「私も過去に時間遡行して、先代リインフォースに会ってみたいです!」
リインフォース・ツヴァイに相談されたヴィヴィオは、惑星エルトリアのフローリアン姉妹や紫天一家に事情を説明する。
そして、ツヴァイと一緒に14年前――過去の世界――新暦66年2月末日の海鳴市に飛んだのだけど……!?
1
先週――3月3日のひな祭りの際、八神家でリインさんにお会いしたときのことだ。
「私も過去に時間遡行してリインフォースに会ってみたいです!」
「えっと……」
ゆっくりと、目の前にいる蒼天の書に相応しいスカイブルーの髪の少女に指を向ける。
「私じゃなくてアインス――先代リインのことですよっ!」
「あ~」
「噂に寄ると、ヴィヴィオは最近エルトリアの人たちとよく会っているとか……」
「ええ、まあ、確かに会う機会が増えましたね~」
アミタさんや王様たちがちょくちょく来るせいもあるのだけど、一番の要因はレヴィが遺跡から拾ってきたパーツのお陰で、時間遡行システムの性能が格段にアップしたことだろう。
「映画の世界の私はアミタさんやキリエさん、それに王様たちとも顔見知りになったようですが、こちらの私はまったく会ったことがないですよー」
「そう言われると……リインさん『GOD』のときはまだ生まれてませんでしたし、サウンドステージでも会ってないんでしたっけ……。スバルさんやティアナさん、キャロやエリオですら会ってるっていうのに……」
「はう~、あのとき、はやてちゃんのそばにいなかったばっかりに~」
リインさんは「そんなわけで――」とわたしの手を取る。
「ぜひヴィヴィオには、エルトリアのみなさんとの仲立ちをして欲しいですよ!」
「わかりました。間に入るくらいだったら……」
考えてみると、わたしもちょくちょく会ってはいるものの、過去に行ったのは偶然巻きこまれた『GOD』のときだけだ。
こうしてエルトリアに映像通信を送って事情説明してみたのだけど、
『ダメです』
赤髪のお姉さん――アミタさんにきっぱりお断りされた。
「ど、どうしてですかっ!?」
昔と違い人間サイズのリインさんが食い下がる。
『時間遡行というのは、個人の欲望でそう気軽にやっていいものではないんです。万が一、それで未来が変わってしまったら……よくある例で申し訳ありませんが、たった1つの小石の行方が世界大戦を回避することすら有り得るんです』
「うう……」
映像先にピンクの髪が映った。
『私が言うのもなんだけど、そーいうものなのよ~』
赤毛と桃色。フローリアン姉妹そろい踏みだ。
「……で、ですが、みなさんは先代のリインフォースに会ったことあるんですよね!」
『それは、まあ……』
姉妹は顔を見合わせて頷いた。
「私にとって先代リイン――アインスは、お姉ちゃんみたいなものなんです。はやてちゃんやヴィータちゃんたちとも違う、〝特別なお姉ちゃん〟なんですっ! だから――」
空間ウィンドウに映るアミタさんがぷるぷる震えだした。
『と、特別なお姉ちゃん……っ……そ、そういうことなら仕方ありませんね』
『ちょ、お姉ちゃんっ!?』
『だってキリエ、しょうがないじゃないですか! 可愛い妹が時間すら越えて愛しい姉に会いに行きたいと願っているんですよっ!? この願いを叶えずして何がアミティエ・フローリアンですか!』
『えー、まあ、お姉ちゃんがいいって言うなら別にいいけど……。はあ、王様~、こんなことになっちゃったけど?』
キリエさんが振り返ると、そこにはエプロンに三角巾。
お玉にしゃもじというフル装備のディアーチェがいた。
『ふんっ、赤毛が話している時点でだいたい予想はしていた。それに、だ。あの融合騎には我らもいささか関わり合いがあるしな』
『だね~、僕らと戦わなかったらもう少し長生きしてたかも』
姿は見えないもののレヴィの声が聞こえてくる。
近くにいるのだろう。
となれば……、
『そういうことだ。シュテル、力を貸してやれ』
『はい。すでにユーリと計算を始めています。先に申しますと、リインフォースⅡ(ツヴァイ)、あなたを過去に送りこむことは可能です……が、条件が3つあります。
①少人数で行くこと。
②こちらから話しかけても、話しかけられてもいけない。ただ遠くから見守るだけ。
③用件を終えたらすぐに帰還すること。
この条件が飲めないようでしたら、時間遡行は諦めてもらいますが?』
「いえ、それで十分ですっ!」
『いい返事です。わかりました。詳しい打ち合わせはあとでするとして、準備が終わり次第こちらから連絡するということで――』
こうして1週間後の今日、リインさんとわたしの2人は、14年前――新暦66年2月末日の海鳴市に飛んだ。
2
「すみませんヴィヴィオ、わざわざつき合わせてしまって……」
「いえいえ、わたしももう一度この時間に来てみたかったですし」
わたしが同行した理由は、時間遡行経験者としてお目付け役が必要だったからだ。
そして、未来のエルトリアからさらに過去へ向かうより、わたしたちの時代から一緒に行く方が時空間への影響は少ない。
そうなると、わたしかアインハルトさんの2択であり……ええ、まあ、そーいうことです。アインハルトさんだと爆発オチがあるので……。
「そういえば、どうしてこの日――2月末日を選んだですか? もっと暖かくなってからの方がいいような……」
「あ、はい。それにはいくつか理由がありまして……。本来のリリカルなのはの世界では、『闇の書事件』の直後――12月24日の聖夜から朝方にかけてアインスさんは眠りにつきました」
「ええ、はやてちゃんから聞いています。だからアインスの写真や映像はほとんど残ってないんですよね?」
「はい。そうなると時間遡行したところでアインスさんを見るチャンスはとても少ない。なので、これから向かうのは『BOA』で分岐した、アインスさんが消滅せず、残された時間、はやてさんのそばに居続けることを選んだ世界です。
こちらの世界なら、少なくとも『GOD』――つまり3か月後の『砕け得ぬ闇事件』までは、確実にアインスさんが生存しています」
「なるほど」
「また『BOA』のころには不完全だったユニゾン能力を『GOD』のころに回復していたことから、アインスさんの最も体調がいいのは、2月の終わりから『砕け得ぬ闇事件』まで。
さらに、日本の気候は1月から2月が最も寒いので、わたしたちが帽子やマフラー、マスクなどで顔を隠していても違和感がない時期でもあります」
「つまり、こっそりアインスを見るのに最も適した時期が2月の終わりだったですね?」
「はい――」
そんなわけで、過去の海鳴市に着いたあとは、かつて実際に生活していたリインさんに従い八神家の様子を観察した。
白いセーター姿の初代リインフォースさんが、まだ幼いはやてさんを乗せた車椅子を押して散歩する様子を、わたしとリインさんは公園のベンチに座りながら見つめる。
さらに、どことなくぎこちないヴィータさんとのやり取り。
シャマル先生の料理を苦笑しながら口にする姿。
子犬形態のザフィーラに微笑み。
そして、互いを対等な相手として認め合うシグナムさんとの友情。
いずれも二度と見ることがない光景だ。
「リインさん、どうですか?」
「はわ~、リインも一度でいいからあの輪の中に入ってみたいなって……」
「気持ちはわかりますけどダメですよ。シュテルからも注意されたじゃないですか」
「はい、わかってます。わかってますけど……でも……いえ、そうですね」
蒼天の融合騎が寂しそうに笑った。
「あはは、これ以上見ていると余計に辛くなってしまうです。迎えが来るのはいつでしたっけ?」
「えっと、2時間後ですね」
「そうですか……。でしたらせっかくなので、その間昔の海鳴でも見て回りましょうか? リインが案内するですよー」
「本当ですか? やった! わたしも前は戦闘以外アースラ待機だったんで、自由に過去の海鳴を出歩くのは始めてなんですよ~」
ママたちが青春時代を過ごした思い出の街だ。
「今はもういない士郎さんや桃子さんがやっていた翠屋という喫茶店を、ひと目でいいから見てみたかったんですよね……」
「いやいや、今もバリバリ元気に営業してるじゃないですかっ!? そんなこと言って桃子さんに頭冷やされても知りませんよー」
「あはは、冗談ですよ、冗談……って、うわ、あの眼鏡の女子高生って美由希おばさんですか? 若っ!? そっか、今のなのはママたちより若いんだもんな~。むぅ~、時間の流れを感じる……」
「そんなところで感じられても~」
「だって桃子さんや士郎さんあんまり変わってないですし。あ~、なのはママも安心だ~」
「まあ、ヴィータちゃんたちもそうなんですけどね~。私ははやてちゃんの成長で時間の流れを感じますが」
「それはあまり言わない方が……って、そう言えばリインさんだって変わってないじゃないですか! 来年――新暦67年には生まれてるんですよね?」
「そうでしたっ! あ――だから、ディアーチェとレヴィはあんなこと言ってたんですねー」
「ですね~。たぶん2人とも、もしも自分たちが『闇の欠片事件』や『砕け得ぬ闇事件』でアインスさんを消耗させなければ、あと1年は生存してリインさんの誕生を見届ける未来もあったんじゃないか――って」
「IFの世界ですねー」
「はい。でも、どこかにそういう並行世界もあるかも――って、あ~、やっぱりリンディさんも変わってないなあ……あの人、いくつなんだろう?」
「え、ちょ、はわわッ、クロノ提督がちっちゃいですよぉぉ――っ!?」
「あ、リインさんが生まれたころってもうクロノ提督おっきくなってたんでしたっけ?」
映画を思い出していただければよくわかる。
66年の3月はまだちっちゃいのに、67年にはアレである。
成長期だとしても何があった?
やはりミッドの人間は急におっきく……おっきく……いやぁぁ、アインハルトさんはちっちゃいままでいて欲しいぃぃ!
ミウラさんはちっちゃいほぼ確定だけどぉぉ!
などなど堪能しつつ、冷静かつ確実、余分なことをしないことで有名な『理』を司るシュテルが迎えに来てくれる場所まで赴いたのだけど……、
「いませんね」
「来ないですねー」
わたしとリインさんはそろって「あれ~?」と首を傾げた。
彼女が約束を違える――それどころか、時間を間違えることすらまず有り得ないのに姿が見えない。
「場所はあってますよね?」
「はい。なので、う~ん、わたしが時間を間違えちゃったかな?」
「まあ、そういうこともありますよ」
「すみません」
「いえ、どのみち用件を終えたらすぐに帰還すること――って言ってましたから、私たちに長いさせる気はないでしょう。待ってればすぐ来ますよ」
それから約半日――辺りがすっかり暗くなり、街に明かりが灯り始めたころ、
「ちょ、ホントに迎えが来ないんですけど!?」
「ど、どうするんですかコレっ!?」
顔を見合わせてさん、はい!
「か、帰れないんですけどぉぉ――っ!!?」
「か、帰れないですよぉぉ――――っ!!?」
わたしとリインさんの全身には冷たく白い雪が降り積もっていた。
明日は、数年に1度の吹雪になるという……。
あまり大きな声では言えませんが、八神家で歳を取るのって、は**(自主規制)さんだけなんですよねぇ……。
「シャマルはええな~、ずっと若くて……」
もう○○年もしたら……ヤバイですね、これ……(笑)。
さて、来週です。
14年前にタイムスリップしたヴィヴィオとツヴァイが帰れなくなって3日後。
奇しくも3月3日のひな祭り。
過去の八神家で催される〝ひな祭りパーティー〟を、やつれた顔でテラスからのぞいていると、
「あー、料理結構残ってますねー」
「ヴィヴィオ、あれ、少しいただいちゃいましょうか?」
空腹の2人はクリスを誘導し、料理ゲットを目論んだのだけど……!?
次回『ツヴァイ、アインスに会いに行く 後編』
で、リリカルマジカルがんばります!