幽霊屋敷を探索したヴィヴィオたちは、秘密の地下墓地を発見。
混乱したはやての活躍(?)もあり、アンデッドモンスターの大群を退けるも、続けてトランザム氏の魔法により、何処かへ強制転移させられてしまう。
第4夜『高町ヴィヴィオと奈落からの呼び声』
1
「――ここは?」
キョロキョロ周囲をうかがう。
わたしたち6人が転移魔法陣で連れて来られたのは――断崖絶壁。
巨大な穴の縁に建てられた、丸屋根で小さな寺院のような建物の内部だった。
僧侶がいるわけでもなく、ただ、壁一面――360度に渡ってたくさんの書物が並んでいる。
書斎の本も多かったけれど、この寺院はそれを圧倒していた。
「どれも、古代ベルカ語で書かれているようですね」
手に取ったアインハルトさんが教えてくれる。
「ちょっと検索してみましょうか……?」
ユーノ司書長仕込みの検索魔法で、今回の一件に関係ありそうな資料を絞りこむ。
ヒットした本にざっと目を通すと、わかったことを、リーゼ姉妹とアインハルトさんに伝える。グレアムさんとはやてさんはまだ目覚めない。
「――つまり、トランザム氏の一族は、ベルカ戦乱の末期に、管理外世界である地球に逃げ延びた者たちの末裔だと?」
「はい」
「聖王家がベルカの戦乱を終わらせるため〝ゆりかご〟を起動した『聖王統一戦争』はご存じですよね?
戦後、生き残った国がある一方で、国を失い、管理外世界へ逃れた人々がいました。
それも、一般人ではなく、とある王家の一族……」
『魔法使いと呼ばれたトランザムは、君やアインハルト君と同じ、いや、それどころかはやてとも同じ、古代ベルカに縁がある一族だった――ということだね』
「グレアムさん! 気がついたんですね!」
「ああ、心配をかけたようだけど、もう大丈夫だよ」
老体に鞭打ち、スターライトブレイカーを結界に封じたのだ。相当お疲れだったのだろう。
リーゼ姉妹が「父様!」と抱きついた。
「これで気を失っているのは八神司令だけになりましたね……って、あの、ヴィヴィオさんもみなさんも、どうして私をジッと見つめているのでしょう?」
「いや~、お前のことだから、なんかクリティカルヒットとか出しちゃったんじゃないかな~って」
はやてさん致命傷である。
「出してませんよぉぉ!? ちゃんと手加減しましたからっ!」
「まあまあ、あれくらいじゃないと、はやては止められなかったさ。それよりもヴィヴィオ君、あまり時間は残されていないのだろう?」
「あ、はい――。
このマニュアルによると、この場所は〝奈落〟と呼ばれ、屋敷の地下深くに、ベルカの結界魔法――封鎖領域を応用して生み出された異空間の一種のようです。
そして、奈落の最下層に封じられているのが、トランザムさんの一族が滅びる国から持ち出したロストロギア――禁忌兵器です。
その名も〝アディス〟。
喰らい尽くすモノと呼ばれた奈落の腐食兵器ですね。
元々は、腐敗兵器に対抗するために作られた、キメラ的なカウンターマジックだったそうです。ところが、改良を重ねるうち、次第に周辺諸国から、腐食兵器と呼ばれる存在に成長したとあります」
「それを地球に持ち出したと?」
「はい。ただ、本国の設備でも管理が難しかったアディスを、地球の、それも当時の技術での封印には限界があったらしく、徐々に結界が侵食されていったようです」
「それで、ついに地上にまで影響が出始めたということか……」
「屋敷の草木が枯れたのもそのせいね」
「地下にあった墓地は、代々のトランザム一族のモノで、彼らは死してなお、アディスを封印する結界の一部になったそうです。
いわば〝守護者〟ですね。
わたしたちが、結界を維持する守護者を倒してしまったので、今、アディスの動きは一気に活性化してしまったはず――」
「あたしたちが来ない方が良かったってことかよッ!?」
「もう地上に影響が出てたんだから、遅かれ早かれでしょ」
まぶたを閉じ、黙って聞いていたグレアムさんが目を見開いた。
「アリア、ロッテ、先行して、アディスを止められるようなら止めてくるんだ」
「わかりました」
「任せといてよ、父様!」
わたしも手を挙げる。
「あの、わたしも一緒に行きます!」
「危ないからやめとけ」
「そうね。わざわざヴィヴィオちゃんが危険な目に遭うことはないわよ」
「でも、このマニュアルを読めるのはわたしだけだし……」
アインハルトさんも読めるけど、古代ベルカの魔法技術に関しては、わたしの方が詳しい。
「でしたら、私がヴィヴィオさんとご一緒しましょう。それでいかかでしょうか?」
「「父様……」」
リーゼ姉妹が自分たちの主人を見やる。
「君のお母さん――なのは君も、君たちの歳ぐらいにはもうエースと呼ばれていたよ。
リーゼも、『砕け得ぬ闇事件』の際に、2人と共に戦っているのだろう?」
「それは……」
「そうだけど……」
「だったら、この状況、ヴィヴィオ君たちも立派な戦力だよ。そうじゃないかね?」
「あ~、もうわかったよ、父様!」
「ヴィヴィオちゃんも、アインハルトちゃんも、くれぐれも無茶はしないようにね?」
「「はい!」」
「私も、はやてが目覚めたら事情を説明してすぐに追いかけるよ」
「「了解!」」
「「わかりました!」」
2
「この穴の真下に、腐食兵器アディスがあるんですね――」
寺院を出ると、大人モードに変身したわたしとアインハルトさん、そしてアリアさんとロッテさんの4人は、断崖絶壁の内側に沿って掘られた足場――螺旋状に地下へ続く坂道を駆け下りていた。
「んで、ヴィヴィオ。どうやったらアディスを止められるんだ?」
「はい。起動前の腐食兵器は〝アディス―ククリ〟と呼ばれ、小さな繭のような形をしているそうです」
「完全な封印状態ということね」
「はい。それが、何らかの影響で起動すると〝アディス―ラールア〟という幼虫のような状態になるそうです」
「では、現在は?」
「はい。今がちょうど、そのアディス―ラールアの状態だと思います。
これが最終段階になると、〝アディス―アポリト〟という腐食兵器の完成体に成長するそうです。
止める方法はただ一つ。
完成体になる前に破壊することだけ」
「そりゃシンプルでわかりやすいな――っとと!」
わたしたちの行く手を遮るように、壁面から人型のゴーレムが現われる。
「覇王流――」
わずかに体を引いたアインハルトさんの拳が、エメラルドグリーンの魔力光に包まれる。
「破城槌!」
叩きこまれた魔力の輝きが、ゴーレムを内側から粉砕。わたしたちは足を止めることなくゴーレムの横を通過する。
「やるね、アインハルト!」
「いえ、ですが、これもトランザムさんの仕業なのでしょうか? もはや妨害する意味もないと思うのですが……」
「おそらく違うと思います。今のは単なる奈落の防衛システムかと」
「というと?」
「わたし、さっきの寺院でマニュアルの他に、トランザムさんの一族の記録……いえ、手記のようなものを見つけたんです。
最初は、故郷の大地に似ていた――それだけの理由で移住したはずが、いつしかベルカに帰ることを諦め、この地に根づくことを選んだ――そう書かれていました」
「そう。コックスウェルと、そこに住む人々を気に入ったのね」
「はい。けれど、問題が一つありました」
「アディス……でしょうか?」
「そうです。屋敷の地下深くに封じた腐食兵器が動き始めていることに気づくと、彼らは自分たちの命と魔力を使い、結界を強化することに決めました」
「それが地下墓地か」
「はい。そして、ここからは推測になりますが――一族が死に絶え、結界を維持できなくなったトランザムさんは、探していたんだと思います。
腐食兵器の影響が地上に出始めた今、アディスを止めることができる本物の魔導師を」
「それで心霊現象を……つまり、屋敷の罠や怪物は、私たちの力を試すことが目的だったんですね?」
わたしは「はい」と頷いた。
「それで、合格したあたしらを魔法陣で奈落まで連れて来たってわけか」
アリアさんが「ふうん」と鼻を鳴らす。
「だったら、これ以上グズグズしているわけにはいかないわね、ロッテ!」
「おうよ、アリア!」
「え」
「ちょ――」
2人は、いきなりわたしとアインハルトさんに近づくと、腰に手を回し持ち上げる。
そして、お姫様抱っこの格好のまま、
「「それぇぇ――――っ!!」」
坂道の縁を蹴り、穴の中央に向かって大ジャンプ!
「ちょっと待って、ちょっと待ってってばぁぁ~!?」
浮遊制御もせず、奈落の底に向かって一直線に下降する。
「トランザムに妨害する意思がないなら――」
「こっちの方が手っ取り早いでしょ――?」
「それはそうですけどぉぉ~~~~」
「ふわぁぁ~~~~」
風を切る感触。
「前にもこんなことあったようなぁぁ~~~~~っっ!!」
「過去の世界に行ったときはわぁぁぁあ~~~~~っっ!!」
「舌噛むなよぉぉ!」
「もうすぐ着くわよ――」
超特急でした。
3
「よっし、到着ぅ~っ!」
猫科だけにナイス着地!
と、言いたいのだけど、わたしとアインハルトさんは「あう~」とよろける。
耳がツンツンするぅ~。
「ここが最下層ね――」
奈落の最深部。
魔力炉のような巨大装置が、地面に刻まれたベルカ式の魔法陣に合わせ、3方向に設置されている。
問題は中央。
台座のようなプレートの上に、芋虫を彷彿とさせる赤茶けた生き物が乗っていた。
「うわぁ……」
「何というか……キモいわね……」
「昆虫……でしょうか?」
はやてさんがいたら「モスラか!」みたいに突っこんでいただろう。
実際、そんな感じの生物だった。
小さければ、まだ可愛げもあったのだろうけど、何せサイズが電車の先頭車両くらいはある。
「これが腐食兵器の幼生体――アディス―ラールアの状態だと思います」
「どうやら間に合ったようね」
わたしたちの存在を認識したのか、チョココロネみたいなボディで鎌首をもたげる。
「完成体になる前にさっさと破壊するぞ」
「わかりました!」
わたしたち4人は魔力を高めると、各自の最大火力をぶつける。
「一閃必中っ! セイクリッドブレイザァァ――っ!!」
「覇王! 断ッッ空~~ッ拳ッ!!」
「焼き尽くせ! ブレイズカノンッ!!」
「殲滅せよ! スティンガーブレイド・エクスキューションシフトっ!!」
――轟音。
虹色の閃光に、断空の破壊力、さらに炎と数え切れないほどの刃が、アディス―ラールアに突き刺さり、空間を蹂躙する。
吸いこまれるような突風。燃え上がった肉片や、砕けた台座の欠片が弾け飛ぶ。
改めて、攻撃魔法の恐ろしさを知る――そんな光景だった。
トリプル・ブレイカー――とまではいかないけれど、
「これはまた……」
「やったか!」
「やったか禁止ですよ~って、ほら、何か残っちゃってるじゃないですかぁぁ……って、あれ、なに……女の、子……?」
初めて出会った頃のアインハルトさんのような、それでいて眠っているイクスのような神秘的な雰囲気を漂わせる少女。
特徴的なのは、背中に生えた蝶の羽。
「妖精さんみたい……」
「全身茶色だけどな」
「エスタークですね」
「誰ぇぇ!? アインハルトさんに余計な知識を与えたのはぁぁ~~っ!!」
「まさか……これが完成体なの!?」
初期マニュアルには書いていない。
未知の進化と現象。
ひょっとすると、さらに改良が加えられていたのかもしれない……。
「何にせよ、人間サイズまで縮んだ今がチャンスだろ――先手必勝ぉぉ!!」
足に魔力をこめたロッテさんが、完成体アディス―アポリトに向かって跳び蹴りを放つ。
――グシャァァ!
アディスの肉体は、泥か何かで出来ているように、
「分裂したぁぁ!?」
わずかに小さくなったアディスが2体に増える。
「馬鹿ロッテ! ブレイズカノンっ!!」
ブワッ――と、肌を焼くような熱量と爆風に、わたしは思わず身をすくませる。
そして、ようやく煙が収まると、
「1、2、3、4、5、6体――馬鹿アリアっ! さらに分裂しただろぉぉ~っ!?」
「何なのよこれっ!?」
「とにかく全部倒しちゃいましょう!」
「1人2体ずつ。行きますよ!」
「おう!」
ところが、
「おいおい、さらに分裂って!?」
単純な倍――12体に増加する。
「切りがないわね」
「しかも分裂するごとに小さくなって……このままじゃ、アインハルトさんよりちっちゃくなっちゃいますよ!?」
「ヴィヴィオさんも一緒ですよねぇぇ!? とにかく、もう一度、全員で一気に殲滅しましょう!」
「だな」
「これ以上増える前に」
「わかりました!」
再び4人同時の最大火力。
名づけて〝クアドラプル・アサルト〟――といったフルドライブバーストが、分裂したアディスを容赦なく飲みこんだ。
今度こそ消滅したはず。
「――って、何でぇぇ!?」
「おいおい、何でこんなに増えてんだよ!」
「粉々にしたせいなのっ!?」
「しかもこの大きさって……」
「フレームアームズ・ガールですね」
「だから、誰がアインハルトさんに余計な知識をぉぉ~~~~っ!?」
茶色いバーゼラルドやスティ子みたいなのが、無数に飛び交う。
しかも、倒した先から消滅ではなく分裂していくのだ。
際限がない。
「スピードに定評のあるわたしですがぁ~、流石にこれは~~」
まとめて3体のアディスを叩き潰したアインハルトさんが動きを止める。
「どうしました!?」
「ヴィヴィオさん、コレを――」
アインハルトさんの拳。金属製のナックルが茶色く錆びて、黒いグローブまで溶け始めている。
「まさか――」
慌ててわたしも自分の手を見る。
同じだ。バリアジャケットがアディスに侵食され素肌が見え始めていた。慌てて防護服を再生すると、
「ロッテっ!!」
耳をつんざくような悲鳴が上がる。
「アリアさん、何が――」
慌てて駆け寄ろうとして、
「こっちに来んな、ヴィヴィオっ!!」
ロッテさんの怒鳴り声が、わたしの足を制止する。
「その手!?」
ロッテさんの拳が、腐ったように茶色く変色していた。
猫の使い魔であり、誰より多くアディスを倒した結果がコレだ。
わたしやアインハルトさんと違い、グローブをつけていない――といった影響もあるのだろう。
「ロッテさん、下がってください!」
「大丈夫だ! あたしにはまだ魔法がある!!」
しかし、アディスはもっと小さく、もっと数を増やし、ロッテさんに群がっていく。容赦なく。
まるで、イナゴの大群のよう。
「喰らい尽くすモノって……そうか、そういう意味だったんだ!」
「ロッテぇぇ――――っっ!!」
助けに向かおうとしたアリアさんを、アインハルトさんが背後から両脇を抱えて押さえつける。
「素手では相性が悪すぎます! ヴィヴィオさん魔法で!」
「わかりました!」
バリアジャケットがあるから、多少無茶な魔法が直撃しても平気なはず。
「ディバインバスタァァ――ッ!!」
ママから獲得した大出力の魔力砲が、ロッテさんごとアディスを吹き飛ばす。
「ロッテさん! 逃げてください!」
爆煙が収まると、そこには、さらに数を増やしロッテさんに群がるアディスの姿が。
「どうして……」
これまでのアディスの分裂速度なら、一時的にでも消滅して、脱出の機会が得られるはずだったのに。
それが、まったくない。
ただ、増えていた。
「こんなのって……こんなのって、もう、分裂なんかじゃないよ!」
「増殖、ですね……」
潰そうが、焼き殺そうが、消滅した端から増えていく。
最早、手がつけられない。
「ロッテ、今助けに行くから!」
アインハルトさんの腕を、無理やりにでも振り解こうとするアリアさん。
ところが、
「アリア、来んじゃねぇぇ――」
「ロッテ!?」
「ロッテさん!」
まだ無事なのか、ロッテさんの力強い声が双子の姉を厳しく叱咤する。
「ヴィヴィオとアインハルトを連れて、とっとと引くんだ!」
「でも――」
「いいから」
声が震える。
「あたしならまだねばれる。だから、行くんだ!」
「ロッテ!」
「ロッテさん!」
さらに密度を増し、アディスがロッテさんに肉薄する。
それはもう、巨大な茶色の塊で、ロッテさんの姿を確認することすらできない。
「くっそ……お前らァァ……闇の書かよォォォォ――――ッッ!!」
ロッテさんの絶叫が押し潰されそうになった瞬間、天から真っ白い光の柱が降り注ぐ。
「これは!?」
薙ぎ払うように、ロッテさんにまとわりつくアディスの半数をえぐり取る。
さらに、
「着弾炸裂魔法!?」
目のくらむ白い閃光が連続して弾けると、無数の爆発音と共にアディスが一掃されていく。
そして、
「――呼んだか、ロッテ?」
空から舞い降りるのは、漆黒の翼に騎士甲冑をまとう大人の女性。
「八神……」
「八神ぃぃ」
「八神司令!」
「はやてさぁぁ~~~~んっ!!」
●
次回、ゴーストハンター・ヴィヴィオ 最終夜
『高町ヴィヴィオと導かれし者たち』
に――リリカルマジカル、がんばります!
ついに来たはやてさん、
これで勝つる!?
というわけで、
『アディスについて』
第2夜でちょろっと説明のあった禁忌兵器(フェアレーター)です。
前回の『はやてはお化けが怖い?』同様、一応、それっぽい理屈をこねくり回して能力を設定しました。
ベースになるのは、人や草木の命を腐らせる〝腐敗兵器〟。
おそらく、PSP版『GOD』の異世界エルトリアを崩壊に追いこんだ『死蝕』という現象も、これに近いと思います。
こういった腐敗兵器をコントロールするため、生き物の形を与え、さらに、増殖兵器マリアージュなどのシステムを加えていった結果がコレです。
作中でキメラといった説明がありますが、
劣化ナハトヴァールみたいな感じでしょうか?
ナハトヴァール >>> アディス
古代ベルカ時代に、存在してもおかしくない兵器ということで、あくまでリリカルなのはシリーズに登場した技術や能力の範囲内に収めているため、そこまで苦戦しない予定なのですが……??