一色いろはの親友になってみた   作:フル・フロンタル

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第3話

 

部屋を何とか片付け、コーディネートしてもらった服で出掛けた。

 

「………ふぅ、危なかった」

 

「? 何が?」

 

「何でもない」

 

バレるわけにはいかない。いろはと友達でいたいからこそ、オタク趣味を気付かれるわけにはいかない。

だからこそ、ドラマCD付きラノベを買う所を絶対バレてはいけないし、部屋のフィギュアもすべてバレてはいけない。

 

「それで、どこ行くの?」

 

先に話題をそらすことにした。

 

「ん。洋服とかいつもどこで買う?」

 

「レまむら」

 

「うん、今日はその手の店から離れることから始めよっか」

 

「な、何でよ!いいじゃんレまむら!安いし!」

 

「オシャレはお金じゃ買えないの‼︎」

 

「いやごめんちょっと、何言ってるかわかんない」

 

じゃあ今から私たちは何しを買いに行くの?

 

「とにかく、今日は近くのデパート行くよ。あそこなら少なくとも葵の部屋の布よりマシだと思うから」

 

「いや布って……ジャージをバカにしないでよ。ジャージは私服、運動時、学校、寝間着など森羅万象万物平等に使えるオールマイティアイテムなんだよ」

 

「は?」

 

「あ、いや冗談ですはい」

 

ヤバイ、今の半ギレだった。でも、なんでそんなに私がオシャレしない事に怒ってるのだろうか。分からない。

そんな事を思ってるうちに、近くのデパートに到着。正直、ここにゲーセンと本屋以外の目的で来た覚えがない。

 

「んー、まずは二階から回って行こうか」

 

「えぇ………あっ」

 

声を出してから口に手を当てた。しまった、二階とか一番退屈ってイメージしかないからつい本音が……。

 

「えぇ、じゃない!……まったく、」

 

「ご、ごめんね……」

 

「それで、どんな服が着たいとかある?」

 

「んー……ジャージ」

 

「やり直し」

 

「え、うん」

 

ダメ出しされてしまった……。ていうかやり直しって……。

 

「ジャージ以外、か……うーん……」

 

「そんなに悩む事?なんかこう、もう服の名前でもいいから。カーディガンとかそんなんでいいから」

 

「………カーディガンって何?」

 

「………もう女子高生やめたら?」

 

「どういう意味っ?」

 

だってカーディガンなんて知らないもん。あ、もしかして名前の感じ的にガーディアンの上位互換かな。

 

「強いの?カーディガン」

 

「何を思ったらその質問が出て来るの?」

 

呆れたようにため息をついた後、いろはは言った。

 

「もういいよ。わたしが勝手に服選ぶから、それ着てね」

 

「変なの選ばないでね」

 

「ジャージに言われたくない」

 

いや、私はジャージじゃないんですけど……。

 

 

 

 

二階の服屋。

 

「これは?」

 

「や、無理だよそれは……。肩まるだしじゃん……」

 

「あのさぁ、女の子の服装なんて肌出してナンボだよ?」

 

「え、いや何それ。女の子って露出魔か何かなの?」

 

「そういう意味じゃないし……。うーん、でも葵は顔かわいいし、そこまで肌出さなくてもいけるか……」

 

なんか計算し出したよこの子。まぁ、それで露出が減るならいいけど。

そもそも、服装に戦略を入れると言うのがよく分からない。服なんて暑けりゃ脱ぐ、寒けりゃ着るで十分でしょ。

ちなみに、秋と春は上はパーカーに下は半袖一枚、ズボンは短パン履いてます。

自分の服を選んでもらってるのに、私はこれからどうやってドラマCD同梱版ラノベを買いに行くか悩んでると、「あっ」といろはが声を上げた。

 

「はやませんぱ〜いっ♪」

 

驚くほど猫撫で声に変えて走って行った先には、葉山先輩と戸部先輩と、その友達と思わしき人達が数人いた。

 

「おう。いろは、浅野さん」

 

爽やかスマイルで微笑んで来る葉山先輩。直後、あの人の斜め後ろのもみ上げがドリルみたいになってる金髪の人は不愉快そうに小さく舌打ちし、他のメンバーはそれに少しビビっていた。

えっ……これからあの中に行くの?待って、駆け寄らないでいろは!というか私を巻き込まないで!

 

「隼人、この子は?」

 

「一色いろはと浅野葵、サッカー部のマネージャーで一年生だよ」

 

「ふぅーん……」

 

不機嫌そうにしてる金髪先輩に何とかビビらずに、私はいろはの後ろから出て、挨拶した。

 

「初めまして、先輩方。サッカー部マネージャー一年、浅野葵です」

 

当たり障りのない挨拶をして頭を下げた。直後、戸惑ったような顔をする金髪さんだが、すぐに表情を変えた。

 

「え、何この子超礼儀正しいんだけど」

 

「ねー、それ私も思った」

 

「だよねー、超良い子だよねー」

 

あ、何となく今のでこの3人の女の子の力関係が分かったわ。我ながらそんなことをすぐにわかってしまうのはどうかと思うけど、それでもわかってしまったものは仕方ない。

 

「あーしは三浦優美子、隼人の同じクラスだよ」

 

この人がリーダー格。

 

「私は海老名姫菜だよ。同じく同じクラス」

 

この人は会話や空気のバランサー。

 

「あたしは由比ヶ浜結衣、よろしくね」

 

この子は周りに合わせるタイプ。自分の意見はあまり言わないで、その場の空気を大事にするタイプ、かな。

しかし、さっきの台詞のイントネーションだけでここまでわかってしまうとは……典型的なタイプとはいえ、自分が嫌になる。

男子の方の自己紹介も来るかな?と、思ったら男子は男子でいろはとお喋りしていた。

それに気付いた三浦先輩の表情が一気に変わったので、私はカバーに回った。

 

「あー、えっと……いろは、そろそろ行こう?私、あんま時間ないし」

 

「へ?……あ、あー」

 

三浦先輩の目線に気付いたいろはは、私の言わんとしてることに気付いたのか、引き下がった。

 

「では、先輩方。そろそろ失礼しますね」

 

「うん、またね」

 

私が再び微笑みながら言うと、三浦先輩は笑顔を作って手を振った。

 

「じゃあな、いろは、浅野さん」

 

「うぃーっす」

 

最後に葉山先輩と戸部先輩と軽く挨拶して、別れた。合計7人の背中を見ながら、私はホッと息をついた。

 

「……危なかったね、いろは。あれ以上話してたら、多分三浦先輩ヤバかったよ」

 

「うん……、あの人の前ではあまり葉山先輩に近づくのはやめておこう」

 

そう言うと私達は買い物に戻った。

 

 


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