「ザフィーラが記憶喪失~~~~っっ!!?」
しかも、自分を完全に犬だと思っているらしい。
さらに、タイミングが悪いことに、はやてたちはこれから出張なので、その間のザフィーラの世話を任せたいという。
二泊三日のザフィーラお世話生活。
ヴィヴィオとミウラは無事乗り切ることができるのだろうか??
1
ある日、八神家に呼び出されたわたしとミウラさんは、はやてさんからとんでもないことを切り出された。
「ザフィーラが記憶喪失~~~~っっ!!?」
「そうなんや、ほんでな、自分を完全に犬やて思っとる」
「えー」
「ど、ど、どうしましょうヴィヴィオさん、師匠が、師匠がぁぁ~~っ!?」
「ほらほらミウラさん、落ち着いてください」
ミウラさんは「ううっ」と、今にも泣きそうな顔つきでザフィーラの背中をなでている。
「つまり……ハンマー的な何かでぶっ叩いて、記憶を取り戻そうとか、そういうご相談ですか?」
「いや、それはもうヴィータがやったから」
グラーフアイゼンをゲートボールのクラブのように持ったヴィータさんが、そっと目を逸らした。
どうやら失敗したらしい。
「もしかして……ギガントフォルムで?」
「ちげーよ、ラケーテンフォルムだよっ!?」
「どっちもいい勝負じゃないですかぁぁ!?」
とはミウラさん。
「ホントもう、治療が大変だったんだから」
どうやら、シャマルさんの癒しの風が発動するくらいの騒ぎだったらしい。
するとシグナムさんがやってきて、
「そんなに心配することはないらしいそ。シャマルの知り合いの医者の話では一過性らしいからな、すぐに記憶も戻るだろうさ」
「な~んだ、よかった~」
「ただ、私たちの場合普通の人間とは違うから、ちょっと心配ではあるのだけど」
確かに、いくら無限再生の機能が失われ、人間と変わらない生活を送っている――とはいっても〝不老〟ということだけでも、十分普通の人間と違うことがわかる。
ん~、
「夜天の書の主になると、守護騎士みたいに歳を取らなくなる――みたいなオプションはついてないんですか?」
はやてさんが必死の形相でページをめくる。
「……い、今から追加することは可能やろか?」
「はやてちゃぁぁんっ!?」
「大丈夫だって、はやてはまだ若いから!」
「まだ」
「まだ?」
「くわぁぁ~、早くなのはちゃんから〝凍れる時間の秘法〟を蒐集しないとぉぉ――っ!?」
「いやいや、使えませんから……」
たぶん。
「それで、わたしとミウラさんが呼ばれた理由なんですけど」
「あ、そやった。危うく本題を忘れるところやった……。実はな、間が悪いことに私ら全員、今日から3日ほど出張なんや。
ほんで、その間ザフィーラの散歩やご飯を2人にお願いしたいんやけど」
「犬のエサ……ドックフード?」
「いやいや」
「そうですよヴィヴィオさん、師匠のご飯なんですから超高級缶詰のぉぉ――」
「いやいやいや、いくら自分のことを犬やて思っとる言っても流石にそれはな~。ちゃんと冷蔵庫にご飯を作り置きしといたから、それをレンジでチンするだけでええよ。
それと、2人の分も作ってあるから、好きに食べたってやー」
「「わぁ~っ! ありがとうございます!」」
はやてさんは料理上手だから楽しみだ。
「ま、ハズレもあるけどな」
とはヴィータさん。
「何そのロシアンルーレットっ!?」
「シャマルが作った分やけど」
「シャマルが作った分だけどな」
「シャマルが作った分だがな」
「みんな酷いっ!?」
「みなさんケンカはやめてくださぁ~い!」
そんな八神家とミウラさんを横目に、わたしは青い犬(狼)の前でしゃがみこんだ。
「ね、ザフィーラ、本当に記憶喪失になっちゃったの?」
「わんっ!」
今度クリスにバウリンガルの機能を追加してもらおうと思った。
こうして、わたしとミウラさん『2泊3日のザフィーラお世話生活』が始まったのだった。
2
早朝。
朝の陽光に照らされた海面が輝く中、ランニングを兼ねた散歩で、わたしはザフィーラの背に乗り砂浜を爆走していた。
「流石ザフィーラ、サラマンダーよりずっとはやーいっ!」
「ヴィヴィオさん、それ言いたいだけですよねぇぇ~~っ!?」
後方から必死に追いかけてくるミウラさんが、続けて叫ぶ。
「やっぱりリードつけた方がいいんじゃないでしょうかぁぁ~~っ?」
「大丈夫ですよ~。ザフィーラはお利口だもん。ね~、ザッフィー?」
「ガオ~~~ンッ!」
「ううっ……師匠~」
ニャンコ先生ならぬワンコ先生である。
そろそろいいかな?
「ザフィーラ、ストォォ~ップ!」
「よ、ようやくですかぁ~」
ぜーぜー言いながら追いついてきたミウラさんだけど、足腰の筋肉はまだまだ余裕がありそうだ。
流石はよく鍛えてある。
「お疲れ様でした~。まあ、人が多くなったらちゃんとリードつけますから大丈夫ですよ~。あ、そんなことより、ミウラさん、サムスピごっこやりませんか?」
「サムスピ?」
「GO! パピーっ!」
外見でいえば、ナコルルかレラの愛狼シクルゥにそっくりなのだけど。
わたしの掛け声で、ザフィーラがミウラさんに飛びかかる。
「うわっ!? ちょ、師匠、やぁ~」
傍から見ると、青い巨犬が少女を砂浜に押し倒している――というかなりデンジャーな光景なのだけれど、実際はベロンベロンである。ザフィーラがひたすらミウラさんをなめ倒すという。
もはやらめぇの世界である。
「ヴィヴィオさん、ストップ、ストップ、ストップぅぅ~~っ!」
「はっはっは、よいではないかよいではないか~。悪代官ではないけれど聖王だからいいよね?」
「いいわけないじゃないですかぁぁ~~っ!」
などと遊んでいたら、偶然通りがかった人が「少女が大きな犬に襲われている!」と勘違いしたらしく通報……ふぅ、聖王教会の力(権力)は偉大だなぁ……。
3
その後、わたしたちの手でザフィーラの記憶を取り戻そうと、シャマルさんのご飯をザフィーラに食べさせたり……。
まあ、食べなかったんだけど。
「五感の鋭い動物は、毒入りの食事を見抜くらしいですからね」
「ミウラさん、何気に黒い台詞を……」
「シャマルさんのご飯でショックを与えて記憶を取り戻させよう、って言ったのヴィヴィオさんじゃないですかぁぁ――っ!?」
●
アインハルトさんとリオコロが遊びに来て、
「シュトゥラの雪豹を思い出しますね……」
「あたしはやっぱり実家の猫かな~」
猫という名のタイガーだけど。
ザフィーラとじゃれあったり、
「荷電粒子砲、ファイヤァァ――っ!!」
コロナのジェノザウラー(ゴーレム)と戦わせて、ゾイドごっこをやったり、とても楽しかったのだけど……、
「ヴィヴィオさん、やっぱり師匠の記憶は取り戻せませんでしたね」
4
みんなが帰ったあとの八神家リビング。
窓の外はすっかり日が落ちており、静かな波の音だけが聞こえてくる。
「う~ん……」
「どうしたんですかヴィヴィオさん、そんなに考えこんで?」
「はい。いっそのこと、このまま犬だと思っている方が、ザフィーラにとっては幸せなのかなって」
「な、なんでですか!?」
「ザフィーラって、ずっと戦ってきたわけじゃないですか……それこそ、古代ベルカの時代から何百年も……だったら、この辺りでもう拳を収めて、普通の、戦いのない生活を送ってもいいんじゃないかって……」
「そ、それは……そうですけど……」
顔を上げたミウラさんが、真剣な眼差しで真っ直ぐにわたしを見つめる。
「ごめんなさい! ミウラさんの気持ちはうれしいんですが、わたしにはアインハルトがいますのでぇぇ!」
「違いますよっ! そーいうんじゃないですからぁぁ――っ!
えっと、ですね、ボクはもう八神家道場の生徒ではないですが、今も、かつてのボクみたいに師匠から格闘技を習っている子たちがいて、きっと、そこから強くなって、ボクやヴィヴィオさんのように、大きな大会で活躍できる子が生まれるかもしれない……いえ、強くなれなくったって、みんな格闘技が大好きで……それは、師匠のお陰で……ヴィヴィオさんだって、最初に格闘技の楽しさを教えてもらったのは師匠からなんですよね?」
「……はい」
「そんなボクたちを見る師匠の目は、厳しいですけど、同時に本当に嬉しそうで、楽しそうで、きっと……いえ、絶対に満足していたはずです。
格闘技を教える自分。
格闘技で戦う自分。
だって、師匠も格闘技が大好きだから、このまま戦いを忘れてただの犬として過ごすより、師匠なら絶対、戦う自分を選ぶはずです!」
「ミウラさん……」
わたしはザフィーラを見つめる。
「そう、ですね……そうですよね、ザフィーラはヴォルケンリッターの盾の守護獣だもんね、例え記憶を失っても、その胸には騎士としての誇りがあるはずだもんね……」
「ヴィヴィオさん……」
「すみません、ミウラさん。わたしが間違ってました……でも、今のうちに結婚とかさせてあげたいな~って。記憶が戻ったら絶対にしないだろうし」
「あはは、それはボクもちょっと思いますね~、って、あれ? あの、ちょっといいですかヴィヴィオさん?」
「はい?」
「師匠って、その、相手の女性は犬の方いいんでしょうか? それとも人の方がいいんでしょうか?」
「……うっ、う~ん、どうなんでしょう?」
ザフィーラの好みの女性なんて聞いたことがない。
「例えば、海鳴にいたころお付き合いしていた女性がいるとか?」
「う~ん、そういうのは……あ、でも、唯一可能性があるとすればアルフかなぁ~」
「アルフさん、ですか?」
「あ、はい。ミウラさんも映画で見たことがあると思うんですが、フェイトママの使い魔で、オレンジ髪の人型とわんこフォームになれる……」
「ああ~っ! 夏の映画で師匠の背中に乗っていた!」
「はいはい、その子です!」
「以前はもっと大きくて、師匠の色違いみたいだった方ですよね?」
「あ~、はい」
色違いかぁ~。
でも、当たらずといえども遠からずかも。
「確かに……ボク、戦いの場で、あんな風に誰かを背中に乗せてる師匠なんて初めて見ました。余程アルフさんのことを信頼しているんですね……ムムッ、これは脈アリかもっ!?」
「問題は守護騎士と使い魔の組み合わせってところなんですけどね……ん~、でも、高町とハラオウンと八神――三家の同盟関係をより深めるためにくっつけるのは確かにアリかもですね~」
「そんなベルカ諸王時代みたいな考え方をしなくても~」
「ミウラさん、ベルカの戦乱も聖王戦争も、わたしにとってはまだ何も終わってないんです……」
「それ言いたいだけですよねっ!? アインハルトさんみたいでカッコイイからぁぁ――っ!!」
懐かしのてへぺろで誤魔化してみる。
というわけで、地球から八神家にアルフを呼んでみました。
5
「がうっ!」
「はぁ~、まさかあんたが記憶喪失になってるなんて、あたしゃ情けないよ」
何だかちび●る子ちゃんみたいな口調で嘆息したアルフは、年々幼女化が進んでいる気がする。
「モビルスーツもF91の時代には小型化したっていうしね!」
「ヴィヴィオさん、それ意味わかりませんから」
「それで、拳でぶっ叩けばいいの? それとも斜め45度のチョップ?」
「あ~」
何でこうアルフは昭和感が濃いんだろう。
「ヒーラー(シャマルさん)がいないからパーティーアタックはなしの方向でね。あと、一応そのうち思い出すって話だから」
「そう? ま、このまま何も思い出せなくなるようなタマでもないしね。何だったら動物形態にでもなって話しかけてみようか?」
「あ、それいいかも! 犬と人ではなく、犬と犬ならまた違った結果が出るかもだし」
思ったより早く記憶が戻るかもしれない。
アルフは「あいよ」と答えると、早速子犬フォームに変身した。完全に小型犬である。
「こ、これは可愛いですね……」
「ミウラさんって、意外に可愛いもの大好きですよね~」
「意外って……」
「だからヴィータさんのことも?」
「ちょー、そーいうこと言わないでくださいよぉぉ――っ!?」
こうして小さなアルフと大きなザフィーラの交流が始まったのだけど……。
「ほら、お互いにくんくんお尻の匂いを嗅いでるじゃないですか?」
「はい」
「あれって、犬の世界ではあいさつみたいなものらしいですね。犬は嗅覚が優れているので、お尻の匂いだけで、色々な相手の情報がわかるらしいですよ?」
「へぇ~」
「まあ、そもそもしつけや相性が悪いと、匂いすら嗅がない、嗅がせないみたいですけど……」
「あはは、そこは人間の世界と一緒ですね。上手く行くといいですけど」
「はい。上手く行けばカップル成立ですね~」
ただこの光景、もし、アルフ(幼女)とザフィーラ(成人男性)が人型でやっていたと思うと……わたしはくるっと振り返った。
「ミウラさん、これって事案なんじゃ?」
「違いますよぉぉ!? 犬同士ですっ!」
「は……早く通報しないと……」
「しませんよっ!?」
後日、記憶はちゃんと戻りました。
今更なんですが、ヴォルケンリッターって病気になるのでしょうか?
怪我をしたら血が出るわけで、かなり人間に近いようですが、外見が変化しないので、やはり人間とは違う。はやて(中の人)だけにサーヴァ……こほんこほん。
何にせよ、あと40年もすれば、
「昔は姉妹みたいって言われとったのに……今やお婆ちゃんと孫や……」
みたいな感じに……ぐはっ!?
とある休日。
高町家のリビングでヴィヴィオとなのはが談笑していると、突然、家屋全体が大きな震動に襲われる。
「ナニゴト!?」
そこに現れたのは『GOD』後の〝なのは〟と、『2nd A's』後の〝なのは〟で……。
次回『トリプルなのはブレイカー』
で、リリカルマジカルがんばります!