引率の八神はやて、現地の老魔導師ギル・グレアム元提督ともども、コーチ役のリーゼ姉妹に連れて来られたのは、謎の古びた洋館だった。
第2夜『高町ヴィヴィオとトランザム・バースト』
1
「――というわけで、ここが、最近ウワサの幽霊屋敷よ」
アリアさんの話によると、この館には、かつて〝トランザム〟という魔法使いの一族が住んでいたという。
そして、最後の主人の名は――〝トランザム・バースト〟。
「あの、わたしもう、ちょっと犯人というかオチがわかっちゃったんですけど~」
GN粒子だったり、太陽炉だったり、量子化しちゃったりして、まあ、幽霊っぽく見えたのではなかろうか。
「あ~、最近コロナさんがゴライアスに搭載しようとしているアレのことですね」
「わたし聞いてませんけどねェェ!?」
赤く光ったゴライアスが「ゴー! ゴライアス!!」とか言って、3倍くらいのスピードで突っこんで来るのだろうか?
コロナならやりかねないよっ!?
「それ自爆オチじゃね?」
そうロッテさんに突っこまれつつ、
「あ~」
わたしたちは幽霊屋敷の扉を叩く。
――ギギィィッ、バタンッ!
「なんやっ!?」
6人全員が入ったところで、突然、背後で玄関の扉が閉まった。
アインハルトさんが素早く動き、取っ手に手をかけて、
「開きません。自動ドアでしょうか?」
「違うやろぉぉ!?」
「まあまあ、はやてさん〝SAN値〟が下がっちゃいますよ」
ちなみにSAN値が減ると、発狂しやすくなる。まあ、はやてさんのことだから――神経図太そうだし――心配することはないと思うけど。
「あれって……」
暗がりの中、屋敷の天井に白いモヤのような人影が消えていく。
「早速、トランザム氏の亡霊のようね」
「え」
はやてさんがブリキ人形のように振り返った。
「大丈夫ですよ。こういうときは、3階の屋根裏にある鐘を鳴らせば、解錠される仕組みになってますから」
「そういうものなんですか、ヴィヴィオさん?」
「様式美ですから~」
「そんな『ラプラスの魔』ネタなんて今どき誰も知らんやろぉぉ!?」
流石は八神司令。
古いネタもしっかり突っこんでくれる。
「それはそれとして、ヴィヴィオさん、私たちのこの格好は?」
「ゴーストハンターといえば、黒マントですからね~」
これも様式美――お約束である。
わたしとアインハルトさんは、知る人ぞ知る草壁健一郎のごとく、洋服の上から黒いマントを羽織っていた。
「昔のクロノみたいね」
「ヴィヴィオって、格好から入るタイプだよなぁ」
「あ~、そうかもですね。わたしがアインハルトさんみたいに聖王モードでやんちゃしてた頃も――」
「ちょ、飛び火してますよぉぉ!?」
「ママの外見やら魔法を、まねっこしてましたしね~」
だけど、今はまねっこじゃない。
髪型は今もだけど。
ノーヴェと2人で理想の格闘戦技を追いかけている。
だから、聖王としての力は、ちょっとお休み中。
「それじゃ、先に進みましょうか?」
アリアさんは冷静に仕切ると、明かりの魔法を唱えた。
光に照らし出された室内は、どことなく聖王教会を思い起こさせる。
入ってすぐの空間は、広いホールになっていて、壁には3枚の風景画が飾られていた。
「この絵は……」
「アインハルトさん、どうかしましたか?」
「いえ、少しベルカの景色に似ているなと思いまして」
「あ~、それ、この屋敷の外の風景じゃないか? 丘から見下ろしたやつ」
「うわ、もう暗かったのによく見えましたねぇ~」
「あたしとアリアは夜目が利くんだよ」
「にゃあ~」
「ティオと一緒ですね」
ホールからは、奥へ続く通路の他に、2階へ続く階段と、地下に続く階段に分かれている――さて、どこから向かったものか。
「よっしゃ、一気に2階へ!」
「行かないわよ、ロッテ」
まずは、1階を隅々まで探索することに決まった。
廊下を歩きながら、わたしはアリアさんに質問する。
「それで、このお屋敷なんですけど、トランザムさんが、胡散臭い魔術の実験を繰り返していた――とかいうやつですか?
幽霊騒ぎが起きるような……例えば、生贄にするため街の住人をさらったとか、あるいは、魔女狩り――のように、逆に屋敷の住人が火あぶりの刑にされたとか」
すると、アリアさんが困った表情を浮かべる。
「それがね、評判は悪くないのよ。むしろ、仲良くやっていたみたいで。トランザム氏が亡くなってから、もう何十年と経過しているんだけど、今でも時々、街の老人たちが昔を懐かしんで庭の手入れをするそうよ」
「へ~」
「慕われていたのでしょうか?」
アインハルトさんが小首を傾げる。
そう。
惨劇など何も起きていない。
「幽霊屋敷になる要素皆無だろ?」
「はい」
どういうことだろう?
「それで、屋敷の異変に気づいたのね。突然庭の草木が枯れ始めたとか、建物の中から物音がするとか――」
その後、面白半分で屋敷に入った子供が幽霊を見たと騒ぎ出し、地元紙に、オカルト雑誌……最後には、それなりに有名な霊能者が雇われたのだという。しかし、解決には至らず、それどころか、トランザムさんの霊に襲われたのだと主張する。
「それは怪しいですね」
「そうね。ただ、まったくの作り話ってわけでもなさそうなのよ。――ほら、2人とも感じるでしょ?」
屋敷のどことはいえないのだけど、何かおかしな、それでいて覚えのある魔力の気配を感じる。
「これって……」
「牛乳を拭いたあとの雑巾のような……」
「あ~、それですよ、アインハルトさん!」
「嫌な例えやな~」
それで、オカルトでも超常現象でも、起きたことはできる範囲で対応する元管理局の2人に、解決の依頼が舞いこんだのだという。
「狭い屋敷内で協力し合って戦う――なんてお前らの特訓には、ちょうどいいシチュエーションだろ?」
「ああ、それでこのお屋敷に~」
「無限書庫やルーフェンの洞窟でも、わたしとヴィヴィオさんは別行動でしたからね」
アインハルトさんが、シュッシュと拳を振るう。
腕が鳴ります――といったところか。
「あ~、だったら私とおじさんはいらんかったんじゃ……」
はやてさんがテンション低めに呟いた。
「そんなの退屈だろ?」
「いやいや」
「父様が」
「……」
「すまないね、父親思いの子に育ってしまって」
わたしは何となくだけど、かつてのリーゼ姉妹が及んだ凶行に納得がいった。
わたしだって、もしなのはママが望むなら――そこに多少の迷いがあったとしても――必ず手伝うだろう。
「実際問題として、さっきも話したけど、この屋敷はちょっとおかしなところが多いのよね。だから、万が一のとき八神がいたら2人も安心でしょ?」
「はい、それはあるかもです」
「何かあったときは、よろしくお願いいたします」
グレアムさんに寄り添いながら、はやてさんが「しゃーないな~」と肩を落としたところで、再び、例の白い影――トランザムさんの亡霊が前を横切る。
「またなんかぁぁ!?」
「みんな、注意して!」
アリアさんの警告。
わたしたちは周囲を警戒しつつ、応接室や舞踏室などを見て回ったのだけど、
「特に、これといった異変はありませんね」
アインハルトさんは幽霊が平気なのか――鈍感なのか――臆することなくカーテンを開け閉めする。さらに遊戯室では、平気の平左でビリヤード台の下をのぞきこんでいた。
「お前ら、もう少し子供らしく怖がってみたらどうよ?」
「そんなこと言われましても~」
わたしもアインハルトさんも、死者よりもっと恐ろしいモノを知っている。
「一番恐ろしいのは人間ですからね」
冬月先生ふうに言えば『やはり、最後の敵は同じ人間だったな』である。
「もしかして、ヴィヴィオさんのお母様のお話ですか?」
ええ、
「それもありますけどねぇぇ!?」
「「「「あ~」」」」
「もっとこう、古代ベルカの戦争に関わった人やモノのお話ですよ~」
全長数キロはあるわたしの母艦、聖王家の守護兵器――聖王のゆりかご。
ガレア王国で作られた、人間の屍を利用した自立増殖兵器――マリアージュ。イクスのアレだ。
無敵に近い再生能力、闇の書の自動防衛プログラム――ナハトヴァール。これははやてさん。
他にも、人や草木の命を腐らせる腐敗兵器に、喰らい尽くすモノと呼ばれた奈落の腐食兵器、そして、世界を破壊する無限連環機構――システムU―D。
現在ではロストロギアとなった、数々の禁忌兵器(フェアレーター)と、それらに関わった人々の逸話。
「でもさ、マテリアルズ――ディアーチェたちはギャグキャラじゃなかったか?」
「それは言ってあげないでぇぇ!」
最初はそれなりに悪役だったんだよ~。
「――って、どうしてみんなして私を見るん?」
「私なんて、未だに王様と八神司令の区別がつきませんからね」
「それ自慢することやないやろぉぉ!?」
ああ、そっか~。
アインハルトさんの認識能力だと、ちょっと難易度高かったかぁ~。
たぶん、ママたちとシュテル、レヴィの区別もつかないだろう。
2
そんなこんなで、食堂へ続く通路を歩いていると、アリアさんが急に立ち止まった。
「そうだった。あまりに何も出てこないんで忘れてたけど、はいこれ――」
手渡されたのは、手のひらサイズの使い捨てカメラ。ちゃんと感度が高いやつだ。
「これって?」
「もしアンデッド系モンスターが出たら、それで撮影してね」
「なんでやねん!」
「流石の八神も知らなかったか。心霊写真ってのはさ、好事家に高値で取り引きされるんだよ」
何だかゲームみたいになってきたな~。
「あの、デバイスで撮影したらいけないのでしょうか?」
ティオが「にゃあ~」と鳴く。
「やっぱりそう思った? あたしたちも最初は不思議だったんだけど、どうも高性能なカメラで撮るとダメみたいなのよ」
「はやてさんの騎士甲冑の、スカート部分みたいなもんですね~」
「その心は?」
「見えそうで見えないところがいい」
「ああ~」
「納得しなくてええって」
「ところで、このカメラの使い方を教えていただきたいのですが?」
「ああ、コレはですね~」
そう言って、アインハルトさんにレクチャーしながら食堂に入った途端、
「危ない、ヴィヴィオさんっ!」
突然、暗がりから飛んできたナイフとフォークを、わたしを守るように進み出たアインハルトさんが手刀で叩き落とした。
「まだ来るぞ――チビどもっ!!」
「ヴィヴィオさん、ご注意を!」
そんな2人の警告にわたしは、
「――シャッタァァチャァァンスぅぅ!!」
「「「「「えええええええええええ~っ!!?」」」」」
横っ飛びしながらカメラで激写。
その場でクルリと一回転すると、再び「とぉぉ!」と床を蹴ってもう一枚。
――見よ!
神眼に加え、ネオジオポケットの『水木しげるの妖怪写真館』で鍛えたこの指さばき。
「完璧。エクセレントだねっ!」
空中を飛来するナイフとフォーク。さらにはUFOみたいな銀製の皿までバッチリとらえた……のだけど、
「あの~、ヴィヴィオさん。ナイフやフォークの写真って、売れるのでしょうか?」
「……」
「ポルターガイスト系はなぁ~」
「誰かが投げたようにしか見えないのよね」
「そうだったぁぁ――っ!」
失敗した失敗した失敗した失敗した……と、ママの声で脳内再生。
せめて、幽霊の1人や2人でも写っていればいいんだけど、
「完全に、飛んでる食器のベストショットを撮ってしまったぁ~」
高町ヴィヴィオ一生の不覚である。
すると、はやてさんだけが眉間にシワを寄せた。
「みんな自然にポルターガイスト現象なんて言っとるけど、普通に考えてナイフとフォークがひとりでに飛んでくる――って、おかしいやろ?」
心霊現象である。
「でもはやてさん、前に劇場版で見たんですけど、夜天の書もふわふわ飛んでましたよね?」
「あれは……まあ、飛んでたな……」
「これも同じように魔力で動いていたと考えれば……」
「魔法使いと呼ばれたトランザム氏の仕業かもしれないわね」
どうやらこの屋敷、まだまだ秘密が隠されているようである。
「こりゃ、とっとと白い影を追いかけた方がいいんじゃないか?」
じっくり調べれば調べるほど、相手の思う壺かもしれない。
「ん~、難しいところですね~」
などと話していると、
「この奥はキッチンのようですね」
怖いもの知らずのアインハルトさんが、1人で先に進んでしまう。
「待ってください、アインハルトさん!」
するとキッチンから、
ウィィ……ウイイイーン!
「冷蔵庫のコンプレッサーの音が……」
「いや、電気通ってないやろ」
ガサッ、ゴソッ、バリッ……。
「ポテチの音でしょうか?」
「いやいや」
「待つんだアインハルト君――」
グレアムさんの、渋く落ち着いた声が覇王の足を止める。
「キッチンの奥に何かいるぞ」
「何かって……」
「何がおるんや……?」
ドドド ド ド ド
全員で目を凝らす。長い間使われることがなかったキッチンの闇に、ランランと輝く黒い瞳――いや、
「あのネズミって……まさか……」
ドン!
「スタンド使いぃぃ――っ!!?」
「いやいやいやいや!」
●
次回、ゴーストハンター・ヴィヴィオ 第3夜
『高町ヴィヴィオとメダパニ』
に――リリカルマジカル、がんばります!
今週は説明回だったので、次週はアクション回です。
下書きの段階では、
「……はっ!? あー、いや、なんや、その~、ヴィヴィオとアインハルトを預かった身としては、こないに危険なことに巻きこむんは、マズいんやないかな~、と」
「心配することないわよ」
とアリアさん。
「でもな、相手は幽霊やし……」
「だいじょぶ、だいじょぶ。いざとなったらあたしたちの魔法で倒しゃいいんだって」
あくまで軽いノリのロッテさん。
「倒すって……」
「なーに言ってんだよ。オカルトでも超常現象でも、起きたことはできる範囲で対応する――それが管理局だろ」
「あれ? じゃ、もしかしてママたちも」
聞いたことはなかったけど、幽霊退治をしたことがあるのだろうか?
「そっ、だから今、あたしたちはゴーストハンターなんてやれるわけだ」
なんて説明もあったのですが、長いので削りました。
ちなみに、
『オカルトでも超常現象でも、起きた事にはできる範囲で対応するのが管理局の体質でね』
というのは、PSP版でロッテがキエリに言った台詞です。
なので、管理局引退後、幽霊が多いことで有名なイギリスに住むリーゼ姉妹が、幽霊退治をしていてもおかしくないかな~、と思ったのですが、どうでしょう?