のりにのりました雪宮春夏でございます。
この調子で次も出来れば良いのですがね。
では、挨拶はこの辺で。
どうぞお楽しみください
閉会式も無しに突如始まった帰宅誘導に、ビアンキは僅かに眉をひそめた。
(リボーンは、何か知っているようだったけれど)
雲雀恭弥によって沢田綱吉が校内に運ばれた後、あちらこちらで囁かれたのは、人助けとは無縁と言える恐怖の象徴がとった、意外な行動に対するもの。
確かに物珍しいだろうが、それ以上にビアンキには不気味に感じられた。
そしてそれを裏付けるようなリボーンの指示。
『ママンやハル達を連れて、可能な限りここから離れろ!町を出ることになっても構わねぇ。分かったな!』
いつになく必死な表情のリボーン。それに関わるであろう少年に、自然とビアンキが思い浮かべたのは、数日前ビアンキが初めて命を狙った際に現れた沢田綱吉の別人格だと思われる存在。
姿形は沢田綱吉のものだったけれど、身に纏う空気が明らかに違った。
しかし同時に、彼はその理性はしっかりと落ち着いていたと言うのもビアンキの抱く印象であった。
(だけど……明らかに、あれはおかしかった)
棒倒しで異変が起きた時、ビアンキは強い確信を抱きながらも、傍にいる奈々やハル、ランボといった家族の為に、そこから動く事は出来なかった。
棒倒しの間に死ぬ気弾を打たれた沢田綱吉に起きたことの詳細を、リボーンから聞いてはいない。
厳密には、話す余裕がないほど現在も事態は切迫しているのではないかとビアンキは見ている。
焦った様子で彼らを追ったリボーンの姿を再び思い浮かべて、ビアンキはこちらを窺う彼らに笑った。
「グラウンドの荒れ具合からも、これ以上の続行は難しいと言う判断なんでしょ?あの子達は片付けがあるだろうし、先に買い物をして帰りましょう」
ハルを含めた子供達を促しつつ、のほほんと、そうねぇと合いの手を入れる奈々に向き合い、続ける。
「どうせなら、隣町にあるデパートまで行って、ごちそうを買ってきましょうよ。特に最後、ツナは頑張っていたんだし」
暗に、頑張ったからこそ倒れてしまったと言う体裁になるように、言葉を選ぶビアンキに、ハルは考え無しに提案する。
「じゃあ、帰る前にツナさんの様子を見に行きませんか?疲労で倒れたのなら、もしかしたら一緒に帰れるかもしれませんし」
善は急げと言うように、踵を返し、校内へ向かおうとしたハルの手を取ったビアンキは、校内へ続く扉の前で風紀委員と言い争う人物を見つけた。
「だから通せって言ってんだろ!聞こえなかったのかリーゼント野郎!!」
「それは出来ん!何人たりとも通すなと言うのが、委員長の命令だ!」
それはビアンキの弟、獄寺隼人。
その傍らには山本がおり、なにやら考え込んでいる。
彼らには非情なことだが、ビアンキは彼らを言い訳に使うことにした。
「大丈夫よ、ハル。二人がいるんなら、ツナのことは二人に任せた方が良いわ。他校生の貴方が行くよりは、ツナも気が楽な筈よ」
風紀委員が立っている以上、隼人達があそこを通れる可能性は低いだろう。
分かってはいるが、今はリボーンの指示に従うのが先だった。
「そうね。つっ君も大したことはないわよ。ハルちゃん。棒倒しではあんなに元気そうだったんだもの」
尚も心配するハルに、言葉を重ねるように、奈々が朗らかな笑みを浮かべ、次いで思いついたように付け足した。
「そうだ!今日の夕ご飯、ハルちゃんも一緒に食べましょう?皆でお祝いすれば、ツナも喜ぶわよ?」
「……そう、ですね。ツナさんもきっとクタクタですもん。ハルもお料理お手伝いします!!」
漸く納得できたのか、腕を振り上げてハルは叫ぶ。
その様子を眺めながら、ビアンキは学校の敷地内から出るためにハル達を先導した。
遠目に風紀委員に追い払われたのか、扉の前から離れる二人の姿があった。
「何しやがる!野球バカ!!」
山本に腕を引かれるまま扉の前から引きはがされた獄寺は猛犬のように吠え立てる。
「離せ!こんなことしてる間にも、十代目の身に何かあるかもしれねぇんだぞ!!」
山本に対して抗議する獄寺の脳裏に過ぎるのは先日応接室にて起きた一件。
あの時、雲雀は本気で自分達を……正確には、十代目、沢田綱吉を狙っていた。
死ぬ気弾を受けた十代目が抗い、リボーンの機転で何とか難は逃れたが、あの時雲雀が自分達に混じりけのない殺気を放った事実は変わらない。
その雲雀が、棒倒しの後、彼が倒れたのを良いことに、応接室へ連れ去ったのだ。
獄寺にはそうとしか認識できなかった。
「おい!野球バカっ!!」
扉から離れて、校舎沿いに獄寺を引っ張っていた山本が突如その手を離し、言葉を返した。
「雲雀がさ、……言ったんだ」
『君たちは役に立たない』
それは明確な拒絶だった。
殺気さえ感じなかったのは、それを向ける時間さえ惜しいと言うようで。
「俺達が行っても、何も出来ねぇなら……邪魔に何なら、行かねぇ方が正しいのかな?」
迷いながらも呟いた山本の言葉に、獄寺が眉をひそめ。
「てっめぇ……ざけんじゃねぇぞ!!!」
バキッと、音が鳴る勢いで、山本の頭をぶっ叩いていた。
「俺達が行っても役に立たねぇ!?
ゼーゼーと、怒鳴った反動か呼吸を乱す獄寺は、ギロリと山本を睨みつける。
「俺達は役に立たねぇ。……
まるで自分自身を鼓舞するかのように、獄寺は続けた。
「俺は、十代目の右腕になるんだ!たとえ誰に何と言われても!十代目が来るなって仰らない限り、俺は十代目の傍にいる!!」
そのまま獄寺は踵を返し、走ろうとする。おそらくまたあの扉に向かおうとしたのだろう。
それを山本は足を掴んで引き留めた。
「てっめぇ!まだ邪魔する気か!?」
勢いのまま踏み出そうとして、顔から地面へダイブした獄寺が、山本に対して怒鳴り散らす。
まるで迷うことのないその姿に、山本は馬鹿馬鹿しくなって笑った。
「な……何がおかしいんだよ!?野球バカ!!」
雲雀のひと言に、無力と断じられたことで立ち止まった自分の情けなさに笑って、山本は続けた。
「獄寺、あの扉は多分開かねぇよ」
至極単純な諦観宣言。
曲がりなりにも、自分と同じ十代目ファミリーと、リボーンから位置づけられている山本の発言に、怒りのまま怒鳴りつけようとした獄寺へ、山本は続けた。
「このすぐ傍に、もう随分と使われてない空き教室がある。先日そこの窓をな、野球部の連中と壊しちまったんだ。多分まだ雲雀は知らない。行けるとしたら、そこしかねぇ」
あまりの変わりように言葉を失う獄寺に笑って、山本は手をさしのべた。
「行こうぜ、獄寺。ツナが待ってる」
山本の読み通り、空き教室の壊れた窓には、見張りはいない。
応接室の場所は先日訪れたから二人とも覚えていたし、幸運にも、学校の中には風紀委員らしき存在は見当たらなかった。
「外はあんなにがっちりしてんのに、ここまで中に誰もいないってのは、ちょっと拍子抜けだよな」
そう軽口を叩く山本に、そこまで楽観視は出来ない獄寺は、いつでも着火出来るように、ボム片手に辺りをしきりに窺っている。
「マジかよ……本当に誰もいねぇぞ」
視線の先に応接室を捕らえ、呆れたように獄寺は呟く。
人一人見当たらない学校の中に漂う異様な空気に、もしや綱吉が、いるのは応接室ではないのではと、不安に思いながらも、ソロソロと二人は近付いていく。……と。
「冗談じゃねぇぞ!!」
扉を挟んだ室内から、物を蹴る音と男の怒声が響いた。
「この声……シャマルか?」
怒声の主に心当たりがあったのか、一も二もなくしゃがんで扉に耳を押しつける獄寺に合わせて、山本も彼と同じように扉に耳を近づける。
「……どういう意味だ。シャマル」
扉の向こうから次いで聞こえたのはリボーンの声。
その声音は落ち着いてはいるものの、僅かに怒りを宿している。
「その言葉の通りだ!何を言われても、俺はこいつを救いたくねぇ……!!」
救うと言う単語に、山本は咄嗟に獄寺を見た。顔見知りであろう獄寺は、酷く強ばった顔をしたまま、扉に張り付いている。
「喰われて堪るか……!!」
悲鳴に近い言葉の意味を、二人は理解できなかった。
「
赤ん坊……リボーンの目の色が変わるのが傍目にも分かった。雲雀自身も、何か知ってそうなこの医者に、俄然興味を抱く。
「面白そうだね。君、何を知っているの?」
雲雀のその反応に、医者……シャマルの方も、己の失言に気づいたのだろう。あからさまに顔を歪め舌打ちをしたが、沢田綱吉の体とあからさまに距離をとると、チラリとリボーンを見る。
「話せば解放してくれんのかよ」
「内容によるぞ」
応答に即答するリボーンに、短くない付き合いを持つのだろうシャマルはその意味を察し、頭をかきむしる。
解放してくれる見込みは薄い。それは確定だ。
しかし何を言われても彼の救命はシャマルには出来ない。
「ドクロ病は何とかなんだろう。免疫反応は怖ぇが、それを抜いても専門医さえいれば、こいつが妖怪なのは問題ねぇ」
一息で言い切ったシャマルの言葉に、雲雀は目を眇めた。
「君、分かるのかい?」
敢えて主語を抜かした問答は、シャマルには伝わったのだろう。溜息をつきつつもシャマルは頷く。
「俺自身が憑かれやすい性質でね。ドクロ病は元々、イタリア辺りに多くいる、
「……それ、何で死なないの?」
雲雀の質問は酷く最もだったのだろう。リボーンが補足のように続けた。
「全て対になる物と一緒にかかっているおかげで、体内で中和されてんだぞ。……ただ、それが妖怪だったとは、俺も始めて知ったがな」
最後は少しばかり恨めしそうに漏らせば。
「態々言う必要もねぇだろ?」
と、へらへらとした締まりのない笑みで返された。
「まぁそんな体なもんで、現地の小妖怪の間じゃあ有名でな。何度か診た経験はある。ただ力の強い妖怪はその妖怪の畏れと病魔の畏れがぶつかっちまう分、入れる抗体となる病魔の数が掴みにくい。……その坊主が単なる妖怪ってだけなら問題はそれだけだ」
勿体ぶる言い方は、それだけじゃないから断ると言葉をつけるのだろう。分からなくもないと、雲雀は溜息を零した。
「なるほど。断る理由はこれが「虎狼狸(ころうり)」だから?」
敢えて別名でなく、畏れられる方の種族名で呼んでみる。そこまで詳しいのなら、すぐさま顔色を変えると思ったからだ。しかし予想に反してシャマルは首を傾げた。
「なんだそりゃ?妖怪の種族は関係ねぇよ」
その言葉自体知らないと言う様子に雲雀は眉を顰める。
「じゃあ君、何が理由なの?」
言いよどむシャマルに焦れたのか、カチャリとトンファーを鳴らずその眼は完全に据わっている。
流石にそれには気づいたのか、再びチラリと沢田綱吉に目線を向けて……心なしか、先刻よりも息が荒いその様子に、溜息をついた。
「首筋に、ドーマンがあるだろ」
「ドーマン?」
聞き覚えのない言葉に、リボーンが問いかける。
「陰陽師が使う基本陣形の一つだよ。有名なのは安倍晴明の六芒星だけとね。ドーマンは確か、中国由来の術系統だったはず」
雲雀の補足に頷きつつも、「表向きはな」と、シャマルは呟いた。
「
既に確認してしまったのだろう。心なしかその体は小刻みに震えているようにも見えた。
本来ならどんな時でも飄々としている彼の珍しい姿に、リボーンも綱吉へ向ける視線を真剣な物にする。
「術式ってのは、どういうことだ?それはどんな意味を持つ?」
重ねて尋ねたリボーンに、シャマルは苦々しく答えた。
「
信じがたいその内容に、雲雀もリボーンも、息をのんだ。
シャマルも動揺を隠せないのか、生唾を呑み込んで、話し続ける。
「一度その儀を受けちまえば、後はケガレになるだけの筈だ。あいつの体の中で何が起きたのかは知らねぇが、人食いの化け物になると分かっていて助ける気はねぇ」
喰われるのはゴメンだと、続けた彼の目に浮かぶのは、間違いなく恐怖だ。
しかし「はいそうですか」で引き下がれるほど、リボーンは易い仕事をしているつもりはない。
「それで納得するわけには行くか。現にあいつは人食いにはなっちゃいねぇ」
まずリボーンが知るその事実を言い聞かせるように呟くと、次いでシャマルに問いかける。
「ケガレ堕ちの儀ってのは、妖怪であっても適応されんのか?まず儀式って言うなら、なんらかの発動条件があるはずだろ?」
目で話せと促すリボーンに対して、シャマルの口は重い。
「詳しくは知らねぇって言ったろ。昔付き合っていた彼女の一人がその専門家だったから、寝物語に聞いた程度だよ。俺にも素質があるかもしれねぇってな。俺はそんな化け物まで相手する気にはなれねぇから断った」
そのまま己の気を落ち着かせようとしたのか、タバコを取り出したシャマルだったが、ライターが手元に無かったのか、明らかに苛ついた様子でリボーンを睨んだ。
「ライターあるか?」
次いで発せられた言葉に、リボーンは短く否定を零す。
続けて見られた雲雀も否定を表すを見て、シャマルは苛つきを隠しもせず……扉へ目を向けた。
「隼人。ライター持ってんだろ!これ以上聞く気なら今すぐこっち来てよこせ!!」
その時彼は、ここにいる誰よりも強い殺気を放っていた、かもしれない。
「いつから気づいてやがった」
不機嫌な声で問いただす獄寺に鼻で笑って、シャマルはタバコを深く吸い込んでいる。
いるはずがないはずなのに、見事にここにいる二人の姿に、雲雀は無能な風紀委員達を全てが終わった後に一人残らず噛み殺すことを決めた。
そんな雲雀の内心を知る由もなく、仏頂面になる獄寺に山本が問いかけている。
「なぁ、あのおっさんと獄寺って、どういう関係?」
今ここで話されていることの重要性を理解出来ていないのか、その声音は単純な好奇心で弾んでいる。
それを呆れたような眼で見つめて、獄寺は溜息を零した。
「……うちの城の主治医だった男だ。女しか見ねぇと豪語するスケコマシだがな」
スケコマシと蔑まれた男の方は、さして気にする様子もなく、よく分かってるじゃねぇかと、続けた。
「そうだよ。俺は男には興味がねぇ。況してやケガレなんか死んでもゴメンだ」
何本か吸い、漸く気分が落ち着いたのか、笑みを浮かべて嘯く男の顔は軽薄そのもの。
「てめぇ……!」
暗に見捨てると宣言された獄寺が怒りの形相を浮かべるが、彼に飛びかかるよりも早く、雲雀の言葉が辺りに満ちた。
「ねぇ。そのドクロ病とやらがきっかけになって、これが完全なケガレとやらになる可能性ってあるの?」
パニックに陥る訳でも無い。まるで明日の天気を聞くような気安い口調に、シャマルは不可解そうに顔を顰める。
「知るかよ。言ったろ。詳しくねぇ」
「有るか無いか。……率直な意見を聞きたいんだよ」
ついには、薄らと口元に笑みを浮かべて、雲雀は断じた。
「ねぇ。怖がるのは勝手だけど、もう手遅れだよ」
まるで子どもに言い聞かせるような雲雀の口調に、どういうことかと問いかけようとしたシャマルは、いつの間にか周囲に集まっていた大量のカラスに目を見張った。
(……来たね。けど……)
近付いてくる朧車の気配に安堵するも、同時にその傍らにある気配に、そして行きよりも明らかに多いカラスの数に、雲雀は溜息をついた。
雲雀は所在を知らないが故に、本家を橋渡しに使ったが。
(失敗だったかも)
そう独りごちる間に、カラカラと器用に窓を開く小さな影。
「なぁ?!」
「……カラス?」
「……おい、きょうやの。なんだこやつらは?」
眼を瞬く彼らを気にする風も無く、雲雀に向かうのは奴良組本家のお目付役、鴉天狗一族の長、鴉天狗その人であり。
「おい、きょうやっ!ここにツキがいるってのは本当なんだろうなぁ!!」
次いで叫んで窓を跨いだのは、年若い青年だった。
緑色の短髪に赤目の男はソファーに横たわらせてある綱吉を見つけた瞬間、すぐさま駆けだし……何事かを言う前に吐血した。
「おい、あれがてめぇの手配したあいつの主治医か」
患者である綱吉の頭上に、血を撒き散らす青年の姿に、怒りからかリボーンの目は据わっている。しかし雲雀はいつもの光景に気にすることもなく、鴉天狗に続けた。
「彼らは皆、緋眼の関係者だよ。こっちに引き込む。あの白衣の男は医者だ。……もしかしたら、七年前のことについての手がかりを知っているかもしれない」
(七年前?)
その言葉に、明らかに動揺した風のカラスが雲雀となにやら話している間に、リボーンは、綱吉を調べていく上で子分達の口から度々出てきていたその言葉に思いを向けた。
七年前。雲雀が言葉を漏らさずとも、その時期が奴良組にとっては重要な時期であることは知っている。
奴良組二代目総大将、奴良鯉伴が逝去した年。そして、ここはおそらくが着くが、「緋眼」という存在が、沢田綱吉になった年でもある。
鴉天狗に向けられた手がかりというのは、おそらく奴良鯉伴の死に関するものだろう。しかしシャマルの話したのは、ケガレのことのみだ。
(それが奴良組の奴らが欲しがる情報と、どう関係してやがる)
そこまで考えたところで、リボーンはある事実に気づき、鴉天狗と話していた雲雀に声をかけた。
「雲雀……おめぇ、シャマルの言ったケガレ堕ちの儀が行われたのが七年前の例の日だと思ってんのか?」
その言葉ににっと笑みを浮かべた雲雀はただ。
「良く気づいたね。赤ん坊」
そう続けて……笑った。
変な所があったらすいません。実は「双星の陰陽師」は一度呼んだきりなので、設定など、おかしいところが出るかもしれません。
なるべく調べられる範囲は調べておりますが、おかしな所があっても、大目に見て下さるとうれしいです。