一色いろはの親友になってみた   作:フル・フロンタル

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第2話

 

 

翌日の部活。土曜日なので、今日は午前中で終わりだ。

 

「おはようございまーす」

 

元気良く部室に入るいろはと、その背中にしがみ付く私。

全員が「あ、天使が来た」みたいな感じでいろはを見た。

 

「いろはす、おはよう」

 

おっと、私は無視ですか戸部先輩。まぁ今は気付かれたくないんだけどね。

 

「………あの、いろは。私やっぱ早退していい?」

 

「ダメ。何のためにここまでやったと思ってるの?」

 

………ですよね。いや、でもさすがにこの格好は恥ずかしいんだけど……。

 

「? どうしたんだ、葵?体調悪いのか?」

 

葉山先輩が声をかけてくれた。これはチャンスだ。

 

「はい。ちょっと、頭が……だから帰らせ」

 

「全然悪くないですよ、葉山先輩♪」

 

相変わらず、葉山先輩の前では擬態が完璧ないろはだった。ていうか、笑顔で退路を断たないでよ、あと「♪」付けないでよ。

 

「でも、随分と顔が赤いようだけど」

 

「そ、それは……」

 

「せーのっ」

 

言い訳しようとした直後、いろはに前に突き出された。バランスを崩しながらも、太ももの上半分くらいまでしかないスカートを必死に隠しながら、私はなんとか転ばずに踏ん張った。

 

「ち、ちょっといろは……!」

 

「どうですか?葉山先輩、わたしがやったんですよ」

 

感想を求められ、言葉に迷う葉山先輩。私は必死にスカートを隠す。男の群れの中でこんな格好させられるなんて……。

ほら、なんかみんなエロい目してるじゃん……。そう思ってると、戸部先輩から声が漏れた。

 

「………誰?」

 

おっと、もはやそう来ましたか。誰と来たか。まぁ、気持ちはわかる。マニキュアは断ったものの、美容室で髪を整え、眼鏡はコンタクトにして、第二ボタンも開けてスカートも短くして、以前までの私とは随分と印象が変わっているはずだから。

 

「葵ですよ、戸部先輩」

 

微笑みながらそう言ういろは。

 

「うっそー!これ浅野さん⁉︎っべーじゃんこれ、マジヤバいこれは‼︎」

 

う、うるさい……相変わらずヤバイしか話せない人だ。

しかも、この手の人が騒ぎ出すと他の人も……、

 

「確かにやばいな」

 

「やっべ、いろはすと違って清楚系」

 

「メアド聞いときゃよかったわー……」

 

ほらこうなる……うう、恥ずかしい。

私はそそくさといろはの後ろに隠れた。

 

「あ、もう……」

 

仕方ないなぁ、みたいな顔をするいろは。

が、後ろに隠れたところで周りからの視線は逃れられない。

 

「あ、あの……私、練習の準備してきますね」

 

逃げるように部室のドアに手を掛けた。ダメだ落ち着かない。トイレでせめてスカートと第二ボタンは直さないと……、

 

「トイレで直してきたら怒るからね?」

 

………だから笑顔で退路を断つなよ。

 

 

 

 

午前で部活が終わり、帰り道。いろはと二人で帰っていた。

 

「ああもうっ……4時間ずっと公開処刑されてる気分だった……」

 

「いいじゃん。可愛いって言ってもらえてたし」

 

「……それは、そうだけど」

 

正直、あそこの男子に可愛いと言われても嬉しくない。本当に私の外見が変わった途端にみんなLINE交換だのとなんだのと騒ぎ始めて、仕事する子より外見がいい子の方が評価されるとか本気でどうなってんの?

その点、葉山先輩や主将はその前から連絡先を交換していた。連絡用ではあるけど、何より「いろはより仕事するから」だろうなぁ。

そんな事を思い出し、また深いため息をついた時、いろはが聞いてきた。

 

「それで、今日この後暇?」

 

「え?うん、暇だけど」

 

「じゃ、遊びに行かない?」

 

「えっ?」

 

「ちゃんと私服に着替えて。せっかくここまで改造したし、この際私服も改造しちゃおう」

 

「や、この後用事が……」

 

母さんに土下座してドラマCD買うお金を稼がなければならないのに!

 

「はいはいウソウソ。10年以上付き合ってれば、嘘ついてるかどうかなんてすぐに分かるから」

 

や、本当なんだけど。あなたの観察眼全然仕事できてないよ。

 

「いいから行こう。決定」

 

「………わかったよ。はぁ……」

 

仕方ない。いろはの隙を突いて買うしかない。お金は……うん、ゲームを売ろう。駅前のブックオフまでのんびり行っても10分で着く。

 

「じゃ、後で迎えに行くからね」

 

「うん。分かった。でも早くて30分後にしてねマジで」

 

「わかった。20分後に行くね」

 

「話聞いてた?」

 

そんなことをしてるうちに、家に着いた。ちなみに、隣の隣の隣の隣の家がいろはの家である。

 

「じゃ、また後で」

 

「え、ちょっ」

 

いろはは小走りに家に向かった。それを見送ったあと、ダッシュで家の中に入り、バイクの鍵といらないゲームを取った。車庫からバイクを引っ張り出し、ペダルに足をかけた。

エンジンを入れて、駅前まで突っ走った。良かった、バイクの免許を(仮面ライダーに憧れて)取っておいて。

 

 

 

 

警察がいたら間違いなく免停の速度ですっ飛ばし、10分で帰宅した。

 

「ただいまー!」

 

「おかえりなさい。どこ行ってたの?」

 

「ブックオフ!」

 

残り7分。私は服を全部脱いでシャワーを浴びた。

上がって、タオルで体を拭いた後に下着だけ付けて風呂場を飛び出す。

 

「お昼食べるの?」

 

「いろはと食べる!」

 

「はいはい」

 

短い会話を終えて、自分の部屋に飛び込んだ。

服とかは特に何を着たらいいのか思いつかなかったし、後で買うなら今は特にオシャレする必要ないと思い、ジャージに短パンを履いた。

ふぅ……間に合った。私のエージェント並みの行動力と素早さがなかったら間に合わなかった。

良いタイミングでインターホンが鳴る。はーい、と私は挨拶しながら玄関を出た。

 

「来たよ、あお……」

 

「じゃ、行こっか」

 

「…………待った」

 

「あ、何」

 

な、何その真顔……怖いんだけど。

 

「ねぇ、葵ちゃん?」

 

あ、これ怒ってる時だ。

 

「何、その格好」

 

「え?じ、ジャージ……」

 

「葵ちゃんは今何年生?」

 

「こ、高校一年生です、けど……」

 

「性別は?」

 

「girl」

 

「真面目に」

 

「女の子です」

 

「高校一年生の女の子、いわゆるJKがジャージで友達と出掛けるんじゃない‼︎」

 

「ご、ごめんなさい⁉︎」

 

あ、謝ってしまった……。なんで私服のダメ出しされてるんだろう私……。

 

「葵のクソみたいな私服でも組み合わせ次第で多分可愛くなる可能性もなくはないんだから、ちゃんとしてよ‼︎」

 

しかも酷い言われよう……。クソみたいって……こりゃ相当きてるな。

 

「とにかく、わたしがちゃんとコーディネイトしてあげるから、上がらせて」

 

「え?今なんて?」

 

「あがらせて」

 

いろはが上がる→フィギュアポスター漫画エロ同人その他諸々がバレる→友達が終わる

そのチャートができた直後、いろはは二階に上がろうとしていた。私はダッシュで階段の下に回り込み、壁を蹴っていろはを追い越し、前に立った。

 

「え、なに?」

 

「ま、待った……!」

 

「何?言っとくけど、絶対着替えさせるよ?」

 

「5分!5分でいいので待って下さいお願いします‼︎」

 

「………逃げる気?」

 

「違います‼︎300円上げるから待って下さい‼︎」

 

「………わかった。3分ね」

 

「え?いや、5分……」

 

「3分」

 

私は部屋に入った。

 

 


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