アインハルトさんはちっちゃくないよ!   作:立花フミ

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クリスマスの夜。
現在では無人世界になっている旧ベルカ上空に現れたのは、ヴィータそっくりなサンタクロース姿の謎の少女。
彼女の正体に気づいたなのはとヴィヴィオは説得を試みるが……??
聖夜の空を彩るように、桜色と赤色の魔力光が15年ぶりに激突する!!
果たしてサンタ少女の正体とは!?



サンタクロースを捕まえろ! 後編

       1

 

「見つけた!」

 

 聖夜のベルカ上空を飛ぶわたしとなのはママは、ようやく目的の相手に追いついた。

後は確保するだけ。

 

「止まりなさーい!」

 

 トナカイが引くソリに乗ったサンタクロース姿の紅の鉄騎は、まったく止まる様子がない。

 

「待って、ヴィータちゃん!」

 

 なのはママが名前を呼ぶと、ようやくソリが止まる。

 

「誰だお前? どうしてあたしの名前を知ってんだ」

「高町なのは……と言ってもわからないか」

 

 サンタクロースの格好である理由は思いつかないけれど、未だ残っていた〝闇の欠片〟が、何らかの形で活性化し、古代ベルカ時代のヴィータさんの記憶や意思を再現している――というのが、わたしとなのはママの結論だった。

 つまり、はやてさんを夜天の主として認める前の彼女なわけで、わたしはもちろんなのはママのことすら知らない状態ということだ。

 不意に、ヴィータさんの視線がわたしに向いた。

 

「そっちのお前は知ってるぞ、右目が緑、左目が赤の虹彩異色。聖王家の出身だろ。理由はわかんねーが、あたしの邪魔をするというなら叩き潰すまでだ!」

 

 平たい銀のハンマーの先端が戦鎚のように尖り、さらに推進ユニットによって使い手ごと加速。回転しながらわたしに襲いかかってくる。

 

「危ないヴィヴィオ!」

 

 咄嗟にラウンドシールドを張ったなのはママが、わたしをかばい打撃を受け止めた。

 

「く……っ!」

 

 確かに、闇の欠片の戦闘力は本物に引けを取らない。とはいえフェイクはフェイク。能力が変わらない〝武器〟と違い〝人〟である。過去の記憶再現である限り、成長した人間には敵わない。

 だから、以前、本気の勝負で負けたことのあるヴィータさんが、現在のなのはママに勝てる道理はない…………はずだったのだけど、

 

「まさか、なのはママが押し負けてる!?」

 

 ヴィータさんが吼えた。

 

 

「ぶち抜けええェェェェ――――ッッ!!」

 

 

 ラケーテン・ハンマーが、かつてのように桜色の盾を打ち砕いた。強化したレイジングハートのフレームで受け止めるも、その勢いはとどまるところを知らない。カートリッジが消費され、ノズルから噴射する炎が勢いを増した。限界。きゃぁぁ――となのはママが悲鳴を上げた瞬間、白いエース・オブ・エースの身体が地上に向かって叩き落された。マズい――

 

「ディバインバスタァァ――ッ!」

 

 わたしは、追撃を仕掛けようとする紅の鉄騎を牽制すると、すぐになのはママの救出に向かう。それを見たヴィータさんは「ふん」と鼻を鳴らすと、再びトナカイのソリに乗って立ち去っていった。

 助かった……?

 

「大丈夫!? なのはママ!」

 

 背中に回りこんで支える。そして、ゆっくりと地上に降り立った。

 

「うん。ちょっと油断した。まさか闇の欠片にあんな力が出せるなんて……」

「闇の欠片じゃないってこと?」

「わからない……。でも、もう一度戦ったら今度は油断しないよ。必ず勝つ!」

 

 それでこそわたしのママ。不屈のエース・オブ・エースだ。

 

 

       2

 

 

「またお前らか!」

 

 杖とバリアジャケットを修復したなのはママが、再びサンタ姿のヴィータさんに挑む。今度はわたしも最初から強化モードだ。

 

「聞いてヴィータちゃん! ううん、ヴォルケンリッターのひとり、鉄槌の騎士ヴィータさん! あなたも薄々おかしいと気づいてるんでしょ? ベルカはもう滅んだの。300年も前に。現在は新暦80年。ベルカもミッドも関係ない。1つの国になって平和に暮らしている。そして、今のあなたは夢を見ているような状態。闇の欠片という闇の書の一部から生まれた存在。実体じゃないの。

 本物のヴィータちゃんは、私の同僚として一緒に時空管理局というところで働いて――」

 

 

「あたしはヴィータじゃねぇぇ――っ! サンタクロースだ!」

 

 

「何を言って……?」

「そっちこそ、あたしを鉄槌の騎士なんて名で呼ぶな! もうこれ以上あたしを戦わせんなぁぁ!」

 

 そう叫びながら、ヴィータさんはグラーフアイゼンを構えて正面から突っこんでくる。迎え撃つなのはママ。

 ピンクと赤の光が筋を引き、空中で絡み合うように体をぶつけながら交差を繰り返す。

 

「シュワルベ・フリーゲンっ!」

 

 振り向きざま、12個の鉄球が打ち出される。

 

「それはもう15年前に対策済みだよ!」

 

 レイジングハートの先端から放たれた12個を越える数の光弾が迎撃し、余りが思念誘導によって上下左右からヴィータさんに襲いかかる。間髪を容れず、エクセリオンモードに移行し突撃。

 紅の鉄騎も光弾を物ともせず吼える。ラケーテンフォルムで突貫。

 桜と紅の魔力光がベルカの空で激突し、光の華を咲かせた。再び距離を取る。睨み合う両者。

 

「これが、エース同士の戦い……」

 

 神眼のお陰で動きは追えているものの、わたしのつけ入る隙はまったくない。せめて、なのはママの邪魔にならないよう主戦場から離れて見守ることくらいしか出来ない。

 そして、まるで互いに示し合わせたように大技に入る。

 

 

「――轟天、爆砕ッッ!」

 

「――星よ―――ッ!!」

 

 

 荒廃したベルカの大地を打ち砕く巨大化な鉄槌と、ベルカの夜空を星の輝きで照らし出す桜色の収束砲が、広範囲に渡り衝突し合う。目のくらむ閃光。吸いこまれるような突風。大音響。

 

「セイクリッドディフェンダー!」

 

 あまりの衝撃に、わたしは思わず防御魔法を唱えてしまった。

 2人の魔力の激突はまったくの互角。いや、今のなのはママの方が上のはず。ところが、

 

 

「う……おおおおああああ――――!!」

 

 

 ヴィータさんの気迫に呼応して、さらに鉄槌がサイズと重さを増していく。胸の辺りから青い輝きが漏れ出す。

 

「こ、この魔力は……っ……?」

「あたしの邪魔をするなあああ!」

 

 信じられない。桜色の閃光が押されている。このままでは前回の二の舞いだ。なのはママ……。わたしは慌ててサポートに入ろうと試みるが、離れていたせいもあり間に合わない。

 その時だった。

 

 

「だらしねーぞ、なのは!」

 

 

 スターライトブレイカーを援護する形で、もう1本のギガントフォルムが打ちこまれた。まったく同じ形のハンマーがベルカ上空で激突する。使い手はもちろん、敵と同じサンタの衣装ではあるけれど、いつもと変わらぬ三つ編みの少女。わたしたちがよく知る本物の鉄槌の騎士さんだった。

 まったく同じ顔が2つ並ぶ。

 過去のヴィータさんが驚きで目を見開いた。

 その瞬間、2人の魔力が重なり合う。呼応し、これまでとは異なる紅の輝きを放つ。

 光の中、わたしはまったく別の光景を目にしていた。

 

 

       3

 

 

 それは遠い昔。どこかの戦場に建てられた砦の中でのこと――

 

「シンタクラース祭? 何だよ、それ……」

 

 赤い瞳に銀の長髪を揺らした女性が、ヴィータさんに向かって話しかけた。

 

「別の世界の風習だそうだよ。シンタクラースが持つ〝シンタクラースの書〟には、子供たちが1年間良い子だったか悪い子だったかが記録されているらしい。そして12月5日の晩、白馬に乗って空を飛び、良い子には煙突から入ってプレゼントをくれるそうだ。

 ひょっとしたら紅の鉄騎のところにもシンタクラースが来るかもしれないな」

「来るかよ、バーカ。くだらねえ。あたしらは人じゃねー。それ以前にあたしらが作られてから一体どれだけ経ってると思ってんだ? もしシンタクラースとかいう奴がいたとしても、あたしはもらう側じゃねえ、むしろあげる側だ」

 

 そう言うと赤髪の少女は場を離れる。

 

「どこへ行く?」

「うるせーな、どこでもいいだろ」

「そうか……」

 

 また、空を見に行くのだな――と銀髪の女性が優しく微笑んだ。

 それから、いくつの戦場で勝利を重ねたことだろう。

 ある雪の日。奇しくもシンタクラースの晩。主人の命令で敵対する魔導師を大人から子供まで全て叩き潰した後、ヴィータさんはそれを見つけた。

 

「こいつは……」

 

 植物の種子に似ている。高純度のエネルギー結晶体で『手にした者の願いを叶える』という伝承がある青い宝石。

 

「願いなんて……」

 

 遺体の山を見てふと思う。

 

「そうだな、戦いなんてしなくてもいい、こいつらに鉄の塊じゃねえ……そうだ、もっとシンタクラースみてーにプレゼントを届ける…………」

 

 ヴィータさんは頭を振った。

 

「ありえねぇ。ただの気の迷いだ」

 

 青く輝く宝石を握りしめると、廃墟と化した街に向かって力一杯投げ捨てる。宝石は紅の鉄騎の視界から消えると、光を放ちながら徐々に人の姿を模していった。

 それから青い宝石は、毎年シンタクラースの晩になると、ヴィータさんの願いを叶えるため、彼女の姿を模倣した。その度に、周囲から新たな情報を得て装いなどを更新していく。

 それはいつしか、サンタクロースになり、クリスマス・イブになり、ただひたすら子供たちを捜してベルカの夜空を彷徨っていたのだ。

 ベルカが滅びたことも知らず……。

 

 

     4

 

 

 光の奔流が収まると、わたしは現実に引き戻された。過去のヴィータさんの胸に灯る青い光。

 

「ナンバー外のジュエルシード……」

 

 スカリエッティも使っていた、記録には残っていない古代ベルカの遺産。

 本物のヴィータさんがグラーフアイゼンを振りかざした。過去の自分へと振り下ろす。

 

 

「お前の願いはな、もう叶ってるんだよ!」

 

 

 破城槌のごとき一撃が相手の戦槌を粉砕し、もうひとりの紅の鉄騎の胸に突き刺さる。サンタクロース姿の少女は満足げな笑みを浮かべると、静かに聖夜の空に溶けて消えた。

 残されたのはたった1つの青い宝石。

 ヴィータさんがつかみ、これで今回の事件は全ての幕が下りた。

 

「ヴィータちゃん……」

 

 溜め息を吐きながら、八神家の元気娘はなのはママに向かって言う。

 

「まったく、おめーは昔からクリスマスの度にとんでもねえプレゼントを持ってきやがる」

 

『闇の書事件』の時もそうだった。

 

「まあまあ、今年だって満更じゃなかったでしょ?」

「ふん――そういうことにしといてやるよ」

 

 ベルカの聖夜に残された願いが、数百年の時を越え成就した瞬間だった。

 

 

 

 




ヴィータの過去編は『魔法少女リリカルなのはStrikerS サウンドステージ03』の「古代ベルカ 闇の書の意志と守護騎士と」を参考に書いています。旧ベルカ時代のヴォルケンリッターの様子に興味がある方は一度聞いてみるといいかも。
初代リインフォースがヴィータのことを〝鉄槌の騎士〟ではなく〝紅の鉄騎〟と呼んでいたり、中々に興味深い内容だったりします。

ジュエルシードについて
『ORIGINAL CHRONICLE 魔法少女リリカルなのは The 1st』6巻に『あの庭園の駆動炉もジュエルシードと同系のロストロギアのはず……』という台詞がありますが、高純度のエネルギー結晶体という意味では、レリックや聖王核も、やはり同系のロストロギアだと思われます。
また、『StrikerS』の魔法辞典によるとジュエルシードは『~それぞれナンバリングされた21個が確認されており』とのことで、21個以上ある可能性が示唆されています。スカリエッティがレリックを50前後集めたところを見ると、アルハザード由来の技術で作られた宝石は、古代ベルカにおいてそれなりの数が出回っていたかと……。
ただし、ベルカ末期にはアルハザードの技術を再現できなくなっていたそうなので(ヴォルケンリッターもロストロギア扱い)、貴重にはなっていたと思いますが。
21個のジュエルシードそのものでなくても、同等の技術で作られた、同等の宝石であれば、古代ベルカの時代にヴォルケンリッターが出会う機会はあったと思うのですが、どうでしょう?

魔法少女リリカルなのはViVid 20巻
12月26日に最終巻が発売になりました。通常版でいいかなと思ったのですが最後なので特装版を購入。スティックポスター×6枚(ヴィヴィオ、アインハルト、コロナ、リオ、ミウラ、なのは&フェイト)がついてきます。表が制服で裏面が変身シーン。これまで何度もあったな~と思ったのですが、いつもより肌色分が多いです(笑)。
個人的な感想で言わせてもらうと、リオが凄いことになってるので、リオファンなら特装版を購入した方がいいかも(笑)。
内容に関してはコンプエースで読んでいたので知っていたのですが、単行本も出たことで晴れて情報解禁、ネタバレOK……と思ったけど、まだ買ってない人もいるだろうし……ここではあまり触れないでおきます。
ていうか、アインハルトさんの記憶どーしたもんかと(笑)。

そんなわけで今年もあとわずか、みなさん良いお年を~。


2018年、元旦。
わたしはゲンドウポーズで緑髪の先輩が目覚めるのをジッと待っていた。
「おはようございます。そしてあけおめです、アインハルトさん!」
そんなわけで、今年もやって参りました風雲ヴィヴィオ神社!!
第2回の今回は企画段階からヴィヴィオも参加して、
『聖王女を祭る伝説の〝ヴィヴィオ神社〟に参拝するため、君も八神はやて司令率いる機動六課の一員になり、数々の難関アトラクションを攻略しよう!』
という触れ込みに。
プレオープンの元日は、八神はやて率いる元機動六課とストライクアーツ関係者 VS 聖王ヴィヴィオ率いる聖王教会関係者+アインハルトさん。
果たして勝利の栄光はどちらの頭上に輝くのか!?

次回〝風雲ヴィヴィオ神社『弐』 前編〟

で、リリカルマジカルがんばります!
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