にいる由比ヶ浜先輩に声をかける。

 

「あ、ヒッキー!って、うわ、すごいねその料理!」

 

いつも通りのオーバーなリアクションで、そのままぴょんぴょんと先輩のほうへ跳ねて行き、ほへー、と先輩の持つ皿の上の料理を眺め始める。

 

近い近い、結衣先輩顔近いですっ!

ずるい!

 

半分無意識のうちにジトッとした視線を向けていると、ようやく結衣先輩がこちらに気付いた。

 

「あ、い、いろはちゃん!?あはは…やっはろー」

 

わたしに気付いた結衣先輩は、さっと半歩身を引くと少し気まずそうに手を挙げてきた。

ここはあえてわたしから触れるようなことは今は避けた方がよさげですね。

余裕のある態度も牽制になる、らしいですし...!

 

「こんにちはー。教室の方もすごいですね、見違えました!普段の殺風景な感じ全然ないですよー」

 

「そう? いやー、そう言ってもらえると照れるなぁー、えへへ」

 

結衣先輩もすぐにいつもの調子になっている。

 

「で、由比ヶ浜。どのテーブルに置きゃいいんだ?」

 

「あー、そだった! んー、それ大きい方のお皿だよね? ならあのテーブルかなー」

 

結衣先輩の指示通り持ってきた料理を置き終わると、わたしと先輩は次の料理を運ぶために入口へ向う。

 

すると結衣先輩がぱたぱたと追いかけてきた。

 

「まってー! もう飾りつけ終わったからあたしも手伝うよ!」

 

そう言ってわたしとは逆側の先輩の隣につくと、並んで歩き始める。

 

「そういやゆきのんはまだ料理してるの?」

 

「いや、あいつは…」

 

せっかく忘れかけていた雪ノ下先輩の話題が不意に持ち出されたことで、先輩の不審者度が跳ね上がった。

 

「あー、雪ノ下先輩はケーキを冷蔵庫にしまってくるって言ってました」

 

「なるほどー。そんでヒッキーはなんでそんな変な顔してるの?」

 

わたしがフォローする形で答えたことで少し安心していた先輩が、再度目を泳がせ始める。

気持ちはわかりますけど、それじゃ結衣先輩に変な誤解されちゃいますよー。

その先輩はというと、

 

「い、いや、そのあれだ、もうすぐ小町に会えると思うとつい心がぴょんぴょんしてしまったというか」

 

などと意味不明な供述をしており…。

 

まったくこのひとは、言い訳するにしてももう少しましなのがあったでしょうに。

というか焦って真っ先に出てくる言い訳が妹さんだなんて、どんだけシスコンさんなんですかホント…。

 

「えー、なんか嘘っぽい」

 

シスコン丸出しの適当な言い訳を受けた結衣先輩も、当然納得してないご様子で。

しかしそれでも無理に言及するようなことはしなかった。

この辺の結衣先輩の引き下がり方も、少し変わったような気がしますね…。以前だともう少し食い下がって先輩を問い詰める勢いだったのに。

気を遣ってというよりは、とりわけ必死になることもないからいいやって感じがする。

先輩は先輩で、そんな結衣先輩の反応を特に気にした様子もなく、とりとめのない話題を振ってくる結衣先輩にいつも通り対応しているだけだ。

 

雪ノ下先輩といい結衣先輩といい、わたしの気にしすぎってだけかもしれないけど微妙に先輩との接し方が変化している気がする。やっぱりバレンタインイベントの後に何かあったんでしょうか…。

つい先日いつもと変わらない奉仕部の様子に安心したばかりなのに、自分の知らないところで起きたであろう少しの変化が、またわたしの心を不安にさせる。

そもそもわたしが知っている奉仕部なんてのもたかだか数か月分だけど、それでも関わりはじめてからの奉仕部のことは少しでも理解しておきたいと思ってしまう。

そうでないと、3人がどこか遠い所へ行ってしまって取り残されるような感覚に取りつかれるのだ。

 

「おーい、どうした一色」

 

「…え?」

 

「いや、えじゃなくて。皿運ぶぞ」

 

「え、あ、そうですね! お皿運ばないと!」

 

急に先輩に話しかけられて、調子っぱずれな返事をしてしまった。

 

「どしたのいろはちゃん、ぼーっとしちゃって」

 

結衣先輩もわたしを見て首を傾げている。

どうやら一人もやもや悩んでいた間に、調理室に着いていたみたいです。

 

「あはは、すみません。少し考え事してましたー」

 

どうも先輩絡みのことになると、時間を忘れて考え込んでしまうことが最近増えた気がする。

今日はわたし自ら企画したお祝いだというのに、しっかりしなくちゃ。出会いと別れを同時に祝うというのも少し横着かもしれないけどね。

 

「えー、大丈夫?いろはちゃん」

「疲れているなら少し休んでもいいのよ一色さん」

「…」

 

三者三様に気遣われてしまいました…。

 

「いえいえ、大丈夫です! それより料理運んじゃいましょう。みんな来ちゃいますし!」

 

そう言って三人に笑いかけてどのお皿を運ぼうかと選んでいると、さっきの自分の不安の原因がなんとなくわかった気がした。

城廻先輩が卒業して先輩の妹さんが入学すれば、当然わたしは2年に上がり、先輩たちは3年生だ。来年の今頃にはきっと先輩たちと同じように卒業祝いをやっているはずだ。

あと1年。どう願っても奉仕部の3人はわたしより1年早くこの学校を卒業してしまう。

大学生になって環境が変わって、卒業した後の先輩たちのことをわたしはそばで見ていることができなくなるのだ。わたしを残して先に行ってしまう先輩たちのことを無意識に想像して、取り残された気持ちになってしまっていたのかもしれない。

 

あとどれぐらい、このひとたちとこうして思い出を共有していけるのだろうか。

あと1年と言わず、もっとこの温もりの中にいたい。

来年もその先も、奉仕部の、そして先輩のそばにいられたらいいのに…。

 

と、意外と時間がないのはパーティーの準備の方でした!

城廻先輩たちが来る前にはやく料理を運んでしまわねば。

 

その時が来て慌てているのがみっともないのは、きっとどんなことでも同じなのだろう。

 

よいしょ、と。

運ぶお皿を決めたわたしは、少し先を歩く先輩たちの後ろ姿を足早に追いかけた。

 




久しぶりの投稿なので雰囲気がすこし変わってしまているかもしれませんが、これから徐々に調子を戻していけたらと思います!

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