Fate/Grand Order 〜some like it hot〜 作:木野兎刃(元:万屋よっちゃん)
トレーニングルーム、そこは本来カルデアに缶詰めになっている職員やマスター候補達の身体を動かす多目的な体育館の役割りをしている。
後にサーヴァントが召喚される事を見越して相当強固に作られているらしい。
そんな場所に沖田と誠はいた。
互いに真剣を腰に携えている、両者の間には張り詰めたような緊張感があった。
何故こうなったかと言うと誠が沖田に誘いをかけたからだ。
沖田に永倉家での生活や父や祖父の話をしていた誠はふと時計を見ると日課であるトレーニングの時間となっていた。
一週間もすれば聖杯探査という任務が有り過去の時代へとレイシフトしなくてはいけない、その為時間も取れなくなる事からトレーニングの時間は多めにとりたかったのもありこの日は長めに設定していたのだ。
カルデアのマスター候補は誠のように武術をしている訳では無いのでトレーニングは常に1人で行ってきた。
しかし目の前には幕末随一の天才剣士が居るではないか、そこで誠はトレーニングの誘いをした。
「本当に真剣でよろしいのですね?幾ら貴方が新八さんの子孫でも……………そうでした。
流石は新八さんの子孫です、まだまだですけど覚悟ある良い目です。
さぁ来なさいマスター、貴方に新撰組一番隊隊長として稽古をつけてあげます」
互いに抜刀し向かい合う、そして間合いを測るようにしてジリジリと動く。
「セイッ!!」
先に動き出したのは誠だった。
ただ真っ直ぐに斬りかかる、それに対し沖田は少し落胆した。
分かっていた事ではあるが剣士として経験が少ないのが感じられた。自身とは別のベクトルで最強だったあの男の子孫であるならば…………と期待していた。
何の警戒も無しに真っ直ぐに突っ込んで来るなど戦場において自殺行為に等しい。
若い、若すぎる…………それだけが沖田の頭の中に渦巻いていた。
自分が生きていた時代とは違い真剣で戦う場面が無いからかと時代の流れを嘆いた。
自分に向かってきた愚直な刃を叩き落として自身の剣を突きつけてやろうとした。
ガキンと鋭い音がトレーニングルームに響く。
沖田は素直に驚いた、普通の相手ならこの時点で剣が折れるか手元から離れるかの二択だった。仮に折れなくともサーヴァントと鍔迫り合いになって無事に済む人間はいない筈だった。
しかし、目の前の男はどうだ。自分と鍔迫り合いを演じ押し返そうと踏ん張っている。
サーヴァントと人間ではその身体能力に大きな差が出るのだが誠は得意の強化魔術に加えルーンによる強化を施していた。
これによりサーヴァントとの鍔迫り合いを可能としたのだ。
そしてもう一つ驚いた事があった。それは鍔迫り合いというゼロ距離で沖田の足を踏みつけ動きを制限しようとしていた。
しかし踏みつけられる前にバックステップをする事で誠と距離をとった。
「お詫びします、マスター。
貴方のその剣筋は確かに新八さんを感じさせるものがありますし平和な現代としては上等なものでしょう……………ですがまだ足りません」
「ならこれならどうですか!?」
袖口に忍ばせて置いたルーンを刻んだ小石を三つ程投げつける。
目に見えて分かる陽動、沖田はこれを簡単に弾き落とす。
だがその小石は沖田の刃に触れた瞬間小さな爆発を起こす。サーヴァントである沖田にとってこの程度はダメージにすらなり得ない。明らかな目眩し、陽動だった。
こと戦闘において沖田は自分よりも圧倒的な修羅場をくぐり抜けた天才で命のやり取りをその鉄の棒切れで行ってきた人物だ。
自分の狙いなんてバレて当然、ならばやれる事は一つ。
「正面突破しかねぇだろぉぉぉぉぉお!!」
あらん限りの魔力を注ぎこみ強化にブーストをかける。
魔力量と質だけならば一流魔術師達のそれと変わらない誠だが実家に加え魔術講師であった人物の影響もありルーン魔術以外は強化しか出来ないのだ。
ルーン魔術が使えるならそれで良いと思われがちな誠であるが使うのは基本的に強化系くらいのものでその他はおまけ程度しか使わない。
そんな誠の身体能力は超人の域に達している、しかしその強過ぎる強化が誠の体にかける負担は大きくその強化状態は保てても3秒が限界。
だが勝負を決める一瞬において3秒というのは充分過ぎた。
「流石新八さんの…………いえ、それは失礼ですね。
認めましょう、貴方が武人と呼ぶに相応しい人物である事を!!」
沖田は中段に構えたままだが誠は刀を左手に持ち弓を引くような構えを取る。
「その構え……………貴方の誠、ここで確かめさせてもらいます!!」
「牙突!!」
牙突、それは新撰組三番隊隊長であった斎藤一の必殺技であった。
鬼才、土方歳三が考案した刃を横向きにしての突き……………横に避けてもそのまま横に振るえば胴を斬りつけられる。縦向きで突きを放てば肋骨が邪魔になり充分なダメージを与えられない場合があるがこの突きならば肋骨に邪魔される事なく敵の身体を突き刺す事が出来る。
そして牙突はこの突きを更に改良したものである。
真剣でこの突きを受けた事は無いが稽古では幾度も見てきた技である為沖田もこの技の恐ろしさは理解していた。
刃を当て牙突の軌道をズラし踏み込む事で誠との距離を詰める。
これではモーションのデカイ牙突は無効となってしまう。
勝利を確信した沖田は刀を振り上げる…………しかし、誠はこの状況で笑みを浮かべていた。
「牙突・零式!!」
近距離用の牙突で上半身のバネのみで放つ為通常の牙突と比べそのモーションは小さい。
通常の牙突は沖田も見てきた、しかしこの牙突は沖田でさえ知らなかった。
そして誠の放った渾身の突きは見事右肩を貫いた。
それを確認した誠は笑みを浮かべそのまま気絶した。
「近藤さん、土方さん………………新撰組は、私達の誠はちゃんとここに受け継がれてましたよ…………あと斎藤さんなんて技教えてるんですか」
右肩に突き刺さった刀を抜き気絶した誠に膝枕をする沖田。
しかし、沖田はここで重大なことに気が付く。
「そう言えば今は血だらけでしたね、マスターを血だらけにしてしまいました………………コフッ」
この後2人を回収しにきたダヴィンチとどんな英霊を召喚したか気になって見に来たオルガマリーに血だらけの姿で発見された。
そして目が覚めた時に沖田と誠、2人して正座させられオルガマリーの説教を受けたそうな。
沖田と誠の勝負に決着が着いた時、管制室ではその2人の様子を見る人物の姿があった。
深緑のシルクハットとスーツにもじゃもじゃな髪の毛をしたカルデアの技術師、レフ・ライノールである。
「サーヴァントと正面から戦えるほどの戦闘力…………………消した方が良いかもな」
それだけ言い残すと管制室から姿を消した。