基本ヒビリなので、手痛い批判、誹謗中傷はご遠慮下さい。
無粋な挨拶はこの辺で。
楽しんでもらえたら嬉しいです。
第Ⅰ話 黄色の悪魔はニンマリと
「俺の本当の仕事は、お前をマフィアのボスにすることだ」
素早い動きで銃を組み立て、口元に笑みを浮かべた、見た目はかわいい赤ん坊。
「はぁ!?」
いきなり現れたそいつの言葉が俺がこれから巻き込まれる、非日常への幕開けの合図だった。
「俺はある男からお前を立派なマフィアのボスに教育するように依頼されてんだ」
そう説明する赤ん坊、リボーンに銃を降ろす気配は無い。赤ん坊の見た目に関わらず、よほど使い慣れているのか、自分の背丈の倍以上もあるライフルの銃身はぶれること無く、銃口は正確に俺の急所に当てられていた。
(殺気は無さそうだけど……明らかに話をしようって態度じゃ無いよな? しかも誰かもわからない依頼で俺をマフィアのボスにって……俺の意見、完全無視?)
無表情のまま考えた俺の無言の様子に、焦れたのかリボーンはスッと目を細めた。
「やり方は俺に任されてる。一発撃っとくか?」
あまりにも無造作な、殺気のない動き。
しかし迷いの無いその目に、本気を悟り、俺は内心で息を呑んで、過剰な程の反応を返した。
「なっ、おい!!」
「でも、今じゃない」
俺が貼り付けた、青ざめた顔に気をよくしたのか、サッと銃の構えを解く。
微かに見えた微笑みに、この赤ん坊の秘めた残虐性を垣間見た気がした。
「あばよ」
おそらくあれは、彼なりの主導権を握るための準備。
容易に俺と上下関係を結べるであろうことを確信したのだろう。
部屋を出て、そのまま遠ざかっていく足音を聞きながら、俺ははぁと、息を吐き出した。
「なにあれ……絶対見た目と中身が間違ってる……!!」
部屋の外には決して漏れないように、気をつけながらも、俺は目線を宙に向ける。
「マフィア……ねぇ?」
(聞いてないよ。そんな事情……!)
心の中でこぼした愚痴は果たして誰に向ければいいのか。
「リボーン君、“ツナ“の成績が上がるまで、住み込む契約なの」
部屋の中で迷いなく銃を放とうとした赤ん坊の言い分を、疑いもしないこの家の主人、沢田奈々の言葉に、予想はしていたものの、俺は呆れるべきか笑うべきか怒るべきか判断がつかず……阿呆のように転んでみた。
問題の渦中にいるその赤ん坊はその一連のやりとりに興味を抱く様子も無く、我が物顔で食事中だ。
そのまま天然か素か、判別のつかない笑顔で食事の有無を尋ねる彼女に、俺は首を振って家を後にした。
沢田奈々。沢田家の女主人である彼女は、よく言えばおおらか、悪く言えば、どこか抜けている存在である。
俺が彼女の息子、「沢田綱吉」になり、共に暮らし始めてから七年あまり。そのあまりな警戒心の無さに、いつかたちの悪い詐欺にでも引っかかるのではないかと案じてはいたが。
(見事にその通りになったよな……これ)
あまりにもな現状に、再び吐きそうになる溜息をこらえ、俺は歩調を変えることなく、気配を探るため意識を集中させる。
(いた……! しかしかなりうまく気配を消してるな)
探った気配は赤ん坊。沢田奈々には住み込みの家庭教師と思われている俺をマフィアにするためにやってきたらしい存在だ。
(まけそうにない、か)
常人では気付くことの無いであろう、気配の薄さと、何気無さを装いつつも周囲を探る隙のなさに、俺は僅か数秒で、赤ん坊を撒くことをあきらめた。
……「沢田綱吉」のままではむりだ。
「お前、学校行かねーのか?」
真横から聞こえた高い声。
気配は分かっていたものの、それは驚かないことと同義ではない。
一見無邪気にも聞こえる気安げな口調に、内心やりにくいと厭いつつ、今度は俺は隠すことなくあからさまに顔をしかめた。
「うるさいな!お前には関係ないだろ!!」
迷惑に思っていることを隠す必要は無いだろう。平穏な町に生まれた人間がいきなりマフィアになれといわれて、本気にするはずがないのだから。
「関係あるぞ。俺はお前の家庭教師(かてきょー)だからな」
「そんな遊びはもう良いって……」
遊びでは無いことは分かっていたが、そう言ったところで違和感などは感じないだろう。この数年では滅多にしなかった内心の動揺を晴らすためにそれくらいは言ってやらないと俺の気が済まなかったと言うのもあった。
関係の無いはずの俺を巻き込んでいるにも関わらず、後ろめたさすら覚えない赤ん坊のふてぶてしさに、自然とため息をついていた俺はそこで漸く、塀の向こう側にいた気配に気付いた。
(ヤベッ!)
咄嗟に逆行しようとしたが時既に遅く、塀の向こうに出てしまった赤ん坊は、その少女と対面を果たしていた。
「チャオっす」
見た目通りの姿に騙されて、その少女、笹川京子は赤ん坊の目線に合わせ、親しげに語りかけている。
「ぼく、どうしてスーツ着てるの?」
「マフィアだからな」
本来なら必死になって隠さなければならないそれを、この赤ん坊はまるで隠す様子はない。
最もそれは己の見た目から判断する相手が信じることは無いという自信の表れといえなくもないが。
(なっ! あいつ、なんていう余計なことをっ!!)
元から普通の人間に対して、殺気も無く銃口を向けるような破綻者でなければ、俺も彼女の身の安全についてここまで気にはかけなかっただろう。
しかし、あいつは今までの行動を見ただけでも、目的を達成するためには、手段を選ばない冷酷な一面があるように感じてならないのだ。
そんな相手を、あんな無邪気な笑顔を浮かべる少女に関わらせる事はしたくなかった。
「がんばってね。バイバイ」
「チャオチャオ」
そんな俺の内心の自己嫌悪などつゆ知らず、朗らかに笑って離れていく少女に、赤ん坊は最後まで無害な様子を擬態していた。
少女が完全に見えなくなった瞬間、にんまりと俺に向けた笑顔は、怖気がするほどの恐ろしさをはらんでいたが。
「マフィアモテモテ」
「はぁ?!」
自慢するかのようなどや顔に、ハラハラとやりとりを見守っていた俺はたまらず声をあげる。
しかし、それ以上の爆弾をあろうことかこの赤ん坊は投下してきた。
「ツナ。お前、あの女に気があるんだろ?」
「お、お前に関係ないだろ!!」
思わず我を忘れて叫んだ俺に、赤ん坊はピクリと眉を寄せ……ニマァッと、音がするかのように、口元に笑みを浮かべた。
「隠す必要はねぇぞ? 俺は読心術を習得している」
ブチリ、と切れそうになった理性の糸を必死にたぐり寄せようとして、俺は衝動的にリボーンに掴みかかっていた。
「………っ、もう、いいから!俺のことはほっとけよ!!」
一瞬、浮かべた泣き顔。それがリボーンに見られたことにも気付かずに、俺はただ顔を背けた。
この行動が、この異様な赤ん坊に、どのような行動を起こさせるか気付けなかったことは、今日の俺の最大の失敗だったのだろう。
「思いを伝えねぇのか?」
唐突に赤ん坊に問われた言葉に、それが彼が勘違いしている少女への恋心へのものだと気付く。
「するわけ無いだろ! そんな無駄なこと!!」
「すげーな。その負け犬体質」
見事に勘違いをしている赤ん坊に内心呆れながら、俺は改めて家へ帰ろうとする。もともと気分転換で家から出てきたのだけれど、外へ出ていてもこの赤ん坊といる以上次の犠牲者がでないか戦々恐々しなければいけないだけで、気分転換が出来るとは思えなかったからだ。
だからこそ、次の赤ん坊の言葉に、反応が遅れた。
「やっと俺の出番だな」
変わった空気。
数年ぶりに感じた、昔の俺の世界とよく似た気配に、思わず振り返り……見た、赤ん坊が。
「へ?」
何故か、長身の大人の男に見えた。
「いっぺん死んでこい」
脳天を死ぬ気弾で打ち抜いた「沢田綱吉」を見て、マフィアの世界では黄の虹(アルコバレーノ)と呼ばれる赤ん坊、リボーンは、次に何が起こるのかを慎重に見定めていた。
ボンゴレファミリーの現ボス、九代目から依頼を受けたリボーンは、イタリアで始めに、沢田綱吉に関する大まかなデータを貰っていた。
ボンゴレの元となった自警団を作ったボンゴレ1世(プリーモ)。その血を引きながら今までマフィアのことを何も知らずに生きてきた、勉強も運動も不得意な少年。
それがイタリアでつかんだ沢田綱吉の印象だった。
今までも何人かのマフィアの後継者を教育してきたリボーンだったが、ここまでひどいのは、つい最近契約が終了した、ボンゴレの同盟ファミリーの一つである、あるマフィアのボスとなった青年以来である。
しかし、いざ日本に来て、その姿を目に映した瞬間、リボーンが感じたのは強い違和感だった。
長きを戦場で生きてきた己の勘が、イタリアで得たデータから導いていた沢田綱吉という存在を否定したのだ。
それは、確かにデータの裏付けの無い、第三者からすれば、単なる第六感。……勘にしか過ぎなかった。
しかし、リボーンはそれが時に途方も無い、運命の分かれ目になることを、実体験として知っていた。
他ならない、自分たちの「始まり」の時にだ。
観察から段階を進め、対面を果たすと、余計にリボーンの勘は確信を深める。
間近で見る、沢田綱吉の表情は時折ひどく薄っぺらい。
それに変化が起きたのが、外へ出た沢田綱吉を追って起こった、ある少女との邂逅だった。
彼女に対しての評価は、やや天然が入っているが、どこにでもいる、普通の少女だ。
闇を知らない穏やかな笑顔も、弾けるような笑い声も、平和なこの国の風潮をよく表現している。
しかし、その彼女にリボーンが関わった時、沢田綱吉の様子が一変した。
表情にこれといって変化が無いように見えたのも最初だけだ。
まるで穴が開くかのように、次々と違和感が湧き出てくる。
まるで、仮面が剥がれ落ちるかのようだった。
だからこそ、リボーンはその仮面の剥がれた先が見たくなったのだ。
「いっぺん死んでこい」
撃ったのは、ボンゴレ秘蔵の死ぬ気弾。
死んだ瞬間に、なんらかの後悔をしていたとき、その内容を叶えるために、死ぬ気になって生き返る。
もし、死ぬ気になるとしたら、笹川京子に関することだろう。
あの様子から、沢田綱吉が笹川京子に思いを寄せる可能性は限りなく高い。最も、あの言動を鑑みればその事に本人が気付いていない可能性もまたたかいのだが。
(さて……どうなる?)
未だ底の見えない生徒の初めての死ぬ気に、リボーンは笑みを浮かべ……目を見開いた。
ゾワリと、体中の毛が逆立つ感覚。
その一瞬、沢田綱吉の目が、緋色にぎらついたように見えた。
ーー瞬間
「復活(リ・ボーン)!!!」
自我のないと一目で分かる白目の瞳。煌々と力を垂れ流すだけの橙の炎。
未熟な死ぬ気状態になった、沢田綱吉がそこにいた。
「俺は笹川京子に、思いを伝える!!」
そこからの、沢田綱吉の反応は早かった。走行中のバイクに激突し、ガードレールから落ちたにも関わらず、彼女の姿を一目見るが早いか、鋭い声で言い放ったのだ。
「俺は! お前の笑顔が好きだっ!!」
但しそれは、いまいち告白とは言い難い物であったが。
「てんめぇ!」
あごに受けた痛みで俺は夢現に感じていたそれが、現実に起こったものだと認識した。
「ふざけてんじゃねーぞ!ヘンタイ野郎!」
捨て台詞のように言い捨てて走る男は、笹川京子を追っていったのだろう。
現実に起こったものとして見れば、彼の言い分は尤もである。確認のように目線を向けて、思わず俺も項垂れた。上半身裸に、下は下穿き一枚。
(……どう贔屓目に見ても、変態でしかないな)
あまりの正論に、返す言葉も無かった。
「死ぬ気タイムは五分間だ。五分たつと正常に戻る」
どこか他人事のように黄昏れていた俺の傍らに、リボーンが現れる。
さっきまでこの赤ん坊に対してあったはずの様々な感情は、綺麗に消えていた。
ただ……なんともいえない脱力感だけが、体を支配していたのだった。
さて。これにてⅠ話は終了です。
まだまだ謎は多いと思いますが、見捨てないでくださると嬉しいです。
では、また次回!