果たして、アインハルトさんは、本当にご先祖様――覇王イングヴァルトほど強くはなれないのか!?
St.ヒルデ魔法学院の昼休み。
わたしは、なのはママから作ってもらったお弁当片手に――誰にも見つからないよう――1人で旧校舎へ向かった。
キョロキョロ。
「よし、誰もいないよね……」
鍵のかかった教室のドアを、コンコンとノックする。
すると、教室の中から艦これの〝吹雪〟みたいな声がした。
『コロナ』
「あざとい――」
ガチャリ。鍵が解除された。ドアを開けると、そこで待っていたのは、
「マッサージと称して、女の子にいかがわしい施術を施す、自称、格闘技ファンの、ユミナ・アンクレイヴ先輩でした」
「うん。そういう誤解を生む紹介はやめようね、ヴィヴィオちゃん!?」
「あははー、冗談ですって」
「もう、半分しかあってないよ~」
「え?」
「え?」
「その件は後日、アインハルトさんがいる前で追求するとして……」
「やめてェェ!?」
「すみません、ユミナさん。貴重な昼休みに、わざわざ旧校舎まで来てもらって」
「また、いつもの疑問を解決するコーナーを撮るって聞いたけど?」
「はい」
「私は別にいいんだけどね。
内緒で教室を出ようとしたら、アインハルトさんが〝仲間になりたそうにこちらを見ている〟ものだから、あまりにいたたまれなくて……」
「あはは、アインハルトさん。今日は、わたしたちと一緒にお昼を食べる日でもないですしね~。
ああ、ユミナさん以外のお友達に、声をかけたいけどかけられない……そんなアインハルトさんの勇姿が目に浮かびます……」
「勇姿って……う~ん、クラスメイトの誰かに、アインハルトさんのお世話を頼んでくればよかったかなあ……」
「なに、そのアインハルトさん係……。わたしもやりたい……。
ちなみに、リオコロに任せるって手もあったんですが、そうなると、わたしとユミナさんだけいないですしね。わたしたちの秘密の行動を感づかれる恐れがありましたから……」
「今日のって、そんなにやばいネタなの?」
「はい。排出率0・01パーセントの星5のレアカードを狙って当てるくらい……」
「ヴィヴィオちゃん。私、鎮守府に帰らせてもらうね――」
「どこに帰る気なのっ!?」
「だって、タイトルからして不穏だよねっ!?
『アインハルトさんはクラウスほど強くなれない!?』
って、そんなことアインハルトさんに聞かれた日には、絶対いつもみたいにラストで見つかって、
『覇王断空拳!』
『ドッカーン!』
みたいなオチでしょ!?」
「ええ、だからこそ本日はユミナさんをお呼びしたわけで――」
「さーて、今日はもう早退、早退っと……」
「冗談ですよっ!?
ほら、今回はいつもの生放送と違って収録なんです。これの放送日は、2人で地球へバカンスにでも行きましょう。流石のアインハルトさんも地球までは追ってこれないでしょうし」
「う~ん……」
「それに、アインハルトさんの性格なら、翌日にはもう忘れてますって」
「ヴィヴィオちゃんのアインハルトさんに対する認識が……でも、否定できない自分がいる……」
「大丈夫、大丈夫。いくらアインハルトさんでも、まだ聴いてもいないネタに向かって『フンガー』とか怒ることはできませんよ」
ユミナさんは「はあ……」と嘆息すると、言葉づかいを改めた。
「じゃ、陛下、やっちゃいましょうか?」
「はい、ユミナさん、やっちゃいましょう!
そんなわけでこの番組は、ウマ娘のゲームを1話からずっと待っているのに、このままじゃ先にアニメが終わっちゃうよ!?
次元世界最大の信者数を誇る、聖王教会の提供で送りしまーすっ――」
●
「「緊急特番! 『アインハルトさんはクラウスほど強くなれない!?』」」
――わー、パチパチ。
「というわけで、ヴィヴィオ陛下。今日のタイトルコールをアインハルトさんが聞いたら、ショックでまた、フォースの暗黒面に落ちそうな内容ですねぇ……」
「はい。最近、このコーナーでも、連続してクラウス陛下やオリヴィエについて、考察していたじゃないですか?」
「そう言われると、今年の10月19日に公開予定の劇場版『魔法少女リリカルなのは Detonation』をぶっちぎりで無視して、やってましたね~」
「ユーノ・スペランカー隊長と共に、古代ベルカ大地下迷宮に挑んだり……」
「〝ユーノ・ス〟までしかあってませんから。ていうか、そんなことしてましたっけ?」
「それくらいの意気込みってことです」
「でも陛下。格闘技ファンの私からしてみれば、U15ワールドチャンピオンで、絶対王者とまで呼ばれたアインハルトさんが強くなれない――というのは、違和感があるんですが?」
「確かに、そうかもしれませんね」
「私が編集中の『アインハルトさん覇王列伝』でも――」
「はぁ、はぁ……ユミナさん、それあとで貸してくださいっ!」
「あー、陛下の〝アインハルトさん秘蔵写真〟の1枚と交換ですよ?」
「じゃ、〝アインハルトさん初めて自転車に乗る〟の巻でいかがでしょう? 動画もあります」
「それは……面白……コホン、いいですね。わかりました。それで手を打ちましょう。
――で、話を戻しますが、アインハルトさんの強さを表すエピソードとして、
①1巻、
アインハルトさん自身の台詞で、
『この体は、間違いなく強いのに』
『覇王の血は歴史の中で薄れていますが、時折その血が色濃く蘇る事があります』
『碧銀の髪やこの色彩の虹彩異色。覇王の身体資質と覇王流。それらと一緒に、少しの記憶もこの体は受け継いでいます』
②3巻、
ルーテシアさんのお母さん、メガーヌさんの台詞で、
『あの年齢であの技術。一体どれだけ苛烈な修練を――?』
なのはさんの台詞で、
『まだ荒削りだけど、土台がしっかりしてる。きっと、凄い量の基礎トレをやってるんだろうな』
③15巻、
ノーヴェ会長の台詞で、
『お前がいるのは覇王流の入り口にすぎないってことだ。今のお前なら覇王流の……そして断空の真髄に近づいて……』
それを受けての、20巻で放った『真・覇王断空拳』だったわけですが――ほら、陛下、アインハルトさん超強いですよ? 世界王者ですよ?」
「そうですね。
わたしだって、アインハルトさんなら、たとえクラウス陛下の記憶が消えたとしても、彼の意志を引き継いで、ベルカの天地に覇を成してくれると思っていました……でも……」
「ちょっと待ってください、陛下。
いつもの冗談じゃなく、本当にアインハルトさんは、クラウス陛下みたいに強くなれないんですか??」
「……YES」
「え、ええええええええぇぇ~~~~っ!?
嘘だといってよ、バニーっ!?」
「確かにわたしはウサギ好きですが、バニーでも、バーニィでもないので」
「うわ……ショッキング過ぎて、アインハルトさんにはとても伝えられない!」
「ユミナさん、耳を塞がないでくださいっ!」
「あばばばばばばばばばばばばばば!」
「かおす先生ごっこしてないで、ちゃんと聞いてくださいっ!
視聴者のみなさんも、最後までおつき合いくださいね?
まずは、先程ユミナさんがやったように、クラウス陛下の強さを表すエピソードを上げて行きましょう――。
①1巻、
チンクの台詞で、
『聖王家のオリヴィエ聖王女、シュトゥラの覇王イングヴァルト、ガレアの冥王イクスヴェリア、いずれも優れた王達でしたから』
シャッハさんの台詞で、
『覇王イングヴァルトは物語にも現れる英傑です』
②2巻、
ルールー……特殊ED最高! じゃなくて、ルーテシアの台詞で、
『ベルカの歴史に名を残した武勇の人にして、初代の覇王』
アインハルトさんの台詞で、
『皮肉な話ですが、彼女を失って彼は強くなりました。全てをなげうって武の道に打ち込み、一騎当千の力を手に入れて』
③3巻、
ヴィクターさんの台詞で、
『旧ベルカの最強覇者は、聖王でも覇王でもなく雷帝ダールグリュン』
④11巻、
リッドさん(エレミア)の台詞で、
『当時、まだ血統伝承のすべてをみにつけてはいなかったとはいえ、局所破壊技を封じ手にしてなお戦力は僕の方が上だったはずだけれど、彼の頑強さと打撃力には目を見張るものがあった』
『武勇に優れ、兵にも慕われている若い王子』
クラウス陛下とリッドさんのやり取りで、
『これで僕の勝ち越しは5勝目だったか?』
『まだ4勝目だよ! あとは全部僕の勝ち!』
他にもあるかもしれませんが、とりあえずはこんなところでしょうか――」
「あの~、陛下?」
「ユミナさん、もう平気なんですか?」
「あー、はい。ご迷惑をおかけしました。
それで、ですね。今の話を聞いていて思ったんですが、クラウス陛下は、オリヴィエ王女に負けて強くなった――ということですよね?」
「はい。理由の1つだと思います」
「となると、12巻で陛下に負けて成長したアインハルトさんは、奇しくもクラウス陛下と同じ道を歩んだ――ということでは?」
「言われてみると、確かに、ご先祖様ともどもオリヴィエに負けたようなものですからねー」
「つまり、これはもう運命。ますます強くなるフラグとしか思えないんですが……?」
「なるほど~。一理あります。
ですが、ユミナさん、想像してみてください。
仮に、アインハルトさんの言う通り、クラウス陛下が、全てを投げ打って死に物狂いで鍛錬を続けたとします――」
「はい」
「ですが、それだけで本当に、一個人が、あの戦乱の古代ベルカで、最強と謳われるほどの強さを身に着けることが、可能なのでしょうか?」
「それは……」
「『StrikerS』を見たことがある方なら、ご存知だと思いますが。
第8話――スバルさんとティアナさんが、ちょっとした空き時間もムダにせず、本当に一生懸命に特訓して、なのはママとの模擬戦に挑んだことがありました」
「ああ! あの有名な『少し……頭冷やそうか』回ですね!」
「はい。娘のわたしですら、初めてあの回を見たときは、
『スバルさんとティアナさん頑張ってるな~、むくわれるといいな~』
ところが、フルボッコ!
『ヒィィィ~、なのはママひどっ!? 魔王だ、魔王がいる……』
でした……」
「あ、ああ~」
「つまり、どんなに努力を重ねても、圧倒的な力の前には手も足も出ない……」
「身も蓋もない結論だっ!」
「ところが、そんな魔王の称号を得たなのはママですら、1対1では、ナハトヴァールやユーリには勝てません……」
「それは……まあ……確かに……」
「クラウス陛下は、そんなナハトヴァールやユーリみたいな、化け物クラスの魔導師が跳梁跋扈する古代ベルカで最強だったんですよ?
努力や根性だけでどうにかなるでしょうか?」
「う、う~ん、そう言われると不可能なような……。
あの、陛下、ひょっとして、単純に、私たちがクラウス陛下を過大評価しすぎていた――とかいうオチなのでは?」
「いえ。そうだったら、まだアインハルトさんにも、クラウス陛下ほど強くなれるチャンスがあったんですが……」
「え~っ!? クラウス陛下って何者なんですかっ!? 何だかもう、考察する度に、クラウス陛下の強さが増しているような……。おかしくないですか??」
「そうですね。わたしも、まさかここまでとは思っていなくて……」
「本編で、そこまでクラウス陛下が強い描写って、ありましたっけ……?」
「残念ながら『ViVid』本編にはありません。主役は~、ほら、わたしなので」
「あ~」
「ですが、証明することだけなら可能です。
古代ベルカの歴史について語る上で、短いながらも、最も重要な資料。
ドラマCD『StrikerS サウンドステージX』のジャケットに載っている『History of Belka』から、引用しますね――。
『戦乱期中ごろの時点で人造生命体の研究は大きな進化を遂げ、王たちは自らの肉体を強化し、自らの子孫にもそれを宿命づけた』
『聖王家が誇る最大武装の鍵であり、使用者となることを宿命づけられた聖王』
『その他数々の王が過度な力をその身に宿し、力の象徴として誇っていった』
『たった一人の優れた王が強大な質量を操る兵器となり、戦場では万騎を屠りうる時代』
といったところなんですが、ユミナさん気づきましたか?」
「……王たちは自らの肉体を強化し、自らの子孫にもそれを宿命づけた……って、もしかしてクラウス陛下もっ!?」
「はい。
●オリヴィエ――聖王核&ゆりかご。
●イクス――――マリアージュ(屍兵器)コア生成能力。
●ユーリ――――永遠結晶エグザミア。
(ディアーチェとの関連性から、ユーリもベルカ王族であった可能性が高い)。
つまり、古代ベルカの王の1人であったクラウス陛下も、オリヴィエに負けたあと――王位を継いだあとかもしれませんが――他の王たちと同じように肉体を強化したと考える方が自然。
しかも、この肉体強化ですが、オリヴィエ、イクス、ユーリ、などを見てもらえばわかりますが、全てアルハザードから流出した、遺失技術(ロストロギア)ばかり……」
「うわ……」
「そして、肉体を強化しただけで、どれだけ劇的な変化が起きるのか……?
最もわかりやすい、最も身近な例を上げるとするなら――わたし、高町ヴィヴィオです」
「陛下、ですか……?」
「はい。現在のわたしは、なのはママにノーヴェ、他にもたくさんの人たちから指導を受けて、練習して、試合を重ね、少しずつ強くなり、ようやく、ルールのある試合で、リミッターのかかっている、なのはママに辛勝するくらいにまで成長しました。
先はまだまだ長そうですけどね~」
「陛下も、頑張ってますもんね」
「えへへ、ありがとうございます。
――ところがですっ!
そんな、なのはママの娘になる前。
ストライクアーツの〝ス〟の字も知らなかったころ、わたしはレリック――オリヴィエの聖王核みたいなものですね――と、ゆりかごから供給される無限の魔力により、なのはママを圧倒するラスボスとして君臨したわけですよっ!」
「あ~、『StrikerS』のころですね」
「はい。
つまり、何の技術も、魔法も知らなかったころのわたしですら、アルハザードの遺失技術の力を借りれば、あの、なのはママにだって勝てる。
――だけどですよ?
もしも、今のわたしが、あのころのような無限の魔力を手に入れたとしたら……。
あらゆる攻撃を跳ね返し、アインハルトさんやジークさんですら一撃でマットに沈め、本気のなのはママと戦ったとしても、正直、負ける気がしません……。
遠距離なら、スターライトブレイカー級の砲撃魔法を、何発でも、連続して撃ち続け、近づいてきたら、スターライトブレイカー級の魔力をこめた拳で殴りつけ、相手を粉砕します。
手加減しないと、相手が死んじゃうかもしれませんね~」
「へ、陛下……?」
「たぶん、なのはママとフェイトママ、はやてさんとヴォルケンリッター、まとめて相手にしても、まだ余裕があるかもです」
「それ、最強なんじゃ……」
「はい。きっと、当時のクラウス陛下も、似たような状態だったんだと思います。
それも、わたし以上に、努力に努力を重ねた人物が、遺失技術による肉体強化を受けたんですから……それはもう……」
「無敵なんじゃ……?」
「はい。かつてのわたしも、リリカルなのは屈指の強キャラ――ユーリですら、クラウス陛下にはかなわないと思います。
『砕け得ぬ闇事件』のあと、惑星エルトリアに渡ったユーリが、初めて戦う訓練をした――というのは『GOD』のエンディング後、シークエンスXで描かれています。力加減のコントロールすらできないんですよ?
『A's』のボスキャラ――ナハトヴァール。
『GOD』のボスキャラ――ユーリ・エーベルヴァイン。
『StrikerS』のボスキャラ――聖王ヴィヴィオ。
共通しているのは、圧倒的な魔力量だけで相手を蹴散らせる。強すぎるので、戦闘訓練をする必要がないということ……。
だけど、クラウス陛下は違います。
『努力 + 才能 + ロストロギアによる肉体強化』
ただでさえ強いボスキャラが、全てを投げ打ち、死に物狂いで、武の道に打ちこんだんです。
そして、勝利にかける想いすら、誰よりも強かった……。
こんな相手とどう戦えと……?
隙がない。勝てる要素が見つからない。
覇王の進軍を止めることは、誰にもできない。
高町ヴィヴィオは断言します。
クラウス・G・S・イングヴァルトは、間違いなく、古代ベルカ最強を名乗るに相応しい、騎士であり、魔導師であり、王だったと」
「ああああっ!? ということは、肉体強化していないアインハルトさんは……」
「はい。どんなに修行を続けても、
『努力 + 才能』
止まりなんです!」
「めちょっく!」
「はい。
ミライクリスタルのないエミルが、どんなに頑張っても、けっこうプリキュアのように……。
サイがどんなに努力しても、キラ・ヤマトのようにはなれないように……。
クリリンやヤムチャがどんなに修行しても、サイヤ人には追いつけないように……。
ミウラさんが、変身魔法で大人になっても、ほとんど身長が伸びないように……。
はやてさんが、いつまでたっても彼氏の1人もできないように……」
「後半もうそれ違いますよねっ!?」
「一般人より、遥かに優秀なんですが、その世界の頂点と比べると、どうしても劣ってしまう。そんな存在……。
そんなわけで本日の結論です。
アインハルト・ストラトスが、今後、どんなに厳しいトレーニングを続けたとしても、遺失技術により肉体を強化した、覇王イングヴァルトと同等の強さを手にすることはできない。
――以上、お疲れ様でした!」
●
教室の椅子に座ったまま、ユミナさんが肩を落としている。
「はぁ~。ヴィヴィオちゃん、これ、ガチでアインハルトさんに伝えられないやつだよね?
どうするの? 本当に放送するの? 落ちこむよ? フォースの暗黒面だよ?」
「う~ん、やっぱりアインハルトさんには酷でしょうか?」
「うん。世の中には知らなくていいこともあるんだよ。
アインハルトさんのライフはもうゼロよ――ってやつだね。
アインハルトさんには、
『クラウスみたいに、私はなる!』
みたいなノリで、夢を見させてあげた方がいいんじゃないかな?」
すると、壁の向こうから、
――ガタタッ!
「「ひぃぃ!?」」
「ユミ姉さん、今の音はっ!?」
「そんな、ネコ姉さんみたいに呼ばれても困るんだけど、隣の教室からみたい……」
ゴクリと息を呑む。
そして、さらに……。
――ヒタ……ヒタ……。
「あ、足音が……」
「近づいてくる……?」
――ガッ!
引き手をつかむ音。ドアがわずかに揺れる。
――バキッ!
「鍵がっ!?」
強引にドアが開かれる!
――ガラララララ!
「「ひぃぃ~~っ! カビたねずみ男みたいに、緑色なの入って来たああああああああああああ~~っ!?」」
「……………………私です」
碧銀の髪をもつ、かっこよくて、可愛らしい先輩……。ただ、いつもよりドヨ~ンとしている。
「あ、アインハルトさん……?」
「どうしてここに……?」
「……その、今日はお昼をご一緒する方がいなかったもので……」
アインハルトさんは遠い目をした。
「以前はよく、ここ(旧校舎)で、1人で食べていたものです……」
「「あ~」」
「ぼっちめ……」
「ヴィヴィオちゃん、ヴィヴィオちゃんっ、それ以上言っちゃダメぇぇっ!」
「おっと失礼。わたしもユミナさんも、友達多いから、まさかこんなところで食べるなんて思わなくて……」
「あう……」
「ヴィヴィオちゃん、オーバーキルぅぅ!
アインハルトさんのライフは、もうマイナスだよっ!?」
現代の覇王様が片膝をついた。
「冗談ですよ、冗談。それに、ここなら誰にも見つからずに、こっそり秘密のトレーニングができるじゃないですか! 絶好の修行スポットですね」
「あ、はい。それはもう、筋トレや、覇王流の型の練習や――」
「もしかして、1巻の、バイザーつけてたころの決めゼリフも……?」
「ユミナさん、それ、し~っ!」
「あう~」
現代の覇王様が両膝をついた。
「KO。ユミナ、WIN!」
「半分、陛下のせいですよねぇぇ!?」
「ユミナさん、陛下呼びになってますよ~。
まあ、それはそれとして、もしかしてアインハルトさん、わたしとユミナさんの話を……?」
「……はい。全部聞いていました。
まさか、私が、クラウスほど強くなれないなんて……あんなにいっぱい修練したのに……ああ、どうりで、覇王イングヴァルトを名乗る謎の襲撃者としてカッコよく登場した割には、あっさり1巻でやられ、正体がバレたりして……覇王の身体資質なんて……意味なかったんや~」
「あー、ほら、今のはあくまで推測ですから、ただの考察ですよー」
「うわああああああああああああああああああああああああああああああああああああん!!!」
――メキッ! ドッゴォォン!
アインハルトさんは、魔力も使わずに、壁を素手で破壊して去っていく。
「……ねぇ、陛下」
「……はい」
「……私としては、十分強いと思うんですが?」
「……ええ、十分強いですね~」
壁の大穴からは、グラウンドがよく見渡せた。
そよ風が気持ちいい。
「そういえば、なんですが……。
クラウス陛下ってオリヴィエ王女にこそ負けましたが、11巻で、他国の兵士から――。
『若造がただひとり――? いや、あれは覇王の――!』
って、言われていましたよね?」
「はい」
「つまり、オリヴィエと戦う以前から、他国の軍勢に〝覇王〟と呼ばれるくらい名が広まっていた。強かったんですよね?」
「はい。流石はユミナさん。いいところに気づきました」
「陛下?」
「だって、クラウス陛下が負けた当時のオリヴィエって、ゆりかごの玉座に適合したあとで、ひょっとしたら、〝すでに接続状態で、魔力の供給を受けていた〟可能性もあるんですよ?
どんなにクラウス陛下が強くても、生身の魔導師ごときに、負けるわけないじゃないですか~」
「うわ……」
「だから、オリヴィエとの一戦で、クラウス陛下の強さを測ることはできません。
むしろ、若くして覇王と呼ばれていたクラウス陛下は、あの時点で、すでに生身での限界値――なのはママやフェイトママくらい、強かったのかもしれませんね~。
だから、覇王と同じ身体資質をもつアインハルトさんも、このまま鍛錬を続けていけば、遺失技術で肉体強化なんてしなくても、なのはママたちと同じくらい強くなれる可能性があると」
「へ~……って、ちょっと待ってください!?
なのはさんって、確か、ノーヴェ会長の話によると、
『あの人アレだぞ? 世界人口全部で〝ケンカ強い順〟に並べたとしても、かなり上位に来る人だぞ!?』
でしたよね!?」
「あははー」
「つまり、アインハルトさんも、次元世界トップクラスに強くなれるって……へ、陛下、もしかして知っていて!?」
「いや~、だから、わたし最初から、
『アインハルトさんは、クラウス陛下ほど強くなれない』
と、言っただけで、
『アインハルトさんが、強くなれない』
なんて、一言も言ってませんよ~?」
「くっ……ドS陛下!」
「ふっふっふ……今日も勝ち!」
というわけで、覇王イングヴァルトこと、アインハルトさんのご先祖様――クラウス・G・S・イングヴァルトの強さの秘密は、これで考察終了です。
お疲れ様でした。
ちなみに、肉体強化の内容なんですが、特撮ヒーローみたいな変身は、すでにデバイスやら変身魔法で行っているので、もっと根本的な、昭和ライダーみたいな〝改造人間〟に近いのかなあ……と思ってみたり。
さらわれた(志願した)恋人(?)を救うため、改造人間になった……と考えると、主人公っぽい!