時間が巻き戻ったっぽいので今度は妹と仲良くしてみようと思う。   作:筆休め!

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前回のあらすじ!

・妹とイチャイチャデートした。
・妹と一緒に寝た。

※明日奈の浩一郎の呼び方を「お兄ちゃん」に変更しました。


最近、義兄が僕に冷たいんだが

 明日奈とお出かけしたあの日以降、凄い。

 

 何が凄いのかと言えば、妹の勉強や習い事に取り組む時のやる気が凄いのだ。

 

 提示された課題に対して全力で取り組む。ただ我武者羅にやる訳ではなくしっかりと効率の良さも考慮していると見受けられる。

 

 そんな努力の結果として成績やら習い事の結果やらが凄い事になっている。最近の出来事で言えば習っている水泳の大会で優勝した。その余りの速さに応援に駆け付けた俺は驚いたものだった。それにしても文武両道とか君は本当に俺の妹なの? 君のお兄ちゃんはあんな人魚みたいに速く泳げないよ?

 

 何かあったのか? と聞いてみれば明日奈は、

 

「お兄ちゃんに負けたくないの」

 

 ふん、と可愛らしく意気込んで言われてもね。君のお兄ちゃんはそんなに立派なもんじゃないでしょ? 俺は君の様に目にも止まらない速さで算盤弾くなんて芸当はできないよ? 実際に目の前で明日奈が算盤を弾いているのを見た時は目を疑った。質量のある残像ってああいうものか……指が分裂しているように見えたのは長い人生経験の中でも初めてだったぞ。

 

 更に俺が気になっている事は、最近明日奈が冷たい気がする。以前の様に俺にぴったり着いて来る事も少なくなった。前まではどこに行くにもくっついて来ていたのに。

 

 まさかこんなに早く兄離れが来るなんて。いつかは来ると思っていたが早すぎやしないかい? お兄ちゃんは悲しくて泣いちゃいそうだ……はっ、まさか妹離れしなきゃいけないのは俺の方なのか? 兄離れして立派になろうとしている妹の姿を見るのは嬉しいと同時に寂しく感じた。

 

 それでも偶に一緒に寝て欲しいとせがんでくる事もあるから完全に兄離れが始まったわけではないのだろう。しかしいつまで一緒に寝てやる事が出来る事やら。世間体的にそろそろ一緒のベッドに入るのは止めないといけないだろうな、なんて考えていたりするわけである。

 

 

 

 

 

――――

 

 

 

 

 

 

 そんな感じで相も変わらず情けない事この上ない俺も高校二年生になって本格的に自身の進路を考える事になった。

 

 以前から進学先にと決めていた東都工業大学。その入試対策は既に始めている。過去問を解いたり学校の先生に教えを乞うたりと我ながら意欲的に勉学に励んでいると思う。

 

 途中、勉強内容が余りにも難解すぎて何度も挫折しそうになったのは内緒だ。きっとこれから先も何度も同じような状態に陥ってしまうだろうが、俺にはSAOのデスゲーム化阻止してプレイするという目標があるのだ。こんな所で諦めるわけにはいかない。

 

 え、いつの間に実際にプレイする事も目標になったのかって? そりゃあ前回、苦労して買ったのに結局一度もプレイする事もなく処分されたゲームをやってみたいと思うのはゲーム好きとしては当然の心理だろう?

 

 とにかく今は雌伏の時。ただ基礎的な知識と学力の向上に励み続けるだけだ。

 

「……だと言うのにノブさんときたら」

 

『どうした浩一郎君。まだ今回のミッションは達成していないけども』

 

「仮にも受験生なのに俺なんかとゲームしてて大丈夫なんですか?」

 

 偶に息抜きは必要だろう? と装着したヘッドフォンから義弟(仮)の声が聞こえてくる。二日に一回は俺をゲームに誘うのはペース的に偶にとは言わないんじゃないんですかねぇ? この人と一緒にゲームやるのは意外と面白いからあまり文句は言えないけど。

 

「なぁノブさん」

 

『さっきからなんだい……って、いつの間にか囲まれているじゃないか! 一先ずここを切り抜けるのに手を貸してくれないかな?』

 

 俺の話は無視ですかそうですか。伸之さん改めノブさんとこうやってゲームをするようになったのは半年くらい前からだ。その時にやったのは俺の家にあった色々なキャラを操って文字通り大乱闘するゲームだった。

 

 それから俺の勧めで様々なゲームに手を出したノブさんが一番のめり込んだのはゾンビなどの怪物相手に武器を用いて立ち回るものだ。

 

「それでですね」

 

 コントローラーを操作し迫りくるゾンビをナイフで切り払いながら、ノブさんに質問する。

 

「第一志望はもう決まっているんですよね。やっぱり東都工業大学に?」

 

『ああ。今のところ模試の結果もA判定で合格圏内だしね』

 

 東都工業大学に現役A判定とか頭良すぎィ! 俺と一緒にゲームに興じているこの人は何だかんだ言われても将来は茅場晶彦に負けず劣らずの天才として名を馳せる事になるのだ。

 

 それにしても明日奈と言いノブさんと言い俺の身内ちょっと優秀すぎないだろうか? ノブさんは良く知らないが明日奈に関して言えば前回の時よりも遥かにどの面で見ても優秀である。それに比べて俺は一度高校生を経験している割にそうでもない。二人を見習ってもう少し努力した方が良さそうだ。

 

「やっぱり勉強できるんですねぇ。俺なんか未だにB判定なんですよ」

 

『君は受験までまだ一年以上あるじゃないか。そんなに慌てるような時期じゃないさ』

 

 ノブさんは笑いながら言っているが、残念ながら笑い事ではないのだ。東都工業大学に入学できなければ俺が茅場晶彦とコンタクトを取れるチャンスを失う事になるわけだし。

 

 ……ゲームをやっている場合じゃないのは俺の方じゃないか? ノブさんは俺が心配するまでもなく受験を乗り越えそうだしなぁ。

 

『そういえば』

 

 何かを思い出した様な口調でノブさんが声を発した。

 

『親父から聞いたんだけど、君は医療関係にも興味があるんだって?』

 

「あー…その話ですか」

 

 正直に話しても良いものなのかと一瞬思ったが、ノブさん相手なら問題ないだろう。

 

「別に、今から医者になりたいとかじゃないんですけどね。テレビとかネットとかでよく不治の病って言われるような病気があるじゃないですか。そういうものの治療法の発見とかに関わっていけたら良いなーなんて思ったわけですよ。だから父さんに最新の医療機器を取り扱う会社の見学とかをしてみたいって頼んでみたんです」

 

『それで、彰三さんは何て?』

 

「お前がもう少し立派になったら考えておくって言われました」

 

『そうなるだろうね。医療機器なんて最新技術の塊だし、部外者が簡単に関われる分野じゃない。だけどまぁ、立派な志を持つ事自体は一向に構わないと思うけど。それを実行できる能力があるのかどうかが問題だ』

 

「はは、仰る通りで」

 

 俺がどうして医療関係にも興味があるなんて事になっているかと言えば、前回の俺の人生でのワンシーンに由来する。

 

 何歳の時だったか、正確な年齢までは流石に覚えていないが明日奈が友人の葬式に参加するという事があった。当時の明日奈はまだ学生だったし、そんなに若くして亡くなるなんて事はあり得ない、とまでは言わないが確率は低いだろう。不幸にも事故か病気になってしまったのだろうと見当をつけ、聞いてみると友人の死因はHIV感染によってAIDSを発症してしまった事による病死だったとの事。

 

 俺は当然だがその亡くなった明日奈の友人との接点などなかった。しかし明日奈が相当落ち込んでいる様子を見て、俺も何となく意気消沈したものだった。

 

 だから今回はその友人の病気を完治させるとまではいかなくても、病状を和らげてあげられたらなんて思い立ったわけである。せっかく前回の人生経験とそれなりの知識があるのだ。助けられる命ならば助けてあげたいと思う。

 

『……ふむ』

 

 ノブさんは何かを考えているようだ。少しの間、俺達から会話がなくなる。二人とも黙って群がってくるゾンビを倒し続ける。カチャカチャとコントローラーを操作する音だけがヘッドフォン越しに微かに聞こえてくる。

 

『なぁ浩一郎君』

 

 どれぐらい時間が経っただろうか。周囲のゾンビを殲滅して一息吐けるという状況になった時、ノブさんが俺が予想していた斜め上の発言をする。

 

 

 

『骨髄バンクって知っているかい?』

 

 

 

「……はぁ」

 

 完全に分野外の単語に関する知識を脳内で検索をかけてみることした。

 

 

 

 

 

△△△△

 

 

 

 

 

「骨髄バンクって知っているかい?」

 

 ヘッドフォンの向こうから、はぁ、と何とも言い難い返事とも言えないようなものが聞こえる。少し唐突過ぎたかと思うが、幸いにも通話中の彼は優秀な頭脳を持っているのでこちらの言いたい事はそれなりに伝わるだろう。

 

「僕はとある医師とコネクションを持っていてね。将来、VR技術の発展に携わっていきたい身だからその医師と意見交換したりしているんだ。それである程度だけど医療に関する話も彼から聞かされている」

 

『そうなんですか。流石ですねぇ』

 

 返ってきた言葉はそんな軽い適当な感じのものだった。普通、まだ高校生の自分が医者という社会的身分の高い人物と繋がりがあると言われたらそれなりに驚くと思うのだが、この程度では彼の心を動かすには足りなかったらしい。最も、その医者との繋がりも親の力に寄る部分が大きいから自慢にもならないのは間違いないと須郷は自嘲した。

 

 須郷は自分の能力については親の力でも何でもなく自らの努力によるものであると自負しているが、周囲の人間はそのようには見てくれない。須郷家の一人息子ならば当然の出来だと言わんばかりなのだ。それは実の両親であっても例外ではなく、勉学でどんなに優れた結果を叩きつけようとも労いの言葉などかけられた事もなかった。そんな家庭環境に置かれていた須郷はかなり擦れてしまっていた。学校では周囲の人間を下に見る事も少なくなかったのでまともな交友関係など築けるはずもなく。その孤独が須郷の性格をより歪めていった。

 

 そんな須郷にとって結城浩一郎という一つ年下の男と交流を持つようになったのは幸運だった。勝手に決められた婚約の挨拶を兼ねたパーティーがあったあの日。あの出会いが須郷を変えたと言ってもいい。

 

「その医師の先生が言っていた。骨髄のドナーの数が圧倒的に不足していると。助かるはずの患者がそのせいで助からないと。まぁある種の愚痴の様なものを聞かされたわけだが……浩一郎君の話を聞いて思い出した」

 

『それでその骨髄のドナー登録がどうしたんです? まさか俺が登録しろとでも?』

 

「ああ、その通りだ」

 

 え、とヘッドフォンの向こう側から間抜けな声が聞こえた。須郷は久しぶりに義兄ーー須郷としては弟と思っているーーの虚を突けたと笑う。

 

『で、でも俺まだ十六ですよ。あのドナー登録が出来るようになるのって十八歳からじゃなかったでしたっけ。それに』

 

「そうだね。しかも実際に骨髄を患者に提供できるようになるのは成人してからだ」

 

『ですよね?』

 

 案外詳しい。須郷は改めて浩一郎の知識の豊富さに感心した。医療に興味があると言っていたから少しは調べたようだが、それならば話が早くて助かる。

 

「だから先に僕がドナー登録をしようというわけさ」

 

『……ノブさんの話って分かりづらいって言われませんか?』

 

「おや、伝わらなかったかい?」

 

『はぁ。ノブさんが先にドナー登録者になる事でさっき言っていた医者とのパイプをより太くする。それに俺が父さん達を説得する時の材料の一つになってくれるわけですよね』

 

「その通り。ドナーの提供には提供者の家族からすれば抵抗がある場合が少なくないからね。僕が人柱になろうというわけ。はは、ちゃんと分かってくれているじゃないか。」

 

 再び溜め息が聞こえてきたが須郷は笑って無視した。やはり浩一郎は優秀だ。将来は是非とも自分と同じ道に進んで部下として支えてもらいたいと密かに思っている。

 

「それに知っていると思うがドナーが患者に適合するケースは少ない。実際に提供する事などほぼ無いだろう……おっと」

 

 パソコンの画面には新しいミッションが表示され再びゾンビが群がってくる。須郷はキャラクターの装備をショットガンから剣へと変更した。

 

『今度は俺が』

 

「頼む」

 

 装備を変更したのに合わせて浩一郎も装備を変更していた。先程まで振るっていたナイフから見るからに重量がありそうな二丁拳銃へと。それを見て須郷は再び笑う。ゲームと言えど、本当に他人の様子を伺うのが上手い奴だと。こういう人間が味方だと非常に心強い。

 

『ノブさん?』

 

「いいや、何でもない。話を戻そう」

 

 須郷が操る白いローブを着たキャラクターがゾンビ達に突撃する。それに合わせて浩一郎の操る灰色を基調としたスーツに身を包んだキャラが発砲した。ゾンビがバタバタと倒れて消滅していく。須郷はこの爽快感が好きだった。

 

「僕の紹介という事にしておけば浩一郎君もその医者とのコネクションを構築できるだろう。医療分野に興味があるという事も話しておいてあげるから、後は君次第だ」

 

『マジですか?』

 

「大マジさ」

 

『……そこまでしてもらうのも何か申し訳ないっすね』

 

「余計なお世話だったかい?」

 

『いやいやそんな事はないです。お願いして良いですか?』

 

 浩一郎があっさり承諾した事に少しだけ驚いた。如何にこの何を考えているのか読めない男だとしても少しくらい悩むと思っていた。

 

『俺の方からそれとなく父さんに話しておきますね。こうすればノブさんのお父さんも説得しやすくなるでしょ』

 

 こちらから頼もうと思っていた事を先に提案されてしまった。本当に頭の良く働く奴だ。

 

「彰三さんから親父に言ってくれれば話も通りやすいだろう。済まないね浩一郎君」

 

『いえいえこれぐらいはお安い御用ですって。むしろ力を貸してもらっているのは俺の方ですし』

 

 通話なので浩一郎の顔は見えないが彼は今笑っているだろう。あの人懐っこい笑顔を浮かべているのだろう。あの笑顔は役に立つ。何を考えているのか読めないという意味でも、警戒心を持たせづらいという面でも交渉等で役立つであろう笑顔を持っているのが須郷の義兄だった。

 

 その話はここで終わり、須郷はゲームの方へと意識を戻した。しばらくゾンビ相手に無双する時間が続いた。

 

『あ、そうだ。あのニュース見ました?』

 

 浩一郎が話題を投げてきたので意識を耳に傾ける。

 

『茅場晶彦が新しいタイプのゲーム開発に着手してるってニュース』

 

 茅場晶彦。

 

 コントローラーを握る手に力が入る。ミシリとコントローラーが音を立てた。

 

『いやー凄いですよね。あの若さでもう新しいジャンルのゲームを作ろうって言うんだから。あの人って確かノブさんより二つくらい年上なんですよね?』

 

「……そうだね」

 

 須郷が専門とする分野、その頂点に絶対的強者として君臨しているのが茅場晶彦という天才だった。高校時代からその才能を見せつけ、大学に入りアーガスの開発部門に配属されてからはそれを更に開花させていた。

 

 須郷がどれほど勉強し、研究に励んでも奴はそれの更に上を行く。今回のニュースでの発表は須郷の中の黒い感情を高めるのには充分すぎた。

 

『VR技術を転用したゲームのキラータイトル的な存在になるらしいですね。発表はまだまだ先になるそうですけど』

 

 楽しみだなー、なんて言いながらゲームの中で弾丸をばら撒いている浩一郎とは対照的に須郷は恐怖していた。そのゲームの完成度によってはまた自分は茅場に差をつけられてしまうと。

 

「……いつか僕だってあいつを越えるような発表をしてやるさ」

 

 それは酷く暗く、静かな声だった。

 

 須郷は常に茅場晶彦と自身を比較していた。同じ分野、同じ才のある者として比べずにはいられなかった。いつか超えてやると、いつかお前をその高みから引きずり降ろしてやると。須郷は暗い感情を腹の中に抱えていた。

 

 その為なら使えるものは何だって使う。それが親のコネであろうと、勝手に決められた許嫁であろうと。現在唯一、友と呼べるこの男であろうと。使えるものは何だってーー

 

『んーノブさんが茅場晶彦を越えるのは無理じゃないっすかねぇ』

 

 須郷の思考が停止した。丁度ゲームのミッションも終わり準備画面に戻った。

 

「……それは、どういう意味かな」

 

 こみ上げてくる激情を必死に抑えながら努めていつも通りの調子で問う。答えによっては如何に浩一郎であろうとも許すわけにはいかない。

 

 問われた浩一郎は須郷の変化に気づいていないのか至って普通に答える。

 

『そのまんまの意味です。今、この世界に茅場晶彦を越えるような人間は存在しない。そもそもあんな変態宇宙人みたいな頭脳を持った奴に勝とうって思う方が無理です。仮にそんな奴がいたらそれは人間じゃない』

 

 変態宇宙人とは……それは褒めているのだろうか? それにしても彼は茅場晶彦を随分と買っているようだ。何となく、気に入らない。

 

「如何に茅場が雲の上の存在だとしても、僕は奴を越えると言う野望(ゆめ)を捨てられない。これは僕が成さなければならない事だ」

 

 こんな醜い感情であっても須郷の信念だった。執念と言っても良いかもしれない。茅場晶彦を越える、というのは須郷の最終目標なのだ。

 

『もう嫌だな。そんな怖い声出す前に話を最後まで聞いてください』

 

 思わず息を吞んだ。通話越しで表情が見えないというのに須郷の心の動きは読まれていた。驚く須郷を他所に浩一郎は言う。

 

『茅場晶彦を越えるなんて言うのは簡単ですけど正直厳しいです。ノブさんは確かに天才だと思いますけど、茅場は更にその一段階上です。本当はノブさんだって分かってるはず』

 

ーー分かっているーー

 

須郷は全身に力が入るのを感じた。自身が茅場に劣っているのは誰よりも自分が分かっている。

 

それでも、この分野で、同じ土俵で、好きな研究で奴に劣るなど須郷のプライドが許せなかったのだ。

 

 須郷は何かを反論しようと口を開こうとした。

 

「ッ、それでも僕は」

 

『ノブさん』

 

 耳に響くその声は静かだった。須郷のものとは違い、静かで聞く者を落ち着かせるような……そんな声。

 

『ノブさん一人じゃ茅場晶彦に届かないかもしれない。でも、二人だったら届く』

 

 今度こそ須郷は驚かされた。

 

『ノブさんは天才です。それについては胸を張って良いと思います。だけど一人じゃ勝てない相手がいるのもまた当然。だって、俺達は人間でしょう?』

 

 男は言っているのだ。一人で背負う事はないと。

 

『だったら俺が手伝いますよ。俺達はその為に力を合わせるって事ができるんじゃないですか』

 

 声は笑っている。如何にも楽しそうに。これからの冒険が楽しみで仕方がない主人公の様に。

 

「……そうだな」

 

小さく静かに須郷は肯定した。その声は先程の様に暗くは無い。

 

「折角のお誘いだ。僕の魔王退治の冒険のパーティーに加わってもらう事にしよう」

 

『俺って準備はしっかりするタイプなんですよ』

 

「奇遇だな。僕もだよ」

 

 茅場にはしばらくの間、君臨していてもらおう。今はまだ時期ではない。いきなり魔王城に乗り込んでも惨めに敗北するという結果は見えている。

 

 今はこの頼りになる将来の相棒とレベル上げだ。力量も装備も整えて奴に挑戦状を叩きつけてやろう。

 

「さ、もう一回程やって今日はおしまいにしようか。準備は良いかい?」

 

『まだやるんすか……良いっすけど』

 

 親に勝手に決められた婚約だが感謝しなければなるまい。この男との出会いは間違いなく須郷の生き方を変えたのだから。これからはもう少し許嫁ともコミュニケーションを取って仲良くしていかなければ。結城家という家単位で仲を深めていこうと決めた。心底愉快そうに須郷の口元が歪んだ。

 

――逃がすものかーー

 

『ん、何か言いました?』

 

「いいや? それよりもそろそろ僕の事を義兄さんと呼んでも良いんじゃないかって思うんだが」

 

『寝言は寝てからでお願いしますね。ノブさんは正確に言えば俺の義弟になるんですしそもそもアンタに明日奈はやらん』

 

 手厳しいな、と須郷は苦笑する。このシスコン具合は浩一郎の数少ない欠点だが、一つくらい欠点があった方が可愛げもあるというものだろう。須郷はそう思うようにした。

 

 パソコン画面にミッションが表示されゲームが始まる。彼といると本当に退屈せずに済みそうだ。再び口元を歪めて、須郷は意識をゲームの方へと集中させた。

 

 

 

 




人物紹介

浩一郎…こんな所で名前も知らない誰かとのフラグを建てる。そして須郷さんに完全にロックオンされる。

明日奈…大好きな兄に追いつこうと努力に励む健気な少女。本人も気づかないうちにぐんぐんレベルアップしている。

ノブさん…皆に愛されまくっている未来の妖精王にして茅場さん絶対に許さないマン。義兄が思った以上に優秀なので歓喜。より交友を深めようと努力する模様。勿論、他意はない。

茅場さん…まだ登場していないのに圧倒的な存在感を誇る魔王。本作のラスボス(予定)

明日奈の友人…例のあの人。登場がいつになるか分からない悲劇のヒロイン。

※骨髄バンクなどの説明は軽く調べただけなので間違っていたらすみません。
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