アインハルトさんはちっちゃくないよ!   作:立花フミ

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『全5話 - 第3話』

『マリアージュ事件』を機に、アインハルトの運命が大きく動き出す!


新暦78年のアインハルトさん!

Memory;04 新暦78年

 

 

       1

 

 

 初等科5年生になった私は、相変わらず覇王流のトレーニングを続けていた。

 

 断空拳を撃てるようになったのも、この年だったと思う。

 

 そんな私に転機が訪れたのは、この年の夏――9月のこと。

 皮肉にも『JS事件』からちょうど3年目を迎えようとしていたある日の晩。

 6月から始まった『マリアージュ事件』と呼ばれる連続殺人事件。その終幕。マリンガーデンで発生した大型火災だった。

 

 

『ミッドチルダMBCニュースです。

 現場はここ、ミッド港湾地区の海上に建てられたレジャーランド――マリンガーデン。

 暗闇の中、激しい炎と黒煙が上がっています。

 営業時間が終わっているため人は少ないですが、いまだ取り残されている方たちの安否が心配されています。

 陸地とは、海底トンネル及び海上橋のみで繋がれており、避難の……あ、アクアラインを通過する救助隊の姿が見えます!』

 

 

 空間ディスプレーには、海岸線まで燃える火災の様子がはっきり映って見えた。

『JS事件』のときほど危険ではないと判断したのか、チャンネルを変えると、よりマリンガーデンに近づいて撮影するテレビ局もあった。

 

 

「あれは!?」

 

 

 消火作業や人命救助だけじゃない。

 炎の中、私と変わらない背丈の魔導師が2人、激しい戦闘を繰り広げていた。少年が槍を振るう。少女が魔法を唱える。私の手に力がこもった。

 

 今の私に、あんな戦い方ができるだろうか?

 

 そして、燃え盛る炎に照らし出され、仮面をつけた怪しい人物が浮かび上がった。見覚えがある。

 

 

「マリアージュ!?」

 

 

 間違いない。私は知っている。

 クラウスの記憶が、アレの正体を教えてくれる。

 

「古代ベルカ――ガレアの王。冥府の炎王イクスヴェリアが生み出す屍兵器……まさか、イクスヴェリアが目覚めたッ!?」

 

 クラウスが生きていた時代ですら、冥王が目覚めたのはほんのわずかな時間。直接会ったことはなかった。だから、女性ということ以外、姿形もわからない。

 

「でも、どうして……?」

 

 古代ベルカの王が、ミッドチルダで目覚めたのだろう?

 ふと、3年前の事件を思い出す。

 

「……冥王のクローン?」

 

 や、ダメだ。ありえない。

 イクスヴェリアの肉体に埋めこまれたマリアージュコアを生成するロストロギアは、クラウスの時代でもすでに失われた技術だった。

 

「唯一無二のもので、替えがきかない……」

 

 だからこそ、眠りについたあとも、イクスヴェリアはガレアで大事に守られ続けていた。

 だとすれば、

 

「本物?」

 

 わからない……。

 半信半疑のまま、リアルタイムの映像を見ていると、血だらけになった青髪の魔導師が、救助者を抱えて海上に飛び出してきた。

 

「あれは!?」

 

 チラリと見えた救助者の格好は、古いガレアの民族衣装だった。

 

「あの服は……間違いない……」

 

 冥府の炎王が、なぜマリンガーデンに、それも閉館後の施設にいたのかなんて想像もつかない。

 それでも、

 

「冥王イクスヴェリアは、生きて目覚めた……」

 

 クラウスと同じ古代ベルカの王が、現代に蘇ったのだ!

 

 

「覇王(わたし)の力を試すのに、これほど相応しい相手はいないッ!」

 

 

 空間ディスプレーの向こうで、傷ついた魔導師とイクスヴェリアは、無事、赤髪の救助隊に保護されていた。

 

 

       2

 

 

 翌日から、私は何度も管理局にイクスヴェリアについて問い合わせるが、答えはNO。まったく取り合ってもらえなかった。

 

 報道機関にも規制が入ったのか、テレビや新聞がイクスヴェリアについて触れることもない。

 

 だんだんと不安になってくる。

 

「私の見間違いだったとか……?」

 

 ただ、一部の雑誌などで、マリアージュとイクスヴェリアの関連性について取り上げられていた。

 やはりアレは、冥王だったのだろう。

 

「このままじゃ、イクスヴェリアにつながる手がかりが消えてしまう!」

 

 私はいても立ってもいられず、ミッドチルダに向かうことにした。それも、

 

「……制服で来てしまった」

 

 私が学校をサボったのは、このときが最初で最後である。

 

 事件の現場――マリンガーデンに赴くも、冥王につながる手がかりはない。

 

「どこかに保護されたんだろうけど……」

 

 あとで聞いた話によると、そのころイクスは管理局の海上隔離施設で検査を受けながら、眠りについていたという。

 もちろん、当時の私がそんなことを知る由もなく……。

 

「あとは、聖王教会本部くらいしか……」

 

 ミッド北部にあるベルカ自治領。そこに建つ聖王教会の本部が、ベルカの代表のような立場にあることは、ベルカ出身者なら誰もが知っている。

 

 けれど……通信では要領を得ない。管理局と変わらない対応。

 

「やっぱり、危険ではあるけど、直接乗りこむしかない!」

 

 覇王クラウス・G・S・イングヴァルト直系の子孫がいることは聖王教会――というより、ベルカ社会においても秘匿されてきた。

 

 決して表舞台に出ることはない。

 

 はっきりした理由はわからないのだけど、どうやらクラウスの死の真相や、オリヴィエをめぐる聖王連合や中枢王家との確執が根底にあるらしい。

 

 だから、これまで私のような記憶継承者が幾人もいたにもかかわらず、歴史学的にも貴重な覇王の記憶や、最強の古流武術ともいうべき覇王流が広まることはなかった。

 

 レアスキルで有名な教会騎士カリム・グラシアでさえ、覇王の血統の存在を知らないだろう。

 

「着いた……聖王教会本部……」

 

 幸い――とでもいうべきか、教会系の学校に通っているため、修学旅行で訪れたばかりだ。

 道順はよく覚えている。

 

 切り立った崖に囲まれた伝統ある教会は、建物を含めた景観にも恵まれ、参拝だけでなく単純な観光目的で訪れる人も多い。

 

「冥王の、居場所に関するヒントだけでも手に入れば……」

 

 迷子になったフリをして、修学旅行では入らなかった教会の奥へと進んでいく。

 

「訊くなら、やっぱりおしゃべりそうな人がいいんだろうけど……」

 

 よくわからない。

 

 あまりウロウロしていたら、教会騎士団に怪しまれるかもしれない。

 とりあえず、教会の庭で見かけた年若いシスターを選んで質問する。

 

「あの、陛下にお会いしたいのですが……」

 

「あー、えっと、その制服。もしかして、陛下のお友達?」

 

「いえ、友達というほどではないのですが、先日のマリンガーデンの火災で、マリアージュとイクスヴェリア陛下のお姿が見えたもので……」

 

「マリアージュとイクスヴェリア陛下ねぇ…………って、ああああ!? 聖王陛下のことじゃなくてェェ!?」

 

「え? 聖王、陛下……??」

 

「あー、ゴメン、なんでもないよー」

 

 聖王教会で陛下といえば、聖王陛下。特に、最後のゆりかごの聖王が人気だ。

 私が気をつかい冥王イクスヴェリアを〝陛下〟と略したのが悪かった。勘違いされたのだ。そこまではいい。

 

 けれど、友達……聖王陛下の友達とは……?

 

 まるで、今現在も生きているかのよう……。

 

 生きている?

 

 聖王が?

 

 オリヴィエが?

 

 まさか……。まさか……。

 

 3年前。『JS事件』。複製体。

 

 バカな私でもわかる。

 

 到達する答えは、ただ1つ。

 

 

「ここに、あのときの聖王陛下がいらっしゃるんですか!?」

 

 

「あー、うん。ここは聖王教会だからね。聖王様は絵画や像だけでなく、みんなの心の中に――」

 

 

「そうじゃなくて、オリヴィエのクローンが!」

 

 

「しーっ」

 

 シスターが人差し指を唇に当てる。

 

「声が大きいよ」

 

「す、すみません!」

 

「あのね、君は色々と詳しく知ってそうだから、先に教えておくと、ここには聖王陛下も、冥王陛下もいないから」

 

「でしたらどこに!?」

 

「はぁ~。言うと思う? 秘密だよ。たまーに、君のように訊いてくる人がいるんだけど、そんなこと答えられると思うかい?」

 

「それは……」

 

「だいたいね、今の陛下と昔の陛下は別人。まだ子供なんだよ」

 

「子供……?」

 

「しまった。あー、今のはオフレコね。とにかく、過去はどうあれ、今を普通に生きてる子供の居場所なんて教えられないってこと!」

 

「ですが!」

 

「君もしつこいね。誰に頼まれたのか知らないけど、君だって、もし自分に何か秘密があったとして、それをベラベラ他人にしゃべられたいと思う?」

 

「それは……」

 

 私も同じだ。

 

 覇王の血統に関しては、うかつに話すことができない。

 

「…………」

 

「えっと、理解してくれたのかな?」

 

「……はい、理解しました」

 

 シスターが「よし」と頷く。

 

「ところで、君の着ている制服なんだけどさ」

 

「あ……」

 

 身元を知られるのはまずい。

 

「し、失礼しましたぁぁ!」

 

 私はおとなしく引き下がると、急いで教会本部から飛び出した。

 

「はあ……はあ……イクスヴェリアの居場所はわからなかったけど……」

 

 良かった。ここに来て本当に良かった。

 

 だって……だって……。

 

 生きていた。

 

 生きていた。

 

 亡くなったとばかり思っていたオリヴィエのクローンが生きていたのだ。それだけでうれしい。

 涙が溢れる。

 けれど、

 

「クローンだというなら、覇王(わたし)のことも覚えていないんだろうな……」

 

 いくら外見が似ていても、まったくの別人。

 

 強いのか、弱いのかもわからない。

 

 それでも、覇王(わたし)の強さを証明するために、避けては通れない相手。

 

「全ては、この覇王(わたし)が、オリヴィエに負けたことから始まったのだから……」

 

 彼女に勝たなければ、クラウスの長い旅は終わらない。新たな一歩も踏み出せない。

 

「でも……」

 

 クローンとはいえ、ゆりかごを動かした聖王。魔力補助コア――聖王核を持つのだろう。

 

 長い眠りについていたとはいえ、戦乱のベルカを生き抜いた冥府の炎王。そして、彼女が生み出すマリアージュの軍団。

 

「私に勝てるだろうか……?」

 

 覇王(わたし)はまた、彼女に負けてしまうかもしれない。冥王にもだ。

 

 マリンガーデンの戦闘を眺めてわかった。

 

「私には圧倒的に実戦経験が少ない……」

 

 どれだけ肉体が頑強で、どれだけ覇王の記憶や感情があろうとも、私――アインハルト・ストラトスの心は弱い。

 

「もっと戦いの経験を積まないと……」

 

 動物相手ではない。人間相手の戦闘訓練だ。

 

 クラウスは己を鍛え上げたあと、戦場で名だたるベルカの騎士たちと戦うことで経験を積み、強さに磨きをかけていった。

 

「現代なら、管理局の高ランク魔導師を相手にするとか……?」

 

 悪くない考えのように思えたが、

 

「どこで戦えばいいんだろう……? 襲いかかるとか……?」

 

 いやいやいや。捕まったら終わりだ。

 

「だったら他に……」

 

 手持ち無沙汰になり見ていたテレビに、昨今のストライクアーツ人気を受け、夜のミッドでストリート・ファイトに興じる少年少女の姿が映った。

 

「これだ!」

 

 有名でも無名でも構わない。本当に強いと言われている魔導師や格闘系の実力者に、街頭試合を申しこむのだ。

 軽く検索しただけでも、多くの試合動画や実力者のプロフィールが見つかる。

 ここから選んでいけばいい。

 

「あとは、どうやって聖王と冥王を捜すかだけど……」

 

 クローンとはいえ、再びオリヴィエと拳を交えることができる。さらに、あの冥王イクスヴェリアとも……。

 私は恵まれている。

 

「これが、数百年ぶりに巡ってきた、クラウスの悲願を叶える、最初で最後のチャンスかもしれないんだ……」

 

 これまで、ずっと隠されてきた覇王の血統。

 だけど、

 

 

「覇王(わたし)が、覇王(これまでの記憶継承者たち)に縛られてどうするッ!」

 

 

 この機会を逃してはならない。

 

「今こそ、覇王イングヴァルトの名を名乗ろう!」

 

 名乗り、勝ち続ければ、向こうから接触してくるかもしれない。

 

「接触してこなければ、鍛え上げた拳で覇王(わたし)から会いに行くまで」

 

 ただ……。

 

「そう、ちょくちょくミッドに行くわけには……」

 

 ちょっと遠いのだ。ミッドチルダは。

 

「夜に試合をするとして……ううっ、門限が……」

 

 現在の住居から通うのは現実的ではない。

 

 しかも、来年からは中学生……。

 

「そうだ……中学だ。進学先に、ミッドにある同じ教会系の学校を選べば……」

 

 確か、聖王教会本部に近い、有名な魔法学校があったはず。

 

 名高いシスターや教会騎士の多くが、そこの出身だと聞いたことがある。

 

「上手く行けば、2人の情報だって手に入るかも……」

 

 そして何より、一人暮らしをすれば、時間を気にすることなく鍛えることができる。

 

 

 私は、小学校卒業と共に、故郷と親元から離れることを決意した。

 

 

 




『碧銀(アインハルト)の物語』と『鮮烈(ヴィヴィオ)の物語』を繋ぐ、決戦前夜!


次回『新暦79年~現在のアインハルトさん!』

で、リリカルマジカルがんばります!
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