アインハルトさんはちっちゃくないよ!   作:立花フミ

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『全5話 - 第1話』

新暦75年。
『StrikerS』の時代、すでにアインハルトの中に、覇王の記憶があったとしたら、

「なぜ、クラウス陛下の記憶を持ちながら、あの〝ゆりかご〟の現場に駆けつけなかったのか?」
「ヴィヴィオに出会うまで、どこで、何をして、どうして連続傷害事件を起こすに至ったのか??」

日頃の考察を活かし『碧銀(アインハルト)の物語』を描く、100話アニバーサリー!!




新暦75年のアインハルトさん!

Memory;01 新暦75年

 

 

『魔法少女リリカルなのはViVid』から遡ること4年前。

 

 夏。9月。

 私――アインハルト・ストラトスが、小学2年生だったころの物語だ。

 当時、St.ヒルデとは〝別〟の教会系魔法学校に通っていた私は、その映像を見て驚いた。

 

 

『ミッドチルダ東部山中、森林地帯より浮上した巨大船は、いまだ上昇を続けています。

 同時に、第7廃棄都市区画方面から、首都クラナガンに向かって、自動機械や危険人物と見られる集団が移動中。

 周辺各地には緊急避難勧告が出されています。

 市民のみなさんは、案内放送と、管理局員の誘導に従い落ち着いて避難してください』

 

 

 臨時ニュース。男女アナウンサーの背後に、黒と黄色の空中戦艦が映し出される。

 

「わ……」

 

 まるで、映画のような光景。

 そんな、全長数キロはあろうかという巨大船に、私の目は釘づけになった。

 画面が変わり、青い衣装に身を包む赤髪のテロリストたちや自動機械が映る。

 そして、再び空中戦艦が映し出されたとき、私の全身が震えた。

 

 

「あ、あ、ああああ……」

 

 

 なんで? どうして?

 

 

「なに、これ……?」

 

 

 わからない。

 わからない。

 心の奥底。ううん、違う、もっと深い魂の奥底から溢れ出す、とめどない怒りや、悲しみといった感情。

 そして――

 

 

 赤い炎と黒煙に包まれた戦場。

 

 目の前にいるのは、紅と翠の虹彩異色をもつ金髪の女性。

 

『クラウス、今まで本当にありがとう。だけど、私は行きます』

 

『待ってくださいオリヴィエ! 勝負はまだ……!』

 

『あなたはどうか、良き王として国民とともに生きてください――』

 

 それは、遠い昔の光景。

 

 そして、大空へ飛び立つ黒と黄色の戦船。

 

 彼女を救えなかった、守れなかったことへの後悔の念が、積もり積もって数百年分。一気に私の中に流れこんでくる。

 

 

 

「いやああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!?」

 

 

 

 ――プツン。

 

 私の精神は、その感情の奔流に耐え切れず、電源を落とされたようにブラックアウトした。

 

 

       ●

 

 

 次に私が目を覚ましたとき、すでに事件は終わっていた。

 後に知ったことだが、その事件の名は『JS事件』。

 首謀者ジェイル・スカリエッティの名を冠した、管理局史上に残る都市型テロ事件だった。

 

「ここは……?」

 

 知らない天井や、知らないベッド。

 室内の風景から、幼心にも病院だとわかる。

 

「あ……」

 

 一体どれだけ眠っていたのだろう?

 随分と口の中が乾いていた。

 身体を起こすと、枕元に置かれていたペットボトルの水を一口飲んだ。

 そして、ポツリと一言。

 

 

「私も、知らない私に変わっちゃった……」

 

 

 私――ハイディ・E・S・イングヴァルトの中にもう1人。

 クラウス・G・S・イングヴァルトがいる。

 そう――私の中で、遠い昔、覇王と呼ばれた古代ベルカ戦乱期の王の記憶が目覚めていた。

 

 私のご先祖様だ……。

 

 彼の体験したことや感情を、まるで自分の記憶のように思い出せる。

 

「どこからが私の記憶で、どこからがクラウスの記憶なんだろう……?」

 

 境目がわからない。

 

 覇王(わたし)の記憶……。

 

「そうか、これが記憶継承なんだ……」

 

 私の一族には、時折、このような症状が現れることがあるという。

 話には聞いていた。

 

「でも……まさか私がなるだなんて……」

 

 髪や瞳の色といった身体的特徴は別として、記憶に関しては、覇王が男性だったことから、女性の私には起こらないであろう――と、勝手に思っていたのだ。

 

「原因はやっぱり……」

 

 あのニュース映像。

 クラウスの記憶にもあった黒と黄色の巨大船。

 

「聖王のゆりかごを見たから……あ!?」

 

 大事なことを思い出す。

 

「ゆりかごは!?」

 

 どうなったのか?

 慌てて枕元の通信端末を使い、検索する。

 空間ディスプレーに映し出された内容は、

 

「爆、破……?」

 

 まさか、あの船が落とされるなんて……。

 クラウスの記憶は否定するが、事実なのだからしょうがない。古代ベルカで無敵を誇った戦船も、現代の技術で建造された管理局の艦隊には勝てなかった――ということだ。

 けれど、

 

「誰がゆりかごを動かしたんだろう?」

 

 あの船は、鍵……いや、生贄ともいうべき適合者がいないと起動しない。

 可能性があるとしたら、

 

「聖王家の血統しかない……」

 

 数百年ぶりに、聖王家の血統と聖王核が出会い、ゆりかごを動かすに足る適合率を叩き出したのだろうか?

 だけど、

 

「事件に聖王家の人間は関わっていない……? そんなはずは……」

 

 クラウスの記憶が、私に「調べろ」とささやき続ける。

 

「うん……」

 

 退院後、私はしばらく図書館に通い詰めた。

 眠っていた間の新聞に、週刊誌のゴシップ記事からオカルト雑誌まで。

 

「変な感じ……」

 

 アインハルト(わたし)の知識がミッド語を読み、覇王(わたし)が知識が文章の意味を理解する。

 

 そこで知ったのが、事件の首謀者――広域次元犯罪者のジェイル・スカリエッティという天才技術者の名。

 彼の業績ともいうべき生命操作技術の数々。

 戦闘機人、人造魔導師、プロジェクトF、それら全てが、

 

「違法クローン……。まさかッ!? ゆりかごを動かすために、彼女のクローンが造られたのだとしたら……?」

 

 ご丁寧に、私の想像を裏づけてくれる記事も多かった。

 

「私が生まれる前――10年前に盗まれた聖骸布……?」

 

 最後のゆりかごの聖王――オリヴィエ・ゼーゲブレヒトの血が付着していたらしい。

 

「ゆりかごを動かすには、生きている聖王が必要……。逆に考えれば、生きてさえいればいいんだから……」

 

 ゆりかご起動に必要な適合者は、古代ベルカでも探すのに困難を極めたのだ。現代なら、見つけるより造った方が、遥かに確実性が高く、何より手っ取り早い。

 そもそも、わずか数年で命を燃やし尽くすような船に、誰が乗りたがるというのか……。

 けれど、

 

「もし、船を動かしていたのが、出生届けの出ていない、名もなきオリヴィエのクローンだったとしたら……?

 1人の人間として登録される前に、ゆりかごもろとも爆破された……?

 いや、ゆりかごを止めるため、突入隊に殺害されたのだとしたら……?」

 

 あの強力無比な戦船が撃墜された説明もつく。

 

「そうだ。聖王のクローンなんて、最初からいないことにされたんだ……」

 

 最初から存在しない人間の死が報道されることはない。

 そう考えれば、全て辻褄が合う。

 

「ああ……」

 

 涙が……涙が止まらない。

 私なのか、クラウスの涙なのか……。

 

 

「私は……僕は……また、オリヴィエを救えなかった……」

 

 

 ガンッ! 私は図書館の壁を何度も殴りつけていた。

 拳から血が出ても構わない。

 

 

『――あなた、何やってるのッ!?』

 

 

 制止されても、振り切って、さらに続け、たくさんの大人に押さえつけられて、ようやく私は止まった……。

 

 私は弱い、弱すぎる……。

 

 ダメだ……。こんなんじゃダメだ……。

 

 また誰も救えない。守れない。

 

 

「もう弱いのは嫌だ、嫌なんだ!」

 

 

 それは強迫観念のよう。

 かつてオリヴィエを救えなかった……守れなかった後悔の気持ち。

 私の記憶ではないのに、意識から振り払おうとしても、どうしても消すことができない。

 そんな想いが、グルグル、グルグル、と頭の中を回り続けるのだ。

 

 オリヴィエを失ったあと、全てをなげうち、武の道に打ちこんだクラウスの日々が、私の背中を殴りつけるように押す。

 

 昨日よりも今日。

 

 今日よりも明日。

 

 強くなることを強いる。

 

 

「守るべきものを守れない悲しみを、もう繰り返さないために……」

 

 

 その日から私の、たった独り、覇王の武術を身につけるトレーニングの日々が始まった。

 

 

 




「私はずっと独学(ひとり)でしたから……」

孤独な修行の日々。
アインハルトの雌伏の時代!



次回『新暦76~77年のアインハルトさん!』

で、リリカルマジカルがんばります!
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