イリヤさんの魔法少女戦記 作:イリヤスフィール親衛隊
∇∇∇本編∇∇∇
「それで、これはどういうことですの?トオサカ・リン?」
「見てわからない?今回は協同戦線を張るの」
明らかに不機嫌なルヴィアに対して、凛は素知らぬ顔で平然と言ってのける。
「必要ありませんわ!ワタクシたちだけで十分戦えます!いいえ、なんならミユひとりでもキャスターごときに遅れはとりません!」
「へぇ、言うじゃないの。そうやって嘗めてかかってこっぴどくやられたのはどこの誰だったかしら?」
「それはアナタもでしょう!」
「ええ、そうよ。だから今回はそんなヘマしない。キャスターは私たちが倒す」
「だったら……!」
「アイツにはセイバーの相手をしてもらうのよ」
凛が離れた場所で独り夜空を見上げている黒紫の魔法少女を指差し告げる。セイバー……?とルヴィアだけでなくイリヤと美遊も首を傾げる。
「まだ不確定情報だけど、アイツが言うには鏡面界にはキャスターだけでなくセイバーも存在している、らしいわ」
「あの、凛さん。それって……」
ここで空気を読んで黙っていたイリヤが話に参加する。イリヤの言いたいことを察した凛はイリヤがすべて言い切る前に頷いて返答を返す。
「アイツも鏡面界で一度、キャスターと戦ってるのよ。詳細は知らないけど、セイバーが現れたことで撤退を余儀なくされたって言ってたし、ライダーとの戦闘を加味して、セイバーの存在がなければアイツがキャスターを打倒できていた可能性は高いわ」
「ほえぇ……やっぱり、スゴいなぁ」
イリヤは横目で三人目を流し見る。強いとは理解していたが、自分たちが手も足も出なかったキャスターとだって渡り合える少女を、イリヤは純粋にスゴいと思った。
「……」
美遊も美遊で第三のカレイドライナーを呆っと見つめている。
「事情は理解しましたわ。百歩譲ってセイバーの存在が事実だったとして、彼女は本当にキャスターには手を出さないのですか?」
「そこは問題ないわ。なんせセルフ・ギアス・スクロールを使ったもの」
セルフ・ギアス・スクロールとは、魔術師にとって絶対順守の法であり、署名した者の魂を縛る強力な術式。これに記された契約に同意した場合、それを破ることは如何なる者にも叶わず、その効力から逃れる術はないという。その契約内容は
今回に限りセイバーのサーヴァント以外には手を出さないこと。
当然、セルフ・ギアス・スクロールは値の張る代物である。安い買い物であったとは思わない。だが、任務の成功のためにはそれを使うだけの価値があると凛は判断したのだ。
「しかし、セイバーのクラスカードをあちらにとられれば任務は……」
「だから、キャスターなんてさっさと倒して、アイツに加勢。セイバーのカードもかっさらうのよ。契約でアイツはセイバー以外には手を出せない。つまり、私たちにも手を出せないんだから」
「なるほど、だからセルフ・ギアス・スクロールを……。アナタを褒めるのは少しばかり癪ですが、いいアイデアですわね!」
「……」
『いい大人が、なんと情けない……』
「凛さん、悪い顔だよ……」
『性格が悪いというか、今のリンさんはまるで悪魔のようですね~?』
「赤い悪魔、だね」
美遊とサファイア、イリヤとルビーの刺すような冷たい視線に、しかし、凛とルヴィアは気づかなかった。
∇∇∇
「ハァ……アホらしいわ」
『たしかに、なにやら抜けたところのある方々ですね~?』
嘆息した【イリヤ】は【ルビー】の羽をそっと撫でて空を見上げる。そこには満天の星空……などではなく、雲に覆われて月すらもその姿を隠した空が広がる。
「あの黒髪の魔法少女……」
『ミユさんとかいう方ですか~?』
「そう。この前からなにか違和感というか思うところがあったんだけど、どこかサクラと同じような……ううん、サクラともわたしとも違う。けど、似てる……。親近感を憶えるわ」
もしかして、彼女は……。そこまで言って【イリヤ】は口をつぐんだ。背後から近づいてくる気配に気づいたからだ。
「あ、あの~……」
振り向けばそこには転身を終えたイリヤがルビーを携えて立っていた。【イリヤ】は仮面と認識疎外を確認してから声を発する。
「なにかしら?」
「えーと……ミーティングが終わったので、呼んで来いって凛さんが…………」
「……そう。でも、協同戦線とはいえ行動を共にする気はないわ。リンに伝えておいて、アナタたちがキャスターを倒してしまう前に、わたしがセイバーを倒してあげる、って……」
「アハハ……さっきの聴こえてたんだ…………。あ、でもでも!あんな人だけど頼りにはなるんだよ!」
申し訳なさそうにしていたイリヤは、次に凛のフォローに入るが、なんというかわたわたと慌てたようにしていて怪しいし、どこか投げやりだ。
「…………多分」
「……ハァ」
なんかもう見ていられなくなった【イリヤ】は二度目の嘆息と共に鏡面界へと跳躍する。
「た、溜め息吐かれた……」
後にはガクッと項垂れるイリヤだけが取り残されたのだった。
∇∇∇
セイバーの姿を探し回りながら【イリヤ】と【ルビー】は雑談に興じる。
『アナタがミユさんを気にしているように、ミユさんの方もアナタのことが気になっているようでしたね~?』
「……どうして楽しそうなの、【ルビー】?」
『それは【イリヤ】さんと居ると楽しいことが尽きないからですよ~!』
「フーン……おっと、居たわね」
【ルビー】の言葉がどこか含みがあるように感じられて腑に落ちないが、それを問いただす前に【イリヤ】はお目当てのセイバーを発見した。
ただ佇んでいるというだけで、黒い騎士王は圧倒的な存在感を放っている。明らかに変質してしまっているセイバーに【イリヤ】は仮面の内で眉をひそめた。違うと頭で理解していても、どうしても、目の前のセイバーを義妹候補の彼女と重ねてしまう。
「随分とオちたものね、セイバー?安心しなさい。お義姉ちゃんが手ずからインドウを渡してあげるから……」
【イリヤ】は仮面を外して投げ捨てる。
「いくわよ【ルビー】?タイムリミットはリンたちがキャスターを倒すまで。シッパイした時のペナルティはわたしの身バレってことで」
『いいですね~!ペナルティを自らに課すなんて、【イリヤ】さんは本当にストイックですよー!』
「だって、ただ戦うだけじゃあつまらないでしょう?」
不敵に微笑む【イリヤ】は【ルビー】を構えて魔力弾を放つ。それが開戦の合図となり、魔力弾を黒の聖剣で真っ二つに切り裂いたセイバーが魔力放出による高速移動で【イリヤ】との距離を詰めに来る。その様はまるで人間ロケットのようである。
【イリヤ】は転移魔術でセイバーの背後をとるも、こちらが見えていない筈のセイバーは急停止して【イリヤ】の居る背後へと聖剣を振るう。しまったと思ったのも束の間、障壁と聖剣が衝突し、発生した衝撃波に【イリヤ】は吹き飛ばされる。
「ったあ……。やっぱり通じなかった」
というのも、今しがた行った攻撃パターンはつい先日にキャスター相手に使用した転移による奇襲そのものである。
唐突なカミングアウトではあるが、そもそもアインツベルンとは戦闘を苦手とする一族である。その理由は戦術面での問題が大きいとされる。その典型こそがヘラクレスをバーサーカークラスで召喚した第五次聖杯戦争であろう。
アハト翁の、強いマスターを使って強い英雄を一番強い状態で召喚すれば勝てるのでは、という安直な考えが【イリヤ】とバーサーカーのコンビを生み、更にはまともな作戦もなしにただただ好き勝手に暴れさせるだけという脳筋のような戦術の欠片もない戦法を生んだのだ。
実際、これまでの【イリヤ】においても【ルビー】の火力に頼った単調なごり押し戦闘しか行ってきていない。よしんば【イリヤ】と【ルビー】そのもののスペックが凶悪なだけにそれでも戦えていたし、勝てていた。誰もが強いと思わせられていたのだ。
しかし、ここに来て張りぼてがとれかかってしまっている。それだけセイバーはこと戦うということに関しては【イリヤ】のどこまでも先を行っていた。
【イリヤ】はセイバーの周囲に複数の魔方陣を展開させる。
「喰らいなさいっ!」
全方位面制圧弾幕。四方八方上下から隙間などないほどの魔力弾の雨が降る。完全不可避攻撃。まさに鬼畜的である。その分魔力消費は半端ではないが【ルビー】の恩恵のおかげでこのような無茶苦茶な攻撃も可能となる。
「……ダメか」
土煙が晴れる。そこには攻撃をまともに受けて尚、悠々と足を地につけて立っているセイバーの姿。ある程度ダメージは入ってくれたようだが、それでも疲弊した様子はない。
『やっぱり腐っても騎士王ですか~!正直、今の攻撃は完全に決まったと思ったんですがね~?』
「気を引き締めなさい【ルビー】。来るわ」
セイバーが聖剣を構え、その刀身へと黒い魔力が収束していく。それは約束された勝利の剣・エクスカリバーの真名解放。すべてを呑み込む黒き光の大河。【イリヤ】はその綺麗な顔を苦し気に歪ませた。
∇∇∇解説∇∇∇
*セルフ・ギアス・スクロールで【イリヤ】さんを嵌めたつもりの凛さん。
流石凛さん汚い。尚、【イリヤ】さんは最初からセイバー以外に手を出す気はなく、クラスカードも欲していないので、実際には凛さんが無駄な出費をしただけの模様。
*『それは【イリヤ】さんと居ると楽しいことが尽きないからですよ~!』
【ルビー】ちゃんはどんなカップリングでも有りですよ~?ということらしい。作者的にもそういうシーンを書きたいが、正直、無印プリヤ篇では書けそうにない。ツヴァイとドライを書く予定が今のところないため番外編という形で書くことになるかもしれない。
*「お義姉ちゃんが手ずからインドウを渡してあげるから……」
セイバーを思っての発言に聞こえなくもないが、内心では別人といえど義弟を狙う義妹候補を大手を振ってボコ……いびれるということでちょっとテンションアップしている【イリヤ】さん。
*アインツベルンは戦闘を苦手とする一族
アハト翁ことユーブスタクハイト・フォン・アインツベルンが聖杯戦争に向けて整えた、切嗣とアルトリア、イリヤとヘラクレスの組合わせの例でわかる通り、強いマスターと強いサーヴァントを組み合わせればすごく強いはず、という至極単純な発想しかできない。強者と勝者はイコールではないという戦場の基本も弁えていないあたりが、アインツベルンを象徴しているともいえる。アインツベルンが「戦闘を苦手とする」と言われるのは単なるマスターの戦闘力などの問題より、こういった戦術面での問題が大きいとされる。
イリヤ「ジャーマンナッコォ!ジャーマンスープレックス!!ジャーマン一本足四の字!!!」