一方、準決勝、第2試合――リオコロ・オールスターズが、ジーク&ヴィクターによって完膚なきまでに叩き潰される。
「リオぉぉ――っ!!」
駆け寄るヴィヴィオに、リオが伝えたベルカミッショネルズの秘密とは……?
『DSAAドリームタッグトーナメント 第3戦』――最終話。
セイクリッドカイザーズ VS ベルカミッショネルズ
勝利の女神が微笑むのはどちらのチームだぁぁ――っ!!?
「ヴィヴィオ……よく聞いて……ベルカミッショネルズは――」
まさか、何者かに操られているとか?
あるいは、大きな弱点があって、リオはこんなボロボロの体になりながらも、攻略の糸口を見つけてくれたとか?
それとも他に――
「リオ、リオ、教えて。ベルカミッショネルズがなんだっていうの!」
八重歯のカワイイ親友の少女は、弱々しい声で告げる。
「ジークさんとヴィクターさんは……ブラゴとシェリーのペアに似てる……」
ガクッ。
「それなんて金色のガッシュベルゥゥ――ッ!?」
いや、確かに似てるけどねぇぇ!
あの2人のタッグ。白黒の色合いとか、貴族のお嬢様だったり、すっごい強いとことか!
――はっ!?
思わず抱きかかえていたリオから手を離してしまい――ゴチン!
頭から落下したリオは、それがトドメの一撃になったのかきゅ~と気絶する。目の前で担架に乗って運ばれていく。
「ヴィヴィオさん……」
「はい……何の役にも立たない情報でしたぁぁ!」
だけど、もしジークさんとヴィクターさんがブラゴとシェリーだった場合、当然金髪のわたしがガッシュベルであり、コロナがティオ、リオは……ウマゴンポジションなのだろう。
メルメルメ~。
だとすればアインハルトさんって……。
緑の衣装を基調としたキャラ……思い浮かばないこともないけど、パワー不足。
強くて、グリーン……メロンつながりでビクトリームだろうか。Vの字で無表情のまま「ベリーメロン」と歌っているアインハルトさんを想像して、ひとり笑いがこみ上げてきたので頭を振る。
「何にしても、ジークさんとヴィクターさんがそれくらい圧倒的に強いってことですよね……それこそ、今のわたしたちでは勝ち目がないくらいに……」
いつかは、それこそガッシュベルのように強く成長したら勝てる日が来るのかもしれないけど、今はまだ無理。
だいたい雷撃の術を操るというなら――確かにフェイトママから学んだ魔法はあるけれど――雷帝の子孫ヴィクターさんの方が、遥かにガッシュベルに近い。
「アインハルトさん、正々堂々1on1でやって負けるのと、奇策を使ってでも会場を沸かすのと、どっちがいいですか?」
「そうですね、普段の私なら前者ですが、今回はお祭り試合なのでしょう?」
「はい、そうなりますね。わたしとしては正直、練習を含めて、いつもジークさんに負けっぱなしというのもアレかなぁ~と思っているんですけど……」
「わかりました。私だっていつも負けるのは悔しいですからね。せっかくのタッグチームです。本当に勝てるかどうかは別として、双子の使い魔さんから教わったことも多数あります。こんな機会でもない限り、試せない技もありますし、やれるだけのことはやってみましょうか?」
「はい! 大番狂わせ、わたしたちの友情パワーで、奇跡の大逆転を狙ってやりましょう!」
こうして、わたしとアインハルトさんは決勝の舞台へと駒を進める。
●
準決勝から1時間後。
ついに、DSAAドリームタッグトーナメント決勝、その時がやってきた。
リオとコロナも目を覚まし、ノーヴェと一緒にセコンドについてくれている。
そして――目の前には黒と白。U19の格闘競技と総合魔法戦競技それぞれの象徴でもあるチャンピオン――ジークリンデ・エレミアとヴィクトーリア・ダールグリュンのタッグが立っている。
「まさか、こないなトコでヴィヴィちゃんとハルにゃんと試合ができるなんてなー、今日は楽しもうな~」
「はい。コロナの仇は必ず取らせてもらいますからねっ!」
「ちょ、あたしの仇はぁぁ――っ!?」
と、リング外から聞こえたけれど気にしな~い。
アインハルトさんが一歩前に出る。
「ジークさん、ヴィクターさん、今日は一槍お願いいたします」
「もちろんや。今日は目一杯仕合おーな」
ジークさんには、これから戦いを繰り広げる――という緊張感は一切ない。
「はぁ~、まったく、お祭りとはいえ公式試合なのですから、そんなゆるゆるでどうするんですか」
「でもな~」
「ジーク!」
「はぅ~」
かんにんなー、と言いながらヴィクターさんに謝っている様子は、
「何ていうか、よそのうちの様子を見てるみたいですね」
「はい……」
2人がコチラを向いた。
「あの子たちにチャンピオンらしい試合を見せますわよ!」
「そーいうことらしいから、最初から全力でいかせてもらうで!」
「はい!」
「望むところです!」
――3,2,1,カァァァァ~ンッ!!
「鉄腕解放――」
前言通り、ジークさんは最初から全力全開だ!
アインハルトさんが構える。
「こちらも出し惜しみはなしですね」
「はい。それに、あの状態のジークさんを破ってこそ意味がある――ですよね?」
「ええ」
ジークさんがひとり前に出る。
低空からダッシュ。反応。わたしとアインハルトさんも駆け出すと、リング中央、2対1で激突した。
一方、ヴィクターさんは動かない。
様子見、それとも甘く見られているのか、開始地点で鉾槍――ハルバード片手に腕組みしたまま。まさに王者の風格。
だけど、それならそれで構わない。
「先にジークさんを叩くだけ!」
「2対1なら勝たせてもらいますよ!」
アインハルトさんの右ストレート。ジークさんはわずかに体を捻り、腕を取る。得意の投げ技に入ろうとしたところで、わたしのフリッカー。仕方なく腕で弾いたところでアインハルトさんが脱出。
決して押されているわけではない。けれど相手がジークさんひとりだと考えると、試合内容では完全に負けている。
「呂布と3対1戦った、劉備、関羽、張飛の気分ですね」
「それは、なのはさんと4対1で模擬戦をした、スバルさん、ティアナさん、エリオさん、キャロさん、みたいなものですか?」
「ええ、そんな感じです――」
わたしとアインハルトさんは大きく左右に飛び退くと、
「ディバインバスタァァ――ッ!」
「覇王――空破断ッ!」
2方向からのロングレンジ攻撃。
ドォォン――と煙が上がるが、
「あいたたた……」
ジークさんは手をぶらぶらさせているだけでビクともしない。
「うわ~」
「これを防ぎますか……」
「危ない危ない、ホンマにええチームワークやな~。うちとは大違いやー」
後ろからツッコミが入る。
「そんなことありませんわよ! うちだってチームワークは――って、ジーク上っ!」
「へ?」
スコーン! と後頭部に光弾が当たる。
「あたっ! なんや今の!?」
「はーい、わたしの魔法弾でーす」
同じチームのアインハルトさんですら目を丸くしている。
「相変わらず器用ですね」
「へへっ、はい! どんな『鉄壁』でも、1ターンが終わればゆるゆるですからね~」
そう会話しながら、わたしとアインハルトさんは再び合流する。あまり離れないよう、いつでも2人で対処できるよう並んで間合いをはかる。
「それにしても、ヴィクターさん前に出てきませんね」
何やらあちらはあちらで試合中だというのに言い争いをしている。
「そうですね。先程も声だけでした」
気づいた瞬間――走り出してハルバードを振るえば……あ、
「ひょっとすると、ヴィクターさんの武器が原因なのかも」
「というと?」
「ハルバードはリーチも長く、攻撃範囲も広いじゃないですか。だから、わたしとアインハルトさん、それにジークさんの3人で密着戦闘していると、どうしてもジークさんを巻きこんでしまう」
「なるほど。でしたら、このまま接近戦を続けていればヴィクターさんは戦闘に参加できないと?」
「おそらく。ただし戦えない――というわけではありません。単に、ジークさんと入れ替わればいいだけの話ですから。そうなると、不利なのはダメージを負っているわたしたちの方で、体力と魔力を温存しているヴィクターさんの方が有利になります」
そうこうしているうちに、ジークさんも回復するだろう。
「でしたら……」
「はい。早いうちにヴィクターさんを巻きこんじゃいましょう。あわよくば、ヴィクターさんの攻撃を避けて、逆にジークさんにぶち当てる――同士討ちですね」
アインハルトさんがわずかに考えこむ。
「できますか?」
「はい。やってみせますよ!」
今のわたしが唯一チャンピオンに勝っているモノ。神眼――見切りの力なのだから。
わたしとアインハルトさんはジークさんに向かって駆け出した。
「スティンガースナイプ!」
なのはママのアクセルシューターと同じ誘導弾。双子の使い魔から教わった魔法だ。威力は低い。けれど、スピードと追尾性能が高く、牽制攻撃としては今でも優秀。
狙いはジークさん――ではなく、ヴィクターさん。
5発の光弾が大きく曲線を描いて、頭上から襲いかかる。
「この程度で!」
ヴィクターさんがハルバードを頭上で回転させる。バン、バン、バン――と打ち消されるが、残り2発が長い柄をかいくぐり、側面からダールグリュン家のお嬢様に着弾する……も、ほとんどダメージはない。あの重装甲、堅すぎる!
しかし、
「そういうことですか!」
ヴィクターさんが止まって対処している間に、わたしとアインハルトさん、それにジークさんの戦場は、ヴィクターさんのすぐ傍まで近づいていた。
「ジーク、もっと離れなさい!」
「そないなこと言われても~」
本来なら四つ巴――のはずが、わたしとアインハルトさんは直線上――ヴィクターさんとの間にジークさんを挟んで対峙する。
次の瞬間、
「四式『瞬光』!」
高く澄んだ、それでいて力強い声が響く。
「ひぃぃ!」
「うわっ!」
「くっ!」
ハルバードの穂先。青い稲妻をまとった突きが、ジークさんの体をかすめてわたしとアインハルトさんを襲う。敵は背後にあり。一番驚いたのはジークさんだったらしく、
「ちょ、ヴィクタァァっ!?」
「邪魔です、ジーク!」
「なー」
チャンス。
「あだっ! ちょい! 待って~」
パン、パン、パン――と、わたしのフリッカージャブがジークさんの顔面にヒット、ヒット、ヒット。
さしものジークさんも、前にわたしたち2人。味方とはいえ、後ろのヴィクターから放たれる鋭い一撃を気にしていたら、いつもの力が発揮できない。
先程までと違い、わたしのジャブが面白いように当たる。
ただし、一発一発のダメージが低いので、どちらかと言うと、ジークさんの百面相の方が面白い。
むしろ、全力で防ぐのはアインハルトさんの一撃。覇王の断空を食らえば、いくら鉄腕でも一気にライフを削られるからだ。
あれ?
ひょっとすると、このまま混戦状態。巻きこんで戦えば勝てるかもしれない――と思った矢先、
「らちが明きませんわね。そんなに巻きこみたいなら、お望み通り巻きこんでさしあげましょう!
――ジーク、避けなさいっ!!」
「へ?」
「何を!?」
「って――」
ヴィクターさんがハルバードの石突をリングに叩きつける。同時に青白い光を放つ魔法陣が展開。
「百式ッ! 『神雷』!!」
わたしとアインハルトさん、ついでにジークさんをも巻きこんで、リング上の全てを飲みこむ膨大な魔力の雷が発生。全てが白に染まる。
サンダガもびっくり。
ギガデインとまではいかないが、ライデインぐらいの破壊力はありそうだ。
眩い閃光に引き続き、舞い上がった土煙が収まる。
「けほっ、けほっ……ヴィクター、やり過ぎや」
「あなたなら耐えてくれると信じていましたから」
「ウチは平気でも、ヴィヴィちゃんやハルにゃんは――なぁ~~~~っ!?」
ジークさんが目を丸くして驚く。
わたしとアインハルトさんが神雷の直撃を受けても立っていたからだ。
それも、感電することなく、ほぼ無傷で――。
ヴィクターさんが眉をひそめた。
しかし、驚いているのはもうひとり。
「ヴィヴィオさん!?」
「ライトニングプロテクション――なのはママの魔法ですけど。ついでに言えば、うちのもうひとりのママは、雷撃魔法のスペシャリストですから」
わたしとアインハルトさんの会話を聞いていたのか、ヴィクターさんが頷いた。
「そういうことでしたか、フェイト執務官の……」
ここでカーンとゴングが鳴り、第1ラウンドが終了する。
●
「いや~、属性防御の魔法はあんまり使う機会がないんで――」
アインハルトさんにも披露したことがなかったのだ。炎雷変換資質をもつリオと、もっと全力で試合をすることがあれば、見せる機会もあったのだろうけど。
「まったく、なのはママとフェイトママの娘で良かったですよ~」
そうでなければ、この勝負、ここで負けていただろう。
「ヴィヴィオさん。これで、少なくとも神雷は攻略した――と考えてよろしいのでしょうか?」
「どうでしょう? 今回はジークさんを巻きこんでいましたから、ヴィクターさんが少し手加減していたかもですし……何より、わたしもごっそり魔力を消費しましたから、何度もは防げないかと」
まあ、それは大技を使ったヴィクターさんも同じだとは思うけど……。
あの人魔力量多いからなぁ~。
「だいたい、ジークさんごと神雷に巻きこむなんて思いませんでしたよ~」
もっと小技の応酬になると思っていた。
「そうですね。信頼していた――というのもあるとは思いますが、それよりも、むしろ彼女の焦りが感じられました」
「焦り、ですか?」
「はい。焦り……というよりも、むしろもっと直接的な、私がジークさんに一撃を食らわせるのを嫌がっていたような……」
「それ『エレミアの神髄』が発動することを心配してたのかもですね」
以前より、もっと制御できるようになったらしいけれど、あれは反射行動。取り外しのできない常時発動系スキルみたいなものだ。
自分の意思だけでどうこうできる技ではない。
「あの状態のジークさんは、ちょっとしたバーサークモードですからね~。乱戦状態ともなれば……」
「ヴィクターさんもタダではすまないでしょうしね」
パーティーアタックで敗北――なんて笑えない話だ。
まあ、何だかんだと言ってツンデレ……じゃなかった、優しいお嬢様なので、わたしたちにケガさせないようにとか、ジークさんを落ちこませないようにするためとか、色々と理由はあるのだろうけれど……。
「何にせよ、ジークさんとヴィクターさんが強すぎるゆえの欠点ですよね」
単騎で最前線に立って破壊を撒き散らす戦闘スタイルの2人は、タッグバトルには向かない。
1on1の交代制ならいいけれど、4人同時に戦うような試合では、その欠点が顕著に現れてしまう。
「そうですね。とはいえ、地力では完全に負けていますから、やはり、このまま――というわけにはいきません」
ジリ貧だ。
「う~ん、2人には申し訳ないですが、エレミアの神髄を使ってもらうしかないですよね~」
活路を開くには。
「まあ、現状ではそこが一番難しいのですが……」
「そこはほら、わたしにいい考えがありますよ?」
アインハルトさんは大きく目を見開くと、続けて口の端を上げた。
「流石はヴィヴィオ司令官。作戦、よろしくお願いしますね」
「それ失敗フラグじゃないですか~」
コンボイじゃあるまいし……。
わたしとアインハルトさんは笑い合う。
――カァァ――ッン!
さあ、第2ラウンドの始まりだ!
●
「もう、さっきのようにはいかへんで!」
「もう、手加減はしませんわよ!」
ジークさんの頭に、先程のラウンドにはなかったコブがあるのは気になるが……まあ、そこはそっと置いておこう。
再び距離を取ったので、先程のように巻きこんでの攻撃はできない。
だが、それでいい。
見よ、アインハルトさんやミウラさん相手に鍛えたこのテクニックっ!
「ジークさん、魔法でちっちゃくなったときにおねしょしたってホントですか?」
「なぁぁぁぁぁぁ~~~~~~~っっ!?」
「くっ、精神攻撃ね!」
「流石はヴィヴィオさんです!」
うれしくないですけどぉぉ!
わたしはさらに続ける。
「ジークさん、黒ジャージ以外の洋服も、今度一緒に買いに行きましょうか?」
「他にも持っとるでぇぇ!」
「もっとこう、ヒラヒラフリフリしたような……」
「だから持っとるって!」
「いえ、あの露出度の高いやつじゃなくて」
「そんなん着とらんからぁぁ!」
「あ~、まあ、そういうことにしときましょうか……」
「ウチのはヘソ出しくらいや~」
「ほら、前にヴィクターさんみたいにお嬢様っぽい洋服も着てみたいとか言ってたじゃないですか~」
「そ、それはちょっとは思っとるけど……」
「そ、それなら私がすぐに手配をぉぉ!」
「ちょ、ヴィクタぁぁ!?」
「あと、お姫様とか魔法少女みたいなやつとか……」
「それもすぐに用意させましょう!」
「だからヴィヴィちゃん、ヴィクタァァ――っ!?」
「そうそう。言い忘れてたんですが、ジークさんの足元に、先程の神雷で亡くなったGの死骸が転がってますよ?」
「……」
ジークさんがG嫌いという情報は、ねことうふ先生の『魔法少女リリカルなのはViVid LIFE インターミドル編』で仕入れてある。
呆然とたたずむ黒のエレミア。
「アインハルトさん、ちょっと(かなり)卑怯ですが、今ですよぉぉっ!」
「はい!」
「くっ、何という精神攻撃、ですがジークはやらせません!」
「あ、ヴィクターさん。あんまりジークさんが使ったあとの枕カバーをクンクンしちゃダメですよ?」
「してませんわよぉぉ――っ! って、しまった!」
点火したアインハルトさんは、すでに奥義の間合いに。
「覇王、断空拳!」
あわよくば、この一撃で勝負を決める。そうでなくとも、ダメージを与えつつエレミアの神髄を発動させる。
セイクリッドカイザーズの作戦としては、どちらでも構わない。
ところが、
――ガガガッ!
削り取るような怪音。
ジークさんは、アインハルトさんの、覇王の必殺の一撃を受け止める。逆に黒い魔力に包まれた拳を引いて。
まさか……
「攻撃を食らう前から、エレミアの神髄が発動してる!?」
「マズいですわね、暴走するかも。アインハルト避けなさい!」
しかし、
「その忠告は無用です!」
ジークさんのお株を奪う組み技で、突き出された腕をつかみ取る。
「何を!?」
「ヴィヴィオさん!」
「はい!」
わたしの魔法陣が展開する。
「これが無敵のジークさん、唯一の弱点だぁぁ――っ!!」
クロから教わっていた相手をちっちゃくする魔法――魔女の呪い。
黒い爆風が、アインハルトさんもろともジークさんを飲みこんだ。2人の体がググ、ググッと縮んでいく。
単に小さくするわけではない。
大人モードの逆、子供モードを強制的に引き起こす。一種の若返りの魔法。
イギリスでの合宿中。クロノ提督の師匠でもある双子の使い魔が、長い管理局時代に培った経験から、エレミアの神髄の欠陥について説明してくれた。
極端に強くなる――というメリットだけなら、みなが使う。しかし、使わないということはそれだけデメリットもある。
つまり、エレミアの神髄とは、誰もが思うバーサークモードと変わらないのだ。戦闘力が跳ね上がる代わりに、コマンド入力を一切受け付けなくなる。
結果、周囲の人や物を傷つけ破壊する。それを、自分の意思では止められない。正常な判断ができなくなるということだ。
冷静なジークさんなら、経験から「危険」と判断して避けるところを、本能が「危険」と判断しなければ避けない。ダメージを受けないなら、正面から受け止めてしまう。
故に――かつて、無限書庫でもクロによって小さくされてしまい、その無敵の戦闘力を奪われた。
こればかりは無意識の反射行動なので、直そうとしても直せない。
エレミアの神髄になったら最後、食らうのを覚悟しなければならない。
諸刃の剣だ。
「ヴィヴィ、あなたたちは最初からこの状況を?」
「はい、狙っていました」
未だエレミアの神髄状態のジークさん。光を失った瞳のまま、強引にアインハルトさんの拘束から逃れる。そして、後ろに飛び退いたかと思うと――ツルッ! 仰向けにずっこけ後頭部を床に打ちつけた。
目に光が戻る。
「いたぁぁ! な、なんやコレ……まさか、またなんかぁぁ――っ!?」
ちょっと微笑ましい。
ヴィクターさんも同じことを思ったのか「こほん」と小さく咳払いした。
「確かにジークは小さくなりました。しかしそちらもアインハルトがちっちゃくなったのだから条件は同じ。むしろ、私が健在な分、有利なのはコチラのはず」
「それはどうでしょうか?」
「えっ!?」
――バキッ!
派手な音を立ててジークさんの体がリング中央を転がった。
信じられないことに、ちっちゃくなったアインハルトさんが、あの無敵のチャンピオン――ジークさんを押しているのだ。
「どうして!?」
「いいですか、ヴィクターさん……。
アインハルトさんは普段からちっちゃいので、少しくらい身長が低くなろうと、手足が短くなろうと、いつもと変わらない、安定した強さを保てるんですよぉぉ!」
「そ、そうきましたかぁぁ!」
「全然、うれしくないですよぉぉ――覇王流、破城槌ッ!」
リングが割れ、バランスを崩したジークさんをアインハルトさんが打ち上げた。ちっちゃくなった体が「はぷぅぅ――っ!」とリング高く舞い上がる。
「ジークぅぅ――っ!!?」
これまでで一番の焦りの声。ヴィクターさんが慌てて前に駆け出す。わたしも追って飛び出した。
「いいですかヴィクターさん、これからアインハルトさんが、ジークさんにキン肉バスターをかけますっ!」
上空から声が聞こえる。
「ほ、ホンマにキン肉バスターなんか~」
「このおバカぁ~っ! どうしてジークがうれしそうなんですのよぉぉ――っ!」
「ロマンだからですよ、ロマン。雷帝――いや、悪魔将軍っ!」
「誰が悪魔将軍ですか――って、しまった!?」
スピードならわたしの方が上。ジークさんを追ってジャンプしたヴィクターさんの両足にタックル。太ももの間にズボッ――と頭を入れて担ぎ上げる格好。
「くらえ――っ!」
重装甲の鎧。その重さを利用して180度反転。上下逆さまにする。さらにヴィクターさんの両足首をつかむと、自分の両足を彼女の脇の下に入れて、腕の動きを封じた。
「くっ……動けない!?」
そして、直上では、今まさにアインハルトさんが、逆立ち状態のジークさんを抱え上げ、両足をホールドしたキン肉バスターの体勢で下りてきていた。
ちっちゃくなったアインハルトさんが、わたしの肩にまたがることで、この至高の合体技は完成する。
「マッスル・ドッキング~~~~っ!!」
バッファローマンいわく、キン肉バスターもしくはキン肉ドライバーを単独で決めた時の2倍、いや10倍の破壊力をもっているという。
『ええええええええええ~~~~っ!?』
大技中の大技。これまで実際に使った人などいなかったであろう。総合魔法戦競技だからこそできるコンビネーション。
リングサイドのリオコロを始め、色んなところからツッコミが入る。
「これはこれで~」
「興行としては成功ですわね~」
技にかかっているジークさんとヴィクターさんからも。
「はぁ~、筋肉、筋肉~、わふ~っ!」
『クドわふたー』アニメ化決定おめでとうございます!
――ドォガァァァァァン!
とんでもない轟音を響かせて、無敵のベルカミッショネルズがリングに沈む。2人のライフが一気にゼロに。
――カン、カン、カン、カァ~~ン!
『ワアアアアアアアアアアアアアア!!』
トーナメントマウンテンを揺るがすほどの大歓声。
「やりましたね、ヴィヴィオさん!」
抱きついてくるアインハルトさん。身体だけでなく精神年齢まで幼くなっているのか全身で喜びを表現する。
「はい!」
わたしは撮影しているカメラに向かって叫んだ。
「アリアさん、ロッテさん、それに――グレアムさん! 見てますか? わたしたちやりましたよ~~っ、今日の勝利に感謝を――ですっ!!」
続けて、ノーヴェやリオコロがリングに駆け上がってくる。みんな、割れる寸前の風船のような、満面の笑みを浮かべている。
一方で敗者――ジークさんは、大の字の格好のまま動かない。
「まさか、こないなトコでマッスルドッキングの使い手に会えるなんて、ウチもびっくりや~」
「ジークっ! どうしてあなたはうれしそうなんですのよぉぉっ!」
フラフラしながらも、ハルバードを杖代わりに立ち上がるヴィクターさん。やってきた担架を手で制し、帰らせる。そして、ちっちゃいジークさんをおんぶすると、自らの足で歩いてリングを降り始めた。
「今日は負けましたわ、ヴィヴィ、アインハルト……。でも、次の機会があれば、その時は必ず私たちベルカミッショネルズが勝利しますから、覚えておきなさい――」
何というか、まだまだ余裕があるんだよな~、ヴィクターさん……。
ママほどではないにせよ、やっぱり悪魔将軍である。
「ていうか……」
あのジークさんをおんぶする姿。
「オカンだな」
「オカンですね」
ノーヴェたちも納得の母親ぶりだった。
ちっちゃくなる呪いは、ゴールデンウィーク明けにでも解いてあげようと思う。
すると、まだまだハイテンションのアインハルトさんが「むふ~」といった表情でわたしを見上げる。
「ヴィヴィオさん、いよいよ次は『ベルカ王位争奪戦』ですね! 運命の5王の子孫たちがベルカ統一をかけて拳を交える! さあ、早速チームメンバーを集めに行きましょう!!」
「そんなのないですからねぇぇ――っ!?」
なにそのキン肉星王位争奪編。
ていうか、もしそんなのあったら、たぶんアインハルトさんも、敵になっちゃうじゃないですかぁぁ~~っ!
全チーム試合お疲れ様でした!
というわけで、今回はインターミドルと同じ〝総合魔法戦競技ルール〟だったので、こんな結果になりました。
〝格闘競技ルール〟だと、結果もまた変わってくると思いますが、とりあえず、今回はこんな感じで。
ちなみに、あくまで個人的な感想ですが、
現在のヴィヴィオの戦闘力を【1】とした場合、
アインハルト【1.5】
ヴィクター【2】
ジーク【2.5】
くらいかなと思っています。
個人戦じゃまだまだ届かない。
だけど、タッグチームなら!!
というわけで、もっと色々な組み合わせを試してみたいな~、と思いました。