今回もちょっと毛色の違うお話になっています。
「――というわけで、恵方巻きを食べましょうか?」
豆まきを終えて帰宅すると、わたしたちはフェイトママが事前に用意した、お手製の恵方巻きに手を伸ばした。
すると、なのはママが神妙な顔つきになった。
「このフェイトちゃんお手製の恵方巻きなんだけど……」
「なんだけど……?」
やけに緊張感ある物言いだ。
「たぶん、管理局に持っていったら高値で取り引きされるんだろうなぁ」
わたしとフェイトママは椅子からずり落ちた。
「待った待った。ナニソレなのはママ?」
「いや~、フェイトちゃん局でも大人気だからね。フェイトちゃんお手製――とか言ったら、こう、オークションみたいな感じで値上がっていくんだよ」
「ホントにぃ~?」
「いやいや、そんなことないから」
フェイトママが否定するも、
「いやいやいや、去年のチョコ争奪戦とかなんてもう、ね、阿鼻叫喚だったじゃない」
「なにその抱き枕カバーみたいな惨状……」
黒い恵方巻きが、だんだん金の延べ棒に見えてきたんですけど……。
あ。
「でも、そんなこと言い出したら、なのはママだって人気あるんじゃないの?」
美人度ならいい勝負のはず。
「ん~、私の場合『ちからのたね』とか『まもりのたね』とか『まりょくのたね』みたいな扱いだから……」
ステータスアップ!?
「それ、逆に超欲しいんですけど……」
魔導師なら誰もが欲しがる夢のアイテムだ。
「まあ、ほら、私って時々作って持っていくでしょ?」
「ああ、そういえば……」
差し入れ――と言って教導先に作って持っていく。だから、フェイトママほど珍しくはないのだ。
「例えばなんだけど、ヴィータちゃんが、
『別に、お前のために作ったんじゃないからな!』
とか言って、作ってくれたりなんかしたらもう、ね」
王道ツンデレではあるが、そこがいい。
「「きゃぁぁ~!」」
盛り上がるわたしとなのはママを見て、フェイトママが苦笑している。
「ヴィヴィオはどう?」
「そうだなぁ~、わたしとしてはアインハルトさんに、ダークマターみたいなやつを作ってきて欲しいんだけど……」
「あ~、わかるわかる。アインハルトちゃんが止めるのも聞かず、ヴィヴィオが無理やり食べて、
『見た目は悪いけど、美味しいですよ』
みたいに答える作戦でしょ?」
「「きゃぁぁぁ~~!!」」
この母娘は――みたいな感じで、フェイトママが呆れ返っている。
「そういえばなのはママ」
「なあに?」
「フェイトママって、わたしたちぐらいの時って、料理の腕前はどうだったの?」
なのはママも、マズい料理を「美味しい美味しい」と言いながら食べたのだろうか?
「ん~、フェイトちゃん、何でもできたからなぁ。むしろ、私の方が味つけ担当とは名ばかりの試食担当だったような……」
「そっかぁ~、フェイトママ、わかってないよね」
「だね~」
「えええ、私が悪いの!?」
「悪い」
「悪いね」
「えぇぇ~」
「アインハルトさんみたいに、食べたら空破断食らっちゃうような料理を作らないと」
「いや……まだ、アインハルトが料理ベタと決まったわけじゃ……」
まあ、こういうときは大抵――『実は上手でした~』みたいなオチがつくものだけど。
バレンタインが今から楽しみだ。
フェイトママが「ハァ~」と嘆息する。
「そっか、なのはもヴィヴィオも、私のおいっしぃ~恵方巻きはいらないんだ……うん、わかった」
恵方巻きの乗った皿をサッと取り下げる。
「ちょ、ちょ~~っと待ったぁぁ~、そんなことないから、ね、ね、フェイトちゃん!」
「そ、そうだよ、フェイトママ! マズい料理より美味しい料理の方がいいに決まってるよ!」
自然と声が重なる。
「「フェイトちゃん/ママの料理サイッコー!!」」
「2人とも調子いいんだから」
やれやれ――といった顔つきでフェイトママが笑う。
「ゴメンね、フェイトちゃん」
「ごめんなさい、フェイトママ」
「それでは、許してあげましょう」
お皿が帰ってきた。
こうして、今度こそフェイトママの恵方巻きを食べることになったのだけど、
「そういえば、今年の恵方ってどっちだっけ?」
「北北西だね」
わたしは北北西を向こうとして、
「ん~、この場合ミッドの北北西でいいの? それとも地球基準なの?」
「えっと……どうなんだろ、知ってるフェイトちゃん?」
「さあ、私もちょっと……」
地球生まれ地球育ちの意地があるのか、なのはママが唸った。
「そもそも恵方とは、吉方とも書いて、吉の方角なわけで、歳徳神がいる方位が縁起がいいと……でも、地球の神様がミッドにいるかと問われると、それはそれで謎なわけで、だけど神様というくらいだから、全次元共通に存在しているかもしれないわけで……」
「あ~、うん、もう平気だから」
このまま脳内が集束したら、なのはママがスターライトブレイカーをぶっ放すかもしれない。
「要は、縁起のいい方角を向いて食べればいんだよね。だったら……わたしはフェイトママの方を向いて食べまーす」
「え?」
「なるほど、それはいいアイディア。じゃ、私も今日はフェイトちゃんの方を向いて食べまーす」
「ええええ、なのはまでぇぇ!?」
赤くなってキョロキョロしていたフェイトママだったが……ついに、
「だったら、私だってなのはとヴィヴィオの方を向いて食べまーす!」
モグモグと栗鼠みたいで可愛い。
2人のママが、今年も健康でありますように……。
●
後日。
恵方巻きの話をはやてさんにすると、意外な答えが返ってきた。
「それ、結構当たっとるかもなぁ~」
「どういうことですか?」
「歳神様。つまり暦や方位を司る歳徳神を、クシナダヒメと同一視する見方があるんやけど……」
「クシナダヒメ……ってヤマタノオロチ退治の?」
「そうや。櫛名田比売。奇稲田姫。ドラクエ3のジパングに碧奇魂ブルーシード。
ヤマタノオロチとのバトルの際、変身魔法で櫛に変えられて、アクセサリー扱いの装備アイテムになるから『櫛・奇(クシ)』はいいとして『名田・稲田(ナダ)』はどっからきたと思う?」
「田んぼに豊穣をもたらす女神だから?」
「そやな。クシナダヒメは縁結びの他に、本来は農耕神としての側面をもつ。
土属性に水属性や。
ところが、日本神話には、クシナダヒメに属性イベントが一切ない。
民俗学的にいうと、人身供犠や異類婚姻譚なんかに分類されるんやけど、あくまでメタファー。
名前に『田んぼ』と入っているなら、もっとシンプルに、最初から属性を身に着けとると考えるべきなんやないか。
仲魔の初期スキルとして。
つまり、クシナダヒメの外見が『田んぼ・稲』みたいやったんやないか――という説やな」
「田や稲みたいだった……?」
「そう。長い髪がな、稲穂みたいに風に揺れる金髪やった――というクシナダヒメ金髪碧眼説やぁぁ!」
「なにその『きんいろモザイク』!?」
「ヤマタノオロチもクシナダヒメも神話――とする一方で、もっと現実的に……まあ、ファンタジー要素がないんやけど、洪水や製鉄文化と結びつける傾向は結構強い。
だとしたら、クシナダヒメも現実的に考えるべきやろ?
そもそも製鉄は、技術も、材料も、全て中国から入ってきたものや。
当然、技術者たちも一緒にやってきた。
もしかしたら、最初は逃げ延びてきた王族なんかと一緒に入ってきたのかもしれへん。
その中に、金髪碧眼の姫さんが混じっとったとしてもおかしくはない」
「いやいや、おかしいでしょ! 金髪武将なんて無双シリーズくらいだよ!?」
「現実的に考えて、シルクロードはキングダムの時代からあって、古代ローマ帝国と東西交易を行っていたわけや。
当然、人の行き来もあったと考える方が自然やな。
そこから、日本にやってきた一族がおったとしたら……。
ちなみに、三国志の孫権は青い瞳だった――という話もある」
「う、う~ん……」
「まあ、あくまで可能性の話や。
古代の日本に、そんな稲穂みたいな髪をした女性がおったら、豊穣を祈願する巫女さんとして崇められても、おかしくはない。奪い合いが起こってもおかしくないレベルでな。
つまり――」
「つまり?」
「現代日本の金髪への憧れは、古代から連綿と受け継がれる、遺伝子に刻み込まれた、日本人の魂みたいなもんなんやぁぁ――っ!」
「な、なんだってー!?」
「だから、恵方巻きをフェイトちゃんの方を向いて食べるのは――ヴィヴィオもやけど――意外と正解なのかもって。
ま、信じるか信じないかは、ヴィヴィオ次第やけどな」
「う、う~ん……」
信じるほどじゃないけど、まあ、ロマンはあるかなぁ~、と思う。
「とりあえず、来年の節分はうちもみんなでフェイトちゃんを拝みに行こかな」
フェイトママが恥ずかしがって逃げ出す光景が目に浮かぶ。
「あはは……でも、金髪でいいならシャマル先生でもいいんじゃ」
「……あ~、うちにもシャマルがおったか……でも、パワースポットとしてはフェイトちゃんの方がありがたみが……」
「あ~」
わかるような、わかっちゃいけないような……。
そんなわけで、来年の節分も楽しくなりそうです。
2連発で、何故か節分大プッシュ(もう終わったけど)!
スーパーなどでバレンタインコーナーばかりデカイのを見ていると、節分を応援したくなります。
恵方巻きはバカ売れしてましたが……。
とかいって、次回はバレンタインネタなんですけどね。
やっぱり恋愛ネタは鉄板だし書きたくなる……あ~、だからバレンタインデーの方が盛り上がるのか……。
ひとりで勝手に納得。
ちなみに、本文中の『クシナダヒメ金髪碧眼説』は、たぶん『きんいろモザイク』を読みながら書いちゃったせいではないかと反省しております。
金髪とこけしの波動が……。
フェイトちゃんといい、ヴィヴィオといい、実はなのはも金髪好きなのだろうか……。そういやアリサも……。
あと、『逆転ミウラ裁判!』の続きは、バレンタイン回の次に書きます。
もし、待っていた人がいたらごめんなさい。