とある機会にシグナムにその話をすると、
「そうか……ならば……よし、探しに行くか!」
誰とは言わないが、ミッドでも有名な考古学の専門家を仲間に加え、ヴィヴィオたち3名は地球のイギリスへ向かう!
果たして炎の聖剣は手に入るのか!?
1
ことの発端は、わたしが竹書房文庫から出版されている『インディ・ジョーンズ 炎の聖剣』を読んだことでした。
みなさんお気づきの通り、リリカルなのはで〝炎〟と言えば、炎の魔力変換資質をもつヴォルケンリッター烈火の将――シグナムさん。
そんなわけで、ザッフィーの散歩をしに(時々したくなるのだ)八神家をお邪魔した際、平常運転、今日もビシッと赤髪ポニテの彼女に聖剣の話をしたのだけど……。
「そうか……ならば……よし、探しに行くか!」
「へ?」
「その剣は地球にあるのだろう?」
「ええ、そうですけど……っていやいやいや、何で急に!?」
わたしにとっては予想外の反応。
「最近シャマルやヴィータだけでなく、主はやてからも『仕事以外にも趣味をもったらどーや?』と言われることが増えてな」
「あ~」
その気持ちはわからなくもない。
「そこで、剣のコレクションでもしてみようかと思い立ったわけだ。名刀や魔法の剣といった類の物をな」
「そーいうことでしたか~」
う~ん……アレだ。
人間がある一定以上の年齢や役職になると、急に骨董品を集め出すようなものかもしれない。
そのうち某鑑定団辺りに出演して「ミッド在住のシグナムさん」とか「注目の鑑定結果は?」とか「いい仕事してますねぇ」とか言われるのだろうか?
ちょっと騎士っぽくないよっ!?
でも、
「確かにリリカルなのはの世界だと、武器ってデバイスが変化したのがほとんどですもんね。物語や伝説で語られるような魔法を付与した武器って見たことないかも…………って、ちょっと待ったぁぁ!
探しに行くって言いましたけど、わたしが読んだのはインディ・ジョーンズでフィクションの冒険小説ですよ?」
「ああ、それはわかっている。だが、かつて主から聞いた話によると、地球のシュリーマンなる人物は子供の頃に読んだ物語を信じ、大人になってからも夢を追い続け、古代ギリシアの遺跡を発見したのだろう?」
「そう言われると……って、いやいやいや、インディとトロイを一緒にしたら……あ~、でもインディも本場の方がいっぱい取材して書き上げたわけだし……ある意味、日本の埋蔵金伝説みたいなノリだとしたら、実際に剣が見つかってもおかしくないの……かな??」
可能性はゼロではない……はず。ただなあ~、
「この小説に出てくる炎の聖剣って、あのエクスカリバーのことですよ? そう簡単に見つかるとは思えないんですが」
「ほう、『Fate』に登場したあの剣か。主はやてから話は聞いている。一度手にしたいと思っていたところだ」
凛さん……じゃなかったはやてさんから一体どんな話を聞いたのかは知らないけど……。まあ、シグナムさんがセイバーポジションだと考えれば、それほど違和感もない……というか本当に発見したら大騒ぎ……ていうか、そんな伝説級のお宝、仮に見つけたとしても持ち帰れないよ~。
などと思っていたら有言実行。
次の休みにはもう、わたしはシグナムさんに連れられて地球に向かっていた。
あっという間だよ!?
しかもいつの間にスケジュールを押さえたのか、ミッドでも有名な考古学の専門家が同伴している。
「ふっ……行くぞ、なのはの使い魔」
「え、全然スケジュール押さえてないよね? 急にだよ急に! 高町家より強引だよ!?」
「あの~、ユーノ司書長~、大変申し訳ないのですが、地球での移動費が安くなるので、ずっとフェレットモードでもいいですか?」
「それは任せてよ――じゃなくて、どこに行くかも聞いてないんだけどぉぉ!?」
そんなわけで2人と1匹(?)による、これまで誰も見たことがない変則パーティーでのエクスカリバーを探す冒険が始まった。
2
今なおアーサー王伝説が色濃く残るイギリスに到着したわたしたち一行は、元管理局のグレアム提督のつてで、ロンドン大学の考古学部学部長と面会した。そして、かつてエクスカリバーが実在したという隠れ里の長への紹介状を書いてもらう。
そこは魔術的に隠された村で、余所者は簡単に立ち入ることも立ち去ることも出来ないのだという。
わたしたちはシグナムさんの運転する四駆で隠れ里があるという森に向かった。
「シグナムさん運転できたんですね?」
「ああ、随分前に主から『騎乗スキルは必須。できればBは欲しい』と言われてな」
「へー」
英霊ではないので、セイバークラスであっても自動で騎乗スキルが手に入るわけではないのだ。
というか『StrikerS』でも運転してたっけ。まあ、こうして役に立っているわけだし、これ以上突っこむのも野暮というもの。
フェレット姿のユーノ司書長が言う。
「セイバーで思い出したんだけど、『Fate』ですっかり有名になったエクスカリバーの鞘は探さなくていいのかい?」
傷を癒やす力があり、かの有名な魔術師マーリンに「剣の何倍もの価値をもつ」と言わしめた魔法の鞘である。
「なるほど。だが、私のコレクションは剣の方でな。あいにくと鞘は二の次だ。とはいえ、それほど有名な鞘であるなら、剣と一揃いになっているのではないのか?」
「あの~、ユーノ司書長、シグナムさん、ちょっといいですか?。その魔法の鞘なんですが、インディによると鞘は、何か月もかけてなめされた鹿皮で何層にも覆われていたそうです。けれど、溶液に浸して鹿皮をはがし、肌着に縫いつけたとありました」
「つまり、鞘はもうないと?」
「はい」
「そうか……だが、剣が無事ならそれでいい」
流石は剣の騎士。
すると、突然――かつてなのはママにしたように――わたしの肩に乗っていたフェレット司書長が「むむっ」と唸った。
「この先に結界が張ってあるね」
結界魔導師でもある彼の最大の見せ場である。森を覆う魔法の一部に穴を開けると、いざ神秘と伝説が残る村へ突入。
わたしたちは待ち受けていた村人――どうしてわかったのだろう――に紹介状を渡すと、長老である老婆の元に案内された。村人の話によると100歳を越えるというのに、とてもそうは見えない。ちょっと現実離れした雰囲気をもつ女性だった。
彼女によると、もう剣はこの村にはない。別の場所に隠されたのだという。
「どうしてですか?」
そんな貴重な物、村に置いておくべきなのではないだろうか。
「もう剣の時代ではないのですよ、ヴィヴィ」
「あれ? どうしてわたしの名前を……」
老婆は答えず黙って笑う。
「これまで何人もの偉い学者や騎士の称号を得た方々が剣を求めて村を訪れましたが、誰一人として手にした者はいません」
それはまるで岩に刺さった剣の選定のようで、同時に聖杯探索のようでもあった。
すると、老婆は自然な動作で立ち上がると、壁にかけてあった剣をつかんだ。刹那、老齢とは思えぬ力強く俊敏な動作で鞘から引き抜くと、シグナムさんに向かって振り下ろした。刃が白銀に煌めく。
「ちょ!?」
わたしとユーノ司書長は慌てて止めに入るが、当の烈火の将は動じない。避けもしない。いつも通り平静であった。喉元で剣先がピタリと止まる。
「どうして動かなかったのですか?」
「ご老人、あなたの剣からは殺気が感じられませんでした。それにしても、今の動作、歩法、剣速、かつては相当な騎士だったとお見受けしますが?」
老婆は嬉しそうに笑い白銀の剣を下ろした。
「そう……シグナム……貴女も騎士なのですね。いいでしょう、貴女に剣の隠し場所を教えてさしあげます。もし剣を手にすることが出来たのなら、炎の聖剣は貴女のものです。どこなりと持っていってもらって構いません」
「ほう……ありがたい。感謝します」
「え? ちょっと待ってください! エクスカリバーですよエクスカリバーっ!? 本当に持っていっていいんですか!?」
「ええ。もうこの村に後継者たり得る使い手はいませんから。マーリンが施した魔術は、すでに形を変え世界中の人々の心に刻まれました。もはやあの剣が実在するかしないかは、さして重要なことではないのですよ」
水面のような静けさで語ると、老婆は棚に置かれていた小箱から布切れを取り出した。1センチ×1センチほどの薄汚れた布片である。
「あの……それって?」
「かつて鞘を覆っていた鹿皮――と言えばわかるでしょう? もうこれだけしか残っていませんが、シグナム、貴女が剣の所有者になった暁には、いつか貴女の身を守ってくれるでしょう」
「ありがたく受け取っておきます」
烈火の将は胸元から布製の小袋を取り出すと、口を開けて中に鹿皮を入れた。
「お守りですか?」
「ああ、まだ日本にいた頃、主はやてからいただいたものだよ」
それを耳にした老婆が初めて目を丸くした。
「お守り……日本……はやて……貴女は日本と縁があるのですか?」
「ええ、私自身、主と共に7年近く住んでいましたから。私にとっては第2の故郷ともいうべき地ですね」
「そうですか……これも運命かもしれませんね。私は若い頃、着物を着た日本人に変装して飛行船に乗りこんだことがありましたから……」
100歳を越えるという老婆は、懐かしそうに目を細めた。
3
こうして隠れ里を後にしたわたしたちは森のさらに奥。地元の人たちが〝試練の山〟と呼ぶ山地へ向かった。
「試練の山って言うとFF4を思い出しますね」
「僕も昔なのはが学校に行っている間、暇だったから……じゃなくて、地球の文化や言語の勉強のためにプレイしたんだけど――」
ダウトぉぉ!
「確か主人公が試練を受けて、暗黒騎士からパラディンにクラスチェンジするんだよね?」
ちなみに老婆によると、かつてマーリンが作ったという王笏の力を使い、挑戦者の心を映し出す試練が与えられるのだという。
ちょっと似ているかもしれない。
シグナムさんが目を輝かせている。
「試練か……楽しみだな!」
「なんだかシグナムさんが、だんだんダクネスに見えてきました……」
山頂に辿り着くと、アーサー王の伝説さながらに岩に剣が突き刺さっていた。
「これを引き抜くだけでいいのか?」
「えっと、どうなんでしょう?」
「試しに抜いてみたらどうだい?」
マーリンやエクスカリバーの魔術がどの程度のものか知らないけれど、古代ベルカのロストロギアであるヴォルケンリッターであれば、難なく引き抜ける気がしてきた。
押し込んでから抜くと簡単に抜けるって話もあったな~。
ところが、柄を握った途端シグナムさんが頭を押さえて膝をついた。
「どうしたんですか?」
「声がする……ヴィヴィオ、ユーノ、お前たちは聞こえているか?」
わたしと司書長は頭を左右に振る。
「そうか、つまりこれが試練と……何だ、私が最も手強いと思い、最も戦ってみたいと請い願っていた相手に打ち勝て――だと?」
「シグナムさん自身とか?」
「シグナムのことだから、意外となのはやフェイトって可能性も……」
ところが、目の前に現れたのは漆黒の翼に騎士甲冑をまとうユニゾン状態の主――八神はやての姿。ただしベレー帽や上着がディアーチェの暗黒甲冑のように黒い。まるではやてさんの影だ。
「どうしてはやてさん?」
「なるほど、そういうことか……」
シグナムさんだけが納得している。
「高町なのはやテスタロッサとは戦うことが出来るし、これまでも戦ってきた。しかし、主はやてとは戦えない。想像することも控えてきた。頼めば模擬戦程度はつき合ってくれるだろうが、主は遠慮して本気を出すことはないだろう。私も同様だ」
ああ、そういうことか……。
常にストイックなシグナムさんにとって越えるべきは己ではない。ましてなのはママやフェイトママでもない。彼女が最強の存在のひとりだと確信していた友――闇の書の意志の力を継いだマスター、八神はやてその人なのだ。決して本気で戦うことが許されない相手。それは言わば叶うことのない夢のようなモノ。
シグナムさんが笑みを浮かべた。
「一度全力で戦ってみたかった。有り難い。これだけでイギリスまで剣を探しに来たかいがあるというもの。礼を言うぞ、ヴィヴィオ!」
こうして試練の山の頂上で『剣の騎士 VS ユニゾン夜天の主』という、二度と見ることがないであろう血戦が繰り広げられた。
そして戦いの行末は――
「はっはっは、流石は主はやて! それでこそ仕えがいがあるというもの!」
地面に四肢を投げ出し、仰向けの格好で転がるシグナムさん。惨敗だった。
「ユーノ司書長……」
「ああ、これはあくまで僕の推測なんだけど、あのはやてとユニゾンしているのは、まだリインフォースと呼ばれる前、それどころか〝闇の書の意志〟と呼ばれるよりももっと前、古代ベルカで〝夜天の書〟から〝闇の書〟に作り変えられた頃の、完全状態の管制融合騎なんじゃないかな?」
「それって、全ての機能が正常に動作していた頃のリインフォースさんってことですか?」
「うん。ヴィヴィオも知っているよね『闇の書の主となれば、一国を御することさえ可能』と言わしめた時代だよ。守護騎士として長く生きてきたシグナムが知る中でも、最強の魔導師の1人にして、もう二度と戦うことが叶わない相手。だからこそ、心の奥底でずっと戦ってみたい――と願っていたんじゃないかな?」
もしわたしがこれから先、もう全力でなのはママと戦うことが叶わなかったら、きっと同じ気持ちになるのかもしれない。
だとしても、彼女の魔力は現在のはやてさんを越え、正直見たことがないレベルの戦闘力を見せてくれた。ひょっとしたら――あるかどうか知らないけど――SSSランクすら越えているかもしれない。規格外。あるはずのない力。……いや、ひょっとしたら別の世界で本当に存在しているのかもしれないけど。
パーフェクトはやて。
シグナムさんは目を閉じて歌うように笑う。
「さあ、主はやて、とどめを――」
「ちょっと待ってください、シグナムさん!」
「いいのだ。我が主に剣を向けた時から覚悟はしていた。だが、ここに来て確信した。我らヴォルケンリッターは、最後の最後に、その強さにおいても気高さにおいても間違いなく仕えるべき主を正しく選んだのだと。悔いはない」
黒いはやてさんの手に、どこからともなく現れた炎の聖剣が握られている。そして――勢いよく烈火の将に突き立てた。
「ダメええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ――――――――――っっ!!」
次の瞬間、はやてさんの姿は明暗が切り替わるように消え、突き刺さったままの剣だけが残された。
「シグナムさん……?」
「大丈夫だ」
刃は彼女の身体を避け、脇の下から地面に刺さっていた。視覚トリック。見立て。あくまで儀式的な行為だったのかもしれない。
「コレは?」
フェレット姿のユーノ司書長が答える。
「打ち勝つ――というのは、単純に力で勝利することだけではなく受け入れるという意味も含んでいたんだと思うよ。シグナムにとっては数少ない負の感情。本気の主はやてと戦ってみたいという後ろめたさと、それでも戦いたいという欲求」
「ふっ……私もまだまだだな」
聖剣の刀身が夕日を反射してキラキラ燃えるように輝いていた。
「シグナムさん……」
うつむいたまま動かない。
生真面目な彼女のことだ、色々と思うところがあったのだろう。烈火の将は何かを悟ったように立ち上がると、わたしたちを振り返りこう言った。
「よし、早速次の伝説の剣を探しに行くか!」
川田アナみたいなスキップをしながら「剣の修行にもなるしな」とウキウキだ。
「ポジティブすぎる!」
「当分やめてェェェェ――ッ!?」
『インディ・ジョーンズ 炎の聖剣』なんですが、Wヒロインで、1方は前作からの付き合い。もう1方は今作からで、ヒロイン2人は子供の頃からの親友関係でラストは……って、何だか美少女ゲームみたいですが、日本でそのジャンルが定着するよりずっと昔の小説なので……スゴイです、これ。
さらに、今回の肝にして今作のヒロイン。エクスカリバーの所有者であるカイトリンを評する一文を、原作より抜粋させていただきます。
『彼女は美しく強靭な女性だった。肩は広く、剣を握る手は力強い』
『カイトリンは彼の見てきたものの集大成のような女性だった。彼女は歴史を背負った偉大な女性であり、女王であり、指導者であり、王女であり、女司祭だった』
『カイトリンはアーサー王の時代に住んでいるように、堅苦しく丁重な口調になった。ふいにインディは思った。そうだ、カイトリンは過去に住んでいるのだ。彼女の態度は演技ではない。彼女は過去の世界に住んでいるのだ! 彼女にとって、ここは別世界で、彼女の世界こそが現実なのだ』
察しが良い方はすぐにわかったと思います。ええ、今、改めてカイトリンをイラストにしたら、どう考えてもセイバー顔です。実写化したら日本語吹き替えは川澄綾子さんでお願いしますレベルです。
ちなみに、初版発行は平成7年(1995年)7月7日。〝777〟というすんごい日。
この時代にすでにこんな作品があるとは……。
興味がある方はぜひ読んでみてください。
ところで、パーフェクトジオングならぬ〝パーフェクトはやて〟なんですが『2nd A's』のパンフレットに載っていた、
(4)あらゆる危険から術者を守る絶対防衛システム「ナハトヴァール」によって守られる
(5)術者が死亡しても転生が可能で、無限の時を生きられる
が、完全に機能している状態です。
こりゃ勝てないよ!
さて来週は?
3月3日のひな祭り。
八神家のパーティーに参加する前に、高町家では母子3人でおしゃべりをしていたのだけど、
「ねぇ、なのはママ、フェイトママ。ひな祭りって何か伝説とかないの? 七夕みたいに」
という話題から、いつしか子供の頃の八神家ひな祭りパーティーでフェイトが体験した不思議な出来事が語られる……。
次回『不思議の国のフェイト』
で、リリカルマジカルがんばります!