聖王教会主催『現代に蘇る――古代ベルカ諸王との交流会(という名の握手会)』が開催される!!
「ここは聖王教会ですし、一番人気はわたし――聖王でしょうね。きっとわたしの前には1万人くらいの長蛇の列が……」
「笑っていられるのは今のうちだけよ。今日こそ、旧ベルカの最強覇者は聖王でも覇王でもなく〝雷帝〟だということをハッキリ教えて差し上げますから!」
聖王ヴィヴィオ、覇王アインハルト、雷帝ヴィクター、さらに冥王イクスを巻きこんだ握手会の行方やいかに!?
年が明けて数日後。わたしとアインハルトさんは改めて聖王教会本部を訪れていた。
騎士カリムの執務室で、学校生活やストライクアーツのことなど、何気ない日常の出来事について語っていると、コンコン――ノックの音が聞こえてきた。
「どうぞ」
入ってきたのは見知った品のいい金髪のお嬢様……というかオカン。
「ヴィクターさん!」
「あらヴィヴィにアインハルトじゃない。この前はお疲れ様でした。どう? 元気してた?」
「はい」
さらにもう1人。赤みがかった金髪――ストロベリーブロンドの少女が顔を見せる。
「イクス!」
「ヴィヴィオ、アインハルト、それにヴィクターもごきげんよう。お茶を持ってきましたよ」
すると、騎士カリムが急にポンと手を打った。隣でシスターシャッハがまたか――といった顔つきで溜め息を吐く。
「コレは……そうね、歴史的に見ても中々ないことだと思うし、そろそろ握手会なんて開いたらどうかしら?」
「「「「握手会!?」」」」
古代ベルカ諸王の末裔たち――イクスだけ本人なのだけど――が、そろって顔を見合わせた。
●
そんなわけで後日。
聖王教会主催で『現代に蘇る――古代ベルカ諸王(子孫)との交流会(握手会)』なるイベントが開かれた。
会場はもちろんいつもの教会本部前。
何だかRPGっぽい玉座の間(またルールーが外に建てた)に、金の装飾が施された豪奢な椅子が4つ、横一列の等間隔に並べられている。さらにそれぞれの椅子の前には、赤いカーペットが真っ直ぐに敷かれていた。
もしも握手会の列に並んだとしたら、左からヴィクターさん、アインハルトさん、イクス、わたし――といった順番に見えることだろう。
ちなみに、今日はセインやシャンテたちが、最後尾を示すプラカード持ちをやってくれている。
わたしは一番離れた玉座に座る雷帝ダールグリュンの血を引くヴィクターさんに尋ねた。
「わたしたち以外にもベルカ王族の子孫っていると思うんですけど……集まらなかったんですか?」
「ええ、今や大半が一般人で、普通の生活を送っているから。ひょっとしたら、今でもとんでもない権力や資産があり、世界を影から支配するようなベルカ王族の子孫だっているかもしれない。だけど、そんな人物が握手会に参加すると思う?」
「……しませんね」
最近コナンの〝あの方〟の正体も判明したけれど、真の権力者は表に出てこないからこそ影なのだ。
「――となれば、ここは聖王教会ですし、一番人気はわたし――聖王でしょうね。きっとわたしの前には1万人くらいの長蛇の列が……。噂では、手や腕や首とかすっごい疲れるって言うし、いや~、困っちゃうな~」
「言ってくれますわね」
「で、2番人気はアインハルトさん!」
「私ですか!?」
「はい。なんたって覇王の末裔ですからね~。頑張ってくださいね。あ、でも、勢い余ってファンの手を握り潰さないでくださいよ?」
「しませんよ! ……たぶんですけど」
たぶんなんだ――とイクスが笑っている。
「ふんっ、3人とも笑っていられるのは今のうちだけよ。今日こそ、旧ベルカの最強覇者は聖王でも覇王でもなく〝雷帝〟だということをハッキリ教えて差し上げますから!」
わたしとヴィクターさんがバチバチ火花を散らしていると「あの~」という控えめなイクスの声が聞こえてきた。
「今回の場合、過去のベルカ王の人気とは別に、現在の各個人の人気――特に〝U19の総合魔法戦競技チャンピオン〟のヴィクターと、〝U15ワールドチャンピオン〟だったアインハルト――2人の握手会と考えた場合、ストライクアーツファンも多く集まるでしょうから、単純に諸王の知名度のみで競うことは出来ないと思いますよ?」
「……確かに」
イクスの言う通りだ。
ヴィクターさんがわずかに唸った。
「そうなると……自分で言うのもなんだけどこうかしら?」
空間ウィンドウに、ストライクアーツの実力順が表示された。
『1位ヴィクター 2位アインハルト 3位ヴィヴィオ 4位イクス』
「きぃぃ~~っ! 悔しいけど言い返せない!」
「それでは、客観的に判断した各王の人気・知名度も表示しますね」
イクスが空間ウィンドウにプラスする。
『1位聖王 2位覇王 3位雷帝 4位冥王』
雷帝のお嬢様は悔しそうにしているけれど、わたしのイメージもこんな感じだ。
アインハルトさんが「なるほど」と呟いた。
「つまり、過去と現在――総合的に判断すると上位3名はまったくの横並び、互角の人気ということですね」
わたしとアインハルトさん、ヴィクターさんの人気は同率1位ということだ。ん、
「ちょっと待って、だとしたらイクスは……?」
「「あ」」
イクスとしても、冥王としても、人気は低い。ぶっちぎりの最下位だ。
「あはは、私のところだけまったく列ができない――なんてこともあるかもしれませんね。破壊と殺戮を好む残虐なるガレアの王――なんて、いい印象を持つ方は少ないでしょう。ひょっとしたら1人も並ばないかもしれませんね」
明るく笑ってみせてはいるものの、
『『『こっ……コレはマズいっっ!!!』』』
哀れで思わず心を打たれる。わたしとアインハルトさんとヴィクターさんは視線を重ね頷き合った。念話を送る。
『ヴィクターさん、何かアイディアは?』
『急にそんなことを言われても……』
『アインハルトさんは?』
『いえ、私もさっぱりです……』
う~ん。
『冥王もダメ、ストライクアーツもダメ――となると第3の手を考えないと』
『ヴィヴィはいい考えがあるの?』
みんなのオカンとしては心配なのだろう。
『はい、1つだけですけど。握手会が始まる前にちょっと試してみましょうか?』
わたしはゼオライマーとは似ても似つかない、いたいけな冥王様に声をかけた。
「イクス、前みたいに小さな分身を生み出してもらえる?」
「え、あ……はい」
眠っていても出来たのだから、起きていて出来ない道理はない。
眠ったイクスの身体を寝室に運んでもらうと、小さな彼女をアインハルトさんから借りたティオの背中にドッキング。『ViVid LIFE インターバル編』の11ページで見たような、ちっちゃな冥王様が降臨である。
「こ、コレは……」
「思った以上に……」
「か、かわいいっっ!!」
想像してみて欲しい。
雪原豹と言いつつ、どう見ても愛くるしいニャンコなティオに、これまたディフォルメされた愛らしい冥王陛下が乗っかるのだ。
その相乗効果たるや、ティオ単品、イクス単品を遥かに越えて……グレートゼオライマー。
「ハッ!? これがイクスのメイオウ攻撃か!」
オカンの保護欲を駆り立てられたのか、現代の雷帝さんは玉座から立ち上がると、ふらふらイクスの最前列に並んだ。あなたは握手する側ですよ~。
何だか目つきがグルグルして怪しい。
「はあはあ、この子は今日からうちの子ということで……そうだ、ジークにも小さくなってもらってフーカから借りたウラカンに乗せて……2人で……はあ、はあ、はうっ!? 騎士カリムぅぅ、いくら寄付すればよろしくてぇぇ~~っ!!?」
『神雷』使う時みたいに金髪が青くスパークしてるぅぅ~~っ!?
「ヴィクターさん落ち着いて! 少し頭を冷やそうかぁぁ――っ!!?」
●
こうして交流会(握手会)がスタートしたのだけど、ミッドで人気のストライクアーツチャンピオンと握手できるというのは、想像以上に宣伝効果が抜群だったらしい。雷帝ヴィクターさん、覇王アインハルトさんの前には長蛇の列が出来ていた。
そして、心配された冥王イクスの前にも、今では長蛇どころかド●ゴンボールの〝蛇の道(閻魔大王の宮殿と界王星を繋いでるアレ)〟みたいに人が並んでいた。
開始直後は皆無だったものの、雷帝や覇王と握手した際、隣にポツンとたたずむイクスの愛くるしい姿に「触れてみたい!」と思ったファンが続出。並び始めたことがきっかけだった。
後はもうなし崩し的に列が伸びたわけだけど『ヴィクターさん+アインハルトさん』2人分なわけで、人数は減るどころか今も増え続けている。
そうか、これが次元連結システムか!?(違う)
一方、わたしはといえば、
「わたし聖王なのにぃぃ~~~~っ!!?」
聖王ヴィヴィオのレッドカーペットに閑古鳥が鳴く。
隣のイクスが実に申し訳なさそうにこちらを見るのだけど、あまりの忙しさにペコペコ頭を下げることしか出来ないでいる。
ヴィクターさんとアインハルトさんも同様。援護攻撃も援護防御も発動しない。
こうなったら仕方ない。
奥の手だ。
結婚式じゃないけれど、
「ちょっとお色直し行ってきまーすっ!」
玉座の間の控室に入ると早速――聖王モード!
いつもの大人モード(かつてのなのはママの年齢くらい)よりも若干幼い容姿。そして髪型もなのはママとは異なりシニョンをつける。衣装は青セイバーっぽい戦装束。ごつごつした銀のガントレットも忘れずに装着する。
「負けられない戦いがここにある!」
ノーマルの聖王モードは封印。
今日は、今日だけは、恥も外聞もなく聖王女オリヴィエモードで全力全開っ!
古代ベルカ史に燦然と輝く聖王のプライドに賭けて必ずや勝ってみせる!
いざ出陣――
「みなさん、お待たせいたしました――」
まるで、教会に飾られた絵画から抜け出したようなわたしの姿に、握手会に並んでいた信者たちはみな声を発することを忘れ立ち尽くした。
時が止まる。
鎮守の森に迷いこんだ静けさが6秒は続いた後、誰ともなく堰を切ったように大歓声が上がった。阿鼻叫喚。死屍累々。なのは完売しました~っ! 信者たちがビッグウェーブとなって一斉にわたしの列に向かって押し寄せた。
「ありがとうございます。これからも聖王教会をよろしくお願いしますね」
まさにオリヴィエさまさま。
聖王女は伊達じゃない!
今なら落下するゆりかごだって止められそうだ。
わたしの人気じゃないのが悔しいけれど、奇跡の大逆転である。
すると、イクスを挟んで向こう側。わたしを見たアインハルトさんが妙にそわそわしている。何だかもうやりたいことを抑えて我慢しているといった様子で、明らかに落ち着きがない。
そもそも、今の騒ぎで他の列の握手会はストップしているのだけど。
ヴィクターさんも気づいたのか「はあ」と嘆息した。玉座から立ち上がる。
「仕方がないわね。アインハルト、ちょっとこっちに来なさい。イクスも手伝ってくれる?」
先程のわたし同様、3人で控室に消える。
扉から漏れてくるグリーンの魔力光。どうやらヴィクターさんとイクスがサポートしているようなのだけど……?
しばらくして現れたアインハルトさんは、いつもと違い髪を1つに束ね、白いマントを羽織り、どことなくクラウス陛下を思い出す男装をしていた。
わたしのすぐ横まで歩いてくる。
「ヴィヴィオさん。握手会、一緒におこなってもよろしいでしょうか?」
「あ……はい、もちろんです!」
それはまるで聖王教会に伝わる宗教画のよう。再び信者たちの間からざわめきが漏れた。
その間に、ヴィクターさんはイクスを自分の隣の玉座に移動させると、残った王の椅子を持ち上げてわたしの隣に並べた。そして声を張り上げる。
「ここからは、聖王と覇王の列はセットになりますわ。焦らず、走らず、前の人から順番に合流してください」
4本あった列のうち、熱心なヴィクターさんファン以外、ほとんどの列の人がわたしとアインハルトさんの前で合流した。
シャンテが分身して対応しているものの、てんてこ舞い。わたしとアインハルトさんは顔を見合わせて苦笑した。
ちっちゃなイクスが、隣のヴィクターさんに話しかける。
「雷帝としてはよかったんですか? 聖王と覇王に塩を送って」
「そうね……まあ、600年前からの悲願であり、悲嘆で、悲恋だもの。今日ばかりはうちのご先祖様だって野暮なことは言わないわよ」
冥王と雷帝は静かに微笑むと、自分の列に並んでくれたファンたちと握手を交わした。
ヴィクトーリア・ダールグリュンについて
意外と知られてないかもですが『ViVid Strike!』の13話(OVA 特典映像)で、ヴィクターさんとジークさんの『U19総合魔法戦競技のタイトルマッチ』があったことが語られています。
結果、ヴィクターさんが勝利。
なので、現在は、
●格闘競技チャンピオン――ジークさん
●総合魔法戦競技チャンピオン――ヴィクターさん
ということになっています。
幼馴染でチャンピオンの座を分け合っている形ですね~。
『ViVid』20巻の2人の会話は、一応これの伏線になるのかもしれません……。
ちなみにこの試合、正確には新暦81年になってからなので、『ViVid Strike!』終了後の新暦80年を繰り返しているこの小説では行われていないはずなのですが、微妙な差なので、新暦81年3月までのイベントは起きたこととして扱いたいと思います。
4月になると、ヴィヴィオとリオコロが内部進学で中等科――アインハルトさんと同じ制服になってしまうので……。
ついでに補足すると、新暦81年の後半から『Force』です。
そんなわけで来週!!
ママたちからもらったポチ袋を手に、高町ヴィヴィオは悩んでいた。
「う~ん、お年玉何に使おうかな~。こういう時は、みんなに使い道を聞くのが一番だよね――」
そんなわけで各家を回ったヴィヴィオが最後に訪れたのは、幼馴染のゴーレムマイスター、コロナ・ティミルの家だったのだけど……??
次回『お年玉とコロナとBD2号機』
で、リリカルマジカルがんばります!