緋眼の裔   作:雪宮春夏

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非常にお待たせして申し訳ありません!雪宮春夏です!!
はい。今回かなり最後は勢いで書かせて頂きました!
ⅩⅡ話も、できるだけ早く投稿するつもりなので……あくまでつもりは未定ですが、どうぞよろしくお願いします。

では、楽しんで頂けると、うれしいです。



第ⅩⅠ話 その笑顔に 逆らえない

燦々と空を照らす太陽を見ながら、俺は近頃が酷く穏やかな日々であったことを思い返した。

三浦ハル。彼の少女から予想外の熱烈な告白はあり、いくらか親好は持ったものの、リボーンに茶々を入れられることの少ない日々は、久々に俺に安らぎを与えていた……というのに。

「我が部に入れ!沢田ツナ!!」

目をきらきらと輝かせる男には、悪気のわの字も見当たらない。

それが余計にやりにくいこととなった。

「お前のハッスルぶりは妹から聞いている!まさに我が部にピッタリな逸材だ!!」

行われている熱烈な入部勧誘活動。新学期早々の騒ぎに、足を止めて眺める者もちらほら出ている。

目立ちたくないこちらとしては、迷惑極まりないものだった。

(というか……普通はその行事、1学期だけじゃないの?)

新学期とは言っても、現在は2学期初日。始業式のみで授業無しという、帰宅部である俺にはまさに、楽園のような日程である。

その日程の始まる朝に起きた、明らかに厄介ごとになりそうな出来事。漏れそうになる溜息を飲み込んで、俺はその人を改めて見つめた。

「ええと……まず、どちら様ですか?」

最初に尋ねなければならないのは、先ずそこだろう。

相手もようやく、俺と面識がないことに気づいてくれたのか、大声で謝ってくる。

「おお!これは済まなかった!俺はボクシング部主将笹川了平!!座右の銘は極限だ!!!」

「……はぁ、そうですか」

(座右の銘は要らないと思うんだけど……)

あまりにもテンションが高すぎる彼に理解の早さが追いつかない俺は、結果生返事の連発となっているが、彼はまるで気にした様子がない。

(でも……笹川?なんか近頃聴いたことがあるような……?)

内心首をかしげた俺の疑問は、次に呆気なく瓦解した。

「お兄ちゃん!もう、カバン落としたよ!!」

言葉と共に駆け寄ってきたのはこの頃頻繁に声をかけてくれるようになったクラスメートで。

「え?……笹川さん?」

「あっ!おはよう、ツナ君!!」

リボーンに初めて死ぬ気弾を打たれたあの日、俺が奇天烈な格好でおかしな言葉で告白ととれる褒め方をしてしまい、迷惑をかけた、笹川京子その人だった。

「……って、お兄ちゃん?」

思わず叫ぶ男の方を指さしてしまったが、彼女は気にする様子もなく続けた。

「うん。私のお兄ちゃんだよ」

そのまま少し眉根を寄せて、心配そうに彼女は続けた。

「もしかしてツナ君?お兄ちゃんに何か言われた?」

「何か……って?」

尋ねられて思い浮かべた言動の数々は何かに思い当たりそうなものが多すぎて、思わず俺は首を傾げる。

「お兄ちゃんのボクシング勧誘なんて、聞き流して良いからね?……お兄ちゃんも無理やり誘っちゃダメだよ!」

良心の塊とも称せる言葉に、胸が熱くなる。しかし批難された兄の方はムッと眉根を寄せて言い返した。

「何を言うか!無理矢理等では無い!!……だよな?沢田!」

最後の言葉は形だけは疑問形になってはいるが、その目は肯定を雄弁に促している。

(え……?俺にどう言えと?)

言葉無き、強い気迫に思わず言葉に迷った俺に構うこと無く、半ば強制的に彼は会話を終わらせた。

「では放課後、ジムにて待つ!!」

実に見事な言い逃げである。

(……まだ俺、行くとも行かないとも……そもそもボクシング部に入部するともしないとも言ってないんだけどぉ!)

迷いの無い即断即決。あの思い切りの良さには呆れ以上に感服してしまう。

「ごめんね……お兄ちゃん、無理矢理だったんでしょ?結構強引な所があるから」

流石は兄弟と言うべきか。会って数分にも関わらず、現状を正確に理解しているようだった。申し訳無さそうにする彼女に、俺は一筋の光明を見た。

(これなら……笹川さんを通じて穏便に断ることが出来るはず)

しかし続けて彼女が零した言葉が一転、俺を困惑させた。

「でも……お兄ちゃんがあんなに楽しそうなの。いつ以来だろ?ツナ君が居てくれたおかげだね」

日だまりのような暖かな笑顔に、ウッと俺は言葉に詰まる。

断らなければならないのに、その直後に彼女が浮かべるだろう哀しみの顔は見たくなかった。……あの人に泣かれているように、感じてしまうからだ。

(あぁ……俺。苦手だ。この笑顔)

明らかに……異なる顔立ち。異なる声音。しかし、その雰囲気はどこまでも同じだった。

その笑顔に逆らえない。

俺はそれを確信せざる終えなかったのである。

 

およそ100年近く、己を育ててくれた養父、奴良組二代目総大将と呼ばれていた彼が娶った妻を、俺は始め恐れていたように思える。

人間の若い娘だ。恋した男に義理とはいえ、既に子が居る事実を知った時は、決して良い感情は持たなかっただろう。

どんな罵声を浴びせられるか。養父との仲までそれが原因で崩れたら俺はどうすれば良いだろうか?

その当時の俺は今から思えば大層怯えた様子で彼女との対面を果たしたのだと思う。

その当時は既に体の成長は完全に止まっており、俺の見た目は年若い男の姿だったから、端から見てもかなりみっともない絵面になったことだろう。

後で幼なじみの雪女に相当からかわれたが、あの頃の俺は無意識でも、己の立場が分かっていたのだろう。

妖怪として覚醒していない、成長することが無いというだけのほとんど「人」の自分は、養父の好意がなければそもそも本家に居ることさえ出来ないのだと。

かくして対面した彼女は、俺を見て嬉しそうに、日だまりのような暖かな笑みを浮かべたのだ。

「ごめんね。ありがとう。私に会ってくれて」

大丈夫と、続けた彼女は身構えていた己が愚かと思えるほど、のんびりとした口調で続けた。

「……鯉伴さんのこどもなら、私にとってもこどもよ。だから……あなたさえよければ、私の家族になってくれないかしら?」

そこには俺に対する嘲りや恨み、俺を本家に置く者への怒りや悲しみというものは無かった。

ただ、幸せな未来を信じて微笑む女性がいた。

駄目かしら?と続けた彼女に急いで首を振り、ついで……俺は頷いていた。

「これから……よろしくおねがいします。……若菜(わかな)様」

 

 

放課後、俺はある一室の前で途方に暮れていた。

入り口にかけられている表札に書かれている文字は「ボクシング部」。まごう事なき笹川了平率いるボクシング部のジムである。

「なんで俺来てんだろ」

思わず自問するが、そんなものは誰かに答えて貰わなくても分かっている。

全て笹川京子を通してでも、断ることが出来なかった、己自身の責任だった。

「何してんだよ……俺。笹川さんはあの人じゃないのに……」

いくら雰囲気が同じといっても、混同して良いものじゃない。そんなことは分かっているのだ。

だが、理解できることと、実際にやれるか否かはまるで違う。

いつぞや考えたことと同じ答えに辿り着き、結局は己の弱さなのかと自己嫌悪に浸る。

「来たか!さっさと入るが良い!沢田!!」

……訂正。今の俺には、自己嫌悪に浸る暇さえなかったようだ。

俺が来たことに気づいていたのか、バンと音をたてて扉を開け、強引に俺の腕をつかんでジムの中に連れ込んだ笹川了平は、朝と同様目をキラキラと輝かせて続けた。

「今日のことを聞きつけて、わざわざタイからムエタイの長老まで来てくださったんだぞ!」

その言葉に余りにも突っ込む所が多すぎて、俺はただ首を傾げることしかできなかった。

(は? 何でムエタイ? ボクシング関係なくない?)

しかも朝の出来事が放課後までの時間でタイまで伝わり……来日できるだけの時間の余裕は、現代の飛行機でも不可能なはずだ。

明らかに詐欺行為にあたりそうな虚偽申告をしている件の長老とやらは、俺にとってはかなり見知った人物だった。

「パオーン!」

結論から言おう。可愛さなど皆無の赤ん坊、リボーンである。

明らかに状況を悪化させそうな人物の登場に、俺は苦笑いを浮かべるのが精一杯だった。

 

 

カーン

緊迫感も欠片もない様子で打たれた鐘の音は、試合開始のゴングだった。

「十代目ー! 頑張ってくださいっ!!」

「ツナー! ファイト!!」

暖かい声援を、こうも恨めしく思ったことはない。

この瞬間、間違いなく俺の思考は荒んでいた。

だからだろうか。無意識に反射でそのパンチを避けてしまったのは。

「なんと! やるではないか!!」

「うわっ」

ゴングの音と同時に俺に向けて出されたストレートを、俺はしゃがんでかわしたのだ。

その後、咄嗟に転んだように見せかけたが。

(あ……危ない……!)

迂闊すぎる己に情け無くなる。思えば、リボーンに会ってからと言うものの、俺はまるで関係の無いことを考えてリボーンに対して疑惑の種ばかり残している気がした。

(いっそこれ、無抵抗で殴られた方が丸く収まるんじゃないのか?)

ついそんな結論に達した俺を、誰が責められようか。

更にこのまま目を閉じて失神したふりでのしていれば、確実に時間切れで負け確定である。

攻撃には避けたものの、滑って転んだ際に体を強打したとでも言えば、何とか切り抜けられるだろう。

そんなスポーツマンシップに唾を吐いて喧嘩を売るような計画を思い描く俺を、良しと思わない人物はいた。

耳に微かに届いた撃鉄を上げる音。

空耳と己に言い聞かせながらも、うすく目を開くとそこに……ニンマリと笑う悪魔がいた。 

パオパオ老師などと名乗っている彼は、像を模したかぶり物をしている以外は俺には十割普段通りに見えているのだが、何故か応援に来ている者達は誰一人気づいていない。

そんな彼はニヤリと思わせぶりに微笑んでから声を出すことなく拳銃を構えている。

何をするつもりなのかとさえ、考える必要もないだろう。こいつの考えなど、碌なことではない。

あの拳銃に込められている死ぬ気弾によってなにが起きたのか、いちいち思い返す必要も無いだろう。

初めて死ぬ気弾を撃たれたときにやってしまった、笹川京子からすれば不本意極まりないであろう告白事件と、それに付随した、持田剣介との決闘騒ぎ。

球技大会における人ならあり得ないほどの身体能力を露呈してしまったことに加え、何故か変化が解けかけた獄寺とのタイムカプセル騒動など、死ぬ気弾を撃たれて起こった問題など幾つもある。

(やばい……!こんな所で撃たれて……もし暴走なんてしようものなら……)

そう出なくても、山本を助けたあの事件から、「妖怪の自分」が、活発化している可能性があるのだ。そこに死ぬ気弾という予測不可能な負荷が加わったりしたら……。

その時俺の頭を過ぎったのは、七年前の光景で。

(また、あの時みたいに……)

「や、やめろリボーン! お前、自分がなにしようとしているのか分かっているのかよ!!」

声を震わせながらの俺の叫びに、俺の応援をしていた彼らは、状況について行けていないのか、一様に、首を傾げている。

「どうした沢田!臆したのか!!」

笹川了平の方も、この叫びで、俺がまだ戦えることに気づいたのか、声を上げている。

(これ……八方塞がり……?詰んだ……!?)

少なくとも、意識不明を装っての不戦敗は、もう不可能だと、不本意ながらも俺は理解するしかない。

「男なら、正々堂々戦いやがれ」

そうしれっと言い放つリボーンに、苛立ち、俺は叫ぶように返す。

「ふざけんなよ!正々堂々って言うなら、そんなもの向けるな!!」

「仕方ねぇだろ。……俺が撃ちてぇんだ」

どや顔からのにやけ顔。微妙なリボーンの表情の変化がわかるようになってきたことへの、妙な空しさを感じつつも、それが本音か虚偽かさえ、俺には分からなかった。

「ちったぁ本気でやりやがれ」

サッと拳銃を改めて構えたリボーンに、咄嗟に構えるも……既に遅く。

耳に届いた銃声に、撃たれたのだと悟り―。

(あれ?……でも俺が撃たれたんなら、銃声の音なんて聞こえないはず……)

少なくとも、普段は聞こえていないそれが聞こえたこと。また、死ぬ気弾を打たれているのに関わらず、意識が遠ざかる感覚がないこと。体が熱い感じがないこと。

そんな違和感から恐る恐ると現状を確認するために目を開き……それを見た。

「え……“お兄さん“?」

倒れていたのは、笹川京子の兄、今し方まで俺の試合相手をしていたはずの、笹川了平で。

「お前……まさか、お兄さんに死ぬ気弾を打ったのか!?」

思わず叫びリボーンに掴みかかった俺をものともせずに交わし、その諸悪の根源は、了平が倒れているはずの場所を指し、続けた。

「敵に背を向けんじゃねぇ。ツナ。……奴は戦えるぞ」

人一人銃撃しておいて、気にも止めていないような態度のリボーンに、俺は目の前が怒りで赤く染まるように感じた。

「お前……いい加減に……!」

「その通りだ!沢田!!」

背後から聞こえた、いつも通りの声。

まるで変わらない様子の声に、振り向くと、そこには額に炎を灯した笹川了平が、構えを解かないまま、立っていた。

「さあ、来い! 沢田、試合の続きだ!!」

先刻と同じように、俺を戦いへと誘う彼は、銃で貫かれたはずの場所から炎を灯しているだけで、他は何一つ先刻と変わらない。

「ど……どうなってんの?」

訳の分からないまま、口からこぼれた言葉に、応えたのは死ぬ気弾を撃った本人だった。

「つまりあいつは、常に死ぬ気ってことだぞ」

了平に目を向けたまま、リボーンは続ける。

前教えたように、死ぬ気弾によって発動されるのは、本人がはじめから持っている潜在能力に過ぎない。人為的に解くことはほぼ不可能だが、稀に了平のような常時使いっぱなしなものはいるのだとリボーンは話す。

「常に……!」

その余りな解答に、流石の俺も途方に暮れる。

一気に体の力が抜けた俺は、まだ騒動を起こした大本人が残っていたのを忘れていた。

「死ぬ気には、死ぬ気だ。……おめぇもいっぺん」

かちゃりと、挙げられた撃鉄の音。

一度身構えようとしたが、それより早く衝撃が襲っていた。

 

現在、俺の顔は青白いを通り越して、真っ白になっているだろう。

リングの床に広がるひび割れ。大の字になって横たわる男。

爪痕こそはなかったものの、横たわる男はボロボロだった。

無理もない。

妖怪の―意識は俺がしっかり持っていたとはいえ、力……身体能力を宿した拳にやられたのだ。

全治数ヶ月……下手したら、なんらかの後遺症が残るかもしれない。

「………っ!」

どんな言い訳も通用はしないと思っている。

目撃した彼らが次に向けるのは、恐怖か侮蔑か。迫害が迫るのは間違いないだろう。

(人一人殺したんだ。逃げることは出来ない……!!)

悲壮な思いで、俺が覚悟を決めたとき。

「ますます……気に入ったぞ! 沢田!!」

天をつくような、溌剌とした声。

「………は?何で……生きてんの?」

思わずそう呟いた俺を、責めるものはいないだろう。

事情を知っていれば。

「お兄ちゃん。あんなに怪我してるのに……嬉しそうに」

リングの外へはじき出されたまま、そこから身じろぐ兄を支えようとする笹川京子の目にも、俺への恐怖や怒りはない。どころか何か嬉しそうにさえ見える。

「お前の拳に俺は震えた……!沢田!いつかお前を迎えにいくからな!!」

ドクドクと頭から血を流しながら笑う彼に、俺は言葉をかけることができなかった。

(妖怪の俺の力を……身体能力だけとは言え、死ぬ気で加減の聞かない一撃受けて……なんであんなに元気なの?!)

ここまで来れば驚きを通り越して、恐怖に値するだろう。

(この人……何者……っ!?)

いみじくも現状を理解することが精一杯だった俺には、この試合の一部始終を窓の外から見物している相手がいたことに、最後まで気づかなかったのである。

 

 

ダクダクと頭から血を流しながら「沢田綱吉」に向けて何かを語りかける人間を窓越しに見ながら、風紀委員長、雲雀恭弥は目を眇めた。

おおよその現状の把握はもう十分だろう。

(あの鴉……いっそ死因があの子によるものなら、まだここまでややこしくはならなかったんだろうけど)

先日の死亡した鴉からは、全羽において強い毒物反応が検出された。……但し妖怪であるきょうやには、はっきりと感じられるほどの強い畏れの気配とともにだ。

その意味することは一つ。

(あの子の近くに、あの子とは全く別の……毒の畏れを持った妖怪がいる……!)

強い確信と共に、きょうやが今日の昼日向、沢田家近辺を探ると、案の定その該当者は見つかった……が。

(それ以外にもあれは幼い“雷獣“……しかも、どっちも沢田の家だって?)

これが漏れれば本家がどのような解釈をするのか、分かっていてやっているのだろうか。あの子どもは。

(もしそうなら、かなり面白い挑発だけど……もし違うなら、単なるバカだよね)

そもそもこれは、あの子どもが主体で動いているのか……あの試合をみると、あそこにいた赤ん坊にいいように使われているようにも見えた。

(……いやでも。赤子に利用されているならそれはそれで、やっぱりバカなのか……)

大本の……意志のありかだけでも大きく分けて可能性は二つ。動機などを考えるにしても、そろそろ敵を眺めるだけでは難しいというのが本音だ。

これからやらなければならないことを考えつつ、きょうやが浮かべたのは満面の笑みだった。

この頃イライラが溜まっていたのがある。奴良組の内情に振り回され、群れの中へ入るのを強制されて、頭にきていたのもある。……なにより、既に「沢田綱吉」は、かみ殺すリストに入っていた。

「……さて、どう動こうか?」

人知れず動こうとするものの存在は、まだ誰にも知られていない。




さてⅩⅡ話。最後に出てきたあの人との対面です。
多分日常編の中でも、大切な出会いになると思います。リボーンが、どう動くか、きょうやがどう動くか。ツナ君だけでなく、二人にも焦点当てていきたいと思うので、よろしくお願いします。
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