注文の多い高町家から、インポッシブルなお返しを要求されたユーノ・スクライア無限書庫司書長。
来るべきホワイトデーに向け、黒っぽい親友(?)提督と一緒に、にミッドチルダの繁華街を、フェレットモードで駆け抜けるっ!!
話は2月14日――バレンタインデーにまで遡る。
帰宅後。
わたしたち高町家3人娘は、チョコレートを手に、時空管理局本局内部の無限書庫を訪れていた。
目的はもちろん、
「ユーノ君。私、ホワイトデーはこの新しいオーブンレンジでいいから」
なのはママが、星のように眩しい笑顔で最新家電の載った雑誌を手渡した。
「ちょ!?」
「もう~、ダメだよなのは。ユーノが困ってるじゃない……」
「あ、あはは、助かったよフェイト」
「私はこのカタログの新車で――」
「フオォォォォ!?」
まるで、クロノ提督のエターナルコフィンでも食らったかのように、ユーノ司書長が凍結する。
わたしは駆け寄ると、
「大丈夫ですか、司書長?」
「あ、あぁ……ヴィヴィオ……うん、ボクなら平気だから」
精一杯の笑顔。
「よかったぁ~。じゃ、これ、ジムのみんなの分のチョコです。それと、こっちのメモに欲しい物リストが書いてあるんで、よろしくお願いしま~す!」
「ギャアアアム!!」
そんなユーノ司書長の肩に、ポン――と置かれた優しく小さな手。
「アルフ……」
「これ、あたしの分のチョコだから。ホワイトデーよろしくぅ~」
「ヴェアアアアアアア!?」
と、まあ、バリアブレイクされちゃったような出来事がありましたとさ。
●
時は流れ――3月某日。
ホワイトデー直前の休日。
ミッドチルダ中央の繁華街に、2人の男性の姿があった。
フェレットみたいな眼鏡の優男が、黒ジャケットコーデの男性に話しかける。
「おい、クロノ……」
「なんだ、ユーノ……」
「お前の妹は、なんつーお返しを要求してくれてるんだよっ!?」
「知るか」
「お前だって責任感じて来てくれたんだろっ!」
「いや、違うぞ? 僕も、ちょうどそろそろ用意しなくちゃいけないかな、と思っていただけで」
「……まあ、いいけどさ。1人で選ぶのも大変だし」
「それには同感だな。3人寄ればトリプルブレイカー――とも言うしな」
「ボクとお前、2人しかいないけどね……って、おいクロノ、あそこに立っているのって……」
まるで川の中州。この人混みが嘘のようにぽっかり空いた路上で、存在感のあるたくましい獣人が、人気スイーツ専門店が集まるビルを見上げていた。
「「ザフィーラ!?」」
獣耳の男性がゆっくり振り返る。
「ユーノ・スクライアにクロノ・ハラオウンか……」
「こんなところで会うなんて奇遇……というか一体何を?」
「ああ、ホワイトデーのお返しを買いにな」
「ザフィーラが!?」
「君にしては珍しいな。これまで買ったことなんてないんじゃないか?」
「ああ――」
基本、犬だと思われているので、チョコをもらうことが少ないのだ。もらっても、はやてさんがクッキーなどを焼いてお返ししてしまう。
「それがどうして?」
「実は、道場の教え子たちからチョコをもらってしまってな」
「「あ~」」
納得である。
八神家道場――とはいっても、実質ザフィーラの道場。であれば、はやてさんではなくザフィーラがお返しを用意する――というのが筋というものだろう。
流石の盾の守護獣も、子供たちの笑顔には勝てないのだ。
「――それで買いに来たのだが、どこで、何を買ったらいいのかわからなくてな」
シャマルメモはあるのだけど、聞いたことのないお店ばかり。どうにか現地まで来たものの、自分と周囲の雰囲気の違いに、戸惑っていたらしい。
クロノさんが小さく嘆息した。
「まず、その格好がマズいだろ」
「そうなのか? 私としては、ブランドスイーツとやらを買うのに普段着ではマズいと思い、騎士服を着てきたのだが……」
確かに正式な服装ではあるのだけど、手の甲を覆う銀のガントレットといい、今にも戦いに赴きそうな格好だ。
「シグナムやヴィータだって、普段はもっとラフな格好をしているだろ?」
「……一理ある。トレーニングウェアでよかったということか」
「いや、それもちょっと……」
基本、狼フォームのザフィーラは、衣服に対する優先順位が低いのだ。
ユーノ司書長が柔らかい笑みを浮かべる。
「まあ、しょうがないよね。ボクだって普段はこんなところに来ないし。服装にこだわらなくていい無限書庫や遺跡の中の方が、よっぽど気が楽だよ」
「あと、フェレットの時とかな」
「そうそう――って、お前はまたそういうことを……って、ん、んんっ? あ、ああっ! そっか、それだよクロノっ!!」
突然、ユーノ司書長の全身が緑の魔力光に包まれる。
「久しぶりのフェレットモードで見参!」
「いきなりどうした? やっぱり、そっちが本性だったのか」
「ちっがーう! ザフィーラも子犬フォームになって、クロノの使い魔――ということにして店に入ればいいんだよ」
ザフィーラは感心した表情で、フンフン頷いている。
「クロノも別にいいだろ?」
「構わないが……」
「何だよ?」
「いや、アリだな、と思ってさ。それに小動物を連れていると女性にモテるしな、僕にとっても悪くない」
「おーい、エイミィさんとフェイトに連絡するぞー」
「そんなことをしたら、君のフェレット時の悪行を本にして無限書庫に寄贈するけどな」
「悪行とか言うなよぉぉ!?」
フェレットと人間の取っ組み合いを横目に、ザフィーラも久しぶりの子犬フォーム。
「――では、よろしく頼む」
●
まずは、ザフィーラの分の限定スイーツを購入。一旦、店の外に出る。
「まさか、こんなにオマケしてもらえるなんて……」
クロノ提督が驚きのあまりよろけた。
「だから、小動物に姿を変えてマスコットになれば、シャワーシーンでハブられることもないって言っただろ?」
「そんなこと言ったか? 誰かと間違えているんじゃ――」
店の外に出ると、また、どこか見覚えのある背中が、キョロキョロ不審な動きを繰り返している。
「あの赤髪って……」
「ああ、エリオだ。お~い、エリオ~っ!」
赤いツンツン髪の少年が振り返る。
「え? あっ、クロノさんっ!? どうしてここに。それに、子犬フォームのザフィーラさんに、えっと、そっちのフェレットは……もしかしてユーノ先生ですかぁぁ!?」
若き竜騎士は目を丸くしている。
「はは、そういえばこの姿で会うのって初めてだったりするのかな?」
「はい、初めてです。顔だけフェレット――とかはありましたけど」
「あはは、あったね~、そういうのも」
六課時代のイベントだ。
「なんていうか、フェレットモードのユーノ先生って、いつもより気配が自然体に感じられますね」
「ユーノはこっちが本性だからな」
「ええっ、そうなんですかぁぁ!?」
「ちっがーう! クロノ、お前は何度言えばわかるんだよ!!」
「何だ、ユーノ・スクライア。お前は高町なのはの使い魔ではなかったのか?」
「ザフィーラまでぇぇ!?」
そんな、鉄板のやり取りを繰り返したところで、エリオが首を傾げた。
「珍しい組み合わせだとは思うんですけど、みなさん集まって何を?」
クロノさんが、代表してホワイトデーの話を切り出すと、エリオは「みなさんもでしたか!」と、安堵の表情を浮かべた。
「実は、キャロにいつもと違うお返しをしようと思ったんですが、何を買ったらいいか迷ってしまって……」
「キャロなら何でも喜びそうだけどね」
「本心はわからない、だろ? 何をあげても喜ぶだろう――なんて考えるところが男性の浅はかさなんだよ」
「ううっ……お前そういうとこホント豆だよな……」
「ま、そんなダメな男どもでも、4人もそろえば少しくらいは役立つだろ。どうだいエリオ、僕らと一緒に行くか?」
「いいんですかっ!?」
「ああ。僕にとっても君とキャロは、甥と姪みたいなものだからね」
フェイトママの息子なら、自然とそういう関係性になるのだろう。
「そういやそうだったなぁ~」
「なのはの使い魔だった君も、ある意味そういう関係なんだぞ?」
「もう突っこむのも面倒なんだけど、確かにそうかもなぁ~」
わたしとの関係性も同様だ。
「それで、キャロへのお返し――一応、何か考えてはいるんだろ?」
「はい。クッキーとかじゃなくて、アクセサリーの類にしようかなって」
「ああ、いいんじゃないか。ホワイトデー限定のペアネックレスやペアリング辺りがオススメだな」
「おまっ、本当に詳しいよな、そういうの……まあ、こういう時は頼りがいがあるけどさ……」
「洋服もいいぞ?」
ザフィーラが、早速さっきの反省を活かしている。
「あ~、それもいいんですよね! キャロ、大人っぽい服が欲しい――みたいなことも言ってたんで」
キャロの気持ちもわからないではない。
いつもルールーに「チビっ子、チビっ子」とからかわれているからだ。
「まあ、あとは実際に見て回るしかないだろうな。エリオの予算もある。足りなかったら僕が出してもいい」
「ああ、その時はボクも協力するよ」
「私も構わない」
エリオは「みなさんありがとうございます!」と、頭を下げた。
「となると、だ。どうせエリオ、君も使ったり食べたりするんだろ? 僕からは入浴剤とスイーツどっちがいい?」
「あ、ボクにも教えてもらえるかな」
「私も頼む」
みんな被らないですむ。
「はい。でしたら、フェイトさんやなのはさん、それにはやてさんたちの分も、協力して考えませんか?」
「それはいいかもな」
「だったら、ミウラとヴィヴィオの分も頼んでいいか?」
すると、ユーノ司書長がひとり眉間にシワを寄せた。
「あ、あれっ? ちょっと待ってよみんな。なのはのとこも、スイーツで済ませるつもりなの??」
今度は、逆にクロノさんが眉根を寄せた。
「なんだ、あまり高価な代物だと、却って気を使わせるぞ?」
「そうなんだけど、そうじゃないっていうか――」
ユーノ司書長は「これを見て」と、鞄から雑誌やカタログを取り出した。
「こっちがなのはで、こっちがフェイト、それでこのメモがヴィヴィオからのリクエストなんだけど……」
「おいおい、いくらなんでも、こんな大物だなんて聞いてないぞ。どうしてこんなことに……」
「それはこっちの台詞だって!? お前の妹なんて新車だぞ、新車っ! っていうか、どうしてボクばっかりこんなスゴいお返しになってるんだよぉぉ――っ!!?」
クロノさんが考える目をして、
「使い魔だからとか?」
「ちっがーう!」
「……いえ、それもあながち間違いではないかもしれませんよ?」
「エリオまでぇぇ――っ!?」
エリオが慌てて手を左右に振った。
「そういうことじゃなくて、実際に使い魔ではなくても、ユーノ先生は、なのはさんたちにとって、それくらい気心が知れた仲、気を使わないでいい相手――ってことじゃないでしょうか?」
「冗談を言い合えるほど親しい間柄――ということか」
「はい、そうです、ザフィーラさん!」
「……そ、そう言われると、悪い気はしないし、ちょっと……いや、かなり嬉しいような……。でも、なのはの場合、冗談なんだか本気なんだかわからない時があるんだよね」
「確かにな~。それに、このオーブンレンジって、冗談で口にしたとしても、なのはが本気で欲しい家電なんじゃないか?」
「やっぱり、クロノもそう思う?」
「だが、わかりやすくはある。下手に悩む必要がない」
ザフィーラ的にはアリらしい。
「それは、そうなんだけど……」
「でも、そんな風に欲しい物を素直に言ってもらえると、僕らも楽ですよね」
エリオが少しだけ羨ましそうに呟いた。
「だったら、こういうのはどうだ?」
●
3月14日――ホワイトデー。
ナカジマジムに、珍しい4人組が訪れていた。
「ユーノ司書長にクロノ提督、それとザフィーラにエリオまで、一体どうしたの?」
さらに、
「私たちまで呼ばれたんだけど……」
「お兄ちゃん、何かあったの?」
なのはママとフェイトママまで。
ある意味、かなり豪華なメンバーだ。
コロナやリオはまだしも、ジムのみんなが緊張してしまうのは無理もない。
ユーノ司書長が、眼鏡をキランと輝かせて叫ぶ。
「ヴィヴィオ、これがボクたち4人のホワイトデーのお返しだぁぁ! ザフィーラ!」
「おおう――」
わたしたちが学校に通っている間に搬入したのだろう。白い布をはがすと、下からトレーニングマシンが4台も姿を現した。
「ええええぇぇ! まさか、ホントに買ってくれたんですかぁぁ――っ!!?」
「しかもこれ、ちゃんとした業務用ですよっ!?」
ミウラさんも驚いている。
「流石に新品とはいかなかったけどね」
「近々、廃艦予定の船があったから、払い下げてもらったのさ。新進気鋭、U15ワールドチャンピオンのいるナカジマジムだ――って話したら、喜んで手続きしてくれたよ」
「中古品とはいえ本局で使っていたマシンですから、正直、僕のいる自然保護隊で使っているやつよりいいやつですよ」
エリオが苦笑している。
「いいの、クロノ君?」
「もちろん。これまでだって大手ジムに払い下げしたことはあったしね」
「だったら、せめて代金だけでも――」
ジムの責任者としては心苦しかったのだろう。しかし、そんなノーヴェの台詞を遮ったのはザフィーラだった。
「ミウラも世話になっているしな。これからも、うちの教え子たちが成長し、世話になることがあるかもしれん」
「それは……」
「むしろ、うっかり口にしてしまい、ヴィータの一枚噛ませろという申し出を断る方が大変だった」
「あはは」
それは大変そうだ。ヴィータさんがガミガミとザフィーラに文句を言う様子が目に浮かぶ。すると、
「師匠――」
ミウラさんが「ありがとうございますっ!」と言って抱きついた。
いつもと変わらない表情のザフィーラだけど、尻尾がブンブン左右に揺れているのは内緒にしておこう。
「それで、なのはの分がコレね――」
ユーノ司書長が「どっこいしょ」と、ダンボールを取り出した。
「えぇぇ~、ウソぉぉ!? 本当にオーブンレンジ買って来てくれたのぉぉ~っ!!?」
「まあ、たまにはね。というか、4人もそろうと、下手な限定スイーツ買うよりも安くついたりして」
「さっすがユーノ君っ!!」
なのはママが勢いよく抱きついた瞬間、ピカッ――とフェレットに変身する。
流石はユーノ司書長。
わかってるなぁ~。
「やっぱり、なのはの使い魔でいいんじゃないか?」
「だから違うって言ってるだろぉぉっ!?」
「にゃははぁ~」
ユーノ司書長とクロノ提督のやり取りに笑いが起きる。
残すはあとひとり。
全員の視線がフェイトママに集まった。
「えっ、えっ!? もしかして本当に私の新車まで――」
「って、フェイトママ新車なんて頼んでたのぉぉ――っ!?」
そっちの方が驚きだ。
ジムの中がざわつく。
フェイトママって、何気にカッコイイ――デザインのいい自動車を選ぶから、高いんだよね~。
すると、エリオが苦虫を噛み潰したような顔で、
「その、僕はプレゼントしたかったんですが……」
フェレットの司書長が、喧嘩していたクロノさんの頭に素早く駆け上がった。
1人と1匹は、仲良く両手をクロスする。
「それは流石に」
「絶対ムリっ!」
「え~」
みなさん、ホワイトデーは実現可能な範囲内にしときましょうね。
誰得かさっぱりわからない男性回。
バレンタインデー。友チョコをプレゼントし合った場合、ホワイトデーにはお返しをしないそうなので(言われてみたら確かに)、こんなことに……。
とはいえ、たまにはこういうのもアリかもしれません。
普段、登場しないキャラを出せたので。
そんなわけで、クロノ・ハラオウン。
書き終えてから気づいたんですが、何気に登場したことなかったような……。
もっと、何度も書いている気がしたので、自分でも意外でした。
そうして考えると、男性キャラでもザフィーラの出番は多い。
『ViVid』本編でも、ザフィーラだけは要所々々で登場しますし、ザフィーラさん、やっぱり使いやすいキャラクターなのかな――と、思います。