アインハルトさんはちっちゃくないよ!   作:立花フミ

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「アインハルトさん、結局のところ〝断空〟って何なんですか?」

ヴィヴィオの軽い気持ちで発した質問は、いつしか現代の覇王様ですら知らない〝断空の真髄〟の扉を開くことに……。

アインハルトと手合わせした高町士郎が語る、覇王流に隠された『別の目的』とは??

魔法なのか、武術なのか、それとも、もっと別の何かなのか???

断空に秘められた謎が、今、明らかになる!!



断空がー

 夏休みに入ったある日のこと。

 心地よい朝のランニング中、わたしは並走するアインハルトさんに聞いてみた。

 

「アインハルトさん、結局のところ〝断空〟って何なんですか?」

 

「断空ですか? そうですね……足先から練り上げた力を拳足から打ち出す技法そのものが〝断空〟です」

 

『ViVid』1巻で言っていたのと同じだ。

 

「でも、それってリオの実家のルーフェンで教わった〝勁(チェン)〟と一緒ですよね?」

 

 14巻で、春光拳道場にいたリオの後輩――問題児の2人――が説明してくれたことをまとめると、

 

 

①『筋力とか魔力による身体強化は「力」。近代格闘技で重視されてるのはこっち』

 

②『伝統武術が重視するのは、術理によって力を生む技術「勁」』

 

③『「踏み込んだ力を拳で弾けさせる」ってイメージかな。筋力と魔力がしょっぱくても「必殺」の一撃を撃てる。それが春光拳の「勁」なんだ』

 

 

「アインハルトさんの断空は、

 

『足先から練り上げた力を拳足から打ち出す』

 

 シュエさんの見せてくれた勁は、

 

『踏み込んだ力を拳で弾けさせる』

 

 でしたけど……」

 

「そう言われてみると……」

 

 アインハルトさんが橋の上で足を止めた。

 わたしは小さなウサギ型デバイスに請う。

 

「クリス、お願い。

 断空についてまとめて――」

 

 

①『ViVid』11巻より。

  クラウスの打撃。

『大地から足先へ、下半身から上半身へ螺旋を描いて力を伝える』

 

 

②『GOD公式攻略ガイドブック』

  覇王断空拳より。

『右拳に全身の力を集めて渾身の一撃を叩き込む』

 

 

③『GOD公式ビジュアルブック』

  覇王断空拳より

『拳にありったけの魔力を込めて、乾坤一擲の一撃を相手のみぞおちに叩き込む』

 

 

④『A'sビジュアルファンブック』

  魔力付与攻撃より

『自らの魔力を武器や肉体に乗せ、爆発的に威力を高めて行う攻撃。ベルカ騎士たちの攻撃技法の基本にして奥義ともいえる技法』

 

 

「――つまり、

 春光拳の『勁』とは違い、螺旋を描く覇王流独特の『勁』こそが『断空』の技法。

 そこに、ベルカらしい魔法攻撃の技法も加える。

 よって、

 

『断空(勁)』+『魔力付与攻撃』=『断空拳』

 

 なんじゃないかって思うんですけど……」

 

「ええ、その認識で間違っていないと思います」

 

 やっぱり……。

『ViVid Strike!』で、フーカさんとリンネさんの試合を見ていたジークさんも言っていた。

 

『その硬い拳に古流の、覇王流の打撃法と魔力運用を加えれば、威力はさらに増す』

 

 と……。

 

「ただ、そうなると気になることもありまして……」

 

「?」

 

「ほら、15巻で、変装したノーヴェが断空拳を放ったことがあったじゃないですか?

 

『お前の拳に眠る本当の威力は、お前が思うより、遥かに上の場所にある』

 

『これがお前の使っている断空拳。ここまでは練習すれば習得できる程度の技だ。

 だが断空の真髄はこんなもんじゃないそうだ。

 お前がいるのは、覇王流の入り口にすぎないってことだ』

 

 それを受けて、20巻では〝真・覇王断空拳〟を放つわけですが……」

 

「あのときは、精神的に吹っ切れて、身体から余計な力が抜けたから放てたのでしょうね。

 理想的な、自然な形で『断空(勁)』を使えた――ということだと思います」

 

「本当にそれだけなんでしょうか?」

 

「?」

 

「アレが、本当にノーヴェの言う〝断空の真髄〟なんでしょうか?」

 

「といいますと?」

 

「確かに強力な技だとは思いますし、格闘技の世界だけで見れば『ああ、なのはママみたい(=オーバーキル)……』だとも思います」

 

「いえ、そこまではー」

 

「だけど、あれを古代ベルカの戦場で使っていたのかと思うと、疑問が残るといいますか……。

 だって、シグナムさんやヴィータさん――ベルカの騎士たち――を見ていると、ベルカって魔法攻撃だけでも十分強いじゃないですか。カートリッジシステムもありましたし」

 

「それは……」

 

「アインハルトさんは、シュツルム・ファルケンやギガント・シュラークより、真・覇王断空拳が強いと思いますか?」

 

 アインハルトさんが「ん~」と可愛く唸る。

 

「つまり、ヴィヴィオさんは、断空の真髄とは、単に威力を増すだけでなく、もっと別の何かではないのか――そうおっしゃりたいのですね?」

 

「はい。単に『神撃』に至るだけでなく、もっと先に何かがあるんじゃないかって……。

 真・覇王断空拳の〝拳の光り方〟も気になりますし……」

 

「なるほど……断空の真髄ですか……。

 これはもう一度、ノーヴェ会長におうかがいするべきかもしれませんね」

 

 わたしとアインハルトさんは、ランニングのコースを変更。

 ノーヴェのマンションにお邪魔する。

 

「おう、どうした2人とも。フーカならリンネのところへ――」

 

 ノーヴェの用意してくれた朝食を口いっぱいに頬張りながら、断空について尋ねてみた。

 

「断空の真髄って、今更だよな。もう、あたしよりアインハルトの方が詳しいんじゃないのか? 実践しているわけだし」

 

「ん~、ていうかさ……もぐもぐ……そもそもノーヴェって、アインハルトさんですら知らなかった断空の真髄について、どこから情報を仕入れてきたの?」

 

「……そりゃ、お前、あたし……というより、あたしの姉妹なら、表に出てこないようなネットワークもあるだろ?」

 

「うっ、確かに……」

 

 管理局から聖王教会。果てはスカリエッティと親交のあった裏世界の住人まで。

 

「ついでに言えば、お前らと無限書庫に行ったのもいい機会だったな」

 

「無限書庫編?」

 

「ああ。それまで無限書庫なんてデカイ図書館程度のもんかと思ってたけど、未整理区画――だっけ? あそこなら『エレミアの手記』なんて古代ベルカ時代の個人的な日記みたいなものまであっただろ?

 だったら、覇王流に関する資料だって、どこかに眠ってるんじゃないかって。

 お前らのコーチだ――って、胸張って言うにはそれくらいは、な」

 

 そういえば、8巻ではやてさんが言っていた。

 

『私らの方でもいろいろ調べてたんよ。アインハルトの記憶にある諸王時代のこと――』

 

 と。

 ノーヴェも、自分なりに調べてみようと頑張ってくれたのだろう。

 

「ああ、あのゲーセンで台パンしてたよーな暴れん坊ノーヴェが、図書館で調べ物だなんて……成長したねぇ、ノーヴェも……」

 

「すっげームカつくんだが、否定できない自分がいる……」

 

「あの、それで会長。その覇王流に関する資料には、断空の真髄についてどのように書かれていたのでしょうか?」

 

「あー、それな。

 結論から言うと、よくわからん」

 

 

「「はあ?」」

 

 

「アインハルトの断空拳が、覇王流の入り口にすぎないってことまではわかったんだが……その、最終型となるとわからなかったんだよ」

 

「えー、なんでー?」

 

「なんでと言われてもな。

 お嬢(ルーテシア)の家で見ただろ? イングヴァルト自身の回顧録はあっても、イングヴァルト自身の奥義書――はないんだよ。

 その辺りは『エレミアの手記』を残した、ジークのご先祖様と同じだな」

 

 むしろ、おかん――ヴィクターさんの方が詳しいというアレだ。

 

「とはいえ、周囲が残してくれた資料で、断空拳はあたしが使ってみせたような、単なる――

 

『捻りを加えた勁』+『魔力付与攻撃』

 

 ではなく、もっと強烈な威力を秘めていたことがわかった。それと、断空の鍛錬方法もだな。イングヴァルト本人がやってたんだろ。

 でもな、断空を極めるということ――断空の真髄が何を意味しているのかまでは、亡くなった覇王イングヴァルト本人にしかわからないんだよ。

 つまり、アインハルトにしかわからないってことだな」

 

「そんな……」

 

「とはいえ、ヒントがないわけじゃーないぞ?

 なのはさんだ」

 

「は? うちのママ?」

 

「ああ。考えてもみろ、あの人、戦技教導隊だぞ?

 魔導師用の新型装備や戦闘技術をテストしたり、仮想敵として演習の相手をするから、いろんな飛び方や戦い方をする。

 もちろん、古流武術もだ」

 

「えー?」

 

「スバルが言ってたぞ。六課時代に、バリアジャケットすら装着してないなのはさんに、4人がかりで軽くいなされたって」

 

「それはスゴいですね!」

 

 そういえば『StrikerS』の漫画でそんな話を読んだ気がする……。

 というか、そもそもママの実家も……。

 

「だからさ、なのはさんなら、今のお前たちの中にある漠然とした覇王流の終着点に、1つの答えをくれるんじゃないか――」

 

 というわけで、灯台もと暗し。

 わたしは一周回って高町家に帰ってきた。

 ついさっき朝食を食べていた気がするのだけど、今度はなのはママが作った昼食を口にする。

 

「はむはむ……で、ママ、断空拳なんだけど……」

 

「断空剣?」

 

「それダンクーガ」

 

 テイルズの必殺技でもいいのだけど、どちらかというと有名なのは、スパロボにも参戦しているロボットアニメ――超獣機神ダンクーガの必殺技。

 

「我を空にして煩悩を断つ!」

 

「それも断空我。漢字で書いただけ。もう、わからないならわからないって言ってくれればいいのに」

 

 なのはママが笑って言う。

 

「覇王流に関しては、私としても思うところはあるんだけどね。断空を語ろうと思ったら、たぶん、私よりもっと適任がいるんだよ」

 

「適任……ですか……?」

 

 こうして、わたしとアインハルトさんが、なのはママの紹介で訪れた先は高町家――といっても、ミッドではなく、地球の高町家――そう、なのはママの実家だった。

 

 夕食後(うん、なんか食べてばっかな気がする)。

 その道場主に対して、アインハルトさんが今必殺の――

 

 

「真・覇王断空拳!」

 

 

 螺旋を描く衝撃を、道場主は刀の刀身で受け流してみせる。

 

「あ、あれ?」

 

 非殺傷設定で威力を抑えていたとはいえ、相手は魔法世界の住人ではない――にもかかわらず、覇王流の奥義があっさり破られたのだ。

 アインハルトさんとしては、それこそ魔法をかけられたような気分なのだろう。

 

「なのはママのお父さんなので……」

 

「あ、ああ~」

 

 それだけで納得されるのもどうかと思うけど、割とマジで強い古流武術。御神真刀流の使い手だ。

 ちなみに、わたしが御神流の奥義・神速をマスターすれば、神眼・神速のコンボで、ほぼ無敵になります。

 士郎さんが険しい表情を浮かべた。

 

「やはりな……」

 

「何かわかったの?」

 

「ああ。魔法世界とこっちの違いはあるが、同じ古流武術の使い手として思うところはある。

 君の――アインハルトちゃんの断空という技法は、おそらく、なのはのような魔導師を相手にするための技術ではないね」

 

「「え?」」

 

「もっと別の相手と戦うことを想定している」

 

「どういうこと?」

 

「いくつか覇王流の技を見せてもらったんだが、例えば旋衝破――アレは魔法だけでなく、物理攻撃も跳ね返すことができるんじゃないかい?」

 

「はい」

 

 そういえば、6巻でコロナのゴライアスが飛ばしたパンチを跳ね返していた。

 

「それと破城槌だったね。その名の通り、城門なんかを破壊するための技に思えるけど――」

 

 古代ベルカの城攻めに必要だったのだろう。

 

「なのはのように、遠くから強力な魔法を撃てる世界で、わざわざ危険を犯してまで接近して破壊する必要があるのかい?」

 

「それは……」

 

「もっと別の、硬い、特殊な何かを破壊するために考案されたようにも思える」

 

 ……う~ん。

 そういえば、アインハルトさんが初めて破城槌を使ったのは、ゴライアスの〝腕部〟を破壊するときだったっけ……。

 

「〝覇王流〟とつく技はみんなそうだ。どれも、普通の武術の技のように見えて、その根底には、もっと別の目的があるように感じられる」

 

「別の目的……ですか?」

 

「ああ。それは俺にはわからないが……そうだな、君の拳に宿る光は、どこか、なのはたちが使う魔力とは違うように感じられるよ――」

 

 

 翌日。

 地球から帰ったわたしとアインハルトさんは、アインハルトさんの家で話し合いをしていた。

 ちなみに、20巻でアインハルトさんちに泊まったとき、みんなしてパンツ姿だったのは『ViVid』が終わってしまった今では永遠の謎である。

 おそらくだが、2巻の合宿の夜――アインハルトさんだけパンツ姿だったので(わたしはパジャマ姿だ)、

 

「アインハルトさんちでは、夜、パンツで寝るのがデフォなのだろう」

 

「そーいう間違った情報を発信するのは止めてください!」

 

「いや~、案外いい線いってると思ったんですが……」

 

「こほん。パンツの話は置いておきまして、以前から1つ疑問に思っていたことがあったんです。

 チャンピオン――ジークさんの中には、先祖代々続く、数多くのエレミアたちの戦闘経験が受け継がれていると聞きました。

 なのに、私と初めて対戦したとき、覇王流についての記憶がまったくありませんでした」

 

「そういえば、そんなこともありましたねー。

 8巻の試合中は、アインハルトさんのこと〝古流武術家ちゃん〟呼ばわりしてましたよね」

 

「はい。なので、クラウスと拳を交えていたエレミア――リッドの戦闘経験は、一体どこへ行ってしまったのだろう――と」

 

「だったら、ジークさんに聞いて……」

 

「ええ、そうしたいの山々なのですが……」

 

 また、その辺でふらっとゆるキャン中である。

 いや……がちキャンなのか、アレ……?

 仕方がない――。

 

『――で、私に連絡してきたと?』

 

「はい。ジークさんのオカンさん」

 

『違いますわよ!?』

 

 雷帝のお嬢様。ヴィクターさんその人である。

 

『――で、ジークが覇王流を知らなかった理由ねぇ……』

 

 大きな胸を押し上げるように腕を組む。

 

『ひょっとしてなんだけど、今アインハルトが使っている覇王流は、クラウスがオリヴィエやリッドと別れてから考案した流派――ってことはないの?』

 

 

「「ああ~!」」

 

 

 10年間軟禁され続けたリッドさんが解放されたとき、すでにクラウス陛下は戦場で命を落としていた。だから、エレミアの記憶に覇王流はなかったのである。

 

「そう考えれば辻褄が合いますね!」

 

「流石、ジークさんのオカンさん!」

 

『だから、それはやめなさいって――』

 

『ただいまー』

 

 通信の向こうから、どこかで聞いたチャンピオン声が聞こえてきた。

 ヴィクターさんが早速向かう。

 

『もう、こんなに長くほっつき歩いて……』

 

『堪忍な~』

 

『汚れたジャージは、ちゃんと洗濯カゴに……早くお風呂に入ってきなさい……ご飯は――』

 

 …………。

 わたしとアインハルトさんは、そっと通信を切った……。

 

「つまり、覇王流は、クラウス陛下がオリヴィエに負けて、オリヴィエがゆりかごに乗ったあと作られた――ってことになりますよね?」

 

「ええ、初めてリッドと試合をしていたときの様子から、すでに断空の基本となる型はあったようですが――」

 

 自分で編み出した――というより、城に招いた旅の武術家から教わった――それをクラウス陛下なりにアレンジした――と考える方が自然だろうか。

 

「1つの流派として創始したのは、1人になってからなのでしょうね」

 

「でもアインハルトさん、それっておかしくないですか?」

 

「どういうことでしょう?」

 

「誰よりも強くなって、早く戦争を終わらせたい――って願うなら、あの時代、新しく武術を創始するより、全盛期だったベルカ式の魔法を極めた方がよかったんじゃ……?」

 

「シグナムさんやヴィータさんみたいに――ということですか?」

 

「はい」

 

 人造魔導師になり、さらに強靭な肉体と巨大な魔力を得たクラウス陛下なら、間違いなく最強のベルカの騎士になれただろう。

 

「その道を選ばなかったってことは、お爺ちゃん(士郎さん)が言っていたように、覇王流には、ただ強くなるだけでなく、もっと『別の目的』があったと思うんですよね」

 

「別の目的ですか……。

 そういえば、6巻でコロナさんと戦ったとき、私の台詞で、

 

『身体自動操作や頑強な腕部武装。覇王にとってその対策は、600年前から取り組み続けた課題だったんです』

 

 ってあったじゃないですか」

 

「はい。ありましたねぇ」

 

「アレは、オリヴィエ王女のことなんですが……」

 

 漫画を読むと、オリヴィエの姿がしっかり1コマ載っているので、間違いないだろう。

 

「あのときはそこまで深く考えていなかったんですが、改めて考えてみると、オリヴィエがゆりかごに乗ったあとも、彼女への対策を続けていたということは――」

 

 

「「覇王イングヴァルトは、間違いなく、もう1度オリヴィエと戦うことを想定していた!?」」

 

 

「以前、ヴィヴィオさんが、

 

『クラウスの最終目標は、ベルカ平定後、ゆりかごからオリヴィエを救い出すこと』

 

 と考察していたじゃないですか。

 

『場合によっては、ゆりかごと一戦交えるつもりだった――』

 

 と。

 けれど、クラウスは、ゆりかごだけでなく、オリヴィエと戦うことも視野に入れていたのではないでしょうか?」

 

「でもでも、クラウス陛下が迎えに来てくれたってことは、すでに大きな戦争がなくなったころなわけで、素直に――」

 

「それをヴィヴィオさんが言いますか?」

 

『StrikerS』……。

 

「あう~、そうですね~。

 もしわたしがオリヴィエだったら、クラウス陛下が迎えに来たとしても、たぶん、最後までゆりかごを降りないかな~と」

 

「やっぱり……」

 

「もしも、自分が生きているうちにベルカが統一されたとしても、しばらくは政情や治安が不安定だと思うんですよねぇ……。

 どうせ数年の命ですし、それなら抑止力として最後まで――命が尽きるまで――空を飛び続けるんじゃないかなって……」

 

 実際、『ViVid』9巻によると、諸王乱立の戦国時代が終わり、聖王家によりベルカが統一の道を歩み始めても、ゆりかごは聖王家の剣として、空を飛び続けたという。

 

「そんなヴィヴィオさん――オリヴィエを、私――クラウスだったら、殴ってでも連れ帰るだろうなって」

 

「そして逆に殴り倒されるという……」

 

「やめてくださーい!」

 

「つまり、覇王流とは、ただ強くなるだけが目的ではなく、むしろ――」

 

 

「「対ゆりかご戦。

 AMF(アンチ・マギリンク・フィールド)の影響下で、再びオリヴィエと拳を交えることを想定した格闘戦技!」」

 

 

「――ってことですか?」

 

「はい。魔法が無効化されてしまう領域内でも、伝統武術の『勁』――つまり『断空』の技法であれば問題なく力を振るうことができるはずです」

 

「なるほど」

 

「ただ、純粋な魔導師であるヴィヴィオさんのお母様も、ゆりかごを墜とされたということは、断空がなくても勝てるという証明でもあるわけで……」

 

「う~ん、あのときのことをなのはママに聞くのはちょっと……って、あ、もう1人いた――」

 

 というわけで、永遠の赤色チビっ子のもとへ連絡を入れる。

 

『あ? ゆりかごだと……』

 

 大怪我を負ってたしなあ……。

 ヴィータさんにとっても、あまり思い出したくない記憶なのかもしれない。

 

『バルス、バルス……』

 

「待って、待って、なに唱えてるのぉぉ!?」

 

『ゆりかご戦のあとな、休養ついでに海鳴のじーちゃんばーちゃん家に泊まったことがあったんだよ』

 

「は、はい……」

 

『そしたらさ、ちょーどラピュタの再放送があってさ――。

 

『うげー、ラピュタ内部ってロボット兵がたくさん搭載されてやがったんだな……。

 まともに喧嘩したら勝てねーだろ。

 つーか、ゆりかごん中も、昔はもっとたくさんガジェットIV型がいたんだろーな……。

 バルス、バルスと……』

 

 思ったわけだ』

 

 ちなみに〝ガジェットIV型〟は、スカリエッティが参考にしたという、元々ゆりかごに搭載されていた古代の自律行動兵器だ。

 ヴィータさんを追い詰め、かつてなのはママを墜落させた犯人もコイツ――なわけで、1体でもかなりの戦闘力をもつ防衛システムなのだけど、

 

『つーかヴィヴィオ、次やるときは、先に滅びの言葉をだな――』

 

 ――ブチッ。

 

 わたしとアインハルトさんは通信を切った。

 

「滅びの言葉は置いといて、確かに、ヴィータさんが苦戦するようなロボット兵――」

 

「ガジェットです、ガジェットドローン」

 

「――が、うじゃうじゃいたとしたら、普通の魔導師じゃ手も足も出ないかと」

 

 さらに『StrikerS魔法辞典』には、

 

『ゆりかごに乗る乗組員や騎士たちがAMF対抗の訓練を重ねることで、

 自分たちは魔力を運用し、

 侵入してきた敵対象は魔力を使用しづらい、

 という状況にすることで、艦内の防衛力を高めていたと思われる』

 

 とあった。

 

「つまり、かつてのゆりかごには、AMF状況下で戦う訓練をしている聖王家の騎士団も常駐していたってことです。

 仮にも聖王家ですからね。

 その中に、2~3人くらい、シグナムさんやヴィータさんに匹敵するベルカの騎士が乗っていたかもしれません。

 そう考えると、断空のような魔力に頼らない戦闘技法が、ゆりかご攻略には必須だった――と考える方が自然だと思います」

 

「でしたらヴィヴィオさん。

〝断空の真髄〟とは、やはり『断空(勁)』の技法を極めることにあったのではないでしょうか?」

 

『断空の真髄』=『神撃の領域』

 ということだ。

 

「確かに、人造魔導師になったクラウス陛下なら、

 

『断空(勁)』+『魔力付与攻撃』

 

 だけで、サイラオーグみたいに強いので、ゆりかごを突破することができると思います。

 ですが、クラウス陛下なら、

 

『まだ足りない……』

 

 と思ったはずです」

 

「どうしてでしょうか?」

 

「ゆりかごの聖王になったオリヴィエには、〝聖王の鎧〟があったからです」

 

「聖王の鎧、ですか……?」

 

「はい。ゆりかごに関してアレほど詳しく知っていたクラウス陛下なら、まず知らないことはありえません。

 というより、オリヴィエから詳しい話を聞いていたかもしれませんし……」

 

「聖王の鎧とは、どのようなものなんですか?」

 

「そうですね……。簡単に説明すると、わたしのセイクリッド・ディフェンダーの完全上位互換です。

 今のわたしですら、アインハルトさんの断空拳や、ミウラさんの抜剣を防げますからね~。

 さらに、ゆりかごから無尽蔵の魔力が供給されますから、完全な聖王の鎧には、物理・魔法攻撃はもちろん、断空(勁)の技法ですら、ほとんど効果がなかったはずです」

 

「……つまり、先日お借りしたドラクエのメタル系モンスターみたいな感じでしょうか?」

 

「あ~、経験値が多いかどーかは知りませんが、そんな感じかもですねー」

 

 ついでに攻撃力も高いという詐欺みたいなボスキャラだ。

 

「光の玉なしでゾーマに挑むといいましょうか、もしそのまま挑戦したら、クラウス陛下涙目だったでしょうね」

 

「それって倒せるんですか?」

 

「ん~、オリヴィエの場合、わたしみたいなレベル1聖王じゃなくて、レベル100聖王ですからね……どうでしょう?

 ここは1つ、同じボスキャラ枠だった人に聞いてみましょうか?」

 

『GOD』版の惑星エルトリアと通信をつなぐ。

 

『――むっ、どうしたこわっぱども』

 

 いつもながら、エプロン姿のディアーチェが料理をしていた。

 もうこのまま料理業界で世界征服すればいいんじゃないかな。

 

「王様、王様~。聖王の鎧の攻略方法って知ってますか~?」

 

『ふむ……聖王の鎧か……。まあ、なくもないが……』

 

「え、本当ですか!?」

 

「紫天ロボ――とかいうオチはなしですよ~?」

 

『レヴィじゃあるまいし……というか、劇場版に登場した3体の機動外殻を使う――というのは1つの手ではあるだろうな』

 

 ああ、アレか~。

 

『とはいえ、アレ程度で勝てるほどベルカの戦乱期は甘くないぞ。

 聖王の鎧を突破するには、劇場版でユーリが放った結晶樹のような攻撃が必要になるだろうな』

 

 あのクロノ提督を、モブ魔導師と一緒にあっさり行動不能にしたアレだ。シグナムさんやフェイトママもやられている。

 

『パンフレットは見たのだろ? アレは〝通常の魔導防御が機能しない〟攻撃だからな』

 

 お玉をブンブン振る。

 

「だったら、永遠結晶エグザミアがあれば、聖王の鎧も突破できるってこと?」

 

『うむ。あとは劇場版の高町なのはが使っていたフォーミュラカノンだな。

 ブックレットによると、

 

『魔力をフォーミュラエネルギーに変換し、電磁コートを加えて打ち出す機構を持ち、「魔力無効化」や「エネルギー分解装甲」能力を持つ対象にも有効打を与える事が可能』

 

 とある。

 つまり、魔力を、データのない第3のエネルギーに変換し、攻撃することができれば、聖王の鎧すらも貫く最強の矛になるわけだ――』

 

『要はアレでしょ! かーめーはーめー――』

 

『だぁぁ! やめんかレヴィ!』

 

 ――ブチッ。

 

 通信が切れた。

 

「そういえばリリカルなのはに『気』ってなかったっけ……」

 

 ぶっちゃけ、光子力エネルギーやゲッター線でもいけそうな気がする……でも……。

 格闘技だしなあ……。

 

「とりあえず、その『第3のエネルギー』=『未知のエネルギー』を『気』と呼びましょうか?」

 

「わかりました。

 つまり、

 

『断空(勁)』+『魔力(バリアジャケットなどの肉体強化)』+『気付与打撃(魔力を変換)』

 

 すれば、クラウスは、オリヴィエ王女に勝てるということですね?」

 

「ええ。攻撃は通りますし、あとはクラウス陛下の頑張り次第で……って、あー、そうか、そういうことだったんだ!」

 

「?」

 

「えっとですね、さっきのフォーミュラカノンの説明を置き換えてみてください。

 もしも、クラウス陛下が、

 

『魔力を〝気〟に変換し、断空の技法を加えて打ち込む技術を持ち、「魔力無効化」や「エネルギー分解装甲」能力を持つ対象にも有効打を与える事が可能』

 

 だったとしたら――」

 

「ああ! 私にもわかりました!

 古代ベルカ時代に、劇場版のユーリさんや、エクリプス感染者のような、魔力エネルギーを無効化できる存在と相対しても、覇王流のまま、自身の戦闘スタイルを変えることなく戦うことができた――ということですね!」

 

「はい!

 前から思ってたんですよ。

 同じベルカの騎士であるシグナムさんやヴィータさんでも勝てない相手と、当時の騎士たちは、どうやって戦っていたのかなって。

 強力な質量兵器も、混戦状態では使えないじゃないですか。

 味方ごと消滅させた指揮官もいたかもしれませんが……。

 けれど、もしクラウス陛下がそういった力を持っていたとすれば、引くことなく打ち破ることも可能です。たった1人で前進を続けるんです!

 これこそ〝覇王〟の名に相応しいと思いませんか?」

 

「ああ~、覇王流……最強じゃないですか!」

 

 現代の覇王様もご満悦である。

 

 

 翌日。

 わたしとアインハルトさんは、調査結果をジムで報告することにした。

 リオコロたちみんなが体育座りで聞いている。

 

「オリヴィエがゆりかごに乗ったあと、クラウス陛下は覇王流を創始しました。

 

 それにもかかわらず、クラウス陛下がオリヴィエ対策に取り組み続けたということは――いつかゆりかごに乗りこみ、オリヴィエと再戦することを胸に秘めていた証拠です。

 

 そう――覇王流の真の目的とは、オリヴィエに勝利し、救うこと。覇王流とは、そのために考案された格闘戦技だったのです!

 

 AMF状況下での戦闘を考慮し、覇王流では魔力を使わない攻撃――伝統武術における『勁』の技法の一種である『断空』を基本とします。

 

 また、古代ベルカの騎士たちは、自分の魔力を武器や肉体に付与することを、攻撃技法の基本にして奥義にしていました。

 

 故に覇王流では、奥義である『断空拳』を、

 

『断空(勁)』+『魔力付与攻撃』

 

 としてきましたが、それでは神撃の領域に踏みこむことはできても、オリヴィエの聖王の鎧は打ち砕けません。

 

 それを知っていたクラウス陛下がたどり着いた領域こそが、さらに先の――断空の真髄。

 

『断空(勁)』+『魔力』+『気(魔力を未知のエネルギーに変換する)』

 

 という特殊な技法でした。

 

 例によって、アルハザードの関与があったかもしれません。

 

 ひょっとしたら、真・覇王断空拳も不完全ではあるのですが、

 

『断空(勁)』+『気付与攻撃』

 

 だったのかもしれません。

 

 拳の奇妙な光り方や、リングの外周防護フィールドが役に立たなかった説明にもなります。

 

 皮肉な話ではあるのですが、オリヴィエを救うために身につけた力は、エクリプス感染者など、魔力エネルギーを無効化できる相手に対しても、極めて有効だったのでしょう。

 

 多くのベルカ騎士が苦戦する中、たった1人でも勝利し続ける存在――覇王の名が広まった所以だと思われます。

 

『魔法少女リリカルなのはStrikerS THE COMICS 1巻』に、シグナムさんとヴィータさんのこんな台詞があります。

 

『己が信ずる武器を手に、あらゆる害悪を貫き敵を打ち砕くのがベルカの騎士だ』

 

『魔導師どもみてーにゴチャゴチャやんねーでも、ストレートにブッ叩くだけでブチ抜けんだよ!』

 

 クラウス陛下は、ある意味、ベルカの騎士の理想を体現していたのかもしれません。

 

 あらゆる敵を、拳ひとつでブッ叩く。殴り倒す。

 

 そんな〝覇王〟の名に相応しい、ベルカの王になれたのだと思います。

 

 ただ、その姿を一番見せたい相手は、ずっと空の上にいたのですが――。

 

 最後に、20巻でクラウス陛下の記憶が消えてしまったときのアインハルトさんの台詞に、

 

『クラウス

 あなたが望んだ覇王流の強さに

 わたしは少しは

 近づけましたか?』

 

 とありましたが、クラウス陛下が望んだ覇王流の強さとは何だったのか?

 

 それは、同じく20巻のラストで、アインハルトさんがわたしに言ってくれた言葉にあります。

 

『やりたい事は全部やってみて、そして、自分と自分の大切な人を一番幸せにできる道を、笑顔にできる道を選んでいくのがいいのかなと』

 

 そうです。

 

 オリヴィエを笑顔にすることが、クラウス陛下が望んだ覇王流の強さであり、そのために必要な力が〝断空の真髄だった〟――そういうことだったのでしょう」

 

 ジムがしんと静まり返る。

 

「なんだかとてもスッキリしました――」

 

 アインハルトさんにしては珍しく、その場でクルクル回っている。

 覇王流にとっては納得がいく結論だった――ということだろう。

 すると、

 

「ねぇ、ヴィヴィオ~」

 

「はい、リオ」

 

「『断空』+『魔力』+『気』って、ネギまの〝咸卦法〟に似てない?」

 

「うっ」

 

「ネギ先生が、

 

『中国拳法』+『魔力』+『気』

 

 で、咸卦法を使いこなしてたことを考えると、よく似てるような……」

 

「ふぉ~、せっかく内緒にしてたのに、言ってはならんことを~。行き着いた先が一緒になっちゃったの!」

 

「ゴメン、ゴメンってば~」

 

 リオにアクセルスマッシュWを決めていると、

 

「ねぇ、ヴィヴィオ」

 

「はい、コロナ」

 

 まあ、コロナならリオと違って大丈夫だろう。

 

「ねぇ、知ってる?」

 

 豆し●みたいだなあ……。

 

「ダンクーガノヴァの放送終了は2007年5月。

 なのはViVidの連載開始は、2009年5月。

〝断空剣〟から〝断空拳〟を思いついたとして、企画がスタート。漫画家さんが決まり、断空剣のほとぼりが冷めたころっていうと、2年くらいがちょうどいいよね?」

 

 …………。

 

「それ、一番言っちゃダメなやつだよね!?」

 

 

 

 

 




本当に〝気〟のような力があったかどうかは別として、オリヴィエ対策を続けたクラウス陛下が、本気で聖王の鎧をまとったオリヴィエに勝とうと思ったら、
A、仲間を揃える
B、1人でひたすら修行して身に着ける
の2択なんですが、たちが悪いことに、彼なら当然Bなのでしょう。
C、そういうロストロギアを手に入れた
という可能性もありますけど……。

それはそれとして、今回はいつになく書くのに苦労しました。
そもそも、最初はもっと軽いノリで考えていて、

「もぐもぐ……ノーヴェ、ノーヴェってどこで断空の真髄について学んだの?」
「え? そりゃあ……」
 何だか妙に歯切れが悪い。
 怪しい……。
「はーい、ガサ入れ入りまーす!」
「ちょ、おい! なに勝手に人の部屋に!」
 アインハルトさんの手をつかむと、素早くノーヴェの部屋に入りこむ。
「わたしはベッドの下をチェックするんで、アインハルトさんは机の引き出しをお願いします!」
「え、あ、はい!」
「何だよ、その中高生男子の薄い本を探すみたいなノリは!?」
「――ムムッ!?」
「ヴィヴィオさん、まさか!?」
「ないからな、そんな本っ!?」
「こ……コレは……ノーヴェの弟子のわたしとしては、もっととんでもない代物を発見してしまいました……」
 ノーヴェが「あちゃ~」と、手のひらを顔に当てた。
 アインハルトさんがゴクリと息をのむ。
「『鉄拳チンミ』です」
「鉄拳チンミ?」
「はい。地球の超有名な格闘漫画の一冊です。1983年に連載がスタートして、もうじき80巻になろうかという――あ、そっか、そういうことか! 通背拳(つうはいけん)だっ!」

とか、

「ノーヴェ……」
「なんだよ……」
「『修羅の門』の〝虎砲(こほう)〟じゃダメだったの?」

など、色々な格闘漫画を参考にして説明しようとしたんですが、
「これ、原作漫画を読んだことがある人にしか理解できないよね!?」
と思い直しまして、できるだけリリカルなのはだけで説明できるよう、全て書き直しました。

最終的に、ネギまの咸卦法みたいになったことは、それはそれで意味があるのかもしれませんね……。
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