一体、何が、どうなってるのぉぉ!?
『Force』1巻の教会で出会ったのは、15歳の少年トーマ・アヴェニールではなく、9歳の少女とーま・ナカジマだった。
当然、身長は低く、わたしとどっこいどっこい(いや、決してわたしが低いと言っているわけではないよ?)。
髪色や長さはトーマと同じ(トーマと同じとか言うとややこしいけど)、茶色のショートヘア。あー、でも若干トーマより長いかな。左側頭部で短い髪を結んでるし。
なんだろう、あくまで想像なんだけど、スバルさんが、彼女を膝の上に乗せて、
『あたしはベリーショートばっかだから、とーまはあたしの憧れのなのはさんみたいにしよーね』
とか言って、髪型をショートサイドテールにしてみた感じ。
男子時代の名残(名残とかいうとまたややこしいけど)なのか、やたらと元気いっぱいといった感じで、尻尾をブンブン振るわんこのように、はちきれんばかりの笑顔を浮かべている。その幼女声にも張りがある。
「あたしがとーまだな!」
だな、とか言われても~。
ん~、そうか、わかった! この子、どことなく『私に天使が舞い降りた!』のひなたちゃんに似てるんだ! って、
「わたしの知ってるトーマと全然違うよぉぉ!?」
頭を抱えると、オーバーリアクションで天を仰ぐ。
すると、
「あたし、違うんだ……」
「あれ~?」
とーま、というか、とーまちゃんは、急にやる気を貧ちゃん神さんにでも吸い取られたかのように、虚ろな瞳で肩を落とした。
「ううっ……ぐすっ……」
「待って待って、泣かないで、ね?」
むぅ……これまでリリカルなのはには、わたしより年下キャラが登場しなかったから、こういうときの対処に困る。
クロも、魔女っ子の金髪ロリキャラに見えて、実はアインハルトさんより1つ年上だったりするからなあ~。
『ViVid』4巻の初登場時に『ファビア・クロゼルグ(13)』って書いてあったので、まず間違いないだろう。
逆に『ViVid Strike! 設定資料集』でクロの年齢が書いてないのは、その辺りの事情かもしれない。
と・に・か・く!
ここは全身全霊を傾けて、9歳少女をなだめねば~。
いつか、みんなの前で披露しようと思っていた宴会芸が役に立つ。
決してアクア様の花鳥風月ではない。
「プラプラ様、わたしに力を!」
朝食のパンをもらってくると、お尻に挟んで、右手の指を鼻の穴にいれて、左手でストライクアーツをしながら、
「い……いのちをだいじに~」
と叫ぶ。
ちなみに、どんな感じでやっているのか「どうしても見てみたい!」という方は、
『リリカルなのは ヴィヴィオ BJ交換シリーズ』で画像検索してみてください。
前回もちょこっと触れた、わたしがフェイトママの真ソニックフォームの格好をしているイラストが、ツインテを含めて、とてもよく似ているので……。
ちなみに、元ネタは『グルグル いのちをだいじに』で検索してもらえれば、すぐわかります。
「アホですな」
言われた、言われたよ、魔法陣グルグルがない世界なのに!
それも9歳少女に!
わたしは泣き止んだとーまに声をかける。
「えっと、ごめんね、人違いしちゃって。わたしが捜していたのは、もっとこう身長が高くて、そもそも男の子で、えっと、まだ先の話になるんだけど、悪役っぽい、黒くて赤い紋様が浮き出ちゃうような人だから、とーまちゃんとはまったくの別人なのだよ~」
「?」
教会の床板にくっつきそうな勢いで、とーまが頭を傾けていく。
たぶん、意味わかんなかっただろうけど、勢いでどうにかしようと思っていたら、予想外の答えが返ってきた。
「その声……ひょっとしてヴィヴィ姉? ヴィヴィ姉ちゃんだよね!」
「ヴィヴィ姉……?」
みゃー姉ってこと!?
いや、違くて、ヴィヴィオ――わたしのことだろう。
わたしの知っているトーマ・アヴェニールは『Force』2巻で、
『スゥちゃんに助けてもらって、ティアさんやアーちゃんお姉達に会えて――』
なんてことを言っていた。
これはスバルさんが、ギンガさんのことを『おねーちゃん』や『ギン姉』と呼ぶ影響を受けたのだろうと思う。だから、目の前の〝とーま・ナカジマ〟も同様。スバルさんの影響を受けたのかもしれない。
そして、現在9歳のとーまは、この世界のわたしより3つ年下になる。
よって、わたしはとーまのお姉ちゃん的ポジションの1人になり、結果的に『ヴィヴィ姉』や『ヴィヴィ姉ちゃん』と呼ばれるようになったのだろう。
もちろん、とーまが100パーセントこの世界のトーマ・アヴェニールであるという確証はない。
それでも、この世界のわたしと面識があるのは確か。
そうなると、下手にわたしがヴィヴィオだと認めるわけにもいかない。
これ以上、未来のわたしに迷惑がかからないようにしないとだからだ。
昨日はいっぱいやらかしたしなあ~。
自重しないと。
「わたしとヴィヴィ姉ちゃんって人は別人だよ? ほら、髪型も違うし、バイザーもつけてるし」
「でも、声は一緒だぞ?」
「一緒って、似てるだけだよ~」
「ん~、完全に一致してるぞ?」
「完全にと言われても~」
アレか、中の人のせいか、わたしを演じてるときの水橋かおりさんの声に特徴がありすぎて、一発で身バレしたような感じか。
わたしのミスではない。水橋かおりさんのせいということで……。
とーまちゃんがポンと手を叩いた。
「そうだ! そのバイザーを取ってくれればすぐにわかるぞ」
それはわたしが困る。
「……実はね、この黒いバイザー、呪いのアイテムなんだよ」
「呪いのアイテム?」
「そう。いわくつきの一品でね、聖王や冥王に喧嘩を売らないと外せないの」
「聖王や冥王に……それは大変だな。でも、だったらちょうどいいぞ。シスターのおばちゃん、次元通信でつなげたいところがあるんだけど!」
「はいはい」
すっかり存在を忘れていた老シスターが、受付の向こうで優しく微笑んだ。
「あ」
そうだった!
教会なら保護区内でも次元間通信が使えるんだった……って、
「通信できるなら、どうしてさっき電信絵葉書なんて送ったの!? 直接スバルさんと話すとか、メール送ればいいのに!」
「ん~、だって、ただのメールより電信絵葉書の方が趣あるだろ?」
趣っ!?
いとをかしだよっ!?
でも、それって画像つきメールや映像通信とどう違うのだろう? ハリポタで見たような動く写真だろうか。ホログラム写真。確かに、アレはアレで風情があってちょっといいかもだけど~。
「おっ、つながったぞヴィヴィ姉!」
「だからヴィヴィ姉じゃないと~」
あ。
鏡ではない。今のわたしのように黒いリボンのツインテールではなく、黒いバイザーもつけていない高町ヴィヴィオの姿が、空間ディスプレーに映っていた。
朝っぱらから元気にジャージを着ているのは、単にランニング中だったのか、それともミッドとの時差の関係なのか……。
「ヴィヴィ姉ひさしぶりだな!」
『あー、トーマ、久しぶりー。確か、まだ一人旅の途中だったよね。どうしたの?』
「さっき、ヴィヴィ姉ちゃんにナンパされたからなー」
『わたしナンパなんてしてないよ……って、あぁぁ! 昨日のそっくりさん!? どうしてとーまと一緒にいるのっ!?』
「あー、そのぅ、色々ありまして~」
なんだろう、この状況~。
すると、突然向こうのわたしが身を乗り出した。
『あああああっ!? そのバイザー、ど、どうしてあなたがつけてるの!?』
「あ~、天地に覇を成す為の覇王バイザーのこと? これなら、昨日、偶然見つけちゃって」
『ど、どこで見つけて――』
流石わたし。食いついてきた――と思ったら、もっとグリーンな大物が釣れた。横で映像をのぞいていたのだろう。未来のわたしを押しのけて現れる。
『な、な、なんてものつけてるんですか、ヴィヴィオさぁぁ~~~んっっ!?』
黒歴史。
『わたしならここにいますよっ!?』
『いえ、画面の向こうのヴィヴィオさんのことです!』
「はっはー、別人ですよ、別人。ハイディさん」
『どうしてあなたがその名前を知ってるんですかぁぁ!?』
アインハルトさんの真名。
「わたしは何も知りませんよ、あなたが知っているんです、阿良々木……じゃなくてアインハルト先輩」
ちょっと、忍野扇ちゃん風に言ってみたところで、わたしはとーまを振り返る。
「それはそれとして、これでわたしが高町ヴィヴィオとは別人だとわかってもらえたと思うんだけど」
『思えませんよっ!?』
「弱い王ならこの手で屠るまでぇぇ~」
断空拳ポーズでチョップ! チョップ!
『ふにゃああああああ~~~っ!?』
『魔法少女リリカルなのは コミックアラカルト ~スターライトパーティー編~』で成し得なかったティオとのユニゾンを果たしたかのように、アインハルトさんが「にゃーにゃー」暴れだす。
「この、安全圏からアインハルトさんをからかう楽しさよ~」
『ちょっと可愛いかもだけど、やめてわたしぃぃ!?』
わたし×2とアインハルトさんのやり取りを眺めていたとーまちゃんが「う~ん」と唸った。
「うん、わかったぞ! こっちのヴィヴィ姉ちゃんとあっちのヴィヴィ姉ちゃんは別人だな」
『どこをどう見たらそんな結論にぃぃ!?』
画面の向こうで、アインハルトさんを羽交い締めにしているわたしが突っこんだ。
流石はスバルさん。
中々なアホの子を生み出してくれたようだ……。
「だって、こっちのヴィヴィ姉は身長が1・5センチ低いからな。いくらヴィヴィ姉がちっちゃくても、背が縮むなんてないぞ。これじゃ去年のヴィヴィ姉とおんなじだ」
うぐっ。
1・5センチ……だと……。
「ちょ、なんで全然伸びてないのぉぉ!?」
『それ、わたしのせいじゃないよぉぉ!?』
わたしと未来のわたしが同時に両手両膝を地面につけた。
互いに責任をなすりつけあう。
というか、
「『それ、なんてキャロさんっ!?』」
なんかもう、ハモっていた。
わたしたちは誰に成長成分を吸い取られているのだろう……。
コロナかっ!?
「それで、こっちのヴィヴィ姉はどうしてあたしを捜してたんだ?」
「だからヴィヴィ姉じゃないと~」
「おう、そうだったな!」
「はあ。一度見てみたかっただけで、深い意味はないというか、最初に言ったけど、人違いだったんだよ。わたしが捜してたトーマは男性だから」
「そーなのか? そっかー、残念だな。せっかく旅の仲間――ヴィヴィ姉ちゃんと一緒に観光できると思ったのに」
しょんぼり顔。
やばい。ちょっと可愛いかも。
こちらの世界のわたしも同じように感じたのか、2人で見合って「えへへ~」と頷きあう。
みゃー姉は、花ちゃん以外にももっと目を向けないとダメだよねぇ~。
『ヴィヴィオさん、浮気はいけませんよ、浮気は』
「『し、しませんよぉぉ!?』」
再びハモった。
「それじゃ、あたしそろそろ出発するから。今日は鉱山遺跡で宝探しと写真撮影をする予定だからなー」
「『あ、はーい。いってらっしゃい、とーま。気をつけてね~』」
わたしと映像先のわたしが手を振る。やっぱり動きがシンクロしていた。
老シスターたちと見送ったあと、未来のわたしが尋ねてくる。
『えっと去年のわたし――じゃなかった、V2さん。やっぱりその格好ってフェイトママの……』
ん~、もうこうなったら認めちゃってもいいような気がするけど、ここは『ViVid LIFE』のアインハルトさんを見習って、一世一代の大芝居を演じてみよう。
軽く深呼吸。
この世界のヴィヴィオをじっと見つめてからの――ジャンピング土下座ぁぁ!
「ごめんね、ヴィヴィオ! なのはママ、特務六課に合流する前に、変身魔法でフェイトちゃんの格好したヴィヴィオに変装して、エクリプス感染者が出そうなところを、事前に調査してたんだよー」
『え? ええええええええええええええええええええええええ!? なのはママぁぁ!?』
驚いている隙に――プツン。展開していた空間ディスプレーを閉じた。
「ふう~、危ない危ない……」
未来のなのはママ、あとはよろしく~。
『魔法戦記リリカルなのはForce』1巻の巻末に載っていた第0話。出張前のなのはママとわたしのやり取りが、1ページ増えることだろう。
「えっと……閉じてしまってよかったのかしら?」
老シスターが眉をひそめた。
「はい。そうですね~、ちょっとした姉妹喧嘩みたいなものですから」
「そう? だったらいいのだけど……。ところで、さっき次元通信していた相手って……あの瞳の色……」
おおっと~。
そういえば、教会、教会、言ってるけど、実はここ、聖王教会系列だったりする。
1巻のアイシスの台詞に、
『聖王教会の建物はどこの世界でも変わらないねえ』
とあることからも、わかってもらえると思う。
ルヴェラで生まれた土着信仰の教会ではないのだ。だからこそ、文化保護区内なのに次元通信などの規制された先進技術が置かれているのである。
そういえば、この老シスターって、明後日には殺されるんだよなあ~。
いい人そうなのに……。
教会内部は破壊され、他のシスターたちも皆殺しにされる……。
だったら……、
「えっと、今から伝える内容は、わたしの言葉ではなく、聖王の神託として、疑うことなく信じて欲しいんですが――」
【次回予告】
トーマが女の子って……もはやわたしの知ってる『Force』とは全然違うよ!? そういえば過去改変で性別が変わった作品があったような……。ま、まさか、誰かが過去にDメールを送ったとかぁぁ!? ゲルバナ、ゲルバナなのぉぉ!? 次回までに電話レンジ(仮)を用意しないとぉぉ!?
とぅ、トゥットゥルー♪
早く来て、バイト戦士ぃぃ!
次回【この世界が『Force』だとわたしだけが知っている】第8話。
【幼女戦記リリカルとーまっ!】
で、リリカルマジカルがんばります!
どうして、とーまが女の子で9歳なのか、ひなたっぽい外見なのか、『Force』のストーリーはどうなるのか?
などの疑問については、一応次回、説明が入ります。
恐ろしいことに理由があります。
なぜなにプレシアです。
ええ、別に「趣味だから」という理由だけではないですよ(笑)。
また、ヴィヴィオが『Force』の歴史改変を行いますが、それがいいことなのか? 悪いことなのか? 結果はどうなるのかも、次回明らかになります。
それはそれとして、『わたてん』は乃愛ちゃん派でした(もう前々期のアニメになりますが)。
別に、ヴィヴィオと同じ金髪少女だからではないです(笑)。
初登場時はちょっとうざかったのですが、何だかんだで、みゃー姉の最も良き理解者であり、色々とお察しして、最も周囲に気を使っていたキャラだったなと。
あと、寝相の悪いひなたのせいで死にそうになってたり……。
なんかもう、お疲れ様ですと。敬意ですね(笑)。