古代デジタルワールド、十闘士がルーチェモンを封印した少し後の皇帝竜がロイヤルナイツを組織するまでの物語。

*デジモンオリジナルストーリー掲示板NEXTにも掲載しています。

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お願いします。


Emperor Dragon became a Royal Knight,

かつてこのデジタルワールドには秩序も正義と悪の概念もほとんど何も存在せず、獣型のデジモンと人型のデジモン達は理由も無くお互いに憎しみ合う。その時のデジタルワールドに何があったのかと聞かれたら混沌としか言いようが無かった。

 

そんなデジタルワールドにある時一体のデジモンが降り立ち、力と教えをもって混沌の中に秩序を生み出し、デジタルワールドに平和をもたらした。

 

そのデジモンの名はルーチェモン。十二枚の羽と四つのホーリーリングを持つ最高位の神聖系デジモンで成長期にしてその時の最高の成長段階である完全体を超越する力を持ったデジモン。

 

しかし彼はその後何を思ったのか全ての権力をルーチェモン自身とその信頼のおける部下数名に一手に集め徹底した独裁政治を始めた。自らに都合のいい法を作り、逆らう者は極刑が当たり前、運が良ければ再起不能の状態で生き延びられる。ルーチェモンがあまりに強大すぎたために安全な隠れ場所というのも存在せず、まさに暗黒の時代と言うに相応しい状況だった。

 

秩序と平和をもたらしたルーチェモンは同時に世界に悪を生み出した存在でもあった。だがそれに伴って支配される側のデジモン達の中に自然と善の概念が生まれた。

 

暗黒の時代はそう短くは無かったがかといってそれほど長くは続かなかった。

 

後に十闘士と呼ばれることになる十の属性に十の種族が対応し、それまでの進化は完全体までというルールを打ち破り究極体という高みまで辿り着いた十体のデジモン達によりルーチェモンが討ち取られたのだ。

 

次に十闘士の時代が来たのかと言えばそれはまた違った。ルーチェモンを倒した時に十闘士は全員致命傷を負い、あらかじめ決めていた後継者たる三体のデジモンにルーチェモンの力の残滓を与え統治させたのだ。

 

しかし今、まだかつてのような秩序と平和は戻ってきてはいない。

 

十闘士からこの世界を託された三体は確かに実力者で徳も高く、申し分のない統治者だった。けれど彼らは三大天使デジモンと呼ばれる神聖系のデジモンだったためにルーチェモンを連想させてしまい誰も素直に彼らに世界を任せようとは思えなかった。三大天使はルーチェモンの後継者のようにしか思えなかったのである。

 

さらに十闘士が死んだ時にそれぞれの種族に力を分け与えたのだが、それもいけなかった。

 

特にルーチェモンとの戦いの際に最後まで残ったエンシェントグレイモンとエンシェントガルルモンの種族である竜族と獣族が我々こそが世界の覇権を握るべき種族だと主張したために他の八の種族も交えての十の種族が入り乱れての戦争が勃発し、二百数十年を経た現在も続いているのだ。

 

私は三大天使が十闘士の後継者であり、十の種族が争うことを彼らは望んでいなかったことを何度となく呼び掛けようとした。

 

「・・・アトラーカブテリモンとか言ったか。戦う前に私の話を聞いてはくれんか・・・」

 

「断る。ホーンバスター!!」

 

目の前の真っ赤なカブトムシはやはり話を聞いてはくれず、角から雷撃を迸らせ私を殺そうとする。

 

いっそ殺されてしまえれば楽なのだが私の体を覆う黒い外殻は雷撃を皮膚まで届かせてはくれない。おそらく届いても死ねない。

 

私は多分十闘士の力をすでに越えてしまっている。おそらく後数百年は生き続けるに違いない。

 

「・・・もう一度聞く。私の話を聞いてはくれんか?」

 

アトラーカブテリモンはたじろぎ、私の足元にいた幼年期を見て角をその方向に合わせた。

 

「このまま帰っては昆虫族の恥、そこの幼年期だけd」

 

彼の体を私の背の砲から放たれた白いレーザーが貫き、1と0の羅列へと変えていく。

 

「・・・もう大丈夫だ、みんな出てきなさい。」

 

体の下から幼年期達がわらわらと出てくる。彼らは皆竜族の幼年期達だ。

 

私は自分から名乗ってはいないが名実ともに勝手に竜族の長にされている。かつてこの皇帝竜の姿に進化した時は喜んだものだったが今はとても疑問だ。

 

「インペリアルドラモン様、見事なお手際です。」

 

岩山の陰からトリケラトプスのようなデジモンがこちらに歩み出てくる。

 

「・・・トリケラモン。」

 

「やはりあなた様は我ら竜族の長として覇を唱えるべきです。あなたは誰よりも早く十闘士様と同じ高みである究極体へと上り詰めた。」

 

未だ彼らと同じ究極体に上り詰めたデジモンは私の知る限りで十数体しかいない。十闘士から力を受け継いだその時に進化した私は確かに誰よりも早かったに違いない。しかしそれは誰よりも強いということにはならない。

 

「そしてその力は未だ衰えを知らない。むしろ増しているのではないかとすら思える。」

 

彼は十闘士を知らない。まだその時代に生まれていなかったためだ。ほとんどのデジモン達は戦乱の影響で三十年も生きずに死んでいく。かなり数の多い竜族の中ですらあの時代から生きているデジモンを数えるには片手で足りてしまう。

 

ましてや会ったことのあるものとなるとさらに少数。私は長く生きたが自分以外にそういうデジモンがいるという話は聞いたことが無い。いや、正確には聞いたことはあったが全員死亡が確認されている。

 

未だに私はあの時のエンシェントグレイモンの考えが分からない。

 

かつて私がまだ完全体だったころ、彼ら十人が合流して間もないころのことだった。

 

その時の私は自分の力に圧倒的な自信を持ちルーチェモンに反乱しようと独りでレジスタンス活動をしていた。

 

そんな無謀な私と三日三晩殴りあったのがエンシェントグレイモンだった。お互いに技の一つも出さずに本当に単純に殴りあって認め合った。

 

エンシェントグレイモンはちまちましたレジスタンス活動は余計に被害を増やすだけだと言いやるならば頂点を倒さなければいけないと言った。

 

私はそれに賛同しエンシェントグレイモン達に付いて行こうとしたが何故か断られた。彼らの後継者は三大天使だったわけだし三日三晩なぐり合えたのだから私が戦力にならなかったということはおそらく無い。

 

ただ一言最後にこれからの世界にお前たちのようなデジモンが必要だと言って彼らは戦いに赴いた。彼らが刺し違えてでもルーチェモンを倒す気でいたのだろうということはわかるが死んだ時の対策としてあの三大天使がいた筈だ。彼らの生存確率を上げるために増援として連れて行くのはメリットこそあれデメリットは無いように思える。

 

彼らが何故私を連れて行かなかったのか数十年きっかけがあれば考えるが答えは見つからない。

 

「・・・インペリアルドラモン様?」

 

「すまない、少し考え事をしていた・・・とにかく、何度も言ったが私は積極的に戦う気は無い。できることならば対話による休戦をかなえたいと思っている。」

 

「しかしそれをするには相手がこちらの言葉に耳を傾ける状況が必要になります。そのために有効なのが戦いに出ることだとは思いませんか?」

 

「・・・ルーチェモンが治めた時にビーストとヒューマンの戦いが完全には収まらなかったように、今、十の種族が争っているように力で押さえれば戦争は完全には収まりはしない。」

 

本当に平和をもたらすには力を使ってはいけない。愛や正義などの正の感情をもってするべきなのだ。攻撃は死を生み死は悲しみを生み悲しみは憎しみを生み憎しみは次の攻撃を生み出して負の連鎖が紡がれていくことになる。

 

「だからといって・・・ただ傍観し続けていても何も変わりません。間違っているとは思いませんが合っているとも思えません。」

 

トリケラモンの心根が優しいのは幼年期の頃から見ている私にはわかる。そしてまだ彼が少し迷っていることも。

 

「・・・明日。獣族に全面戦争を仕掛けます。十の種族の中で我々竜族と相対できるほどの勢力を持つのは獣族の他を置いてありません。獣族を打開させられればおそらく自然に竜族の天下になります。その時、インペリアルドラモン様の理想を語ってください。」

 

トリケラモンは一気に捲し立てるとどこかに走り去っていった。

 

 

 

 

 

 

そしてその次の日。トリケラモンは劣勢に陥った味方部隊を逃がすために獣族に囲まれて死んだ。

 

例えようのない悲しみが私の胸中を支配した。この感覚を味わうのは一体何回目になるのだろうか?五十を超えたあたりから数えるのはやめてしまった。

 

「ねぇねぇインペリアルドラモン様、トリケラモンさんどこに行っちゃったの?」

 

幼年期達には死が理解できないらしくいつか戻ってくるものと思い込んでいる。

 

「・・・トリケラモンはとても遠いところに行ってしまったんだよ。みんないつかは行くことになるけれど早くに行っては欲しくない。」

 

「「なんで?」」

 

幼年期達が声をそろえて聞いてくる一体どう言えばいいのか。無駄に長生きしているにも関わらずこういった事は何もわからない。

 

「・・・そこに行ったらもう戻ってこれない。私はもちろん今ここにいる誰とも合うことができなくなる。それは嫌だろう?」

 

どうやらなんとかごまかせたらしくそれぞれに嫌がる言葉が返ってくる。

 

トリケラモンの死んだ日を境に竜型と獣型の全面戦争が始まり、一日に襲われる数も今の比ではなくなった。それも日に日にその勢力は増していきある日は完全体五体に成熟期が数十体の中隊をまんま相手にしたこともあった。

 

そんな状態が二十数年続いたある日、一体の機械の獣を竜人が連れてきた。

 

「インペリアルドラモン様。俺のこと覚えていますか?」

 

そう尋ねる竜人は姿こそ変わっていた物の纏う雰囲気は幼年期の頃のまま純粋で優しかった。

 

「覚えているさ・・・あの時はまだメタルグレイモンだったか。」

 

トリケラモンの死のすぐ後に生まれた個体だからか妙に印象に残っている子だった。

 

「今は究極体、ウォーグレイモンになりました。」

 

本当に立派になったと思う。彼の世代の幼年期達はもうほとんど死んでしまったというのに彼の局所に付いた鎧には引っ掻き傷一つない。それは強さの証明として十分すぎる。

 

「ところで・・・隣にいるのは誰かな?まさか刺客を手引きしてきたとかではないとは思うが。」

 

あまりシャレにならない冗談を言うとウォーグレイモンは必死に手を振って違うと示しだした。

 

「コ、コイツは旅の途中で出会った奴で竜族と獣族が協力し合えれば十の種族全体がまとまれるのではないかって話で意気投合しまして・・・」

 

「え、えーと、初めまして。メタルガルルモンって言います。」

 

メタルガルルモンは頭を下げた後そのままでんぐり返しして腹を上にして四肢から力を抜いた。

 

服従のポーズ。この場面では服従というよりも敵意が無いと示す意味が大きいと思われる。

 

「・・・そうか。全員ではなくともこうやって分かり合えることが証明されたか。」

 

目を潤すためで無い涙が自分の意思に反して流れ出てしまう。

 

十闘士が望んだ平和が実現する希望を見た瞬間で自分が言い続けてきたことが美をつけた瞬間だった。

 

「インペリアルドラモン様、これで驚くのはまだ早いです。メタルガルルモン!」

 

「おう!」

 

起き上がるメタルガルルモンにウォーグレイモンの爪が触れた瞬間驚くべき現象が起きた。

 

――ザザザザザザザザザ・・・

 

触れ合った地点から二人のどちらの色でもない白色の奔流が生じ二体を包み込んで一つの大きなデジタマを作り出したのだ。

 

驚きはしたがこの現象はかつて自分が体験したものに非常に近いものだ。

 

「・・・ジョグレス進化か。」

 

しかしそれは何かが違うとも感じていた。インペリアルドラモンの経験したジョグレス進化は進化に足りないエネルギーを補うためでありあらかじめ定められた姿から分けられた二つのパーツが一つに戻るためであり決められた組み合わせが存在する。

 

けれどこの二体はすでに完成していた。今から生まれ出るのは究極体、究められ極められた存在である物の天井を押し上げた存在かもしれないと思った。

 

「「進化・・・オメガモンッ。」」

 

二体の面影を残したその姿は竜でも獣でもなく神聖系でありながら神でなく天使でもなく確かに人、騎士の姿を取り、両腕の先にはそれぞれ竜と獣の頭を模した武器がついている。

 

「「俺達の気持ちが一致した時に進化できるようになったんです。」」

 

オメガモンはウォーグレイモンとメタルガルルモン、二つの声で同時に喋る。しかし和音のように美しくすら感じられ不快な感覚は一切なかった。

 

「「俺達は十の種族を回って混じりあえるということを示しに行きます。その最初がここで次が獣族です。最大勢力の一角である竜族と獣族が動くことできっと何かを変えられます。」」

 

今のオメガモンのようなデジモンが出てくるのをどれだけ待っただろうと考えてしまう。

 

けれどインペリアルドラモンはこの待ち望んだ状況を前にして、自らの、十闘士の理想の後継者を目にしてそれではうまくいかないのではないかと思った。

 

ウォーグレイモンが一緒にいたとはいえきっとここに来るまでに少なからず戦闘をしてしまっている。少しでも戦闘は死を呼ぶ可能性をはらんでいる。今はまだいいかもしれない殺さずに何とかできるかもしれない。しかし広く知られるようになり複数種族の究極体達が一時的に同盟でも組めばきっと二体は一人になっても殺されてしまう。殺されなくても殺してしまう。

 

十闘士もこんな気持ちだったのかもしれない。三大天使に可能性を感じつつ不安を覚える。だから彼らを清らかなまま保つために、清らかな彼らに自然に実験を移すためにきっと彼らは死にたかったのだ。そうなると私の役はもしかしたら三大天使に真っ先に賛同し竜族を三大天使の方へと導くことだったのかもしれない。

 

今は三大天使の役はオメガモン。だとすれば私の役は十闘士・・・いや、十闘士とルーチェモンの中間ぐらいだろう。戦乱を圧倒的武力をもって終わらせオメガモンに世界を譲り、そして消える。オメガモンが三大天使と同じように十闘士の意思を継いでいることを示して消えていく。結局のところトリケラモンの言う通りだったのかもしれない。

 

・・・かつての私の役は一体誰になるのだろうか。もしもトリケラモンが生きてさえいればそんなこと悩むまでも無かったのに。

 

「いや、それではいけない・・・私が舞台を整えよう。私はそこに立つ資格は無いけれど・・・それでいいのだと今わかった。」

 

――カチリ

 

私の体の中の何かが本来あるべきところに収まり体に新たな機能――もしかしたら元からあったのかもしれないけれど――を発現する。

 

ただ宝を守るために洞窟の中に籠り続けているでだけの竜では無く何かを守るために自らが傷つくことをかえりみずに戦場へと出ていく戦士へとその姿を変貌させる。

 

「インペリアルドラモン様変身したー。」

 

「すごーい。」

 

足元の幼年期達がはしゃぎ出す。私が戦場に出たら誰かに彼らを任せなくてはいけないだろう。

 

「・・・ウォーグレイモン、メタルガルルモン。この幼年期達、頼まれてくれるか?」

 

――ドォンッ

 

右腕へと移動した砲を天に高く掲げて狼煙を上げる。

 

 

 

 

 

力で十の種族を押さえつけるのは思っていたよりも簡単で一年も必要じゃなかった。

 

成熟期も完全体も究極体も、それら数十、数百、数千、数万のデジモン達で構成された軍隊も私の装甲に皹を入れることすらできず、腕から出すポジトロンレーザーで編成は真っ二つにでき胸に砲を移動して打ち出すギガデスは一度に数千のデジモン達を蒸発させられた。

 

その事実は戦争がまともに成長する機会を奪ったことから来ているように思えてならない。

 

こうなると恐怖政治であっても十闘士が成長できたルーチェモンの時代の方が今よりもいいのではないだろうかという考えが頭を過る。

 

とにもかくにも私は十闘士の意思の実現に確実に近づきつつある。三大天使とオメガモンの対話はすでに終了しているし反乱分子もいない。後は自然な形で三大天使とオメガモンに自分が手に入れてしまった権力を受け継がせればいい。

 

全て順調に進んでいたはずだった。

 

しかし受け継がせる策を考えながら襲い来る無謀で平和を享受しようとしない愚かなデジモン達を駆逐していた時

 

「「・・・インペリアルドラモン様。もう止めましょう、やり方が強引すぎます。」」

 

多くを語らなかったためかオメガモンは私のことを勘違いしているらしく右手に砲を左手に剣を出して臨戦態勢を整えている。

 

「・・・オメガモン、私はこの世界を一つにしたいのだ。」

 

今までのことを語る時が来たのかもしれない。前から言っていた十闘士の話だけでなくトリケラモンのこともオメガモンを目にして何を思ったのか、私の全てを。

 

「「力で抑えつけることによって一つになってもそれは平和につながるとは俺達は思えません・・・」」

 

しかしオメガモンは会話を聞いてくれない。かつて相対したいろいろなデジモン達のように。

 

「・・・違う。」

 

「「どこが違うのですか!」」

 

否定の言葉をオメガモンはさらに否定して私に対して照準を定めた右腕の砲から冷気の弾を十数発ガトリング並みの速度で射出する。

 

「私はただ・・・」

 

右腕の砲から細かくレーザーを放ち冷気の弾を消し飛ばす。しかし調節を誤ったためか弾丸と相殺されず貫いてオメガモンへと襲い掛かる。

 

「「いくら平和のためであってもあなたが多くのデジモンを殺したことには何も変わりが無いじゃないですか!!」」

 

屈んで全てのレーザーを避けたオメガモンが左腕の剣を足を薙ぐように振るう。

 

その一閃は今までに出会い戦ってきたどのデジモンよりも速く鋭くそして美しかった。それこそつい見とれてしまって避けるのが遅れてしまう程に。

 

――ザシュッ

 

装甲に斬り傷が入る。今までも軽いひっかき傷ぐらいはついたことはあったがまともなダメージを負ったのはこれが初めてだった。

 

かつてエンシェントグレイモンと殴り合った時のような興奮が体の奥から湧き上がってきて不意に悟らされる。結局私達デジモンは戦いたい種族なのだと。

 

「「平和のためには力を振るってはいけない。そう言い続けてきたのはあなただった筈だ!!!」」

 

オメガモンの攻撃にはかつての自分のような綺麗で青臭い言葉が付属されてきた。

 

しかしそれは私にはもう二度と届かない。オメガモンは私にとっては敵となんとか認められるレベルにはなっているものの脅威といえるレベルには程遠い。

 

「「あなたは傲慢になってしまった!!まるでルーチェモンのように!!!」」

 

そう言われて初めてルーチェモンは世界を支配したかったわけではないんじゃないかという可能性を考えだした。そもそもルーチェモンはすでに世界を手中に入れていた。支配する理由が無い。

 

だとすればその目的は一体何なのか、あの時代、ビーストとヒューマンの小競り合いは完全には消えていなかった。しかしルーチェモンの独裁政治になったことで全ての矛先がルーチェモンに向いた。

 

そのことがあったためか今までのランクを無視する十闘士が生まれ、ルーチェモンを超えていった。十闘士は知らず知らずのうちにルーチェモンの後継者になっていたのかもしれない。もしかすると戦いを終わらせ平和的な後継者になる十闘士を生み出すためにルーチェモンは傲慢になったのかもしれない。まぁ仮にそうだったとしても世界を自分一人で何とかしようとしたのだからもともとある程度傲慢だったのだろうとは思う。

 

私は一体どうするべきなのか。十闘士のようなデジモンが出てくるまで戦い続けるべきなのだろうか。それとも、今ここでわざとオメガモンに負けて後を託すべきなのか。

 

避けながら考え私は後者を選択した。

 

反撃のためかのように隙を作り翼を斬らせて機動力を減らす。

 

近距離に詰め寄らせてギガデスが使えない状態を作り体術だけで迎撃するふりをする。

 

オメガモンの剣に右腕を砲ごと斬り飛ばさせる。

 

「「インペリアルドラモン様・・・このまま隠居してください。俺達はあなたを殺したくありません。」」

 

オメガモンの剣が首筋に突き付けられる。隠居しなければ殺すということ、傲慢な為政者の最後としては命を惜しんで逃げかえるべきだろう。

 

「わかった・・・もう世代交代のようだ。」

 

「「元々あなたが実現しようとした平和は俺達が必ず実現します・・・」」

 

戦士としての仕事は終わった。私は翼も砲も失った三本足の竜として限りなくダークエリアに近い位置へとその身を隠すことにした。これで数百年、いや、数千年にわたる平和が生み出される筈だと確信した。

 

 

 

 

 

それからオメガモンが死んだと知るまでに数千年どころか数十年もなかった。たったの数年だった。

 

しかし平和が崩れたのかといえばそうではなかった。三大天使の手によって初期のルーチェモンの時のようなレベルで保たれていた。十の種族が私に対応するために冷戦状態だったのが幸いし思想がかなり早く浸透したのが大きいと言える。平和の中でだいたいのデジモン達が成熟期、完全体に進化するまで生き延びられるようになった。

 

だがオメガモンは死んだ。

 

新時代に入ってすぐのオメガモンはまさにヒーロー、その体は異種族同士が混在できる証でその剣と砲は平和を守る力の象徴だった。

 

ただ、それもウォーグレイモンが一時でも私の元にいたこと、十闘士に選ばれた後継者で無いことが知れ渡るとそれも変わってくる。

 

オメガモンもいずれ私のような暴君へと変貌すると考えられるようになり、騎士の体に竜と獣の腕を持つ事実は神聖系のデジモンが入らないと異種族が混在することはできないと語っているも同じ、真の意味でデジモン全体が一つになるためにその存在が邪魔であると無理やりな理屈をつけられて襲われた。そしてオメガモンは絶望の中抵抗せずに殺された。

 

私は絶望した。結局デジモン達はつながるのに共通の敵を生み出すという方法を選んでしまった。ルーチェモンが自らを犠牲にして暴君を演じたのも十闘士が英雄となり全デジモンをまとめようとしたことも、結局なんら実を結ばなかった。三百年以上の時を支配した戦乱0をマイナスにしまた0に戻しただけだった。

 

デジモンという枠の中で何をやっても意味が無い。もっと上の存在、唯一絶対の主とでも呼ぶべき存在によって上から管理されなければこの世界はどうにもならないのかもしれない。

 

オメガモンに砲と腕を斬らせなければよかったと後悔した。この世界の深く、十闘士がルーチェモンを封印したダークエリアと同じだけれど別の場所にそうではないかと思われる存在がいるという話がある。かつての力があればもしかしたら空間を破壊して無理やり入り口を作れたかもしれない。

 

ここ数年一切戦っていなかったから体の内部には十分なエネルギーがたまっている、しかし竜の咢で作り出せる暗黒球には限界がある。これも限界はあるが出力を上げるためには砲が必要だった。

 

そう考えた時、ダークエリアの端、限りなくリアルワールドに近い位置に白い剣が突き刺さっているのが見えた。

 

まるで導かれているかのように戦士の姿に変形し唯一残っている左手をダークエリアに突っ込んででその柄を掴む。

 

まさに瞬間だった、瞬く間も無く剣から力が流れ込んで戦士を騎士へと書き換える。装甲と翼は清潔で神聖な白になり失った右腕も再生した。砲は再生されなかったがそれはもう問題では無かった。この剣はあの砲よりもはるかに大きな力を扱え、さらに斬るものであるという性質が砲よりも向いていた。

 

力が流れ込んですぐ私はこの剣がオメガモンそのものであると理解した。何故この形を取ったのかはわからないし知ろうとも思わない。とにかくこれで主の所に行きこの世界のもっと積極的な管理をお願いすることができるかもしれない。それだけで十分だった。

 

「オメガブレード!」

 

振り下ろした剣はダークエリアを切り裂き空間に一筋の線を入れる。

 

そこに無理やり指を突き入れ全身全霊の腕力で線を門へと変貌させて体をねじりこむ。

 

「・・・ここは。」

 

そこは氷のようなものに包まれた空間だった。

 

水色の球体一つとその台を除いて壁と床以外に何も存在していなかった。

 

【やはりこうなったか。】

 

空間にどこからともなく声が響く。

 

【愚かなルーチェモンよ。自らの身を犠牲にしたにも関わらず世界は憎悪をもって平和を維持した。】

 

それはどこから聞こえているのかわからなかったけど水色の球体から出ているとしか思えなかった。

 

【挙句の果てにこの世界の管理を自らの手で放棄しにかかった。】

 

私は思考が漏れていることが何故か当然のように思えてしまった。そしてそのことがどうしようもなくこの水色の球体が主なのだと示しているようだった。

 

【環境は初期化、デジモンは消去、新たな生物種を構築します。】

 

水色の球体から空中にスクリーンのようなものが浮かび世界のいたるところの光景が浮かび上がる。

 

だがそれは通常のものでは無く、全て何かしらデータが破損しだしていた。しかもその破損は急速に進んでいた。

 

これが環境の初期化ということなのかそうのんびり考える余裕は無かった。破損に巻き込まれたデジモンも消えだしたからだ。

 

どうすれば止まるのか、元に戻す術があるのか否か、そんなこと気にせず私は剣を振り上げていた。

 

「オメガブレードッ!!」

 

確かに水色の球体を切り裂いたと思われた剣は球体のすぐ横を通り過ぎていた。

 

【止めたければ改善策を提案するといい、かつてルーチェモンはそうした。】

 

ルーチェモンはそうした。過去にもこの世界が初期化されかけたということなのか、それともまた別の危機があったのか、どちらにしてもルーチェモンは傲慢ではあっても暴君では無かった。

 

改善策、トリケラモンが気づけたことに気づくのに二百年かかり行動を起こすのにさらに数十年かかった私が一体どうやったら思いつけるのか。

 

誰かを敵として犠牲にするのは駄目、敵がいないのだから英雄を生み出すこともできない。意識改革には時間がかかりすぎるし具体案が無い。ならば・・・

 

「・・・強力なデジモン達によって構成された組織を。」

 

ふと思いついたのは非常に簡単な解決策。力で抑えればいいという本末転倒にも思えるもの。

 

「ルーチェモンは結局個人で他にもやるべきことがあったがために小競り合いをすぐに止めに行くことができなかった。そうならないために争いを収め無くすことを専門とする組織を。」

 

結局特定の個に対する負担が大きすぎたのが問題だった。

 

「神聖の力を持ちながら神聖系の生まれで無く自らのゆるぎない正義を持ったデジモン達で構成される組織を。」

 

種族間の対立が最初の問題だった。

 

「実情はともかくあなたの名の元に行動する組織を。」

 

治めてきたのがデジモンだったから上手くいかなかった。

 

水色の球体は沈黙した。同時に世界の破損も止まった。私の案について検討しているのは明白だった。

 

【改善策を認可。イグドラシルの名の元に『ロイヤルナイツ』を組織することを決定。】

 

その声を聞き届けると体から力が抜け分解されだした。体の容量以上の力を無理に振るっていたために自壊が始まったのだ。

 

【インペリアルドラモンパラディンモードのデータを元に二体のナイツを構築。後自然に発生した聖騎士型デジモンの内適当なものを随時加える。】

 

さらに細かく分解されゆく中私は今まで出会ったデジモン達の走馬灯を見て、我に返った時には少し悲しくなると共に少し嬉しくもあった。

 

生まれ変わった彼らが見る世界は今よりずっと美しい筈だ。

 

三大天使が平和を語り、戦争の種はロイヤルナイツが早期に摘み取る。ルーチェモンが十闘士が私がトリケラモンがオメガモンが望んだ世界だ。

 

美しく無い筈が無いし平和で無い筈が無い。

 

私は安心して消えていける。

 

 

 

 

 

世界は平和になりすぎた。生まれるデジモンに死ぬデジモンの数が合わずデジモン達は年々増加していった。

 

竜騎士が世界を救ってからの最初期はよかった。長く続いた戦いのために面積当たりのデジモン数が異常なまでに減っていた。

 

しかししばらく――と言っても五千年程だが――経つと当時のデジタルワールドの容量を超え、私、イグドラシルは世界を拡張せざるを得なかった。それから二千年ごとぐらいに私はデジタルワールドを拡張し続け、管理しやすくするためサーバーを分けたりと色々な手を尽くした。

 

だが、この世界を私に管理できる限界まで拡張したにも関わらずその容量をデジモン達は今越えようとしている。そうなれば待ち受けるのは場所を巡った争いの連鎖。

 

竜騎士は言った、争いを収めなくすための組織を、と。今がまさにその時に思える。

 

空白の席の主を除く十二の騎士に伝達する。

 

【プロジェクトアークを実行する。】




ありがとうございました。


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