奇しくも3月3日のひな祭り。
過去の八神家で催される〝ひな祭りパーティー〟を、やつれた顔でテラスからのぞいていると、
「あー、料理結構残ってますねー」
「ヴィヴィオ、あれ、少しいただいちゃいましょうか?」
空腹の2人はクリスを誘導し、料理ゲットを目論んだのだけど……!?
1
あれから3日後。
奇しくも3月3日のひな祭りの日。
わたしとリインさんは未だに過去の海鳴市から帰れないでいた。
この寒空の下、公園や川原でチャンピオン(ジークさん)みたいな生活をしていたのだ。
――ぐぅ~。
「お、お腹が空いた……」
「リインもです~。そろそろ試食だけでは限界です~」
今時はパンの耳も簡単にはもらえない。
「油で揚げて砂糖をたっぷりまぶして食べると美味しいですよ~」
「そ、そうですか……」
ラクス・クライン……じゃなかったラスクみたいなものだろう。
どのみち油も砂糖もないのだけど。
――うぐぅ~。
思わずたい焼きが欲しくなる腹の音。
エネルギー消費を避けるため、リインさんは本来のちっちゃな姿に戻っている。
「はあ~、こんなことなら桃子お婆ちゃんにもらったお年玉を、ミッドの電子マネーに変えなければよかった~」
「ええ、リインも少しくらい残して持ち歩いてればよかったです~」
「リインさん、Sui●aとかnanac●の機能はないんですか? チャージしてあるとか……」
「ないですよっ!?」
買い物が超便利そうだ。
めげていてもしょうがないので、3日間海鳴市をすっかり観光し尽くした(他にすることがなかったともいう)わたしたちは、ひな祭りパーティーの催されている八神家へ。
玄関から右手へ回りこむと、テラスの植え込みに身を潜め、大きな窓から室内――リビングの様子をうかがう。
八神家、なのはママ、フェイトママ、アリサさん、すずかさん――彼女たちの楽しそうな笑い声が聞こえてくる。
「あー、料理結構残ってますねー」
「ヴィヴィオ、あれ、少しいただいちゃいましょうか?」
「そ、そうですよね。ちょっとくらい食べても大丈夫ですよね。気づかれなければ」
「そ、そーですよ、気づかれなければ」
「クリス、お願い――」
すでに素早い動きが困難になっていたわたしは、相棒であるウサギのデバイスに取ってこさせることにした。
視界を共有しながら料理を目指す。
「クリスにそんな機能あったですか?」
「あー、前に冬アニメの『血界戦線』を見てて思いついたんですよ。レオが〝神々の義眼〟でソニックを誘導したみたいに、わたしもクリスとできないかな~って」
「神眼だけに?」
「そんな感じで」
調子に乗ってヒャッハーする気力も削がれている。
とにかく栄養が必要だ。
余談だが、レオの妹ミシェーラの中の人はフェイトママだ。
「あ」
「ど、どうしたんですかヴィヴィオ」
「そのフェイトママに見つかっちゃいました!」
「え、ええええっ!?」
「クリス退却、退却、え、料理? もちろん奪ってきてぇぇ!」
「ちょ、どーすんですかぁぁ!? 私たちまで見つかっちゃいますよぉぉ!?」
「そ、そうだ、ポニテですポニテ! 前に王様が、次元震でエルトリアに飛ばされてきた並行世界のなのはママたちと会ったとき、はやてさんと同じバッテンの髪飾りを外して、髪型を変えてました!」
「りょ、了解です! ――って、ヴィヴィオはどうするですか!?」
「え、そ、そっか! わたしもマズいんだった。今月中には『砕け得ぬ闇事件』で去年のわたしと会うことになるし、ちょっとやそっとの変装じゃ記憶封鎖が破られて……そ、そうだ! こんなときこそユーノ司書長直伝の変身魔法で!」
全身を虹色の魔力光が覆いフェレットの姿に変わる。
その瞬間、玄関から白ウサギを追うアリスさながらに、クリスを追うフェイトママが飛び出してきた。
「ウサギさん待って――って、今度は妖精にフェレット??」
「はわわッ!」
「リインさん急いで逃げま――あ」
あっさり両手で捕まった。
ソニックムーブは反則だよ~。
ひゃっ――と引っくり返される。
「ユーノ……じゃない?」
「どこ見て言ってるのぉぉ――っ!?」
「ヴィヴィオ!? こ、こうなったら一か八か――ええぃ! 吸収ですっ!!」
「えっ!?」
2
ハッと気づくと、周囲が真っ白で起伏のない――地平線すら見えない――どこまでも続く空間に変わっていた。
わたしのそばには気を失ったフェイトママ(子供)が倒れている。
怪我はしてないようだけど、
「ここって……?」
「捕獲空間ですよー」
「リインさん!」
「通常は、対象だけを転送して閉じこめる魔法なんですけど……」
「問題ありませんよ、結果オーライです。フェイトママが気を失っているうちに脱出しましょう!」
「それが……その、内側からだと開放できないみたいで……私たちも閉じこめられたといいましょうか……まあ、そういうことです、はい」
OH!
「なんてこったい……」
「だからまだ上手くできないですよぉぉ!? アインスの残してくれた記憶を頼りに練習してるですが中々再現できなくて……」
「いえ、助けてもらったのはわたしの方なんで、責める気は……」
「ううっ、すみません、ポンコツ融合騎で」
「安心してください。そんなこと露程も思ってませんから。せいぜい、はわわ軍師やどこぞの潜水艦の艦長の休日くらいで」
「それ十分思ってますよねぇぇ!?」
「と、とにかくフェイトママが目覚める前に移動しましょう!」
万が一を考えフェレットモードのまま、クリスが調達してきた料理を食べつつ、全てが静止したような世界を延々と歩く。
「もきゅもきゅ……そういえば……この空間ってどうなってるんですか?」
目印になるものすらない場所。
「そうですねー。本来は幻覚魔法を使い捕獲対象が深層意識で望んだ夢を見せる――ですが、上手く発動しなかったみたいで、たぶん誰の精神にもアクセスしてない状態かと……」
「あ、それでこんな真っ白な……」
「ええ、でも、時間の流れだけは違ってると思うですよ? ゆっくりです。それに、外からは干渉されないですし、少なくとも、しばらくはなのはさんたちに気づかれることはないかと」
「あ、でもフェイトママが起きたら、TVアニメや映画みたいに内側からザンバーで真っ二つなんじゃ……」
あっさり破られる。
「その懸念はあるですが、たぶん使えないんではないかと……」
「どういうことですか?」
「ここ、一応八神家の庭なので……」
「あ~、結界の張ってない外に漏れ出して『はやてさんち真っ二つ事件』とか、フェイトママの黒歴史に新たな一ページが……」
それはそれで面白そうなのだけど、
「どーせ閉じこめるなら、なのはママの方がよかったかもですね~」
「やめてくださいっ! 来年リインが住むとこ消滅しちゃいますからぁぁ!?」
『八神家ブレイカー事件』である。
こうして、何だかよくわからない無機質な空間をぐるぐるしていると、
「にゃー」
「猫?」
いつの間にか足元に猫がいた。
しかも、1匹や2匹ではない。
どんどん数が増えている。
「ナニコレ……ま、まさかっ!?」
「知ってるですか、ヴィヴィオ!」
「はい。このミラクルな猫の集会。そして、フェイトママから聞かせてもらった昔話が真実だとしたらこの先にはきっと伝説の猫の王様が――」
いた!
明らかに周囲の猫よりも大きな存在。
頭には猫の耳。2本足で立ち、黒っぽい衣装をまとっている。
「リインさん……アレが猫の王様……ケット・シーですよっ!」
「な、なんだって――っ!?」
「いえ、期待させて申し訳ありませんが私です。シュテルです」
――ズコー。
フェレットモードのわたしとリインさんがずっこけた。
「よかった。ようやく会うことが出来ました」
「シュテル、どういうこと!?」
「2人を過去に送りこんだときは問題なかったのですが、私が迎えに行く時分になってどうにも時間の流れが不安定になってしまいまして……」
「不安定?」
「先に結論を申しますと、原因はキリエでした」
「……あー」
事件の発端はだいたいあのピンクの人だ。
「ご存知だとは思いますが、同じ時間を繰り返すことで逆流時間が重なると、空間のひずみが大きくなりとても危険です」
航時法――時間旅行者が最低限守るべきルールである。
「少しややこしい話になるのですが、かつてキリエが〝システムU-D〟を手に入れるために観測し続けたのがこの辺りの時間だったらしく、すでにかなりのひずみが生じていました。
わたしはそのひずみ――小規模な次元震に巻きこまれ色々な世界を旅するうち、いつの間にかこんなことに……」
衣服は変わり、無数の猫を引き連れていた。
おそらく『マテリアル娘。』や『INNOCENT』などに近い並行世界に迷いこんでいたのだろう。
そういえばスイートキャットのネコネコスーツみたいな格好に似ている気もする。
黒いけど。
「それで、こちらの世界の様子をうかがっていたところ、極めて安定した空間が生まれたので、ようやく正しく移動することができたというわけです」
「この空間にそんな効果があったですか」
「ええ、一種の並行世界に近いです。素晴らしい魔法だと思いますよ、ツヴァイ」
などと話していると、
「おーい! やっと追いついた!」
「フェイトママ!」
「フェイトさん!」
「フェイト?」
忘れてたぁぁ――っ!?
「シュテルごめん、外の世界でフェイトママに見つかっちゃって」
わたしと同じ金髪で、ツインテの少女は「ね、猫がいっぱい!?」と驚いている。
「仕方ありませんね――」
「え、巨大ね……こ……っ……」
シュテルがデバイス――ルシフェリオンをかざすと、フェイトママがパタンと倒れこむ。
「初歩的な眠りの魔法ですが、姿を見られる前に眠ってもらいました。私は『BOA』――『闇の欠片事件』で戦っていますから、気づかれると厄介です」
「あとで記憶封鎖じゃダメなの?」
「ええ、彼女に対しては最終手段です。下手に記憶封鎖を行うと『砕け得ぬ闇事件』のラストで私たちが記憶封鎖を行った際、私たち自身に、私たちの存在を気づかれてしまいますから。今回は私の顔をぼやけさせる程度に留めておきます」
敵はフェイトママだけでなく、過去のシュテルたちでもあるわけだ。
ややこしい話である。
何にせよ、これであのフェイトママが迷いこんだ不思議空間の謎は全て解けたのだけど……、
「そういえばフェイトママ、目覚めたら八神家のソファーで横になってたって……」
「なるほど。で、誰が運ぶですか?」
「……」
3人で顔を見合わせた瞬間、頭上から凛とした声が響いてきた。
「それは私がやっておこう――」
黒い羽を広げた銀髪の女性が舞い降りる。
「リインフォースさん!?」
「アインス……」
「融合騎、ですか……」
白いセーター姿ではなく、すでに黒い戦闘服をまとっている。
リインさんが慌てて問いかけた。
「どうやってここに入ってきたですか?」
「私の使うのと同じ魔法だったからね。君こそどうして使える?」
「そ、そうでした!」
蒼天の融合騎は「はわわッ」と飛び回る。
「そっちの子は……『理』のマテリアルかっ!? いつの間に復活を……それから隣のフェレット君、変身を解除してもらえるかな?」
「あう~」
すっかり忘れていた。
わたしがおとなしく元の姿に戻ると、
「その瞳は……まさか聖王家っ!? どうして地球に?」
説明するのに随分と骨が折れそうだ。
シュテルさんがアインスさんに話しかける。
「融合騎、私たちはあなたと敵対する意思はありません」
「……まあ、その格好を見ればわかるけどね」
シュテルにまとわりつく大量の猫たちが一斉に「にゃー」と鳴いた。
このモフモフとはちょっと戦えない。
「できれば、事情を聞かずに立ち去ってもらえるとうれしいのですが……」
シュテルの言葉に、初代リインさんは頭を左右に振った。
彼女の立場ならしょうがないだろう。
八神家の――はやてさんの身を守るのが彼女の役目なのだから。
「ヴィヴィオ、シュテル。リインフォースならちゃんと事情を話せばわかってくれるはずなのです」
「ツヴァイであるあなたが言うなら」
「わたしも賛成です。なのはママたちと違ってすぐにドッカンバトルしないし、はやてさんほどタヌキじゃないし……」
「何だか凄い言われようだが……だいたい合っているような気もするところが」
銀髪の女性はクスクス笑う。
「あの、リインフォース、いいでしょうか? 口で説明するよりも早いと思うので、私と同期してもらえますか?」
「同期?」
はい――とリインさんが先代リインフォースさんの手を取った。
一瞬ぶれたようなノイズが走り、情報が共有される。
「……っ……まさか、君たちは本当に未来から?」
「はい」
「そして君が……私のあとを継いでくれた……」
「リインフォースⅡですよ、リインフォース。あなたの残してくれた記憶映像でお会いしたことはありますが、こうして本物と話したのは始めてです」
「そう、か……」
「はい。本当はこんなことよくないってわかっていたですが、時間遡行できると聞いて、どうしてもひと目でいいから会ってみたいと思って……」
「いや、会いに来てくれてうれしいよ」
巡り合う姉妹。
この場にアミタさんがいたら号泣だろう。
「あの、ヴィヴィオ、シュテル、ちょっといいでしょうか――」
わたしとシュテルはリインさんのお願いを聞き、しばらく2人だけにしてあげた。
彼女たちがどんな言葉を交わしたのかはわからない。
だけど、初代リインさんは胸のつかえがおりたような顔つきで、とても満足げな表情を浮かべていた。
わたしはシュテルに問う。
「これ、大丈夫なのかな?」
ペラペラしゃべってしまって……。
「管制融合騎はブラックボックスの塊ですから、記憶封鎖の1つや2つ、私たちがかける前から受けているでしょう。他の人たちと違い、私が追加したところで問題ありません。それに、彼女は『砕け得ぬ闇事件』のあと間もなく眠りについたと聞いています。それくらいの期間であれば、私の記憶封鎖が破られることもないでしょう」
「なるほど……」
そういえばヴォルケンリッターたちも、夜天の書が完成すると主に破滅をもたらす――という記憶を消されていた。
アインスさん共々、他にも無数の記憶を代々のマスターたちが意図的に操作したのだろう。
しばらくして2人が帰ってくる。
その場でもう一度だけ――とリインさんが先代リインさんに向かって尋ねた。
「今の私に蓄積されたデータを使えば、あなたを救うことも可能かもしれませんよ?」
「ありがとう。だけど、もし私が助かってしまったら今いる君が消滅してしまう。生まれないかもしれない。それはよくない」
シュテルも言う。
「そうですね。誰が融合騎を助ける技術を提供してくれたのか――パラドックスが生じます。それもこの時間にとっては無視できないひずみになるかもしれません」
「……ですか」
ああ――と言って、アインスさんがわたしに近づいてくる。
「ヴィヴィオ。君とはもう少ししたら再会できるそうだね」
「あ、はい。ただし去年のわたしですけど。その、拳を向けることもあるかもなので、先に謝罪を――」
「いや、そんなことはいいんだよ。それよりも……主はやてに君のような子供がいないことだけが心残りだよ」
「あはは……そればっかりは……」
「それじゃマテリアル――いや、シュテルというんだったね。君ともまた会うことになるけど」
「ええ、私はまだしばらくあなた方と敵対することになりますので、その際は容赦なく拳を交えてください」
「ああ」
シュテルがルシフェリオンを構えた。
「これから記憶封鎖をかけます。いいですか? すぐに消えるわけではありません。少しずつ薄くなっていき、5分ほどで完全に何があったか思い出せなくなるよう調整します」
「それまでにフェイトをソファーで寝かせればいいんだね?」
「はい。フェイトママのことよろしくお願いします!」
「了解した」
この子たちがママか――と、アインスさんはまだ子供のフェイトママを見て、クスクス笑っている。
「ツヴァイ、主はやてと騎士たちのこと頼んだよ。未来のみんなにもよろしく伝えて欲しい」
「はい。お任せください、お姉ちゃん!」
「ああ――」
寂しそうにリインさんを見つめながら、それでいて安堵に包まれた笑みを浮かべると、先代リインフォースさんはフェイトママを抱えて結界から飛び去った。
「リインも、あんな風にはやてちゃんとみんなを支えられる融合騎になれるでしょうか?」
アインスさんの、曇りのない蒼空を見上げるような表情を思い出す。
「もうなってるんだと思いますよ。アインスさんの――自慢の妹さんに」
リインさんは照れたように笑い、
「じゃ、帰りましょうか!」
と、新たな一歩を踏み出した。
というわけで、これで『不思議の国のフェイト』の真相が全て明らかになりました。
何だか長かったな~。
そして「今週もアインハルトさんに出番がなかったな~」と思いつつ、来週はついに出番があるような、ないような……?
ある日の学校の帰り道。
「アインハルトさんって、実際はどの程度まで飛べるんですか?」
「え、私ですか? 飛べませんよ。ヴィヴィオさんも知っての通り、ずっとジム・ストライカーみたいに陸戦だったじゃないですか」
「またまた~、初等科で飛行魔法習ったくせに~」
という疑問に対して、お久しぶりです。
毎週異なるゲストをお迎えして、視聴者のみなさんの疑問に、高町家っぽく答えていこうというあのコーナーに〝空戦といえばこの人!〟高町なのは一等空尉をお呼びして、飛行魔法について徹底調査を敢行!!
果たしてアインハルトさんやヴィヴィオは、本当は飛べるのか、飛べないのか?
次回『アインハルトさんは飛べますか?』
で、リリカルマジカルがんばります!