『シュトロゼック4th』であるリリィの姉妹機――ともいうべきリアクター『シュトロゼック5th』。
「ロザリア!? そっか、ロザリア……ロザリアかあ……すっかり忘れてたけど、ロザリア……」
『あら、知っている名前なの?』
「うん」
それは、わたしがこの『Force』の並行世界に来る前。
アインハルトさんと「キャッキャウフフ」していたころ(願望)の物語。
●
ミッドチルダのナカジマジムで、わたしがフラフラ練習していると、まだ胸が膨らんでいないころのコロナが近寄ってきた。
「どうしたのヴィヴィオ、目の下にクマができてるよ?」
「うん、ちょっと遅くまでマンガを読んでて……」
「もう~、ダメだよ、リオじゃあるまいし」
「ごめんなさーい」
「ちょ、勝手にディスるなぁぁ! ――ふんがっ!?」
リング上でアインハルトさんとスパーリングしていたリオが、ツッコミに気を取られていいパンチをもらっていた。
ああ、あれはしばらく立ち上がれないなあ~。
とはいえ、いつものことなので、わたしとコロナは華麗にスルー。会話を再開する。
「それで、何のマンガを読んでたの?」
「えっとね、乙女ゲーのライバルキャラに生まれ変わって、バッドエンドを回避しようとするやつ」
「あ~、最近多いよね。悪役令嬢モノだっけ?」
「そうそう」
元々は、ネット小説で流行り始めたジャンルらしい。
庶民出身で、真面目で一生懸命な主人公(メインヒロイン)に対し、お金、権力、美貌、全てを兼ね備えた貴族のお嬢様。主人公の少女に対して意地悪を繰り返したあげく、ラストは大逆転をくらい、全てを失うバッドエンド。
ちなみに主人公の少女は、イケメンの王子様と結ばれる。
もっともわかりやすい例でいえば、シンデレラの意地悪な継母や姉たちだろうか。
ちなみに、初期のシンデレラでは、継母や姉たちは鳩に目を突かれて失明し、両足を切断されてしまうらしい――とんでもないバッドエンドだ!
つまり、そういったエンディングを迎えないように、生まれ変わった悪役令嬢で、転生前の知識を使い孤軍奮闘するのだけど――これがまた面白い。
これが男性向けなら、異世界転生したあと圧倒的なスキルで激しいバトルを繰り広げるのだけど、そういった戦闘シーンは一切ない。
意外と地味に、ちょっとずつ、周囲の高感度を上げていったり、バッドエンドからスタートして、主人公の少女を見返してやったり、逆に仲良くなってみたり、作品ごとに違うのだけど、未来を変えようとするその姿勢は、一風変わった異世界転生モノとして、男性が読んでも楽しめると思う。
ちなみに一番好きなのは『乙女ゲームの破滅フラグしか無い悪役令嬢に転生してしまった…』なのだが……土魔法いいよね、土魔法!
土の魔力を高めるために畑を耕してみるという、意味のない行為もまた面白い。
「ヴィヴィオ、よっぽど気に入ったんだね」
「あはは、うちはほら、一戦交えたあと『お話し』することが多いから」
「あ~、だったらさ、かなり古いゲームだけど、主人公のヒロインとお嬢様のライバルキャラ、そのどちらかを選んでプレイできる乙女ゲーがあったんだけど……」
「え、そんなのあったの?」
「うん。『アンジェリーク デュエット』っていうゲーム」
「あー、『アンジェリーク』なら知ってるよ! 有名なゲームだよね。女性向け恋愛ゲームの、記念すべき元祖!」
リリカルなのはでいえば、魔法少女の元祖なわけだから、『魔法使いサリー』に当たる作品だ。
ちなみに、サリーちゃんの原作は、あの横山光輝先生なわけで、魔法少女と三国志とメカ(鉄人28号やジャイアントロボ)――など、一見ジャンルがバラバラなようでいて、実は昔から共通性のある、普遍的な、作品群だったりする。
ちなみに、例の『バビル2世』も横山光輝先生なわけで……なんてこったい。
つまり、SDガンダム三国伝(三国志+メカ)やリリカルなのは(魔法少女+メカ)など(ついでに言えば『Force』)の下地は、すでに50年以上前から出来上がっていたんだよぉぉ! な、なんだって~。
「『アンジェリーク』ってシリーズがいっぱい出てるでしょ? だから、どれからプレイしたらいいのかわかんないんだよねぇ……」
「う~ん、それはヴィヴィオに自分で調べてもらうとして、何年か前にね、初代のリメイク版が発売されたんだよ」
「お~、流石は人気作品」
「ただ、それだとライバルキャラでのプレイはできなくて……」
「あ~、それで古い方の『アンジェリーク デュエット』なんだ――」
というわけで、その日の晩。
赤髪の、我らがコーチ、憤る。
ごーしちご。
「――で、どうしてうちでゲーム大会になってるんだよッ!?」
「ノーヴェのマンションなら、お泊まり会の許可も出やすいし、みんなで泊まれるしね、気兼ねなく」
「「「「お世話になりまーす!」」」」
わたし、リオコロ、アインハルトさん――チームナカジマ初期メンバーの4人が頭を下げる。
「くっ……」
「ヴィヴィさん、ハルさん、それに、リオさん、コロさんも、今日はゆっくりしてってください」
と、6人分の飲み物を運んできたフーカさん。もう、すっかり我が家といった感じだ。
「いや、フーカ、そんな自然に対応して、おかしいだろ」
「ですが会長、夕食までごちそうしておいて、もうこんな時間ですし、いまさら帰れもないと思うんじゃが……」
「……まあ、そうなんだけどな。はあ……ま、いっか。どーせお前らのことだから、もう家に連絡は――」
「「「してありまーす!」」」
「だと思った」
わたしたちとノーヴェのやり取りを聞いて、アインハルトさんがクスクス笑っている。わたしたちの覇王様は一人暮らしなので、連絡する必要がないのだ。
「まっ、あたしも乙女ゲーなんて話だけで、実際みたことなかったし、いいんだけどな。つーか、うちでゲームしてるやつなんて、ウェンディくらいだったんだよなあ。あたしはまったく手を出さなかったし」
「ノーヴェはいつも忙しくしてたしねぇ……」
「まーな。体を動かす方が好きだったから」
「でも、チンクはスマホゲーで魔法少女ものをやってたような……」
こっそり。
「……チンク姉~」
今となっては、チンクの眼帯が中二病のアレにしか見えないのはわたしだけだろうか?
チンクの誕生日には、ぜひ長いマフラーをプレゼントしようと思う。
そんなわけで、早速ゲーム開始。
『アンジェリーク デュエット』を起動させると、オープニングともいうべき映像が流れる。
いかにも庶民的で元気な女の子といった金髪のアンジェリーク。
友人とのお茶会。いかにも貴族の令嬢といった青髪のロザリア(もちろん縦ロールである)。
「なるほど~。この2人のどちらかを選んでプレイできるんだ」
「普通は、初めてプレイするならアンジェリークの方なんだろうけどね」
「おや? ヴィヴィオさんは、こちらのヴィヴィオさん似の金髪の女の子を選ぶのでは?」
「いえいえ、今日のわたしは悪役令嬢モードですのでぇぇ!」
当然、ロザリア一択である。
まずは名前入力。
最近のRPGや男性向け美少女ゲームと違い、乙女ゲーはデフォルトで名前が決まっていても、ちゃんと自由に変更が可能な作品が多いのだ。
「えっと……ヴィクトーリア……」
「おいおい、やめてやれよ。……気持ちはわかるけどな」
「えへへ、冗談だって」
今ごろ、お屋敷でくしゃみをしているかもしれない。
ヴィクターさん以外、特に名前が思いつかなかったので、デフォルトのロザリアと入力。
次に、星座と血液型を決める。
「コロナ~。これ、何かゲームに関係するの?」
「えっと、攻略相手との相性に関係してくるよ」
「ふ~ん。じゃあ、先に攻略したい男子……男子? 守護星様を選んでから決めた方がいいってことか……」
ちなみにこの守護星様。9人いて、宇宙を構成する光や闇、炎といった力を司る存在らしい。
ただの人間ではない、ということだ。
「どの守護星様も、それぞれ個性があって、うん、基本をしっかり押さえたというか、どれか1人は気に入ったキャラがいそうな」
初代ときめきメモリアルもそうだったけど、どちらも古い作品ながらキャラクターの完成度が高い。だからこそ、今に引き継がれ、語り継がれているのだろうけど。
「ヴィヴィオさんは、どのキャラクターが好みなんですか?」
「う~ん、あんまり考えたことなかったから、これといっていないよーな。アインハルトさんはどーですか?」
「いえ、わたしも別に。リオさんは?」
「あたし? あたしは……そうだなあ……速水奨にテラ子安にカミーユにラウ・ル・クルーゼ……熱気バサラ……」
「うん、声で決めるのやめよーね」
「それも一つの決め方だとは思うよ?」
確かに、好みの声優さんで決めるのも、アリといえばアリなのか……。というか、古いゲームだけあって、声優さんが大御所ばかり。
「守護星の声が豪華だね」
「リメイク版でも、1人をのぞいて、全員同じキャストを揃えてたんだよ」
そりゃスゴい。
というか、その変更でさえ『塩沢兼人さん → 田中秀幸さん』という大御所から大御所。
新キャラ以外、若手の声優さんは誰もいない!
リメイクのこだわりが凄すぎる!
ちなみに、わたしが選んだライバルキャラのロザリアにいたっては、あの三石琴乃さんである。
月野うさぎやミサトさん、今ではのび太ママのお嬢様ボイスと考えると、なんとも震えがくる。
「とりあえず、初期アインハルトさんみたいに陰のある闇の守護星クラヴィスで」
「初期アインハルトって何なんですかぁぁ!?」
「いや~、もう最近じゃすっかりネタキャラになってしまいましたが、『ViVid』2巻の頭くらいまでのアインハルトさん?」
「でもさー、ヴィヴィオ、それって……」
「だいたいヴィヴィオさんのせいですよねぇぇ!?」
「……言われてみると、そんな気がしないでもないような……うん、なかったことにしよー」
そんなこんなでゲームスタート。
ここで、わたしはようやく『アンジェリーク』というゲームのストーリーを知る。
ただ、カッコイイ守護星様と恋愛するだけのゲームと思いきや、
「宇宙を司る女王の力が衰えて、世界が滅びようとしている。そんな世界を救うため、女王の後継者候補として選ばれたのがアンジェリークとロザリアの2人……って、そんな壮大なバックボーンがあったのぉぉ!?」
世界滅亡の危機。スパロボも真っ青なストーリーである。
「乙女ゲー、スゴい……」
そして、2人のうち、どちらが新しい女王に相応しいかのテストとして〝大陸の育成〟を行うという……。
「シムシティどころかシムアースというか、なにこれ天地創造?」
ゲームシステムも、よくあるテキストアドベンチャーではなく、シミュレーションゲーム。発売元が信長の野望などのコーエーだった影響もあるのだろう。
最も、男性向けであっても、初期の美少女ゲームは育成シミュレーションが多かったけど。
「う~ん、元々SFCのゲームだけあって、アクトレイザーのシミュレーションパートみたいな世界の画面が……」
「アクトレイザー……?」
アインハルトさんにはサッパリだが、世界を上から見下ろしたあの感じ。
見ろ、人がゴミのようだぁぁ!
まあ、人は描写されてない、建物だけだけど。
「何というか、乙女ゲーというわりに、乙女ゲーから最もかけ離れたようなゲームだねぇ……」
というか、これ、乙女ゲーと言っていいのだろうか?
最も知名度のある乙女ゲームのシリーズなのに、その初代は、最も乙女ゲーっぽくない、むしろ、その辺のギャルゲーより、よっぽどSFな、男性向けの世界設定だったりする。
「まあ、まだゲーム本編が始まってないから」
こうして、ロザリアの女王候補としての日々が始まったわけなのだけど……。
「つまり、ライバルである主人公アンジェリークよりも、大陸を発展させつつ、お目当ての守護星様とデートして仲良くなっていけばいいの?」
「うん、まあ、そんな感じかな」
チュートリアルでいくつかの施設を回り、占いの館とやらにやってくる。
ここは早乙女好雄……じゃなかった、守護星様との好感度を見ることができる場所……だけかと思ったら、
「ん? おまじない……? 守護星との相性をよくできるってことは、わざわざ相手を誘ってデートとかする必要性がないってこと??」
「えっとね、このゲームでは『親密度』と『相性』っていう2つの数値があるの。実際に会って、デートをすると『親密度』が上がり、この占いの館でおまじないをすると『相性』が上がるんだよ」
「なるほどー……って、イマイチ違いがわからないんだけど」
「例えば……そうだなあ、あくまで表面的だけど、なのはさんとヴィータさん。ヴィータさんが嫌がっているように、相性は低いけど、いつも仕事で一緒にいる2人の親密度は高い」
「えっと、つまり、わたしとアインハルトさんが、どれだけ前世のご縁で最初から相性が良くても、出会ったばかりのころは塩対応。親密度はゼロだった――みたいな?」
「そうそう、そんな感じ」
「私も納得しました」
「そーいえば、ノーヴェともそんな感じだったよねぇ……」
「うっ」
「フーカさんも、ちょっと前まではリンネさんと相性MAXでも、親密度が地を這うレベルまで落ちてましたよね」
「ヴィヴィさん、それは~、そうなんじゃが~」
「でも、今ではすっかり回復している。つまりゲーム内でも、相性さえ良ければ、親密度も上昇しやすい――という作りになってるんだよ」
納得しました。
恋愛に関して、好感度以外の数値がある、というのは、当時のゲームとしては斬新だったのではないだろうか?
いや、そもそも、あまり見たことがないシステムだ。
面白い。
「この世界にも占いの館があれば便利なのになあ……」
「なにノーヴェ、気になる人でもいるの?」
「いや、おまじないするだけで、協会のうるさいおっさんと相性がよくなるんだろ?」
「あ~」
切実だった。
とりあえず先に進めることにする。
「……って、ねぇコロナ。このおまじないで相性を上げられる中に、ライバルのアンジェリークがいるんだけど?」
唯一の女性キャラ。男性の中に1人だけ女の子が混じっている。
「あ、本当だね」
「……よし、別に守護星様なんてどーでもいいから、アンジェリークとの相性だけを上げよう」
「それ、ゲームの趣旨と違うよぉぉ!?」
「いいの! 説明書にだって『恋と友情も大切に』って書いてあるし!」
というわけで、基本、平日は守護星様に、大陸の育成をお願いしつつ、占いの館ではアンジェリークとの相性アップに勤しむ日々。
そして週末。
本来なら、お気に入りの守護星様とデートをするための日なのだけど、ここはひたすらアンジェリークの部屋を訪ねて談笑。親密度を上げる作戦。
「アンジェ……かわいいよ、アンジェ……」
「ヴィヴィオ、なんだかおかしなことになってるってぇぇ!?」
「いや、絶対ロザリアだって内心ではこう思ってるって!」
だって、こっちはもう大陸に7つも建物が建っているというのに、アンジェリークの大陸なんて、まだ1つも建っていないんだよ?
アホな子だよ?
でも、それがいい。
「コロナだって、リオがアホな子だから仲良くなったんでしょ?」
「それは……そうなんだけど……」
「わたしもそうだけどー」
「あれ? あたし今、ディスられてる?」
「リオさん、私は違いますからねっ!」
「とにかく、アンジェリークは天真爛漫なまま、毎日、守護星様とのお話を楽しんでくれればいいんだよ!
大陸育成なんて面倒くさいお仕事は、わたくしがやっておきますからー。
ヴィクターさんがジークさんを構いたくなる気持ちがよくわかるー」
とかなんとか叫んでいたら、
「おや?」
アンジェリークの妨害(守護星にお願いするとできる)により、ロザリアの大陸から建物が消えてしまう。
「アンジェェ!?
いやぁぁ! わたしのアンジェが妨害だなんて、アンジェリークはそんな腹黒いことやらないのぉぉ!
ロード! ロード!」
「ちょ、ヴィヴィオー!?」
などということを繰り返しつつ、月1の定期審査では、アンジェリークが忘れていそうだからという理由で迎えに行ってあげるロザリア。
「なんというか、オカンだよね……」
「ヴィクター……」
「「「「ヴィクターさん……」」」」
やっぱり、今ごろくしゃみをしているだろう。
「それにしても、毎朝訪ねてくる守護星様はどうにかならないのかな? どう考えても、わたしがアンジェのもとへ行くのを邪魔しにきてるとしか……」
「もはや違うゲームだよねっ!?」
そんなことをしているうちに、親密度と相性はMAXに。これ以上おまじないをしたところで、もう数値は上がらない。
また、いくらパラメータが上がっても、アンジェリークとデートできるわけでもない。
「コロナ……わたし、どうしたらいいの?」
「普通に、守護星と仲良くなればいいんじゃないかな」
「どーして男子と?」
「それもう、乙女ゲーの意味ないよねぇぇ!?」
ちなみにこのアンジェリークだが、同じ場所で2回連続で話しかけると、
『まだいたんだ』
と、中々に冷たいお言葉で返される。
「でも、そんなアンジェが好き。ねぇ、コロナ。どうしてドSアンジェとデートできないのぉぉ!?」
「ドSじゃないから! ていうか、そーいうゲームじゃないからぁぁ!」
●
『――で、結局どうなったのよ?』
「うん。大陸育成の役に立つみたいだから、仕方なく、他の守護星様との親密度や相性を上げてたら、ヤキモチでも焼いたのか、アンジェリークからロザリアを訪ねてきてくれたの。それで、アンジェと楽しくお茶会。
その後は、ぽこぽこ定期的にアンジェリークとのイベントが発生して、友情イベントは終了。
エンディングでは、無事、大陸育成を終えたロザリアが新しい女王になって、アンジェリークが補佐官になりたいと言い出して、仲良く女王エンディング。
ロザリアが陛下で、ライバルが補佐官という、まさにヴィヴィオENDでした~」
『それ、なんてギャルゲー?』
「いいの! はあ、ナカジマジムでの日々か……何もかもみな懐かしい……」
『ひょっとしてヴィヴィオ、あなた、ヤマトネタがやりたかっただけなんじゃ……?』
「うっ」
そんなわけで、わたしたちの戦いは、まだまだこれからだぁぁ!