アインハルトさんはちっちゃくないよ!   作:立花フミ

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油断大敵。

ある日のジムの帰り道。
突然、羽交い締めにされたヴィヴィオは、暗い路地裏に引きずり込まれる。

少女に突きつけられた犯人の要求とは……!?



高町家に10人ヴィータがいる

 ある日のジム帰り。

 少し暗くなった住宅街をひとりで歩いていると、

 

 

 ――ガッ!

 

 

 わたしは背後から口を塞がれ、とんでもない膂力で路地裏に引きずりこまれた。

 

「うう~っ!?」

「こらっ! 暴れるな!」

「パンツが脱がせにくいだろうが?」

「ちっがーう! あたしは阿良々木暦じゃねぇぇ!」

「――って、その声は……PS……Vitaさんじゃないですか!」

「読み方として間違っちゃいないんだが、あたしの名字はPSじゃねぇ」

「PSをプレイステーションって呼ぶと長いので、わたしとしてはピーエスと呼びたくなるんですが?」

「そこは同意してやってもいいが、あたしの名前とは関係ねー」

「それでVitaさん、どうしてこんなことを……?」

「いや、ちょっと待てヴィヴィオ。文章で読んでるやつは、もうVitaでいいか――ってな雰囲気だが、お前ラテン語読みで〝ウィータ〟って呼んでるだろーがっ! 濁点が足りねぇんだよ、濁点が!」

「失礼。噛みました」

「まったく噛んでねぇぇ!」

「ウィータで画像検索すると、雑貨屋かヴァンガードのカードしか出てきませんしね」

 

《元気の魔法(マジカルチャージ)ウィータ》――バミューダ△のマーメイドである。

 

「まあ、あんまり変わらんよーな気もするが……じゃなくてだな」

「わかっています。ヴィータで画像検索すると、まだまだあたしがトップだぜ――みたいなことを言いたいんですよね?」

「……あー、うん、話、戻していいか?」

「Wii」

 

 閑話休題。

 改めてヴィータさんを見ると、口には白いマスク。真っ赤なトレンチコートに、スパイっぽいソフト帽を身に着けている。

 まるで、季節外れのサンタクロースみたいな格好で取り出したのは、プレゼントではなく意外な言葉だった。

 

 

「一度しか言わねぇ……いいかヴィヴィオ、あたしに大人モードを教えろぉぉッ!!」

 

 

「ええええええええええッ!?」

 

 

 とんでもないことになってきましたよ~。

 

 

     ●

 

 

 頭をかきながら、

 

「簡単に説明すっとだな、毎年春先、海鳴に住んでるじーちゃんばーちゃんの所に顔を出してたんだが……。

 今年は、はやてたちと時間の都合が合わなくてな、明日、あたしだけ先にひとりで行くことになった――ってわけだ」

「なるほど~」

 

 わたしはピンときた。

 

「ヴィータさん成長しないから、お爺ちゃんお婆ちゃんが心配すると?」

「そーいうこった。去年までは、何だかんだでシャマルだったりはやてだったりが変身魔法で調整してくれてたんだが、今年はひとりだからな」

 

 ヴィータさんひとりでやってやれないわけではないけど、慣れない魔法はどうしても安定感にかけるという。

 

「それで……ん?」

 

 ふと、疑問に思う。

 

「それなら、ミウラさんに教わればよかったんじゃないですか? わざわざわたしのところに来なくても、ミウラさんの性格なら、喜んで教えてくれたと思いますけど」

「……そこは察しろ。なんつーか、教え子に頭を下げるってのもな」

 

 ヴィータさんは頬を赤らめた。

 恥ずかしい――ということか。

 プライドの問題なのだろう。

 

「それに……」

 

 今度は眉をひそめる。

 

「なんつーか、あいつの大人モードってあんま成長しないだろ」

「あ~」

 

 納得しました。

 

「わっかりました。わたしが大人モードを教えれば、ヴィータさんもバインバインになれますからね!」

「マジかッ!?」

「はい、マジです。ひょっとしたらシャマルさんどころか、シグナムさんよりもバインバインになれますよォォ!」

 

 ヴィータさんが「うおおおおッ!」と拳を突き上げる。

 

「じーちゃん、ばーちゃん、あたし立派に育ったぞぉぉ――っ!!」

 

 

「――話は聞かせてもらったぁぁ!」

 

 

 夜空から、凛としつつも愛嬌のある声が聞こえてくる。

 

「だ、誰だッ!?」

 

 月を背に、ゆっくりと舞い降りる大魔王――じゃなかった、

 

「なのはママぁぁ!?」

「なのはだとぉぉ!?」

 

 ちなみに、わたしたちの位置からだとパンツ見えてます。

 ママ~、もうちょっと気にしようね。

 

「てめー、どうしてここにいやがる!」

「そりゃもちろん、ヴィータちゃんと同じ職場だからねぇぇ!」

「くぅぅ!」

「大事な同僚が、いつもより早い時間、しかも、こそこそトレンチコートなんかに着替えて帰ろうだなんて――おもしろ……じゃなかった、心配で心配で、私はあとをつけてきたんだよ!」

 

 ヴィータさんが舌打ちした。

 

「そうだった、おめーは昔からすぐ余計なことに首を突っこむやつだったな」

「まーね。それがまさか、こんな楽し……深刻な事態になっていただなんて!」

「だぁぁ――っ! あたしはヴィヴィオに頼んでんだ。今回はおめーの出番はねーよ!」

 

 すると、なのはママが「チッチッチ」と指を振った。

 

「そんなつれないな~。変身制御を安定して使えるようヴィヴィオに教えたのは、何を隠そうこの私――高町なのは教導官なのに~」

「マジかッ!?」

「オフコース。私のは、あのユーノ君直伝だからね~。毎日変身して、いわば大人モードのエキスパートたるヴィヴィオに、私の変身魔法理論が加われば鬼に金棒……いや、ヴィータちゃんにグラーフアイゼン! 間違いなくバインバインッ!!」

 

 なのはママの台詞にタイミングを合わせ、わたしは自然な動作で大人モードへ。

 ヴィータさんの目の前で、2人の胸が大きく揺れる。

 

「くっ……し、仕方ねーな……きょ、今日だけはなのは、おめーに教えさせてやる」

「ありがと、ヴィータちゃん」

 

 そうと決まればヴィータさん、思い切りがいい。

 なのはママとわたしに向かって敬礼すると、

 

 

「高町母娘教導官、大人モードのご指導よろしくお願いしまーすっ!」

 

 

 とはいえ、いくらなんでも路地裏で練習ともいかなかったので、我が家に帰って練習――という流れになったのだけど。

 

 

     ●

 

 

 リビングで待ち受けていたのは烈火の将。

 

 

「――ヴィータ、まさかお前が大人モードとはな」

 

 

「……シグナム、てめぇ、どうしてこいつんちにいるんだよッ!」

「ごめ~んヴィータ。私がひさしぶりにシグナムに会ったから、たまには一緒にうちで夕食でもどう――って誘っちゃって」

 

 フェイトママが、片手でゴメンのポーズを取っていた。

 

「チッ、まあいい。今更1人や2人増えたところで……」

 

 

「私もいるがな」

 

 

「――って、ザフィーラ、おめーもか!?」

 

 狼フォームのザフィーラが、絨毯の上で丸くなっていた。

 

「最近のミウラの様子を、ヴィヴィオに訊こうと思ったのだ」

 

 あ~。

 

「ザフィーラパパ、ご苦労さまでーす」

「くぅ~っ、どいつもこいつもあたしの邪魔しやがってぇぇ~」

 

 ヴィータさんが今にも爆発しそうだ。

 

「でもでも、ヴィータさん。考えようによってはプラスですよ~。ほら、ザフィーラって人型になったり、場合によっては子犬モードとか、結構変身魔法に長けてると思うんですよね」

「そ、そういやそーだったな……」

 

 ヴィータさんは決意をこめて「よし」と小さく頷いた。

 

「こうなったら、お前ら全員であたしを鍛えやがれ!」

「よく言いました。流石は夜天の切り込み隊長ヴィータちゃん。今日は、一気にレベルアップしちゃうよぉぉ!」

「おおぅ!」

 

 と、なのはママとヴィータさんは意気込んでいるのだけど……。

 わたしをのぞいて、ここにいるみんなはすでにレベル99。カンストしていると思うんだけど、まだ上がるのだろうか?

 とはいえ、これだけのメンバーがそろっているのだ。

 夕食班と教導班に分かれても問題なし。

 短時間であっても、ヴィータさんもみっちり練習可能。飲みこみも早い。あっという間にバインバインのヴィータさん大人モードが高町家に爆誕する。

 

「これでもう、海鳴のじーちゃんばーちゃんに心配されることもないな」

 

 

「――それはどないやろ?」

 

 

「だ、誰だぁぁっ!?」

「ヴィータ。いきなりそないにバインバインになっとったら、じーちゃんたちが驚いて、腰を抜かすかもしれへんよ?」

 

 リビングに現れたのは、柔らかな関西弁を操るショートカットの女性。

 

「は、はやてか!?」

 

 さらに、金髪で落ち着いた雰囲気をもつ大人の女性が顔を出す。

 

「もう、そういうのは私に相談してくれればよかったのに~」

「シャマルまで、どうしていんだよっ!?」

「いや~、ヴィータにシグナム、それにザフィーラまで、3人そろってなのはちゃんちだなんて……これは何かあるな~、思ってな」

 

 はやてさんが笑っている。

 

「確かに、急に3人でうちでご飯とか、何事かと思っちゃうかもですよね~」

「せやから、夕食の支度をしていたリインとアギトには、おかずをタッパーに詰めてこっちに持ってくるよう連絡済みや。もうじき着くんやないかな」

「うわ……」

「どんどん増えやがる……」

 

 すると、ピンポーン――とインターホンが鳴った。

 

「もう来たのかよ……追い返してやる!」

「ちょ、ヴィータさぁぁん!?」

 

 追いかけて玄関に向かうと、そこにいたのは、ちっちゃなピンクの竜召喚士と、ツンツン赤髪の竜騎士だった。

 

 

「おひさしぶりです。あの~、フェイトさんはいらっしゃいますか?」

「本局の用事で近くまで来たもので……」

 

 

「キャロにエリオ……?」

「お前らもかよぉぉ!?」

「ヴィヴィオにヴィータさん? え、え、何なんですかこの集まりはぁぁ!?」

 

 その後、無事にリインとアギトも到着。

 図らずも、高町家にママたちの関係者が勢ぞろいした。

 

「せっかくなんで、みなさん事情を聞いてもらえますか?」

 

 ヴィータさんもついに観念したのか、わたしの隣でガックリ肩を落としている。

 結果。

 はやてさんとシャマルさんが、みんなに変身魔法をかけることで、ミッドに引っ越してからの約10年間。ヴィータさんが成長したであろう姿を、1年刻みで見比べることに成功した。

 

「うおっ、なんだこりゃ……」

「こ、これは圧巻ですねぇ~」

 

 うちのリビングに、ヴィータさんが10人も降臨している。右を向いても左を向いてもヴィータヴィータ……赤すぎて目が痛い。

 

「今日は私もヴィータちゃん!」

 

 なのはママもいつになくハイテンション。

 

「へ~、このスカートの中って……」

「勝手にめくるんじゃねぇぇ――っ!」

「にゃはは~」

 

 仲良しなことで……。

 とりあえず撮影してから、ヴィータさんに尋ねる。

 

「それでヴィータさん、どのヴィータさんにしますか? どれか1人に絞ってイメージすれば、大人モードもやりやすいと思うんですけど」

「私はこっちのヴィータちゃんが……」

「去年はこれくらいやったから~」

「でしたら、僕くらいのが」

「どーせ詳しく覚えてないんだから、もっとバインバインに……」

「流石に無理だな」

 

 こうして、希望と妥協により、理想の大人モードを一晩でマスターしたヴィータさんだったのだけど……。

 

 

     ●

 

 

 翌日。

 海鳴市。

 時空管理局に所属するママたちの関係者が、昨日に引き続いて、ズラリと勢ぞろいしていた。

 

 

「……って、お前らまで来るなら、あたしが必死こいて大人モードをマスターする意味なかったじゃねーかッ!」

 

 

 ごもっともである。

 はやてさんが申し訳なさそうに謝罪した。

 

「昨日、なのはちゃんたちと話しとったら盛り上がってしまってな~」

「電話したら、アリサちゃんとすずかちゃんもお休みが取れるっていうから」

「私も、キャロとエリオを連れて母さんのところに顔を出しておこうかなって」

「はは、来ちゃいました」

「僕たちも、まさかこんなことになるなんて……」

 

 いつになく大所帯だった。

 ヴィータさんがプルプル震えている。

 

「諦めろ、ヴィータ」

「そうよ、ヴィータちゃん」

 

 すでに子犬フォームになっているザフィーラが「わん!」と吠えた。

 守護騎士たちの同情が、逆に怒りを助長している気がしないでもないけど……。

 

「ま、まあ、ヴィータさん。大人モードをマスターしたってことは、これからいつでも好きな時に海鳴に帰れるってことで……」

「そ、そうだよな」

 

 たぶん、

 

「なのはママに誘われる回数は増えるかもですけど~」

「それ、やっぱり、マスターする意味なかったじゃねぇかぁぁ――っ!!?」

 

 大人モードに変身しても、なのはママに弱いところは変わらないみたいです。

 

 

 




ヴィータといい、ミウラといい、裏表のない真っ直ぐな子は、高町母娘のえじきになりやすい……ということで、
2017/4/24は『魔法少女リリカルなのはViVid 18巻』の発売日だそうです。
ヴィヴィオとミウラの再戦――エキシビジョンマッチ。
そういえば、ヴィータといい、ミウラといい、初戦は高町母娘に勝ちましたが……ミウラは再び勝つことができるのでしょうか?
あ、自分はヴィヴィオを応援してます。

それはそれとして、こちらは『大人モード禁止大会』以来、ちっともバトルしてないような……。
そろそろ一戦やっといた方がいいような気がします。
そんなわけで、来週はもうゴールデンウィークなので、何かこう、新巻を読みながら考えようかと思います。
変な……いやいや、たまにはまとも(?)な大会でも……。
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