学校の帰り道。
今日は久しぶりにアインハルトさんと2人きりでホクホクです。
「敬老の日は、アインハルトさんの(鉄アレイ型)クッキーのお陰で、プレシアさんといいコミュニケーションが取れました」
「いえいえ、私のクッキーが役に立って本当によかったです」
あ~、アインハルトさんの笑顔が眩しいぃぃ~、キラキラしてるぅぅ~。
あのクッキーが「美味しくいただきました~」ではなく、他の何に使用されたのかはとても言えない。
ともあれ、役立ったのは事実なので、わたしは「ありがとうございます」と素直に感謝を述べる。
「――で、リオからもらった〝ちびリオ〟が暴走しまして」
「あ~、またですか……」
「対抗して、プレシアさんが〝メカリニス〟というゴーレムを創成したんですけど」
「リニスさん……と申しますと『GOD』でお見かけしたり、映画に登場したりしていたあの方でしょうか?」
「はい、あの方ですね~。元テスタロッサ家の飼い猫で、後にプレシアさんの使い魔になった優秀な教育係さんです」
「ええ、思い出しました。元になった素体は……そうそう、ちょうど、あんな感じの山猫でしたよね――」
アインハルトさんが指差す方向を見ると、ちょうど低い塀の上で寝そべっている猫に、リオが木の枝でイタズラしようとしているシーンだった。
隣ではコロナが心配そうに見守っている。
「あ~、そうです、そう。ちょうどあんな感じで薄茶色のヒゲっぽい毛並みの猫さんで――あ」
突然、猫が2本足で立ち上がったかと思うと、体を捻りながらのアッパーカット。
リオの顎を的確に打ち抜いた。
「そうそう、メカリニスもあんな感じで昇竜拳を……って、えええええええええええええええええええええええええっっ!? 猫が昇竜けぇぇ~~んっっ!!?」
間抜けな顔でダウンしたリオの横で、コロナが「9・8・7・6……」とカウントしている様子が、もうスト2のコンティニュー画面にしか見えない。
「猫とは思えないほど見事なアッパーカットでしたね……はっ、まさかあの猫、本物のリニスさんということは!?」
「いやいやいや――ないでしょっ!?」
懐かしい〝今でしょ〟ばりに、わたしは激しく突っこんだ。
「ですが、メカリニスさんもそういった技をお使いになったのですよね?」
「……いえ、それはそうなんですけどね」
ヨガフレイムやらサイコクラッシャーまで使いこなしていたけれど……。
「たぶん、本物のリニスさんは昇竜拳なんて知らないでしょうし――ノーヴェは好きそうだけど――第一、ミッドの住宅街にリニスさんがいる……それも生きてるなんてありえませんから!」
数々の逸話を聞く限り、もう一人のフェイトママのママ――と言っても過言ではないリニスさんは、プレシアお婆ちゃんとの使い魔契約を終えて静かに亡くなったのだから。
猫は死に際を見せないとも言う。
もちろん、思い残したことや気がかりも多く、可能ならもっと長生きしたかったのだろう。それは『GOD』で現れた闇の欠片のリニスさんを見て、わたしとアインハルトさんはよく知っている。
だからこそ、リニスさんはもうこの世界に存在しないのだ。
「あの、ヴィヴィオさん――」
アインハルトさんが改まった顔つきでわたしに問いかける。
「以前から思っていたのですが、使い魔の契約を終えたからといって、素体となった猫がすぐに亡くなるとは限らないのではないでしょうか?」
「その話、詳しく聞かせてもらおうか!」
とぉぉっ! と勢いよく起き上がった黒髪少女が走りこんでくる。
「あ、リオ。コンティニューしたんだ」
「コンティニューって何ぃぃ!?」
「ゴメンねヴィヴィオ、お邪魔しちゃって」
リオを追ってきたコロナが苦笑いを浮かべる。
「大丈夫、大丈夫、最近はこんな風に4人でいる機会も減っちゃったし、久しぶりにこういうのもアリかなって――ですよね、アインハルトさん?」
「ええ、もちろんです」
初期メンバーですね――というわけで、近くの公園に移動すると、遠目に猫(リニスさん?)を眺め(監視)つつ、ベンチに座って話し合いをスタートする。
「まずはあたしからね。例えばアーチャーはマスターからの魔力供給を絶たれても固有スキルの〝単独行動〟で――」
いきなり違うネタ来たァァ!
「確かにサーヴァントも使い魔だけど、それリリカルなのはじゃないよねっ!?」
「まあまあ〝フェイト〟つながりってことで――」
「……いやいやいや」
騙されてはいけない。
コロナが「う~ん」と唸る。
「それに、リニスさんはアーチャーって感じじゃないよね。やっぱりキャスター?」
「コロナまで!? もう! リニスさんのクラスは、山猫ならアサシンだし、必殺技のプラズマセイバーって名称からすればセイバーだよ!」
「……ヴィヴィオ、さん?」
ハッ!?
「ちなうんです、ちなうんです!」
ついリオの口車に乗せられてしまった。
「ほ~ら、ヴィヴィオ~、こっちの世界においで~」
「もう~」
せっかく真面目な話をしようと思ってたのにぃぃ!
すると、リオが何かに気づいたように「あっ」と声を発した。
「よく考えたらランサーもいけるんじゃない?」
「フォトンランサーを使えるから?」
「ほら『自害しろ、リニス』みたいな台詞なかったっけ?」
「ないけどあったような気がしてきたけど、それランサーの固有スキルじゃないからね!?」
ダメだ、これ以上リオにつき合うと話が先に進まない。
それに、
「あんまり脱線してるとあの猫が逃げちゃうかもしれないし、話を戻すよ?」
「あー、うん、了解でーす」
珍しくリオが素直に従ってくれた。
あの猫の生態は、昇竜拳を食らったリオが一番理解しているのだろう。
「とりあえず、さっきのアインハルトさんの質問の答えにもなるんですが、そもそもリニスさんが使い魔になった経緯を説明すると、
①飼い猫のリニス、駆動炉の事故で、アリシアと一緒に亡くなる。
②プレシア、アリシアとリニスの遺体を保存液で満たしたポッドに入れて保管する。
③プレシア〝プロジェクトF〟により、アリシアの記憶を転写したクローンを作る。
④元の生活に戻るため、アリシアが全ての記憶を取り戻す前に、リニスを飼い猫の姿のまま使い魔として蘇らせる。
⑤プロジェクトFの失敗。外見はアリシアそっくりでも中身が違った。アリシアそっくりな少女を眠らせると別の計画にシフト。
⑤アリシアそっくりな少女――フェイトを鍛えるため、使い魔の猫リニスに人の姿を与え教育係にする。
その後、フェイトママの教育を終えたリニスさんは、使い魔としての契約を終えるわけですが……」
「あ、わかったよ」
コロナが「はい!」と手を挙げる。
「ゴーレム創成と同じでしょ」
「ゴーレム創成と、ですか?」
「はい。動物をベースに生み出されるのが使い魔で、無機物をベース生み出されるのがゴーレム――というのが、ゴーレム創成の基本なんです。
だから、飼い猫リニスの遺体から使い魔になったリニスさんは、使い魔の契約が終わり魔力の供給が絶たれると、ゴーレムと一緒で体を維持できない。
つまり、死んでしまうんです。
もちろん、術者と離れて活動することもあるだろうから、ある程度は……それこそさっきのアーチャーみたいに、しばらくは生存できると思うけどそんなには長くない。
特に、リニスさんみたいに桁違いに優秀な魔導師は、魔力の消耗も激しいから――」
長くは生きられない。
「だとすると、リニスさんが10年以上生き続けるためには……」
今度はわたしが答える。
「はい。
①プレシアさん以外に新しいマスターを見つけた。
②マスター以外から魔力を手に入れる方法を見つけた。
可能性があるとしたらこの2つかと」
リオが「でもヴィヴィオ」と否定する。
「忠誠心MAXなリニスさんは、他にマスター作らないんじゃない?」
さらにコロナ。
「②も危ういと思うよ? マスター以外から魔力を手に入れようと思ったら、それこそ『ViVid』1巻のアインハルトさんみたいに、列強の王達を倒し天地に覇を成すため――闇討ちして魔力を集めるくらい」
「集めてませんからぁぁ!?」
どちらかと言うと、ヴォルケンリッターの方が近いかな~。
「そして、リニスさんは、アインハルトさんみたいに管理局に捕まると」
「捕まって……捕まって……あぅ~」
「大丈夫、大丈夫。あれは保護という形でティアナさんが上手くやってくれましたから……まあ、ただ、当時アインハルトさんが謎の襲撃犯として、聖王教会と管理局からマークされてたのは事実ですけど」
「……あう」
アインハルトさんが力なく崩れ落ちた。
リオが言う。
「あとはもう、オリキャラでも出してリニスさんを救う――くらいしか手がないんじゃない?」
「それはブー、ダメだから」
あの猫がリニスさんだと言うなら、わたしたちは、そういうのはなしで、リニスさんの生存を立証しなくてはならない。
でも、
「リニスさんが生きていて欲しい――ってみんなの気持ちはわかるし、色んな突拍子もないことが起きる世界だけど、それでもやっぱり、無理なこともあるんだよ……」
リニスさんが助かるためには、もっと別の並行世界。フェイトママが闇の書の中で見た夢のような世界しかないのであろう。
「……でしたら、あのアッパーカットをした猫は何猫なのでしょうか?」
何猫……。
「えっと……バンザイする猫?」
動画で見た。
「いやいやいや、あたし確実に食らったからタイガーアッパー」
「昇竜拳だよぉぉ!?」
「タイガーアッパーだったってぇぇ!?」
「どっちでもいいんじゃ……」
「「コロナはどっちだと思う? 昇竜拳かタイガーアッパー」」
「違うでしょ! あの猫がリニスさんかどうかでしょ!」
そうでした。
「でしたら〝聞いてみる〟――というのはいかがでしょう?」
「誰にですか?」
「ヴィヴィオさんのお祖母様ですよ」
「あ~、プレシアさんですか!」
というか、最初からそうすれば色々ズバッと解決だったのだ。
「あ、コロナはいいけど、リオは顔隠しててね」
「どうしてぇぇ~~っ!?」
主に〝ちびリオ〟が原因である。
さっそく映像通信を送る。
『……ヴィヴィオ、あなたそう簡単にこちらとつなげてどうするのよ』
相変わらず不機嫌そうなプレシアさんだが、口元に煎餅のカスがついていることに触れないのは孫の優しさである。
すると、アインハルトさんが頭を下げた。
「初めまして、ヴィヴィオさんのお祖母様――」
――ブチン。
通信が切れたぁぁ!?
「うわぁぁ! お婆ちゃんお婆ちゃん、今のは小粋な覇王ジョークだからぁぁ~」
通信再開。
『あなたも全力全開でお婆ちゃん言ってるわよねっ!?』
「とにかく、今ちょっとプレシアお婆ちゃんじゃないと解決できない問題が発生してて――」
これまでの経緯を説明する。
「――で、あの猫なんだけど」
プレシアさんに見えるよう、いまだ塀で寝そべっているリニスさんによく似た猫を映し出す。
『ああ~、あの子ならリニス2世よ』
「「「「……リニス2世ぃぃ!?」」」」
あ~、そう言われればいたな~。
『魔法少女リリカルなのはINNOCENT』に……。
確か、テスタロッサ&ハラオウン家の飼い猫で、リニスさんの毛色に似ているから〝リニス2世〟と呼ばれるようになったんだとか……。
『INNOCENT』が並行世界の1つだとすれば、逆に、コチラの世界に〝リニス2世〟が存在していてもおかしくないわけで……。
「あ~、あの猫の正体……その手があったか~」
「つまりリニスさん本人ではないということですか……」
全て解決ではあるものの、アインハルトさんが肩を落とした。
まあ、リニス2世というのは意外だったけれど、オチとしてはこんなものだろう。
「……って、どうしてプレシアお婆ちゃんがリニス2世のこと知ってるのぉぉ!?」
仮に『INNOCENT』について知っていたとしても、こちらの世界の猫を、ひと目でリニス2世とは特定できないはず。
『ああ、あなた会ったことなかったわね。あの子うちの飼い猫よ?』
「……ええ~」
そうか〝プロジェクトF〟だ!
フェイトママ同様、リニスさんの複製体を作ったとすれば、リニス2世も十分可能なのだ。
リインフォースさんだって2世がいるわけだし……。
「って、どうしてこっちの世界に!?」
『勝手にそっちの世界に行ったのよ。どういう手段かは知らないけど、この前あなた実体でこっちに来たでしょ?』
エルトリア組――フローリアン姉妹と紫天一家――の技術をお借りしました~。
『そのお陰で座標の特定が出来たのよ。あとはもうアルハザードの技術があればどうとでもなるわ』
「……流石プレシアお婆ちゃん」
天才である。
『で、リニス2世が勝手に転移装置を使ってそっちに行ったというわけね。まったく、一体誰に似たんだか……』
「あはは……」
『悪かったですね、プレシア!』
『あうち!?』
『すみません、ヴィヴィオさん。2世が迷惑をかけたようで、今からアリシアと迎えに行きますんで』
画面には、プレシアお婆ちゃんと仲良くケンカする、どこかで見たような、薄茶色の髪を肩の辺りでそろえた理知的な大人の女性が映っていた。
ん~、んん……??
「リニス、さん……???」
わたしの見間違い?
いや、でも、確かに映像通信に映っているわけで……幽霊? いや、でも、えっと、どういうことぉぉ!?
何で生きてるのぉぉ!?
さっき、リニスさんが生存していないことを全力全開で立証したばかりなのに……。
『本当は私が迎えに行ければいいのだけど……』
『プレシア、捕まりたいんですか?』
『はいはい、わかってるわよ。そんなわけだからヴィヴィオ、アリシアとリニスとリニス2世のことお願いするわね――』
ん~、んん~~~ど、どうなってるのぉぉ~~っ??
またか! と思いつつ来週まで続く!
リニスだけは「無理かな~」「無理だな~」と思いつつ、ついにやってみました。
一応、
『みんな出かけてるのよ。アリシアならすぐに戻ると思うけど』
といった台詞など、以前からこっそり伏線だけは張っておいたのですが、それがようやく日の目を見ることに……。
気づいていた方はエライっ! というかスゴイっ!!
というわけで、最後に現れたリニスさんの正体が何者なのか、よかったら考えてみてください。
次回『わたしの世界にリニスさんはいない 後編』
で、リリカルマジカルがんばります!