連日投稿します。(無謀)
多分次は少し間が開くかも。
山本回後編、これにて終了です。
楽しんで頂けたら嬉しいです。
では。
細かい所をいくつか修正しました。(2016/10/29)
フェンスの向こうに、山本の姿を見たとき、分かっていた筈なのに、胸が苦しくなった。
(まさか……俺が何も言わなかったから?)
そんなわけがない。すぐに、俺は自ら否定する。
だって、山本はクラスの中では人気者なのだ。
友達だって、数え切れないほどにたくさんいるに決まっている。
彼が話せば皆喜んで相談に乗り、解決しようと頭を悩ませるだろう。……相談、すれば?
(もしかして……相談しなかった?)
ゾクリと、背筋に悪寒が走った。
相談しなければ、気づかないものなのか、と。
違う。たとえ相談しなくても、誰かが山本に気付いてくれるに決まっている。仲のよい誰かが、誰かが。
(誰か……誰?)
「気づいたか。ダメツナ」
頭上から冷然と降ってきたのは聞きなれた声。
見ると見慣れた黒スーツ姿の自称家庭教師の赤ん坊が、クイと帽子を傾けながら、フェンスの向こうにいる山本の様子を見つめている。
「人気者に必ずしも多くの友達がいるって訳じゃねぇ。……全てを打ち明けられる親友の部類は尚更だ」
力ある者、才ある者は孤立しやすい。
それはリボーン自身が掴んだ体験論だ。
その真理は当を得ているとリボーンは思う。
どんな綺麗事を並べても、人の感情には必ず負の部分が存在する。恨み、辛み、妬みも、嫉み。欲望ともとれるその感情は、時に向ける対象を大きく傷つけることも、ないわけではない。
「聞かなかったことを後悔してんだろ?今度はちゃんと聞いてきやがれ!」
一言で言い切るリボーンが構えていたのはかなり見慣れた黒い拳銃。……死ぬ気弾だ。
「ま、待てリボーン!まさかお前、ここで打つ気か!?」
慌てて尋ねる俺に、しかしリボーンは答えない。
ただつぶらな瞳をキラリと輝かせ、丸みを帯びた瞳はキラキラと輝く。
(打つ気満々ー?!)
思わず俺は、素で絶叫しかけた。
まだそこまで長いつきあいでは無いものの、この赤ん坊の行動力は分かるつもりだ。撃つと言ったら、間違いなく撃つ。
容赦なくだ。
「ま……待って! ぎゃあ!?」
思わず後退った俺は後ろも確認せずに走りだし……山本を囲んでいた包囲網を突破してしまった。
「お前……!!」
その結果が……現在である。
(ど……どうするんだよ。この状況……っ!)
後ろに野次馬の生徒達。前に自害しようとする山本という、あんまりな挟まれ方に俺は自然と項垂れていた。
「止めても無駄だぜ。……ツナなら俺の気持ち、分かってくれるだろ?」
背を向けたまま、言葉をこぼす山本の表情は俺には見えない。けれども俺には言葉の端々に深い悲しみが込められているのが感じられた。
「ツナなら、いっその事死んじまった方がマシだって言う、俺の気持ちが分かるはずだ」
淡々と言葉を続ける山本に、俺は目を見開いた。
(死んだ方が、マシ?)
「なんで……」
自殺をしようとしているのだ。精神状態は分かっているつもりだった。それでも俺は動揺した。
「昨日のことなら気にすんな。お前のせいじゃない。神様に見放されていた俺は、遅かれ早かれこうなってたんだ」
言葉を窄ませた俺に昨日のことを気にしていると気に病んでいたのか、そんな言葉までかけてくる。
思い残すことをなくそうとするかのような山本の行動に……否応なくその先を意識したのか、遠巻きにしている生徒達から次々と制止の声が降ってきた。
それでも山本は止まらない。止まる気もないと証明するかのように、フェンスから手を離す。
一歩を踏み出そうとした山本に届いた言葉は否定の言葉だった。
「俺には、わからないよ」
顔だけ後ろに向けると、そこにいる沢田綱吉は、唇をかみしめ、体を震わせていた。
「俺には、山本の気持ちはわからない」
その言葉に山本は訳も無く笑い出しそうになった。
「なるほど!さすがは今絶好調なだけあるな!! 俺とは違う!そう言いたいのかよ!!」
悲しくなって笑う。そんなことが起きるのだと、山本は初めて知った。半ば八つ当たりのようなものだと分かっているのに、抑えきれない。
「そうだよ。山本は、俺とは違う!だって……」
湖面に響かせるような、静かな声。クラスの中で見ているはずのツナとは、どこか雰囲気が違う気がした。
「まだ何も、失ってないじゃないか……!!」
フェンス越しに、山本が俺に掴みかかった。後ろから女生徒達の悲鳴が聞こえる。それでも俺は止まらなかった。
「腕は無くなったわけじゃない!少し動かせなくなるだけだ!野球だって、続けられるはずだろう!?」
「できるわけねぇよ!!」
叫んだ俺に、負けないというかのように、山本が叫び返す。
「取り返しなんかつかねぇ!どうやっても、周りからは遅れるんだ!もう、俺には何も残らねぇんだよ!!」
「残ってるさ!」
咄嗟に言い放った言葉。まだ山本に残っているもの。
今山本が捨てようとしているものを、俺は言い放った。……気づかせようとした。
「まだ、山本はここにいる! ……ここに、生きてるのに!!」
知らず知らずに涙がこぼれた。
自然と七年前のことまで思い出される。
養い親の死をきっかけに、追放され、置き去りにされた場所から見えた並盛の町を独り彷徨っていた時、死にかけた人間特有の匂いを、俺の本能は感じ取った。……興味本位で、そこを覗いた。
「自分で捨てようなんて……そんなことするなよ……!!!!」
そこにいたのは虫の息となった、小さな、小さな幼い生命。既に自らの命数を悟っているのだろう子供は、おれを見て静かに頬笑んだのだ。
『こんにちはお兄ちゃん』
息を整えることすら難しいのか、荒く息をつく音が、嫌に大きく空間に響く。
『お兄ちゃんが、お迎えの人?』
着物姿の自分を見て、何をどう考えたのか、そんな戯れ言を言ってくる。
それにおかしくて笑ってしまうと、子供もつられて笑みを浮かべた。
言葉などほとんど話さなかった。俺は話したい気分ではなかったし、子供はそもそも満足に話せるだけの体力も無かっただろう。
『今夜がね、峠なんだって。お医者さんが言ってたの』
はじめは単なる風邪だと思っていたそれは、ふたを開けてみればかなり重い病気だったのだと、切れ切れに子供は話していた。
『死ぬのは、怖くないの。お父さんが待っててくれるから』
一年前にいなくなったと言う父親を思い浮かべたのか、子供は微かに笑みを溢した。
『でもね……お母さんが可哀想』
紙のような白い頬。
かさかさに乾いた子供の唇が紡いだのは、己に対する憐憫では無かった。
『俺がいなくなったら、お母さん独りになっちゃう……!』
独りは可哀想だと、泣く彼にそれまで只聞くだけだった俺は何故かこう返していた。
『だったら、俺が傍にいる』
子供と目を合わせて、俺は子供を安心させるかのように続けた。
『……お母さんが寂しくならないように、俺がお母さんの傍にいるから』
今から考えれば、もう少し他に言いようが無かったのかと、自分に問いかけたくなる。
それでもその時の子供は、嬉しそうに、安心したように笑ったのだ。
『ありがとう……お兄ちゃん』
そうして、息を引き取った。
「……っ!」
静かに涙を流す綱吉に、山本は気圧されていた。
まだ残っているものがある。そう断言された時は、ふざけるなと思ったはずなのに、今は真っ向から言い切ることが出来なかった。
「ツナ。でも俺、野球以外取り柄なんてねーんだよ……」
負け惜しみのように呟くと、涙に頬を濡らした綱吉が、どこか感情が無くなったかのような平淡な声で尋ねる。
「……レギュラーじゃないと、野球は出来ないの?」
思ってもみなかったのか、目を見開く山本に、綱吉の問いはまだ続いた。
「山本が野球をやるのは、レギュラーになりたいから?」
その応えは、何よりも山本自身が知っていた。
(俺が……野球をやるのは)
掴んだままにしていた綱吉の胸元を離す。
ケホと、綱吉が咳き込む音を聞きながら山本はそんな当たり前のことさえ分からなくなっていた自分に笑い出したくなる。
(そうだ。俺が野球やってたのは……野球が好きだからだ)
まだ幼いときは、細かいルールなど分かっていなかった。飛んでくるボールに上手く当てただけでも、今よりずっと大喜びしていたのに、その楽しささえ忘れていたのだ。
「ツナ……ごめんな」
頭を下げる山本を見て、俺は自分でも気づかない内に笑みを浮かべていた。全ての人を助けるとか、大それた望みを持つ気は無いけれど、目の前の命が思いとどまってくれたことが嬉しかったのだ。
「悪ぃな……ツナ。ちょっとフェンス乗り越えるから、下がってくんね」
いつもの笑みでにかっと笑う山本に、ついついこちらも軽口を叩く。
「良いけど。後で授業サボったこと、皆と一緒に先生に怒られようね?」
遠巻きに見ていた生徒達も軽口を叩き合う二人を見ながら、もう大丈夫と思ったのか、フェンスへ近づこうとしていた。
「よっ!」
勢いをつけて、フェンスへ山本が乗り上げる。
その、直後。
音をたてて、フェンスが崩れた。
七年前、俺は二つの命を失った…………。
忘れたことなどない。
どちらも俺にとってはかけがえのない大切な命だったから。
一つは、俺を助けるために、命を落とした。
一つは、俺に居場所を与えて命を落とした。
どちらも俺のせいで消えたと言って良い。だから、あの時俺は決めたんだ。
……もう二度と、俺の目の前で命は散らせない。
全てを守るなんて言えないけど、目の前にある命だけは。
……大切な命だけは、守りたい。
その一瞬、リボーンでさえも反応が遅れた。
「山本っ!」
「武ーっ!!」
助からない。そう誰もが思い、次に聞こえるだろう音を想像して顔を青ざめさせた時。
「ツナ!おいツナ!! しっかりしろっ!!」
次にきこえてきたのは切羽詰まった山本の声。その声に、下の階にいたのだろう何人かの教師が駆け寄る音が響く。
山本が無事だった事への安堵と、何が起きたのか分からない混乱の中で生徒達がざわつく中、次に屋上に駆け込んできたのは風紀委員だった。
(何が起こってやがる……!!)
生徒達を教室へ誘導する風紀委員の動きを横目に、リボーンは屋上から落下した二人の現状を知るため、二人を探しに下の階へ向かったのだった。
「何だって?沢田が……!?」
牛鬼組屋敷の一室にいたきょうやの元に連絡を入れたのは風紀副委員長の草壁だった。
牛鬼組屋敷のある捩眼山は通常の手段では携帯電話は圏外になるために、いくつかの衛星を通す必要がある。
その分雑多な手続きや時間がかかるので、滅多な事では使わないようにときょうやは厳命していた。
それを破った上で草壁が知らせてきた内容に、きょうやは眉を寄せる。
(これ……状況次第では一度戻った方が良いかもしれない)
今から数時間前、昨日右腕を骨折していた一年A組の山本武が自害しようとしたという。
その時点で学校を死に場所にしようなどとした山本武と、それを事前に止められなかった風紀委員全員にはそれ相応の罰を与えるとして、山本武は沢田綱吉含むA組の説得で、自殺を思いとどまり、フェンスを越えて屋上を出ようとしたところ、劣化していたフェンスが、山本武の重量に耐えきれず崩壊。……山本武が落下した。
ここまで見れば単なる死亡事故だが、本題はここからだ。
落下する山本武を追いかけ沢田綱吉が、屋上から飛び降り、「何故か」二人ともほぼ無傷で校庭前に倒れていた。
(普通ならばあり得ない……あの子が「人間」だったらね)
その事実を知っているきょうやからすれば、面倒ごとが増えたと言うことに他ならなかった。
確認を要請したが、もしかしたら彼らが落下した地点か、またはその周辺に、何らかの痕跡は残っているかもしれない。
(だけどもし、あの子が「畏れ」を使ってこの事態を打開したのだとしたら、先日よりも厄介な事になる)
予期せぬ事態の急進に、きょうやは一人、眉を顰める。
先日は、何らかの理由で変化が解けかけたが、裏を返せばそれだけだ。
妖怪の神髄である個々の持つ戦闘能力「畏れ」が解放されたわけでは無い。
確かに変化も、大まかに分ければ畏れに分類できるが、変化は修行次第では、小妖怪であっても扱える代物。
それの成功の是非には、その妖怪の強さが反映されることはほぼ無いと言って良い。
だからこそ、きょうやは「大したことない」と答えたのである。
しかし、今回のものは話が別だ。
変化の術では屋上から落下してほぼ無傷とはありえない。
そうなると、個々の「畏れ」の部分を、「緋眼」と呼ばれる妖怪の畏れを使いこなしたと考えることが妥当である。
そこまで考えていると、ふたたび草壁だろう、携帯電話に着信の表示が浮かび上がる。
「なに?」
僅かな逡巡も無く出たきょうやは次に出てきた報告に眉間の皺を深くした。
草壁哲矢は自身の不甲斐なさをこれほど強く実感した事は無かった。
雲雀が不在の折、任されていた任務を、見事に失敗してしまったのである。
その任務とは「沢田綱吉」の監視。
彼の少年が雲雀にとって何なのかは、風紀委員全員が知らない。しかし雲雀の命令がある以上、その疑問は些末なことだ。
自分たちにとって問題は、敬愛する雲雀の期待に応えられるかどうかでしか無く、今回は間違いなく失敗の部類だ。
教えられていた手順でつながった携帯電話を片手に委員長の支持を仰ぐと、彼はある地点の確認を頼んだ。
その為草壁はここ……山本武、沢田綱吉両名の落下現場に来たのである。
そして、それを見つけた。
「これは……爪跡、か?」
そう。しいて言葉にするには、そう言うしか無い代物だった。
屋上のほぼ真下から落下地点まて、その間を走る白い壁全体に、大型動物……虎やライオンのような爪で引き裂いたかのような爪痕の溝が出来ているのだ。
その報告を電話越しにすると、しばし雲雀は沈黙した。
次の雲雀の言葉を待っていると、予想外の事に現状待機だった。
「しかし、授業中に抜け出して騒ぎを起こした山本武含む一年A組の処遇は……」
しどろもどろでも優先順位を決めて動いた方が良いのではないかと考える草壁に構うこと無く、雲雀の言葉は流れる。
「そちらは後で良い。あと、沢田綱吉の方も覚醒直後には近づかないように。監視にもかなりの距離をおいてからやって欲しい」
そう言いきり、電話を切った雲雀は草壁から見ても、どこか焦っているようだった。
草壁哲矢の電話に耳を傾けながら、リボーンは物陰から件の爪痕を見た。
(どうなってんだ。こんな爪痕、今朝は無かったはずだぞ?)
毎朝の活動範囲の見回りは、リボーンの中では既に当たり前の日課になっているので、それは間違いない。
ではいつこの爪痕はできたのか。そう自問するも、答えはもう出ているようなものだった。……自分の教え子であるあの少年が、何からの方法を持ってこの爪痕を作り出したのだ。
「風紀委員……奴らもどこまで知ってんだ?」
ここまで来れば、彼らが沢田綱吉が隠している「何か」について、何らかの手がかりを持っていることはもはや確定と言っても良い。
問題は、何を、どこまで知っているかだ。
(下っ端の方は命令を受けているだけって線も捨てきれねぇ。……今のところ、知る可能性が高いのはあの副委員長とその上司……)
その上司、雲雀恭弥の事に思考を向け、そういえば先日、彼が人通りのない山の方へ歩いて行くのを見たことを思い出す。
かけている電話も流石に距離がありすぎるせいか聞こえるのは草壁の声だけ。
「まさか……どこかへ出てんのか?そしてそのまま、まだ帰っていない?」
雲雀恭弥の並盛愛は、並盛に住む人にはかなり有名な話である。
嘘もおり混ぜっているだろうから、詳しいことは知らないが、校舎が破壊されたというのはすぐに飛び出して報復しても良いぐらいの話だった。
(一体どこへ?)
まだ複雑に絡み合うままの情報を整理しながらも、今度は並盛病院に収容されているはずの綱吉の様子を見に、リボーンはそこから出たのである。
並盛病院にて一通りの診察を終えた山本武は、そのまま退院が言い渡された。
新しく固定し直してもらったギプスは、もう重いとは感じない。
昨日に比べて、擦り傷の類が増えてしまったが、そこら辺はご愛嬌と言うものである。
「全く……お前は何バカなことしてんだ!このアホッ!!」
店の支度を放りだしてきた父親の小言を聞きながらも、山本は助かったあの時の事を思い出していた。
空へ投げ出されたときは全てのことがやけにゆっくりに感じられた。
ここで死ぬのか。そう思ったときに感じたのは、後悔だった。野球がやりたいと思った最初の理由を先刻思い出したばかりなのに、もう野球をやることは出来ないのかと思うとただただ悲しかった。
そしてそれ以上に、そこまでして自分の命の大切さを教えてくれた沢田綱吉の前で、結局死ぬことしか出来ない自分がただただ悔しかった。
風圧に負けて目を閉じた山本の目に、精神的なものか、生理的なものか涙がこぼれた。
みっともないと思ったが、ぬぐえる余裕など有りはしない。
重力に従い落下する。その早さはかなりのものの筈である。
(……あ、あれ?)
かなりの早さで落ちるはずなのに、まだ痛みが来ない。おそるおそると目を開けると、そこに誰かがいた。
(あれ?……ツナ?)
思わず疑問系になったのは、何かがおかしかったからだ。
具体的に何がおかしいのかと問われたら、極限状態だった山本には応えられないけれど、何かがおかしかった。
(落ちてんだよな……?)
その筈だ。自分はフェンス共々落ちたのだから。
そうであれば何故、沢田綱吉まで落ちているんだろう。
充血でもしているのか、目を真っ赤にして、壁にしがみついている。
(あれ?……何か俺、抱えられてね?)
視界を動かせないため断言はできないが、目を真っ赤にさせた綱吉に、自分は抱えられているんじゃ無いかと思った。……しかも、片腕だけで。
(……へぇ、ツナって見かけによらず力持ち……っていうか、もしかしてこれ、夢オチ?)
ふと浮かんだ考えに、あぁと違和感なく、その時の山本は納得した。
自分より小柄なツナが自分を片腕で支えて屋上ダイブなどあるわけがないのだ。だいたい、もし仮にやるとしても、命綱は必須だろう。
どこから夢になっていたかは知らないが、かなりリアルな夢だったと思う。
(あれ?……でも現に俺は落ちてて……あれ?)
考えている内によく分からなくなった山本は首を傾げながら、取り敢えず次に会ったときはしっかりとお礼を言おうと心に決める。
そして……もし綱吉が許してくれるなら。
(友達になりたいのな)
「こらっ!聞いてんのか!武!!」
吞気に考えていた山本に、ついに父親の雷が落ちる。
聞きなれた力強い怒声に、それがまた生きて聞けている事実に嬉しくなりながら、聞いてるってと頷いた。
(そういえば夢の中で、ツナなんか言ってたのな……?)
夢現で聞いたために、その内容は酷く朧気だった。
夢だからもう確かめようがないが、あの時のツナはどこかこわかったなと、こわいものみたさで何度も思い出そうとする。
(確か……昼がどうとか夜がどうとか……?)
不思議な夢だったなと、山本は一人悦に浸った。
ほとんど博打、そう称して良いものだと、このときばかりは俺は猛省した。
上手くいく見込みなど、これっぽっちもなかったのだ。下手をすれば、死人が一人から二人に増えていただけである。
それでも何とかなったという意味では、自分はよほど運が良いに違いない。
(いや……運じゃなくて悪運かも)
はぁと大きな溜息をついた俺の体は、現在全身筋肉痛と言って良い。
体どころか首さえ動かせないのだから、やることはジッと天井を見つめる。
それのみである。
(怪しまれないと、良いけどなぁ)
儚い望みだと自覚しつつ、ぼんやりと俺は虚空を眺めていた。
僅かな眠気はあるものの、寝落ちするほどの急激な眠気は無い。
しかし今の俺の精神では、いっそそれぐらいの眠気があった方が有り難かった。
起きていると、つい余計なことまで考えてしまう。
(面と向かってあったのは初めてだったけど、なるほどみんなが寄って集って俺を危険視する理由は分かる気がする)
最初に考えたのはそんな自嘲で。
山本が落下していく中、俺は初めて意図的に自分のもう一つの力を使おうとした。
俺が「妖怪」としての力に目覚めたのは、今から七年前だと言われている。
伝聞になってしまうのは、俺自身は一度も「妖怪」としての俺を意識したことが無いからだ。
そして七年前、覚醒したばかりの俺は、暴走した己に任せるままに養い親に手をかけ、その息子である義弟に重傷をおわせた、らしい。
当時の俺には鮮明な記憶が無かったから、結局全部が伝聞になってしまった。その上現実に養い親は骸となり、義弟は傷だらけで横たわった。だからこそあの当時の俺は彼らの言葉を否定しきる事が出来なかった。
そして今回、意図的に力を引き出そうとした精神世界の中で……俺はもう一人の俺に会い、それらが真実だったのだと確信した。
あの性格なら、やりかねない。
『覚えておけ、「昼」の俺。いつかお前を食い殺し、俺が表層意識として出てきてやる……!』
鋭い切れ長の緋色の瞳。着ている服も、薄金色の髪の質も同じなのに、浮かべる表情と、鋭く尖る犬歯が、まるで俺とは違う別人のように感じさせた。
(多分、何の備えもなかったら、俺今頃体乗っ取られてたかも……)
あの時俺は完全にもう一人の俺を恐れた。
その状態で、俺が無事に戻って来られたのは、「夜」の俺に、誰かが呪による封じをかけていてくれたことが大きい。
(あの人では無いよな。当時の俺に覚醒の予兆は無かったって言うし……爺様はそんな器用が出来る人じゃないし、となると)
思い浮かんだのは、義弟ともどもよく遊んでくれた、爺様の頃からの古株の妖怪。
本家に遊びに来ることが多かったので、叔父様と言って二人で慕っていた。
(あれ?……もしそうだとしたら、俺が無茶したの、向こうに知られるかな?)
ふと遠い昔に、ガミガミ言われたお目付役や、心配で氷の涙を流した幼なじみまで思い出してしまったが、そんな物は今は既に叶もしない幻想でしかないと、自分に言い聞かせる。
(たとえどんなことをしたとしても。……もう)
そっと目を閉ざし、俺は意識的に眠ろうとした。
これ以上、何も考えたくなかった。
(あの頃には、戻れないのだから)
原作では唯我独尊を地で行くタイプなのに、この話だと苦労人になっている気がします、雲雀さん。
途切れ途切れながらも、物語は進んでいきますので、どうぞよろしくお願いします。