もう1つの〝リリカルなのは〟を描く話題作!
『劇場版 新魔法少女リリカルなのはViVid The MOVIE 2nd DAYS』
その冒頭15分間を、小説版にて先行公開!!
『先日、第23管理世界ルヴェラの鉱山遺跡で発生した襲撃事件と、第18管理外世界イスタで起きた大規模破壊の関連性について、エクリプス保有者の関与が疑われ――』
『管理世界天文学連合の発表によると、新たに発見された惑星が公転周期600年という特異な楕円軌道であり、旧ベルカに超接近する可能性があるとして――』
クリスが映す朝のニュースを聞き流しつつ、聖王教会本部の図書館で本棚を眺める。
それが最近のわたし――高町ヴィヴィオの日課だった。
新暦81年9月。
中等科に進学して、アインハルトさんと同じグリーンの制服を着るようになってから約半年後の秋。
近年多発する〝魔導殺し〟による犯罪と〝エクリプス事件〟解決のため、かつての機動六課メンバーが再結集。
はやてさん指揮の下〝管理局特務六課〟として、なのはママとフェイトママも招集された。
いつ解決するかわからない案件。
長期出張である。
一方で、魔導殺しやエクリプス保有者の目的がわからない以上、万が一――エクリプスが古代ベルカの負の遺産であることから、ベルカの末裔に危害が及ぶ可能性がある――を考慮し、事件解決までわたしは聖王教会本部で保護される形になった。
一人暮らしも魅力的だけれど、この方がママたちも安心して事件を追えるだろう。
それに、同じ古代ベルカ王族血統であるアインハルトさんも一緒なので、それはそれでうれしかったりする。
ついでに言うと、学校に近いのでリオやコロナ、ユミナさんもよく遊びに来る。
これでミウラさんやノーヴェまで来たらほとんどジムと変わらない。
合宿みたいなノリだ。
もちろん、教会での生活は窮屈なことも多い――シャンテやセインはよく耐えられるなあ――けれどせっかくの教会本部。
無限書庫の司書資格を持つ身としては、これまで気になっていた教会図書館に眠る蔵書の数々に目を通すまたとないチャンス!
実はこの図書館。地上から見える部分だけでも礼拝堂並の広さがあるのだけど、地下に広がる蔵書室だけで、なんと17層。
プラス、傷んだ書物を修復する工房。
さらに、最下層にある秘密のドックを含めると、とんでもない広さがある。
古代ベルカ崩壊時に持ち出された貴重な文献も多く、あのユーノ司書長も「一度じっくり調べてみたいよね」と漏らしていたほど。
「ふっふっふ、聖王の血が騒ぐね――」
まあ、オリヴィエの血は関係ないのだけど……。
そんなわけでハシゴを使い、高い本棚の上段にある本を手に取った瞬間、
ギギッ――と書庫の扉が開いた。
2人分の足音がわたしに近づいてくる。
はて……?
「ヴィヴィオさん、やはりこちらにいらっしゃいましたか」
「ヴィヴィ、おはよー」
優しい声とぶっきらぼうな声。
赤いリボンをつけた緑髪の先輩と、ベレー帽を被った金髪のチビっ子が、わたしを見上げていた。
「アインハルトさん! それにクロまで! 珍しいね。しかもこんな朝早く」
魔女っ子のクロがニヤリと笑う。
「うん。退屈してるだろうと思って遊びにきた」
「ありがと」
「どういたしまして」
わたしは本を片手にハシゴを下りる。
「そういえばヴィヴィオさん、ヴィクターさんは何と?」
「あー『魔導殺しが来たら、私とジークで逆に追い返してやりますわ!』だそうです」
雷帝のお嬢様は、教会の保護を断ったのだ。
「なるほど。格闘家であるあのお2人であれば、局の魔導師より、むしろ魔導殺しとの相性がいいのかもしれませんね」
「特にジークさんは投げ技も得意ですし、あんまり魔導師って感じじゃないですもんね」
「からめ手には弱いけど、正面から戦う分には負けないでしょ。ジークリンデはあれでもエレミアなんだから」
魔女っ子がつんけんと言った。
最近気づいたのだけど、ファビア・クロゼルグ――通称クロは、結構ジークさんに対して辛口だと思う。
600年前。ジークさんの祖先リッドさんの書いた『エレミアの手記』に、最初の魔女クロゼルグに関する記述があるのだけど、
『僕にはまったくなつかなかったので、基本的に険悪だった……』
とあったので、その辺りはご先祖様譲りの性質なのかもしれない。
「ところでヴィヴィ、それ何の本?」
クロの視線がわたしの左手に注がれる。
「ああ、これ? あ~、ちょうどよかったと言うべきか――」
2人に向かって古代ベルカ語で書かれた本のタイトルを見せる。
「シュトゥラの森の民について……」
「それはナイスタイミングでしたね」
アインハルトさんのご先祖様――覇王イングヴァルトの治めたシュトゥラ王国の領地内。
クロのご先祖様――魔女クロゼルグが住んでいたという魔女の森について記された書物だ。
「それでね、前からクロに聞いてみたかったんだけど、魔女クロゼルグって〝獣人〟だったでしょ?」
「うん」
「でも、今のクロって獣耳がついてないよね?」
魔女ではあっても普通の人間だ。
「そういえば、そうですね……。クロ、もしかして隠しているんですか?」
わしゃわしゃ――と、アインハルトさんが魔女っ子の金髪をかき分けた。
「隠してないから! 単純に血が薄まっただけだと思うからっ!」
嫌がった素振りをしつつ、実は舌足らずの声音は弾んでいる。
嫌よ嫌よも好きのうち――というやつだ。
クロらしいツンデレである。
それはそれとして、わたしは話を続ける。
「そこ……なんだよね。ヴォルケンリッターで例えると〝3対1〟あるいは〝4対1〟の割合で、古代ベルカにはたくさんの獣人が住んでいたはずなのに……今ってまったくいないでしょ?」
ザフィーラ本人は古代ベルカ出身だから、現代にはカウントされない。
「確かに、見かけるにしても、元が動物の使い魔くらいですね」
獣耳を持つアルフやリニスさん、それにリーゼ姉妹。みな使い魔だ。
「あー、ヴィヴィの疑問ってそういうこと――」
クロは乱れた髪を直しつつ、己の知る情報を開示してくれた。
「うちに伝わっている話だと、森が焼かれたあと仲間たちはみんな〝獣王の国〟に避難したって。クロゼルグみたいに森に残った獣人もいたみたいだけどね」
「へ~」
「〝獣王〟ですか……」
「獣人たちの王様だって話だけど、私も詳しくは知らない」
古代ベルカ諸王の1人なのだろうけど、聞き覚えがない。
学校で習った記憶もない。
ひょっとして旧ベルカには、獣人だけが住む国があったのだろうか?
こういうときに頼りになる人といえば――わたしとクロが視線を向けると、現代の覇王様は申し訳なさそうに頭を下げた。
「すみません。以前の私ならわかったのでしょうが、1年前にクラウスの記憶が消えてしまったので……」
そうだった!
「あ~、いえいえ! いいんです。それが普通なんですから! だいたいそんなこと言い出したら、わたしなんてほとんどオリヴィエの記憶がないですしね~」
するとクロが、
「むしろ、大昔の血液サンプルだけで生まれた複製体に記憶がある方がレア。どうやったか知らないけど、ヴィヴィを生み出した科学者はスゴイと思う」
「あ~、うん……」
スゴイ……か。
わたしは、今も衛星軌道拘置所に収容されている〝紫髪の科学者〟を思い浮かべた。
――Dr.ジェイル・スカリエッティ……。
実際に彼が生み出したかどうかは、今もって明らかになってはいない。
けれど、少なくとも技術やDNAサンプルの提供をしたのは間違いない。
わたしの予想では『マリアージュ事件』のトレディア・グラーゼのような、スカリエッティの同士の一人が、クローン体を生み出すことに成功。
移送の際、何らかのトラブルが起きてわたしが逃げ出し、機動六課に保護された。
というところが妥当だと思っている。
わたし自身に記憶がない以上、これもスカリエッティ本人に聞いてみないとわからないことだけど……。
まあ、もう会うこともないんだけどね。
管理局や教会が許可を出さないし。
何より、ママたちが嫌がるから……。
すると、図書館に新たな人物が顔を出した。
「みなさん、ごきげんよう」
優しい足音に、気品のある声。
赤みがかった髪をもつわたしと同年代の女の子。
1000年もの間、遺跡で眠っていた古代ベルカ――ガレア王国の冥王でもある。
「イクス!」
「みなさんが獣王についてお話されていたようなので、懐かしくてつい立ち寄ってしまいました」
「え、獣王のこと知ってるの?」
「はい」
「さすが。本当は1000歳越えのお婆ちゃんだけある」
「クロ、お婆ちゃんって言わないでください!」
実は結構気にしていたらしい。
イタズラ好きなクロの台詞に、珍しくイクスが感情を露わに否定している。
あまり声を荒らげることのない少女は「はぁはぁ」呼吸を落ち着けてから話を続けた。
ちょっと可愛いかも。
「えっと、ですね……獣王が治めた国というのは、古代ベルカでも獣人が多く住むことで知られる〝フロニャルド〟と呼ばれた地方でした」
「フロ、ニャルド……?」
「はい。ガレアからもそう遠くない地域だったので、私の国と交流もありましたよ」
「へえ~」
それは凄い。
「フロニャルドでは、古くから、犬、猫、栗鼠などといった獣人の性質に合わせた小国が乱立し、互いに争っていました。有名なところで言うと、ビスコッティ、ガレット、パスティヤージュなどでしょうか。
しかし、私が生まれた1000年前……戦乱期中頃ですね。ベルカで激化する兵器開発に対抗して、獣人のための統一国家が誕生しました。それが〝フロニャルド連合王国〟。感覚としてはオリヴィエの時代の聖王連合に近いです。
そして、フロニャルド連合王国の代表の名が――通称〝獣王〟。
初代獣王は、ピンクの髪にピンクの衣装をまとい、素敵な歌声をもつ、本当に心優しい女王だったと記憶していますよ」
「そっか……」
イクスが言うのであれば、きっと素晴らしい名君だったのだろう。
「獣人の、それも王族ともなればかなり長命な種族でしたから、ひょっとしたら私が眠ったずっとあと――オリヴィエやクラウスとも交流があったのかもしれませんね」
「そっかぁ~」
アインハルトさんにクラウス陛下の記憶が残っていればわかったのかもしれないけど……。
アインハルトさんがU15のチャンピオンになったとき、彼の記憶はなにもかも消えてしまったのだという。
だけどそれは〝アインハルト・ストラトス〟としての日々が充実した証でもあるわけで、彼女にとってはいいことのはず。
オリヴィエの昔話など、まだまだ聞いてみたいこともあったので惜しい気もするけれど、仕方がないのだろう。
「あれ? だとしたらその獣人の国ってどうなったの」
ベルカ崩壊後、ミッドのベルカ自治領に移民したという話は聞かない。
もし移り住んでいたら、現在もミッドには多くの獣人が暮らしていたことだろう。
それがいないとなると……。
ん~、と魔女っ子が唸る。
「シュトゥラの森の獣人が避難したんだから。600年前――クロゼルグやクラウス、オリヴィエやリッドの生きていた時代には、まだ健在だったはず」
「その後、滅んだということでしょうか?」
「かなり強大な国力を持つ国だったので、そう簡単に滅びるとは思えないのですが……そうですね、カリムにも相談してあとで調べてみましょうか?」
「うん。わたしもあとで手伝うね!」
そうイクスに約束すると、わたしはちょっと思いついたことがあり、意地悪な笑みを浮かべてクロに向き直った。
「ここまでで1つ、重要なことがわかったよね」
「なに?」
「森が焼けた――つまり住む場所を失ったっていうのに、仲間と一緒に獣王のところに逃げなかった魔女クロゼルグって、よほどクラウス陛下に会いたかったんだなって。――クロもだけど」
「べ、別に私はそんなことなかったしっ!」
「そんなこと言ってアインハルトさんに会えてうれしかったくせに~。あ、それとも実はジークさんの方だったりして?」
「ヴィヴィ~っ!」
「あははは~」
クロの小さなパンチを、わたしはヒラヒラ避けまくる。
愛多ければ憎しみ至る――クロゼルグはずっと待っていたのだろう。
だけど、彼女がクラウス陛下たちに再会することは叶わなかった。
運命の輪が交わらなかったのだ。
そして、見捨てられた、裏切られたと思った魔女の妄執は、いつしかねじ曲がり、復讐という誤った形で子孫に受け継がれていったのだ。
「ヴィヴィオ、昔は昔、今は今ですよ」
「イクスは、昔も今も一緒だけどね」
「そうでした――」
すっかり修道女の衣装が板についた1000年前の王様が、クスクス笑う。
そのとき、
バアァァン――と勢いよく書庫の扉が開かれた。
スカートの裾をつかみ、パタパタ走りこんでくるオレンジ髪のシスター。
わたしたちの手前で急ブレーキをかけると、息を切らせながら叫んだ。
「――って、いたいた、陛下! イクスとアインハルトも! おっとクロもいたね!」
「もうシャンテ、図書館は走っちゃダメだよー」
「そんなこと言ってる場合じゃないんだって! さっき教会に連絡があって、お屋敷にいた雷帝のお嬢様とチャンピオンが襲われたって!」
「「「「え、えぇぇ――――っっ!!?」」」」
「だ、誰にですか!?」
「2人は大丈夫なの!?」
「ジークリンデ……」
「平気、平気、2人とも無事だって。ただ、2人がかりで1人に負けたとかで、あ~、あのイケメン執事を加えれば3人か」
「彼らほどの手練を……まさか……犯人は例の魔導殺しでしょうか?」
「それがさ、ちょっと違うみたいなんだよね。相手は長い銀髪に金色の瞳、背の高い獣人の女性で、自分のことを〝獣王の使い〟と名乗ったって」
「「「「獣王の使い!?」」」」
わたしとアインハルトさん、それにクロとイクスの4人は顔を見合わせた。
事情を知らないシャンテは、目をパチクリさせながら「ここからが本題」と声色を変える。
「陛下よく聞いて。お嬢様が言うには、獣王の使いは〝聖王や覇王の末裔の居場所〟を尋ねてきたって。それで答えなかったら、メイドを人質に取られたとかなんとかで……」
「この場所について話してしまったんですね」
「メイドさんは無事だったの?」
「うん、それは大丈夫。人的被害は出てないって」
「そっか、よかったー」
「いやいやよくないでしょ!? あのお嬢様。だからこっちに避難してろって言ったのに人の話聞かないから!」
「ですが、あの2人が負けたということは、相手はかなりの使い手です。それこそ、ヴィヴィオさんのお母様に匹敵するような――」
途端、図書館に勇ましい大声が響いた。
『はっはっは、待たせたのう、者どもぉぉ――ッッ!!』
ガシャァァン――と、盛大に天井のガラスが砕ける音と共に、四肢を丸めた人物が飛びこんできた。
初代リインフォースさんを彷彿とさせる銀の長髪がなびく。
手には巨大な戦斧と盾。
蒼い装束に白銀と黒鋼の甲冑。
背中に黒いマントを羽織るその女性は、
「誰ェェ!?」
「誰も待ってねぇぇ――っ!?」
「何者ですか!」
「雷帝の末裔から聞いておらんかったかのぅ。ワシは〝獣王の使い〟と名乗っておいたはずじゃが?」
華麗に着地した長身の女性が不敵に笑う。
彼女の頭部で白い獣耳がヒョコヒョコ揺れた。
「金色の瞳の獣人!?」
だとしたら、
「コイツがお嬢様とチャンピオンをやった、例の襲撃犯かよ!」
「えぇぇ! もうここまで来たっていうの!?」
「早すぎます!」
「フッフッフ、少し驚かせてやろうと思ってな。我ながら少し急いで来た」
――無茶苦茶だ!
そんな獣王の使いに向けて、クロが低く暗い声で呟いた。
「ジークを襲っただけじゃ飽き足らないんだ……もし、アインハルトとヴィヴィにまで手を出そうというなら、この私が許さない。獣風情が――その場で這いつくばって潰れろ!」
誰よりも早く動いた魔女の末裔が、呪いをこめた声音でかつてルーテシアを追い詰めた重力魔法を発動させる。
「フン。チビっ子、貴様は黙っておれッ!」
銀髪の女性は垂直にかかる重圧を物ともせず踏み出すと、手にした黒い戦斧の先端――石突をクロの鳩尾を叩きこんだ。
「かはっ……」
少女の口腔から空気が漏れ――いくら悪魔合身していないとはいえ――あのクロをわずか一撃で昏倒させる。
「クロっ!?」
「ワシが用のあるのは、そこの聖王と覇王の2人だけじゃ。他の者は下がっておれ!」
「悪いけど、そーはいかないんだよねぇ~」
いつもと変わらないあっけらかんとした口調と仕草でシャンテが前に出る。
わたしたちと獣王の使いを結ぶ直線上に立ち塞がると、胸のデバイスを素早く起動。トンファー型の双剣を逆手に構えた。
こちらを一切振り返らず、獣人の女性から目を離さずに言う。
「陛下、アインハルト。イクスとクロを連れて下がってて」
「シャンテ!」
「シャンテさん……」
「シャンテ、無理はしないでください! たぶんこの方は……」
「平気だってイクス」
「イクス?」
獣王の使いがわずかに遠い目をした。
瞬間――シャンテが猛る。
「ここでコイツを倒して、あたしがお嬢様の仇を取ってやるよッ!」
飛び出したシャンテの身体が2人、4人、8人と倍々に数を増していく。
幻術魔法だと言い張る彼女の実体をともなう分身――重奏だ。
「小賢しいな。邪魔だと言っておろう!」
「それはこっちの台詞だっつーの! これ以上あんたの好きにはさせないよっ!」
獣人の振るった戦斧が当たると、シャンテの身体が幻のようにかき消える。
「残念ッ!」
「そうかな?」
戦斧が止まらない。
凄まじい膂力で振るわれた刃が、チャンスとばかりに一斉に飛びかかったシャンテの分身を風圧だけで消し去っていく。
それだけじゃない。狭い書庫内も災いしたのだろう。
ミラージュハイドで隠れていた本物のシャンテの位置まで暴き出された。
焦るシャンテ。
「しまっ――」
「甘いわぁぁ――ッ!」
サッカーボールをシュートするかのように、獣王の使いがブーツの爪先で蹴り上げた。
くの字に曲がったシャンテの身体が、まるで小動物のように背中から書架に衝突した。
地震にも耐えられるよう固定された大きな本棚がゆっくり前方に傾き、小柄なシスターを押し潰そうと真上に倒れこむ。
「シャンテっ!?」
「フンっ――」
世話の焼ける――と叫びながら、獣王の使いが寸前でシャンテの襟首をつかんだ。
軽々と片手で引き上げる。
次の瞬間、轟音と貴重な書物を撒き散らしながら書架が床に激突した。
舞い上がる粉塵と地響きの中、銀髪の女性はシャンテを先に倒れていたクロの傍らに放り投げた。手をパンパン払う。
シャンテは起き上がらない。クロに続き気を失ったのだ。
「シャンテ……」
「さて、ようやく本命の2人じゃのぅ」
これは逃げられない。
覚悟を決めて、わたしは尊敬する先輩の名を呼んだ。
「アインハルトさん!」
「ええ、私たちで相手をして差し上げましょう!」
「セイクリッド・ハート!」
「アスティオン!」
それぞれのデバイスを掲げたわたしたちは、魔力光の輝きを身にまとい、強化モード――成長したバリアジャケット姿へと変化する。
「ほう、それが噂に聞く変身魔法というやつか。面白い。さあ、かかってくるがよい、聖王と覇王の末裔ども!」
「イクス、クロとシャンテをお願い!」
「わかりました。ヴィヴィオ、ご武運を!」
「はい! 高町ヴィヴィオ、一番手、行きますッ――」
先陣を切り疾風のごとく獣人の使いに近づく。
フンッ――と気合をこめた戦斧の刃が一直線に首筋を薙ぐが、わたしの方が速い。
獣王の使いを越えるスピードで屈むと、戦斧が頭上を通過する瞬間、前傾姿勢のまま滑るように懐に飛びこんだ。
拳に魔力を宿らせると、アクセルスマッシュ――腹部と顎下を殴りつける。
しかし、
「どうしてっ!?」
わたしの拳の方が痛い。
この銀髪の獣人女性、硬すぎる!
「スピードは中々のものじゃが、この程度の打撃では少々物足りんのう。それではワシの守りは崩せんぞ!」
「だったら――」
「私が――」
コンビネーション。
わたしの背後に隠れていたアインハルトさんが、前後に入れ替わりつつ覇王の拳を叩きこんだ。空気が激しく唸る。
しかし、銀髪の獣人はそれすら手のひらで受け止めてみせた。
「なるほど。いい一撃じゃ。パワーもある。じゃがまだまだ足りん!」
彼女はもっと来いと煽る。
「それなら、これでどうだぁぁ――っ!」
わたしは一瞬で背後に回りこむ。
頭部への踵落とし――と見せかけたローキック。可変蹴りだ!
ところが、獣王の使いは避けようともしない。
「貴様の一撃は軽いと言っている!」
小虫を払うかのように手を振るっただけ。
けれど、そのわずかな隙が仇となる。
「いえ、十分です。時間は十分いただきましたから――」
覇王の血統を受け継ぐハイディ・E・S・イングヴァルトの足元に、三角形のベルカ式魔法陣が浮かび上がった。
拳に宿る金色の光と共に放たれるのは、一撃必殺の奥義。
「足りない部分は互いに補い合えばいい。そしてあなたが何者であろうと、ただこの場で叩き伏せるのみ!」
わたしが飛び退いたと同時に打ちこまれた断空の拳が渦を巻き、獣王の使いをガードの上から弾き飛ばす。
獣人女性の身体がモーターモービルにでもはねられたように、勢いよく背後の壁に叩きつけられた。
書庫の壁が崩れ落ち、パラパラと中庭へ通じる穴が開いた。
すると、アインハルトさんが「しまった」といった風に眉をひそめた。
「これは、少々やり過ぎてしまったでしょうか……」
「いや~、不可抗力だったかと……」
あとでセインを巻きこんで、みんなで壁を直すのも楽しいかも。
2人で笑い合う。
「まだです、ヴィヴィオ、アインハルト!」
図書館にイクスの悲鳴が響いた。
瓦礫を押し分けながら、ゆっくり獣王の使いが立ち上がる。
尻尾の房毛がパンパン叩きながら砂埃を払った。
それは、どことなくうれしそうにも見える動作だった。
「今のは悪くない。見事な一撃であった。――で、覇王の末裔、他の技はどうした。もっと破壊力のあるやつや、もっとえげつない奥義もあったであろう?」
「断空拳以上の奥義……?」
「……ふむ、おかしいのう。伝わっておらんのか? ワシの知っている覇王は、もっととんでもない技をいくつも隠し持っておったぞ」
「っ!?」
覇王の血を受け継ぐ少女の顔に動揺が走った。
「そんなの、アインハルトさんを迷わせるハッタリですよ!」
わたしはなのはママ直伝の拘束魔法を発動させる。
「むッ!?」
魔力で生み出したリングで獣王の使いの自由を奪うと、わたしは再び獣王の使いの懐に飛びこんだ。
狙うはむき出しの腹部。
「これで、どうだああァァ――――っっ!!」
ゼロ距離から、セイクリッドの名を冠する虹色の砲撃魔法を放つ。
スターライトブレイカーには及ばないけれど、ディバインバスター以上の破壊力を持つわたしの全力全開。
少々オーバーキルになってしまうけど、何度も立ち上がる相手にはこうするしかない。
ああ~、ついにわたしも、なのはママの気持ちがわかるようになってしまったか~。
なのに、
「甘い! 先程から何度も言っておるであろうッ!」
獣人の女性が吠えた!
魔力リング――レストリクトロックが砕け散り、彼女の正面にミッド式やベルカ式とも異なる見たことがない魔法陣……いや、蒼と黒の紋章が浮かび上がった。
セイクリッドブレイザーの閃光が紋章の輝きに打ち消されていく。
「そんな……」
「まだです、ヴィヴィオさん!」
走りこんでくるアインハルトさん。
振り上げた手刀に、再び断空のエネルギーが集まる。
それでも、
「このワシに同じ技が通じるとでも思ったかッ!」
届かない。
獣人女性が身をひるがえす。
真横に回転しながら、アインハルトさんの視界をマントで覆い隠した。
「くっ――」
振り下ろされた手刀が標的を見失う。
逆に、獣王の使いは覇王の手首をつかんだ。
回転のエネルギーを利用し、アインハルトさんを引き寄せると、勢いそのままに鋭く鳩尾に膝を蹴り入れる。
ぐほッ――と嫌な悲鳴が漏れた。
「残念だったの。これでおしまいじゃ!」
とどめの一撃。
戦斧を握る手で、もう一度アインハルトさんの腹部を殴ろうとした獣人女性に対し、
「させません!」
「なんと!?」
アクセルシューターで弾幕を張ると、ジェットステップで高速接近。
わたしは一瞬でアインハルトさんの身体を奪い返すと、後方に下がった。
腕の中から消えた覇王の感触を惜しむように、獣王の使いは頭を振る。
そして、わたしを見て地団駄を踏んだ。
「聖王の娘……か。惜しい、実に惜しいのぅ。スピード、反射神経、どれもワシの要求を満たしておるが……いかんせん魔力量だけが致命的に足りん。それでは突破できん守りもあるのじゃ。その1点のみで――お主はオリヴィエに遠く及ばんよ」
獣王の使いはアインハルトさんにも同じようなことを語っていた。
わたしは思わず尋ねていた。
「どうしてあなたが、オリヴィエやクラウス陛下のことを知ってるんですか?」
「それは――」
「ヴィヴィオ。彼女が先程話したフロニャルド連合王国の大将軍にして、元ガレットの獅子王――レオンミシェリ・ガレット・デ・ロワ陛下だからですよ」
わたしとアインハルトさんを守るように、獣王の使いの正面に立ったイクスがそう告げた。
「ほう。見間違えかと思っておったが、お主、冥府の炎王――ガレアのイクスヴェリアか!」
「はい。お久しぶりです、レオ陛下。まさか1000年前と変わらぬお姿でお会いできるとは思いませんでした」
「それはワシの台詞じゃ」
遠い過去の知人に会えたせいか、獣王の使い――レオンミシェリ陛下の声が弾む。
白い尻尾の揺れ具合も機嫌がいい。
もう戦う気はないということだろうか……?
イクスは簡単に己の身に起きた事情を語る。
「私は、海底の遺跡でずっと眠っていましたから」
「ワシも似たようなものじゃ。ただしワシが眠りについたのは『聖王統一戦争』のあとじゃがな。まあ、その後もちょくちょく目を覚ましてはおったのじゃが……。それと陛下はやめい。王の地位はミルヒのやつにくれてやった。ワシのことはレオ将軍か、ガレット卿……いや、せっかくだ、ワシのことは〝閣下〟と呼べい!」
何だかノリノリなので、すかさず、
「はい、レオ閣下! 1つ質問があります!」
わたしが勢いよく手を挙げると、レオ様は「なんじゃ、言ってみろ」と応じてくれる。
「どうしてこんな真似を……?」
昏倒したままのクロやシャンテ。
わたしが身体を支えているものの、未だ足元の覚束ないアインハルトさん。
それに図書館の惨状を見回した。
大惨事……。
これだけの騒ぎを起こせば、すぐに人が――教会騎士団が集まってくるだろう。
「ふむ……少しついてまいれ」
壁に空いた穴から中庭に出ると、閣下は青空の彼方を指差した。
「あの星が見えるか?」
昼間でも見える。
ニュースでもやっていた。日に日に大きくなる謎の天体だ。
「あれはかつてのベルカの衛星――月の1つだった星じゃ」
「ベルカの月の1つ!?」
「そう。そして今の名を惑星フロニャルド。600年ぶりに帰ってきたフロニャルドは、もう間もなく無人世界となったベルカに衝突するだろう」
「嘘……」
「しかもだ。その衝突の余波で起きる大規模次元震は旧ベルカだけでなく、ミッドチルダを含めた多くの次元世界に甚大な被害を与えるはずじゃ。いや――最悪の場合〝次元断層〟が起きるやもしれん。それもかつてない規模でな」
「そんな……」
「聞いたことがあります……私が眠っていた間のことですが、旧暦462年に起きたという次元断層のことを」
「ああ。あまりの緊急事態にワシの眠りも一時的に解けたのじゃが、隣接する並行世界がいくつも崩壊してしまった。あれは酷い事件じゃった。あのような出来事を再び起こすわけにはいかん。それも、このミッドで起きるようなことだけはな!」
レオ様は天に向かって手を伸ばす。
「ワシはフロニャルドを止めるため、この手でミルヒオーレを殺さねばならん。そのために力ある協力者を探しておったのじゃが――残念ながらお前たちでは力不足だ」
「そんな……」
わたしではなく、なのはママやフェイトママなら相応しかったのだろうか?
きっとそうなのだろう……。
今のわたしでは届かない領域。
だけど、現在ママたちは……。
「安心するがよい。原因は全て600年前にある。今を生きるお前たちに背負わせるつもりはない。オリヴィエやクラウス、そして犬姫との約束はワシ1人でも果たしてみせるさ」
オリヴィエとの約束……?
すると、
「いたぞ、侵入者だ!」
「あの獣人を捕まえろ!」
駆けつけてきた教会騎士団の声が響く。
「陛下、シャンテ!」
「イクス、アインハルト!」
セインやシャッハさんの声も聞こえてくる。
「ふむ……ここまでのようじゃな」
レオ様はその身をひるがえすと大きく跳躍した。
教会の尖塔に飛び乗ると、一度だけわたしを振り返った。
「ヴィヴィオと言ったな。お前は聖王ではない。ましてやオリヴィエでもない。覇王の娘ともども自らの人生を謳歌するがよい。――ではさらばじゃ!」
再び跳躍すると、聖王教会本部から姿を消した。
「レオ閣下ッ!?」
「レオ様!」
わたしの踏み出した足が止まる。
力不足だと言われた今のわたしには、去っていくレオンミシェリ陛下を追いかける資格がない。
足手まといにしかならない。
世界の危機を知りながら、黙って彼女の背中を見送ることしかできないのだ。
だけど……。
これがもし、なのはママだったら……?
オリヴィエだったなら……。
どうしていたのだろう?
わたしは……。
わたしの腕の中で、アインハルトさんの拳にグッと力がこもるのが感じられた。
●
そして――
【ViVid 2nd PROJECT】
高町ヴィヴィオは決意する。
『これはこれは陛下、このようなガラス張りの牢獄にようこそ。いや、今は高町ヴィヴィオとお呼びすべきだったかな?』
ノーヴェやセイン、元ナンバーズの4人を引き連れて彼女が会いに向かったのは、ミッドチルダ司法の最高拘置施設で虜囚の身となっている、1人の天才科学者。
『あなたにお願いがあります……』
その小さな胸に再びレリックを宿すことを。
『敵はフロニャルド? これは面白い! 妹たちがみな死にに行くと言うんだ、ウーノ、トーレ、クアットロ、私たちも協力してやろうじゃないか!』
同じころ、アインハルトも決意する。
『クラウス。私たちの覇王流が負けたままでいいんですか? あなたの極めた技の全てが必要です。今度こそ覇王の全てを受け継ぎましょう!』
それは彼女にとって後退、それとも前進なのか……。
聖王教会本部の地下格納庫から飛翔する秘密裏に建造された巨大艦船。
『ゆりかご級2番艦〝パラディース〟発進! 陛下、ドーンと行っちゃいましょう!』
『ユミナさん、ノリノリですねー』
目指すは惑星フロニャルド。
待ち受けるのは、異世界から召喚された最強の勇者たち。
『マリアージュ、これは守るための戦いです』
『ゴライアスMk-II出るよ!』
『春光拳を素手だけの武術だと思わないでよね!』
『ボクだって八神家の一員なんだ!』
『やれやれ雷帝も見くびられたものね』
『その生命、エレミアの鉄腕で刈り取らせてもらうよ――』
そして現れるのは、柔らかいピンクの髪に漆黒の衣をまとう獣王ミルヒオーレ。
彼女の歌声が惑星フロニャルド全土に響き渡るとき、600年前に交わされた約束と真実が明らかになる。
『わたしはわたし、オリヴィエとは別人ではあったとしても、わたしにできること、わたしにしかできないことがあるから――』
あの『魔法戦記リリカルなのはForce』と同時期に起きたもう1つの〝リリカルなのは〟を描く超話題作!
【劇場版 新・魔法少女リリカルなのはViVid The MOVIE 2nd DAYS】
新暦20180年、劇場公開予定!!
『ひとりで泣かないで……あなたを待ってる人がいるんだからッ!』
1日早いですが、エイプリルフールということでやってみました。
ちなみに、コロナのゴライアスMk-IIは、乗りこんで操縦しています。
そのため、コロナだけコックピットからの台詞です。
「ゴライアスMk-II出るよ!」
ガンダムの出撃シーンみたいな感じでイメージしてもらえると(笑)。
試合の時みたいに、その場で創生するのではなく、あらかじめ時間と魔力を注ぎこんで創り上げたワンオフの機体(ゴーレム)。
ゴーレムの材質も、いつもの床石や土ではなく、艦船の装甲材(ゆりかごの余剰資材)。
なので、ゆりかごINヴィヴィオをのぞけば、なにげに最大戦力です。
コロナ本人も気づいていませんが、分類としては、すでに〝魔力駆動の兵器〟なので、理論上は『Force』の魔導殺しが相手でも戦えるという厨二心たっぷりなモビルスーツ……じゃなかったゴーレムに仕上がっています。
コロナ最強伝説が今始まる!(笑)。
ただ……劇中ではガデラーザみたいな〝かませ〟扱いになるんだろうなあ……(泣)。
なお、次回から(4月から)不定期更新になります。
ご注意ください。
いつ更新できるかわからないので、続き(やるとしたら、とりあえずアインハルトさんが飛べる理由や、レイジングハートの秘密とか)を読みたい方は、定期的にチェックするか、お気に入り登録しておいてください。
それではよしなに。
お疲れ様でした。